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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G02B
管理番号 1010333
異議申立番号 異議1999-71308  
総通号数
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1992-08-04 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-04-08 
確定日 1999-11-22 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2809517号「分岐合波光導波回路」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2809517号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 1・手続の経緯
特許第2809517号の特許請求の範囲の請求項1乃至3に係る発明は、平成2年12月10日に特許出願され、平成10年7月31日にその特許の設定登録がなされ、その後、河原 浩人より特許異議の申立がなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成11年9月7日に訂正請求がなされ、さらに、訂正拒絶理由通知がなされ、その指定期間内である平成11年10月19日に補正がなされたものである。
2・訂正の適否についての判断
(1)補正の適否
上記補正は、訂正請求書の訂正事項の明りょうでない記載の釈明をおこなうものである。
したがって、上記補正は、訂正請求書の要旨を変更するものではないので、当該補正を認める。
(2)訂正の内容
前記補正により本件訂正は、特許明細書の請求項1を下記「」のとおりに訂正し、これに伴い特許明細書の【0013】の欄を訂正しようとするものである。
「【請求項1】 主導波路にテーパ導波路を接続すると共に該テーパ導波路の分岐点に、変曲点を有する複数の分岐光導波路を接続し、更に前記分岐光導波路にそれぞれ出力導波路を接続してなる分岐合波光導波路において、前記分岐光導波路の変曲点及び前記出力導波路との接続点に軸ずれを設け、前記テーパ導波路の分岐点における前記分岐導波路の間に前記分岐光導波路の界分布のピークのずれを補填するよう隙間を設けたことを特徴とする分岐合波光導波回路。」
(3)訂正の目的の適否
訂正後の特許請求の範囲の請求項1は、特許明細書の請求項1の「隙間」をさらに限定するもので、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許明細書の【0025】の記載からみて、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内のものである。
又、特許明細書の【0013】の欄の訂正は、特許請求の範囲の訂正に伴って、これに整合させるために【課題を解決するための手段】の欄を訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明に該当し、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内のものである。
(4)独立特許要件について
[本件訂正発明]
本件訂正発明は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1乃至3に記載された事項により特定されるとおりのものと認める。(請求項1については、上記2.(2)訂正の内容の【請求項1】参照。)
[引用刊行物に記載された事項]
当審が通知した取消理由に引用した刊行物1:1990年電子情報通信学会春期全国大会、
講演論文集、分冊4、通信・エレクトロニクス(1990年3月18日〜21日開催)
Cー186 「Y分岐導波路の低損失化」には、「分岐導波路形状は低損失化のため、分岐点で波面が徐々に傾く、円弧により構成(2)した(図1)ここで、構造パラメータの曲率半径と共に、製作のバラツキを考慮して比屈折率差、分岐部のなまり幅についても検討した。・・・図より分岐損失は、2.0μm幅以下では変化が少なく、これ以上では単調に増加する。・・・その結果、波長1.3μm,1.55μmにおいて分岐損失0.2dB以下を実現するためには、・・・▲3▼分岐点のなまり幅を2.0μm以内とする、ことが明らかとなった。よって、本構造は、分岐部において微細な構造を含まないため、Y分岐導波路の製作容易性及び再現性に対し有利であると言える。」と記載されている。又、図1には、主導波路と分岐導波路の間にテーパ導波路に相当する部分を介在したY分岐導波路が図示されている。
同じく、引用した刊行物2:IEE PROCEEDINGS-H MICROWAVES,OPTICS AND ANTENNAS.Vol.129,PartH,No5,1982年10月発行、第278頁〜第280頁には、カーブした光導波路の伝送ロスを低減する技術が開示されており、特に、第278頁のアブストラクトの欄には、
「異なった曲率を持つ2本の単一モード導波路の接続点では、光の放射損失が発生する。この放射損失を低減させるために、曲率の中心方向にそれぞれの導波路を軸ずれさせる手段を提案する。軸ずれ量は、光パワーピーク中心と導波路軸中心とのシフト量と一致させる。」と記載されている。
同じく、引用した刊行物3:1990年電子情報通信学会春期全国大会、講演論文集、分冊4、通信・エレクトロニクス(1990年3月18日〜21日開催)C-204 「アンテナ結合型Y分岐光導波路の低角度分岐における最適設計」には、アンテナ結合型Y分岐光導波路の分岐形状を最適化することで分岐損失を低減できることが開示されている。又、図1には、最適構造のY分岐導波路として、直線状の光導波路の一端両側面部に直線状の分岐用光導波路を、両分岐用光導波路が2θの角度をなすように、それぞれ接続したY分岐導波路において、前記直線状の光導波路の一端から幅2Wのスリットが設けられ、前記分岐用光導波路間の隙間を構成していることが図示されている。
同じく、引用した刊行物4:Electronics Letters,Vol.19,No24,Nov.1983 発行、第1009頁〜第1010頁には、Y分岐に代表される分岐回路の特性(特に分岐比)を安定化させる技術が開示されている。特に、第1009頁左欄本文第6行乃至第25行には、
「・・・Y分岐導波路は・・・光の入射条件・・・を変化させるとその分岐比がばらつく問題が知られている。・・この問題を回避するにはとても長い混合領域や小さい分岐角度を採用することにより可能であるが、デバイスサイズが大きくなる結果を招くことになる。マルチモードファイバにおけるこの問題を回避する方法として、モードスクランブラーが知られている。・・・このモードスクランブラーは図1に示すようにくねくねした形状を有して・・・構成されている。・・・」と記載されている。
同じく、引用した刊行物5:Applied Physics Letters,Vol.56,No2,1990年1月8日発行、第120頁〜第121頁には、分岐部分の直前に高次モード除去領域を配置する技術即ちモード安定化領域を設ける技術が開示されている。特に、図1には、高次モード除去領域で、幅広のリン系ガラス(幅7μm)が幅細(幅5μm)に先細り加工されていることが図示されている。
同じく、引用した刊行物6:光集積回路、昭和60年2月25日、株式会社オーム社発行、第2章には、「光導波路の理論」と題し、導波モードの分散特性、及び曲がり導波路の放射損失に関する事項が開示されている。
同じく、引用した刊行物7:16th European Coference on Optical Communication(1990年9月16-20日開催)175〜178頁には、方向性結合器のSベンド特性が検討され、特に第177頁のfig.4には、Sベンドの変曲点部に軸ずれを起こさせる点、及びSベンドと直線導波路との接続点に軸ずれを起こさせる点が記載されている。
[対比・判断]
本件の請求項1に係る訂正発明(以下「本件訂正発明1」という。)と上記各引用刊行物記載の発明とを対比する。
先ず、刊行物1記載の発明は、テーパ導波路の分岐点における分岐導波路の間に2μm以下のなまり幅(本件訂正発明の「隙間」に相当)を許容する点で、本件訂正発明1と類似する。しかし、刊行物1記載の発明は、単に、製造上の許容誤差の範囲を示すものにすぎず、本件訂正発明1の構成要件である「テーパ導波路の分岐点における前記分岐導波路の間に前記分岐光導波路の界分布のピークのずれを補填するよう隙間を設けた」(以下、「本件の構成要件」という。)構成を有するものではない。
次いで、刊行物2及び刊行物7記載の発明は、直線導波路と曲線導波路との分岐部における界分布の不整合による結合損失を軸ずれを設けることで抑制する点で、本件訂正発明1と共通するが、上記本件の構成要件については、何も記載されておらず示唆もない。
又、刊行物3記載の発明は、分岐用光導波路間に隙間を有する点で、一見、本件訂正発明1に類似している。しかし、刊行物3記載の発明は、アンテナ結合型Y分岐光導波路に関するものであり、テーパ導波路を有しておらず、結局、上記本件の構成要件を備えていない。
更に、刊行物4乃至6には、本件の請求項2又は3に係る発明のモード安定化領域に相当又は関係する発明が記載されているものの、上記本件の構成要件については、何も記載されていない。
以上のとおり、上記引用刊行物1乃至7には、いずれも本件訂正発明1の構成要件である「テーパ導波路の分岐点における前記分岐導波路の間に前記分岐光導波路の界分布のピークのずれを補填するよう隙間を設けた」構成を備えておらず、しかも、この点が当該技術分野において、周知慣用手段であるとも認められない。
したがって、本件訂正発明1は、刊行物1乃至7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
又、請求項2及び3に係る訂正発明は、いずれも本件訂正発明1の構成の一部をさらに具体化して限定したものであるから、請求項1に係る発明と同様、刊行物1乃至7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
したがって、本件の請求項1乃至3に係る訂正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。
(5)訂正の適否についてのむすび
以上のとおり、本件訂正は、特許法の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、平成6年改正前同法第126条1乃至3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
3・特許異議の申立についての判断
異議申立人河原 浩人は、甲第1号証乃至甲第6号証を提出し、本件の請求項1乃至3に係る発明は甲第1号証乃至甲第6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件の請求項1乃至3に係る発明の特許は取り消されるべきである旨主張している。
しかし、本件の請求項1乃至3に係る発明は上記のとおり訂正され、しかも、異議申立人の提出した甲第1号証乃至甲第6号証は、上記当審における取消理由で引用した刊行物1乃至6と同じである。
してみれば、訂正された本件の請求項1乃至3に係る発明は、上記2.(4)独立特許要件の判断で示したと同様の理由により、甲第1号証乃至甲第6号証(刊行物1乃至6)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
また、他に本件の請求項1乃至3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
分岐合波光導波回路
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 主導波路にテーパ導波路を接続すると共に該テーパ導波路の分岐点に、変曲点を有する複数の分岐光導波路を接続し、更に前記分岐光導波路にそれぞれ出力導波路を接続してなる分岐合波光導波回路において、前記分岐光導波路の変曲点及び前記出力導波路との接続点に軸ずれを設け、前記テーパ導波路の分岐点における前記分岐導波路の間に前記分岐光導波路の界分布のピークのずれを補填するよう隙間を設けたことを特徴とする分岐合波光導波回路。
【請求項2】 前記主導波路に接続する入力直線導波路にモード安定化領域を有することを特徴とする請求項1記載の分岐合波光導波回路。
【請求項3】 前記モード安定化領域としてくびれ部を設けたことを特徴とする請求項2記載の分岐合波光導波回路。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、分岐合波光導波回路に関するものであり、導波路の製作性を容易にするとともに再現性に優れた低損失回路が期待できるものである。
【0002】
【従来の技術】
光集積回路において、光分岐回路,光合波回路は基本構成要素として必要不可欠なものである。このような分岐合波光導波路回路としては、従来より2本以上の分岐光導波路を有するY分岐光導波路が知られている。特にY分岐導波回路は、方向性結合器に比較して波長依存性が低いことから、1×Nスプリッタ光回路等への応用が期待されている。
【0003】
従来のY分岐導波回路の構造を図15及び図16に示す。両図に示すよY分岐導波回路は、主導波路4、テーパ導波路8、分岐導波路5,6を順に接続してなる光導波路であり、テーパ導波路8と分岐導波路5,6の間には分岐点7が介在している。図17及び図18に示すように分岐導波路5,6は何れも変曲点aを有し、この変曲点aの前後において相互に逆方向に曲率半径Rで湾曲する曲線状導波路である。更に、分岐導波路5,6はそれぞれ出力導波路cに接続している。また、主導波路4の幅W4と分岐導波路5,6の幅W5,W6とは等しく、更に、分岐点7における分岐導波路5,6の間の幅(以下、なまり幅という)は零の理想的形状となっている。
【0004】
このY分岐導波回路を製作するには、Si Cl4,Ge Cl4,Ti Cl4,Po Cl3,BCl3等の塩化物を出発材料として、例えば、図19〜図23に示すように、シリコン基板1にクラッド層2、コアガラス層3を順次堆積し、次いでエッチング加工によりコア部以外のコアガラス層3を取り除いて光が伝搬する導波路として主導波路4、分岐導波路5,6及びテーパ導波路8を形成し、引き続き、クラッドガラス層2を堆積することにより行われる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
従来、Y分岐導波回路を低損失化するためには、第一に円弧状に湾曲する分岐導波路5,6の曲率半径を大きくすること、第二に理想的に鋭峻な分岐点7とすること、つまり、なまり幅を零とすることが重要である。しかし、上記の二つの事項を達成する上で、以下に示す問題がある。
【0006】
第一に、分岐導波路5,6の曲率半径を大きくする為には回路サイズを大きくする必要があるが、現実には、回路サイズは基板の大きさにより制約を受けるので、曲率半径の増大には限界があった。また、1×N光スプリッタのように多段の分岐導波路によって構成された回路では、小さな曲率半径の導波路を使用するので、必然的に挿入損失が大きくなるという問題が生じる。
【0007】
第二に、理想的な鋭峻な分岐点7を実現する上で、パターニング及びエッチングの精度等の原因により、図24に示すように鋭峻な分岐点7とならず、分岐点7における分岐導波路5,6の幅WBが零とならないで作成された場合に、大きな分岐損失を生じることになる。
【0008】
次に、Y分岐導波路の分岐比のバラツキにも問題がある。
【0009】第一に、従来構造においては分岐点7の形状が繊細なため、図25に示すように分岐点7が非対称な形状となった場合には、大きな分岐損失が生じると共に分岐比にバラツキを生じることになる。また、再現性についても良好ではない。
【0010】
第二に、1×N光スプリッタのように多段の分岐導波路で構成された回路では、前段の分岐導波路を通過した光は、その出力導波路、即ち後段の入力導波路において界分布が揺らぐため、分岐比にバラツキを生じることになる。
【0011】
第三に、1×N光スプリッタに入出力ファイバを接続等の実装を行う場合、治具の工具精度、アライメント装置の機械精度の原因によって、入力ファイバと光回路の入力直線導波路が軸ずれを生じる場合がある。この場合には、導波路において、基本モードの他に高次モード、放射モードが励振されてしまうので、この結果、分岐比にバラツキを生じてしまうことになる。
【0012】
本発明は、上記従来技術に鑑みて成されたものであり、分岐損失、分岐比のバラツキ及び再現性の問題を解消した低損失な光分岐合波回路を提供することを目的とするものである。
【0013】
【課題を解決するための手段】
斯かる目的を達成する本発明の構成は主導波路にテーパ導波路を接続すると共に該テーパ導波路の分岐点に、変曲点を有する複数の分岐光導波路を接続し、更に前記分岐光導波路にそれぞれ出力導波路を接続してなる分岐合波光導波回路において、前記分岐光導波路の変曲点及び前記出力導波路との接続点に軸ずれを設け、前記テーパ導波路の分岐点における前記分岐導波路の間に前記分岐光導波路の界分布のピークのずれを補填するよう隙間を設けたことを特徴とする。
【0014】
更に、主導波路に接続する入力直線導波路にモード安定化領域としてくびれ部を設けるようにすると、一層好適である。
【0015】
【実施例】
図1〜図3に本発明の第一の実施例を示す。この実施例は、本発明をY分岐光導波路に適用したものである。即ち、このY分岐光導波路は、主導波路4、テーパ導波路8、分岐導波路5,6を順に接続してなるものであり、テーパ導波路8と分岐導波路5,6の間には分岐点7が介在している。この分岐点7において、分岐導波路5,6の間には、隙間d1が設けられている。分岐導波路5,6は何れも変曲点aを有し、この変曲点aの前後で相互に逆方向に湾曲する曲線状導波路である。分岐導波路5,6のの変曲点aには軸ずれd2が設けられるとともに、この分岐導波路5,6は出力導波路cと接続しており、その接続点bには軸ずれd3が設けられている。
【0016】
ここで、図4に示すように、直線導波路の界分布のピークは導波路の中心に存在するが、曲線導波路の界分布は、曲率半径が小さくなるにしたがって、界分布のピークは外側に移動する。この為、入力導波路と分岐導波路との接続点、分岐導波路の変曲点a、分岐導波路と出力導波路cとの接続点bにおいて、軸ずれなく接続すると、従来技術のように界分布のピークの位置が異なるため、界分布不整合による損失が発生する。更に、上記界分布不整合による摂動のため、出力導波路cの界分布が左右に揺らぎ、分岐比のバラツキ発生の原因となる。尚、図5に示すように、曲線状導波路の接線方向Zに対して、直角方向外側向きをX軸の正方向とする。
【0017】
これに対して、本実施例では、分岐導波路5,6の変曲点a、分岐導波路5,6と出力導波路cとの接続点bにおいて、軸ずれd2,d3を設けて界分布のピークの位置を一致させたので、界分布不整合による損失の増加及び分岐比のバラツキを抑圧することができる。
図6は、分岐点7における分岐導波路5,6の間の隙間d1と挿入損失との関係を示すものである。同図に示すように、挿入損失を最小とする隙間d1の値は0ではなく、約1μmであることが判る。従って、分岐点7における分岐導波路5,6の間に隙間を設けない従来の場合(d1=0μm)よりも、その間の隙間をd1を約1μmとするほうが、挿入損失が低下することになる。但し、図6では、d2=d3=0μmと仮定した。
【0018】
図7は、分岐導波路5,6の変曲点aにおける軸ずれd2と挿入損失との関係を示すものである。同図に示すように、挿入損失を最小とする隙間d2の値は0ではなく、0.2〜0.5μmの間に存在することが判る。従って、軸ずれを与えない従来構造に比較し、本発明による構造は挿入損失を低減することができる。但し、図7では、d3=2d2,d1=0〜3μmと仮定した。
図8は、分岐導波路の軸ずれd2,d3の有無と出力導波路cでの界分布の摂動との関係を示すものである。横軸zは、分岐導波路5,6と出力導波路cの接続点bからの距離、縦軸xoは界分布が最大となる位置を示すものである。軸ずれd2,d3を設けた場合については図中に黒丸で示すように、白丸で示す軸ずれd2,d3を設けない場合に比較し、軸ずれの効果により、界分布の不整合が解消され、出力導波路cの摂動が抑えられる様子が判る。
尚、入力ファイバと光回路の軸ずれによって導波路内に励振された基本モード以外の高次モード、放射モードは閉じ込め効果が弱いので、長い直線導波路、曲線導波路、くびれ等のモード安定化領域を設けることにより除去することができる。この結果、導波路の界分布の摂動が抑えられ、分岐比のバラツキの無い良好な特性が得られる。
【0019】
次に、本発明の第二の実施例について図9を参照して説明する。本実施例は、1×8スプリッター光回路に本発明を適用したものである。即ち、この1×8スプリッター光回路は、Y分岐光導波路18〜25を3段7個接続したものであり、更に、入力ポート9、出力ポート10〜17が接続している。各Y分岐光導波路18〜24は、図10に示すように、テーパ導波路8と分岐導波路5,6の間がクラッドにより切り離された構造である。これは、分岐導波路5,6の狭い間隙に、クラッド材質を均一に導入するためである。
このような構成を有する光回路は、次のような手順により作成される。
先ず、直径3インチ、厚さ700μmのシリコン基板に火炎堆積法によって多孔質ガラス膜を堆積し、その堆積順序は、まずクラッド層として組成がSi O2-P2 O5-B2 O3の多孔質ガラス膜を堆積し、次いでコア層として組成がSi O2-Ge O-P2 O5の多孔質ガラス膜を堆積した。多孔質ガラス膜を堆積した基板を温度1390度のHeとO2の混合雰囲気中で2時間熱処理した。次いで、反応性イオンエッチングにより光導波路パターンを形成した。更に、このコア層を覆うようクラッド層を形成する。この結果、図9に示す光導波路が形成され、1×8スプリッタ光回路の製作が完了する。但し、コアの寸法は8μm×8μm、d1=1μm、d2=0.4μm、d3=0.2μmとした。
この結果、出力ポート10〜17の挿入損失のバラツキは±0.3dB、Y分岐導波路1段当たりの分岐損失は0.1dBと非常に低損失で、しかも、そのバラツキが小さかった。
【0020】
図11は、本発明の第三の実施例を示すものである。本実施例は、モード安定化領域を備えた1×2スプリッタ光回路に関するものである。即ち、Y分岐導波路25の主導波路にはモード安定化領域として長い入力直線導波路(15mm)26が接続しており、このように長い入力直線導波路26を設けることによって、閉じ込めの弱い基本モード以外のモードが減衰し、入力ファイバの位置ずれに対し分岐比のバラツキの小さな特性が得られた。尚、この回路のY分岐導波路は、第二の実施例と同様とした。
【0021】
図12は、本発明の第四の実施例を示すものである。本実施例は、モード安定化領域としてS字状に湾曲する曲線導波路を備えた1×2スプリッタ光回路に関するものである。即ち、Y分岐導波路27の主導波路にはモード安定化領域としてS字状に湾曲する曲線導波路28が接続しており、このように曲線導波路21を設けることによって、摂動の原因となる高次モード、放射モードの光が曲線導波路28によって除去され、入力ファイバの位置ずれに対する分岐比のバラツキが小さくなった。尚、この回路のY分岐導波路27は、第二の実施例と同様とした。
【0022】
図13は、本発明の第五の実施例を示すものである。本実施例では、モード安定化領域として入力直線導波路にくびれ部を形成した1×2スプリッタ光回路に関するものである。即ち、Y分岐導波路29の主導波路には入力直線導波路30が接続しており、この入力直線導波路30には図14に示すように幅の狭くなったくびれ部31が設けられている。このように入力直線導波路30にくびれ部31を形成することにより、摂動の原因となる高次モード、放射モードの光はくびれ部31において除去され、入力ファイバの位置ずれに対する分岐比のバラツキが小さくなった。尚、この回路のY分岐導波路29は、第二の実施例と同様とした。
【0023】
本実施例では、モード安定化領域として入力直線導波路30にくびれ部31を設けたので、第四の実施例のようにS字状に湾曲する曲線導波路28を設けた場合に比較して最適化した設計が可能である。即ち、曲線導波路の設計においては、広い波長にわたって基本モードの挿入損失を低くしつつ、高次モードの遮断波長領域で挿入損失を高くすることを両立するように最適化することは困難である。これに対して、くびれ部の導波路の設計では、広い波長にわたって基本モードの挿入損失を低くしつつ、高次モードの遮断波長領域で挿入損失を高くすることを両立することが可能である。
【0024】
尚、上記第二、第三、第四、第五の実施例では、石英系ガラス導波路について説明したが、本発明は、このようなものに限られるものではなく、半導体導波路等他の導波路に対しても適用できるものである。更に、Ti拡散Li Nb O3導波路、プロトン交換導波路、イオン交換導波路のような屈折率分布が分布関数の場合であっても、本発明は適用できるものである。
【0025】
【発明の効果】
以上、実施例に基づいて具体的に説明したように、本発明は、分岐光導波路の変曲点及び出力導波路との接続点に軸ずれを設け、テーパ導波路の分岐点における分岐導波路の間に隙間を設けたので、曲線導波路における界分布のピークのずれを補填できる。この為に、導波路の製作性が容易となると共に再現性に優れた低損失な分岐合波光導波回路を提供することができる。更に、入力導波路にモード安定化領域を設けると、摂動の原囚となる高次モード、放射モードを除去して分岐比のバラツキを小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の一実施例に係るY分岐導波路の構成図である。
【図2】
図1に示すY分岐導波路における分岐導波路の変曲点近傍を拡大して示す説明図である。
【図3】
図1に示すY分岐導波路における分岐導波路と出力導波路との接続点近傍を拡大して示す説明図である。
【図4】
直線導波路、曲線導波路における界分布を示すグラフである。
【図5】
界分布における座標を示す説明図である。
【図6】
テーパ導波部の分岐点における分岐導波路5,6の隙間d1と挿入損失との関係を示すグラフである。
【図7】
分岐導波路の変曲点における軸ずれd2と挿入損失との関係を示すグラフである。
【図8】
軸ずれがの有無による界分布の摂動を示すグラフである。
【図9】
本発明の第二の実施例に係る1×8スプリッタ光回路の平面図である。
【図10】
図9における1×8スプリッタ光回路のY分岐導波路を拡大して示す説明図である。
【図11】
本発明の第三の実施例を示す説明図である。
【図12】
本発明の第四の実施例を示す説明図である。
【図13】
本発明の第五の実施例を示す説明図である。
【図14】
図5に示すくびれ部を拡大して示す説明図である。
【図15】
従来のY分岐導波路の構成を示す説明図である。
【図16】
図15中直線A-Bで切断した断面図である。
【図17】
図15のY分岐導波路における分岐導波路の変曲点近傍を拡大して示す説明図である。
【図18】
図15のY分岐導波路における分岐導波路と出力導波路との接続点近傍を拡大して示す説明図である。
【図19】
従来のY分岐導波路の製作工程を示す説明図である。
【図20】
従来のY分岐導波路の製作工程を示す説明図である。
【図21】
従来のY分岐導波路の製作工程を示す説明図である。
【図22】
従来のY分岐導波路の製作工程を示す説明図である。
【図23】
従来のY分岐導波路の製作工程を示す説明図である。
【図24】
Y分岐導波路の分岐点における分岐導波路の間に隙間が形成された様子を示す説明図である。
【図25】
Y分岐導波路の分岐点が非対称的に形成された様子を示す説明図である。
【符号の説明】
1 基板
2 クラッド
3 コア
4 主導波路
5 分岐導波路
6 分岐導波路
7 分岐点
8 テーパ導波路
9 入力ポート
10 出力ポート
11 出力ポート
12 出力ポート
13 出力ポート
14 出力ポート
15 出力ポート
16 出力ポート
17 出力ポート
18 Y分岐導波路
19 Y分岐導波路
20 Y分岐導波路
21 Y分岐導波路
22 Y分岐導波路
23 Y分岐導波路
24 Y分岐導波路
25 Y分岐導波路
26 入力直線導波路
27 Y分岐導波路
28 入力直線導波路
29 Y分岐導波路
30 入力直線導波路
31 くびれ部
 
訂正の要旨 訂正の要旨
(イ)訂正事項a
特許明細書の請求項1の欄を、
「【請求項1】 主導波路にテーパ導波路を接続すると共に該テーパ導波路の分岐点に、変曲点を有する複数の分岐光導波路を接続し、更に前記分岐光導波路にそれぞれ出力導波路を接続してなる分岐合波光導波回路において、前記分岐光導波路の変曲点及び前記出力導波路との接続点に軸ずれを設け、前記テーパ導波路の分岐点における前記分岐導波路の間に前記分岐光導波路の界分布のピークのずれを補填するよう隙間を設けたことを特徴とする分岐合波光導波回路。」と訂正する。
(ロ)訂正事項b
特許明細書の【0013】の欄を下記の通りに訂正する。
「【0013】
【課題を解決するための手段】
斯かる目的を達成する本発明の構成は主導波路にテーパ導波路を接続すると共に該テーパ導波路の分岐点に、変曲点を有する複数の分岐光導波路を接続し、更に前記分岐光導波路にそれぞれ出力導波路を接続してなる分岐合波光導波回路において、前記分岐光導波路の変曲点及び前記出力導波路との接続点に軸ずれを設け、前記テーパ導波路の分岐点における前記分岐導波路の間に前記分岐光導波路の界分布のピークのずれを補填するよう隙間を設けたことを特徴とする。」
異議決定日 1999-10-27 
出願番号 特願平2-407145
審決分類 P 1 651・ 121- YA (G02B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 岡田 吉美  
特許庁審判長 豊岡 静男
特許庁審判官 河原 英雄
青山 待子
登録日 1998-07-31 
登録番号 特許第2809517号(P2809517)
権利者 日本電信電話株式会社
発明の名称 分岐合波光導波回路  
代理人 澤井 敬史  
代理人 澤井 敬史  

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