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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 E01D |
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管理番号 | 1009083 |
異議申立番号 | 異議1998-74241 |
総通号数 | 8 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1993-08-03 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 1998-09-01 |
確定日 | 1999-11-29 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第2720685号「可動フェアリング型耐風構造」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第2720685号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 |
理由 |
I.手続きの経緯 本件特許第2720685号に係る発明は、平成4年1月21日に出願され、平成9年11月21日にその特許の設定登録がされ、その後、平成10年9月1日に川崎重工業株式会社より、特許異議の申立てがなされ、平成11年7月21日(起案日)に取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成11年10月1日に特許異議意見書提出と共に訂正請求がなされたものである。 II.訂正請求について 1.請求の趣旨及び訂正事項 訂正請求の趣旨は、特許第2720685号の明細書を請求書に添付した訂正明細書のとおり訂正することを求めるものであり、そして、その訂正事項は、以下(1)〜(3)のとおりのものである。 (1)訂正事項a 特許請求の範囲を、下記の通り訂正する。 「【請求項1】長尺構造物の長手方向に直角な断面で最短寸法方向に直交する長寸法方向を幅方向とするとき、該幅方向の気流による長尺構造物の揚力変動を抑制する長尺構造物の耐風構造において、前記断面の形状を幅方向に流線形化するフェアリング面の少なくとも一部を構成し、前記長尺構造物に対し可動に取付けた気流案内部材と、該案内部材を移動する移動手段とを備え、前記断面の形状を気流の向きに応じて気流の上流側と下流側で変化させることを特徴とする可動フェアリング型耐風構造。 【請求項2】請求項1の可動フェアリング型耐風構造において、前記気流案内部材を前記長尺構造物に対して幅方向に移動可動に取付け、該案内部材を幅方向に移動して前記断面の形状を気流の上流側と下流側で非対称にすることを特徴とする可動フェアリング型耐風構造。 【請求項3】請求項1、2いずれかの可動フェアリング型耐風構造において、前記気流案内部材が前記長尺構造物に対して回動可能に取付けられ、気流の上流側に位置する案内部材と気流の下流側に位置する案内部材の少なくとも一方を厚み方向の一方の側に回動して斜めに傾斜させることを特徴とする可動フェアリング型耐風構造。」 (2)訂正事項b 特許明細書の段落【0011】の【課題を解決するための手段】の記載を下記の通り訂正する。 「 【0011】 【課題を解決するための手段】 請求項1の可動フェアリング型耐風構造は、長尺構造物の長手方向に直角な断面で最短寸法方向に直交する長寸法方向を幅方向とするとき、該幅方向の気流による長尺構造物の揚力変動を抑制する長尺構造物の耐風構造において、前記断面の形状を幅方向に流線形化するフェアリング面の少なくとも一部を構成し、前記長尺構造物に対し可動に取付けた気流案内部材と、該案内部材を移動する移動手段とを備え、前記断面の形状を気流の向きに応じて気流の上流側と下流側で変化させるものである。」 (3)訂正事項c 特許明細書の段落【0030】及び段落【0031】の「ロープR」を、「ロープI」と訂正する。 2.訂正の要件の適否 2-1.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否 (1)訂正事項aは、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1に「断面の形状を気流の上流側と下流側で変化させる」とあるを「断面の形状を気流の向きに応じて気流の上流側と下流側で変化させる」と「気流の向きに応じて」という事項を付加したものであるから、特許請求の範囲の請求項1の減縮を目的とするものと認められる。そして、訂正事項aは、願書に添付した明細書の発明の詳細な説明の段落【0014】【作用】には、「請求項1の可動フェアリング型耐風構造では、気流の上流側と下流側の少なくとも一方でフェアリングの断面形状または姿勢を変化させ、これにより、長尺構造物の長手方向に直角な断面の周囲における流線の形状を制御し、気流の状態を安定化して長尺構造物に対する加振力を抑制する。」及び段落【0052】【発明の効果】には、「請求項1の可動フェアリング型耐風構造によれば、長尺構造物が幅方向の強風に曝される前に、予測される気流の向きに最適な断面形状(幅方向と厚み方向を含む)を予め長尺構造物に準備でき、長尺構造物が突然に幅方向の強風に曝された場合でも、長尺構造物の振幅が余り拡大しないうちに、この断面形状を最適な状態に調整し直して、振幅のさらなる拡大を抑制できる。」と記載されているから、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。 (2)訂正事項bについては、上記訂正事項aの特許明細書の特許請求の範囲の請求項1の訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るための訂正で、明りようでない記載の釈明を目的とするものと認められ、また、上記(1)訂正事項aで述べたように、該訂正は願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。 (3)訂正事項cについては、符号の「R」は、路面を表し、ロープは図1の「I」であることは【図面の簡単な説明】の【符号の説明】を参酌しなくても明らかであるから、該当個所における「ロープR」は、「ロープI」の明らかな誤記と分かるものであるから、明細書に記載した事項の範囲内の訂正ということができ、それにより特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。 2-2.独立特許要件についての判断 (訂正明細書の請求項1〜3に係る発明) 本件訂正明細書の請求項1〜3に係る発明は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された事項より構成される次のとおりのものである。 「【請求項1】長尺構造物の長手方向に直角な断面で最短寸法方向に直交する長寸法方向を幅方向とするとき、該幅方向の気流による長尺構造物の揚力変動を抑制する長尺構造物の耐風構造において、前記断面の形状を幅方向に流線形化するフェアリング面の少なくとも一部を構成し、前記長尺構造物に対し可動に取付けた気流案内部材と、該案内部材を移動する移動手段とを備え、前記断面の形状を気流の向きに応じて気流の上流側と下流側で変化させることを特徴とする可動フェアリング型耐風構造。 【請求項2】請求項1の可動フェアリング型耐風構造において、前記気流案内部材を前記長尺構造物に対して幅方向に移動可動に取付け、該案内部材を幅方向に移動して前記断面の形状を気流の上流側と下流側で非対称にすることを特徴とする可動フェアリング型耐風構造。 【請求項3】請求項1、2いずれかの可動フェアリング型耐風構造において、前記気流案内部材が前記長尺構造物に対して回動可能に取付けられ、気流の上流側に位置する案内部材と気流の下流側に位置する案内部材の少なくとも一方を厚み方向の一方の側に回動して斜めに傾斜させることを特徴とする可動フェアリング型耐風構造。」 (刊行物1〜3(甲第1〜3号証)記載の発明) 特許異議申立人が甲第1号証として提出し、取消理由で刊行物1として引用した「航空技術 1986年5月号 第374号(昭和61年5月1日)社団法人日本航空技術協会p.17-23」(以下、「刊行物1」という。)には、 「このフラッタを防止する対策として,……ACTのフラッタヘの適用ともいうべき能動フラッタ抑制技術です。これは,翼の運動を検出するセンサーからの信号をフィードバックして操舵面を駆動し,その発生する空気力によって翼を安定化したり,ダンピングを増したりする技術です。」(第20頁右欄第24行〜第21頁第6行)及び「フラッタ制御として、航空機の翼の先端側部分の前端部と後端部とをAFC舵面とすること。」(第21頁図4)という発明が記載され、 同じく、甲第2号証として提出し、取消理由で刊行物2として引用した「“Journal of Guidance and Control 1978年1-2月号 Volume1,Number1”p.32-40」(以下、「刊行物2」という。)には、 「フラッタは、構造体の振動と空力力との相互作用によって発生する非定常運動であって、気流のエネルギーを導入することで発生する。……アクティブ・フラッタ・コントロールの諸法則がこうした技術を用いて定式化されてきた。……」(第33頁左欄“Introduction”)及び 「3次元フレキシブル翼は、翼に作用する非定常圧力分布から導かれる、不均一外力項を有する複数の偏微分方程式でもって記述することができる。圧力分布は、線型化された非定常空力偏微分方程式を解くことで決定することができる。 ……解析対象の典型的断面が図1に示されており、その典型的断面には、リーディグ側とトレーリング側のコントロール面が設けられ、これらは空力的にはアンバランスな状態になっており(りーディグ端とトレーリング端にはヒンジラインがある)、それにより空気力学の記述が簡単になっている。 プランジhとピッチαの自由度の運動を規制する為に、リニアなねじりスプリング(KhとKα)が断面弾性軸に作用し、ねじり規制スプリング(KβとKγ)がコントロール面ヒンジラインに作用している。全ての線型座標軸(x,z,h)は、半翼弦bでもって無次元化されている。」(33頁左欄の“Generalized Unsteady Aerodynamics”の欄及びFig.1)という発明が記載され、 同じく、甲第3号証として提出し、取消理由で刊行物3として引用した「B.Laschka and R.Staufenbiel 編“ICAS PROCEEDINGS 1984”(1984年9月) p.243-248」(以下、「刊行物3」という。)には、 「設計基準に変更を加えてキャンバーを固定的に修正することにより、空力的標準、例えば、リフト/ドラグ比を著しく改善することができる。さらに、buffet-onsetやドラグ・ダイバージェンス・マッハ数等の限界値をのばすことが可能になる。 こうした研究が、可変キャンバー翼の概念に発展してきた(図1参照)。 全翼弦にわたってキャンバー修正を可能とする可撓性スキンは、今日の材料と製作技術の観点から実際的な解決策ではない。そのため、ここに紹介するコンセプトにおいては、既存の高揚力装置とコントロール面だけが、所要のキャンバー変化を得る為に用いられている。 図1に示すように、翼のトレーリング端をセグメントI〜IVに分割した分割体が、スパン全長にわたるキャンバー変化を可能にする。さらに、リーディング端デバイスを用いる場合には、そのリーディング端デバイスは、トレーリング端における分割体に対応するものを備えることが必要である。 リーディング端の為の設計原理は図2に示されている。外形の下部の面に部分的に可撓性のある補助フラップを適用することで解決しており、その補助フラップにより巡航時や離陸姿勢のときにスロットの発生を防止する。さらに、この解により、離陸性能や着陸性能も改善される可能性がある。しかし、非常に複雑な構造であるため、実用化は簡単ではない。 図3には、翼のトレーリング端に可動片を設けて、可変キャンバーを可能にする原理が示されている。この場合、フラップとスポイラー/エアプレーキとを対応させて作動させることで、適した大きさのキャンバーにすることができる。 ある形式のフラップシステムの為には、限られたfowler travelを受け入れることが必要で、それにより翼面積の増大に起因する追加的な作動の柔軟性アップが得られる可能性がある。 それに関連して行った研究によれば、リーディング端及びトレーリング端デバイスを組み合わせて調節することにより、最適の結果が得られる。」(第243頁右欄〜第244頁右欄“II0,The Variable Camber Wing Concept”及びFIG.1〜3)という発明が記載されている (対比・判断) 本件訂正明細書の請求項1に係る発明と刊行物1記載の発明とを比較すると、 刊行物1記載の発明の「翼」は、本件訂正明細書の請求項1に係る発明の「長尺構造物」に相当し、刊行物1記載の発明の「航空機の翼の先端側部分の前端部と後端部とをAFC舵面とすること」は、その構造により、翼の長手方向に直角な断面で最短寸法方向に直交する方向を幅方向とするとき翼の揚力変動を安定、抑制する耐風構造となることは、自明な事柄であるから、結局本件訂正明細書の請求項1に係る発明の「長尺構造物の長手方向に直角な断面で最短寸法方向に直交する長寸法方向を幅方向とするとき、該幅方向の気流による長尺構造物の揚力変動を抑制する長尺構造物の耐風構造」であるということができ、そして刊行物1記載の発明の「舵」は、本件訂正明細書の請求項1に係る発明の「気流案内部材」に相当しているから、本件訂正明細書の請求項1に係る発明と刊行物1記載の発明とは、以下の点で相違しているが、その余の点では、実質上一致していると認められる。 相違点 本件訂正明細書の請求項1に係る発明は、気流案内部材と、該案内部材を移動する移動手段とを備え、断面の形状を気流の向きに応じて気流の上流側と下流側で変化させるのに対して、刊行物1記載の発明には、この構成が記載されていない点。 そこで、上記相違点を検討すると、 本件訂正明細書の請求項1に係る発明の、上記相違点における「気流案内部材と、該案内部材を移動する移動手段とを備え、断面の形状を気流の向きに応じて気流の上流側と下流側で変化させる」とは、特許明細書の発明の詳細な説明の記載よりみて、気流の上流側と下流側を判別し、すなわち長尺構造物の長手方向に直角な幅方向に対する気流の方向が左右いずれの方向であるかにより、上流側と下流側で気流案内部材の断面形状を変化させ、長尺構造物の長手方向に直角な断面形状を変化させることを意味しているものと解釈でき、当然に、気流の向きが逆方向になった場合には、上流側に適した形状であったのを下流側に適した形状に、下流側に適した形状であったのを上流側に適した形状にそれぞれ変化させるものである。 これに対して、刊行物1記載の発明の他、刊行物2、3記載の発明のいずれも、長尺構造物である翼の長手方向に直角な幅方向に対する気流の方向は、翼の前端側から後端側に流れる方向で、一定しており、翼の後端側から前端側へ流れるものでないから、本件訂正明細書の請求項1に係る発明の上記相違点における事項「断面の形状を気流の向きに応じて気流の上流側と下流側で変化させること」を具備しているとは、いえない。 そして、本件訂正明細書の請求項1に係る発明は、上記相違点における事項を構成要件とすることにより、特許明細書の発明の詳細な説明に記載の刊行物1〜3記載の発明からは期待できない作用、効果を奏するものと認められる。 したがって、本件訂正明細書の請求項1に係る発明は、刊行物1〜3記載の発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるとすることができない。 そして、本件訂正明細書の請求項2、3に係る発明は、本件訂正明細書の請求項1に係る発明を引用するものであるから、上記本件訂正明細書の請求項1に係る発明についてした上記対比・判断のとおり、甲第1〜3号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるとすることができない。 また、本件訂正明細書の請求項1〜3に係る発明は、他に特許を受けることができないとする理由も発見できないから、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。 3.むすび 以上のとおりであるから、上記訂正請求は、平成6年法律第116号附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によって適用される特許法第120条の4第2項及び同条第3項で準用する第126条第2項乃至第4項の規定に適合し、当該訂正は認められる。 III.特許異議申立てについて 1.本件請求項1〜3に係る発明 本件訂正明細書の請求項1〜3に係る発明(以下、「本件請求項1〜3に係る発明」という。)は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜3に記載されたもので、前記IIの「2-2.独立特許要件についての判断」の「(訂正明細書の請求項1〜3に係る発明)」に記載したとおりのものである。 2.特許異議申立ての理由及び取消理由の概要 2-1.特許異議申立ての理由の概要 特許異議申立人は、甲第1〜3号証を提出し、本件請求項1〜3に係る発明は、甲第1〜3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、本件請求項1〜3に係る発明の特許は取り消されるべきものである旨主張している。 2-2.取消理由の概要 取消理由は、刊行物1、刊行物2及び刊行物3として、特許異議申立人が提出した甲第1号証、甲第2号証及び甲第3号証を引用し、本件請求項1に係る発明は、刊行物1〜3記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件請求項1に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、取り消すべきものであるとしている。 3.甲第1〜3号証(刊行物1〜3)記載の発明 甲第1〜3号証(刊行物1〜3)記載の発明は、前記IIの「2-2.独立特許要件についての判断」の「((刊行物1〜3(甲第1〜3号証)記載の発明)」に記載のとおりである。 4.対比・判断 本件請求項1〜3に係る発明と甲第1〜3号証(刊行物1〜3)記載の発明との対比・判断は、前記IIの「2-2.独立特許要件についての判断」の「(対比・判断)」でしたとおりであり、本件請求項1〜3に係る発明は、取消理由に引用した刊行物1〜3記載の発明、すなわち特許異議申立人が提出した甲第1〜3号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるとすることができない。 5.むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠方法によっては、本件訂正明細書の請求項1〜3に係る発明の特許を取り消すことはできない。 また、他に本件訂正明細書の請求項1〜3に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 可動フェアリング型耐風構造 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 長尺構造物の長手方向に直角な断面で最短寸法方向に直交する長寸法方向を幅方向とするとき、該幅方向の気流による長尺構造物の揚力変動を抑制する長尺構造物の耐風構造において、前記断面の形状を幅方向に流線形化するフェアリング面の少なくとも一部を構成し、前記長尺構造物に対し可動に取付けた気流案内部材と、該案内部材を移動する移動手段とを備え、前記断面の形状を気流の向きに応じて気流の上流側と下流側で変化させることを特徴とする可動フェアリング型耐風構造。 【請求項2】 請求項1の可動フェアリング型耐風構造において、前記気流案内部材を前記長尺構造物に対して幅方向に移動可動に取付け、該案内部材を幅方向に移動して前記断面の形状を気流の上流側と下流側で非対称にすることを特徴とする可動フェアリング型耐風構造。 【請求項3】 請求項1、2いずれかの可動フェアリング型耐風構造において、前記気流案内部材が前記長尺構造物に対して回動可能に取付けられ、気流の上流側に位置する案内部材と気流の下流側に位置する案内部材の少なくとも一方を厚み方向の一方の側に回動して斜めに傾斜させることを特徴とする可動フェアリング型耐風構造。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】 本発明は、長尺構造物に対する幅方向の気流による長尺構造物の揚力変動を抑制する可動フェアリング型耐風構造、例えば、斜張橋に応用されて、その路面の幅方向に斜め上向きに流れる強い気流に対して桁部材(補剛桁)の振動を抑制する橋梁の可動フェアリング型耐風構造に関する。 【0002】 【従来の技術】 近年、離島や海峡の連絡橋が次々と計画され、全国各地において大規模な吊橋や斜張橋や長径間の桁橋が続々と建設されている。このような大スパンの橋梁においては、百年に一度の強烈な気流を伴った台風にも十分耐え得る耐風構造が要求されており、種々の理論に基いた様々な耐風構造が提案され、模型による実証風洞実験が行われ、実際に施工もされている。 【0003】 橋梁の振動に対して影響が大きい気流の向きは、橋梁の長手方向に直角な橋桁断面で直交する路面に平行な方向と直角な方向をそれぞれ幅方向、厚み方向とするとき、幅方向、特に、幅方向の斜め下から橋桁を吹き上げる向きのもので、このとき、橋桁の上面では、気流の流線が剥離と吸着を繰返すようになり、気流の状態が極めて不安定になる。 【0004】 例えば、橋桁の上面の上流側の部分に剥離バブルと呼ばれる不安定な渦が発生と消滅を繰返して、橋桁に対する気流の揚力を変動させる加振現象、幅方向の気流に対して橋桁の下流側に上下一対のカルマン渦が次々に発生し、このカルマン渦が橋桁の上下の縁で交互に分離して橋桁の断面を囲む流線の形状を大きく変化させる加振現象、橋桁の上面の両側部分に配置された突起である地覆や高欄の影響によってその下流側に剥離バブルが形成されることによる加振現象、および、この剥離バブルから剪断層渦(シヤ-レイヤ-ズボルテックス)が分離して路面上を下流に向って移動し、これにより橋桁の断面を囲む流線の形状を大きく変化させる加振現象等が報告されている。 【0005】 そして、これらの加振現象の周期が橋桁の固有振動数と同期して、橋桁の振幅やねじれがさらに大きな加振力を誘起する水準にまで風の強さが高まると、橋桁の振幅やねじれが著しく増加して、橋梁の全面的な破壊落橋、または部分的な破損や疲労破壊を引き起す危険な状態となる。 【0006】 従って、このような幅方向の気流に対する橋梁の耐風構造として、橋桁が多少振幅やねじれを増しても橋桁の断面を囲む流線の形状が大きく変化しない、すなわち、橋桁上面における流線の剥離を制御して剥離バブルを消滅、または安定化させ、橋桁上面における気流を安定して維持させるようにした構造がいくつか提案されている。例えば、▲1▼橋桁上面の中空位置に設けるフラップや整流板等の小規模空力翼、▲2▼橋桁の幅方向の両側から三角断面状や放物線断面状にせり出させて固定したフェアリングと呼ばれる空力カバ-等である。 【0007】 ここで、▲1▼の小規模空力翼は、橋桁の周囲の気流を整流して橋桁上面における流線の剥離を抑制し、橋桁の断面に沿って流れる安定した気流状態を得ようとするもの、▲2▼のフェアリングは、その長手方向に直角な橋桁断面を全体的に流線形化して、橋桁の上流側における流線の剥離と下流側におけるカルマン渦の発生を共に抑制するもので、断面の左右いずれの側が上流となっても良いように、橋桁の幅方向の両側に左右対称に取付けられる。 【0008】 【発明が解決しようとする課題】 ところで、▲1▼の小規模空力翼では、実際の大面積の橋桁路面に対して翼面積が小さい場合や、橋桁に余り近い位置(橋桁の断面の周囲に形成される境界層や渦の中)では上述の効果を発揮できない。しかし、翼面積を大幅に拡大して、橋桁からも大きく突出させた空力翼は、橋桁上からの視野を妨げるとともに、外から見た橋梁の美観を阻害する可能性が高く、さらに、工場で橋桁に組込んでおけないので取付けや仕上塗装が危険な現場作業となり、結局高価につく。 【0009】 また、▲2▼のフェアリングのみで橋桁の下流側におけるカルマン渦の発生を十分抑制するには、フェアリングを大型化して下流側に鋭角状に大きく張り出す必要があるが、上流側においても同様に張り出すフェアリングは、橋桁上面に至る気流の摩擦長さ(境界層の減速量)を増して橋桁上面における流線の剥離や渦の発生を容易にし、また、橋桁の上下振動やねじれが気流に対する橋桁の迎え角を往復変化させた際に、フェアリングの縁で上下交互に流線を剥離させて渦を発生してしまい、上流側については橋桁の断面の周囲の気流の状態を逆に不安定にする結果となる。しかし、張り出し量の小さい鈍角状のフェアリングでは、下流側におけるカルマン渦の発生を十分抑制できない。 【0010】 本発明は、このような従来の耐風構造の問題点を鑑みてなされたもので、橋桁上からの視野を妨げず、外から見た橋梁の美観に優れ、工場で予め橋桁に組込んでおけ、橋桁の断面の周囲における気流の状態を上流側でも下流側でも十分に安定化できる可動フェアリング型耐風構造を提供することを目的としている。 【0011】 【課題を解決するための手段】 請求項1の可動フェアリング型耐風構造は、長尺構造物の長手方向に直角な断面で最短寸法方向に直交する長寸法方向を幅方向とするとき、該幅方向の気流による長尺構造物の揚力変動を抑制する長尺構造物の耐風構造において、前記断面の形状を幅方向に流線形化するフェアリング面の少なくとも一部を構成し、前記長尺構造物に対し可動に取付けた気流案内部材と、該案内部材を移動する移動手段とを備え、前記断面の形状を気流の向きに応じて気流の上流側と下流側で変化させるものである。 【0012】 請求項2の可動フェアリング型耐風構造は、請求項1の可動フェアリング型耐風構造において、前記気流案内部材を前記長尺構造物に対して幅方向に移動可動に取付け、該案内部材を幅方向に移動して前記断面の形状を気流の上流側と下流側で非対称にするものである。 【0013】 請求項3の可動フェアリング型耐風構造は、請求項1、2いずれかの可動フェアリング型耐風構造において、前記気流案内部材が前記長尺構造物に対して回動可能に取付けられ、気流の上流側に位置する案内部材と気流の下流側に位置する案内部材の少なくとも一方を厚み方向の一方の側に回動して斜めに傾斜させるものである。 【0014】 【作用】 請求項1の可動フェアリング型耐風構造では、気流の上流側と下流側を判別して上流側と下流側の少なくとも一方でフェアリングの断面形状または姿勢を変化させ、これにより、長尺構造物の長手方向に直角な断面の周囲における流線の形状を制御し、気流の状態を安定化して長尺構造物に対する加振力を抑制する。 【0015】 請求項2の可動フェアリング型耐風構造では、気流の上流側と下流側を判別して上流側と下流側でフェアリングの断面形状を異ならせる。長尺構造物に取付けた気流案内部材を上流側では内側、下流側では外側にそれぞれ移動して、長尺構造物の長手方向に直角な断面形状を実際に幅方向で非対称なものにする。すなわち、上流側では、フェアリング面全体の断面形状を張り出し量の小さい鈍角状のものに整形して、先端部分における流れの剥離を抑制し、一方、下流側では、張り出し量の大きい鋭角状のものに整形して、カルマン渦の発生を抑制する。 【0016】 ただし、フェアリングが放物線状や円弧状に突出している場合、ここで言う鈍角状、鋭角状は、それぞれ先端部分の曲率が大きい、小さいことであり、ここで言うフェアリングは、長尺構造物の長手方向に直角な断面形状を幅方向に流線形化するために長尺構造物に取付けた、別の呼称を有する空カカバーをも包含している。 【0017】 ここで、気流案内部材の最も簡単な例は、長尺構造物に固定したフエアリングの先端から幅方向に板材を出し入れするもので、フエアリング先端部に一端を軸支して、上流側では板材を長尺構造物の長手方向に収納し、下流側では板材を幅方向に展開して伸ばす。しかし、気流に対してより積極的に長尺構造物の断面を非対称化するには、気流案内部材を幅方向の移動に伴なって傾斜角度(または先端の曲率半径)を小さくする機構を設ける。 【0018】 ここで、長尺構造物に対して移動される気流案内部材は軽量な構造とし、その出し入れで長尺構造物全体の重心があまり移動しないようにしておくのが好ましい。このとき、長尺構造物の長手方向に直角な断面の周囲の流線の揚力の実質的な力点である断面中心は、この断面が回転するときの力学的中心(重心)よりも下流側に位置し、流線の揚力が長尺構造物の振幅やねじれ角度を抑制する向きに作用する。このことは、断面中心が重心よりも上流側に位置する逆の場合に、長尺構造物の厚み方向の振動やねじれに対して、流線の揚力がその振幅やねじれ角度をさらに拡大する方向に作用するのと対照的である。 【0019】 気流案内部材を長尺構造物に対して移動する移動手段としては、長尺構造物の管理者自らが風向きや風力を判別し、必要な場合だけ気流案内部材を自らの人力を用いて移動するようにした機構および手順が採用されても良いが、風向計や風力計の出力に応じて巻上機やエアシリンダを自動制御して、予想される強風に対して未然に準備がなされるような自動システムとすることが望ましい。 【0020】 請求項2の可動フェアリング型耐風構造を橋梁に応用する場合、気流案内部材は、橋脚間の長手方向の中央部分に橋脚間距離の1/4長さにも達する長いものを厚み方向上下1組、幅方向左右一対だけ配置しても、10m以下の短いものとして橋脚間の長手方向に断続的に多数配置してもよい。また、幅方向の両側で交互に配置したり、▲1▼の小規模空力翼に組合せて配置してもよい。 【0021】 また、▲3▼橋桁上面の端縁に断続的に配置した中央部に向う空気噴射装置や▲4▼フェアリングの先端部に設けた開口と橋桁上面の端縁に設けた開口とをダクトで接続した空気吹き出し経路と組合せて配置してもよい。ここで、▲3▼の空気噴射装置は、本願出願人が平成2年11月29日付で出願した「構造物の空力振動制御方法」に提案したもので、橋桁の上面の停滞した境界層を下流側に加速して、橋桁表面における気流の剥離および渦発生を抑制しようとするもの、▲4▼の空気吹き出し経路は、本願出願人が平成3年12月20日付で出願した「長尺構造物の耐風構造」に提案したもので、空気吹き出し経路を流れのエネルギ-を維持したまま通り抜ける気流によって、橋桁の上流側では、橋桁上面の停滞した境界層を下流側に加速し直して橋桁表面における気流の剥離および渦発生を抑制する一方で、橋桁の下流側では、橋桁の下流側に滞留した空気を積極的に押流して、張り出し量の小さい鈍角状のフェアリングであっても、橋桁断面の周囲の流線を実質的に「張り出し量の大きい鋭角状のフェアリング」の状態に近づけるものである。 【0022】 しかし、▲3▼の空気噴射装置では、空気噴射を行わせるための特別な動力を必要とし、停電や故障の際には無防備のまま橋梁を強風に曝す結果となるため単独では実用性に欠けていた。一方、▲4▼の空気吹き出し経路によれば、特別な動力を必要とせず、橋桁の幅方向の両側に張り出し量の小さい鈍角状の左右対称なフェアリングを配置しておいても、下流側では張り出し量の大きい鋭角状のフェアリング並みに流線を安定化(カルマン渦を抑制)できるが、設計上、開口やダクトの面積や配置にいろいろな制約があるため、やはり単独では、上流側の流線の安定化と下流側のカルマン渦のいずれについても十分とは言えず、橋梁が許容できる最大風速を十分な水準(例えば70〜80m/秒)にまで引上げることができなかった。 【0023】 従って、橋梁に請求項2の可動フェアリング型耐風構造を応用する場合、▲3▼の空気噴射装置や▲4▼の空気吹き出し経路を組合せて実施することにより、橋梁設計上の種々の制約を満たしつつも許容できる最大風速を十分な水準にまで引上げることができる。 【0024】 請求項3の可動フェアリング型耐風構造では、気流の上流側と下流側を判別して、気流の上流側に位置する案内部材と気流の下流側に位置する案内部材の少なくとも一方を厚み方向の一方の側に回動して斜めに傾斜させる。これにより、案内部材を回動した反対側に位置する幅方向の面において気流が剥離しにくくなる(図6、7参照)。 【0025】 【発明の実施例】 本発明の実施例を図面を参照して説明する。 【0026】 図1は、第1実施例の橋梁の耐風構造の断面図である。ここでは、長手方向に連続した胸壁によって4つのブロックに仕切られた橋桁を斜張ケ-ブルで支承する斜張橋の例が示される。このように胸壁で仕切られた橋桁は、4つのブロックを含む長手方向で複数に分割されたユニットとして、それぞれ地上で別々に組立てられ、塗装も完了した状態で現場に搬入され、現場では、それぞれのユニットを吊り下げて長手方向に接続する最終組立てが行われる。この胸壁式の橋桁はトラス式のものに比較して溶接構造を多用でき、塗装も容易なため、全体の製作費が安価であるが、胸壁に開口を形成するとその強度が著しく低下するため、幅方向に貫通する開口を設けにくい不都合がある。 【0027】 図1において、長手方向に接続された胸壁により4つのブロックに仕切られた橋桁Aは、その上部の両端に取付けた多数の斜張ケ-ブルWにより吊り下げられる。橋桁Aの上面には路面Rが形成され、路面Rの幅方向の両側には地覆Jおよび高欄Gが設けられる。 【0028】 橋桁Aの幅方向の両側には、固定フェアリングFが左右対称に固定される。固定フェアリングFは、橋桁Aの長手方向に直角な断面形状を幅方向に左右対称に流線形化しており、橋桁Aが幅方向の気流に曝されるとき、気流の上流側において、上のフェアリングFは地覆Jおよび高欄Gを介して路面Rに沿って流れる気流を、また、下のフェアリングFは橋桁Aの底面に沿って流れる気流をそれぞれ案内する。 【0029】 上下左右4つの固定フェアリングFの先端には、それぞれ可動フェアリングEが回動可能に取付けられ、下側の固定フェアリングFに取付けた左右の可動フェアリングEは、上下の固定フェアリングFの間隔を通して固定フェアリングFの内側に収納可能な長さ、上側の固定フェアリングFに取付けた左右の可動フェアリングEは、上下の固定フェアリングFの間隔を通過できず、この開口を塞いで遮断する長さにそれぞれ定めてある。 【0030】 そして、それぞれの可動フェアリングEは、先端に一端を固定したロ-プIを巻上機Mにより巻上げ巻戻して操作する。渡り廊下Dは、下側の巻上機Mを操作する際の足場である。 【0031】 第1実施例の橋梁の耐風構造では、橋梁の管理者自らが風向きや風力を判断して巻上機Mを操作し、それぞれの可動フェアリングEを橋桁Aに対して幅方向に移動し、風向きに対する橋梁の断面形状を調整する。すなわち、気流の上流側では、上下の巻上機Mを巻戻して、ロ-プIを緩め、下の可動フェアリングEを上下の固定フェアリングFの内側に収納し、上の可動フェアリングEで上下の固定フェアリングFの間隔を塞ぐ。これに対して下流側では、上下の巻上機Mを巻上げて、ロ-プIを引張り上下の可動フェアリングEをそれぞれ固定フェアリングFの延長線上まで回動させる。 【0032】 このように構成され、それぞれの可動フェアリングEが予め図1のように調整された橋梁が幅方向(矢印方向)の気流に曝されると、気流の下流側では、可動フェアリングEによって実際に延長されたフェアリング面によって、橋桁Aの下流側には空気が滞留せず、渦の発生が抑制され、仮に渦が発生しても未成熟のうちに下流側に吹き飛ばされ、渦が上下で交互に成長してカルマン渦と化すことがない。一方、気流の上流側では、下の可動フェアリングEの長さの半分だけ橋桁Aに至る気流の摩擦長さが短くなるため路面Rにおける流線の剥離や渦の発生が抑制され、また、橋桁Aの上下振動やねじれが気流に対する橋桁Aの迎え角を往復変化させても、固定フェアリングFの先端の縁では流線が剥離しにくく、渦も発生しにくい。 【0033】 図2は、第2実施例の橋梁の耐風構造の側面図、図3は、図2の橋梁の正面図である。ここでは、橋桁の中央に相当する部分が図示省略されており、橋桁を幅方向に貫通させて設けたサポートロッドを用いて、上流側と下流側のフェアリング形状を連動させて同時に変化させる技術と、気流の押圧力で自動的にフェアリング形状が調整される技術とが示される。 【0034】 図2、図3において、橋桁Aは、その上部の両端に取付けた多数の斜張ケ-ブルWにより吊り下げられる。橋桁Aの上面には路面Rが形成され、路面Rの幅方向の両側には地覆Jおよび高欄Gが設けられる。 【0035】 橋桁Aの幅方向の両側には、固定フェアリングFが左右対称に固定され、上下の固定フェアリングFの先端同士を連絡して柔軟構造の可変フェアリングE1が取付けられる。可変フェアリングE1は、表面が滑らかで伸縮も可能なゴムシ-トを短冊状の鉄板E2で裏打ちしたもので、サポ-トロッドBにより裏側から付勢されて断面形状を自在に変形できる。可変フェアリングE1に接触転動するロ-ラb1を先端に設けたサポートロッドBは、橋桁Aを幅方向に貫通させて上下3本、長手方向10mおきに配置され、それぞれ橋桁Aに取付けられて軽く回転可能なロ-ラb2により支承されるから幅方向に軽く移動できる。 【0036】 そして、図3に示すように、その橋脚間に位置する890mの橋桁Aの中央部分(斜線部)593mに対して第2図の耐風構造が組込まれる。 【0037】 図4は、第3実施例の橋梁の耐風構造の断面図である。ここでは、図1と同様な橋梁の橋桁に応用された別の耐風構造がその一部分だけを取り出して断面図示されており、橋桁に固定したエアシリンダを用いて気流案内部材を長尺構造物に対して移動する仕組みである。 【0038】 図4において、橋桁Aの上面には路面Rが形成され、路面Rの幅方向の両側には地覆Jおよび高欄Gが設けられる。 【0039】 橋桁Aの幅方向の両側には、支点板a1が固定され、支点板a1にはエアシリンダQ2の一端が固定される。また、上下2個の取付け板U2と上下2本の支持棒U1を四辺形に軸支したリンク機構は、上下2本の支持棒U1の軸支点で支点板a1に軸支されている。上下2個の取付け板U2には、それぞれ2枚づつの可動フェアリングE5が固定され、可動フェアリングE5と橋桁Aの間の上下の隙間は、ゴム素材の蛇腹板E6で連絡されている。エアシリンダQ2は、一対の管P2の一方に空気を供給し他方から空気を排出することにより駆動され、リンク機構を幅方向に変形させて、可動フェアリングE5と蛇腹板E6で構成されるフェアリングの断面形状を変化させる。 【0040】 第3実施例の橋梁の耐風構造では、橋桁の左右一対のエアシリンダQ2を一方が伸びるときに他方が縮み、一方が縮むときに他方が伸びるように、管P2を連通させることにより、第2実施例と同様に、上流側と下流側のフェアリング形状を連動させて同時に変化させ、上流側と下流側の押圧力差によって自動的にフェアリング形状が調整される。しかし、コンプレッサまたは高圧ボンベを別途設けて、管P2に高圧空気を接続することによって、橋桁の左右一対のエアシリンダQ2を非対称に作動させてもよい。ここで、橋桁に取付けた風力計および風向計の出力に応じて高圧空気の接続を切替える自動制御装置を設けておけば、第1実施例のような特別な橋梁の管理者はいなくて済む。 【0041】 第3実施例の橋梁の耐風構造における蛇腹板E6は、相互にスライド可能な重ね板構造で置換えることができる。 【0042】 図5は、第4実施例の橋梁の耐風構造の断面図である。ここでは、図1と同様な橋梁の橋桁に応用された別の耐風構造がその一部分だけを取り出して断面図示されており、橋桁に固定したボ-ルネジ装置を用いて気流案内部材を長尺構造物に対して移動する仕組みである。 【0043】 図5において、橋桁Aの上面には路面Rが形成され、路面Rの幅方向の両側には地覆Jおよび高欄Gが設けられる。 【0044】 橋桁Aの幅方向の両側には、固定フェアリングFが左右対称に固定される。上下の固定フェアリングFの先端には、それぞれ可動フェアリングE3が回動可能に取付けられ、上下の可動フェアリングE3の先端には、それぞれ可動フェアリングE4が回動可能に取付けられ、上下の可動フェアリングE4の先端は駆動ネジNに連結された回動部材eに接続され、可動フェアリングE4は回動部材eの軸を中心にして300度近い相互の回動が可能である。 【0045】 橋桁Aの幅方向の両側にはボ-ルネジ装置Qが固定され、ボ-ルネジ装置Qは回転軸Lを介して風車Pにより駆動され、駆動ネジNを水平に出し入れする。回転軸しの中間位置には、トルクコンバ-タTが設けられ、駆動ネジNが最大位置に出し入れされた後は空転してボ-ルネジ装置Qを動作させない。風車Pは気流の方向に応じて回転方向を変えて駆動ネジNの移動方向を反転し、気流の向きと駆動ネジNの移動方向が一致するように風車Pのプロペラねじれ角が選択されている。 【0046】 第4実施例の橋梁の耐風構造では、トルクコンバ-タTを介して伝達される風車Pの駆動力によって可動フェアリングE3、E4が水平方向に移動して、上流側では可動フェアリングE4が内側に折畳まれて収納され、下流側では可動フェアリングE4が外側に展開されて、橋桁Aのフェアリング形状を下流側に向って緩く傾斜した長いものに非対称化する。 【0047】 図6は第5実施例の橋梁の耐風構造の断面図、図7は図6の耐風構造の説明図である。図6では、図1と同様な橋梁の橋桁に応用された別の耐風構造がその一部分だけを取り出して断面図示されており、第1〜第5実施例とは異なって、橋桁に対して可動フェアリング全体を傾斜させる。 【0048】 図6において、(a)は通常の状態、同(b)は矢印の方向の気流に対して可動フェアリングE7の姿勢を調整した状態である。橋桁Aの幅方向の両側には、案内棒R3、R4をそれぞれ水平方向に駆動して出し入れする移動装置Q3、Q4が固定され、放物線状の断面形状を有する可動フェアリングE7は、案内棒R3、R4の先端に軸支されている。そして、可動フェアリングE7と橋桁Aの間の上下の隙間は、可動フェアリングE7と橋桁Aにそれぞれの端部を固定した、相互にスライド可能な2枚の重ね板構造で覆われている。 【0049】 図6においては、移動装置Q3を駆動して案内棒R3を外側に引出し、移動装置Q4を駆動して案内棒R3を内側に引込むことにより、矢印のような気流に対しても可動フェアリングE7の上面側で気流の剥離が起こりにくい(b)の状態に調整できる。これに加えて、ここでは、可動フェアリングE7は断面が放物線状であるから、(b)のように傾斜させると、可動フェアリングE7の最も上流側には、先端の曲率半径の小さな部分に替わって、より曲率半径の大きな部分が位置するようになり、地覆や高欄の影響で気流の剥離が起こり易い橋桁Aの上面に向う気流がより安定する。 【0050】 図7において、(a)は通常の状態、同(b)、(c)は矢印のような気流に対して可動フェアリングE7の姿勢を調整した状態である。図7の各構成部材は図6の場合と同様である。(b)のような気流に対して、橋桁Aの上流側に位置する可動フェアリングE7は下向き、下流側に位置する可動フェアリングE7は下向きに傾斜させ、領域1、2における気流の剥離を抑制する。一方、(c)のような気流に対して、橋桁Aの上流側に位置する可動フェアリングE7は下向き、下流側に位置する可動フェアリングE7は上向きに傾斜させ、領域3、4における気流の剥離を抑制する。 【0051】 以上の各実施例における耐風構造は、吊り橋、斜張橋、長スパンの桁橋等を含む多種類の橋梁に応用可能である。また、この耐風構造は、橋梁に応用されるのみに留まらず、鉄塔、高層ビル等、土木建築分野におけるいろいろな長尺構造物に対して応用可能である。 【0052】 【発明の効果】 請求項1の可動フェアリング型耐風構造によれば、長尺構造物が幅方向の強風に曝される前に、予測される気流の向きに最適な断面形状(幅方向と厚み方向を含む)を予め長尺構造物に準備でき、長尺構造物が突然に幅方向の強風に曝された場合でも、長尺構造物の振幅が余り拡大しないうちに、この断面形状を最適な状態に調整し直して、振幅のさらなる拡大を抑制できる。また、長尺構造物の大きな部分全体に影響を及ぼす巨大な気流案内部材や強力な移動手段をフェアリング内にコンパクトに収納できるため、長尺構造物自体の強度や利便性を余り損なうことなく、美観や防錆にも都合がよい。 【0053】 請求項2の可動フェアリング型耐風構造によれば、長尺構造物の長手方向に直角な断面の形状を気流の下流側に伸びた上流側と下流側で非対称な流線形にできるため、この断面の周囲における気流の状態を上流側でも下流側でも十分に安定化でき、長尺構造物の揚力変動が小さくて済む。また、長尺構造物の外側に単独に突出した構造を必要としないから美観に優れる。 【0054】 請求項3の可動フェアリング型耐風構造によれば、幅方向と斜めに交差する向きの気流に長尺構造物が曝されたとき、長尺構造物の背中側(下流側に向う幅方向の面)における気流の状態がさらに安定し、長尺構造物の揚力変動が抑制される。 【図面の簡単な説明】 【図1】 第1実施例の橋梁の耐風構造の断面図である。 【図2】 第2実施例の橋梁の耐風構造の断面図である。 【図3】 図2の橋梁の側面図である。 【図4】 第3実施例の橋梁の耐風構造の部分的な断面図である。 【図5】 第4実施例の橋梁の耐風構造の部分的な断面図である。 【図6】 第5実施例の橋梁の耐風構造の部分的な断面図である。 【図7】 図6の耐風構造の説明図である。 【符号の説明】 A 橋桁 B サポ-トロッド D 渡り廊下 E 可動フェアリング F 固定フェアリング G 高欄 I ロ-プ J 地覆 M 巻揚げ機 R 路面 W 斜張ケ-ブル E1 可変フェアリング E2 鉄板 b1 ロ-ラ b2 ロ-ラ |
訂正の要旨 |
訂正の要旨は、以下のとおりである。 (1)特許請求の範囲の減縮を目的として、特許請求の範囲を、下記の通り訂正する。 「【請求項1】長尺構造物の長手方向に直角な断面で最短寸法方向に直交する長寸法方向を幅方向とするとき、該幅方向の気流による長尺構造物の揚力変動を抑制する長尺構造物の耐風構造において、前記断面の形状を幅方向に流線形化するフェアリング面の少なくとも一部を構成し、前記長尺構造物に対し可動に取付けた気流案内部材と、該案内部材を移動する移動手段とを備え、前記断面の形状を気流の向きに応じて気流の上流側と下流側で変化させることを特徴とする可動フェアリング型耐風構造。 【請求項2】請求項1の可動フェアリング型耐風構造において、前記気流案内部材を前記長尺構造物に対して幅方向に移動可動に取付け、該案内部材を幅方向に移動して前記断面の形状を気流の上流側と下流側で非対称にすることを特徴とする可動フェアリング型耐風構造。 【請求項3】請求項1、2いずれかの可動フェアリング型耐風構造において、前記気流案内部材が前記長尺構造物に対して回動可能に取付けられ、気流の上流側に位置する案内部材と気流の下流側に位置する案内部材の少なくとも一方を厚み方向の一方の側に回動して斜めに傾斜させることを特徴とする可動フェアリング型耐風構造。」 (2)特許請求の範囲の記載を訂正したことにより、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るため、明りようでない記載の釈明を目的として、 特許明細書の段落番号【0011】の【課題を解決するための手段】の記載を下記の通り訂正する。 「 【0011】 【課題を解決するための手段】 請求項1の可動フェアリング型耐風構造は、長尺構造物の長手方向に直角な断面で最短寸法方向に直交する長寸法方向を幅方向とするとき、該幅方向の気流による長尺構造物の揚力変動を抑制する長尺構造物の耐風構造において、前記断面の形状を幅方向に流線形化するフェアリング面の少なくとも一部を構成し、前記長尺構造物に対し可動に取付けた気流案内部材と、該案内部材を移動する移動手段とを備え、前記断面の形状を気流の向きに応じて気流の上流側と下流側で変化させるものである。」 (3)誤記の訂正を目的として、特許明細書の段落番号【0030】及び段落番号【0031】に記載の「ロープR」を、「ロープI」と訂正する。 |
異議決定日 | 1999-11-08 |
出願番号 | 特願平4-29983 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YA
(E01D)
|
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 峰 祐治 |
特許庁審判長 |
樋口 靖志 |
特許庁審判官 |
小野 忠悦 阿部 綽勝 |
登録日 | 1997-11-21 |
登録番号 | 特許第2720685号(P2720685) |
権利者 | 日本鋼管株式会社 |
発明の名称 | 可動フェアリング型耐風構造 |
代理人 | 佐々木 宗治 |
代理人 | 木村 三朗 |
代理人 | 佐々木 宗治 |
代理人 | 小林 久夫 |
代理人 | 大村 昇 |
代理人 | 岡村 俊雄 |
代理人 | 大村 昇 |
代理人 | 木村 三朗 |
代理人 | 小林 久夫 |