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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 F04C |
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管理番号 | 1009098 |
異議申立番号 | 異議1999-71181 |
総通号数 | 8 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1998-02-24 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 1999-03-30 |
確定日 | 1999-12-13 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第2804928号「スクロール流体機械」の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第2804928号の特許を維持する。 |
理由 |
I.手続きの経緯 本件特許第2804928号の出願は、昭和56年9月14日に出願された特願昭56-143864号(以下、親出願という)の一部を特許法第44条第1項の規定により平成3年4月15日に分割出願した特願平3-82611号(以下、子出願という)を原出願として、その一部を特許法第44条第1項の規定により平成9年4月25日に分割して新たな特許出願としたものであって、その特許請求の範囲に記載された発明は、平成10年7月17日にその特許の設定登録がなされ、その後、本件特許請求の範囲に記載された発明に対して、松下電器産業株式会社より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成11年10月18日に訂正請求がなされたものである。 II.訂正の適否についての判断 1.訂正の内容 【図面】に関する訂正 本件特許の図1及び図3(親出願の願書に添付した図面第7図及び第11図のオルダムリングの平面形状をもとに、分割出願の際に、オルダムリングの平面形状を補正したが、親出願の願書に添付した図面第7図及び第11図に示されたオルダムリングの平面形状は平行部分を有しないのに対して、本件特許の図面図1及び図3に示されたオルダムリングの平面形状は平行部分を有している点)を、図1及び図3(オルダムリングの平面形状は平行部分を有せず、長円形とする点)に訂正する。 2.訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無及び拡張・変更の存否 親出願の願書に添付した明細書及び第7図、第11図には、オルダムリング(15、20と21)は「楕円形状に形成」と記載されていると共に、オルダムリングの平面形状は平行部分を有しないように図示されている。一方、子出願の願書に添付した明細書には、オルダムリング(15)は「非円形リング」又は「長円形」と記載されていると共に、図1、図3にはオルダムリングの平面形状は平行部分を有しているように図示されている。 図面については、特許法は必要な図面の提出を規定しているだけであり、図面はその実施例を具体的に示し、明細書に記載された発明の構成をより理解しやすくするためのいわば補助的機能を有するものと認められる。 そして、長円と楕円についての形状を対比・検討すると、長円は楕円に同じと認められる。(例えば、「広辞苑」第1版第5刷発行、S33年発行、岩波書店、1400頁,「マグローヒル科学技術用語大辞典」第2版、1985年発行、日刊工業新聞社、1029頁参照) 以上のことから、本件特許の願書に添付した明細書には、「長円形オルダムリング」と記載されているので、オルダムリングの平面形状が平行部分を有せず、長円形とするように図1及び図3と訂正することは、図面と明細書の記載を整合させるものであり、明瞭でない記載の釈明に該当する。 そして、この訂正は願書に添付した明細書の範囲内の訂正であり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 3.むすび 以上のとおりであるから、上記訂正請求は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項で準用する第126条第2、3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 III.特許異議申立てについての判断 1.本件発明 本件特許の特許請求の範囲に記載された発明の要旨(以下、本件発明という)は、訂正された明細書及び図面の記載から見て、その特許請求の範囲に記載された次のとおりものであると認められる。 「端板およびそれに直立した渦巻状のラップを有する固定スクロールと;固定スクロール端板周部を固定するフレームと;端板およびそれに直立した渦巻状のラップを有し、ラップを互いに内側にして固定スクロールと噛み合って固定スクロールとフレームとに囲まれて配置された旋回スクロールと;旋回スクロール端板とフレームとの問に配置されたオルダムリング、ならびに、オルダムリングをフレームに対しては第1の径方向のみに、および旋回スクロールに対しては上記第1の径方向とは直角な第2の径方向のみに移動可能とする様にオルダムリングとフレームおよび旋回スクロール端板とを夫々係合させるオルダムリング-フレーム間係合手段およびオルダムリング-旋回スクロール端板間係合手段とを有し、旋回スクロールの自転を阻止しながら固定スクロールに対するその旋回運動を許す自転防止機構と;旋回スクロールを固定スクロールに対して旋回運動させる駆動機構とを備えたスクロール流体機械において、前記オルダムリングは相直交する2つの対称軸を有し且つそのうちの1つの対称軸方向(短径方向)におけるリング径が他の1つの対称軸方向(長径方向)におけるリング径よりも短い長円形オルダムリングであり、該長円形オルダムリングはその短径方向および長径方向のうちの1者および他者が前記第1の径方向乃至第2の径方向に夫々一致する様に配置してなり、かつ前記長円形オルダムリングの短径方向の長さを前記旋回スクロールと前記駆動機構の係合部の外径部より大きく、前記長円形オルダムリングの長径方向の長さを前記旋回スクロール部材の外径より小さくしたことを特徴とするスクロール流体機械。」 2.異議申立ての理由の概要 これに対して、異議申立人松下電器産業株式会社は、証拠として、甲第1号証【特開昭58-47101号公報(特願昭56-143864号、即ち親出願の公開公報】及び甲第2号証【特開昭62-124324号公報、(当審が通知した取消理由で引用した刊行物)】を提出し、“本件発明は、特願昭56-143864号(親出願)の最初の明細書又は図面に記載された事項の範囲外の事項をその要旨に含むものであり、本件発明は、不適法な分割出願であるから、出願日の遡及は認められず、その出願日は、特願平3-82611号(子出願)の出願日である平成3年4月15日である。従って、本件発明は、その出願前に頒布された甲第2号証刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、同法第113条第2号の規定により取消されるべきである。”旨主張している。 3.出願日の遡及とその判断 (1)異議申立人松下電器産業株式会社は、 “親出願には、オルダムリング摺動面の焼付きを防止することを目的とし、摺動部をキースライド方式からころがり方式に換えることを特徴とし、その実施例(第7,8,9,11,12図参照)として、楕円形のオルダムリング(15,20)の一方向(短径方向)に球軸受又はローラ軸受(18)を、他方向に構(15a,20a)を設けること、および前記軸受け(18)が楕円の短径側の外側に突出した突起部(15b,20b)に設けられていることについて記載されている。しかしながら、親出願の明細書および図面には、親出願の図面に一切開示されていない本件発明の図1〜図4に示された本件発明の各実施例のように、オルダムリングの小型軽量化を目的とし、オルダムリングの一方向(第1の方向)と他方向(第2の方向)にそれぞれ溝又はキーを設け、これに対応するフレームと旋回スクロールには、それぞれ溝又はキーを設けることについては記載されていない。すなわち、本件発明の各実施例は前記突起部(15b,20b)とその軸受け(18)を除去して、摺動部をすべてキースライド方式に換え、これを長円形オルダムリングに適用することにより、小型軽量化を図るものであるが、このような事項は親出願の明細書および図面には開示されていない。 さらに、本件発明の構成要件である「オルダムリングとフレームおよび旋回スクロール端板とを夫々係合させるオルダムリング-フレーム間係合手段およびオルダムリング-旋回スクロール端板間係合手段」は、オルダムリングとフレームおよび旋回スクロール端板とをそれぞれ係合される摺動部をすべてキースライド方式に換え、これを長円形オルダムリングに適用する構成を含むものある。 以上のことから、本件発明の構成要件である「オルダムリング-フレーム間係合手段」および「オルダムリング-旋回スクロール端板間係合手段」は親出願に開示されている球軸受又はローラ軸受を含まないものであるから、本件発明の該構成は、親出願の明細書又は図面に記載された事項の範囲外の事項をその要旨に含むものであり、本件発明は、不適法な分割出願である”旨主張している。 しかしながら、 ▲1▼本件発明の構成要件である「オルダムリングをフレームに対しては第1の径方向のみに、および旋回スクロールに対しては上記第1の径方向とは直角な第2の径方向のみに移動可能とする様にオルダムリングとフレームおよび旋回スクロール端板とを夫々係合させるオルダムリング-フレーム間係合手段およびオルダムリング-旋回スクロール端板間係合手段とを有する」(以下、構成(イ)という)点は、本件発明の実施例としてオルダムリングの一方向(第1の方向)と他方向(第2の方向)にそれぞれ溝又はキーを設け、これに対応するフレームと旋回スクロールには、それぞれ溝又はキーを設けることが記載されていても、係合手段としての具体的構成を限定したものではない。したがって、該係合手段は親出願に開示されている球軸受又はローラ軸受も含むし、従来周知又は慣用手段である溝又はキーから成るキースライド方式も含むものである。以上のことから、該構成(イ)は親出願及び子出願の出願当初の明細書又は図面に記載された事項の範囲内と認められる。 ▲2▼親出願の願書に添付した明細書又は図面には、本件発明の図1〜図4の実施例は直接的に記載されていないが、本件発明の構成要件である楕円形オルダムリングの平面形状が明瞭に開示されており、該楕円形オルダムリングにオルダムリングと旋回スクロールないしフレームとの夫々の係合部に従来周知又は慣用の手段である溝又はキーから成るキースライド方式を結びつけることは当業者において自明な事項である。したがって、本件発明の図1〜図4に示された実施例は、親出願及び子出願の出願当初の明細書又は図面に記載された事項の範囲内と認められる。 ▲3▼本件発明の構成要件である「オルダムリングは相直交する2つの対称軸を有し且つそのうちの1つの対称軸方向(短径方向)におけるリング径が他の1つの対称軸方向(長径方向)におけるリング径よりも短い長円形オルダムリング」(以下、構成(ロ)という)は、上記II.2で示したように親出願及び子出願の出願当初の明細書に記載された事項の範囲内と認められる。 ▲4▼親出願の願書に添付した明細書又は図面には、実施例として円形オルダムリング(第19図)をそなえたスクロール流体機械と、楕円形オルダムリング(第7図及び第11図)をそなえたスクロール流体機械が記載されている。例えば親出願の明細書及び図面の第7図或いは第11図記載の楕円形オルダムリングを円形オルダムリングとするならば、オルダムリング自体が大型化し、さらに外径に設けた突起部に設けられたローラ軸受の位置がより外方向に移動するから、それに適合するために旋回スクロールやフレームに設けられる溝の位置もそれに対応してその外側になければならず、その結果スクロール流体機械全体が大型化し、当然問題点を抱えることになる。つまり、楕円形オルダムリングを形成するには、円形オルダムリングの1つの対称軸を短径にして形成するのは当業者にとって自明である。以上のことから、本件発明の構成要件である「1つの対称軸方向(短径方向)におけるリング径が他の1つの対称軸方向(長径方向)におけるリング径よりも短い長円形オルダムリング」は、必然的にオルダムリング及びスクロール流体機械の小型、軽量化に繋がり、この点は当業者において自明なことであると認められる。したがって、オルダムリング及びスクロール流体機械の小型、軽量化は親出願及び子出願の出願当初の明細書又は図面に記載された事項の範囲内と認められる。 (2)同じく、異議申立人松下電器産業株式会社は、“親出願の明細書および図面には、楕円形状のオルダムリング(15)を旋回スクロール端板(2a)とフレーム(3)との間に配置する構成が、親出願の実施例であるスクロール流体装置をひとつの面で切った断面図として開示されている。しかしながら、親出願の明細書および図面には、親出願の図面に一切開示されていない本件発明の図1、図3に示された本件発明の各実施例のように、「長円形オルダムリングの短径方向の長さを前記旋回スクロールと前記駆動機構の係合部の外径部より大きく、前記長円形オルダムリングの長径方向の長さを前記旋回スクロール部材の外径より小さくした点」が開示されていない。以上のことから、該構成要件を含む、本件発明の構成は、親出願の明細書又は図面に記載された事項の範囲外の事項をその要旨に含むものであり、本件発明は、不適法な分割出願である”旨主張している。 しかしながら、 ▲5▼親出願の願書に添付した明細書又は図面には、本件発明の構成要件である「長円形オルダムリングの短径方向の長さを前記旋回スクロールと前記駆動機構の係合部の外径部より大きく、前記長円形オルダムリングの長径方向の長さを前記旋回スクロール部材の外径より小さくした」(以下、構成(ハ)という)点は直接的に記載されていないが、本件発明の構成要件である楕円形オルダムリングの平面形状が明瞭に開示されている。 親出願の円形オルダムリングの内径方向の長さは、旋回スクロールと駆動機構の係合部の外径部より大きく、かつ、旋回スクロール部材の外径より小さくすることは、その機能・作用、図面から明らかであり、してみれば、スクロール流体機械の楕円形オルダムリングが、オルダムリングとしての機能・作用を発揮するためには、構成(ハ)を備えることは自明な事項である。以上のことから、構成(ハ)は親出願及び子出願の出願当初の明細書又は図面に記載された事項の範囲内と認められる。 (3)以上のとおりであるから、本件発明は親出願及び子出願の出願当初の明細書又は図面に記載された事項の範囲内と認められ、本件発明は適法な分割出願であると認められる。 4.刊行物との対比・判断 本件発明は上記III.3で示したように適法な分割出願であり、出願日の遡及が認められる。 したがって、その出願日は昭和56年9月14日に遡及する。 してみれば、甲第2号証(特開昭62-124324号公報、当審が通知した取消理由で引用した刊行物)は、本件発明の出願前に頒布されておらず、本件発明は、特許法第29条第1項第3号の規定に該当しない。 5.以上のとおりであるから、本件発明の特許は、特許異議申立人が主張する理由及び提出した証拠によっては取り消すことはできない。 また、他に本件発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
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訂正の要旨 |
訂正の要旨 特許第2804928号の図面における図1及び図3を明瞭でない記載の釈明を目的として、請求書に添付した図面(図1、図3)のとおり訂正する。 |
異議決定日 | 1999-11-18 |
出願番号 | 特願平9-107972 |
審決分類 |
P
1
651・
113-
YA
(F04C)
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最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 尾崎 和寛、城戸 博兒、長谷川 吉雄 |
特許庁審判長 |
藤田 豊比古 |
特許庁審判官 |
清田 栄章 西野 健二 |
登録日 | 1998-07-17 |
登録番号 | 特許第2804928号(P2804928) |
権利者 | 株式会社日立製作所 |
発明の名称 | スクロール流体機械 |
代理人 | 岩橋 文雄 |
代理人 | 小川 勝男 |
代理人 | 坂口 智康 |
代理人 | 小川 勝男 |
代理人 | 内藤 浩樹 |
代理人 | 高橋 明夫 |
代理人 | 高橋 明夫 |