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審決分類 審判 全部申し立て 産業上利用性  A23L
管理番号 1008875
異議申立番号 異議1997-74509  
総通号数
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1991-01-18 
種別 異議の決定 
異議申立日 1997-09-22 
確定日 1999-11-22 
異議申立件数
事件の表示 特許第2616821号「無洗米の加工方法」の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2616821号の特許を維持する。 
理由 I.手続の経緯・本件発明
本件特許第2616821号は、平成1年6月6日に出願され、平成9年3月11日に設定登録されたものである。
本件特許の請求項1に係る発明は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】精白直後の、精米によって米粒温度が上昇し、米粒内の水分が外部へ向けて発散状態にある精白米を15℃以下の温度に調整した水中で3分以内の短時間にて洗浄し、洗浄された精白米を直ちに水切りした後、該精白米の水分含有率を14〜16%の所定値に調質することを特徴とした無洗米の加工方法。」
(以下、本件発明という。)
II.異議申立ての理由の概要
異議申立人 株式会社トーヨー食品は、本件発明は、自然法則に反し、かつ実施不能であり、特許法第29条第1項柱書に定める産業上利用することができる発明ではないので、同法第113条第1項第2号の規定により取り消されるべきものである、旨主張している。
そして、上記主張事実を立証するために下記に示す書証を提出し、かつ試験を行った川上祐司の証人尋問を求めている。

甲第1号証:精米直後と放熱後の精白米の吸水度試験 (試験者 川上祐司)
甲第2号証:多孔壁円筒内の米粒転動試験 (試験者 川上祐司)
甲第3号証:特開平2ー242647号公報
III.当審の判断
(1)「自然法則に反する」発明であるか否かについて
i)本件発明は、自然法則に反する発明であるとして、異議申立人が主張する理由の主旨は、次のようなものである。
「本件発明では、その明細書において、精米直後の、米粒表面温度が上昇した精白米は、米粒内の水分が外部へ向けて発散状態にある為、水で洗浄しても、水分が米粒内層まで急速に浸透することがないと述べているが、これは明らかに間違いである。技術常識からみて、米粒の温度が高い程、分子の動きが活発になり、水の浸透速度は逆に高まる筈である。
これは、申立人が行った吸水度試験(甲第1号証)でも裏付けられている。
甲第1号証の試験結果は、当然に予想されたことで、決して唐突なものではない。物理的原理にも合致している。即ち、穀温が高ければ、これに含浸した水の温度も高まり、この結果、水分子の運動が活発化して、浸透速度が増すことは、物理学的見地から当然に推考できることである。これは明細書中で出願人自らが述べている、精白によって穀温が上昇すると、米粒内の水分が外部へ向けて発散状態になる、との説明とも符合する。
以上の如く、本件発明の構成要件及び作用効果における、精白直後の、精米によって米粒温度が上昇し、米粒内の水分が外部へ発散状態にある精白米を洗浄した場合には、水分が米粒内層まで急速に浸透することがない、との説明は、物理学的な理論に反し、かつ、実験的事実とも齟齬する。
従って、本件発明は、自然法則に反するものであり、特許法第29条柱書の規定に違反している。」
ii)異議申立人の上記主張について検討する。
異議申立人の証人尋問の申出により、平成11年9月17日に川上祐司の証人尋問を特許庁審判廷で行った。
その証言から、
(イ)証人川上祐司は、株式会社トーヨー食品の従業員であり、会社において、輸入米の手続き、仕入れ手続き、営業企画、他社の技術調査等の業務を行っていること、
(ロ)平成9年8月11日に株式会社トーヨー食品精米工場において、川上祐司自身が吸水度試験を行ったこと、
(ハ)甲第1号証は、その試験方法及び試験結果を正確に記載したものであること、という事実が認められる。
そして、甲第1号証には、原料玄米から精米した、50gの精米直後の精白米(穀温46℃)と、放熱後の精白米(穀温33℃)とを、それぞれ15℃、50gの冷水に投入して、同一時間撹拌した際の吸水量を測定したとき、精米直後のものの吸水量が2.06gであったのに対して、放熱後のものは1.79gであり、精米直後の米粒温度の高いものの方の吸水量が0.27g多かったという試験結果が示されている。
しかしながら、仮に上記試験結果が信用できるものであるとしても、以下にその理由を具体的に述べるとおり、上記試験結果に基づいて、本件発明が自然法則に反するものであり、発明として未完成であるとの結論を導き出すことはできない。
本件発明は、精白直後の、精米によって米粒温度が上昇し、米粒内の水分が外部へ向けて発散状態にある精白米を15℃以下の温度に調整した水中で3分以内の短時間に洗浄し、洗浄された精白米を直ちに水切りした後、該精白米の水分含有率を14〜16%の所定値に調質するようにしたものであり、これにより水中亀裂を生じることなく精白米の洗浄を行えるとともに、製品として最適の水分含有率の無洗米を得ることを可能としたものである。
そして、本件特許明細書の実施例及び図面には、上記構成を実施するための装置として、研削式精米機101と摩擦式精米機102等からなる精米手段100、円筒203とスクリューコンベヤ204等からなる洗浄手段200A、ケーシング218と多孔壁水切り筒221等からなる水切り手段B、及び調質筒303、304とスクリューコンベア305、306等からなる調質手段300、等の一連の装置が具体的に記載されている。
これら一連の装置を用いて本件発明の上記構成を実施した場合に、水中亀裂を生じることなく精白米の洗浄を行うことができず、また水切り後の精白米の水分含有率を14〜16%に調質することはできないと解する合理的理由を、本件特許明細書及び図面の記載から見出すことはできない。
また、異議申立人が提出した甲第1号証の吸水度試験は、精白米を15℃の冷水に一定時間浸漬したとき、精米直後の穀温46℃の精白米の方が放熱後の穀温33℃の精白米よりも吸水量が多いことを立証するものであるとしても、本件発明の上記構成を実施したときには、水中亀裂を生じることなく洗浄を行うことはできず、かつ水切り後の精白米の水分含有率を14〜16%の所定値に調質することができないことを立証するものではない。
してみると、本件発明の上記構成を当業者が反復実施して特許明細書に記載されたとおりの効果を奏することができるものと認めるのが相当である。
確かに、異議申立人が指摘するとおり、甲第1号証の試験データを考慮すると、本件特許明細書の「米粒内の水分が発散状態にあるときは、水分が米粒内層まで急速に浸透することがなく、」(特許公報第3欄19〜20行)及び「精米直後の精白米は精米によって穀温が上昇しているので………水分が急速に浸透することがない。」(特許公報第3欄29〜32行)との記載は、「洗浄を短時間で切り上げて、米粒内への水分の浸透をできる限り抑える」という本件発明の目的と対応していないといえる余地は否定し得ないが、このことのみを根拠として、本件発明が自然法則に反するものであり、発明として未完成であるとすることはできない。
以上のとおりであるから、異議申立人の上記主張は採用しない。
(2)「実施不能」である発明であるか否かについて
i)本件発明は、実施不能の発明であるとして、異議申立人が主張する理由の主旨は、次のようなものである。
「亀裂のない無洗米を作る為には、甲第3号証(特開昭2ー242647号公報)に示されるように洗浄を短時間で行うだけでなく、水切りも短時間で済ませなければならない。水切りに時間がかかると、その間に米粒内に付着水が浸透し、その後の乾燥時に亀裂が発生することになる。即ち水切りを短時間で行うことは無洗米製造の必須不可欠の要件であるが、本件発明では、この要件を欠いている。
更に、本件特許明細書の実施例に示された水切り手段では、充分な水切りができない。明細書の記載によれば、この水切り手段200Bの構成は、ケーシング218内に、多孔壁水切り筒221を排出樋220側をやや低くして横架し、モータ222によって回転させ、更に、送風機223の送風管をケーシング内に臨ませるとなっている。ところが、このような構成では水切りができない。
甲第2号証(多孔壁円筒内の米粒転動試験)の試験結果から明らかなように、本件発明の水切り手段では、投入米粒が一つの塊りとなって転がるだけで、各米粒が個々に分離して転動せず、空気と触れることがないので、塊り内部の米粒に付着した水分は除去されずにそのまま残り、やがて米粒内部に浸透することになり、米粒の含水率が高まる結果、亀裂を招いてしまう。
このように、本件特許明細書の実施例に記載された水切り手段では短時間での水切りができず、この結果、亀裂のない無洗米は得られないから、本件発明は明らかに実施不能である。」
ii)異議申立人の上記主張について検討する。
上記証人尋問における川上祐司の証言から、
(イ)平成9年8月12日に株式会社トーヨー食品精米工場において、川上祐司自身が多孔壁円筒内の米粒転動試験を行ったこと、
(ロ)甲第2号証は、その試験方法及び試験結果を記載したものであること、
(ハ)別紙写真(Aー1〜Aー4及びBー1〜Bー4)に示される多孔壁円筒を使用し、該円筒内に紙コップを介して試験米粒を投入し、該円筒を手で5秒間に1回転のゆっくりした速度で廻して試験したこと、
(ニ)上記試験において、送風機は使用しなかったこと、
という事実が認められる。
そして、甲第2号証には、多孔壁円筒を僅かに傾斜させて横架し、この中に供試品A(精米機から排出したままの米粒)と供試品B(15℃の冷却水中に3分間浸漬した米粒)を別々に投入し、円筒をゆっくりと回転させたとき、供試品Aは円筒内にくっつかず、さらさらと米粒個々が転動しながら、やがて排出されるのに対して、供試品Bは、米粒が濡れているため、全体が塊状となり、その塊が転がるだけであり米粒は転動せず、塊の中に入ってしまった米粒群は、粒と粒の間に水を保持したまま排出されたという試験結果が示されている。
そこで、上記試験結果及び川上祐司の証言に基づいて、本件発明の水切り手段では短時間での水切りができず、その結果、亀裂のない無洗米を得ることができないか否かについて、以下検討する。
水切り手段について、本件特許明細書には、「次に、水切り手段Bであるが、洗浄手段の排出樋208と連結する供給樋219と排出樋220とを備えたケーシング内に、多孔壁水切り筒221を排出樋220側とやや低く横架し、モータ222によって回転可能に形成する。そして、送風機223の送風管224の端部をケーシング218内に臨ませてある。」(特許公報第4欄35〜40行)及び「こうして洗浄を終えた米粒は、直ちに水切り手段200Bに搬送され、送風機223による風を浴びながら、回転する多孔壁水切り筒221内を転動し、表面に付着する水分を除去する。」(特許公報第6欄14〜17行)と記載されている。
上記のような本件発明の水切り手段においては、使用する多孔壁水切り円筒の大きさ、形状、構造、該円筒内への米粒の投入方法、該円筒の回転速度、及び円筒内への送風方法、送風の強さ等は、洗浄を終えた米粒の水切りの程度に大きく影響することは、当業者なら容易に理解するところである。
甲第2号証の多孔壁円筒内の米粒転動試験は、少なくとも円筒内への送風の有無の点、及び該円筒内への米粒の投入方法の点で、本件発明の水切り手段を忠実に追試したものということはできず、また、使用する多孔壁水切り円筒の大きさ、形状、構造、及び該円筒の回転速度の点において、両者の条件が同じであるかどうか明らかでない。
してみると、甲第2号証の多孔壁円筒内の米粒転動試験の試験結果のみを根拠として、本件発明の水切り手段では短時間での水切りができず、その結果、亀裂のない無洗米を得ることができないという結論を導き出すことはできない。
本件特許明細書には、多孔壁水切り円筒の大きさ、形状、構造、該円筒の回転速度、及び円筒内への送風方法、送風の強さ等について、具体的数値に基づく記載はないが、これらについて試験して、その最適条件を設定し、本件発明の目的とする水切りを達成することは可能であるとするのが相当である。
以上のとおりであるから、異議申立人の上記主張は採用しない。
IV.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件請求項1に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 1999-10-27 
出願番号 特願平1-144660
審決分類 P 1 651・ 14- Y (A23L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 植野 浩志  
特許庁審判長 徳廣 正道
特許庁審判官 田中 久直
大高 とし子
登録日 1997-03-11 
登録番号 特許第2616821号(P2616821)
権利者 株式会社佐竹製作所
発明の名称 無洗米の加工方法  
代理人 湯田 浩一  
代理人 竹本 松司  
代理人 杉山 秀雄  
代理人 塩野入 章夫  
代理人 魚住 高博  
代理人 竹田 明弘  

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