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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C21D
管理番号 1008771
異議申立番号 異議1998-75821  
総通号数
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1991-03-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 1998-12-02 
確定日 1999-12-08 
異議申立件数
事件の表示 特許第2760588号「表面性状の優れた高強度熱延鋼板の製造方法」の請求項1ないし2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2760588号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 1.手続きの経緯と本件特許発明
本件特許第2760588号の請求項1及び2に係る発明(平成元年8月11日出願、平成10年3月20日設定登録。)は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された次のとおりのものと認める。
【請求項1】C:0.03〜0.25wt%、
Si:1.1〜2.0wt%、
Mn:0.3〜1.5wt%、
Al:0.005〜0.1wt%、
を含有し、残部がFe及び不可避的元素からなる鋼をスラブとした後、加熱炉にてスラブ表面温度1100℃以上に加熱し、その際のスラブ最高表面温度をT(℃)としT-60(℃)以上の温度となる在炉時間をt(分)とするとT≦-2.75t+1420となるようにし、その後の熱間圧延において1回以上のデスケーリングを行なった後、Ar3-30℃以上で圧延を終了し、700℃以下350℃以上で巻取ることを特徴とする表面性状に優れ、かつ引張強さが50kgf/mm2以上の、熱延鋼板の製造方法。
【請求項2】C:0.03〜0.25wt%、
Si:1.1〜2.0wt%、
Mn:0.3〜1.5wt%、
Al:0.005〜0.1wt%、
を含有し、更にNb:0.01〜0.1wt%,Ti:0.01〜0.2wt%,V:0.01〜0.1wt%,の1種又は2種以上を含有し、残部がFe及び不可避的元素からなる鋼をスラブとした後、加熱炉にてスラブ表面温度1100℃以上に加熱し、その際のスラブ最高表面温度をT(℃)としT-60(℃)以上の温度となる在炉時間をt(分)とするとT≦-2.75t+1420となるようにし、その後の熱間圧延において1回以上のデスケーリングを行なった後、Ar3-30℃以上で圧延を終了し、700℃以下350℃以上で巻取ることを特徴とする表面性状に優れ、かつ引張強さが50kgf/mm2以上の、熱延鋼板の製造方法。
(以下、これを本件各発明という。)
2.申立て理由の概要
異議申立人は、本件各発明は、本件特許出願前に頒布された刊行物である特開昭58-141334号公報、特開昭58-42725号公報、「第3版鉄鋼便覧III(1)P.354-363,382-383」(以下、それぞれ甲第1、2、3号証という。)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、特許を取り消すべきものである、と主張している。
3.対比すべき甲各号証に記載の事項
甲第1号証は、「60kgf/mm2以上の引張強さを有し加工性、溶接性の優れた熱延鋼板の製造法」の発明に関し、その第(1)頁下左欄第6〜15行に「(1)C:0.15超〜0.25%、Si:1.5、%以下、Mn:0.7〜1.5%、P:0.01%以下、S:0.005%以下、Al:0.01〜0.10%を含み残部Feおよび不可避的不純物元素からなる鋼をスラブとした後、1200℃以下に加熱し、熱間圧延してAr3変態点930℃で仕上圧延を終了し、その後平均冷却速度15℃/s以上で冷却し、350〜560℃で巻取ることを特徴とする60kgf/mm2以上の引張強さを有し加工性、溶接性の優れた熱延鋼板の製造法。」が記載されている。
甲第2号証は、「加工性のすぐれた高強度熱延鋼板の製造法」の発明に関し、その第(1)頁下左欄第5〜11行に「(1)C0.01〜0.12%、Si0.1〜1.6%、Mn0.5〜2.3%を含む鋼を仕上温度700〜900℃で熱間圧延した後10〜40℃/秒の平均冷却速度で冷却し、ついで575〜350℃で巻取ることによりベイナイトを面積比率で3〜60%含むポリゴナルフェライト+ベイナイト組織としたことを特徴とする加工性のすぐれた高強度熱延鋼板の製造法。」が、またその第(2)貢下左欄第3〜13行に「Nb,V,Ti…はいずれも…析出強化作用があるため強度上昇の補助的元素としても意味を持つが、過剰に添加し、析出強化量を大きくした場合には、延性の低下のみならず、熱影響部で析出物が再固溶することによる軟化を生じるため、Nb0.01〜.0.08%、V0.02〜1.5%、Ti0.01〜0.08%…の範囲で一種以上含有せしめる。」が、そして、その効果の欄には、加工性に優れ、引張強さが50kgf/mm2以上の高強度熱延鋼板を得る旨が記載されている。
甲第3号証は、鉄鋼便覧中「加熱炉」に関して、その第357頁の図7・13には、一般的な加熱炉において、目標とするスラブ均熱温度(中心温度)が1200℃の時のスラブ昇熱パターンが例示され、またその第383頁の図7・69には、熱延工程おいて少なくとも5回のデスケーリングを施す圧延処理が例示されている。
4.対比ならびに判断
本件各発明は、「Siを添加した引張強さが50Kgf/mm2以上の熱延鋼板には、最近の塗装厚みの減少傾向や白色系塗装色の多用化の関係から、Siスケールに起因する鋼板表面の雲形模様や地鉄の凹凸の低減が望まれるようになってきたという問題認識のもと、熱延作業の困難さを解消し、雲形模様のない表面性状に優れたSi添加成分系熱延鋼板の製造方法を提供すること」(本件特許公報第3欄第1〜40行)を目的とし、該課題解決のために、従来のようにSiスケール発生の低減ではなく、むしろSiスケールを鋼板全面に均一にしかも地鉄に密着するように発生させることによって雲形模様をなくすとともに、Si添加及び熱延の作業性の改善を可能とした(同3欄第43〜47行)もので、その具体的技術手段として、上記特許請求の範囲記載の構成を採用したものである。
これに対し、甲第1,2号証には、50kgf/mm2以上の引張強さを有し加工性等に優れた熱延鋼板を製造するために、鋼の成分としてC,Si,Mn,Alにさらに析出強化作用成分であるNb,V,Tiを適宜添加し、加熱温度、仕上げ圧延温度、巻き取り温度等が規定された製造法が示されているが、これらには、本件各発明が問題とし改良しようとする熱延鋼板の表面性状についての認識はなく、表面性状を改善するための技術手段の開示は何ら記載されておらず、また、本件各発明のスラブ加熱時におけるスラブの最高表面温度と在炉時間の関係については記載されていない。
異議申立人は、上記スラブの最高表面温度と在炉時間の関係及びデスケーリング処理の有無については、甲第3号証に記載のように従来から周知の慣用手段に過ぎず、本件各発明は、甲第1〜3号証の開示に従って容易に発明し得るものと主張する。
しかして、本件各発明は、上記のようにSiを添加した高強度熱延鋼板の表面性状を改善すると共に、低温加熱の拘束をなくして熱延作業性を良好にした点に特徴があり、そのためには、Siを規定量範囲添加、特に下限値は1.1%とし、同時に、加熱炉におけるスラブ表面温度並びにスラブの最高表面温度と在炉時間の関係を上記のように規定する必要があるものと認められる。
その理由は、Si下限量と加熱条件を組み合わせることにより、加熱時にスラブ表面へSiの濃化を十分に起こさせ、このSi濃化と加熱温度によりファイアライト(Fe2SiO4)を充分に生成させ、そして、ファイアライトの地鉄との密着を全面で十分に維持して、熱延又は熱間デスケーリング、仕上げ圧延時にファイアライトの一部が剥離して雲形模様とならないようにする(同第5欄第26〜33行、第6欄第23〜27行)のである。
この点は、Si量・加熱条件と表面性状との関係及びスラブ加熱温度・時間と熱延後の表面性状との関係を示す第1図及び第2図を参照しても明らかであるから、本件各発明において、このSi量と加熱条件の組み合わせの構成は一体不可分の関係にある。
他方、甲第1、2号証には、前記のように表面性状の観点や本件のスラブ加熱条件の規定は示されておらず、Siについても、これらに記載の製造法の実施例を見ると、1例を除いてすべてのものがSi含有量は1.1%未満であるから、甲第1,2号証のものは、本件の加熱条件を除いて単にSi含有量の点からしても、Si添加熱延鋼板の表面性状は改善されていないものと認められる。
また、甲第3号証には、加熱炉の一般的な炉内におけるスラブの昇熱パターンと熱間圧延におけるデスケーリング処理が記載されるのみであり、甲第3号証によれば、これに例示されたスラブ昇熱パターンを用いて、例えばスラブ最高温度Tが約1310℃の時のT-60℃以上の温度域での在炉時間tを見ると、この時間は、本件で規定する式T≦-2.75t+1420を満足するというに過ぎず、本件各発明の上記技術的観点からの示唆は何ら示されていない。
一般に、数値或いは数式を伴う発明の進歩性についての判断は、発明の目的、構成及び作用効果の予測性に基づいて判断されるべきである、即ち、課題認識の有無や特定構成要件の数値数式限定について、単に公知のものが本件の規定を満足しているというだけでなく、その数値数式範囲の限定の技術的意義の開示の有無に基づいて進歩性を判断する必要があるから、Si添加熱延鋼板の表面性状の改良という課題、及び、この課題のもと、上記所定範囲のSi量と所定のスラブ加熱温度条件との関係を示唆するところがない甲各号証の記載に基づいて本件発明を当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
なお、従来の製造加熱条件に従えば、Siスケールによる表面性状の劣化は問題にならないと異議申立人は主張するが、本件発明は、従来では問題とならなかった鋼板表面の模様や凹凸を解消して、更に良好な表面性状品質のSi含有高強度熱延鋼板を得るための新規な技術手段を提供するものであり、加熱条件だけでなく、Si量も規定して、スケールの部分剥離を防止したことは上記のとおりであるから、この主張は説得力がなく、採用できない。
5.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立人の主張する理由及び提示した証拠方法によっては、本件請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 1999-11-10 
出願番号 特願平1-209374
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C21D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 中村 朝幸  
特許庁審判長 小野 秀幸
特許庁審判官 刑部 俊
金澤 俊郎
登録日 1998-03-20 
登録番号 特許第2760588号(P2760588)
権利者 新日本製鐵株式会社
発明の名称 表面性状の優れた高強度熱延鋼板の製造方法  
代理人 徳永 博  
代理人 中谷 光夫  
代理人 青木 純雄  
代理人 杉村 純子  
代理人 小花 弘路  
代理人 杉村 興作  
代理人 藤谷 史朗  
代理人 杉村 暁秀  
代理人 内藤 俊太  
代理人 岸田 正行  
代理人 梅本 政夫  
代理人 高見 和明  

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