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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 A63B 審判 全部申し立て 2項進歩性 A63B |
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管理番号 | 1009092 |
異議申立番号 | 異議1999-70744 |
総通号数 | 8 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1995-06-13 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 1999-03-03 |
確定日 | 1999-12-06 |
異議申立件数 | 2 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第2792642号「可聴振動を減衰させるゴルフクラブヘッド」の請求項1ないし29に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第2792642号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続きの経緯 本件特許第2792642号の請求項1〜29に係る発明は、平成6年9月13日(パリ条約による優先権主張1993年9月13日、米国)に特許出願され、平成10年6月19日にその特許権の設定登録がなされ、その後、村戸良至及びブリヂストンスポーツ株式会社よりそれぞれ特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成11年9月24日に訂正請求がなされたものである。 2.訂正請求について 2-1.訂正請求の趣旨及び訂正事項 訂正請求の趣旨は、本件特許第2792642号の明細書を訂正請求書に添付した訂正明細書のとおり訂正することを求めるものであり、その訂正事項は、以下のとおりである。 ▲1▼訂正事項a ア.特許権設定登録時の明細書(以下、単に「特許明細書」という。)特許請求の範囲の請求項1、5、8-29を削除し、 イ.特許明細書特許請求の範囲の請求項4を請求項1とし、 ウ.特許明細書特許請求の範囲の請求項2、3を訂正された請求項1に従属させ、 エ.特許明細書特許請求の範囲の請求項6,7を請求項4、5として、 特許請求の範囲を以下のとおり訂正する。 「 【請求項1】ヒールと、トウと、上面と、底面を画成しているソールと、上方後方へ傾斜したフェイスを画成している正面壁部と、を備えた本体部を有するゴルフクラブヘッドにおいて、 a)前記本体部が主凹部を画成しており、該主凹部は、前方へ向かって窪んだ形状であって、前記正面壁部の背後に位置しており、 b)前記本体部が更にアンダーカット凹部を画成しており、該アンダーカット凹部は、 i)前記上面と、 ii)前記底面と、 iii)前記トウと、 iv)前記ヒールと、 のうちの少なくとも1つへ向かって前記主凹部から外方へ張り出した形状であって、前記正面壁部の直後に位置しており、 c)前記正面壁部がゴルフボールと衝突するときに発生する可聴振動を減衰させるための減衰手段を、前記主凹部の前端部分の前記正面壁部に設け、 d)前記減衰手段が、薄板と、該薄板を前記正面壁部に貼着するための粘着剤ないし接着剤とを含んでいることを特徴とするゴルフクラブヘッド。 【請求項2】前記正面壁部が背面を有しており、前記減衰手段が該背面に取付けられて前記主凹部及び前記アンダーカット凹部へ完全に露出していることを特徴とする請求項1記載のゴルフクラブヘッド。 【請求項3】前記アンダーカット凹部が前記減衰手段の周囲に延在していることを特徴とする請求項1記載のゴルフクラブヘッド。 【請求項4】前記薄板が外周縁部を有しており、前記正面壁部の前記背面には浅く窪ませた凹部を形成してあり、該凹部に、前記薄板を、該薄板の前記外周縁部がぴったりと収まるようにして収容していることを特徴とする請求項2記載のゴルフクラブヘッド。 【請求項5】前記薄板が、幅広の中央部分と、夫々に略々前記ヘッドの前記トウと前記ヒールとへ向かって両側へ突出した2つのウイング部とを有することを特徴とする請求項2記載のゴルフクラブヘッド。」と訂正する。 ▲2▼訂正事項b 特許明細書の段落【0005】を、 「 【課題を解決するための手段】 本発明の主目的の1つは、アイアンクラブのストロークの際に運動量をボールへ遅延伝達したいという要望に応えることができ、可聴振動を減衰させることができ、更には、ヘッドの耐捩れ性を向上させることのできる、改良したアイアンクラブのヘッド構造を提供することにある。基本的に本発明は、ヘッドの金属製の本体部の構造として具体化されるものであり、その本体部は、ヘッドの正面壁部の後方に位置して互いに交わる2つの凹部を画成する。それら2つの凹部は、ヘッドのフェイスの周辺領域に近接した位置から該周辺領域の後方へ向かって突出した、ヘッドの金属材料から成る後方突出部によって画成される。このヘッドは、具体的には、例えば次の特徴を備えたものである。 a)前記本体部が主凹部を画成しており、該主凹部は、前方へ向かって窪んだ形状であって、前記正面壁部の背後に位置していること。 b)前記本体部が更にアンダーカット凹部を画成しており、該アンダーカット凹部は、 i)前記上面と、 ii)前記底面と、 iii)前記トウと、 iv)前記ヒールと、 のうちの少なくとも1つへ向かって前記主凹部から外方へ張り出した形状であって、前記正面壁部の直後に位置していること。 c)更に、前記正面壁部がゴルフボールと衝突するときに発生する可聴振動を減衰させるための減衰手段を、前記主凹部の前端部分の、前記正面壁部に設けたこと。 d)前記減衰手段は、薄板と、該薄板を前記正面壁部の前記背面へ貼着する粘着剤ないし接着剤とを含む。」と訂正する。 ▲3▼訂正事項c 特許明細書の段落【0006】を、 「前記正面壁部の前記背面には、それら薄板及び粘着剤ないし接着剤を収容するための凹部を形成するようにしても良い。更に、前記アンダーカット凹部は、前記減衰手段の前記薄板の周縁部から離れて、前記上面と前記底面との両方へ向かって、また、前記トウと前記ヒールとへ向かって、前記主凹部と交わった部分から外方へ張り出すように形成し、それによって前記アンダーカット凹部が前記主凹部の境界にそって延在するようにしても良い。この構造は更に、前記本体部のうちの前記アンダーカット凹部より後方にある金属材料の部分の運動量が、このヘッドの周辺領域を介して前方へ、従って前記正面壁部及び前記フェイスへ伝達するのを僅かに遅らせるのに役立っている。尚、後に説明するように、スリットを設けることによって、ヘッドの周辺領域が局部的にのみ存在するようにしても良い。」と訂正する。 2-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、拡張・変更の存否及び独立特許要件の判断 上記訂正事項aは、 ア.については、特許明細書特許請求の範囲の請求項1、5、8-29を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、 イ.については、従属形式で記載された特許明細書特許請求の範囲の請求項4を独立形式で記載し請求項1とするものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、 ウ.については、訂正後の請求項2、3は、実質的に構成が限定されるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、 エ.については、特許明細書特許請求の範囲の請求項1、5の削除及び請求項4を請求項1とする訂正に伴うものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。 上記訂正事項b、cは、上記訂正事項aの特許請求の範囲の訂正に伴い、対応する発明の詳細な説明の記載を整合させるための訂正であり、明りようでない記載の釈明を目的とするものである。 また、上記訂正事項a〜cの訂正は、それぞれ願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 さらに、訂正請求書に添付された訂正明細書の特許請求の範囲に記載された発明は、後述する「3.特許異議申立てについて」の「3-5.当審の判断」でしたように、取消理由及び特許異議申立ての理由では、それぞれ特許を受けることができないとすることができず、また、他に独立して特許を受けることができないとする理由も発見しないから、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。 2-3.むすび 以上のとおりであるから、上記訂正請求は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第2項、同条第3項で準用する同法第126条第2〜4項の規定に適合し、当該訂正は認められる。 3.特許異議申立てについて 3-1.本件発明 本件請求項1〜5に係る発明は、訂正請求書に添付された訂正明細書の特許請求の範囲に記載されたとおりのもの(上記「▲1▼訂正事項a」参照。)である。 3-2.特許異議申立ての理由の概要 特許異議申立人 村戸良至は、甲第1号証(下記《刊行物1》特開昭63-19168号公報)、甲第2号証(下記《刊行物2》実願平2-69576号(実開平4-27957号)のマイクロフィルム)、甲第3号証(下記《刊行物3》実願平4-60749号(実開平5-28361号)のCD-ROM)を提出し、特許明細書の請求項1〜29に係る発明は、特許法第29条第1項第3号及び特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである旨主張し、 特許異議申立人 ブリヂストンスポーツ株式会社は、甲第1号証(下記《刊行物4》実願昭51-15044号(実開昭52-108159号)のマイクロフィルム)、甲第2号証(下記《刊行物5》米国特許第5,104,457号明細書)、甲第3号証(下記《刊行物6》特開昭62-97571号公報)、甲第4号証(下記《刊行物7》特開昭62-233176号公報)、甲第5号証(下記《刊行物8》実願昭54-88534号(実開昭56-6471号)のマイクロフイルム)、甲第6号証(下記《刊行物9》実願平1-140193号(実開平3-78573号)のマイクロフィルム)、甲第7号証(下記《刊行物10》日本音響学会編、音響工学講座▲5▼、「騒音・振動(下)」(1993-6-30)コロナ社)、甲第8号証(下記《刊行物1》特開昭63-19168号公報)を提出し、特許明細書の請求項1〜6、8〜13、16〜20、22〜27、29に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである旨主張している。 3-3.取消理由通知の概要 特許明細書の請求項1〜3、請求項13〜21に係る発明は、刊行物1(特開昭63-19168号公報)に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許明細書の請求項1〜3、請求項13〜21に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、 特許明細書の請求項12に係る発明における「スリット」は、図面に記載がなく、明細書の記載のみではその構成が不明確であるから、特許明細書の請求項12に係る発明の特許は、特許法第36条第4、5項の規定に違反してなされたものである。 3-4.刊行物に記載の発明 《刊行物1》特開昭63-19168号公報 特許請求の範囲第1〜4行には、 「金属材料からなるヘッド本体の打球面部に対応する裏面部側に凹部を形成し、かつこの凹部の打球面部に対応する平坦な面に繊維強化部材を添設してなるとともに、」、 第2頁左下欄第16行〜右下欄第18行には、 「図中1は、例えばステンレススチール、鋳鉄あるいは真楡等の金属材料からなるヘッド本体で、その打球面部2が所定のロフト角を呈するように上端縁のブレード部1aから下端縁のソール面部3にかけて肉厚を拡大させてなる断面三角形状を有している。・・・このヘッド本体1の打球面部2に対応する打球方向の裏面部側には、凹部4がほぼ全面に亘って形成され、この凹部4の前記打球面部2に対応する面4aを平坦にして、・・・前記凹部4の平坦な面4a側の内周縁には、オーバーハング部5が全周または部分的に形成されている。このオーバーハング部5には、前記ヘッド本体1の裏面部側に形成した凹部4の打球面部2に対応する面4aに密着状態で接合させて添設された例えばCFRPなどの高弾性率材料からなる繊維強化部材6の外周縁部6aがその脱落を防止し得るように嵌め合わせ係着し、このような繊維強化部材6の前記凹部4への接合により、ヘッド打球面相当部が金属板とCFRPなどの高弾性率材料との2重の複合積層構造になるように構成されている。」、 第3頁左上欄第13〜19行には、 「ヘッド本体1の裏面部側に開口する凹部4の平坦な面4aに繊維強化部材の成形用材料であるFRP成形用生材11を添付し充填するとともに、前記ヘッド本体凹部4の平坦な面4aの周縁に形成したオーバーハング部5に、前記FRP成形用生材11の一部を食い込ませる」、 第3頁左下欄第13行〜最下行には、 「上記したこの発明に係るクラブヘッドの構成によれば、・・・打球時の衝撃に対して、規定された適合範囲内で可動な状態を維持し、このヘッド中央部分の可動による衝撃を、バックアップする高弾性利率材料である繊維強化部材6が吸収して、その反作用によって高い反発力を生み出す」と記載され、 図面第1、2図には、 「ヒールと、トウと、上面と、底面を画成しているソールと、上方後方へ傾斜したフェイスを画成している打球面部2と、を備えた本体部を有するゴルフクラブヘッド」が記載されている。 《刊行物2》実願平2-69576号(実開平4-27957号)のマイクロフィルム 実用新案登録請求の範囲には、 「1.ゴルフクラブヘッドに設けられた凹部に合成樹脂製表示パネルを嵌着したことを特徴とするゴルフクラブヘッド。 ・・・・・・・・・・中略・・・・・・・・・・ 3.前記凹部がフェイス面の裏側に設けられた凹部である」、 明細書第6頁下から2行〜第7頁第5行には、 「本考案に係る表示パネルに使用する合成樹脂は特に制限されず、打球時の衝撃等に耐え得る高強度のものであればよい。 ・・・凹部に上記表示パネルを嵌着する方法は任意であり、例えばあらかじめ作成しておいた表示パネルを凹部に接着しても、・・・よい。」と記載されている。 《刊行物3》実願平4-60749号(実開平5-28361号)のCD-ROM 実用新案登録請求の範囲には、 「【請求項1】実質的に平坦なクラブフェイス前面を持ったボデイと、クラブフェイス前面に取り付けられ、溝が形成された打撃プレートと、クラブフェイス前面と打撃プレートとの間に挟まれた弾性層とを具備し、前記弾性層は・・・・・減衰率を有する粘弾性シートであるゴルフクラブヘッド。 【請求項2】前記打撃プレートと粘弾性層とクラブフェイス前面は、それぞれ互いに接着して取り付けられている」、 段落【0016】には、 「粘弾性材料は、エネルギーが熱となって逃げることにより振幅の大きさを抑制する。」、 段落【0019】には、 「粘弾性シート10は、外側のボデイ前面と打撃プレートの後面とにうまく取り付けることができるように、両面に接着剤が塗布されている。」、 段落【0026】には、 「ボールを打つことによって発生する振動が効果的に吸収され、プレイヤーに快適さを保証する。」と記載されている。 《刊行物4》実願昭51-15044号(実開昭52-108159号)のマイクロフィルム) 第2頁第12行〜第3頁第14行には、 「アイアンクラブのヘッド1の背面にプレートを挿嵌するため・・・凹部2を設ける。該凹部の最下部はプレートが打撃の際の衝撃でアイアンクラブのヘッドより離脱しないようにするために断面形状が逆レ字形の溝4を設けてある。 プレート5は金属板又はプラスチック板で作られ、その表面にはアイアンクラブに関するトレードマーク等の文字、図形が描かれ、プレート最下部6は断面形状が逆レ字形をしていてヘッド背面の凹部の溝4と嵌合するようになっている。該プレートは単に文字、図形を表示するためのみではなくアイアンクラブのウエイト調整を行なう機能も合せて有している。 そして、プレートをアイアンクラブのヘッドの背面の凹部に挿入するに際しては、プレートの背面に接着剤を塗布し、凹部の最下部の逆レ字形の溝4にプレート最下部6を嵌合し両者を圧接固着する。さらにプレートの上端部とアイアンクラブのヘッドとの間に止メピン7を圧入してプレートをアイアンクラブのヘッドに固着し、打撃の際の衝撃によっても離脱しないようにする。」と記載されている。 《刊行物5》米国特許第5,104,457号明細書 第2欄第30〜53行には、 「本発明の方法による鋳造ゴルフクラブヘッドを・・・示す。このゴルフクラブヘッドは、周囲ウエイト付けタイプの6番アイアンである。このゴルフクラブヘッドは、ブレード10と、ネック14のところでブレード10に連結されたホーゼル12とを有する。・・・・・・・・・・・・・・・・ ブレード10の前面は打撃面を形成し、この打撃面には、通常の一連の平行な溝がある。 ブレード10の後面には、中央の、全体的に長円形の凹部が有り、・・・・・すなわち、ヘッドのウエイトは、ブレードの周囲に集められている。・・・凹部20のベース28は平らである。このベース28には、・・・薄い円形くぼみ30が形成されている。 第1図は、円形エンブレム32を示し、この円形エンブレム32の1つの主面34は、全体的に平らである。この円形エンブレム32の反対側の主面34には、浮き出した文字が有り、この場合には、暗い背景の上に文字「AB」がある。・・・エンブレム32の直径は、それがキャビティ20の内側のくぼみ30にぴったりと嵌まるように選ばれる。 エンブレム32は、・・・適当な強力接着剤を使用して、くぼみ30の中に打ち込まれる。」と記載されている 《刊行物6》特開昭62-97571号公報 第2頁左下欄第7〜11行には、 「この発明は、・・・ヘッド本体の打球面部に対応する裏面側にFRPを全面に亘って密着させて裏打ちすることができるようにしたゴルフ用アイアンクラブの製法を提供することにある。」、 第3頁左上欄第18行〜右上欄第10行には、 「このヘッド本体1の打球面部、すなわち、金属薄板からなる打球面部2の打球方向の裏面側には、打球面部2の厚さがヘッド本体の上縁部1a及びソール部1bの厚さより薄くなるように凹部3が形成され、該凹部3の打球面部2に対応する面3aを平坦にして、この平坦な面3aの周縁部にオーバーハング部4を形成するとともに、このオーバーハング部4にその外周縁部5aを嵌合させたCFRPなどの高弾性率材料からなる板状の繊維強化部材5が密着状態で添付され、これにより、ヘッド打球面相当部が金属板とCFRPとの2重の複合積層構造になるように構成されている。」、 第4頁右上欄第16行〜左下欄第2行には、 「オーバーハング部の形成は、FRP板の周囲全長に設けることが好ましいが、必ずしもそれに限ることなくヘッド上下部分又はヘッド前後部分のみに設けることも可能である。また、それらは、必ずしも連続に設けるものとは限らず、不連続に設けることも可能である。」と記載されている。 《刊行物7》特開昭62-233176号公報 第2頁左下欄第3行〜右下欄第3行目には、 「ワックス成型品を形成する金型10は、上型11および下型12から構成されている。上型11には前記ヘッド3の裏側部分のキャビティ13が形成されるとともに下型12には前記ヘッド3のフェース1部分およびソケット4のキャビティ14が形成されている。上記上型11は型本体11aと置中子11bとから構成され、・・・・・置中子11bは前記ヘッド3の重心調整用の凹部2を形成するためのもので、ワックスの注入が終了して硬化するまで型本体11aに固定されており、離型時に・・・型本体11aと分離され、・・・型本体11aの脱型後、ワックス成型品15から取り外される。 このように、置中子11bを設ければ、ヘッド3の凹部2の形状、すなわち、・・・凹部2の最深部の角度θを90°以下の任意の角度に設定したクラブヘッドのワックス成型品を得ることができる。その結果、ロストワックス法においては、ワックス成型品が得られれば、どのような形状の鋳造品も形成することができる」と記載されている。 《刊行物8》実願昭54-88534号(実開昭56-6471号)のマイクロフイルム 第10頁第7〜16行には、 「クラブヘッド40はインベストメント鋳造技術で一体に鋳造する。・・・・・クラブヘッドの本体の上側縁46より下側縁47に至る迄打撃面の後側にスロツト49を延在せしめ、これによって打撃板50を形成する。」、 第22頁第1〜14行には、 「本考案によるクラブヘッドでは衝突によるインパクトエネルギーは打撃板のある面積内にわたりひずみエネルギーとして蓄えられ、この蓄積エネルギーはインパクト後約1/3ミリ秒に生ずるボールのはね返りの際に放出される。・・・・・・・・・ 本考案によるクラブヘッドではインパクトの持続時間も増加し、クラブヘッドがボールにエネルギーを伝達する時間が大となる。この結果ボールに対し一般に高い軌道と高い速度を与える。」と記載されている。 《刊行物9》実願平1-140193号(実開平3-78573号)のマイクロフィルム 第4頁第19行〜第5頁第4行には、 「バランスウェイト9は鉛板等の軟質金属板から成り、片面に両面接着テープ10又は接着剤が設けられている。このバランスウェイト9をクラブヘッド8に接着するには、クラブヘッド8の背面(クラブフェイスと反対側の面)に指でバランスウェイト9を押付けて貼付ける。」と記載されている。 《刊行物10》日本音響学会編、音響工学講座▲5▼、「騒音・振動(下)」(1993-6-30)コロナ社 第20頁の下から第6〜5行には、 「振動して音を放射する箇所には,あらかじめダンピング処理をしたダンピング鋼板が使用される.」と記載されている。 3-5.当審の判断 特許明細書の特許請求の範囲の請求項1〜29に係る発明のうち、請求項1、5、8-29に係る発明は、訂正請求により削除されたから判断する必要はなく、請求項4、2、3、6、7に係る発明は、訂正請求によりそれぞれ本件請求項1、2、3、4、5に係る発明となったから、これらの発明について、以下、検討・判断する。 本件請求項1に係る発明と上記刊行物1に記載の発明とを対比すると、 後者の「打球面部2」、「凹部4」、「オーバーハング部5」は、前者の「正面壁部」、「主凹部」、「アンダーカット凹部」にそれぞれ相当すると認められ、 後者の「繊維強化部材6」は、打球面部2がゴルフボールと衝突するときに発生する可聴振動を減衰させる機能を有すると認められるので、前者の「可聴振動を減衰させるための減衰手段」に相当すると認められ、 両者は、以下の点で相違する他は一致するものと認められる。 (相違点) 正面壁部がゴルフボールと衝突するときに発生する可聴振動を減衰させるための減衰手段が、前者は、「薄板と、該薄板を正面壁部に貼着するための粘着剤ないし接着剤とを含んでいる」のに対して、 後者は、「凹部4(主凹部)に充填され、オーバーハング部5(アンダーカット凹部)により脱落を防止された繊維強化部材6」である点。 そこで、上記相違点について検討すると、上記刊行物3には、「クラブフェイス前面と打撃プレートとの間に、接着剤で接着して取り付けられた粘弾性シートにより、ボールを打つことによって発生する振動が効果的に吸収される」旨記載され、この記載における「粘弾性シートと接着剤」は、打撃プレートがゴルフボールと衝突するときに発生する可聴振動を減衰させる機能を有すると認められるので、本件請求項1に係る発明の「薄板と粘着剤ないし接着剤」に相当すると認められるが、甲第1号証記載のものにおいて、「繊維強化部材6」に代えて「粘弾性シート」を「接着剤」で接着すると、「繊維強化部材6」の脱落を防止する「オーバーハング部5(アンダーカット凹部)」は必要ないものとなるから、上記刊行物1に記載の発明に上記刊行物3に記載の発明を適用しても、本件請求項1に係る発明の構成とはならない。 また、上記刊行物2、4〜10のいずれにも、上記相違点における本件請求項1に係る発明の構成は記載されておらず、また、その構成を示唆する記載もない。 したがって、本件請求項1に係る発明は、上記刊行物1〜10に記載された発明であるとも、また、上記刊行物1〜10に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいうことはできない。 また、本件請求項2〜5に係る発明は、本件請求項1に係る発明を引用したものであるから、上記本件請求項1に係る発明と同じ理由により、上記刊行物1〜10に記載された発明であるとも、また、上記刊行物1〜10に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいうことはできない。 3-6.むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1〜5に係る発明の特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1〜5に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 可聴振動を減衰させるゴルフクラブヘッド (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】ヒールと、トウと、上面と、底面を画成しているソールと、上方後方へ傾斜したフェイスを画成している正面壁部と、を備えた本体部を有するゴルフクラブヘッドにおいて、 a)前記本体部が主凹部を画成しており、該主凹部は、前方へ向かって窪んだ形状であって、前記正面壁部の背後に位置しており、 b)前記本体部が更にアンダーカット凹部を画成しており、該アンダーカット凹部は、 i)前記上面と、 ii)前記底面と、 iii)前記トウと、 iv)前記ヒールと、 のうちの少なくとも1つへ向かって前記主凹部から外方へ張り出した形状であって、前記正面壁部の直後に位置しており、 c)前記正面壁部がゴルフボールと衝突するときに発生する可聴振動を減衰させるための減衰手段を、前記主凹部の前端部分の前記正面壁部に設け、 d)前記減衰手段が、薄板と、該薄板を前記正面壁部に貼着するための粘着剤ないし接着剤とを含んでいることを特徴とするゴルフクラブヘッド。 【請求項2】前記正面壁部が背面を有しており、前記減衰手段が該背面に取付けられて前記主凹部及び前記アンダーカット凹部へ完全に露出していることを特徴とする請求項1記載のゴルフクラブヘッド。 【請求項3】前記アンダーカット凹部が前記減衰手段の周囲に延在していることを特徴とする請求項1記載のゴルフクラブヘッド。 【請求項4】前記薄板が外周縁部を有しており、前記正面壁部の前記背面には浅く窪ませた凹部を形成してあり、該凹部に、前記薄板を、該薄板の前記外周縁部がぴったりと収まるようにして収容していることを特徴とする請求項2記載のゴルフクラブヘッド。 【請求項5】前記薄板が、幅広の中央部分と、夫々に略々前記ヘッドの前記トウと前記ヒールとへ向かって両側へ突出した2つのウイング部とを有することを特徴とする請求項2記載のゴルフクラブヘッド。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】 本発明は、広くはゴルフクラブに関するものであり、より詳しくは、ゴルフボールにインパクトする際の可聴音の減衰や耐捩れ性、更にはストロークの際のゴルフボールヘの運動量の遅延伝達等々の利点を達成する、改良した構造のアイアンクラブに関するものである。 【0002】 【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】 これまでアイアンクラブのヘッドは、フラットバック構造から中空バック構造へと発展してきたが、本発明は、ヘッドのバック構造に更に改良を加えて、仮想的ヘッド拡大効果を達成すると共に、ヘッドがゴルフボールにインパクトする際に発生する可聴音を減衰させるものである。 【0003】 アイアンクラブのヘッドの設計に際しては、ヘッドがゴルフボールにインパクトする際にヘッドからゴルフボールへ伝達されるエネルギをより大きくするための多くの努力が払われてきた。しかしながら、本発明者が知る限りでは、本発明が達成した新規にして独創的な方式で、ヘッドのフェイスとボールとが接触している非常に短い時間の間に運動量をボールへ遅延伝達させる方法は、これまで知られていなかった。また、そのようなエネルギの遅延伝達とヘッドの耐捩れ性とを後に説明するような方式で組合せる方法もこれまで知られていなかった。 【0004】 更に、後に説明するように、重量を偏らせて配分する重点的重量配分の結果としてヘッドの正面壁部の周辺部分の剛性が低下している場合に、その正面壁部がゴルフボールにインパクトする際に発生する可聴音を減衰させる方法も、これまで知られていなかった。 【0005】 【課題を解決するための手段】 本発明の主目的の1つは、アイアンクラブのストロークの際に運動量をボールへ遅延伝達したいという要望に応えることができ、可聴振動を減衰させることができ、更には、ヘッドの耐捩れ性を向上させることのできる、改良したアイアンクラブのヘッド構造を提供することにある。基本的に本発明は、ヘッドの金属製の本体部の構造として具体化されるものであり、その本体部は、ヘッドの正面壁部の後方に位置して互いに交わる2つの凹部を画成する。それら2つの凹部は、ヘッドのフェイスの周辺領域に近接した位置から該周辺領域の後方へ向かって突出した、ヘッドの金属材料から成る後方突出部によって画成される。このヘッドは、具体的には、例えば次の特徴を備えたものである。 a)前記本体部が主凹部を画成しており、該主凹部は、前方へ向かって窪んだ形状であって、前記正面壁部の背後に位置していること。 b)前記本体部が更にアンダーカット凹部を画成しており、該アンダーカット凹部は、 i)前記上面と、 ii)前記底面と、 iii)前記トウと、 iv)前記ヒールと、 のうちの少なくとも1つへ向かって前記主凹部から外方へ張り出した形状であって、前記正面壁部の直後に位置していること。 c)更に、前記正面壁部がゴルフボールと衝突するときに発生する可聴振動を減衰させるための減衰手段を、前記主凹部の前端部分の、前記正面壁部に設けたこと。 d)前記減衰手段は、薄板と、該薄板を前記正面壁部の前記背面へ貼着する粘着剤ないし接着剤とを含む。 【0006】 前記正面壁部の前記背面には、それら薄板及び粘着剤ないし接着剤を収容するための凹部を形成するようにしても良い。更に、前記アンダーカット凹部は、前記減衰手段の前記薄板の周縁部から離れて、前記上面と前記底面との両方へ向かって、また、前記トウと前記ヒールとへ向かって、前記主凹部と交わった部分から外方へ張り出すように形成し、それによって前記アンダーカット凹部が前記主凹部の境界にそって延在するようにしても良い。この構造は更に、前記本体部のうちの前記アンダーカット凹部より後方にある金属材料の部分の運動量が、このヘッドの周辺領域を介して前方へ、従って前記正面壁部及び前記フェイスへ伝達するのを僅かに遅らせるのに役立っている。尚、後に説明するように、スリットを設けることによって、ヘッドの周辺領域が局部的にのみ存在するようにしても良い。 【0007】 一般的には、後に詳述するように、前記アンダーカット凹部を形成することによって、前記正面壁部の周縁部のすぐ後方の部分ではヘッドの金属材料の肉厚が薄くなり、その場所にウェブ部が形成される。この場合、一般的には、前記アンダーカット凹部を、上方へは、ヘッドの長さ方向に亙って正面壁部のフェイスの上縁部の後方位置へ張り出すように形成し、下方へは、ヘッドの長さ方向に亙って正面壁部のフェイスの下縁部の後方位置へ張り出すように形成する。こうすることによっても、ヘッドの金属材料のうちの幾分かを、環状空間を形成しているアンダーカット凹部から後方へ突出した後方突出部に重点的に配分することが可能になるため、ヘッドの周辺重量化を強化して耐捩れ効果を高めることが可能になる。また、減衰手段を備えることによって、前記正面壁部が音を発生する傾向を部分的に、ただし大幅に低減することができる。 【0008】 本発明の更なる目的は、後に詳述するように、アイアンクラブの傾斜したフェイスに対して略々平行な環状空間を成して延在するアンダーカット凹部を提供することにある。前述のスリットは、後に詳述するように、この環状空間へ向かって延在するように形成する。また、この環状空間の傾斜角は、例えば1番アイアン〜9番アイアンや各種のウェッジ類のように、様々なフェイス傾斜角を指定しているアイアン番号ごとに異なる。 【0009】 本発明の更なる目的は、前記底面へ向かって張り出すように形成した前記アンダーカット凹部から後方へ突出した、前記底面と前記主凹部との間に位置する、上方へ厚くした後方突出部を備えたヘッドを提供することにある。また、このヘッドは更に、前記上面へ向かって張り出すように形成した前記アンダーカット凹部から後方へ突出した、前記上面と前記主凹部との間に位置する、下方へ厚くした後方突出部を備えたものとしても良い。 【0010】 本発明の更なる目的は、複数のアイアンクラブから成るアイアンクラブセットを提供することにあり、このアイアンクラブセットにおいては、各アイアンクラブが、互いに交わる2つの凹部を備えると共に、後に詳述するように可聴振動の減衰機能を備えており、また、そのアイアンクラブのフェイス傾斜角の大小に関わらず、前記後方突出部が略々水平に延在しているようにしたものである。 【0011】 【実施例】 以下に添付図面を参照しつつ本発明の実施例について説明して行く。先ず図1〜図3について説明すると、それらの図に示したゴルフクラブヘッド10はアイアンクラブセットのうちの6番アイアンの形状のものである。このヘッド10は本体部11を有し、この本体部11は、ヒール12、トウ13、上面14、及びソール(底面)15を画成している。ソール15には、そのヘッド背面に近い側に、図示の如く、面取りを施したような形状の面15c’を形成してある。本体部11は、更に、上方後方へ傾斜したフェイス16を画成しており、このフェイス16は、それに関連した正面壁部17の前面側の面である。参照符号18で示したホーゼルは、オフセット部18aを介してヘッド10に一体に連なっており、このホーゼル18に形成した貫通孔18bの中に、図示の如くシャフト19が挿入されている。シャフト19は、適当な方法で貫通孔18bに固定されており、ここで適当な方法としては、例えば接着剤を用いるという方法や、機械的に固定するという方法等がある。これに関しては例えば米国特許第5042806号を参照されたい。尚、同米国特許の開示はこの言及をもって本開示に組み込むものとする。ヘッド10及びホーゼル18は、金属材料を使用してワンピース構造の鋳造品として製作することができ、金属材料としては、スチールや、その他の金属材料ないし合金等を使用することができる。 【0012】 本体部11は、互いに交わった2つの凹部を画成している。それら2つの凹部は、本体部11の、前後方向に細長い夫々の突出部に関係したものであり、それら突出部は、後に説明するように、ヘッド10のフェイス16の傾斜角の大きさにかかわらず一般的に後方へ向かって延在している。それら2つの凹部は、前後方向に延在している主凹部21と、この主凹部21の前端領域から外方へ張り出すように形成したアンダーカット凹部22との2つであり、アンダーカット凹部22は、 i)上面14と、 ii)底面(ソール)15と、 iii)トウ部13と、 iv)ヒール部12と、 のうちの少なくとも3つへ向かって前記主凹部から外方へ張り出した形状に形成し、また、正面壁部17の直後に位置するように形成する。 【0013】 一般的には、アンダーカット凹部22のうち、上面14へ向かって張り出した部分14aと底面15へ向かって張り出した部分15aとが、ヘッド10の全長の大部分に亙ってトウ-ヒール方向に延在する細長い形状となるようにし、そうすることによって様々な利点が強化される。強化される利点のうちには、金属材料がヘッド10の上縁部及び下縁部に重点配分されて後方突出部24及び25が形成されるため、クラブのストローク時、並びにボールヘのインパクト時の、ヘッドの対捩れ性が向上するということがある。このように金属材料が、アンダーカット部分14a及び15aの後方に形成されている後方突出部24及び25を成して後方へ重点分配されるということは、ヘッド10が前後方向に長くなると共に、ヘッド10がその機能に関して外方へ広がる(拡大効果)ということに他ならず、これらのことは、金属材料の後方突出部24及び25から正面壁部17及びフェイス16への運動量の伝達を幾分なりとも遅延させていると考えられ、この運動量の遅延伝達によって、ストロークに際して、フェイス16とボールとの接触時間がより長く維持され、打球のコントロールが改善される。 【0014】 以上の効果は、フェイス16から後方へ離隔してこのフェイス16に対して略々平行に延在し、アンダーカット部14aと後方突出部24の上面とに交わる、少なくとも1本の細長いスリットを設けることによって更に強化することができる。 【0015】 前述の運動量の伝達は、前方進行波の形で視覚化し得るものであり、この運動量の伝達においては、運動量は必然的に、後方突出部分24及び25の薄肉の前方部分14b及び15bと、トウに近い隅部54及び55と、ヒールに近い隅部56及び57とを経由して伝達することになり、そして、それら限られた狭い領域部分14b、15b、54、55、56、57を経由することによって生じる運動量ないし慣性力の伝達における遅延は、外方へ向かって窪んだ面を形成している14c及び15cの部分や、アンダーカット部分14a及び15aの外方領域を画成しているその他の同様の薄肉形状部分によって更に拡大される。このように打ったボールヘの運動量の伝達に遅延が導入されるために、ボールのストロークと、その方向コントロールとがより良好に行なわれるという点において、優れた性能が達成される。 【0016】 アンダーカット凹部22のうちの、ヒールへ向かって張り出した部分12aとトウへ向かって張り出した部分13a、並びにそれらアンダーカット部分12a及び13aを形成したためにもたらされた、隅部54〜57における、それらアンダーカット部分から後方へ及び機能的に外方への、金属材料の重点配分(即ち拡大効果)によって、それら隅部54〜57における、前述のアンダーカット部分14a及び15aについて説明したのと同じ効果が増強されている。アンダーカット凹部22の外方への張り出し量をW1(この張り出し量W1は図示の如く夫々の場所によって幾分異なる)とするとき、アンダーカット凹部22の前後方向の厚さt1がこの張り出し量W1に対して、略々次の式に示す関係を成すようにしている。 0.5t1<W1<1.5t1 又、アンダーカット凹部の張り出し量を、ヒールとトウ付近で上方に向って次第に小さくしてある。 【0017】 アンダーカット凹部22の張り出した先端部の曲率半径14c及び15cは、1番アイアン〜7番アイアンでは0.150インチ(約3.8mm)〜0.160インチ(約4.1mm)とし、8番アイアン及び9番アイアンでは0.210インチ(約5.3mm)〜0.23インチ(約5.8mm)とし、そして、ピッチングウェッジでは0.300インチ(約7.6mm)〜0.320インチ(約8.1mm)とするのが一般的である。ただし、幾分これらと異なった寸法にしても良い。 【0018】 更には、トウへ向かって張り出しているアンダーカット部分13aから後方へ延出している後方突出部27と、ヒールへ向かって張り出しているアンダーカット部分12aから後方へ延出している後方突出部26とは、厚さ方向の寸法と比べて後方突出寸法の方が大きい。そのため図示のように、金属材料がそれら後方突出部26、27に重点配分され、ヘッド10の全体としての鉛直方向の寸法を増大させることなく前述の効果が高められている。 【0019】 更に、主凹部21の、内隅部29と30との間の寸法は、それら内隅部29、30から外方へ張り出したアンダーカット部分14a及び15aの各々の張り出し寸法の少なくとも3倍にするようにしている。後方突出部24の内側面32と後方突出部25の内側面33とはいずれも、ヘッドの前後方向には略々平坦な形状であるが、ただし、それら内側面32、33は、それらに対応した、後方突出部26の湾曲した内側面34及び後方突出部27の湾曲した内側面35と共に、環状空間を画成しており、即ち、それら内側面32、33、34、35は、「スイートスポット」を包含するフェイス16の主要面領域の輪郭を成して環状に延在している。全てのアンダーカット部分12a、13a、14a及び15aも、それら内側面32〜35に対応した環状の構造を画成するようにしておくことが好ましい。 【0020】 アイアンクラブセットの中の、1番アイアン〜5番アイアンや7番アイアン〜9番アイアンも、フェイスの角度を異ならせる以外は図示の6番アイアンと同一構造で構成することができ、従ってアイアンクラブセットの中のどのアイアンにも本発明を適用することができる。 【0021】 次に図1、図2、図4及び図5について説明すると、正面壁部17にはフェイス16がボールに衝突したときに発生する可聴振動を減衰させるための減衰手段を設けてあり、この減衰手段は、主凹部21の前端部分に位置している。 【0022】 一般的には、この減衰手段を正面壁部17の背面17aに取付けて、この減衰手段が主凹部21とアンダーカット凹部22との両方へ完全に露出するようにしており、また、アンダーカット凹部22が、この減衰手段から離隔してこの減衰手段の周囲に延在するようにしている。この減衰手段の具体例は、図示の如く、薄板450(図5参照)と、この薄板450を正面壁部17の背面17aに貼着する粘着剤ないし接着剤の薄層451とから成るものである。図6に示したように、粘着剤ないし接着剤の薄層451は、例えば、テープ基材451aの両面に粘着剤層451b、451cを形成した両面粘着テープ451とし、この両面粘着テープ451を、薄板450と正面壁部17の背面17aとに貼着するようにすれば良い。 【0023】 正面壁部17の背面17aには、図示の如く浅く窪ませた凹部17a’を形成してあり、この凹部17a’の中に、粘着テープ451及び薄板450を、それらの外周縁部がぴったりと収まるようにして収容している。正面壁部17の背面17aには更に、粘着テープ451及び薄板450の外周縁部にそった形状の、後方へ浮き出させた突条部454を形成してある。薄板450並びに粘着テープ451は、互いに同形状の中央平坦部450d及び451dを有すると共に、そこから両側へ、即ちヒール側とトウ側とへ延出した、薄板450の2つのウイング部450e及び450fと、それに対応した粘着テープ451の2つのウイング部451e及び451fとを有する。薄板450並びに粘着テープ451の全体は、ヘッドの正面壁部17の背面17aと略々同一平面上に位置しており、正面壁部17と共に前後方向に振動することによって正面壁部17の振動を減衰させる。薄板450が後方へ突出している部分の面積(即ち、薄板450の面積)は、この薄板450に平行な平面で切断した主凹部21の断面積の25%〜75%に相当する面積になるようにしている。更にこの薄板450の面積は、主凹部21とアンダーカット凹部22との両方によって画成されている、正面壁部17の背面17aの面積の20%〜65%になるようにしている。 【0024】 一般的には、薄板450は、金属製の板とするようにしており、例えばアルミニウム板等を使用することができる。アルミニウム板を使用した場合の寸法の例を挙げると、例えば厚さを0.02インチ(約0.5mm)〜0.05インチ(約1.3mm)とし、総面積を0.35平方インチ(約2.3cm2)〜0.75平方インチ(約4.8cm2)とすることができる。また、粘着テープ451の具体例を挙げるならば、例えばそのテープ基材451aは紙製とし、粘着剤はエポキシ樹脂から成るものとすることができる。 【0025】 薄板450には、その表面にマーク470を付けて、主凹部21の奥にそのマーク470が見えるようにしておいても良い。この場合には例えば、マークを記した転写紙を薄板450に貼り付けるようにすれば良い(図6参照)。 【図面の簡単な説明】 【図1】 本発明を組み込んだゴルフクラブセットのうちの6番アイアンのヘッドの背面図である。 【図2】 図1の2-2線に沿った断面図である。 【図3】 図1の3-3線に沿った断面図である。 【図4】 図1に示したヘッドの上面図である。 【図5】 図2と同様の垂直断面図であるが、ただし一部分を拡大して示した断面図である。 【図6】 図5を更に拡大して、ヘッドに取付けた薄板とその粘着手段とを示した断面図である。 【符号の説明】 10 ゴルフクラブヘッド 11 本体部 12 ヒール 13 トウ 14 上面 15 底面(ソール) 16 フェイス 17 正面壁部 21 主凹部 22 アンダーカット凹部 450 薄板 451 粘着テープ |
訂正の要旨 |
本件特許第2792642号の訂正事項は、以下のとおりである。 〔I〕特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的として、特許明細書特許請求の範囲を以下のとおりに訂正する。 「 【請求項1】ヒールと、トウと、上面と、底面を画成しているソールと、上方後方へ傾斜したフェイスを画成している正面壁部と、を備えた本体部を有するゴルフクラブヘッドにおいて、 a)前記本体部が主凹部を画成しており、該主凹部は、前方へ向かって窪んだ形状であって、前記正面壁部の背後に位置しており、 b)前記本体部が更にアンダーカット凹部を画成しており、該アンダーカット凹部は、 i)前記上面と、 ii)前記底面と、 iii)前記トウと、 iv)前記ヒールと、 のうちの少なくとも1つへ向かって前記主凹部から外方へ張り出した形状であって、前記正面壁部の直後に位置しており、 c)前記正面壁部がゴルフボールと衝突するときに発生する可聴振動を減衰させるための減衰手段を、前記主凹部の前端部分の前記正面壁部に設け、 d)前記減衰手段が、薄板と、該薄板を前記正面壁部に貼着するための粘着剤ないし接着剤とを含んでいることを特徴とするゴルフクラブヘッド。 【請求項2】前記正面壁部が背面を有しており、前記減衰手段が該背面に取付けられて前記主凹部及び前記アンダーカット凹部へ完全に露出していることを特徴とする請求項1記載のゴルフクラブヘッド。 【請求項3】前記アンダーカット凹部が前記減衰手段の周囲に延在していることを特徴とする請求項1記載のゴルフクラブヘッド。 【請求項4】前記薄板が外周縁部を有しており、前記正面壁部の前記背面には浅く窪ませた凹部を形成してあり、該凹部に、前記薄板を、該薄板の前記外周縁部がぴったりと収まるようにして収容していることを特徴とする請求項2記載のゴルフクラブヘッド。 【請求項5】前記薄板が、幅広の中央部分と、夫々に略々前記ヘッドの前記トウと前記ヒールとへ向かって両側へ突出した2つのウイング部とを有することを特徴とする請求項2記載のゴルフクラブヘッド。」と訂正する。 〔II〕明りようでない記載の釈明を目的として、特許明細書の段落【0005】及び段落【0006】の記載を、 「 【0005】 【課題を解決するための手段】 本発明の主目的の1つは、アイアンクラブのストロークの際に運動量をボールへ遅延伝達したいという要望に応えることができ、可聴振動を減衰させることができ、更には、ヘッドの耐捩れ性を向上させることのできる、改良したアイアンクラブのヘッド構造を提供することにある。基本的に本発明は、ヘッドの金属製の本体部の構造として具体化されるものであり、その本体部は、ヘッドの正面壁部の後方に位置して互いに交わる2つの凹部を画成する。それら2つの凹部は、ヘッドのフェイスの周辺領域に近接した位置から該周辺領域の後方へ向かって突出した、ヘッドの金属材料から成る後方突出部によって画成される。このヘッドは、具体的には、例えば次の特徴を備えたものである。 a)前記本体部が主凹部を画成しており、該主凹部は、前方へ向かって窪んだ形状であって、前記正面壁部の背後に位置していること。 b)前記本体部が更にアンダーカット凹部を画成しており、該アンダーカット凹部は、 i)前記上面と、 ii)前記底面と、 iii)前記トウと、 iv)前記ヒールと、 のうちの少なくとも1つへ向かって前記主凹部から外方へ張り出した形状であって、前記正面壁部の直後に位置していること。 c)更に、前記正面壁部がゴルフボールと衝突するときに発生する可聴振動を減衰させるための減衰手段を、前記主凹部の前端部分の、前記正面壁部に設けたこと。 d)前記減衰手段は、薄板と、該薄板を前記正面壁部の前記背面へ貼着する粘着剤ないし接着剤とを含む。 【0006】 前記正面壁部の前記背面には、それら薄板及び粘着剤ないし接着剤を収容するための凹部を形成するようにしても良い。更に、前記アンダーカット凹部は、前記減衰手段の前記薄板の周縁部から離れて、前記上面と前記底面との両方へ向かって、また、前記トウと前記ヒールとへ向かって、前記主凹部と交わった部分から外方へ張り出すように形成し、それによって前記アンダーカット凹部が前記主凹部の境界にそって延在するようにしても良い。この構造は更に、前記本体部のうちの前記アンダーカット凹部より後方にある金属材料の部分の運動量が、このヘッドの周辺領域を介して前方へ、従って前記正面壁部及び前記フェイスへ伝達するのを僅かに遅らせるのに役立っている。尚、後に説明するように、スリットを設けることによって、ヘッドの周辺領域が局部的にのみ存在するようにしても良い。」と訂正する。 |
異議決定日 | 1999-11-15 |
出願番号 | 特願平6-218940 |
審決分類 |
P
1
651・
113-
YA
(A63B)
P 1 651・ 121- YA (A63B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 小島 寛史、長谷部 善太郎 |
特許庁審判長 |
馬場 清 |
特許庁審判官 |
白樫 泰子 外山 邦昭 |
登録日 | 1998-06-19 |
登録番号 | 特許第2792642号(P2792642) |
権利者 | キャラウェイ・ゴルフ・カンパニ |
発明の名称 | 可聴振動を減衰させるゴルフクラブヘッド |
代理人 | 今城 俊夫 |
代理人 | 北村 博 |
代理人 | 小川 信夫 |
代理人 | 小林 泰 |
代理人 | 小林 泰 |
代理人 | 社本 一夫 |
代理人 | 栗田 忠彦 |
代理人 | 村社 厚夫 |
代理人 | 今井 庄亮 |
代理人 | 宍戸 嘉一 |
代理人 | 栗田 忠彦 |
代理人 | 増井 忠弐 |
代理人 | 今井 庄亮 |
代理人 | 熊倉 禎男 |
代理人 | 竹内 英人 |
代理人 | 増井 忠弐 |
代理人 | 大塚 文昭 |
代理人 | 飯田 圭 |
代理人 | 社本 一夫 |
代理人 | 中村 稔 |