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審決分類 審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  F23G
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  F23G
審判 全部申し立て 2項進歩性  F23G
管理番号 1008910
異議申立番号 異議1998-76117  
総通号数
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1993-12-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 1998-12-22 
確定日 1999-11-29 
異議申立件数
事件の表示 特許第2768144号「廃棄物の溶融方法」の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2768144号の特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第2768144号に係る発明についての出願は、平成4年6月15日に特許出願され、平成10年4月10日にその発明について特許の設定登録がなされ、その後、その特許について特許異議申立人・新日本製鐵株式会社による特許異議の申立てがなされ、当審により取消理由通知がなされたものである。
2.本件発明
特許第2768144号の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、願書に添付した明細書(以下、「特許明細書」という。)および図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。
「炉本体上部から供給される可燃性廃棄物を、炉本体下部に吹込まれる酸素を含むガスにより流動化させると共に、必要により補助燃料を供給して、部分的に燃焼させると共に、可燃性物質の熱分解及び不燃物の溶融を行う廃棄物溶融炉において、炉内の空塔速度Vが装入時の平均流動化速度Vmfに対して、V=0.5〜2.0Vmfになるようにすると共に、下記の排ガスの酸化度ODを、0.1〜0.6の範囲で操業することを特徴とする廃棄物の溶融方法。
酸化度OD={CO2}+{H2O}/{CO}+{CO2}+{H2}+{H2O}」
3.当審における取消理由の通知について
(イ)引用刊行物に記載の発明
当審において取消理由に引用した刊行物1(特開昭63-187018号公報)には、「供給ホッパ5に近接して破砕機6が設けられて、この破砕機6によって破砕されたごみを流動層8として底部に堆積させる流動層炉7が破砕機6に近接して設けられている。
流動層炉7の底部の流動層8が堆積する部位には、流動層8の燃焼を促進させるための助燃料供給のノズル9が設けられ、その下部に流動層8内に空気を放出させるための散気管10が配設されている。散気管10には流動化空気26が供給される。また、流動層7底部には不燃物を排出するための不燃物排出管27が設けられ、天井部には炉内で発生した燃焼ガスを排出するための燃焼ガス排出管28が設けられている。」(第2頁上段右欄第12行〜同下段左欄第4行)こと、「流動層炉7の助燃料供給ノズル9には助燃バーナ弁20が接続されると共に、供給ホッパ5には移動を制御するための供給制御機19が設置されている。この供給制御機19及び助燃バーナ弁20は、制御装置16によって制御される。」(第3頁上段右欄第9行〜同第13行)こと、「制御装置16には、入力情報としてダンパ開度22及び流動層8内の層温度24がある。層温度24を検出するために、流動層8内に温度検出器33が設けられている。尚、流動層炉7より排出される燃焼ガス28は排ガス処理装置21によって処理されたのち、通風機23によって排出される。」(第3頁下段左欄第2行〜同第7行)こと、「実施例では、炉温設定温度800℃、炉温750℃で助燃バーナが「入」、800℃で「切」となる。」(第4頁下段右欄第7行〜同第9行)ことが記載されている。
同じく引用した刊行物2(特開平4-55610号公報)には、「(1)流動層部に1次空気の供給ノズルを多数有する散気管を多数配列した流動層炉を用い、該散気管から1次空気を供給して廃棄物を燃焼させ、さらに空塔部で2次空気の供給下に燃焼ガス中の未燃部を燃焼させる廃棄物の流動層燃焼方法において、前記各散気管に開閉ダンパを含む空気供給量調節手段を設け、空気流量Uoと最小流動化空気量Umfとの比Uo/Umfがダンパ開時に1.4〜4、ダンパ閉時に0.5〜2の範囲になるように、それぞれ1〜10秒および10〜100秒の間隔でダンパ開閉を行うとともに、流動層断面積当たりのトータルの1次空気量を300〜800Nm3/hr/m2の範囲内の所定値に設定して燃焼を行い、かつ流動層の温度を測定し、該測定温度において前記設定条件における空塔速度となるように、上記1次空気量を調節することを特徴とする廃棄物の流動層燃焼方法。」(特許請求の範囲)であること、「本発明の目的は、流動層燃焼に特有の問題を解決し、流動層内に投入する廃棄物の量、質の時間的変動があっても、これに左右されずに緩慢な燃焼速度で廃棄物を完全に燃焼させ、炉外へのCOガス等の排出を防止し、またボイラ等に用いた場合の蒸気回収率も向上させることができる流動層燃焼方法を提供することにある。」(第2頁下段左欄第4行〜同第10行)こと、が記載されている。
更に、同じく刊行物3(特開昭53-32978号公報)には、「本発明の目的は高温でかつ高濃度の富化空気を用いて焼却炉下部溶融部における無機物の溶融を良好にし、他方高発熱量の乾留ガスを得るようにして、同時に装入空気の温度と酸素濃度を最小限にとめ、運転経費が安い溶融式焼却炉による廃棄物処理方法及び装置を提供する。」(第2頁下段左欄第13行〜同第18行)こと、「3は乾燥部で廃棄物は、ここで下部からの高温乾溜ガスで乾燥される域である。4は乾溜部で廃棄物中の有機物が乾溜される域である。5は燃焼部で乾燥、乾溜された廃棄物の固定炭素等が燃焼される域である。6は溶融部で廃棄物中の無機物を羽口からの高温空気及び重油などの補助燃料9’の熱によって溶融される域である。」(第3頁上段右欄第3行〜同第9行)こと、「16は余剰な燃焼ガスの熱回収を計るボイラで、水噴射による排ガス減温装置を用いる場合もある。」(第3頁下段左欄第3行〜同第5行)こと、「20は焼却炉出口乾溜ガス温度検出部及び指示調節計である。21は焼却炉下部羽口の補助燃料量制御弁、22は酸素富化空気流量制御弁、23は酸素濃度指示調節計であり、これは酸素又は酸素富化空気流量制御弁を制御し、酸素濃度22〜39%に保つ。このような構成において乾溜ガス温度は温度検出部及び指示調節計20により検出され、温度が高すぎるときは制御弁21及びこれに比例して制御弁22も閉じる。他方、低すぎるときはこれら2つの弁21、22が開く。」(第3頁下段左欄第6行〜同第16行)ことが記載されている。
また、同じく刊行物4(特開平1-162711号公報)には、「(1)鉄鉱石を予熱予備還元炉で予熱、予備還元して炭材、造滓剤とともに精錬炉に装入し、脱炭用及び2次燃焼用ノズルを有する上吹き酸素ランスから酸素を吹き込むとともに、精錬炉の側壁及び炉底に設けられた羽口から攪拌用ガスを吹き込んで鉄鉱石を溶融還元する方法であって、予熱予備還元炉に導入されるガスの温度を300乃至800℃、前記精錬炉で生成するガスの酸化度[(H2O+CO2)/(H2+H2O+CO+CO2)]を0.4乃至0.6、予熱予備還元炉での予備還元率を30%以下とすることを特徴とする溶融還元法。」(特許請求の範囲)であること、「本発明によれば酸素ランスに設けた2次燃焼用ノズルからの酸素によるCOガスの燃焼及び精錬炉の側壁及び炉底に設けた羽口からの吹き込みを行って、精錬炉の発生ガスの酸化度を0.4乃至0.6、前記ガスの温度を300乃至900℃、予備還元率を30%以下とするので、溶融還元装置の余剰エネルギーが製鉄所全体のエネルギーバランスに見合った適正なものとなり、また予熱予備還元炉の負担が軽くされてあるので精錬炉との工程の調整の必要が無くなり操業の自由度が大幅に向上される。」(第4頁上段左欄第14行〜同右欄第4行)ことが記載されている。
(ロ)対比・判断
そこで、本件の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「前者」という。)と前記刊行物1に記載されたもの(以下、「後者」という。)とを対比し、検討する。
後者は、流動層炉7下部に吹込まれる空気によりごみ3である流動層8は流動化されていること、実施例における炉温設定温度は800℃であり、炉温750℃で助燃バーナが入るとしていること、流動層炉7の底部から不燃物を排出していること、であるから、上記炉設定温度800℃における流動層8のごみである廃棄物は流動層炉7内において、廃棄物の性質により、燃焼するもの、熱分解するもの、溶融するものが存在することは容易に推測し得るから、両者は、「炉本体上部から供給される酸素を含むガスにより流動化させると共に、必要により補助燃料を供給して、燃焼させると共に、熱分解及び溶融を行う廃棄物溶融炉における廃棄物の溶融方法。」において一致しているものと認められる。しかし、
▲1▼前者は、不燃物の溶融をも行っている対して、後者は、不燃物については排出するとだけ記載されているだけで、溶融させていることが記載されていない点。
▲2▼前者は、、炉内の空塔速度Vが装入時の平均流動化速度Vmfに対して、V=0.5〜2.0Vmfになるようにしているのに対して、後者は、そのような記載がされていない点。
▲3▼前者は、排ガスの酸化度OD={CO2}+{H2O}/{CO}+{CO2}+{H2}+{H2O}を0.1〜0.6の範囲で操業しているのに対して、後者は、そのような記載がされていない点。
で相違しているものと認められる。
そこで、これらの相違点について検討する。
(相違点▲1▼について)
廃棄物溶融炉において、不燃物即ち無機物をも溶融することは、前記刊行物3に記載されているけれども、この廃棄物溶融炉は、炉の底部において、羽口からの高温空気及び重油等の補助燃料の熱によって溶融するものであり、前者の廃棄物溶融炉は、特許明細書の発明の詳細な説明中の段落【0007】中で説明されているように、可燃性廃棄物を流動に近い状態に流動化し、その間に廃棄物中の可燃性物質を部分的に燃焼し、その熱で残りの可燃性物質の熱分解と、不燃物の溶融を行うというものであり、その溶融方法において本質的に異なるものと言えるし、他の刊行物2、4にも、廃棄物を流動に近い状態に流動化して廃棄物中の不燃物を溶融処理することについては何ら記載されていない。
(相違点▲2▼について)
前記刊行物2に記載されたものは、その目的とするところは、廃棄物の流動層燃焼装置において、流動層炉内に投入する廃棄物の量、質の時間的変動があっても、それに左右されずに緩慢な燃焼速度で廃棄物を完全に燃焼させ、炉外へのCOガス等の排出を防止することであって、その目的達成のため、流動層部に1次空気の供給ノズルを多数有する散気管を多数配列した流動層炉を用い、該散気管から1次空気を供給して廃棄物を燃焼させ、更に空塔部で2次空気の供給下に燃焼ガス中の未燃分を燃焼させるようにし、その際に各散気管に開閉ダンパを含む空気供給量調節手段を設け、空気流量UOと最小流動化空気流量Umfとの比UO/Umfがダンパ開時に1.4〜4、ダンパ閉時に0.5〜2の範囲になるように、それぞれ1〜10秒および10〜100秒の間隔でダンパ開閉を行うというものであり、その効果も、安定した燃焼条件で廃棄物を緩慢に燃焼させることができ、安定した燃焼条件で廃棄物を緩慢に燃焼させることができ、未燃分がほとんどなく、COガスの排出や黒煙の発生をなくすことができるというものであり、一方、前者は、その発明の目的とするところが特許明細書の発明の詳細な説明中の段落【0005】に記載されているように、「本発明は、炭素系補助燃料の消費を抑制し、炉内にスティッキング、棚吊り等のトラブルを生じさせない低公害型のガス化溶融炉を提供する」ことであり、その目的達成のため、特に廃棄物溶融炉の「炉内の空塔速度Vが装入時の平均流動化速度Vmfに対して、V=0.5〜2.0Vmfになるようにする」のであり、それにより、発明の詳細な説明中の段落【0008】に記載されているように、「圧密されること無く、流動に近い状態に流動化されるので、従来のように炉内が炉高さ方向に温度分布を有するため、高分子系の廃棄物が充填層内で粘着状態となり、スティッキング、棚吊りなどのトラブルを生ずることはない。」という作用を有するものであるし、また、【発明の効果】の項に記載されているように、「炉内にスティッキング、棚吊り等のトラブルを生じない安定した操業を行うことができる。そして、空塔速度を所定の値の範囲内に制御することにより、燃焼空気の吹き抜けを防止し」という効果をもたらすということであり、前記刊行物2の記載のものにおける、廃棄物の未燃部をなくし、排ガス中のCO濃度を低減させるため、均一で且つ緩慢な燃焼を行うことを前提に最小限の1次空気量を経時的に変化させることから、空気流量UOと最小流動化空気流量Umfとの比の数値範囲を設定したものとは、その目的において異なり、またそれがもたらす効果においても異なると言える。そして、他の前記刊行物3および刊行物4には、「空塔速度」については何ら記載されていない。
(相違点▲3▼について)
前記刊行物3には、燃焼に必要な理論酸素量以下で不完全燃焼させ、乾溜ガスを回収するものが示されているが、この刊行物3に記載された廃棄物溶融炉は、相違点▲1▼で前述したように、前者の廃棄物溶融炉とは本質的に異なるものであるし、前記刊行物4に記載されたものは、鉄鉱石の溶融還元法であって、製鉄所全体のエネルギーバランスを考慮した際に、鉄鉱石の予熱予備還元炉での予備還元率を30%以下にする場合における、予熱予備還元炉の余剰エネルギーが適切な余剰エネルギーの範囲となるように、精錬炉の排ガスの酸化度ODの値を0.4乃至0.6にするというものであり、一方、前者の酸化度ODは、その発明の目的とするところが特許明細書の発明の詳細な説明中の段落【0013】に記載されているように、「炉頂の排ガス組成は、エネルギー回収効率の良い部分燃焼範囲を維持する」ようにすることであって、その目的達成のため「0.1〜0.6の範囲で操業する」のであり、それにより、発明の詳細な説明中の【発明効果】の項に記載されているように、「排ガス組成の酸化度を所定の範囲に制御することにより、エネルギー回収効率を高めることができる」という効果をもたらすと言えるのであり、同じ「酸化度」といっても、前記刊行物4に記載のものにおける「酸化度」とは、それを考慮するに至った背景は異なり、またそれがもたらす効果も異質のものと言える。そして、他の刊行物2および刊行物3には、「酸化度」については何ら記載されていない。
したがって、本件の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、前記刊行物1乃至刊行物4の各刊行物に記載されたものに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、とすることはできない。
4.特許異議の申立てについての判断
(1)特許異議申立ての理由
特許異議申立人は、
(イ)本件の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、その出願前に頒布された刊行物である甲第1号証乃至甲第3号証に記載のものに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められ、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、
(ロ)本件の特許明細書の発明の詳細な説明には、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度にその発明の目的、構成および効果が記載されておらず、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないし、また、特許請求の範囲の請求項1には、発明の構成に欠くことができない事項のみが記載されておらず、特許法第36条第5項に規定する要件も満たしていない、旨の主張をしている。
(2)判断
そこで、前記特許異議申立ての理由の(イ)および(ロ)について判断する。
(イ)について
特許異議申立人の提出した甲第1号証の刊行物である特開昭56-53314号公報に記載されたものは、竪型炉であって、下部にコークスの高温固定流動床を、その上方にコークスおよび産業廃棄物の高温流動床を形成することにより、炉壁の温度分布が平坦化されて炉壁の昇温が抑えられ、炉壁熱損が抑制でき、また産業廃棄物や灰が包み込まれると共に炭素にスラグが付着して排ガスヘのダスト混入が抑制できるというものであり、また、同じく甲第2号証の刊行物である、鞭巌、森滋勝、堀尾正靱 共著「ケミカルエンジニアリング・シリーズ8 流動層の反応工学」、p.18〜19(昭和59年2月25日発行、株式会社培風館)に記載されたものは、「2・1・4流動化開始速度の推算」の項において、平均粒径が0.05〜50mmの各種粒子につきArがかなり小さい粘性支配領域とArがきわめて大きい慣性領域について、近似的に流動化開始速度Umfを求める式を導いたものであり、「2・1・5流動化開始速度の実測」の項においては、実測により流動層の上方空間における圧力の圧力損失を求め、その圧力損失の値をグラフ上に空塔速度に対してプロットし、「流動層の圧力損失と流動化開始速度」線図を得たというものであり、更に、甲第3号証の刊行物である特公昭52-24790号公報に記載のものは、最小限の煙道ガスの発生で済むような効率的な廃物の処理を行うことを目的とするもので、可燃性有機物質および非可燃性無機物質を含む廃物の処理を行うに当たり、立炉の頂部に廃物を供給し、その底部に酸素富化空気からなる燃料支持ガスを供給し、それにより該炉内に下方部における燃焼および溶融域と、中間部における熱分解域と、上方部における乾燥域とを形成し、該炉からガス状燃焼生成物を取出すと共に該燃焼および溶融域から放出される溶融無機物質を捕集廃物処理方法において、(1)燃焼支持ガスが、少なくとも4.0容量%の酸素を含有し、炉に供給される酸素対廃物の重量比が0.15:1から0.28:1の範囲に維持されるような量であり、(2)炉の乾燥帯域から放出されるガス状燃焼生成物が、乾量基準で少なくとも50容量%の水素および炭素を含有し、大気圧および21℃において1780kg/m3以上の熱量値を有する有用燃料或いは合成ガスであるというもので、その実施例1乃至3には排出される煙道ガスのガス組成の数値および煙道ガスの流量の数値が示されているものであって、前記甲第1号証乃至甲第3号証の刊行物のいずれにも、本件の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の構成要件である、廃棄物溶融炉において、特に「炉内の空塔速度Vが装入時の平均流動化速度Vmfに対して、V=0.5〜2.0Vmfになるようにすると共に、下記の排気ガスの酸化度ODを、0.1〜0.6の範囲で操業することを特徴とする廃棄物の溶融方法。酸化度OD={CO2}+{H2O}/{CO}+{CO2}+{H2}+{H2O}」の点の構成は何ら記載されておらず、該各刊行物に記載のもののいずれも本件の特許請求の範囲の請求項1に係る発明とは異なると言える。
そして、本件の特許請求の範囲の請求項1に係る発明におけるこの点の構成が、特許明細書の発明の詳細な説明中の【発明の効果】の項に記載されているように、「炉内スティッキング、棚吊り等のトラブルを生じない安定した操業を行うことができる。そして、空塔速度を所定の値の範囲内に制御することにより、燃焼空気の吹き抜けを防止し、また、排ガス組成の酸化度を所定の範囲に制御することにより、エネルギー回収効率を高めることができる。」という効果を有するものと言える。
したがって、本件の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、前記甲第1号証乃至甲第3号証の各刊行物に記載されたものに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、とする特許異議申立人の上記主張は採用することができない。
(ロ)について
特許異議申立人は、本件の特許発明は、装入物の粒径、比重が示されていないため、V=0.5〜2.0Vmfであっても必ずしも流動化状態になるとは言えず、このような範囲は根拠がなく無意味な限定であると主張しているが、この点について検討する。
本件の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の目的の一つは、特許明細書の発明の詳細な説明中の【発明が解決しようとする課題】の項に記載されているように、「本発明は、炭素系補助燃料の消費を抑制し、炉内にスティッキング、棚吊り等のトラブルを生じさせない低公害型のガス化溶融炉を提供する」というものである。そして、段落【0013】中に、「平均流動化速度とは、装入廃棄物の平均性状(主として粒径、比重)に対する流動化開始速度であり、廃棄物を装填した層が、下部から供給される空気により流動し始める最小の空塔速度を意味している。」と記載されていることから言って、平均流動化速度Vmfは装入廃棄物の平均性状(主として粒径、比重)を基に求めるのであって、本件の特許請求の範囲の請求項1に係る発明において、空塔速度Vが装入時の平均流動化速度Vmfに対して、V=0.5〜2.0Vmfになるようにするということは、それによって、廃棄物が「圧密されること無く、流動に近い状態に流動される」(段落【0008】)のであり、「燃焼空気の吹き抜けがなく、流動に近い状態を維持する」(段落【0013】)と言うことができる。
したがって、本件の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の構成のうちの「炉内の空塔速度Vが装入時の平均流動化速度Vmfに対して、V=0.5〜2.0Vmfになるようにする」という構成は、発明の詳細な説明中の段落【0008】に「圧密されること無く、流動に近い状態に流動化されるので、従来のように炉内が炉高さ方向に温度分布を有するため、高分子系の廃棄物が充填層内で粘着状態となり、スティッキング、棚吊りなどのトラブルを生ずることはない。」という作用を有すること、また、【発明の効果】の項に「炉内にスティッキング、棚吊り等のトラブルを生じない安定した操業を行うことができる。そして、空塔速度を所定の値の範囲内に制御することにより、燃焼空気の吹き抜けを防止し」という効果を有することが記載されているから、発明の詳細な説明には、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度にその発明の目的、構成および効果が記載されていると言える。
また、特許請求の範囲の請求項1に記載の特許を受けようとする発明が、発明の詳細な説明に記載されており、しかも特許請求の範囲の請求項1には、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみが記載されていると言える。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度にその発明の目的、構成および効果が記載されておらず、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていず、また、特許請求の範囲の請求項1には、発明の構成に欠くことができない事項のみが記載されておらず、特許法第36条第5項に規定する要件も満たしていない、という特許異議申立人の上記主張は採用することができない。
5.むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由(イ)、(ロ)およびその証拠によっては、本件の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 1999-11-08 
出願番号 特願平4-154810
審決分類 P 1 651・ 121- Y (F23G)
P 1 651・ 534- Y (F23G)
P 1 651・ 531- Y (F23G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 倉橋 紀夫見目 省二  
特許庁審判長 大槻 清寿
特許庁審判官 櫻井 康平
岡田 弘規
登録日 1998-04-10 
登録番号 特許第2768144号(P2768144)
権利者 日本鋼管株式会社
発明の名称 廃棄物の溶融方法  
代理人 堤 隆人  
代理人 村松 貞男  
代理人 坪井 淳  
代理人 鈴江 武彦  
代理人 中村 誠  
代理人 橋本 良郎  
代理人 小堀 益  

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