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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61M
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61M
管理番号 1010346
異議申立番号 異議1999-70160  
総通号数
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1990-03-01 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-01-21 
確定日 2000-01-11 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2777604号「体液処理用吸着材」の請求項1ないし2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2777604号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 〔1〕手続の経緯
本件特許2777604号(以下「本件特許」という。)は、昭和63年8月29日に特許出願されたものであって、平成10年5月8日に設定登録がされ、同年7月23日に特許公報に掲載されたものであり、これに対して、特許異議申立人テルモ株式会社より、本件の請求項1及び請求項2に係る発明の特許に対して、平成11年1月21日付けで特許異議の申立てがされ、その後、当審の取消理由通知に対して、平成11年10月4日付け訂正請求書により訂正請求がされたものである。
〔2〕訂正事項と訂正の適否についての判断
本件訂正請求は、明細書の特許請求の範囲の請求項2を削除するとともに、同請求項1の記載の、「中空糸状全多孔体の構造体部分の少なくとも表面近傍に低分子化合物に由来するアニオン性基を有することを特徴とする体液処理用吸着材。」を「中空糸の構造体部分の微細構造が内表面から外表面に連通する多孔構造を実質上全体に持ち、構造体部分の平均孔径が0.005μmから3μm、内径が50μmから5mm、膜厚が10μmから1mmである中空糸状全多孔体の構造体部分の少なくとも表面近傍に低分子化合物に由来するアニオン性基を有することを特徴とする体液処理用吸着材であって、該中空糸状多孔体を多数本集束し、その両末端を接続固定して容器に充填し、容器外部と体液処理用吸着材内面とが連通する構造を有する体液処理用吸着器として使用するための体液処理用吸着材。」と訂正するとともに、これに対応する発明の詳細な説明の記載を訂正するものである。
そこで、訂正事項について検討すると、特許請求の範囲(請求項1)の訂正は、発明の構成を、発明の詳細な説明中のとくに実施例に記載されたとおりの、上記「体液処理用吸着材」に限定するものであると認められるから、特許法第120条の4第2項ただし書第1号の特許請求の範囲の減縮に該当し、また、発明の詳細な説明の訂正は、特許請求の範囲の記載の訂正に伴って発明の詳細な説明の記載を訂正された特許請求の範囲の記載と整合するように訂正するものであると認められるから、この訂正も同条同項第1号に該当するものであり、また、本件訂正事項は、全体として願書に最初に添付した明細書記載の範囲においてされたものであると認められるので、同条第3項で準用する第126条第2項及び第3項の規定にも適合する。
さらに、本件訂正後の請求項1に記載された発明が特許出願の際独立して特許を受けることができない発明であるとすることもできない(後述のとおり特許異議の申立ては理由がなく、その他本件訂正後の請求項1に記載された発明が特許を受けることができない発明であるとする理由を発見しない。)ので、本訂正事項は、特許法第120条の4第3項で準用する同法第126条第4項の規定にも適合するものである。
したがって、本件訂正請求はこれを認めることとする。
〔3〕特許異議申立てについての判断
本件特許発明は、訂正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のものにある。
「請求項1
中空糸の構造体部分の微細構造が内表面から外表面に連通する多孔構造を実質上全体に持ち、構造体部分の平均孔径が0.005μmから3μm、内径が50μmから5mm、膜厚が10μmから1mmである中空糸状全多孔体の構造体部分の少なくとも表面近傍に低分子化合物に由来するアニオン性基を有することを特徴とする体液処理用吸着材であって、該中空糸状多孔体を多数本集束し、その両末端を接続固定して容器に充填し、容器外部と体液処理用吸着材内面とが連通する構造を有する体液処理用吸着器として使用するための体液処理用吸着材。」
これに対して、特許異議申立人の申立ての理由は、(本件訂正前の)「本件請求項1に係る特許発明は甲第1号証または甲第2号証に記載された発明であるから、当該発明は特許法第29条第1項第3号に掲げる発明に該当し、また請求項1に係る特許発明は甲第1号証、甲第2号証に記載された発明に基づいて、請求項2に係る特許発明は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基づいて、それぞれの発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、したがって上記各発明に係る特許はいずれも同法第113条第2号の規定により取り消すべきである。」というにある。
証拠方法:
甲第1号証:特開昭62-82973号公報
甲第2号証:特開昭63-79669号公報
甲第3号証:特開昭62-22659号公報
そこで、甲号各証について検討すると、甲第1号証には、β-リポ蛋白質の吸着材および吸着装置に関して第1〜2図とともに記載されており、これを本件発明と対比すると、両者は、本件訂正前の発明に係る、「中空糸状全多孔体の構造体部分の少なくとも表面近傍に低分子化合物に由来するアニオン性基を有することを特徴とする体液処理用吸着材」であるという点においては共通するものであると認められるが、本件訂正請求によって規定された、「中空糸の構造体部分の微細構造が内表面から外表面に連通する多孔構造を実質上全体に持ち、構造体部分の平均孔径が0.005μmから3μm、内径が50μmから5mm、膜厚が10μmから1mmである中空糸状全多孔体の構造体部分の少なくとも表面近傍に低分子化合物に由来するアニオン性基を有することを特徴とする体液処理用吸着材であって、該中空糸状多孔体を多数本集束し、その両末端を接続固定して容器に充填し、容器外部と体液処理用吸着材内面とが連通する構造を有する体液処理用吸着器として使用する」点に関しては、甲第1号証には何ら記載がない。そして、かかる構成により、本件請求項1に係る発明は、「分子鎖が短い低分子化合物をリガンドとして用いても、効率良く吸着が行われ、充分な量の吸着ができる」という甲第1号証の吸着材に比して有利な効果を奏するものと認められる。
また、甲第2号証には、「吸着材」に関して、甲第3号証には、「低比重リポ蛋白質吸着材の再生方法およびその装置」に関してそれぞれ記載されているが、いずれにも、本件請求項1に係る発明の上記構成に関しては何らの記載も示唆もない。
そうすると、その余について検討するまでもなく、本件請求項1に係る発明が、甲第1号証乃至甲第3号証に記載された発明であるとすることはできず、さらに、甲第1号証乃至甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることもできない。
〔4〕まとめ
以上のとおりであるから、本件特許発明が特許法第29条第1項第3号又は同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとする特許異議申立人の主張は、これを採用することができない。
ほかに、本件特許発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
体液処理用吸着材
(57)【特許請求の範囲】
(1)中空糸の構造体部分の微細構造が内表面から外表面に連通する多孔構造を実質上全体に持ち、構造体部分の平均孔径が0.005μmから3μm、内径が50μmから5mm、膜厚が10μmから1mmである中空糸状全多孔体の構造体部分の少なくとも表面近傍に低分子化合物に由来するアニオン性基を有することを特徴とする体液処理用吸着材であって、該中空糸状多孔体を多数本集束し、その両末端を接続固定して容器に充▲填▼し、容器外部と体液処理用吸着材内面とが連通する構造を有する体液処理用吸着器として使用するための体液処理用吸着材。
【発明の詳細な説明】
(産業上の利用分野)
本発明は、体液中に存在し、アニオン性基と相互作用をなす物質、例えば、低比重リポ蛋白質、ある種のウイルス等を吸着するための吸着材に関するものである。
近年、医学、特に内科学、血液学、免疫学、臨床検査法等の進歩により、疾患の原因あるいは進行と密接な関係を持っていると考えられる血液中の悪性物質が明らかになりつつある。中でも確実に因果関係の判っているのは、家族性高コレステロール血症における低比重リポ蛋白質である。
周知の如く、血液中の脂質、特に低比重リポ蛋白質の増加は、動脈硬化の原因あるいは進行と密接な関係を持っていると考えられている。動脈硬化が進むと心筋梗塞、脳梗塞等循環器系の重篤な症状に陥る可能性が非常に高くなり、死亡率も高い。そこで、血液、血漿等の体液成分から低比重リポ蛋白質を選択的に吸着除去することによって、上記の如き疾患の進行を防止し、症状を軽減せしめ、さらには治癒を早めることが期待されていた。
(従来の技術)
上記目的に使用可能な従来の技術には、▲1▼ヘパリンと低比重リポ蛋白質との不溶性複合体を形成させて、これを濾過により除去する方法、▲2▼血液を先ず血球と血漿に分離した後、血漿成分を血漿成分分離フィルターに通し、高分子量蛋白である低比重リポ蛋白質を濾別分離する方法、▲3▼抗低比重リポ蛋白質抗体を結合したアガロースゲルにより低比重リポ蛋白質を吸着除去する方法、▲4▼硫酸多糖を水不溶性ゲルに結合した吸着体を用いて低比重リポ蛋白質を吸着除去する方法等がある。
しかしながら、▲1▼の方法では、血漿に加えた過剰のヘパリンを除去するためにヘパリン吸着材を使用しなければならず、装置が大がかりなものになり、操作も煩雑になること、▲2▼の方法では、高分子量蛋白は全て除去されてしまう結果、有用な生体成分も除去されてしまうこと、▲3▼の方法では、低比重リポ蛋白質を特異的に吸着できるものの、抗体という蛋白質を用いているため滅菌が難しく、完全に無菌を保証することが不可能であり、また、抗体が高価であること、▲4▼の方法では、選択的に低比重リポ蛋白質を吸着できるが、全血を直接吸着材で処理できないため、血球と血漿を分離する装置が必要になり、操作が煩雑になる等の欠点を有していた。
(発明が解決しようとする課題)
上記した従来技術の問題点に鑑み、低比重リポ蛋白質を選択的に吸着でき、全血をそのまま処理できる、操作の簡便な低比重リポ蛋白質吸着材を提供することが、本発明の最大の目的である。
(課題を解決するための手段)
本発明者らは、上記目的に沿って鋭意研究した結果、中空糸状全多孔体を担体として用い、多孔体の構造体部分の少なくとも表面近傍に低分子化合物に由来するアニオン性基を導入することにより、全血を直接処理しても血液の凝固がなく、血小板の損失も少なく、低比重リポ蛋白質を選択的に吸着できることを見出し、さらには、中空糸状全多孔体の構造体部分の表面近傍に低分子化合物に由来するアニオン性基を導入し、かつ、構造体部分の遠方にも鎖状の高分子化合物に由来するアニオン性基を導入することにより、低比重リポ蛋白質の吸着能力をさらに向上できることを見出し、本発明を得るに至った。
すなわち、本発明は、中空糸の構造体部分の微細構造が内表面から外表面に連通する多孔構造を実質上全体に持ち、構造体部分の平均孔径が0.005μmから3μm、内径が50μmから5mm、膜厚が10μmから1mmである中空糸状全多孔体の構造体部分の少なくとも表面近傍に低分子化合物に由来するアニオン性基を有することを特徴とする体液処理用吸着材であって、該中空糸状多孔体を多数本集束し、その両末端を接続固定して容器に充▲填▼し、容器外部と体液処理用吸着材内面とが連通する構造を有する体液処理用吸着器として使用するための体液処理用吸着材である。
従来、分子の非常に大きい低比重リポ蛋白質を吸着材で吸着しようとする時には、低比重リポ蛋白質と相互作用をなす物質としてヘパリン、デキストラン硫酸のように長鎖構造を持った物質をリガンドとして用いて、担体表面から充分遠方までリガンドを伸ばしてやらないと吸着できないと考えられており、事実、多孔質ゲルを担体として用いる時には、短い分子をリガンドとして用いても、低比重リポ蛋白質を充分に吸着することは不可能であつた。これに対して、本発明者らは、担体として中空糸状全多孔体を用いたことにより、驚くべきことに短い分子をリガンドとして用いても充分な量の低比重リポ蛋白質を吸着できることを見出した。何故短い分子で低比重リポ蛋白質を効率良く吸着できるのかは明らかでないが、短い分子を結合した吸着材は、分子自体の抗原性が低く、また、滅菌時にリガンドの結合が切れ難いという利点を持っており、この事実は、吸着材として画期的なことである。さらに、短い分子と長い分子を組合せれば、中空糸状全多孔体の構造体部分の壁面付近では短い分子により、微細孔の空間部分では長い分子により、低比重リポ蛋白質を吸着できるので、低比重リポ蛋白質を非常に高い効率で吸着できるようになる。
本発明において中空糸状全多孔体とは、外観が中空糸状であって、中空糸の構造体部分(以下、膜と呼ぶ)の微細構造が膜の内表面から外表面に連通する多孔構造を実質上全体に持つものを言う。
膜の孔径は、被吸着物質の大きさや形状によって自由に選べるが、被吸着物質が自由に通過できる孔径であり、かつ、被吸着物質が接触できる表面が充分にあることが望ましい。平均孔径を水銀ポロシメー夕ーにより求めた孔径-空孔容積積分曲線上で、全空孔容積の1/2の空孔容積を示す孔径として定義した時、本発明に使用される中空糸状全多孔体の平均孔径は0.005μmから3μmの範囲のものが好ましく、被吸着物質の大きさにより選択できる。さらに好ましい平均孔径は0.01μmから2μmの範囲であり0.02μmから1μmの範囲が望まし。膜の多孔構造の細孔表面積を、BET式表面積測定装置を用い窒素吸着量から求めた値と定義する時、本発明に使用される中空糸状全多孔体の細孔表面積は5▲m2▼/g以上であることが好ましく、10▲m2▼/g以上であることがさらに好ましく、15▲m2▼/g以上であることが望ましい。中空糸の内径は30μm以上であることが好ましく、50μmから5mmであることがさらに好ましく、100μmから1mmであることが望ましい。中空糸の膜厚は5μm以上であることが好ましく、10μmから1mmであることがさらに好ましく、20μmから500μmであることが望ましい。
中空糸の素材としては、セルロース、セルロース誘導体、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体等の親水性材料、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスルホン、ポリテトラフルオロエチレン等の疎水性材料のいずれでも使用できるが、疎水性材料の場合は、水系液体の濾過が困難であるため、親水性材料のコーティング、化学処理による表面親水化、プラズマ処理による表面親水化等の方法により親水化処理することが好ましい。また、アニオン性基を導入する為には、例えば、アニオン性基を持つリガンドを固定する場合、中空糸状全多孔体表面にアニオン性基を持つリガンドを固定し易い水酸基、アミノ基、カルボキシル基、チオール基等の官能基を有していることが好ましいが、該官能基を有していなくても、プラズマ処理、アニオン性基を持つリガンドの包埋コーティング等の方法で、アニオン性基を持つリガンドを固定することができる。
アニオン性基を持つリガンドを中空糸状全多孔体表面に固定する方法は、共有結合、イオン結合、物理吸着、包埋、膜表面への沈澱不溶化等あらゆる公知の方法を用いることができるが、アニオン性基を持つリガンドの溶出性よりみて、共有結合により、固定、不溶化するのが好ましい。例えば、通常、固定化酵素、アフィニティークロマトグラフィーで用いられる公知の担体活性化法、固定法を用いることができる。活性化法を例示すると、ハロゲン化シアン法、過ヨウ素酸法、架橋試薬法、エポキシド法等が挙げられる。活性化法は、中空糸状全多孔体表面を修飾し、反応性に富んだ状態にして、アニオン性基を持つリガンドのアミノ基、水酸基、カルボキシル基、チオール基等の活性水素を有する求核反応基と置換および/または付加反応できればよく、上記の例示に限定されるものではない。
また、中空糸状全多孔体自身がアニオン性基を有する素材より成るものであってもよい。
本発明において、アニオン性基とは、スルホン酸基、硫酸基、リン酸基、カルボキシル基等、体液中で負電荷を示す官能基のことを言う。
また、本発明において表面近傍とは、中空糸状全多孔体を構成する構造体部分(素材自身)の表面から200Åまでの空間のことを言い、構造体の表面を含む。この距離は低比重リポ蛋白質の直径に相当する。
中空糸状全多孔体の構造体部分の表面近傍に低分子化合物に由来するアニオン性基を導入する方法は、アニオン性基を持つ低分子の化合物を、中空糸状全多孔体の構造体部分の表面に共有結合、イオン結合等の方法で結合する方法等が挙げられる。
低比重リポ蛋白質はその表面にカチオン性のアミノ酸残基を持っているので、中空糸状全多孔体の構造体部分表面に存在するアニオン性基と静電的な相互作用をなし、静電的引力で吸着される。低比重リポ蛋白質以外にも、表面にカチオン性ドメインを持った蛋白、ペプチド、ウイルス、例えば、活性化補体成分であるC3a、C4a、C5a、ある種のレトロウイルス等も本発明吸着材に吸着される。
本発明において、構造体部分の遠方にもアニオン性基を有するという意味は、中空糸状全多孔体を構成する構造体部分の表面から200Å以上離れた空間にアニオン性基を持つという意味である。
中空糸状全多孔体の構造体部分の遠方に鎖状の高分子化合物に由来するアニオン性基を導入する方法は、アニオン性基を持つ鎖状の高分子化合物を中空糸状全多孔体の構造体部分の表面に結合する方法、中空糸状全多孔体の構造体部分の表面からアニオン性基を持ったグラフト鎖を伸ばす方法等が挙げられる。
アニオン性基を持つ鎖状の高分子化合物(以下、ポリアニオンと言う)の分子量は600から107が好ましく、1000から5×106がさらに好ましく、2000から106が望ましい。
ポリアニオンを例示すると、ビニル系合成ポリアニオンとしてポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリビニルスルホン酸、ポリビニル硫酸、ポリマレイン酸、ポリフマル酸およびこれらの誘導体等が挙げられ、スチレン系合成ポリアニオンとしてポリスチレンスルホン酸、ポリスチレンリン酸等が挙げられ、ペプチド系ポリアニオンとしてポリグルタミン酸、ポリアスパラギン酸等が挙げられ、核酸系ポリアニオンとしてポリU、ポリA等が挙げられ、合成系ポリアニオンとしてポリリン酸エステル、ポリαメチルスチレンスルホン酸、スチレン-メタクリル酸共重合体等が挙げられ、多糖系ポリアニオンとして、ヘパリン、デキストラン硫酸、コンドロイチン硫酸、アルギン酸、ペクチン、ヒアルロン酸、およびこれらの誘導体等が挙げられる。本発明で言うポリアニオンは、上記した例示に限定されるものではない。
中空糸状全多孔体の構造体部分の表面近傍と遠方共にアニオン性基を持たせることにより、中空糸状全多孔体の構造体部分表面にも微細孔の空間部分にも低比重リポ蛋白質を吸着できるようになるので、単位体積当たりの低比重リポ蛋白質吸着量が飛躍的に多くなり、高い効率で低比重リポ蛋白質を吸着できるようになる。
本発明体液処理用吸着材の内面に血小板粘着抑制、血液凝固抑制用の処理を施すことは、さらに好ましい結果を与える。
以上述べてきた体液処理用吸着材は、多数本集束され、その両末端を接着固定されたものが容器に充▲填▼され、容器外部と体液処理用吸着材内面とが連通する構造を有する体液処理用吸着器として使用される。すなわち、患者の体液が体液処理用吸着器の体液処理用吸着材内面に導入され、体液処理用吸着材内面から膜(中空糸構造体部分)に移動した被吸着物質が、膜に固定されたアニオン性基と相互作用をなし、吸着され、吸着されなかった体液成分は、また容器外に導出されるという使い方に適した吸着器として使用されるのである。また、被吸着物質の膜への移動をより容易にするために、容器外部と体液処理用吸着材外面とが連通する構造を設け、中空糸内面から外面への体液の移動が簡単にできるような構造にすることができる。
以下、図面を用いて本発明を説明する。
第1図は本発明体液処理用吸着材を用いた吸着装置の一例を示す模式図であり、第2図は他の例を示す模式図である。第3図は本発明体液処理用吸着材の微細孔におけるアニオン性基の存在状態を示す模式図である。
第1図において、体液は体液導入口1から導入され、体液輸送手段2により体液処理用吸着器3に送られる。体液処理用吸着器3内において、体液は体液処理用吸着材4の内面に送られ、内面から膜(多孔構造体)内部に液状成分が浸透してゆき、一部の液状成分は体液処理用吸着材4の外面にまで移行し、再び体液処理用吸着材4の内面に戻ってきて体液と合流する。この過程で、体液処理用吸着材の膜に固定されているアニオン性基に被吸着物質(低比重リポ蛋白質等)が吸着され、被吸着物質を吸着された体液が体液導出口5から導出される。
体液処理用吸着材の微細孔におけるアニオン性基の存在状態を模式的に示したものが第3図であるが、第3図イは中空糸状全多孔体の構造体部分6の表面7近傍に低分子化合物に由来するアニオン性基8を有するもの、第3図ロは、表面7近傍には低分子化合物に由来するアニオン性基8を有し、構造耐部分6の遠方9にも鎖状の高分子化合物に由来するアニオン性基8を有するものである。被吸着物質(低比重リポ蛋白質等)は微細孔を通過する際、微細孔内のアニオン性基と相互作用をなし、吸着される。
第2図は、本発明体液処理用吸着材を用いた吸着装置の別な例を示す断面模式図であるが、体液は体液導入口1から導入され、体液輸送手段2により体液処理用吸着器3に送られる。体液処理用吸着器3において、体液は体液処理用吸着材4の内面に送られ、液状成分が内面から膜を通して体液処理用吸着材4の外面に送られる。この過程で被吸着物質(低比重リポ蛋白質等)は膜中のアニオン性基と相互作用をなし、吸着される。被吸着物質を吸着除去された液状成分は、液状成分輸送手段10により体液導出口5の方向に送られ、体液と合流した後、体液導出口5より導出される。
以上、本発明の体液処理用吸着材について述べてきたが、以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。
(実施例)
実施例1
中空糸状全多孔体として、ポリエチレン製中空繊維にポリ2-ヒドロキシエチルメタクリレート(ポリHEMA)をコートし熱架橋したものを用いた。ポリエチレン中空繊維は内径340μm、外径440μm、膜厚50μm、平均孔径0.3μm、表面積21▲m2▼/gのものを用いた。ポリHEMAは2-ヒドロキシエチルメタクリレート100gエタノール640gを加え、アゾビスイソブチロニトリル0.4gを加えた後、57℃で7.5時間攪拌しながら重合し、水中に沈澱させ、精製したものを用いた。ポリエチレン中空繊維に対するポリHEMAのコーティングは、ポリHEMAの2重量%エタノール溶液にポリエチレン中空糸を浸漬し、40℃で10分放置後、取り出し、50℃で1時間乾燥した。得られた中空繊維を集束し、両末端をシリコン接着剤で固定し、有効長15cm、中空繊維50本の束にし、両端を中空繊維が縮まないように固定して120℃、3時間熱架橋した。
次に、上記中空糸状全多孔体にエポキシ基を導入した。方法は、先ずジメチルスルホキシド80ml、エピブロムヒドリン80ml、40重量%の水酸化ナトリウム30gの混合溶液を作り、中空糸状全多孔体の中空繊維内側に2.4ml/minの流速で流した。混合溶液の温度は30℃で、中空繊維外側に出てくる濾液の流量はコントロールしなかった。この状態で5時間反応させ、その後、アセトンと水で洗浄した。
この後、タウリンをエポキシ基が導入された中空糸状全多孔体に固定した。方法は、先ずタウリン0.1gを0.1M炭酸ナトリウムバッファー(pH9.8)100mlに溶解した後、中空糸状全多孔体の内側に2.4ml/minの流速で流した。タウリン溶液の温度は50℃で、中空繊維外側に出てくる濾液の流量はコントロールしなかった。この状態で16時間反応させ、その後、水洗してタウリンの固定された体液浄化用吸着材を得た。本吸着材の製造方法によれば、アニオン性基(タウリンの持つスルホン酸基)の存在する位置は、中空糸状全多孔体の構造体部分の近傍(構造体部分の表面から200Å以内)である。タウリンの固定量は、中空糸状全多孔体の多孔質部分の体積1ml当たり60μ当量であった。
上記のようにして得られた体液処理用吸着材を乾燥した後、管状容器中で両端をウレタン吸着材により固定し、両端を切断した後、ノズルを形成し、第4図に示すような体液処理用吸着器を製作した。体液処理用吸着材の有効長は7.5cm、本数は50本であった。第4図において、11は体液導入口側ノズル、12は血液導出口側ノズル、4は体液処理用吸着材、13は液状成分導出用ノズルである。
第4図の体液処理用吸着器を用い、第2図に示す体液処理用吸着装置を組み立て、以下の吸着実験を行った。
家族性高コレステロール血症患者由来のヘパリン加全血を体液導出口1より導入し、ポンプ2により0.5ml/分で体液処理用吸着器3に送った。体液処理用吸着材4で液状成分である血漿を濾過し、ポンプ10により血漿を体液導出口方向に送り、体液処理用吸着器3から導出されてくる血球成分に富む血液と合流させ、体液導出口5から取り出した。ポンプ10の流量はポンプ2の流量の1/5とし、この状態で6mlの全血を30分再循環させた。
循環中、凝血、溶血は見られず、安定した循環が行えた。処理前および処理後の血液(血漿)中の総コレステロールを酵素法により測定した。家族性高コレステロール血症患者血液の場合、コレステロールはほとんど低比重リポ蛋白質に由来する。
その結果、総コレステロールは処理前が510mg/dlであったのに対し、処理後では190mg/dlに下がっていた。
比較例1
中空糸状全多孔体を用いる代わりにアガロース系全多孔質球状ゲルであるCNBr活性化セファロース4B〔ファルマシア・ジャパン(株)〕を用いて、タウリンを固定した。タウリンのCNBr活性化セファロース4Bへの固定化方法は、ファルマシア社の推奨する通常の方法にしたがった。タウリンの固定量は50μ当量/ml(湿潤容量)であった。
実施例1の体液処理用吸着器の多孔質構造体部分の体積と同じ多孔質構造体部分体積の本比較例1 タウリン固定化セファロース4Bを、実施例1に使用したのと同じ血液6dlに加え、振とうしながら30分間インキュベートした。その結果、総コレステロールは処理前が510mg/dlであったのに対し、処理後では450mg/dlとあまり下がらなかった。
実施例2
中空糸状全多孔体としては、実施例1と同じものを使用し、中空糸状全多孔体にエポキシ基を導入する方法も、実施例1と同様に行った。
アニオン性基を導入するために、分子量5万のデキストラン硫酸とタウリンをエポキシ基導入後の中空糸状全多孔体に反応させた。導入の方法は、先ず、水酸化ナトリウムでpHを13に合わせた0.1重量%デキストラン硫酸水溶液を作り、これを50℃の温度にし、0.24ml/minの流速でエポキシ基導入後の中空糸状全多孔体の中空繊維内側に流し、1時間循環させた。この時、濾液の流量は調節しなかった。次に、中空糸状全多孔体を水洗し、この後、0.1gのタウリンを0.1M炭酸ナトリウムバッファー(pH9.8)に溶解したものを準備し、これを上記中空糸状全多孔体の中空繊維内側に流し、15時間循環した。この時のタウリン溶液の温度は50℃で、濾液の流量はコントロールしなかった。この後、水洗、乾燥し、体液処理用吸着材を得た。上記製造方法によれば、中空糸状全多孔体の構造体部分の近傍に、主にタウリンに由来するアニオン性基が存在し、構造体部分の遠方にデキストラン硫酸に由来するアニオン性基が存在する。
上記した方法により得られた体液処理用吸着材を、実施例1と同様に吸着器とし、実施例1と同様に吸着実験を行った。その結果、処理前のコレステロール濃度が510mg/dlであったのに対し、処理後では90mg/dlに下がっていた。
実施例3
実施例1と同様にして体液処理用吸着器を製作した。
該体液処理装置をオートクレーブ滅菌器を用いて、121℃、20分間湿熱滅菌した。
湿熱滅菌後の体液処理用吸着器を用いて、実施例1と同様に吸着実験を行った。その結果、処理前のコレステロール濃度が480mg/dlであったのに対し、処理後では170mg/d1に下がっていた。
比較として、中空糸状全多孔体としては、実施例1と同様のものを使用し、中空糸状全多孔体にエポキシ基を導入する方法も、実施例1と同様に行った。
タウリンを用いる代わりに、ヘパリンナトリウム(シグマ社,分子量:5,000〜20,000)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、ヘパリンをエポキシ基が導入された中空糸状全多孔体に固定した。ヘパリンの固定量は、中空糸状多孔体の多孔質部分の体積1ml当たり7.2mgであった。
上記のようにして得られた体液処理用吸着材を、実施例1と同様にして体液処理用吸着器に組み立てた。
該体液処理装置を上記と同条件で湿熱滅菌した。
湿熱滅菌の体液処理用吸着器を用いて、実施例1と同様に吸着実験を行ったところ、処理前のコレステロール濃度が480mg/dlであったのに対し、処理後は360mg/dlとあまり下がらなかった。湿熱滅菌処理により、一部のヘパリンが中空糸状全多孔体から外れたものと考えられる。
(発明の効果)
以上述べたように、本発明の体液処理用吸着材を用いることにより、体液中からアニオン性基と相互作用をなす物質を吸着するに際し、抗原性の少ない、また、滅菌に際し安定な吸着材とすることができた。さらに、吸着材としての吸着能力を非常に高いものにできた結果、少ないプライミングボリュームで効率良く被吸着物質を吸着できるようになった。
本発明体液処理用吸着材は、体液中に発現して疾患の原因あるいは進行と密接に関係していると考えられている悪性物質のうち、特に、低比重リポ蛋白質、アナフィラトキシン、レトロウイルス等、アニオン性基と相互作用をなす物質の吸着除去に特に有用である。
【図面の簡単な説明】
第1図は本発明体液処理用吸着材を用いた吸着装置の一例を示す模式図、第2図は本発明体液処理用吸着材を使用した吸着装置の別の例を示す模式図、第3図イおよび第3図ロは本発明体液処理用吸着材の微細孔におけるアニオン性基の存在状態を示す模式図、第4図は本発明体液処理用吸着材を用いた吸着器の一例を示す模式図である。
1・・・・体液導入口
2・・・・体液輸送手段(ポンプ)
3・・・・体液処理用吸着器
4・・・・体液処理用吸着材
5・・・・体液導出口
6・・・・中空糸状全多孔体の構造体部分
7・・・・構造体部分の表面
8・・・・アニオン性基
9・・・・構造体部分の遠方
10・・・液状成分輸送手段(ポンプ)
11・・・体液導入口側ノズル
12・・・体液導出口側ノズル
13・・・液状成分導出用ノズル
 
訂正の要旨 本件訂正請求は、明細書の特許請求の範囲の請求項2を削除するとともに、同請求項1の記載の、「中空糸状全多孔体の構造体部分の少なくとも表面近傍に低分子化合物に由来するアニオン性基を有することを特徴とする体液処理用吸着材。」を「中空糸の構造体部分の微細構造が内表面から外表面に連通する多孔構造を実質上全体に持ち、構造体部分の平均孔径が0.005μmから3μm、内径が50μmから5mm、膜厚が10μmから1mmである中空糸状全多孔体の構造体部分の少なくとも表面近傍に低分子化合物に由来するアニオン性基を有することを特徴とする体液処理用吸着材であって、該中空糸状多孔体を多数本集束し、その両末端を接続固定して容器に充填し、容器外部と体液処理用吸着材内面とが連通する構造を有する体液処理用吸着器として使用するための体液処理用吸着材。」と訂正するとともに、これに対応する発明の詳細な説明の記載を訂正するものである。
異議決定日 1999-12-09 
出願番号 特願昭63-212517
審決分類 P 1 651・ 113- YA (A61M)
P 1 651・ 121- YA (A61M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 津野 孝松本 貢  
特許庁審判長 青山 紘一
特許庁審判官 長崎 洋一
大里 一幸
登録日 1998-05-08 
登録番号 特許第2777604号(P2777604)
権利者 旭メディカル株式会社
発明の名称 体液処理用吸着材  
代理人 清水 猛  
代理人 渡辺 望稔  
代理人 三和 晴子  
代理人 清水 猛  

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