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審決分類 |
審判 全部無効 2項進歩性 訂正を認める。無効とする(申立て全部成立) A61B 審判 全部無効 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 訂正を認める。無効とする(申立て全部成立) A61B |
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管理番号 | 1012014 |
審判番号 | 審判1998-35357 |
総通号数 | 10 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1995-10-03 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 1998-08-03 |
確定日 | 2000-01-14 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第2760472号発明「重心動揺計」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 訂正を認める。特許第2760472号発明の明細書の特許請求の範囲第1項ないし第2項に記載された発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする |
理由 |
1 手続の経緯 本件特許2760472号(平成6年3月11日特許出願、平成10年3月20日設定登録。)に対して、株式会社スズケンより平成10年7月31日に無効審判の請求かなされ、平成11年1月13日に訂正請求がなされたものである。 2 訂正の適否に対する判断 被請求人が求める訂正の内容は、次の訂正事項a〜cである。 [訂正事項a] 特許請求の範囲の請求項1の「該検出板に設けられて前記被検体の各足にかかる全荷重の中心を連続的あるいは断続的に検出する複数の荷重検出手段」を「該検出板に設けられて該検出板の複数箇所にかかる荷重を検出し、該複数箇所から出力される荷重検出信号に基づいて全荷重の中心位置を連続的あるいは断続的に検出することを可能とするための複数の荷重検出手段」と訂正する。 [訂正事項b] 発明の詳細な説明の【0009】の「該検出板に設けられて前記被検体の各足にかかる全荷重の中心を連続的あるいは断続的に検出する複数の荷重検出手段」を「該検出板に設けられて該検出板の複数箇所にかかる荷重を検出し、該複数箇所から出力される荷重検出信号に基づいて全荷重の中心位置を連続的あるいは断続的に検出することを可能とするための複数の荷重検出手段」と訂正する。 [訂正事項c] 発明の詳細な説明の【0013】の「該検出板11に設けられて患者の各足にかかる荷重中心を連続的あるいは断続的に検出する3個のロードセル(荷重検出手段)12」を「該検出板11に設けられて該検出板11の複数箇所にかかる荷重を検出し、該複数箇所から出力される荷重検出信号に基づいて全荷重の中心位置を連続的あるいは断続的に検出することを可能とするための3個のロードセル(荷重検出手段)12」と訂正する。 本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「ロードセル12・・は、略三角形状の検出板11の各隅部に、正三角形の各頂点をなすようにしてそれぞれ配設されたものであり」(【0015】)、「演算手段13は、ロードセル12・・からの検出信号がアンプ17によって増幅され、フィルタ18によって不要周波数数帯域がカットされ、さらにAD変換器19によってAD変換された信号を入力し、これにより各ロードセル12・・が受けた荷重からその重心位置を実時間、すなわちリアルタイムに算出するもの」(【0016】)で、「患者の両足にかかる荷重が三個のロードセル12…によって検出され」、「演算手段13では、送られてきた各検出信号を入力し、従来の重心動揺計と同様の演算処理によって各ロードセル12・・が受けた荷重から患者の重心位置を予め設定された単位時間毎に算出」(【0022】)すると記載されているから、請求項1の「該検出板に設けられて前記被検体の各足にかかる全荷重の中心を連続的あるいは断続的に検出する複数の荷重検出手段」を「該検出板に設けられて該検出板の複数箇所にかかる荷重を検出し、該複数箇所から出力される荷重検出信号に基づいて全荷重の中心位置を連続的あるいは断続的に検出することを可能とするための複数の荷重検出手段」と訂正する訂正事項aは、明りようでない記載の釈明を目的とするものであると認められる。 訂正事項b、cは、訂正事項aによる請求項1の訂正と整合をとるためのものと認められ、いずれも明りようでない記載の釈明を目的とする訂正である。 また、訂正事項a〜cは、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内でなされており、実質上特許請求の範囲を拡張し変更するものではない。 請求人は、複数の荷重検出手段による検出対象が、「被検体の各足にかかる全荷重の中心」から「全荷重の中心位置」に変更され、訂正前の「全荷重の中心」に付されていた「被検体の各足にかかる」との限定がなくなったから、この訂正により特許請求の範囲が拡張または変更されることは明らかであると主張するが、重心動揺計においては「被検体の各足にかかる全荷重」と「全荷重」とは同義であるから、「被検体の各足にかかる全荷重の中心」を「全荷重の中心位置」と訂正することにより特許請求の範囲が拡張され、または変更されるものとは認められず、請求人の主張は採用できない。 なお、請求項1の訂正である訂正事項aは、上記のように明りょうでない記載の釈明を目的とするものであるから、独立特許要件の判断は行わない。 3 無効審判請求に対する判断 (1)無効審判請求理由の概要 請求人は、請求項1の記載はきわめて不明瞭であり、特許法36条4、5項の規定に違反しているから、請求項1に係る特許及び請求項1を引用する請求項2に係る特許は、無効にすべきものであり、また、甲第1〜12号証を提出して、請求項1に係る発明は、甲第1、2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項2に係る発明は、甲第1、2、10、12号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1、2に係る特許は特許法29条2項の規定に違反してなされものであり、無効にすべきものである旨主張している。 (2)特許法36条違反について 請求人は、次の2点で、36条違反を主張する。 (ア)第1の不明りょう事項 請求項1に記載の「被検体の各足にかかる全荷重の中心を検出する複数の荷重検出手段」なる記載は、一つの荷重検出手段が全荷重の中心を検出することができ、そのような荷重検出手段が複数個設けられているという意味にも理解でき、あるいは荷重検出手段が複数設けられていることで、各荷重検出手段の協働によって全荷重の中心を検出するものを意味しているようにも理解でき、不明りょうである。 (イ)第2の不明りょう事項 請求項1の「前記演算手段によって算出された重心位置を予め設定されたX-Y座標上の位置に変換する」との記載によれば、「前記演算手段によって算出された重心位置」とは、X-Y座標上の位置に変換される前のデータであって、X-Y座標上のデータ以外のデータであることを意味することになる。しかしながら重心位置とは、位置に関するデータであって、本来的に座標で算出されているはずであり、不明りょうである。 しかしながら、(ア)第1の不明りょう事項については、特許請求の範囲の請求項1の「該検出板に設けられて前記被検体の各足にかかる全荷重の中心を連続的あるいは断続的に検出する複数の荷重検出手段」を、「該検出板に設けられて該検出板の複数箇所にかかる荷重を検出し、該複数箇所から出力される荷重検出信号に基づいて全荷重の中心位置を連続的あるいは断続的に検出することを可能とするための複数の荷重検出手段」と訂正することによって、解消した。 また、(イ)第2の不明りょう事項については、発明の詳細な説明に「このようにして演算手段13で算出された重心位置は、XY座標位置記憶手段14の変換機能14aによって予め設定されたX-Y座標上の位置に変換され」(【0023】)と記載され、「変換」とは、「演算値(算出された重心位置)を、X-Y座標上の位置に置き換える」といった意味と認められ、演算の手法は種々様々であって、演算手段によって算出された重心位置は、必ずしも原点が特定されたX-Y座標上の位置であるとは限らないのであり、また、仮に、演算値がX-Y座標上の位置を表すものであったとしても、X-Y座標上で評価するためには、その演算値をX-Y座標上の位置に置き換えなければならないことから、「算出された重心位置(演算値)を、予め設定されたX-Y座標上の位置に変換する必要がある」ことが認められ、不明瞭な記載とは認められない。 したがって、明細書の記載不備をいう請求人の主張は採用できず、本件特許を無効とする理由はない。 (3)特許法29条違反について (ア)本件発明 請求項1、2に係る発明は、訂正明細書の請求項1、2に記載されている事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】被検体の各足が全て乗せられる検出板と、該検出板に設けられて該検出板の複数箇所にかかる荷重を検出し、該複数箇所から出力される荷重検出信号に基づいて全荷重の中心位置を連続的あるいは断続的に検出することを可能とするための複数の荷重検出手段と、これら荷重検出手段からの検出信号に基づき、前記被検体の重心位置を算出する演算手段とを具備してなり、前記演算手段によって算出された重心位置を予め設定されたX-Y座標上の位置に変換するとともに、変換された連続的あるいは断続的なXY座標位置を予め設定された単位時間毎に認識された多数のXY座標として記憶するXY座標位置記憶手段と、 このXY座標位置記憶手段によって記憶された多数のXY座標位置を、それぞれX座標位置、Y座標位置毎にその平均を求めて平均XY座標位置を算出し、算出された平均XY座標位置を重心中心位置に決定する決定手段とを備え、 さらに、前記検出板の表面の、予め設定されたX-Y座標上の原点と対応する位置に目印が設けられていることを特徴とする重心動揺計。 【請求項2】請求項1記載の重心動揺計において、前記演算手段が、荷重検出手段からの検出信号に基づいて前記被検体の重心位置を実時間で算出するよう構成されてなり、かつ、前記記憶手段によって記憶された多数のXY座標位置と、前記決定手段によって決定された重心中心位置とを表示する表示手段を備えてなることを特徴とする重心動揺計。」 (イ)甲号証に記載された発明 請求人が提出した甲第1〜12号証は次のとおりのものである。 甲第1号証:Equilibrium Research Vol.42 N0.2(1983年12月号)363〜369頁 昭和58年8月20日付日本平衡神経科学会作成「重心動揺計規格および重心動揺検査の基準」 甲第2号証:Equilibrium Research Vo1.45 N0.4(1986年12月号)368〜387頁 五島桂子「重心動揺検査の検討--コンピュータ分析における検査項目と正常域--」 甲第3号証:Equilibrium Research Vo1.45 N0.4(1986年12月号)332〜344頁 柳田三洋子「小児のめまい平衡障害に関する研究--第二編健常小児の重心動揺--」 甲第4号証:日本電気三栄株式会社の1987年度用医用電子機器総合カタログ 甲第5号証:日本電気三栄株式会社の1988年度用医用電子機器総合カタログ 甲第6号証:日本電気三栄株式会社の1989年度用医用電子機器総合カタログ 甲第7号証:日本電気三栄株式会社の1991年度用医用電子機器総合カタログ 甲第8号証:日本電気三栄株式会社の1992年度用医用電子機器総合カタログ 甲第9号証の1:本件特許出願に係る平成9年9月18日付拒絶理由通知書 甲第9号証の2:本件特許出願に係る平成9年11月28日付け意見書 甲第9号証の3:本件特許出願に係る平成9年11月28日付け手続補正書 甲第9号証の4:本件特許出願に係る平成10年2月18日付け特許査定謄本 甲第10号証:日本光電工業株式会社の1990年度および1991年度用ME機器総合カタログ 甲第11号証:日本光電工業株式会社の1992年度および1993年度用ME機器総合カタログ 甲第12号証:Equilibrium Research Vol.49 N0.4(1990年12月号)367〜377頁 時田喬「直立検査とその基礎--直立制御機構の解析--」 甲第1、2、10、12号証には、以下に摘示する事項が記載されている。 [甲第1号証(「以下、引用例1」という。)] 日本平衡神経科学会作成の「重心動揺計規格」および「重心動揺検査の基準」が記載されており、重心動揺計規格は、「人の直立姿勢時における足圧の垂直作用力を変換器で検出し、足圧中心動揺を電気信号変化として出力する重心動揺計について規定」(364頁「1.適用範囲」)するもので、主な用語の意味として、「(1)足圧中心 人の直立姿勢時における足圧の垂直作用力中心位置。 (2)足圧検出装置 足と接する板が変換器によって水平に支えられ、人の直立姿勢時における足圧の垂直作用力を検出する装置。(3)X軸・Y軸 水平面内の足圧中心座標。」(364頁「2.用語の意味」)が記載されている。 また、「重心動揺計の構成例」(364頁図1)によれば、重心動揺計は、足圧検出装置と本体とから構成され、足圧検出装置は複数の変換器を有し、本体は電源回路・増幅回路・足圧中心動揺変換回路および足圧中心動揺出力(X軸出力及びY軸出力)とを有することが認められ、「足圧中心動揺出力信号は、足圧検出装置の中心位置を原点とし、X軸右方を+X、Y軸前方を+Yとする。」(364頁5.2(2))こと、「足圧検出装置の足と接する板に中心位置を表示すること」(366頁9.(2))が記載されている。 重心動揺検査の基準においては、「重心位置の移動をX-Y記録計または前後・左右動揺の継時的記録を用いて記録する検査を基本検査、コンピュータを用いた自動計測を精密検査とする。」(367頁4〜5行)こと、記録に際しては「検査台上の基準点と記録紙上の基準点を対応」(367頁A.2)させ、「被験者の足底の中心が検査台上の基準点と一致するよう起立させる。」(同頁A5)、その結果、「あらかじめ記録紙上の基準点と検査台上の基準点を一致させてあるので、X-Y記録において重心が足底内のどの位置で揺れているかが判定できる。」(368頁<註>4)と記載され、精密検査においては、「分析対象とする周波数中最も高い周波数の2倍以上の周波数でサンプリング」(368頁B.b)することが記載されている。 重心動揺計は、足圧中心動揺を電気信号変化として出力するものであるから、足圧中心は重心と同義であると認められ、結局、甲第1号証には下記の特徴を有する重心動揺計が開示されていることが認められる。 「被検体の各足が全て乗せられる検査台と、該検査台に設けられて該検査台の複数箇所にかかる荷重を検出し、該複数箇所から出力される荷重検出信号に基づいて全荷重の中心位置を連続的あるいは断続的に検出することを可能とするための複数の変換器と、これら変換器からの荷重検出信号に基づき、前記被検体の重心位置を算出する足圧中心動揺変換回路とを具備し、 前記検出板の表面の、予め設定されたX-Y座標上の原点と対応する位置に中心位置表示が設けられていることを特徴とする重心動揺計。」 [甲第2号証(以下、「引用例2」という。)] コンピュータを用いた重心動揺検査の各検査項目の検討か記載され、「重心動揺計(日本電気三栄 1G06)上に被検者を直立させ、60秒間の動揺をX-Yレコーダ(渡辺測器 WX4402)に記録すると共に、シグナルプロセッサ(日本電気三栄 7T17-S)に入力した。分解能12ビットのAD変換器を使用した。サンプリング率は20Hzである。」(368頁II方法A装置)こと、ゆらぎの中心である「座標中心」を「サンプリング点の個々の座標の平均値とした。」(369頁C5)a))ことが記載されている。 [甲第10号証(以下、「引用例3」という。)] 平衡機能測定装置バランスマスタ MPS-1101について、「重心の位置と動きの定量解析が行えます。」「重心の位置の変化はモニタ上にリアルタイムで表示します。」「モニタに表示される重心の動きを見なから、視覚によるバイオフィードバソク方式で訓練が行えます。」と記載されている。 [甲第12号証(以下、「引用例4」という。)] 「直立検査とその基礎」に関し、「平衡神経学会の基準では、重心動揺のコンピュータを用いた自動計測を精密検査と呼んでいる。」(368頁右欄24〜25行)「図2は迷路性平衡障害例の重心動揺のX-Y記録と動揺自動計測結果である。動揺の性質が数量的に把握できている。」(同42〜43行)と記載され、「図2 両側迷路反応喪失例の閉眼時重心動揺の精密検査結果」(370頁)によれば、X-Y座標上に重心位置のサンプリング点が多数プロットされていることと、座標中心がXY座標値で記載されていることとが認められる。 (ウ)請求項1に係る発明について 引用例1に記載された発明(以下、「引用発明1」という。)における「検査台」、「変換器」、「足圧中心動揺変換回路」、「中心位置表示」は、それぞれ請求項1に係る発明における「検出板」、「荷重検出手段」、「演算手段」、「目印」に相当するから、請求項1に係る発明と引用発明1とは、 「被検体の各足が全て乗せられる検出板と、該検出板に設けられて該検出板の複数箇所にかかる荷重を検出し、該複数箇所から出力される荷重検出信号に基づいて全荷重の中心位置を連続的あるいは断続的に検出することを可能とするための複数の荷重検出手段と、これら荷重検出手段からの検出信号に基づき、前記被検体の重心位置を算出する演算手段とを具備し、 前記検出板の表面の、予め設定されたX-Y座標上の原点と対応する位置に目印が設けられていることを特徴とする重心動揺計。」で一致し、 請求項1に係る発明が、▲1▼前記演算手段によって算出された重心位置を予め設定されたX-Y座標上の位置に変換するとともに、変換された連続的あるいは断続的なXY座標位置を予め設定された単位時間毎に認識された多数のXY座標として記憶するXY座標位置記憶手段を備え、また、▲2▼このXY座標位置記憶手段によって記憶された多数のXY座標位置を、それぞれX座標位置、Y座標位置毎にその平均を求めて平均XY座標位置を算出し、算出された平均XY座標位置を重心中心位置に決定する決定手段を備えているに対して、引用発明1は、上記▲1▼▲2▼の構成を備えるものではない点で相違する。 [相違点▲1▼について] 引用例2には、コンピュータを用いた重心動揺検査において、座標中心をサンプリング点の個々の座標の平均値として算出することが示されており、個々の座標の平均値を求めるためには、足圧検出装置の中心位置を原点とする予め設定されたX-Y座標における個々の座標の位置を算出して記憶する必要かあるから、引用例2に記載された重心動揺検査のための装置は、XY座標位置を予め設定された単位時間毎に認識された多数のXY座標として記憶するX-Y座標位置記憶手段を備えていることは明らかである。 引用発明1においても、コンピュータを用いた精密検査が開示されていることを考慮すると、引用発明1の重心動揺計に、引用例2に開示されたX-Y座標位置記憶手段を設けることは当業者にとって容易に想到しうることであり、その際、算出された重心位置を予め設定されたX-Y座標上の位置に変換して記憶することも必要に応じて適宜採用しうることであるから、上記相違点▲1▼に係る本件発明1の構成は当業者が容易になしうることにすぎない。 [相違点▲2▼について] 引用例2における平均値の算出手段は、サンプリング点の個々の座標の平均値として算出するものであり、該座標は足圧検出装置の中心位置を原点とするX-Y座標であり、平均値を算出するためのサンプリング点の個々の座標は通常記憶手段に記憶されたものであるから、引用発明1においても、重心中心位置を決定する手段を設け、XY座標位置記憶手段によって記憶された多数のXY座標位置を、それぞれX座標位置、Y座標位置毎にその平均を求めて平均XY座標位置を算出し、算出された平均XY座標位置を重心中心位置に決定するようなことは、当業者が容易になしうることと認められる。 また、本件発明1の作用効果は、引用例1、2に記載された発明から当業者が予測しうる範囲をでない。 したがって、請求項1に係る発明の特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、無効とすべきものである。 (エ)請求項2に係る発明について 請求項2に係る発明と引用発明1との相違点は、上記(ウ)で認定した本件発明1との相違点▲1▼▲2▼に加えて、本件発明2が、▲3▼前記演算手段が、荷重検出手段からの検出信号に基づいて前記被検体の重心位置を実時間で算出するよう構成され、▲4▼前記記憶手段によって記憶された多数のXY座標位置と、前記決定手段によって決定された重心中心位置とを表示する表示手段を備えているのに対して、引用発明1には、該▲3▼▲4▼の構成が備わっていない点で相違する。 [相違点▲3▼について] 引用例3には、重心の位置の変化がモニタ上に実時間(リアルタイム)で表示されることが記載され、重心位置の変化を実時間で表示するためには重心位置を実時間で算出しなければならないから、引用例3は、荷重検出手段からの検出信号に基づいて前記被検体の重心位置を実時間で算出する構成を開示するもので、引用発明1の重心動揺計においても、重心位置の算出を実時間で行うようにすることは当業者が容易に採用しうることにすぎない。 [相違点▲4▼について] 引用例4図2には、X-Y座標上に重心位置が多数プロットされて重心位置の移動が示され、また座標中心がXY座標値で示されている精密検査結果例が記載されている。座標中心とは、「サンプリング点の個々の座標の平均値」(引用例2)であり、重心中心位置であるから、引用例4図2は、個々の重心位置を表す多数のXY座標位置とその平均である重心中心位置を表示するものである。 引用発明1においても、コンピュータを用いた自動計測である精密検査が可能であるから、精密検査の結果を出力する装置を備えているものであり、引用例4に記載されているように、個々の重心位置を表す多数のXY座標位置とその平均である重心中心位置を出力して表示しようとすること、すなわち、重心位置を表す多数のXY座標位置と、重心位置決定手段によって決定された重心中心位置とを表示する表示手段を備えることは、当業者が容易になしうるものである。 また、請求項2に係る発明の作用効果は、引用例1〜4に記載された発明から当業者が予測しうる範囲をでない。 したがって、請求項2に係る発明の特許は特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、無効にすべきものである。 なお、被請求人は、請求項1に係る発明について、引用例1には、重心動揺規格及び重心動揺検査の基準が開示され、引用例2には、重心動揺計の他にコンピュータを用いて行う重心動揺の解析手法が記載されているにすぎず、請求項1に係る発明のような検出板、荷重検出手段、演算手段、目印、に加えて、さらに、XY座標位置記憶手段、決定手段、をも備えた重心動揺計を開示ないし示唆するものではないと主張する。 しかしながら、重心動揺計とその出力のコンピュータによる解析がいずれも公知ないし周知であり、XY座標位置記憶手段及び平均位置を算出して重心中心位置を決定する手段を用いることが引用例に開示ないし示唆されている以上、これらを組み合わせて重心動揺計とすることは、当業者にとって容易に想到しうることといわざるえない。したがって、被請求人の主張は採用できない。 (4)むすび 以上のとおりであるから、本件請求項1に係る発明は、引用例1、2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件請求項2に係る発明は、引用例1〜4に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項1に係る特許及び請求項2に係る特許は特許法29条2項の規定に違反してされたものであって、同法123条1項2号に該当し、その特許を無効にすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 1999-11-01 |
結審通知日 | 1999-11-16 |
審決日 | 1999-11-15 |
出願番号 | 特願平6-41593 |
審決分類 |
P
1
112・
121-
ZA
(A61B)
P 1 112・ 534- ZA (A61B) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 江成 克巳 |
特許庁審判長 |
伊坪 公一 |
特許庁審判官 |
住田 秀弘 松本 邦夫 |
登録日 | 1998-03-20 |
登録番号 | 特許第2760472号(P2760472) |
発明の名称 | 重心動揺計 |
代理人 | 中村 敦子 |
代理人 | 岩田 哲幸 |
代理人 | 村瀬 裕昭 |
代理人 | 小玉 秀男 |
代理人 | 池田 敏行 |
代理人 | 長谷川 哲哉 |
代理人 | 荒船 博司 |
代理人 | 岡田 英彦 |