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審決分類 審判 全部申し立て 4項(5項) 請求の範囲の記載不備  G01N
審判 全部申し立て 特29条の2  G01N
審判 全部申し立て 2項進歩性  G01N
管理番号 1009056
異議申立番号 異議1997-76039  
総通号数
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1992-09-14 
種別 異議の決定 
異議申立日 1997-12-19 
確定日 1999-12-11 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2628421号「診断試験用キットおよびこれを用いる方法」の請求項1ないし27に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2628421号の請求項1ないし13に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第2,628,421号の発明は、平成3年10月9日(パリ条約による優先権主張、1990年10月12日、カナダ)に特許出願され、平成9年4月18日にその特許の設定登録がされた。
その後、本件特許について申立人ヤマサ醤油株式会社および申立人青木幾雄から特許異議の申立があり、取消理由が通知され、それに対して、平成10年10月5日に意見書および訂正請求書が提出された。この訂正請求に対し訂正拒絶理由が通知され、上記訂正請求書の補正書が平成11年9月14日付で提出された。
2.訂正の適否の検討
(1)訂正事項
平成11年9月14日付補正書により補正された訂正請求による明細書の訂正事項は、次のとおりである。
訂正事項a:請求項の削除、整列
第3、6、8、9、11、12、16、17、20、21、22、25、26、27項を削除。
残りの項番号を整列、即ち第4、5、7、10、13、14、15、18、19、23、24項を夫々第3〜13項に訂正
訂正事項b:請求項1
請求項1に「患者の胸痛が心臓異常に因るか否かを決定する場合、」を挿入
訂正事項c:請求項1、請求項10(旧18項)
請求項1および請求項10(旧18項)に、「更に別の少くとも1つの抗体」が「胸痛の初期兆候において狭心症と心筋梗塞とを識別するマーカータンパク質に合致」するものであることを挿入
訂正事項d:請求項1
請求項1の「3以上の単クローン性抗体または多クローン性抗体」を「3以上の単クローン性抗体または多クローン性抗体対」に訂正。
訂正事項e:請求項2
請求項2の「合致するタンパク質と反応する各抗体に応じて該試薬によりもたらされる応答が可視色変化示される」を「複合体の生成が可視色変化から明白である」に訂正。
訂正事項f:請求項1
請求項1の「検知」を「検出」に訂正する。
訂正事項g:請求項1
請求項1の「単体」を「担体」に訂正する。
訂正事項h:請求項4(旧5項)
請求項4(旧5項)の「キャリヤー」を「担体」に訂正する。
訂正事項i:請求項7(旧13項)
「低分子量心タンパク質であって」を「低分子量心タンパク質に合致するものであって」に訂正。
訂正事項j:請求項12(旧23項)
「低分子量心筋タンパク質」を「低分子量心タンパク質」に訂正
訂正事項k:【発明の詳細な説明】
【0002】第3行目、「抹消」を「末消」と訂正。
【0012】第6行目、「ヤコワスキー」を「ジャックオースキー」と訂正。
【0013】第4行目、「胸痛」を「心臓痛」と訂正、第6行目、「指示剤」を「指標」と訂正。
【0014】第3-4行目、「トロオースPイソメラーゼ」を「トリオース-P-イソメラーゼ」と訂正し、
第5行目、「筋細胞膜」の次に「(筋線維膜)」を加入する。
【0017】第7行目、「Chin.」を「Clin.」と訂正。
【0021】第3行、「キャリヤー」の後に「(担体)」を加入。
【0024】第8行目、「抗体24」を「抗体26」と訂正。
第9行目、「酵素抱合体26」を「酵素抱合体24」と訂正し、「抱合体26」を「抱合体24」と訂正し、「抗体24」を「抗体26」と訂正。
第10行目、「抗体24」を「抗体26」と訂正。
第10-11行目、「ミオシン」を「ミオグロビン」と訂正。
第11行目、「抗体28」を「抗体30」と訂正し、「対応試薬30」を「対応試薬28」と訂正。
第12行目、「抗体28」を「抗体30」と訂正し、「抗体32」を「抗体34」と訂正し、「試薬34」を「試薬32」と訂正。
第13行目、「抗体32」を「抗体34」と訂正し、「抗体36」を「抗体38」と訂正。
第14行目、「抗体36」を「抗体38」と訂正し、「試薬38」を「試薬36」と訂正。
【0026】第6行目、「ウインドウ」を「ウインドー」と訂正。
第7行目、「抗体」を「試薬」と訂正し、「試薬」を「抗体」と訂正。
【0030】第4行目、第5行目、「識別」を「鑑別」と訂正。
【0033】最下行、「が」を「か」と訂正。
【0036】第1-2行目、「トロポニ-C」を「トロポニン-C」と訂正し、
第3-4行目、「または」を「もしくは」と訂正。
【0037】第1行目、「実施例」を「実験例」、「補促」を「捕捉」と夫々訂正し、「抗体124」を「抗体126」と訂正し、「対応試薬126」を「対応試薬124」と訂正。
第2行目、「抗体」を「対応試薬」と訂正し、「対応試薬」を「抗体」と訂正。
【0038】第1行目、「吸収性材」を「吸収性材料」と訂正、「吸収材」を「吸収性材料」と訂正。
訂正事項1:【図面の簡単な説明】
「24固定捕捉抗体」を「26固定捕捉抗体」と訂正し、
「26抗体-酵素抱合体(試薬)」を「24抗体-酵素抱合体(試薬)」と訂正し、
「28,32,36,128,132抗体」を「28,32,36,128,132試薬」と訂正し、
「30,34,38,126,134試薬」を「30,34,38,126,134抗体」と訂正。
(2)訂正の目的
上記訂正事項aは、特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
上記訂正事項b〜eは、明りょうでない記載の釈明を目的とするものものといえる。
上記訂正事項f〜lは、誤記の訂正を目的とするものといえる。
(3)明細書の記載事項の範囲内
上記訂正事項a〜訂正事項lは、本件特許明細書の記載事項の範囲内であることは明らかである。
(4)拡張・変更
上記訂正事項a〜訂正事項lは、いずれも、特許請求の範囲を拡張するものでなく、また、変更するものでもない。
(5)訂正適否の検討結果
以上検討したとおり、本件訂正は、特許法120条の4、2項および3項の規定に適合する。
3.本件発明
本件特許の請求項1〜請求項13の発明は、本件訂正明細書の特許請求の範囲の各請求項に記載された事項により構成される。
本件訂正明細書の特許請求の範囲は次のとおりである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の胸痛が心臓異常に因るか否かを決定する場合、不定狭心症と心筋梗塞症との間の鑑別診断をするための診断用キットにおいて、
(i) 血液または血清試料を保持する容器と、
(ii) 該容器に連結する検出手段であって、
a) 互いに所定の位置にある固体担体上に別々に支持された3以上の単クローン性抗体または多クローン性抗体対で、各々の抗体対は心筋の損傷に際し心筋から放出される夫々異なったマーカータンパク質に合致する抗体であり、かつ試料に接触し得る各々の抗体は、少なくとも1つの抗体対が狭心症に特異的なマーカータンパク質に合致し、また少なくとも別の1つの抗体が心筋梗塞に特異的なマーカータンパク質に合致し、また更に別の少くとも1つの抗体は胸痛の初期兆候において狭心症と心筋梗塞とを識別するマーカータンパク質に合致し、而も
b) 抗体/タンパク質結合体が生成した場合夫々に独立して反応性があり、かつ不安定狭心症または心筋梗塞のいずれであるかを指示する応答をひとまとめにして提示するに必要な試薬とを有する不安定狭心症と心筋梗塞との間の鑑別診断をするための診断用キット。
【請求項2】
複合体の生成が可視色変化から明白である請求項1記載の診断用キット。
【請求項3】
試料を受け入れる試料ウインドーおよび試薬を表示するための表示ウインドーを有する正面パネル、裏面パネルおよび検出手段を正面パネルと裏面パネルとの間に挟んで一体化ユニットを形成する正面パネルと裏面パネルとを保護するための封入手段を有し、カード形態の請求項1記載の診断用キット。
【請求項4】
抗体の担体が乾燥化学膜である請求項3記載の診断用キット。
【請求項5】
膜が試料ウインドーから表示ウインドーへ延在しており、抗体と対応試薬とが表示ウインドー内の試料ウインドーから隔てられた位置に配置されている請求項3記載の診断用キット。
【請求項6】
容器が封止可能な透明容器であり、そして検出手段が容器の側面に設置されている請求項1記載の診断用キット。
【請求項7】
該抗体がつぎの3以上のタンパク質または酵素、即ちクレアチンキナーゼ、ミオグロビン、ミオシンL鎖タンパク質、ミオシンH鎖タンパク質、トロポミオシン、トロポニン、トロポニン-I、トロポニン-C、トロポニン-T、筋線維膜タンパク質、トリオースP-イソメラーゼ、またはクレアチンキナーゼ、ミオグロビンもしくはミオシンL鎖タンパク質の特徴および特性を有する低分子量心タンパク質に合致するものであって、一つがミオグロビンに合致し、他の一つがミオシンL鎖に合致するものである、請求項1ないし6記載の診断用キット。
【請求項8】
3つの抗体がクレアチンキナーゼ、ミオグロビンおよびミオシンL鎖タンパク質のいずれかに夫々合致するものである、請求項7記載の診断用キット。
【請求項9】
検出手段が血清中に通常見い出されるタンパク質と合致する対照抗体、および合致するタンパク質と反応する対照抗体に反応する試薬に対応し、それによって試験が機能していることを示しているものである請求項1ないし8のいずれか1つに記載の診断用キット。
【請求項10】
互いに所定の位置にある担体上または担体内に支持された3以上の単クローン性抗体または多クローン性抗体を含有し、各々の抗体が心筋の損傷時に心筋から放出される少なくとも3つのマーカータンパク質の異なった1つに合致するものである診断検出手段に、血液または血清試料を接触させ、次にそれらタンパク質の夫々がそれらタンパク質に対する夫々の抗体と結合する場合に、少なくともそれら抗体の1つが狭心症に特異的なマーカータンパク質に合致する抗体であり、また別の抗体の少なくとも1つが心筋梗塞に特異的なマーカータンパク質に合致する抗体であり、更に別の抗体の少くとも1つが胸痛の初期兆候において狭心症と心筋梗塞とを識別するマーカータンパク質に合致する抗体であるようにし、抗体と結合するか否かを検出する方法。
【請求項11】
マーカータンパク質と、それらの抗体との結合が可視的に検出される請求項10記載の方法。
【請求項12】
複数の単クローン性抗体または多クローン性抗体に合致するマーカータンパク質がクレアチンキナーゼ、ミオグロビン、ミオシンL鎖タンパク質、ミオシンH鎖タンパク質、トロポミオシン、トロポニン-I、トロポニン-C、トロポニン-T、筋細胞膜タンパク質、トリオース-P-イソメラーゼ、またはクレアチンキナーゼ、ミオグロビンあるいはミオシンL鎖タンパク質の特質および特性を有する低分子量心タンパク質の少なくとも3つを含有し、その少なくとも1つはミオグロビンであり、他の1つはミオシンL鎖である請求項10または11記載の診断用キット。
【請求項13】
該3つのマーカータンパク質がクレアチンキナーゼ、ミオグロビンおよびミオシンL鎖である請求項12に記載の方法。
4.特許異議の申し立て
4.1 特許法29条違反の申立
申立人ヤマサ醤油株式会社および申立人青木幾雄は、本件特許が、下記の理由で特許法29条の規定に違反してされたものである、と主張している。
(下記刊行物に付記した記号「ヤ甲2」などは、申立人の頭文字と証拠番号である。たとえば、「ヤ甲2」は、申立人ヤマサ醤油株式会社提出の甲第2号証を意味する。)
引用刊行物
刊行物1:(ヤ甲2)(青甲6)
European Heart Journal,(1987),8,p.989-994
刊行物2:(青甲10)
欧州特許公開第384130号A2明細書
刊行物3:(青甲1)
ソビエト連邦特許第1511690号A1明細書
刊行物4:(ヤ甲1)
Circulation Suppl.,(1989),80,p.355(abstract # 1416)
刊行物5:(青甲7)
特開平1-262471号公報
刊行物6:(青甲8)
特開平1-302162号公報
刊行物7:(青甲9)
特開平1-233298号公報
刊行物8:(青甲11)
Japan Heart Journal,(1981),July,p.653-664
刊行物9:(青甲12)
Climcal Science,(1981),60,p.251-259
刊行物10:(青甲13)
American Heart Journal,(1897),June,l13(6),p.1333-1344
刊行物11:(青甲14)
J.Mol.Cell Cardiol,(1989),21,p.1349-1353
刊行物12:(青甲15)
特開昭60-201260号公報
刊行物13:(ヤ甲3)
特開昭63-142267号公報
刊行物14:(ヤ甲4)
特開昭63-269056号公報
刊行物15:(ヤ甲5)
特開平1-313760号公報
刊行物16:(青甲2)
特開昭64-59069号公報
刊行物17:(青甲3)
特開昭64-61664号公報
刊行物18:(青甲4)
特開昭61-142463号公報
刊行物19:(青甲5)
特開昭64-63865号公報
(1) 申立人ヤマサ醤油株式会社の申立理由
本件特許の旧請求項1〜旧請求項27の発明(本件請求項1〜請求項13の発明)は、出願前に頒布された上記の刊行物4(ヤ甲1)、刊行物1(ヤ甲2)および刊行物13(ヤ甲3)〜刊行物15(ヤ甲5)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(2) 申立人青木幾雄の申立理由
▲1▼ 旧請求項1(本件請求項1)、旧請求項18(本件請求項10)の発明について
旧請求項1(本件請求項1)および旧請求項18(本件請求項10)の発明は、出願前に頒布された上記の刊行物3(青甲1)、刊行物16〜19(青甲2〜青甲5)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
▲2▼ 旧請求項14(本件請求項8)および旧請求項24(本件請求項13)の発明について
旧請求項14(本件請求項8)および旧請求項24(本件請求項13)の発明は、出願前に頒布された上記の刊行物3(青甲1)、刊行物16〜19(青甲2〜青甲5)、刊行物1(青甲6)、刊行物5〜7(青甲7〜青甲9)、刊行物2(青甲10)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
▲3▼ 旧請求項13(本件請求項7)および旧請求項23(本件請求項12)の発明について
旧請求項13(本件請求項7)および旧請求項23(本件請求項12)の発明は、出願前に頒布された上記の刊行物3(青甲1)、刊行物16〜19(青甲2〜青甲5)、刊行物1(青甲6)、刊行物5〜7(青甲7〜青甲9)、刊行物2(青甲10)、および、刊行物8〜12(青甲11〜青甲15)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
▲4▼ 旧請求項2(本件請求項2)および旧請求項19(本件請求項11)の発明について
旧請求項2(本件請求項2)および旧請求項19(本件請求項11)の発明は、出願前に頒布された上記の刊行物3(青甲1)、刊行物16〜19(青甲2〜青甲5)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
▲5▼ その他の請求項
本件特許のその他の請求項の発明は、出願前に頒布された上記の刊行物3(青甲1)、刊行物16〜19(青甲2〜青甲5)、刊行物1(青甲6)、刊行物5〜7(青甲7〜青甲9)、刊行物2(青甲10)、および、刊行物8〜12(青甲11〜青甲15)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
4.2 特許法29条の2違反の申立
引用先願明細書:(青甲16)
特許国際公開WO91/01498号パンフレット
申立人青木幾雄は、本件発明の特許が、次の理由で特許法29条の2の規定に違反してされたものである、と主張している。
(申立人青木幾雄の申立理由)
本件特許の旧請求項1〜旧請求項27の発明(本件請求項1〜請求項13の発明)は、上記先願明細書に記載された発明と同一である。
4.3 特許法36条違反の申立
申立人青木幾雄は、本件特許が、下記の理由で、特許法36条に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである、と主張する。
(申立人青木幾雄の申立理由)
本件特許請求の範囲には、少なくとも1つの抗体が「狭心症に特異的なマーカータンパク質」に合致するものとしているが、本件明細書の発明の詳細な説明の項には、「狭心症に特異的なマーカータンパク質」に合致する抗体について記載されていない。
5. 引用刊行物の記載事項
(1) 刊行物1(ヤ甲2)(青甲6)の記載事項
刊行物1は、表題「ミオグロビン、クレアチンキナーゼBアイソザイム、ミオシン軽鎖が不安定狭心症の患者血中にリリースされている」の学術論文である。次の事項が記載されている。
(1a) 要約:
「 安静時狭心症患者27人の7回連続の血清サンプル中の通常の血中クレアチンキナーゼ(CK)活性、心筋ミオシン軽鎖(CM-LC)、ミオグロビン(MG)およびCK-Bアイソザイムをラジオイムノアッセイにより測定した。CM-LCの測定可能な量が13人の患者のサンプルの少なくとも1つで検出された。それらの患者において、MGは9人、CK-Bは8人において上昇しているのが分かった。189の血清サンプルにおいて、CM-LC(21.7%)がMG(13.2%,P<0.05)又はCK-B(12.2%,P<0.05)より高い頻度で検出された。冠動脈造影図が27人中21人で得られた。マーカータンパク質濃度の上昇は、少なくとも一つの冠動脈の≧70%が冠動脈狭窄である患者にのみ見られた。3種のマーカータンパク質のいずれかの血中濃度が上昇する率は、1つまたは2つの血管疾患を持つ患者より3つの血管疾患を持つ患者の方が高く(33.9%vs15.6%,P<0.05)、以前に心筋梗塞の経歴のない患者より経歴のある患者の方が高かった(34.5%vs 11.4%,P<0.001)。
これらのことは、急性心筋梗塞の証拠が無いが安静時狭心症患者のサブグループにおいて、心筋の小さな領域の虚血によるダメージが高感度の血清学的アッセイにより検出されうろことを示している。検討したマーカータンパク質の中で、CM-LCがもっとも感度か良いことか示された。」
(1b) 不安定狭心症
刊行物1のTable 1及び2には、不安定狭心症患者における血清中のミオグロビン、CK-M、B及びミオシンL鎖の測定値が開示されている。
また、不安定・狭心症患者(以前に心筋梗塞を患った人も患っていない人も含めて)の血清中において、正常値以上のミオグロビンとクレアチンキナーゼ値、及び、健常人では、検出されないミオシンL鎖が検出されることが示されている。
(2) 刊行物2(青甲10)の記載事項
刊行物2には、試料中にCK-MBが検出されれば心筋梗塞を意味することが開示されている。
(3) 刊行物3(青甲1)の記載事項
刊行物3には、血清中のミオグロビン濃度、ミオグロビン抗体濃度及び循環免疫複合体レベルという3つの濃度をそれぞれ測定し、その測定値によって急性心筋梗塞であるか不安定狭心症であるかを鑑別診断する方法が開示されている。
(4) 刊行物4(ヤ甲1)の記載事項
刊行物4は、表題「新規なミオシン軽鎖アッセイを用いた心筋梗塞及び不安定狭心症の迅速診断」の学術論文である。次の事項が記載されている。
(4a) 心臓特異的なエンザイムイムノアッセイ
「 数分間で終了する高感度の心臓特異的なエンザイムイムノアッセイ(EIA)を68人の患者の心室筋ミオシン軽鎖1(HVLC1)の定量に用いた。68人のうち50人は心筋梗塞(MI)で、18人は不安定狭心症(UA)であった。200人の健常人において、96%はHVLC1が0.75ng/ml以下であった。患者の87%は胸痛(CP)発作の6時間前に現れた。HVLClはMIの患者の胸痛後1時間で57%、4時間で65%、8時間で76%に上昇した。CK、CK-MB、ASTは1時間で0%、4時間で5.3%、8時間で75%に上昇した。
(4b) 不安定狭心症(UA)の患者
UAの患者の83%で入院時にHVLC1が上昇していた。合併症が起こったり、緊急インターベンションが要求されたのは、HVLC1が持続的に上昇した(m=6.18ng/ml,SD=6.07ng/ml,n=6)患者の83%であったのに対し、低値(m=2.43ng/ml,SD=2.16ng/ml,n=12)であるか最初の24時間以上低下したレベルの場合では16.7%であった。これらの差異は統計学的に有意であると認められた(t=1.96,df=16,p=0.03)。」
(4c) 刊行物4論文の結論
「 我々の迅速なミオシン軽鎖のアッセイは、MIまたは不安定狭心症の早期及び後期の確定の手助けとなり、不安定狭心症患者の治療において予後の目安となる。」
(5) 刊行物5(青甲7)の記載事項
刊行物5には、CK-MBが心臓疾患のマーカーであることが示されている。
(6) 刊行物6(青甲8)の記載事項
刊行物6には、ミオグロビンが心臓疾患のマーカーであることが示されている。
(7) 刊行物7(青甲9)の記載事項
刊行物7には、ミオシンL鎖が心臓疾患のマーカーであることが示されている。
(8) 刊行物8(青甲11)の記載事項
刊行物8には、ミオシンH鎖タンパク質、トロポニン-Tが心筋損傷マーカーとなり得ることが示されている。
(9) 刊行物9(青甲12)の記載事項
刊行物9には、トロポミオシンが心筋損傷マーカーとなり得ることが示されている。
(10) 刊行物10(青甲13)の記載事項
刊行物10には、トロポミオシン、トロポニン-Iが心筋損傷マーカーとなり得ることが示されている。
(ll) 刊行物11(青甲14)の記載事項
刊行物11には、トロポニン-Tが心筋損傷マーカーとなり得ることが示されている。
(12) 刊行物12(青甲15)の記載事項
刊行物12には、ミオシンH鎖タンパク質が心筋損傷マーカーとなり得ることが示されている。
(13)〜(15) 刊行物13(ヤ甲3)〜刊行物15(ヤ甲5)の記載事項
刊行物13〜刊行物15には、短時間高速アッセイのための方法と装置(キット)が記載されている。
(16) 刊行物16(青甲2)の記載事項
刊行物16には、次の事項が記載されている。
(16a) 測定装置(5頁右下欄、11行〜17行)
特異的な結合検定法を用いて分析物の存否又は量を測定するための方法および装置を提供する。この装置は、その表面に液体試料を受け入れるための試料アプリケーション領域と、該表面のアプリケーション領域から横方向に距離をおいて存在する少なくとも1つの表示領域とを有する非吸収性の側方流動性膜を包含しており、表示領域には結合対の一方の成分が付着されている。
(16b) 結合対(8頁右下欄6行〜12行)
結合対としては特異的な抗原-抗体対が開示されている。
(16c) 複数の表示領域(6頁左下欄9行〜12行)
上記の膜は、対照領域および参照領域と共に、1つより多くの表示領域を含みうる。多重表示領域は、種々の分析物を検出するか、あるいは分析物を定量するように設計される。
(16d) 多重表示領域とアプリケーション領域(6頁左下欄12行〜15行)
膜自体は試料の流れに対して障壁を与えないので、多重表示領域はアプリケーション領域と間隔を置いた関係にある。
(16e) 1つ又はそれ以上の表示領域(7頁右下欄13行〜16行)
血液試料はアプリケーション領域に添加され、そして膜を通って1つ又はそれ以上の表示領域へ流れていくことができる。
(16f) 検出(6頁右下欄7行〜11行)
検出は、たとえば直接的な視覚観察、色の顕示・・・あらゆる他の多くの技術による。
(17) 刊行物17(青甲3)の記載事項
刊行物17には、臨床試料から幾つかの異なった抗原に対する抗体の存在を同時に検出する酵素結合ドットブロット(dot blot)免疫検定技術が記載されている(6頁左下欄16行〜18行参照)。
(18) 刊行物18(青甲4)の記載事項
刊行物18には、イムノアッセイにパネルフォーマットを用いることが示されている。
(19) 刊行物19(青甲5)の記載事項
刊行物19には、イムノアツセイにパネルフォーマットを用いることが示されている。
6.特許法29条違反の申立についての検討
6.1 請求項
特許された全27項の内、訂正により削除された14項については、訂正により削除された結果、取消理由としての対象でなくなった。
訂正されて残留している、本件請求項1〜13の各発明に係る特許について、前記申立を検討する。
6.2 ヤマサ醤油株式会社の申立4.1(1)について
(1) 本件発明の特徴
本件請求項1〜請求項13の発明の診断試験用キットまたはこれを用いる方法は、
(A)心筋梗塞と不安定狭心症とを鑑別するものであること、
(B)その鑑別のために、心筋の損傷により放出される3種以上のマーカータンパク質を測定するものであること、
(C)マーカーの測定のために、各マーカーに合致する抗体を使用すること、そして
(D)その3種以上の抗体は、固体担体上に支持されること
を必須の構成要素としている。
そして、本件請求項1〜請求項13の発明は、心筋の損傷により放出されるマーカー単独の使用では従来問題があったところ、少なくとも3種の異なる心筋損傷マーカーを組み合わせ測定することにより、不安定狭心症と心筋梗塞の早期段階において使用できるという、明細書記載の顕著な効果を奏するものと認めれる。
(2) 主引用刊行物の記載事項
これに対して、刊行物4(ヤ甲1)には、「新規なミオシン軽鎖アッセイを用いた心筋梗塞及び不安定狭心症の迅速診断」が記載されている。そして、マーカーとしてミオシン軽鎖以外に、CK、CK-MB、ASTを用いた測定が記載されているが、これらと比較してミオシン軽鎖アッセイが優れているとしているもので、3種以上のマーカーの測定値の組合せにより心筋梗塞であるか不安定狭心症であるかの鑑別を行うことは記載されていない。
そして、刊行物4(ヤ甲1)には、固体担体上に3種以上の抗体を有するキットについて記載されていない。
(3)他の引用刊行物の記載事項
刊行物1(ヤ甲2)には、心筋梗塞の兆候のない不安定狭心症の患者におけるMYO、CK-B、MLCの個々のマーカーの値の関係を示しているが、MLCが最も優れていることを示すもので、3つのマーカーの組合せにおいて、心筋梗塞と不安定狭心症とを鑑別することは開示されていない。
そして、刊行物1(ヤ甲2)には、固体担体上に3対以上の抗体を有するキットについて記載されていない。
また、刊行物13〜刊行物15(ヤ甲3〜ヤ甲5)には、免疫測定装置が記載されているが、固体担体上に3対以上の抗体を有するものではない。そして、心筋梗塞と不安定狭心症とを鑑別することも開示されていない。
(4) 検討結果
したがって、本件請求項1〜請求項13の発明は、刊行物4(ヤ甲1)、刊行物1(ヤ甲2)および刊行物13(ヤ甲3)〜刊行物15(ヤ甲5)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
6.3 青木幾雄の申立4.1(2)について
(1) 本件発明の特徴
本件発明の特徴については、前記6.2の(1)で述べたとおりである。
(2) 主引用刊行物の記載事項
これに対して、刊行物3(青甲1)には、血清中のミオグロビン濃度、ミオグロビン抗体濃度及び循環免疫複合体レベルという3つの濃度をそれぞれ測定し、その測定値によって急性心筋梗塞であるか不安定狭心症であるかを鑑別診断する方法が開示されている。
刊行物3(青甲1)の「3つの分析体」の内の後の2つの分析体は、心臓障害の経過において心筋より遊離されるマーカータンパク質ではない点で、刊行物3の発明は、本件請求項1〜請求項13の発明と本質的に異なる。そして、刊行物3(青甲1)には、3種のマーカーに対応する3種以上の抗体を有する固体担体についても記載されていない。
(3) 他の引用刊行物の記載事項
刊行物16〜刊行物18(青甲2〜青甲5)には、固体担体上に被検体抗原に対応する抗体を担持する分析装置が開示されている。複数の被検体に対して複数の抗体を担持することが示されている。しかし、心筋梗塞と不安定狭心症とを鑑別するためのキットないし方法は開示されていない。
刊行物1(青甲6)には、ミオグロビン、クレアチンキナーゼBアイソザイム、ミオシン軽鎖が、不安定狭心症のタンパクマーカーであることが記載されている。しかし、刊行物1(青甲6)では、各マーカーが単独で測定されるものであり、3種類のマーカーを組み合わせて単一のキットで測定するものではない。
刊行物2(青甲10)には、心筋梗塞のマーカーとしてCK-MBが開示されている。しかしながら、刊行物2(青甲10)には、心筋梗塞と不安定狭心症とを鑑別するために3種以上のマーカーを測定することは記載されていない。
刊行物5〜刊行物7(青甲7〜青甲9)には、心臓疾患のマーカーが記載されているが、心筋梗塞と不安定狭心症とを鑑別するために3種以上のマーカーを測定することは記載されていない。
刊行物8〜刊行物12(青甲11〜青甲15)には、心筋損傷のマーカーが記載されているが、心筋梗塞と不安定狭心症とを鑑別するために3種以上のマーカーを測定することは記載されていない。
(4) 検討結果
したがって、本件請求項1〜請求項13の発明は、刊行物3(青甲1)、刊行物16〜刊行物18(青甲2〜青甲5)、刊行物1(青甲6)、刊行物5〜刊行物7(青甲7〜青甲9)、刊行物2(青甲10)および刊行物8〜刊行物12(青甲11〜青甲15)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
6.4 特許法29条違反の申立の検討結果
そうすると、本件特許についての特許法29条違反の申立は、いずれも理由がない。
7.特許法29条の2違反の申立4.2について
先願として引用された上記国際出願は、優先日が1989年7月21日であり、その優先日は、本件特許の優先日よりも前である。そして、その公開日が1991年2月7日であり、本件特許の優先日より後である。
しかしながら、この引用国際出願は、外国語でされた国際出願であるのに、特許法184条1項の規定による翻訳文が提出されていないので、この引用国際出願は、特許法184条の4、3項の規定により、取り下げられたものとみなされる。
そうすると、この引用国際出願は、特許法184条の13の規定により、特許法29条の2の「他の出願」としては扱われない。
したがって、特許法29条の2違反の申立は理由がない。
8.特許法36条違反の申立4.3について
本件発明は、心筋損傷により放出される、少なくとも3種のマーカーを組合せ測定することにより、不安定狭心症と心筋梗塞とを鑑別することに関するものである(【0019】〜【0020】参照)。1種のマーカーによって、この鑑別をすることはできないことを前提とするものである。そうすると、本件明細書において、用語「狭心症に特異的なマーカー」は、単独で、不安定狭心症と心筋梗塞とを特異的に識別するマーカーを意味するものでないことはあきらかである。
そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明【0031】には、MLCが狭心症の特異マーカーであることが示されているといえる。
そうすると、本件特許は、特許法36条に違反する特許出願に対してされたものということはできない。
9.申立理由についての検討結果
前記6.〜8.で検討したように、本件特許異議申立の理由によっては、本件請求項1〜請求項13の各発明に係る特許を取り消すことができない。
10.むすび
前記2.で述べたとおり、本件訂正は、特許法120条の4、2項および3項の規定に適合する。
前記9.で述べたように、本件特許異議申立の理由によっては、本件請求項1〜請求項13の各発明に係る特許を取り消すことができない。
また、他に本件請求項1〜請求項13の各発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
診断試験用キットおよびこれを用いる方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 患者の胸痛か心臓異常に因るか否かを決定する場合、不定狭心症と心筋梗塞症との間の鑑別診断をするための診断用キットにおいて、
(i) 血液または血清試料を保持する容器と、
(ii) 該容器に連結する検出手段であって、a)互いに所定の位置にある固体担体上に別々に支持された3以上の単クローン性抗体または多クローン性抗体対で、各々の抗体対は心筋の損傷に際し心筋から放出される夫々異なったマーカータンパク質に合致する抗体であり、かつ試料に接触し得る各々の抗体は、少なくとも1つの抗体対か狭心症に特異的なマーカータンパク質に合致し、また少なくとも別の1つの抗体か心筋梗塞に特異的なマーカータンパク質に合致し、また更に別の少くとも1つの抗体は胸痛の初期兆候において狭心症と心筋梗塞とを識別するマーカータンパク質に合致し、而もb)抗体/タンパク質結合体が生成した場合夫々に独立して反応性があり、かつ不安定狭心症または心筋梗塞のいずれであるかを指示する応答をひとまとめにして提示するに必要な試薬とを有する不安定狭心症と心筋梗塞との間の鑑別診断をするための診断用キット。
【請求項2】 複合体の生成か可視色変化から明白である請求項1記載の診断用キット。
【請求項3】 試料を受け入れる試料ウインドーおよび試薬を表示するための表示ウインドーを有する正面パネル、裏面パネルおよび検出手段を正面パネルと裏面パネルとの間に挾んで一体化ユニットを形成する正面パネルと裏面パネルとを保護するための封入手段を有し、カート形態の請求項1記載の診断用キット。
【請求項4】 抗体の担体か乾燥化学膜である請求項3記載の診断用キット。
【請求項5】 膜が試料ウインドーから表示ウインドーへ延在しており、抗体と対応試薬とが表示ウインドー内の試料ウインドーから隔てられた位置に配置されている請求項3記載の診断用キット。
【請求項6】 容器か封止可能な透明容器であり、そして検出手段が容器の側面に設置されている請求項1記載の診断用キット。
【請求項7】 該抗体かつぎの3以上のタンパク質または酵素、即ちクレアチンキナーゼ、ミオグロビン、ミオシンL鎖タンパク質、ミオシンH鎖タンパク質、トロポミオシン、トロポニン、トロポニン-I、トロポニン-C、トロポニン-T、筋線維膜タンパク質、トリオースP-イソメラーゼ、またはクレアチンキナーゼ、ミオグロビンもしくはミオシンL鎖タンパク質の特徴および特性を有する低分子量心タンパク質に合致するものであって、一つかミオグロビンに合致し、他の一つかミオシンL鎖に合致するものである、請求項1ないし6記載の診断用キット。
【請求項8】 3つの抗体かクレアチンキナーゼ、ミオグロビンおよびミオシンL鎖タンパク質のいずれかに夫々合致するものである、請求項7記載の診断用キット。
【請求項9】 検出手段が血清中に通常見い出されるタンパク質と合致する対照抗体、および合致するタンパク質と反応する対照抗体に反応する試薬に対応し、それによって試験か機能していることを示しているものである請求項1ないし8のいずれか1つに記載の診断用キット。
【請求項10】 互いに所定の位置にある担体上または担体内に支持された3以上の単クローン性抗体または多クローン性抗体を含有し、各々の抗体が心筋の損傷時に心筋から放出される少なくとも3つのマーカータンパク質の異なった1つに合致するものである診断検出手段に、血液または血清試料を接触させ、次にそれらタンパク質の夫々かそれらタンパク質に対する夫々の抗体と結合する場合に、少なくともそれら抗体の1つが狭心症に特異的なマーカータンパク質に合致する抗体であり、また別の抗体の少なくとも1つか心筋梗塞に特異的なマーカータンパク質に合致する抗体であり、更に別の抗体の少くとも1つか胸痛の初期兆候において狭心症と心筋梗塞とを識別するマーカータンパク質に合致する抗体であるようにし、抗体と結合するか否かを検出する方法。
【請求項11】 マーカータンパク質と、それらの抗体との結合が可視的に検出される請求項10記載の方法。
【請求項12】 複数の単クローン性抗体または多クローン性抗体に合致するマーカータンパク質かクレアチンキナーゼ、ミオグロビン、ミオシンL鎖タンパク質、ミオシンH鎖タンパク質、卜ロポミオシン、卜ロポニン-I、トロポニン-C、トロポニン-T、筋細胞膜タンパク質、トリオース-P-イソメラーゼ、またはクレアチンキナーゼ、ミオグロビンあるいはミオシンL鎖タンパク質の特質および特性を有する低分子量心タンパク質の少なくとも3つを含有し、その少なくとも1つはミオグロビンであり、他の1つはミオシンL鎖である請求項10または11記載の診断用キット。
【請求項13】 該3つのマーカータンパク質がクレアチンキナーゼ、ミオグロビンおよびミオシンL鎖である請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】 本発明は、患者の胸痛か心臓性(cardic)の原因によるか評価し、さらに患者の胸痛の初期兆候において不安定狭心症(アンギナ)と心筋梗塞(「MI」)とを識別するための正確、簡単、迅速、かつ携帯可能な診断方法として用いられる、パネル形態の新規な一段診断試験に関する。特に、パネル試験は、酵素免疫サンドイッチ乾燥化学フォーマット(enzyme immunoassay sandwich dry chemistry format)を用いて、羅患中あるいは羅患痕の血清または血漿中に見出される3種のマーカーの血清または血漿レベルを同時に評価する。本発明の具体例としては、マーカーをクレアチンキナーゼ(CK)、ミオグロビンおよびミオシンL鎖(MLC)としている。
【0002】
【従来の技術】 心筋梗塞の早期診断は、医師の診断能力と、患者の症状、例えば、腕から頚に広がることもある 胸痛や胸部圧迫感、疲労感、死の恐怖、息切れ、蒼白、冷感、末梢チアノーゼまたは細脈(rapid thready pulse)のよう患者の症状とに頼っている。
【0003】 北米では胸痛を感じた患者のほとんどが、胸痛の発症後6時間以内に医師または緊急病院に出向いている。それ故、MIの初期段階において効果的な診断を行なうことが重要である。各種の心試験(cardiac test)がMIの診断に用いられている。これらの試験としては、ECG、SGOT/AST、LDH、CK-MB免疫検定、NAラテックス ミオグロビン粒子強化検定(Latex Myoglobin Particle Enhanced Assay)か挙げられる。しかし、救急班の医師が心臓由来の胸痛か否かを特定することができる単一の酵素心試験(enzyme cardiac test)は存在しない。また、心筋梗塞か確認されはじめ血栓阻止治療を開始することができる。治療の開始が早ければ早いほど、患者の全快可能性が高く、少なくとも心筋障害を最小に止めることができる。このために、医師にとって胸痛か心臓由来か否かを特定することか重要である。
【0004】 MIの診断に心電図(ECG)を用いることかできる。しかしECGでは、心臓が著しい障害を受けるまで診断ができない。胸痛の初期段階におけるECGの診断特定率は僅か51%にすぎない。従って、ECGはMIの初期診断には不適当である。血清グルタミンオキサルトランスアミナーゼ/アスパラギン酸トランスフェラーゼ(SGOT/AST)は心筋中に高濃度で見い出される特徴的な酵素である。SGOTのレベルを測定する血清試験を心筋梗塞の診断に用いることかできる。しかし、SGOTのレベルは、胸痛の発症から8〜10時間後にはじめて上昇し始め、24〜36時間で最高値となり、5〜7日後に平常値に戻る。胸痛の初期段階の緊急時においては、心筋梗塞の診断にSGOTはあまり有用でない。また、SGOTは心筋に特異的でない。SGOTは骨格筋や肝臓、腎臓などの多くの組織に存在し、筋肉注射やショックにより放出され、肝臓疾患や肝性うっ血の羅患中にも放出される。このため、特定の心臓組織の損傷の診断には有用性が少ない。
【0005】 乳酸脱水素酵素(LDH〉は心臓や骨格筋、肝臓などの多くの組織中に高濃度で見出される酵素である。血清中のLDHの存在を検出する試験は心筋梗塞の診断に用いられている。LDHには5つのコモンイソタイプがあり、心臓には主としてLDH1およびLDH2が含まれている。LDHレベルは、胸痛の発症後24〜36時間で上昇し始め、48〜72時間後に最高値となり、4〜8日後に正常値に戻る。それ故、LDHは患者の胸痛の早期段階におけるMIの指示例としては有用ではない。更に、LDHは心臓障害に特異的でなく、肺動脈塞栓症、ヘモリシス(haemolysis)、肝性うっ血、腎疾病および骨格筋損傷により放出される。このように心臓に特異的でないので、LDHの有用性が低くなる。
【0006】 クレアチンキナーゼ(CK)は筋肉組織中に見出される酵素である。CKは、クレアチンとアデノシン三リン酸(ATP)をホスホクレアチンとアデノシン二リン酸(ADP)に転化する触媒作用を有する。数種のCKイソエンザイムのうちCK-MBか心臓組織において見出される。CK-MBは、障害を受けた心筋組織から放出されるので、心筋梗塞の診断に敏感なマーカーである。CK-MBは放出された患者の血清中に残存する。図1は時間に関する患者血清中のCK濃度を示している(リーT.H.氏ほか「Ann.Intern.Med.」105,221〜233(1986))。
【0007】CK-MB免疫検定は心筋梗塞の標準的な診断試験法である。CK-MBを用いた診断方法は「CK-MM心筋梗塞免疫検定」と題する米国特許第4,900,662号明細書に開示されている。上記米国特許第4,900,662号明細書には心筋梗塞後の患者血清中のCK-MM-a、CK-MMのイソフォーム、およびCK-MM-aおよびCK-MM-bの初期の濃度レベル上昇を同時に測定する方法が開示されている。この方法によると、梗塞発症時点を正確に評価することができる。血清中のCK-MM-aとCK-MM-bの混合濃度、およびCK-MM-aの濃度を測定することにより心筋梗塞の急性期の時点が測定できる。試薬として、CK-MBやCK-MM-b、CK-MM-cとほとんど結合しないCK-MM-aの新規な多クローン性および単クローン性抗体;CK-MBやCK-MM-a、CK-MM-cとほとんど結合しないアンチ-CK-MM-b抗体;CK-MM-aとCK-MM-bには結合するが、CK-MBまたはCK-MM-cとはほとんど結合しないアンチ-CK-MM-a+b抗体;これらの抗体の標識誘導体;これらの抗体を付着する不溶性支持体;および1または2種以上の上記の試薬からなるキットが挙げられている。酵素標識および放射性標識(radiolabelled)されたCK試薬が特に有用である。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】 CK-MBを単独で診断マーカーとして用いるには問題がある。第1に、CK-MBの血清レベルは心筋梗塞発症後6〜8時間まで上昇せず、最高値となるのは12時間後である。このため初期の緊急診断、治療を行うことができない。第2に、CK-MB試験は熟練した研究技術者によって研究室にて行なわれる必要がある。郊外では早急に試験を行い結果を判読することが困難であり、診断の遅れや受診を待つ患者のための医療費の増大を招いている。
【0009】 第3に、CK-MBは通常の骨格筋組織中にも存在する。従って、試験は心臓に特異的でなく、診断は確かでない。ミオグロビンは骨格筋または心筋細胞膜の近くに存在する他のタンパク質である。細胞膜が異常に浸透性を増したとき、例えば、心筋虚血羅患中に可逆状態となったとき、ミオグロビンは細胞から容易に放出される。ミオグロビンは、胸痛の発症から1.5時間以内で血清中に検出できる。ミオグロビンは心筋壊死により放出されるので、心筋損傷の初期マーカーとして有用であると、医学研究団体は考えている。図2は時間に対する血清中のミオグロビンの濃度を示している(グレナディアーE氏ほか「Am.Heart J.」104,408〜416(1981);セグインJ.氏ほか「J.Thorac.Cardiovasc.Surg.」95,294〜297(1988))。
【0010】 胸痛の原因を診断する場合、血清ミオグロビンの増加が胸痛の発症後2〜3時間のうちに検出されない場合には、心筋梗塞は否定できる。NAラテックス ミオグロビン粒子強化検定はミオグロビンの検定用の一般に入手しうる検定キットである。検定は、ヒト体液に存在する抗原とポリスチレン粒子に共有結合したアンチミオグロビン抗体との反応に基づく。試料、Nミオグロビン試薬、非特異性反応を除去する溶液およびN反応緩衝液をピペットでキュベットに自動的に移す。12時間温めた後、光錯乱を比濁手段で測定し、ミオグロビン濃度を検量線から算出する。
【0011】 また、ミオグロビンは放射線免疫検定を用いて検定することもできるが、酵素結合免疫吸着剤検定(ELISA)フォーマットはまだ利用されていない。診断マーカーとしてミオグロビンを単独で用いるには問題がある。ミオグロビンによっては心筋梗塞などの心筋損傷のタイプを特定できない。ミオグロビンはまた、ショックや腎疾病、横紋筋融解症、ミオパシーなどの種々の条件で放出される。更に、血清や血漿中のミオグロビン濃度は、一般に年令や性別によって異なり、通常健康人でも広範囲にわたって変化する。健康人では一般に90μg/lの血清中濃度が上限とされている。従って、ある個人について通常のレベルが他の個人については容易にならぬ事態を示唆しているかもしれず、所望の診断精度が得られない。
【0012】 ミオシンL鎖(MLC)はミオシン筋原線維の一部分であるが、この機能は、まだ明らかでない。MLCは緩急の心房および心室の筋肉に存在する。MLCは心筋虚血に対して極めて敏感であることが知られている。MLCは血清中に速やかに生じ、そのレベルは心筋壊死後10日までの間、高いレベルで残留する。図3は時間に対する患者血清中のMLCの濃度を示している(ワングJ氏ほか「Clin.Chimica.Acta」181,325〜336(1989);ジャックオースキーG氏およびシメスJ.C氏ほか「Circulation Suppl.」1180,355(1989))。また、MLCは血栓治療の測定の予後値を示す。MLCの高い値は悪い予後を指示し、また著しい梗塞に相当する。数日にわたるレベルの降下は患者の回復傾向を指示するのに対して、スパイキングまたはスタジコパターンは梗塞傾向を示し治療(intervention)の必要性を指示する。
【0013】 MLCには主にMLC1とMLC2として知られる2つの主要タイプがある。これらは、梗塞細胞の細胞形質中の可溶性プール(soluble pool)として存在し、またミオシン筋原線維と一体化している。心室筋中では、MLC2、そしておそらくはMLC1も緩骨格筋中にあるイソタイプと同一である。MLC1は心臓痛を覚えた患者の80〜85%で上昇が見られる。MLC1は不安定狭心症や虚血性心臓疾患に極めて敏感な指標である。
【0014】 他の心マーカー(cardiacmarkers)としては、低分子量心タンパク質(LMWCP)がある。この心マーカーの例としては、収縮性器官の成分、すなわち、卜ロポニン、トロポニン-T、卜ロポニン-Iおよびトロポニン-C、トリオース-P-イソメラーゼ等のミトコンドリア酵素、心臓から放出されやすい低分子量ポリペプチド、並びに虚血発症後すぐに放出される筋細胞膜タンパク質またはタンパク質フラグメント、特に心特異性の15kd筋細胞タンパク質および100kd複合糖タンパク質を挙げることができる。
【0015】 心イソタイプ(cardiac isotype)トロポニン-Iは、心筋の収縮間の休止期間中、アクチン分子とミオシン分子との相互反応を抑制する。トロポニン-IはMI発症後4〜6時間で患者の血清中に現れ、7〜8日にわたり高い割合で残留する。図4は時間に対するトロポニン-Iの濃度を示している(クミンスB.;アウクランドM.L.;およびクミンスP.氏「Am.HeartJ.」113,1333〜1344(1987))。トロポニン-Iは心特異性であり、心筋損傷が骨格筋損傷かを鑑定するうえで他のマーカーに比べ極めて敏感である。
【0016】 トロポニン-Tは細いフィラメントのトロポニン-トロポミオシン複合体の一部であり、トロポミオシン骨格とトロポニン-I-卜ロポニン-C複合体との間の結合剤として作用する。トロポニン-Tは塩基性タンパク質であり、心筋、および緩急の骨格筋中にイソタイプがある。トロポニン-TはMI後血清中に3時間のうちに生じ、少なくとも10日にわたって高い割合で残留する。図5は時間に対するトロポニン-Tの濃度を示している(カツH.A氏ほか「J.Mol.Cell Cardiol.」21,1349〜1353(1989))。トポニン-Tは二相放出パターン(biphasic release pattern)に従う。トロポニン-Tは心特異性で、MIに極めて敏感である。
【0017】 ミオシンH鎖(MHC)およびトロポミオシンは心マーカーとして用いられる高分子量タンパク質である。MHCは筋肉の主要な収縮性タンパク質の一つである。MHCのフラグメントは、心筋細胞壊死やその後の不可逆性膜の損傷により心室から血清中に放出される。MHCフラグメントは心筋細胞壊死直後には血清中に出現しないが、MHCはMI発症後少なくとも10日間は高濃度で残留する。MHCの最高値はMI発症後4日後に観察される。図6は時間に対するMHC濃度を示している。(レガーJ.O.C.氏ほか「Eur.J.of Clin.Invet.」15,422〜429(1985);セグウインJ.R.氏ほか「J.Thorac.Cardiovasc.Surg.」98,397〜401(1989))。MHC放出曲線下の面積は心筋細胞の損傷の広まりと極めてよく相関する。しかし、MHCのレベルはMIの進行中にはあまり臨床的に有用でない。
【0018】 トロポミオシンは、筋収縮における調製システムの部分である2種のポリペプチドから形成した二量体である。トロポミオシンは、心筋梗塞後、約7〜8時間で血清中に検出され、CK-MBと同様、心筋梗塞に極めて敏感である。図7は時間に対するトロポミオシン濃度を示している(クミンスP氏ほか「Clin.Sci.」60,251〜259(1981))。しかしながら、トロポミオシは骨格筋損傷でも高値を示し特異的ではない。
【0019】 現在の標準的な心筋梗塞診断方法には限界がある。胸痛の発症後すぐに、翌えば救急車や病院で実施できる高感度で正確、迅速、簡単な診断試験は開発されていない。本発明は、胸痛の発症後早期に患者の血液や血漿中に現れる、少なくとも3種の異なる心筋損傷マーカーを組合わせ測定することにより、不安定狭心症とMIの早期段階において使用できる心筋梗塞の改良診断方法を提供するものである。
【0020】
【課題を解決するための手段】 本発明は従来技術の欠点を解決するために、患者の血清中の少なくとも3種の心筋損傷により摘出されるマーカーを検出する、緊急時に用いる一段階で、正確、迅速かつ携帯できるパネル診断試験を提供するものである。試験結果から、患者が不安定狭心症にかかっているか否か、または心筋梗塞か否かを鑑別できる。MIの早期診断は血栓阻止治療を早期に始めることを可能とする。それ故、心臓損傷を最小に止めることができ、患者の生存率を高めることができる。パネル試験の結果により、初期症状から数日後でも、不安定狭心症と心筋梗塞とを識別することができる。パネル試験は酵素免疫検定サンドイッチドライケミストリー(以下乾燥化学という〉フォーマットを利用する。パネルによる一連の測定により、医師は、心筋損傷の範囲および血栓阻止の成功に関する予後を知ることができる。本発明の具体例としては、3種のマーカーはクレアチンキナーゼ(CK)、ミオグロビンおよびミオシンL鎖(MLC)である。
【0021】 本発明を利用することにより、心筋梗塞を患者の胸痛の早期兆候において検出する試験診断用キットが得られる。試験用キットは、血液または血清を保持する容器と、試料に連結する検出手段とからなる。検出手段は、キャリヤー(担体)に担持されている少なくとも3種の単クローン性抗体または多クローン性抗体であって、各々が心筋梗塞の初期段階に心筋により放出される異なるタンパク質に相補(以下合致という)する抗体と、合致タンパク質と反応する各抗体に各々応答する対応試薬とを含んでいる。
【0022】
【実験例】 次に、本発明を添付図面に基づいて説明する。本発明の概要を図8に示す。好適例では、本発明のキットはパネルフォーマット1からなる。パネルフォーマットとしては公知の市販のものを用いることができる。このパネルフォーマットは妊娠試験に一般に用いられているフォーマットと似たもので、商標登録「BIOSIGN」として一般に入手できる。
【0023】 パネルは正面パネル10および裏面パネル12を有するポリプロピレン カードからなる。図9に示すように、正面パネル10は各心マーカーについての表示ウインドー14および試料ウインドー16を有している。正面パネル10の下には露出乾燥化学膜18があり、この膜18は正面パネル10の背後に適当な手段で固定されている。裏面パネル12にはリップ20が設けられている。このリップ20は正面パネル10をスナップ止めできるように裏面パネル12の周辺に延在し、これにより膜18を正面パネルと裏面パネルとの間にシールしている。
【0024】 正面パネルおよび裏面パネルは共にスナップ止めするように記載しているが、当業技術者に知られている両パネルを接合する他の多くの適当な方法を用いることができる。正面パネル10には患者の氏名や身元を記載するための領域13を設けることもできる。更に試験結果を記載できるスペースもある。図10に示すように、膜18は単クローン性または多クローン性抗体のキャリヤーである。好適例においては、血液または血漿は一端から他端に矢印で示すように流れる。端部22は試料ウインドー16と一列に並んでいる。固定捕捉された抗体26は抗体一酵素抱合体24と積層または結合されている。この抱合体24は抗体26により認識される以外の抗原の異なるエピトープに対して選ばれる。抗体26はミオグロビンタンパク質に合致(complementary)する。同様に、抗体30は対応試薬28に積層されている。抗体30はCK-MBに合致する。同様に、抗体34は試薬32に積層されている。抗体34はミオシンL鎖に合致する。抗体38は正常な血清または血液に見出されるいかなるタンパク質にも合致する。抗体38は試薬36に積層されている。
【0025】 単クローン性および多クローン性抗体は、多クローン性抗体の生成に用いられる任意の哺乳動物を用いた通常の方法によって生成することができる。好適例では、標識試薬を用いる。抗体標識は標識化され、または識別可能なモイエティー(moiety)と化学的に結合される。モイエティーは、血清や血液中または乾燥化学膜上の抗体の存在を確認し定量するために観測・計量できるものである。診断具として用いられる本発明の抗体と結合するリガンドや基は、それらと結合する抗体から識別できるような物理的化学的性質を有する元素、化合物または生物学的物質を含んでいる。
【0026】 各心マーカー毎に、モノ/ポリ、ウサギ/ポリ、ヤギ/ポリの少なくとも2種の抗体が必要である。抗体をその特異的心免疫原に対して親和精製(affinity purified)し、次いで非関連種に対して交差吸収することにより更に精製して、非特異的免疫グロブリンを除去する。使用の際には、診断医、例えば医師や救急技師、看護婦が患者の血清または血液を3滴または100ml以下試料ウインドー16に加える。試料は、毛細管現象により膜18に沿って移動し、試薬と抗体の対24と26、28と30、32と34、36と38に順次接触する。
【0027】 特定のマーカーが試料中に存在する場合、そのマーカーは膜に固定された抗体に結合する。また、対応試薬にも反応し、試薬の色の変化によって視覚化される。色の変化は試料におけるマーカーの濃度に比例する。それ故、試験用キットを時間において用いる場合には、マーカー濃度の増減を測定することができ、診断に用いることができる。試験は3〜5分内で完了する。
【0028】 好適例では、試料中に存在する各心マーカーを青色バンドによって示す。バンドの色の強度は反射計によって定量できる。これにより色の強度と特定マーカーの濃度レベルとを対応付ける。反射計にはマイクロプロセッサーを設け、パネル中の各心マーカーの定量結果を患者別に各マーカーの濃度としてプリントアウトすることができる。
【0029】 試験は、3滴または100μl未満の血清または血漿を用い、試験間の精度計数の変化と試料間の精度計数の変化が15%以下で、0.5ng/ml〜25ng/mlのマーカー濃度に敏感となるようにすることが好ましい。マーカーの特性によって試験に用いられる心マーカーが選ばれる。好適例では、図8に示すように、ミオグロビン、MLCおよびCK-MBを有するパネルが用いられている。
【0030】 ミオグロビンは心筋細胞から極めて容易に放出され、心特異的ではないが、心筋梗塞つまり心筋壊死に極めて高い敏感さを有しており、壊死が起こらない程度の酸素欠乏によっては放出されない。MLCは心特異的であり、胸痛が心臓由来か否かの鑑別を可能とし、容易に放出される。しかし、ミオグロビンほど容易に放出されない。CK-MBは心筋梗塞と狭心症とを鑑別できるが、胸痛の発症後約6時間経過しないと検出できず、このために緊急診断試験として、単独で用いることができない。
【0031】 図1、2および3に示すように、使用する心マーカーがCK-MB、ミオグロビンおよびMLCである場合には、以下の試験結果の解釈により診断できる。パネル試験結果がMLCについてポジティブでありミオグロビンおよびCK-MBについてネガティブである場合、患者の胸痛が心臓由来のものであり不安定狭心症が原因であることを示唆する。
【0032】 ミオグロビンおよびMLCがポジティブであり、CK-MBがネガティブである場合には、初期の心筋梗塞の進行を示唆し、治療を開始することができる。3種のマーカーすべてがポジティブである場合には、心筋梗塞を示唆する。
【0033】 MLCおよびCK-MBがポジティブで、ミオグロビンがネガティブである場合には、心筋梗塞を示唆する。ミオグロビンおよびCK-MBがポジティブでありMLCがネガティブである場合には、患者は骨格筋損傷を有する(偽陽性)か心筋梗塞に羅患している。
【0034】 MLC放出曲線が時々僅かな下降を有しているため、患者が僅かな心内膜下梗塞を有している場合であっても「下降(dip)」時に試験された可能性があるので、この場合試験は偽陽性と「僅かな」心筋梗塞とを識別することができない。梗塞が僅かな場合には、「下降」はほとんど正常レベルにまで下がり、それ故、患者はMLCについてネガティブを示すことがある。CK-MBの存在によってポジティブ診断を行うことととなる。
【0035】 患者が著しい心筋梗塞を有する場合には、MLCレベルにおける「下降」は正常レベルにまで下がるほど大きくはなく、それ故MLCはそのまま検出される。他の実験例では、試験パネルとして同様のフォーマットで異なる抗体の組み合わせを用い、異なる心マーカーを評価することができる。パネル試験により、患者の胸痛の初期段階における心臓組織の損傷を検出できるようにするため、CK、ミオシンL鎖またはミオグロビンのような心筋障害の初期段階において多量に摘出されるマーカーに対応する少なくとも1種の抗体を用いる必要がある。また、CK、ミオシンL鎖またはミオグロビンの特質および特性を有する低分子量心タンパク質をキットに用いることもできる。
【0036】 適当なタンパク質および酵素としては、卜ロポニン、トロポニン-I、トロポニン-C、トロポニン-Tおよび筋細胞膜タンパク質、トリオースフォスフェート(以下P-という)イソメラーゼ、またはクレアチンキナ-ゼ、ミオグロビンもしくはミオシンL鎖の特質および特性を有する任意の高分子量心タンパク質から選択することができる。また、トロポミオシンおよびミオシンH鎖のような他のタンパク質をキットに加えることができる。この場合、胸痛から長時間を経過したMIの後期段階であってもキットをMIの診断に用いることができる。
【0037】 第2実験例では、膜18に補捉された抗体126と対応試薬124の層を設けることができる。同様に、各マーカーを検出することができるように、対応試薬と抗体の対128と130、132と134、および対照対136と138を設ける。使用の際には、上述のように試料を各対に接触させてその結果を読み取る。
【0038】 乾燥化学膜118は吸収性材料120により支持することもできる。吸収性材料120により膜を通る血清の摘出が向上する。試験キットの他の実験例として、一般に用いられている血液試料管が用いられる。管の内壁を単クローン性および多クローン性抗体と試薬の支持体として用いることができる。試験者が単に管を振るだけで抗体と血液とを反応させることができる。血液中に心臓性タンパク質がある場合、上述のように色の変化が生じる。
【0039】 上述において、本発明の好適例を記載したが、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。本明細書および特許請求の範囲に記載された発明の本旨を逸脱しない限り、様々な変更を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 時間に対する血清中のCKのレベルを示すグラフである。
【図2】 時間に対する血清中のミオグロビンのレベルを示すグラフである。
【図3】 時間に対する血清中のMLCのレベルを示すグラフである。
【図4】 時間に対する血清中のトロポニン-Iのレベルを示すグラフである。
【図5】 時間に対する血清中のトロポニン-Tのレベルを示すグラフである。
【図6】 時間に対する血清中のMHCのレベルを示すグラフである。
【図7】 時間に対する血清中のトロポミオシンのレベルを示すグラフである。
【図8】 本発明の診断試験キットの1例構造を示す表面図である。
【図9】 図8に示す構造の分解図である。
【図10】 図8に示すキット構造の膜の斜視図である。
【図11】 図10に示す膜の変形構造の斜視図である。
【符号の説明】
1 パネル フォーマット
10 正面パネル
12 裏面パネル
14 表示ウインドー
16 試料ウインドー 18 膜
20 リップ
22 端部
24 抗体-酵素抱合体(試薬)
26 固定捕捉抗体
30,34,38,126,134 抗体
28,32,36,128,132 試薬
118 膜
120 吸収性材料
136,138 対照対
 
訂正の要旨 訂正の要旨
(1) 特許請求の範囲の減縮を目的として、下記訂正事項aについて訂正する。
(2) 明りょうでない記載の釈明を目的として、下記訂正事項b〜eについて訂正する。
(3) 誤記の訂正を目的として、下記訂正事項f〜lについて訂正する。
訂正事項a:請求項の削除、整列
第3、6、8、9、11、12、16、17、20、21、22、25、26、27項を削除。
残りの項番号を整列、即ち第4、5、7、10、13、14、15、18、19、23、24項を夫々第3〜13項に訂正
訂正事項b:請求項1
請求項1に「患者の胸痛が心臓異常に因るか否かを決定する場合、」を挿入
訂正事項c:請求項1、請求項10(旧18項)
請求項1および請求項10(旧18項)に、「更に別の少くとも1つの抗体」が「胸痛の初期兆候において狭心症と心筋梗塞とを識別するマーカータンパク質に合致」するものであることを挿入
訂正事項d:請求項1
請求項1の「3以上の単クローン性抗体または多クローン性抗体」を「3以上の単クローン性抗体または多クローン性抗体対」に訂正。
訂正事項e:請求項2
請求項2の「合致するタンパク質と反応する各抗体に応じて該試薬によりもたらされる応答が可視色変化示される」を「複合体の生成が可視色変化から明白である」に訂正。
訂正事項f:請求項1
請求項1の「検知」を「検出」に訂正する。
訂正事項g:請求項1
請求項1の「単体」を「担体」に訂正する。
訂正事項h:請求項4(旧5項)
請求項4(旧5項)の「キャリヤー」を「担体」に訂正する。
訂正事項i:請求項7(旧13項)
「低分子量心タンパク質であって」を「低分子量心タンパク質に合致するものであって」に訂正。
訂正事項j:請求項12(旧23項)
「低分子量心筋タンパク質」を「低分子量心タンパク質」に訂正
訂正事項k:【発明の詳細な説明】
【0002】第3行目、「抹消」を「末消」と訂正。
【0012】第6行目、「ヤコワスキー」を「ジャックオースキー」と訂正。
【0013】第4行目、「胸痛」を「心臓痛」と訂正、
第6行目、「指示剤」を「指標」と訂正。
【0014】第3-4行目、「トロオースPイソメラーゼ」を「トリオース-P-イソメラーゼ」と訂正し、
第5行目、「筋細胞膜」の次に「(筋線維膜)」を加入する。
【0017】第7行目、「Chin」を「Clin」と訂正。
【0021】第3行、「キャリヤー」の後に「(担体)」を加入。
【0024】第8行目、「抗体24」を「抗体26」と訂正。
第9行目、「酵素抱合体26」を「酵素抱合体24」と訂正し、「抱合体26」を「抱合体24」と訂正し、「抗体24」を「抗体26」と訂正。
第10行目、「抗体24」を「抗体26」と訂正。
第10-l1行目、「ミオシン」を「ミオグロビン」と訂正。
第11行目、「抗体28」を「抗体30」と訂正し、「対応試薬30」を「対応試薬28」と訂正。
第12行目、「抗体28」を「抗体30」と訂正し、「抗体32」を「抗体34」と訂正し、「試薬34」を「試薬32」と訂正。
第13行目、「抗体32」を「抗体34」と訂正し、「抗体36」を「抗体38」と訂正。
第14行目、「抗体36」を「抗体38」と訂正し、「試薬38」を「試薬36」と訂正。
【0026】第6行目、「ウインドウ」を「ウインドー」と訂正。第7行目、「抗体」を「試薬」と訂正し、「試薬」を「抗体」と訂正。
【0030】第4行目、第5行目、「識別」を「鑑別」と訂正。
【0033】最下行、「が」を「か」と訂正。
【0036】第1-2行目、「トロポニ-C」を「トロポニン-C」と訂正し、
第3-4行目、「または」を「もしくは」と訂正。
【0037】第1行目、「実施例」を「実験例」、「補促」を「捕捉」と夫々訂正し、「抗体124」を「抗体126」と訂正し、「対応試薬126」を「対応試薬124」と訂正。
第2行目、「抗体」を「対応試薬」と訂正し、「対応試薬」を「抗体」と訂正。
【0038】第1行目、「吸収性材」を「吸収性材料」と訂正、「吸収材」を「吸収性材料」と訂正。
訂正事項1:【図面の簡単な説明】の【符号の説明】
「24 固定捕捉抗体」を「26 固定捕捉抗体」と訂正し、
「26 抗体-酵素抱合体(試薬)」を「24 抗体-酵素抱合体(試薬)」と訂正し、
「28,32,36,128,132 抗体」を「28,32,36,128,132 試薬」と訂正し、
「30,34,38,126,134 試薬」を「30,34,38,126,134 抗体」と訂正。
異議決定日 1999-09-30 
出願番号 特願平3-262301
審決分類 P 1 651・ 121- YA (G01N)
P 1 651・ 16- YA (G01N)
P 1 651・ 532- YA (G01N)
最終処分 維持  
前審関与審査官 亀田 宏之  
特許庁審判長 伊坪 公一
特許庁審判官 市川 信郷
河原 英雄
登録日 1997-04-18 
登録番号 特許第2628421号(P2628421)
権利者 スペクトラル ダイアゴノスティックス インコーポレイテッド
発明の名称 診断試験キットおよびこれを用いる方法  
代理人 古関 宏  
代理人 三宅 正夫  
代理人 三宅 正夫  

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