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審決分類 審判 全部無効 1項3号刊行物記載 無効とする。(申立て全部成立) E02D
管理番号 1012011
審判番号 審判1998-35243  
総通号数 10 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1989-06-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 1998-06-01 
確定日 2000-01-26 
事件の表示 上記当事者間の特許第2578345号発明「連続地中壁の構築方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第2578345号発明の特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 〔I〕本件特許発明
本件特許第2578345号発明(昭和62年12月21日出願、平成8年11月7日設定登録、以下、「本件発明」という。)の要旨は、明細書と図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載された次のとおりのものと認める。
「地中に間隔をおいて溝を掘削し、コンクリートを打設して先行エレメントを施工し、
その先行エレメント間の端部のコンクリートを切削するとともに、先行エレメント間の地盤を掘削し、コンクリートを打設して後行エレメントを施工し、連続地中壁を構築する方法において、
先行エレメントの施工時に、予め先行エレメント間の端部の上部に仕切板を設置してコンクリートを打設し、
コンクリートが硬化した後に仕切板を撤去して、先行エレメント間の端部の上部にガイド溝を形成し、
そのガイド溝に沿って掘削機が設置可能な所定の深さまで、予め先行エレメント間の地盤に初期掘削を行った後、
その掘削溝内に掘削機を設置して掘削を行い、コンクリートを打設して後行エレメントを施工することを特徴とする、
連続地中壁の構築方法」
〔II〕請求人の主張
請求人は、甲第1〜第3号証を提出して、以下の理由で、本件発明の特許は特許法123条1項2号の規定により無効とすべきである旨主張している。
(1)本件発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができない。
(2)本件発明は、甲第1号証に記載された発明、に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
(3)本件発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
甲第1号証:基礎工11月号 第15巻第11号、昭和62年11月15日発行、株式会社総合土木研究所、117〜125頁、「報分 超厚壁大深度地中連続壁(SSS-G)工法の開発」の記事
甲第2号証:実開昭62-50243号公報
甲第3号証:平成9年異議第73669号(本件特許第2578345号に係る特許異議申立事件)の決定書
〔III〕被請求人の主張
1.請求人適格について
被請求人は、乙第1号証を提出して、本件審判請求には訴えの利益がないので、請求人適格がなく、本件審判請求は却下されるべきである旨主張している。
2.請求人の主張に対し
被請求人は、請求人の主張に対し、概ね次のように反論している。
(1)甲第1号証には、「ガイド溝」が存在せず、またガイド溝に沿って行う「初期掘削」工程及び「先行エレメント間の端部のコンクリートを切削する工程」が存在せず、本件発明は、甲第1号証に記載された発明でも、それから容易に発明をすることができたものでもない。
(2)甲第2号証には、「ガイド溝」が存在せず、甲第2号証の発明は、地下壁の接合に関するもので、甲第1号証の発明とは別技術であり、甲第1号証の発明と甲第2号証の発明を組み合わせることができない。したがって、本件発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものではない。
乙第1号証:昭和44年(行ケ)第81号判決
〔IV〕当審の判断
1.請求人適格について
本件審判請求人が請求人適格を有するか否かについて検討すると、請求人はいずれも建設会社であって、被請求人と同業者であり、請求人の提出した弁駁書によると、土木工事として連続地中壁の施工工事を実際に行っているから、審判請求人は、本件審判請求について法律上の利益を有しており、請求人適格を有しているものと認める。
2.無効理由(1)について
(1)甲第1号証に記載された事項
本件発明の出願前に国内において頒布されたと認められる甲第1号証には、
▲1▼「1.はじめに
地中連続壁工法は,LNG地下タンク,石油備蓄タンク,大規模構造物の基礎などに数多く採用されてきたが,これらの施工最大規模は,厚壁1.5m、深度100m程度のものであった。・・・・当社では,壁厚1.5〜3.2m,掘削深度150m規模の超壁厚大深度地中連続壁工法(以下SSS-G工法という)の開発を行った。・・・・本稿は,開発した掘削機およびサブシステムの概要と実証実験について述べるものである。
2.SSS-G工法のシステム
・・・・・
2.1掘削装置
掘削装置は、図-2に示すように掘削を行う掘削機本体(EM-320S型)と掘削機を吊下げ,コントロールする地上装置から成っている。掘削機本体は,4個のドラムカッター,2個のウイングビットを具え,1.5〜3.2m×3.2mの短形断面の溝を掘削することができる。そして、偏位修正板を使用して掘削機の姿勢を制御することにより,鉛直精度の高い掘削を可能にしている。また,掘削機本体には、水中サンドポンプを搭載することにより,従来のサクションポンプ方式に比べて,掘削土砂を能率よく地上へ排出できるようにしている。」(117頁左欄1行〜118頁左欄8行)、
▲2▼「3.2実験規模
実験規模は,図-5に示すように1ユニットで1エレメントとし,AからEまでの5エレメントとした。Aエレメントは深度150mとし,他のエレメントは30mとした。実験の順序はE→A→C→D→Bとした。すなわち,E,A,Cの各エレメントは、先行エレメントとなり,後行エレメントD,Bでは,コンクリート切削を実施した。」(119頁左欄14行〜右欄3行)、
▲3▼「3.3エレメントの施工方法
図-7は,本実験での先行エレメントの施工順序を示したものである。先行掘削は,掘削機本体を安定させるために,深さ6m程度をクラムセルバケットで掘削した。・・・・スペーサーボックスは,先行エレメントの両端約10cmにコンクリートが入らない隙間をつくるために建込むものである(・・・)。すなわち,後行エレメント掘削(切削)時に掘削機本体が安定する深さとして,6m程度までは切削なしに巻下げられるようにするためのものである。後行エレメントの施工順序は,図-8に示すとおりである。」
の記載がある。
また、先行エレメントの施工順序を示す図-7には、「先行掘削」、「掘削」、「鉄筋建込み」、「スペーサーボックス建込み」、「コンクリート打設」、「スペーサーボックス引抜き」、「完成」の各工程が順次記載されている。
後行エレメントの施工順序を示す図-8には、「先行掘削」、「掘削(切削)」、「壁面洗浄」、「鉄筋建込み」、「コンクリート打設」、「完成」の各工程が順次記載されている。
さらに、図-5にはAエレメント、Bエレメント、Cエレメント、Dエレメント、Eエレメントの順に各エレメントが隣接している状態が記載されている。
そして、先行エレメントの施工順序を示す図-7の「スペーサーボックス引抜き」工程には、掘削した溝の上部に建込んだスペーサーボックスを、コンクリート打設後に引き抜く様子が記載され、次の「完成」の工程には、端部の上部にスペーサーボックスが引き抜かれて形成された隙間を有する先行エレメントが記載されている。
後行エレメントの施工順序を示す図-8の「先行掘削」工程には、先行エレメント間の上部を図-7の「完成」の工程で示されているスペーサーボックスの引抜きにより形成された隙間の下端まで、図-7の「先行掘削」の場合と同様のクラムセルバケットで地盤を掘削した状態が記載され、また、クラムセルバケットの位置より下側において、先行エレメントの向かい合う端部が、上記隙間に相当する分だけ突出している状態が記載されている。そして、図-8の「先行掘削」工程におけるこれらの記載及び上記▲3▼の「スペーサーボックスは,先行エレメントの両端約10cmにコンクリートが入らない隙間をつくるために建込むものである(・・・)。すなわち,後行エレメント掘削(切削)時に掘削機本体が安定する深さとして,6m程度までは切削なしに巻下げられるようにするためのものである。」の記載によると、この「先行掘削」工程では、次の後行エレメントの「掘削(切削)」工程で、掘削機本体が安定する6m程度の深さまで掘削機本体を切削なしに巻き下げられるように、クラムセルバケットで隙間に沿って掘削機本体が安定する6m程度の深さまで先行エレメント間の地盤の掘削を行っているものと解することができる。
次の「掘削(切削)」工程(図-8)には、図-2に示された掘削機本体が先行エレメント間の溝の底に達した状態が記載されている。そして、ここでは溝の両側の先行エレメントの向かい合う端部が突出していないことや、上記▲2▼の「後行エレメントD,Bでは,コンクリート切削を実施した。」の記載からみて、この「掘削(切削)」の工程では、先行エレメント間の端部のコンクリートを切削するとともに、先行エレメント間の地盤を掘削しているものと解することができる。そして、最後の「完成」の工程(図-8)には、先行エレメント間に後行エレメントが施工された状態が記載されている。
以上のことから、甲第1号証には、
「地中に間隔をおいて溝を掘削し、コンクリートを打設して先行エレメントを施工し、
その先行エレメント間の端部のコンクリートを切削するとともに、先行エレメント間の地盤を掘削し、コンクリートを打設して後行エレメントを施工し、地中連続壁を構築する方法において、
先行エレメントの施工時に、予め先行エレメント間の端部の上部にスペーサーボックスを建込みコンクリートを打設し、
コンクリートが硬化した後にスペーサーボックスを引抜き、先行エレメント間の端部の上部に隙間を形成し、
その隙間に沿って掘削機本体が安定する6m程度の深さまで、予め先行エレメント間の地盤に初期掘削を行った後、
その掘削溝内に掘削機本体を切削なしに巻き下げて掘削を行い、コンクリートを打設して後行エレメントを施工する、
地中連続壁の構築方法」
が記載されていると認められる。
(2)対比・判断
本件発明と甲第1号証に記載された発明とを対比すると、甲第1号証に記載された発明の「地中連続壁」、「スペーサーボックス」、「スペーサーボックスを建込み」、「スペーサーボックスを引抜き」、「隙間」、「掘削機本体」、「掘削機本体が安定する6m程度の深さ」及び「掘削機本体を切削なしに巻き下げて」は、本件発明の「連続地中壁」、「仕切板」、「仕切板を設置して」、「仕切板を撤去して」、「ガイド溝」、「掘削機」、「掘削機が設置可能な所定の深さ」及び「掘削機を設置して」に相当するから、両者は、「地中に間隔をおいて溝を掘削し、コンクリートを打設して先行エレメントを施工し、
その先行エレメント間の端部のコンクリートを切削するとともに、先行エレメント間の地盤を掘削し、コンクリートを打設して後行エレメントを施工し、連続地中壁を構築する方法において、
先行エレメントの施工時に、予め先行エレメント間の端部の上部に仕切板を設置してコンクリートを打設し、
コンクリートが硬化した後に仕切板を撤去して、先行エレメント間の端部の上部にガイド溝を形成し、
そのガイド溝に沿って掘削機が設置可能な所定の深さまで、予め先行エレメント間の地盤に初期掘削を行った後、
その掘削溝内に掘削機を設置して掘削を行い、コンクリートを打設して後行エレメントを施工する連続地中壁の構築方法」である点で一致し、相違するところはない。
したがって、本件発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法29条1項3号の発明に該当し、特許を受けることができないものである。
〔V〕被請求人の主張に対して
1.被請求人は、甲第1号証には「ガイド溝」が存在せず、したがって当然、ガイド溝に沿って行う「初期掘削」工程が存在しない、と主張している。そして、甲第1号証に記載の先行エレメント間の端部の上部に得られる溝(スペーサーボックスを引き抜いて形成される隙間)は「ガイド溝」ではないとし、その理由を答弁書5頁〜7頁において、概ね以下のように述べている。
甲第1号証の「先行掘削」(図-8)の深さは6m程度で、甲第1号証に記載してあるとおり「掘削機本体が安定する深さ」であり、この先行掘削した溝は、重量の大きい巨大な掘削機を安定して立たせておくための溝であり、この溝に図-2の掘削装置を設置すると、上部の「偏位修正板」が大きくはみ出してしまうから、掘削方向をガイドする「ガイド溝」としての機能を果たさない。一方、本件発明では、第6図に示されているように上下の方向修正板41は、先行エレメントのガイド溝の間を先行掘削した溝の内部に位置しているから、本件特許明細書に記載してあるように、「掘削機による掘削開始と同時に、方向修正板によって、掘削方向を修正しながら掘削を行うことができる。したがって従来方法と比較すると、掘削精度を著しく向上させることができる。」(本件特許公報6欄12〜16行)
そこで検討すると、本件発明の「ガイド溝」に関して、本件特許明細書に、「本発明は、仕切板により形成したガイド溝に沿って、簡易構造のバケット等によって、掘削機が設置できる程度の深さまで、予め地盤のみの初期掘削を行う。この初期掘削の際には、従来方法のように、先行エレメント間の端部コンクリートを同時に切削する必要がない。そのため、大掛かりな掘削機を用いなくとも、簡易掘削機のバケット等によって容易に初期掘削を行うことができる。」(本件特許公報5欄38〜47行)と記載されている。
一方、甲第1号証に記載された発明も、スペーサーボックスにより形成された隙間に沿って、掘削機本体が安定する深さ6m程度まで簡易掘削機であるクラムセルバケットで地盤を掘削し初期掘削を行っている。そして、甲第1号証の図-2によると、掘削機本体は、約6、700mmの高さを有し、上部の偏位修正板と下部の偏位修正板を備え、それらの間に固定ガイドを備えているから、掘削機本体を初期掘削により掘削された溝内に設置すると、下部の偏位修正板と固定ガイドの大部分が溝内に位置することになるものと認められる。そうすると、掘削機本体による掘削と同時に下部の偏位修正板と固定ガイドの大部分によって掘削方向を修正しながら掘削できるものと認められる。
したがって、甲第1号証に記載された発明の「隙間」は、本件発明の「ガイド溝」に相当するといえるから、被請求人の主張は採用できない。
2.被請求人は、甲第1号証の図をみても、コンクリートの切削工程を見つけだすことはできず、図8の「掘削(切削)」工程の図では、掘削機が溝の内部に吊り下ろした状態が描かれているにすぎず、また掘削機の側面は溝の壁とは離れた状態で吊り下ろしているから、甲第1号証には、「先行エレメント間の端部のコンクリートを切削する工程」が存在しない、と主張している。
しかしながら、上記2.(1)「甲第1号証に記載された事項」の▲2▼の「後行エレメントD,Bでは,コンクリート切削を実施した。」との記載、後行エレメント施工順序を示す図-8の「先行掘削」工程における、先行エレメントの向かい合う端部が、隙間に相当する分だけ突出している状態の記載、図-8の「掘削(切削)」工程における、先行エレメントの向かい合う端部が突出していない状態の記載からみて、甲第1号証の図-8の「掘削(切削)」工程で、先行エレメント間の端部のコンクリートを切削していると解するのが合理的である。したがって、被請求人の主張は採用できない。
〔VI〕むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する他の無効理由を検討するまでもなく、本件発明の特許は、特許法29条1項の規定に違反してなされたものであり、同法123条1項2号に該当し、無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 1999-11-16 
結審通知日 1999-12-07 
審決日 1999-12-13 
出願番号 特願昭62-321558
審決分類 P 1 112・ 113- Z (E02D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 吉川 康史宮崎 恭  
特許庁審判長 幸長 保次郎
特許庁審判官 鈴木 公子
小野 忠悦
登録日 1996-11-07 
登録番号 特許第2578345号(P2578345)
発明の名称 連続地中壁の構築方法  
代理人 山口 朔生  
代理人 久保 司  

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