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審決分類 審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  B01J
審判 全部申し立て 2項進歩性  B01J
管理番号 1010307
異議申立番号 異議1998-72915  
総通号数
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1992-01-21 
種別 異議の決定 
異議申立日 1998-06-09 
確定日 1999-11-29 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2688620号「ガス及び廃ガスからの有害物質の浄化剤、浄化方法及び該剤を用いる有害物質の除去方法」の請求項1ないし17に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2688620号の請求項1ないし15に係る特許を維持する。 
理由 1.手続きの経緯
本件特許2688620号の請求項1乃至17に係る発明は、平成2年5月2日に特許出願され、平成9年8月29日にその特許の設定登録がなされたものである。
これに対し、その後、特許異議申立人吉澤石灰工業株式会社より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされたところ、平成11年3月8日に訂正請求がなされ、この訂正請求に対し訂正拒絶理由通知がなされ、平成11年10月12日付けで手続補正がなされたものである。
2.訂正の適否についての判断
(1)訂正請求に対する補正の適否について
訂正請求に対する補正は、特許請求の範囲の減縮に伴う明りょうでない記載の釈明と誤記の訂正を目的とするものであり、訂正請求書の要旨を変更するものではなく、特許法第120条の4第3項において準用する同法第131条第2項の規定に適合する。
(2)訂正事項
(イ)「特許請求の範囲」の欄
特許請求の範囲の記載については、その減縮、誤記の訂正及び明りょうでない記載の釈明を目的として、手続補正書によって補正された訂正明細書の特許請求の範囲に記載された次のとおりに訂正請求されている。
「【請求項1】反応性水酸化カルシウムを主成分とする乾燥粉末であって、ガス中に存在する酸と反応して硫黄を放出する硫黄含有・放出性物質の水溶性塩0.01〜5重量%を含み、該硫黄含有・放出性物質はポリ硫化物、ポリチオン酸塩及びチオ硫酸塩から選択される1種以上であることを特徴とするガス及び廃ガスからの重金属、酸等の有害物資の浄化剤。
【請求項2】粒径が200μm未満であることを特徴とする請求項1記載の浄化剤。
【請求項3】反応性水酸化カルシウムを主成分とする乾燥粉末が表面活性物質0.5〜10重量%を更に含有することを特徴とする請求項1又は2記載の浄化剤。
【請求項4】硫黄含有・放出性物質の水溶性塩を表面活性物質上に担持させたことを特徴とする請求項3記載の浄化剤。
【請求項5】硫黄含有・放出性物質の水溶性塩が表面活性物質と混合されていることを特徴とする請求項3記載の浄化剤。
【請求項6】硫黄含有・放出性物質の水溶性塩がそのアルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物から成る群の中から選ばれることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の浄化剤。
【請求項7】水分が0.1〜5重量%である請求項1〜6のいずれか1項記載の浄化剤。
【請求項8】表面活性物質が、活性炭、褐炭―平炉コークス、活性化酸化アルミニウム、珪酸ゲル及び珪藻土から成る群中より選ばれることを特徴とする請求項3〜7のいずれか1項記載の浄化剤。
【請求項9】硫黄含有・放出性物質によってガス及び廃ガスから重金属、酸等の有害物質を除去して浄化する方法において、ガス中に存在する酸と反応して硫黄を放出する硫黄含有・放出性物質の水溶性塩を含有する乾燥したもしくは水分が0.1〜5重量%の微粉末状の水酸化カルシウム(但し、該硫黄含有・放出性物質は、ポリ硫化物、ポリチオン酸塩及びチオ硫酸塩から選択される1種以上)及び該硫黄含有・放出性物質の水溶性塩を担持させた表面活性物質を含む水酸化カルシウムの少くとも一方を、ガス流又は廃ガス流に添加し、適宜の集収装置によって該ガス流又は廃ガス流から重金属等の硫化物を及び酸と水酸化カルシウムの反応生成物を補収除去することを特徴とする浄化方法。
【請求項10】請求項2〜8に記載の浄化剤を使用することを特徴とする請求項9記載の浄化方法。
【請求項11】0〜400℃の温度範囲においてガス流又は廃ガス流を処理することを特徴とする請求項9又は10記載の浄化方法。
【請求項12】硫黄含有・放出性物質の水溶性塩を水銀等の揮発性の重金属に対して1〜1000倍の量比において使用することを特徴とする請求項9〜11のいずれか1項記載の浄化方法。
【請求項13】さらに硫黄を水銀等の揮発性の重金属に対して5〜2000倍の量比において使用することを特徴とする請求項9〜11のいずれか1項記載の浄化方法。
【請求項14】ガス及び廃ガスからそれに含まれる揮発性の重金属、酸等の有害物質を除去して浄化する方法において、該硫黄含有・放出性物質の水溶性塩を表面活性物質上に担持させるか又は表面活性物質と混合させるかした状態で0〜400℃の温度範囲で請求項12に記載の化学量論的な比率において使用することを特徴とする浄化方法。
【請求項15】請求項3、4、5又は8に記載の浄化剤を用いてガス又は廃ガスを処理することを特徴とする、塩素化ダイオキシン及びフラン、塩素化炭化水素及び/又はポリ芳香族炭化水素の除去方法。」
(ロ)「発明の名称」と「発明の詳細な説明」の欄
「発明の名称」を以下の訂正事項aに示すとおりに訂正するとともに、「発明の詳細な説明」を特許請求の範囲の減縮に伴う明りょうでない記載の釈明を目的として、手続補正書によって補正された訂正明細書に記載された次の訂正事項b及びcのとおりに訂正請求されている。
▲1▼訂正事項a
「発明の名称」を「ガス及び廃ガスからの有害物質の浄化剤、浄化方法及び該剤を用いる有害物質の除去方法」と訂正する。
▲2▼訂正事項b
特許明細書第5頁下から6行乃至3行(特許公報第2頁第4欄第5行乃至第8行)の「本発明は、・・・並びにこの剤の使用に関する。」を「本発明は、ガス及び廃ガスから特に揮発性の重金属或いは有機物質等の有害物質を除去してガス又は廃ガスを浄化するための浄化剤、浄化方法及び該剤を用いる有害物質の除去方法に関する。」と訂正する。
▲3▼訂正事項c
特許明細書第25頁第5行乃至第26頁下から第6行まで(特許公報第5頁第10欄第46行乃至第6頁第12欄第4行)の「実施例2・・・従って分離率は84.2%であった。」を削除する。
(3)訂正の目的の適否及び拡張・変更の存否
上記訂正は、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正及び明りょうでない記載の釈明に該当し、また、新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
(4)独立特許要件の判断
(本件訂正発明)
本件特許の請求項1乃至15に係る発明は、上記手続補正書によって補正された訂正明細書の上記2.(2)(イ)で示した請求項1乃至15に記載された事項により特定されるとおりのものである。
(引用された証拠)
当審が取消理由通知において引用した下記証拠には、それぞれ次の事項が記載されている。
引用例1:特表平1ー503232号公報
▲1▼「1)ガス及び廃ガス浄化用の反応性水酸化カルシウムの製造方法において、消化前及び/又は消化中において、消化に必要な水と共に、水酸化カルシウムの反応性を高める物質、汚染物質と結合する物質及び触媒作用物質の1種以上を添加し、及び/又は消化後において、水酸化カルシウムの反応性を高める物質、汚染物質の結合する物質及び触媒作用物質の1種以上を添加することを特徴とする反応性水酸化カルシウムの製造方法。」(第1頁左欄)
▲2▼「5)廃ガスから水銀を分離するために、硫化水素、硫化水素ナトリウム、硫化ナトリウム、トリメルカプト-s-トリアジン等の水銀と結合する物質を添加することを特徴とする請求項1記載の製造方法。」(第1頁右欄)
▲3▼「11)活性炭、かっ炭-平炉コークス、活性化された酸化アルミニウム、ケイ酸ゲル等の表面活性物質を生石灰に添加した後に消化工程を実施することを特徴とする請求項1記載の製造方法。
12)活性炭、かっ炭-平炉コークス、活性化酸化アルミニウム、ケイ酸ゲル等の表面活性物質を水酸化カルシウムに添加することを特徴とする請求項1記載の製造方法。」(第2頁上段左欄)
▲4▼「これらの表面活性物質の作用は、廃ガス流から、有機物質。塩素化炭化水素例えばダイオキシン、ヘキサクロロベンゾール、・・・並びにポリ縮合芳香族炭化水素・・・アントラセン等の残留分を分離することに関係している。」(第5頁上段右欄)
引用例2:特開昭62-216630号公報
▲1▼「燃焼排ガスの煙道中に、反応助剤と水銀反応剤の混合粉末を噴射して排ガス中の水銀を粉体側へ固定するとともに、酸性ガス中和剤粉末を噴射して排ガス中の酸性ガスを除去し、噴射後方にバグフィルターを設けて排ガス中より燃焼ばいじんと一緒に系外へ排出することを特徴とする燃焼廃ガス中の水銀及び酸性ガス除去方法。」(第1頁左欄)
▲2▼「本発明においては、バグフィルターの通気性を高め、かつ吸湿防止を図るために排ガス中に噴射する水銀反応剤(S、FeS、ZnS、CaS、CuS)の粉末に反応助剤(ゼオライト、アルミナ、ケイソウ土、パーライト、活性白土、カオリン、長石等)の粉末を予め混合しておき、これらを同時に排ガス煙道中に噴射する。」(第2頁上段左欄)
引用例3:「Atmospheric Environment」Vol.8、1974年、第1321頁乃至第1327頁
「ツエリムスキーおよびラクジン(1926)、クーリッジ(1927)ならびにシールズ(1929)は、活性炭が水銀を吸着することを報告した。ピアンコフ(1936、1937)は、ヨウ素を含浸した活性炭が効果的な吸着剤であることを明らかにした。他の固体物質たとえば金属硫化物(ルチンおよびポドニツク、1960)または銀(メインズ、1948)を含浸した活性炭、活性酸化マンガン(アレクセーウスキー、1933;ビアンコフおよびロエスキー、1940)、酸化クロムゲル(スタンリーおよびシング、1971)、それにゼオライト(バラーおよびウッドヘッド、1948)もまた、吸着性を試験された。これらの吸着剤の中では、ヨウ素、金属硫化物または銀を含浸した活性炭が、大きな吸着容量を示した。」(第1321頁)
引用例4:wlb”wasser、luft und betrieb”vol.6、1987年、第38頁、第41頁乃至第43頁
▲1▼「さまざまな産業の支脈から排出される水銀は、環境の観点から除去されなければならない。水銀除去のために、ヨウ化カリ、硫酸、または硫黄を含浸した活性炭がしばしば使用される。とりわけ、硫黄を含浸した活性炭は技術的に評価されている。除去効果がすばらしい上、水銀吸収能力もまた高い。飽和した活性炭は、水銀を回収して廃棄することができる。」(第38頁)
▲2▼「吸着剤
活性炭は、液相または気相において多数の有機・無機化合物を吸着分離するに適した吸着剤である。気体状の水銀を分離するための吸着工程を経済的に運用するためには、活性炭の清浄効果と吸着能力が、適切な含浸剤を添加することによって、確実に高められなければならない。」(第38頁)
▲3▼「硫黄を含浸した活性炭の適性は、1972年SinhaとWalter[9]によって説明された。硫黄を含浸した製品は、腐食技術的観点からみて安全である。活性炭の作用によって水銀が吸着され、存在している硫黄がこれと反応して硫化水銀となり、このようにして高度な水銀吸収能力が達成される。11%の硫黄を含浸した活性炭D47/4の例にみるように、300時間後でもなお94%の水銀除去率が測定された[10]。硫黄含浸活性炭はそのため、水銀除去用に適した吸着剤であり、工業的にみて、ガスの浄化問題の解決法として役に立つ。」(第41頁)
引用例5:「化学辞典」森北出版(1986年)第728頁乃至第729頁、第756頁乃至第757頁
「多硫化アンモニウム」、「多硫化カリウム」、「多硫化ナトリウム」及び「チオ硫酸ナトリウム」についての説明。
引用例6:JIS R9001「工業用石灰」「工業用石灰の品質」についての説明。
(当審の判断)
(イ)本件請求項1に係る発明(以下「訂正発明」という)について
上記引用例1には、「1)ガス及び廃ガス浄化用の反応性水酸化カルシウムの製造方法において、消化前及び/又は消化中において、消化に必要な水と共に、水酸化カルシウムの反応性を高める物質、汚染物質と結合する物質及び触媒作用物質の1種以上を添加し、及び/又は消化後において、水酸化カルシウムの反応性を高める物質、汚染物質の結合する物質及び触媒作用物質の1種以上を添加することを特徴とする反応性水酸化カルシウムの製造方法。」が記載され、この製造方法において、「廃ガスから水銀を分離するために、硫化水素、硫化水素ナトリウム、硫化ナトリウム、トリメルカプト-s-トリアジン等の水銀と結合する物質を添加すること」も記載されているから、上記引用例1には、「水酸化カルシウムを主成分とする乾燥粉末であって、ガス中に存在する水銀と結合する硫化水素、硫化水素ナトリウム、硫化ナトリウム、トリメルカプト-s-トリアジン等の物質を含むガス及び廃ガスからの重金属の有害物資の浄化剤。」が記載されていると云える。
そこで、本件訂正発明と上記引用例1に記載の発明(以下、「引用発明」という)とを対比すると、両者は、「ガス及び廃ガスからの重金属の有害物質の浄化剤」に係る点で共通しているが、その硫黄源ともいうべき含有物質の点で大きく相違していると云える。
すなわち、訂正発明は、「ガス中に存在する酸と反応して硫黄を放出する硫黄含有・放出性物質の水溶性塩0.01〜5重量%を含み、該硫黄含有・放出性物質はポリ硫化物、ポリチオン酸塩及びチオ硫酸塩から選択される1種以上である」のに対し、引用発明は、「硫化水素、硫化水素ナトリウム、硫化ナトリウム、トリメルカプト-s-トリアジン等」である。
次に、この相違点について検討するに、上記引用例2乃至6には、廃ガス中の重金属の浄化のために、「ポリ硫化物、ポリチオン酸塩及びチオ硫酸塩」を使用する点について何ら記載又は示唆されていない。
してみると、本件訂正発明の上記相違点は、上記引用例1乃至6には何ら示唆されていないから、本件訂正発明は、上記引用例1乃至6に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
(ロ)本件請求項2乃至8に係る発明について
これら発明は、少なくとも請求項1に係る発明を引用するものであるから、上記(イ)で述べたと同様の理由により、上記引用例1乃至6に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
(ハ)本件請求項9に係る発明について
この発明は、上記訂正発明の「浄化剤」を使用する「浄化方法」に係るものであるから、上記(イ)で述べたと同様の理由により、上記引用例1乃至6に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
(ニ)本件請求項10乃至14に係る発明について
これら発明は、少なくとも請求項9に係る発明を引用するものであるから、上記(ハ)で述べたと同様の理由により、上記引用例1乃至6に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
(ホ)本件請求項15に係る発明について
この発明も、少なくとも請求項1に係る発明を引用するものであるから、上記(イ)で述べたと同様の理由により、上記引用例1乃至6に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
また、本件特許明細書には、取消拒絶理由通知や訂正拒絶理由通知において指摘した記載不備が存在していたが、これら記載不備も訂正請求書やその補正書により是正されたと云える。
したがって、本件訂正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。
(5)むすび
以上のとおり、上記訂正請求は、特許法第120条の4第2項、同条第3項で準用する第126条第2項乃至第4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
3.特許異議申立てについての判断
(1)特許異議申立人の理由の概要
特許異議申立人は、証拠方法として、甲第1号証(上記引用例1と同じ)、甲第2号証(上記引用例2と同じ)、甲第3号証(上記引用例3と同じ)、甲第4号証(上記引用例4と同じ)、甲第5号証(上記引用例5と同じ)及び甲第6号証(上記引用例6と同じ)を提出して、本件特許は、次の(i)及び(ii)の理由により、取り消されるべきであると主張している。
(i)本件請求項1乃至17に係る発明は、甲第1号証乃至甲第6号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項に違反してなされたものである。
(ii)本件特許明細書には、次の▲1▼乃至▲5▼に示すような記載不備があり、当業者が容易に実施してその効果を確認することができる程度に発明が記載されていない。また、特許請求の範囲の記載が不当に広すぎて、本件発明の構成に欠くことのできない事項が記載されているとはいえないから、本件特許は、旧特許法第36条第3項又は第4項に違反してなされたものである。
▲1▼請求項1等に記載されている「反応性水酸化カルシウム」の「反応性」の語句がどのようなことを意味するのか不明確である。
▲2▼本件発明の「硫黄含有・放出性物質」について、その実施例が少なく本件発明の効果を主張するには不十分である。
▲3▼本件発明は、「重金属、酸等の有害物質」を除去するものであるが、実施例でその効果を確認したのは水銀だけであり、酸についてはその効果の実証がなされていない。また、揮発性有機有害物質の例えば、塩素化ダイオキシン、フラン等塩素化炭化水素などの実施例も皆無であるから、その記載が不備である。
▲4▼請求項3には、「表面活性物質」と記載され、請求項8には、この表面活性物質が「活性炭、褐炭-平炉コークス、活性化酸化アルミニウム、珪酸ゲル及び珪藻土」と記載されているが、実施例には「褐炭-平炉コークス」の例しか示されていないから、本件発明の効果を裏付けるには不十分である。
▲5▼請求項9(訂正前の請求項9)には、本件発明の「浄化剤の製造方法」における水溶性塩の添加時期について、生石灰の消化の前、消化中または消化の後のいずれでもよいと記載されているが、実施例には「消化の後」の添加について例示されていないから、この製造方法に関する発明の記載が不備である。
(2)当審の判断
上記(i)の主張について
本件請求項1乃至17に係る発明は、訂正請求により、請求項1乃至15に係る発明に減縮され、これら訂正発明については、上記「2.(4)独立特許要件(当審の判断)」の項で言及したとおりであるから、特許異議申立人の上記主張は採用することができない。
上記(ii)の主張について
上記▲1▼については、「反応性」は化学反応を起こす性質を有するという意味であり、明りょうでない記載とは云えない。また、上記▲2▼乃至▲4▼については、特許明細書に少なくとも実施例が記載されており、また上申書の記載に徴すれば、その効果を発揮することができないものとも云えないから、これら主張も採用することができない。さらに、上記▲5▼についても、この主張に関する発明は削除されたから、特許異議申立人の上記(ii)の主張は採用することができない。
4.むすび
以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠方法によっては、本件訂正発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件訂正発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ガス及び廃ガスからの有害物質の浄化剤、浄化方法及び該剤を用いる有害物質の除去方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 反応性水酸化カルシウムを主成分とする乾燥粉末であって、ガス中に存在する酸と反応して硫黄を放出する硫黄含有・放出性物質の水溶性塩0.01〜5重量%を含み、該硫黄含有・放出性物質はポリ硫化物、ポリチオン酸塩及びチオ硫酸塩から選択される1種以上であることを特徴とするガス及び廃ガスからの重金属、酸等の有害物質の浄化剤。
【請求項2】 粒径が200μm未満であることを特徴とする請求項1記載の浄化剤。
【請求項3】 反応性水酸化カルシウムを主成分とする乾燥粉末が表面活性物質0.5〜10重量%を更に含有することを特徴とする請求項1又は2記載の浄化剤。
【請求項4】 硫黄含有・放出性物質の水溶性塩を表面活性物質上に担持させたことを特徴とする請求項3記載の浄化剤。
【請求項5】 硫黄含有・放出性物質の水溶性塩が表面活性物質と混合されていることを特徴とする請求項3記載の浄化剤。
【請求項6】 硫黄含有・放出性物質の水溶性塩が、そのアルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物から成る群の中から選ばれることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の浄化剤。
【請求項7】 水分が0.1〜5重量%である請求項1〜6のいずれか1項記載の浄化剤。
【請求項8】 表面活性物質が、活性炭、褐炭-平炉コークス、活性化酸化アルミニウム、珪酸ゲル及び珪藻土から成る群中より選ばれることを特徴とする請求項3〜7のいずれか1項記載の浄化剤。
【請求項9】 硫黄含有・放出性物質によってガス及び廃ガスから重金属、酸等の有害物質を除去して浄化する方法において、ガス中に存在する酸と反応して硫黄を放出する硫黄含有・放出性物質の水溶性塩を含有する乾燥したもしくは水分が0.1〜5重量%の微粉末状の水酸化カルシウム(但し、該硫黄含有・放出性物質は、ポリ硫化物、ポリチオン酸塩及びチオ硫酸塩から選択される1種以上)及び該硫黄含有・放出性物質の水溶性塩を担持させた表面活性物質を含む水酸化カルシウムの少くとも一方を、ガス流又は廃ガス流に添加し、適宜の集収装置によって該ガス流又は廃ガス流から重金属等の硫化物を及び酸と水酸化カルシウムの反応生成物を捕収除去することを特徴とする浄化方法。
【請求項10】 請求項2〜8に記載の浄化剤を使用することを特徴とする請求項9記載の浄化方法。
【請求項11】 0〜400℃の温度範囲においてガス流又は廃ガス流を処理することを特徴とする請求項9又は10記載の浄化方法。
【請求項12】 硫黄含有・放出性物質の水溶性塩を水銀等の揮発性の重金属に対して1〜1000倍の量比において使用することを特徴とする請求項9〜llのいずれか1項記載の浄化方法。
【請求項13】 さらに硫黄を水銀等の揮発性の重金属に対して5〜2000倍の量比において使用することを特徴とする請求項9〜11のいずれか1項記載の浄化方法。
【請求項14】 ガス及び廃ガスからそれに含まれる揮発性の重金属、酸等の有害物質を除去して浄化する方法において、該硫黄含有・放出性物質の水溶性塩を表面活性物質上に担持させるか又は表面活性物質と混合させるかした状態で0〜400℃の温度範囲で請求項12に記載の化学量論的な比率において使用することを特徴とする浄化方法。
【請求項15】 請求項3、4、5又は8に記載の浄化剤を用いてガス又は廃ガスを処理することを特徴とする、塩素化ダイオキシン及びフラン、塩素化炭化水素及び/又はポリ芳香族炭化水素の除去方法。
【発明の詳細な説明】
【産業上の利用分野】
本発明は、ガス及び廃ガスから特に揮発性の重金属或いは有機物質等の有害物質を除去してガス又は廃ガスを浄化するための浄化剤、浄化方法及び該剤を用いる有害物質の除去方法に関する。
【従来の技術】
熱的な過程例えば金属治金、石炭の燃焼又は廃棄物の焼却などの過程では、揮発性の重金属例えばカドミウム、水銀、タリウム、砒素、アンチモン又は鉛を含有する廃ガスが発生する。ここでは、元素の重金属又はその塩特に塩化物又は酸化物が問題となる。
これらのガスは、通常は冷却され、重金属は湿式で洗浄され除かれる。重金属が元素の形で存在している場合、これでは屡々不十分である。例えば水銀は、多くの場合、元素として放出される。その場合、水銀は、湿式洗浄では、ガスから分離できない。そのほかに、揮発性の重金属は、湿式洗浄の後にも、エーロゾル及び/又は分離の困難な微細な粉塵として放出されるため、問題を生ずる。
既知の別の方法は、廃ガス流を活性炭フィルターに通す方法である。この場合、揮発性の重金属例えば水銀の含量は減少するが、多量の高活性の活性炭を使用する必要がある上に、活性炭床中においてくすぶり状の燃焼が生じるため、コストが高くなる。さらに摩耗が常時発生する上に、分離の困難な、重金属を含有する微細な粉塵も発生する。
従って、揮発性の重金属を硫黄又は硫化物によって、揮発し難い硫化物に転化させてガス流から除くことも試みられている。
この方法によると、活性炭上に硫黄を担持させ、その上にガス流が導かれる。この場合、水銀の分離は確かに達せられるが、自己発火と摩砕物の放出との問題が生ずる。
従来の技術による別の方法によると、チオ化合物例えばチオ尿素の水溶液に硫黄又は硫黄化合物を懸濁させて操作を行なう。溶液又は懸濁液をガス流中に噴霧(スプレー)して霧化させ、生成した水銀と硫黄とから成る化合物を電気集塵機によって分離する。
しかし、水銀の分離は、0.200mg/m3の制限値を維持するためには70%では不十分である。この不十分な水銀の分離は、特に、ごみ焼却装置からの廃ガスを処理する場合、ガス流に水が添加されていることと、多量の強酸が含まれることとによると思われる。
硫黄又は水溶性の硫黄化合物例えばZnSをCa(OH)2粉末と共にごみ焼却装置の廃ガス中に噴射して水銀を分離することも既に提案されている。200〜250℃の温度で1mg/m3のZnSを使用しても、水銀の制限値0.2mg/m3を達成するには、水銀の分離60%では不足する。
【発明が解決しようとする課題】
従って、特にゴミ焼却装置からのガス流から揮発性の有害物質(特に水銀等の重金属)をその種々の化合物の形又は元素の形で、特に、或いは時には、冷却過程なしに除去すること、さらにダイオキシン、フラン等の有機物質をも除去することが望まれている。更に、揮発性の有害物質と酸性成分との両方をガス流から同時に分離するための簡単で廉価な方法を開発することも望まれている。その場合、廃ガス流中の有害物質の減少は、例えばHg,Cd,Tl及びAsについての制限値が確実に達せられる程度に十分な値としなければならない。本発明は、これらの要求に応えることを課題とする。
【課題を解決するための手段及び作用】
本発明によれば、この課題は、請求項1に記載の、ガス及び廃ガスから有害物質を除去し浄化するための浄化剤によって解決される。即ち、本発明によれば、反応性水酸化カルシウムを主成分とする乾燥粉末であって、ガス中に存在する酸と反応して硫黄を放出する硫黄含有・放出性物質の水溶性塩0.01〜5重量%を含み、該硫黄含有・放出性物質はポリ硫化物、ポリチオン酸塩及びチオ硫酸塩から選択される1種以上であることを特徴とするガス及び廃ガスからの重金属、酸等の有害物質の浄化剤によって上記課題を達成する。なお、以下「硫黄含有・放出性物質」の語は、「硫黄含有物質(ないし化合物)」とも略称する。この浄化剤の好ましい態様は、請求項2〜9に記載されている。
本発明は、さらに、ガス及び廃ガスを清浄化するために水酸化カルシウムを主成分とする乾燥粉末又は少量の水分を含む粉末を製造するための、請求項9に記載の製造方法を提供する。即ち、本発明によるガス等の浄化剤の製造方法は、(a)生石灰の消和前に生石灰に、(b)消和の間に消和水に、及び(c)消和後に水酸化カルシウムに、から選択される(a)〜(c)の内少くとも1以上に硫黄含有物質の水溶性塩、又は表面活性物質及び硫黄含有物質の水溶性塩を添加することを特徴とす。この製造方法の好ましい実施態様は、請求項10に記載されている。
本発明の別の局面によれば、請求項11,16及び17に記載された、ガス及び廃ガスを有害物質から浄化する方法が提案される。請求項11の方法の好ましい態様は、請求項12〜16に記載されている。
本発明によれば、前記の課題の解決は、2工程で達せられ、第1の工程では、硫黄含有物質の水溶性塩を含む水酸化カルシウムが製造され、この浄化剤は、第2の工程において、乾式又は準乾式のプロセスによって、廃ガス中の揮発性の、即ち蒸気状の、重金属等の有害物質に対して作用させた後、再び廃ガス流から分離される。
硫黄含有物質の水溶性塩の大きな利点は、水に溶解した状態で、消和プロセスの間にか又は消和の後に、最も微細に分割された形で水酸化カルシウムに作用させることができる点にある。表面活性物質への担持(ないし付着)も非常に容易に行なわれる。最も微細に分割することは、重金属及び揮発性の有機有害物質との反応にとって非常に好都合である。同様の観点から、水酸化カルシウムを主成分とする浄化剤は、好ましくは200μm未満の粒径とする。
更に、水酸化カルシウム上及び表面活性物質上に、水の膜が形成され、これらの水の膜はそれなりに塩を溶解させる。塩として揮発性の重金属は、水の膜に溶解し、硫黄含有化合物の塩とすみやかに反応する。
揮発性の重金属の分離は、この機構によって大きく助長される。
本発明の本来の発明思想の変更として、水に不溶の硫黄をさらに使用し、この硫黄を、より良い分布のために、表面活性物質と結合させたり、生石灰の消和のプロセスの際に、微細に分割された形で水酸化カルシウムに担持させたりしてもよい。
[好適な実施の態様及び作用]
本発明によれば、硫黄含有物質の水溶性の塩として、ポリ硫化物、ポリチオン酸塩及びチオ硫酸塩が、特にアルカリ金属又はアルカリ土類金属の化合物の形で使用される。チオ硫酸塩とポリ硫化物とは、酸又は熱又はその両方の作用の下に、従って反応条件の下に、硫黄を放出するので、特別の群を形成する。
この硫黄は、最も微細に分割された形で形成され、非常に多くの種類の揮発性の重金属と結合する上に非常に良く適合している。ごみ焼却装置及び他の焼却系からの廃ガス流には、酸が常に含まれているので、チオ硫酸塩からの硫黄の分離が確実に行なわれる。
硫化物の不具合な点は、例えば200℃の高温で著しく酸化されるため、揮発性重金属の分離のために使用できなくなることである。
硫黄放出性化合物群としては、一般式M2 Sn(式中nは2,3,4,5及びそれ以上の値を取ることができ、Mは金属を表わす)を有するポリ硫化物が好ましい。これらのポリ硫化物は、酸の作用の下に硫黄を放出し、この硫黄は、同様に遊離される非常に活性な硫化水素と共に、揮発性の重金属に対して作用する。
硫黄放出性の化合物としては、ポリチオン酸の塩を使用することができる。ポリチオン酸の塩は、酸の作用の下に、硫黄、亜硫酸及び硫酸に分解される。遊離された硫黄は、ガス流及び廃ガス流中の揮発性重金属との結合に特に適合している。
ガス及び廃ガスを揮発性の重金属から清浄化するための本発明による清浄化方法の好ましい実施態様は、水溶性硫黄化合物を水酸化カルシウム上に担持させるか又はこれと混合して、水酸化カルシウムと共に使用することに存する。
ガス及び廃ガスを重金属から清浄化するための水酸化カルシウムを主成分とする乾燥粉末又は含水粉末の、本発明による製造方法によれば、(a)生石灰の消和前に生石灰に、(b)消和の間に消和水に、(c)消和後に水酸化カルシウムに、の(a)〜(c)のいずれか1以上に硫黄含有物質の水溶性塩、又は硫黄含有物質の水溶性塩と表面活性物質、又は硫黄自身もしくは表面活性物質上に担持させた硫黄が添加される。
硫黄含有化合物と水酸化カルシウムとの結合は、好ましくは、消和に必要な水に硫黄含有化合物を添加することによってなされる。
本発明の一実施態様によれば、チオ硫酸塩を消和水に溶解させてえた溶液が、生石灰の消和のために使用される。その場合、チオ硫酸塩は、最も微細な形で、一様に、水酸化カルシウム上に分布されるため、特に高活性形において、その後の反応に使用することができるようになる。
ここで、消和プロセスは、最初に純水によって部分消和を行なった後、硫黄含有物質の水溶性塩を含む水によって完全な消和を行なうことによって遂行することもできる。
しかし、硫黄含有化合物は、特に微細な粉末として、固体の形でか、又は、溶解され濃縮した形で、水酸化カルシウム上に担持させてもよい。
溶液によって水酸化カルシウム上に後に担持させた場合には、好ましくは0.5〜3重量%、時には0.1〜5重量%の水分を含む水酸化カルシウムの粉末が得られる。
硫黄含有化合物と水酸化カルシウムとを結合させるための別の可能性は、これらを生石灰に添加したのち、生石灰を消和することである。これら全ての場合に、硫黄含有化合物は、水酸化カルシウム中に最も微細に分布された状態において存在する。この製造方法の大きな利点は、生石灰と硫黄含有化合物とを例えば石灰工場において十分に予混合させた後、使用者が消和を行なって特に石灰乳とすることができる点にあり、それによって使用者の補助装置が不要となる。
この製造方法は、請求項1〜8に示されて詳細に特定化された、水酸化カルシウムを主成分とする剤が得られるように制御される。
これは、硫黄含有物質の水溶性塩の含量が0.01〜5重量%、好ましくは0.1〜1重量%、より好ましくは0.2〜0.6重量%の範囲となるようにすることを意味する。
廃ガス中の揮発性重金属の負荷量(含有量)に対応して、高度にドープされた水酸化カルシウム又は操業中に制御に従って変化する量がドープされたCa(OH)2剤を使用することができる。
硫黄含有化合物と水酸化カルシウムとの結合は、硫化水素又は硫化水素形成物質例えばポリ硫化物又はポリチオン酸を使用する場合に、特に適している。水酸化カルシウムは硫黄含有化合物に対して非常に過剰な量使用されるので、遊離された硫化水素化合物は、水酸化カルシウムによって直ちに中和され、酸を形成する。高温で酸を更に使用させると、硫化物は、無臭の化合物特に亜硫酸塩及び硫酸塩に転化される。
硫黄含有物質の水溶性塩を含有するほかに、表面活性物質0.5〜10重量%を含有するように、本発明による浄化剤を製造し使用することもできる。
表面活性物質としては、活性炭、褐炭-平炉コークス、珪酸ゲル、珪藻土及び/又は活性化酸化アルミニウムが使用される。
硫黄含有物質は、水溶液を介して表面活性物質上に担持させてもよく、また機械的にさらに混合させてもよい。
表面活性物質への担持は、それに適した処理工程中に行なうことが最も望ましいが、消和プロセス中に行なうようにしてもよい。
この担持は、硫黄含有物質の水溶性塩と表面活性物質とを生石灰に混合し、この生石灰を消和することによっても行ないうる。しかし生石灰を表面活性物質と混合した後、前記物質の塩を含む水によって消和することによって、この消和を行なってもよい。
例えば、ポリ硫化物、チオ硫酸塩及びポリチオン酸を褐炭-平炉コークス上に十分に担持させた後、水を蒸発させて、乾燥型に製造することができる。必要ならば、最も微細に分割された形の硫酸を表面活性物質上に分布させるようにこれらの硫黄放出化合物を、予め酸で処理してもよい。
表面活性物質は、揮発性重金属を分離させる上で非常に好ましい。表面活性物質は、多くの場合、単独でも、重金属と結合されるが、この作用は、硫黄含有化合物の存在によって更に高めることができる。
表面活性物質はさらに、大部分の揮発性有機有害物質の分離にも有効に作用する。このような有害物質としては、特に、塩素化ダイオキシン、フラン、フロン、或いはヘキサクロルベンゾール、ヘキサクロルシクロヘキサン、トリクロルエチレン及びパークロルエチレンのような塩素化炭化水素、ベンゾアニレンのようなポリ芳香族炭化水素、及びドイツ連邦共和国の「テヒニッシェン・アンライトゥング・ルフト」(Technischen Anleitung Luft)1986年版所載の、有機有害物質のクラスI〜III、ガン誘起物質のクラスI〜III及び有機有害物質のクラスI〜IIIのような、他の揮発性有害物質がある。
表面活性物質と硫黄含有物質の水溶性塩との結合の別の形式は、これらを微細に分割された形で、摩砕もしくは混合によって、固体の表面活性物質と結合させることができる。
反応性水酸化カルシウムと硫黄含有物質を主成分とする浄化剤と、表面活性物質にさらに、微粉末状の硫黄との組合せも有利に使用される。硫黄の含量は、0.5〜5重量%である。この組合せの製造は、生石灰の消和のプロセス中にか、又は、硫黄の粉末と表面活性物質との混合物を後に添加することによって行なう。
Ca(OH)2/硫黄含有物質/表面活性物質/硫黄の混合物の使用は、従来の技術による方法に対して、大きな利点を備えている。この利点は、ガスの清浄化温度150〜400℃において硫黄の燃焼が不具合な結果をもたらさないことである。生成したSO2は直ちにCa(OH)2によって吸収され、布フィルター上において燃焼する硫黄は、Ca(OH)2粉末が保護層を形成するため、フィルターを穿孔させない。
本発明の好ましい実施態様によれば、ガス流又は廃ガス流は、0〜400℃、好ましくは20〜300℃、より好ましくは80〜250℃の温度範囲において、硫黄含有物質によって処理される。
400℃よりも温度を高くすると、硫黄含有物質が急激に燃焼するおそれが高くなる。主な使用範囲は、20〜約300℃の温度範囲にある。200〜250℃では、焼却装置からの廃ガスの大部分は、ボイラー通過後清浄化装置に導かれる。従って、200〜250℃の高温の廃ガスから揮発性有害物質を分離することは特に有利となる。このためには、チオ硫酸塩、ポリ硫化物及びポリチオン酸の塩が特に好ましい。特に、チオ硫酸塩は、温度について安定であり、高温下に揮発性重金属とすみやかに反応しうるため、最も好ましい。
分離すべき重金属に対する硫黄含有物質の比は、非常にわずかな量存在している重金属が明確な過剰量の硫黄含有物質によって特別のコストを要せずに処理されうるように定める。本発明によれば、硫黄含有物質対水銀の比は、1〜1000倍量、好ましくは25〜500倍量とする。ここに量とは、水銀1重量単位に対して同じ重量単位の硫黄含有物質が1倍量用いられることを意味する。
好ましい使用範囲は、25〜500倍量である。このような化学量論的な比によれば、工程を非経済的とすることなく、揮発性の重金属を確実に分離できる。
硫黄をさらに添加する場合、50〜2000倍、好ましくは25〜500倍の量比とすると有利なことが明らかになっている。
硫黄放出性化合物即ち、硫黄含有物質例えばチオ硫酸塩の利点は、酸の作用下の分解において硫黄が最も微細に分割された形で存在することである。
本発明による清浄化方法の特別の利点は、廃ガスの揮発性重金属との結合のために使用される硫黄含有物質の塩が、相当に多量のCa(OH)2の粉末を担体として、ガス流中に供与され得ることにある。これはガス流中に硫黄含有物質が確実に分配されることを意味する。特に布フィルターを使用すると、清浄化すべき廃ガスを必ず通過させる反応層が形成される。
従ってCa(OH)2は、酸結合体としての機能だけでなく、反応の表面及び可能性を硫黄含有物質のために作りだす機能も行なう。
Ca(OH)2は、そのほかにも、硫黄又は硫黄含有物質から生成する酸化生成物例えばSO2又はSO3を捕集して中和する機能を行なう。SO2又はSO3の放出は期待されるべきではないので、S含有物質は、揮発性重金属に対して非常に過剰な量使用することができる。従って揮発性重金属は、問題なく、100%まで分離することができる。
反応温度が200℃のように高くても、揮発性の重金属は、70%よりも高い分離度において分離される。
本発明による特徴は、スプレー吸着にも有意に転用することができる。これは、本発明に従って製造された剤を、水中に懸濁させて、清浄化すべきガス流又は廃ガス流中に噴霧(スプレー)しうることを意味する。硫黄含有物質の水溶性塩を添加した生石灰を使用してもよい。この場合、装置中において石灰乳を製造する際に、懸濁体が得られ、この懸濁体は、同様に、本発明の意義において使用することができる。
硫黄含有物質と揮発性重金属とから生成された反応生成物並びに表面活性物質に結合された有害物質は、既知のフィルター特に布フィルター、静電フィルター(集塵機)、サイクロン又は湿式洗浄装置によって分離することができる。
本発明による方法は、生産工程、例えば治金、塩化アルカリ電解又は高炉のような工程からのガス及び廃ガス、並びに、発電所、ごみ焼却装置、特殊ごみ焼却装置、ガラス-セラミック工業の設備、燃焼装置、アルミニウム精練工場、焼却装置その他からのガス及び廃ガスの処理に有利に使用される。
本発明の方法は、乾式吸着、水コンディショニングを含む乾式吸着並びにスプレー吸着などの廃ガス処理工程に有利に使用される。
【実施例】
実施例1
水17ml中にチオ硫酸ナトリウム111mgを溶解させた。これにより生石灰28gを消和した。これによって得られた乾燥水酸化カルシウムは、廃ガスの清浄化のために使用した。
次の組成
窒素 80容量%
酸素 20容量%
水分 289mg/l
HCl 12.1mg/l
HgCl2 0.7μg/l
の廃ガス10.51を、192℃の温度で、前記の生成物265mg上に導いた。
全部で7.4μgのHgCl2のうち5.7μgが分離された。従って分離率は76.8%であった。
【発明の効果】
本発明のガス浄化剤は、活性化水酸化カルシウム粉末を主成分とし硫黄含有物質の水溶性塩を、好ましくは表面活性物質に担持して含むことによって、揮発性の有害物質(水銀等の揮発性有害重金属、揮発性有機有害物質)を高い効率をもって、廉価に、かつ簡単な方法で除去し、廃ガスの浄化を行うことができる。また本発明のガス浄化剤は、本発明の方法により、簡単な工程で容易に製造可能である。さらに本発明は、極めて広汎な種類の有害物質の除去に有効であり、対象とする廃ガスの種類も多岐に亘る。
いずれにせよ、本発明は所定の排出基準を達成する上で効果的であり、簡単かつ安価な廃ガス浄化に資する点で極めて有意義である。
 
訂正の要旨 訂正の要旨
特許第2688620号発明の特許明細書を平成11年10月12日付け手続補正書に添付された全文訂正明細書のとおりに、すなわち次の(イ)乃至(ハ)のとおりにそれぞれ訂正するものである。
(イ)特許請求の範囲の記載をその減縮、誤記の訂正及び明りょうでない記載の釈明を目的として、次のとおりに訂正する。
「【請求項1】反応性水酸化カルシウムを主成分とする乾燥粉末であって、ガス中に存在する酸と反応して硫黄を放出する硫黄含有・放出性物質の水溶性塩0.01〜5重量%を含み、該硫黄含有・放出性物質はポリ硫化物、ポリチオン酸塩及びチオ硫酸塩から選択される1種以上であることを特徴とするガス及び廃ガスからの重金属、酸等の有害物資の浄化剤。
【請求項2】粒径が200μm未満であることを特徴とする請求項1記載の浄化剤。
【請求項3】反応性水酸化カルシウムを主成分とする乾燥粉末が表面活性物質0.5〜10重量%を更に含有することを特徴とする請求項1又は2記載の浄化剤。
【請求項4】硫黄含有・放出性物質の水溶性塩を表面活性物質上に担持させたことを特徴とする請求項3記載の浄化剤。
【請求項5】硫黄含有・放出性物質の水溶性塩が表面活性物質と混合されていることを特徴とする請求項3記載の浄化剤。
【請求項6】硫黄含有・放出性物質の水溶性塩がそのアルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物から成る群の中から選ばれることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の浄化剤。
【請求項7】水分が0.1〜5重量%である請求項1〜6のいずれか1項記載の浄化剤。
【請求項8】表面活性物質が、活性炭、褐炭-平炉コークス、活性化酸化アルミニウム、珪酸ゲル及び珪藻土から成る群中より選ばれることを特徴とする請求項3〜7のいずれか1項記載の浄化剤。
【請求項9】硫黄含有・放出性物質によってガス及び廃ガスから重金属、酸等の有害物質を除去して浄化する方法において、ガス中に存在する酸と反応して硫黄を放出する硫黄含有・放出性物質の水溶性塩を含有する乾燥したもしくは水分が0.1〜5重量%の微粉末状の水酸化カルシウム(但し、該硫黄含有・放出性物質は、ポリ硫化物、ポリチオン酸塩及びチオ硫酸塩から選択される1種以上)及び該硫黄含有・放出性物質の水溶性塩を担持させた表面活性物質を含む水酸化カルシウムの少くとも一方を、ガス流又は廃ガス流に添加し、適宜の集収装置によって該ガス流又は廃ガス流から重金属等の硫化物を及び酸と水酸化カルシウムの反応生成物を補収除去することを特徴とする浄化方法。
【請求項10】請求項2〜8に記載の浄化剤を使用することを特徴とする請求項9記載の浄化方法。
【請求項11】0〜400℃の温度範囲においてガス流又は廃ガス流を処理することを特徴とする請求項9又は10記載の浄化方法。
【請求項12】硫黄含有・放出性物質の水溶性塩を水銀等の揮発性の重金属に対して1〜1000倍の量比において使用することを特徴とする請求項9〜11のいずれか1項記載の浄化方法。
【請求項13】さらに硫黄を水銀等の揮発性の重金属に対して5〜2000倍の量比において使用することを特徴とする請求項9〜11のいずれか1項記載の浄化方法。
【請求項14】ガス及び廃ガスからそれに含まれる揮発性の重金属、酸等の有害物質を除去して浄化する方法において、該硫黄含有・放出性物質の水溶性塩を表面活性物質上に担持させるか又は表面活性物質と混合させるかした状態で0〜400℃の温度範囲で請求項12に記載の化学量論的な比率において使用することを特徴とする浄化方法。
【請求項15】請求項3、4、5又は8に記載の浄化剤を用いてガス又は廃ガスを処理することを特徴とする、塩素化ダイオキシン及びフラン、塩素化炭化水素及び/又はポリ芳香族炭化水素の除去方法。」
(ロ)発明の名称
「ガス及び廃ガスからの有害物質の浄化剤、浄化方法及び該剤を用いる有害物質の除去方法」と訂正する。
(ハ)明細書の「発明の詳細な説明」の欄
発明の詳細な説明を特許請求の範囲の減縮に伴う明りょうでない記載の釈明を目的として、次の▲1▼及び▲2▼のとおりに訂正する。
▲1▼特許明細書第5頁下から6行乃至3行(特許公報第2頁第4欄第5行乃至第8行)の「本発明は、・・・並びにこの剤の使用に関する。」を「本発明は、ガス及び廃ガスから特に揮発性の重金属或いは有機物質等の有害物質を除去してガス又は廃ガスを浄化するための浄化剤、浄化方法及び該剤を用いる有害物質の除去方法に関する。」と訂正する。
▲2▼特許明細書第25頁第5行乃至第26頁下から第6行まで(特許公報第5頁第10欄第46行乃至第6頁第12欄第4行)の「実施例2・・・従って分離率は84.2%であった。」を削除する。
異議決定日 1999-11-08 
出願番号 特願平2-115352
審決分類 P 1 651・ 121- YA (B01J)
P 1 651・ 531- YA (B01J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 野田 直人  
特許庁審判長 沼澤 幸雄
特許庁審判官 新居田 知生
山田 充
登録日 1997-08-29 
登録番号 特許第2688620号(P2688620)
権利者 エフテーウー ゲーエムベーハー フオルシュングウント テヒニッシエ エントヴィックルングイム ウムヴェルトシュッツ
発明の名称 ガス及び廃ガスからの有害物質の浄化剤、消化方法及び該剤を用いる有害物質の除去方法  
代理人 石井 貞次  
代理人 石井 貞次  
代理人 大屋 憲一  
代理人 平木 祐輔  
代理人 須賀 総夫  
代理人 大屋 憲一  
代理人 平木 祐輔  

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