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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 無効とする。(申立て全部成立) B27K
管理番号 1012027
審判番号 審判1996-4518  
総通号数 10 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1986-07-11 
種別 無効の審決 
審判請求日 1996-03-28 
確定日 1999-11-30 
事件の表示 上記当事者間の特許第1690426号発明「木材のヒビ割れ防止方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第1690426号発明の特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第1690426号(以下、「本件特許」という)は、昭和59年12月26日の特許出願(特願昭59-281632号)に係り、当該特許出願について平成3年8月20日に出願公告(特公平3-54603号)された後、平成4年8月27日に特許権の設定登録がなされたものであって、その後、本件審判請求がされると共に、当審において無効理由の通知がされ、その指定期間内に本件特許明細書に対し訂正請求がされた。更に、この訂正請求に対し、当審において訂正の拒絶理由を通知したところ意見書が提出された。
第2 当事者の主張および提出した証拠方法
1.請求人の主張
請求人は、「第1690426号特許はこれを無効とする。審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求め、下記の証拠方法を提示して、本件特許に係る発明は、特許法第29条第1項第3号又は同第2号に該当し特許を受けることができなく、本件特許は、特許法第123条第1項第2号により、無効とすべきである旨主張するものである。

甲第1号証 特公平3-54603号公報
甲第2号証 特許第1690426号原簿
甲第3号証 岡山地方裁判所津山支部 平成8年(ワ)第24号特許権侵害差し止め請求事件 訴状副本
甲第4号証 雑誌「室内」No.288 12月号第148頁〜149頁 昭和53年12月発行
甲第5号証 雑誌「室内」No.396 12月号第148頁〜149頁 昭和62年12月発行
2.被請求人の主張
被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする」との審決を求める、下記の証拠方法を提示して、答弁書(平成8年7月30日付け)、審判事件意見書(平成8年12月2日付け)、訂正請求書(平成8年12月2日付け)、審判事件意見書(第2回)(平成9年6月6日付け)及び上申書(平成9年6月9日付け)を提出し、本件特許は、請求人の主張する理由及び証拠方法によっては無効となるものではなく、更には後述の当審の通知した無効理由によっても無効となるものではない旨主張する。

乙第1号証 昭和37年12月25日 丸善株式会社発行 「理科年表 昭和38年」物57の頁
乙第2号証 昭和51年6月20日 丸善株式会社発行「新版 木材工業ハンドブック第532頁 a.加熱処理木材」の項
乙第3号証 1989年10月5日 株式会社幸書房発行「ワックスの性質と応用(改訂第2版)」第82〜84頁
乙第4号証 平成6年審判第12324号の審決書
乙第5号証 1993年2月15日 海青社発行「木材科学講座4 化学」第116頁〜119頁
乙第6号証 1976年8月20日 社団法人日本木材加工技術協会発行「木材の人工乾燥」第44〜45頁
乙第7号証 1981年4月20日 株式会社大修館書店発行「棋具を創る」第103頁〜105頁
乙第8号証 昭和38年7月1日 社団法人日本木材加工技術協会発行「木材工業」第21頁
乙第9号証 1993年3月30日 海青社発行「木材科学講座8 木材資源材料」第51頁
乙第10号証 昭和41年3月10日 森北出版株式会社発行「実用木材加工全書〈別巻〉木材物理」第65頁
乙第11号証 昭和63年9月25日 文永堂出版株式会社発行「木材の物理」第71〜72 頁
第3 当審の無効理由
本件特許に係る発明(以下、「本件発明」という)の要旨は、願書に添付した明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載されたとおりのものと認める。
そして、本件発明は、この特許出願前に国内で頒布されたことが明らかな刊行物である「室内」、12月号(No.288、昭和53年12月1日発行、148頁)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるので同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
第4 訂正請求の適否
(1)被請求人の提出した前記訂正請求書(平成8年12月2日付け)の内容について以下検討する。被請求人は、特許第1690426号明細書における▲1▼発明の名称を「建築用木材のヒビ割れ防止方法」と訂正し、▲2▼同特許請求の範囲を下記のように訂正し、▲3▼それに伴って、同明細書の発明の詳細な説明を訂正しようとするものである。

訂正後の特許請求の範囲
「製材された建築用木材を乾燥処理前において該建築用木材(1,11)における板目(2,12)が現出する表面に、柾目(3,13)部分を除いて該板目(2,12)部分の幅(W1,W2)でもってしかもその全長に亘る範囲に適宜の水分発散抑制処理を施し、その後に該建築用木材(1,11)を乾燥処理するようにした建築用木材のヒビ割れ防止方法。」
(2)まず、上記▲2▼の訂正についてみると、▲2▼の訂正は、「木材」を「建築用木材」に訂正しようとするものであり、訂正前の明細書第1頁15〜第4頁12行(従来技術)の項に建築用木材の乾燥についての問題点が述べられ(同明細書第16行に「例えば建築用の柱材、梁材、桁材等」と記述されている)、実施例において、家屋の梁、柱等に使用される旨記載されているので、訂正前の明細書には、建築用木材についての発明は認識されていたのであるから、この訂正は、特許請求の範囲の減縮に相当する。さらに▲1▼、▲3▼の訂正は、▲2▼の訂正に応じて訂正しようとするものであって、明瞭でない記載の釈明に相当する。
(3)そして、訂正後の発明(以下、「訂正発明」という)の要旨は、その訂正後の明細書及び図面の記載からみて上記の特許請求の範囲に記載されたとおりのものと認める。
(4)これに対して、前記訂正拒絶理由において示されたこの特許出願前に頒布された刊行物である「室内」No.288 12月号 昭和53年12月発行(以下、「引用例」という)の第148頁には、以下の事項が記載されている。
(A)「榧で碁盤を作りたい
<問> 事情があって、碁盤を作らなければならなくなりました。今まで、様々な木を扱ってきましたが、榧は初めてです。榧は乾燥の時に割れが入りやすいと聞き、乾燥法についていろいろ尋ねてみました。ところが、みなさんちがった事をおっしゃいます。以下がそれです。
▲1▼冬に木を切り、製材してから木口や板目の部分に割止めのボンドを塗り乾燥する。
▲2▼・・・
▲3▼・・・
▲4▼・・・
▲5▼・・・
――など、この中のどれが正しいのでしょうか。ほかに、もっといい方法があるのでしょうか。最もよい方法をお教えください。」
(第1段右から1行〜2段16行)
(B)「<答> 碁盤用材となる榧は、全国的に少なく、現在では貴重な銘木となっています。特に良材は木材の中で最も高価で、出来た製品の価格からしても木の宝石と呼ばれるに至っています。そのため、この貴重な材を割れないように製品にしなければなりません。
以下簡単に最も普通に行われている方法について述べます。
▲1▼榧の立木は冬期に伐採する。
▲2▼原木もなるべく冬の間に製材する(現在は木が細くなってきているので、白太も使用する。梅雨を越すと白太が変色するからである。)
▲3▼碁盤用に四角に木取ったものを木端立てにして、日陰の室内で乾燥する。一週間から一ヶ月くらい木口に小ヒビが入るぐらいまで乾かす(その場合、二寸角以上のサン木の上に置く)。
▲4▼小ヒビが入りかけたら、木口と板目の部分だけパラフィン(石油会社で売っている)をナベで煙の出るまで熱して刷毛で塗る。
▲5▼そして▲3▼の方法で日陰の室内で乾燥する。」(第2段右から18行〜4段3行)
(C)四角に製材された木材の表面に、板目部分の幅でもってしかもその全長に亘る範囲、木口および木口より1寸ぐらい回りにパラフィンを塗布されたもの(第4段図面)
そして、前記引用例に記載された事項によれば、引用例には、榧の木を伐採し、これを製材した碁盤用の木材を、まず、木口に小ヒビが入るぐらいまで乾燥させ、その後木口と板目の現出する表面部分だけ(前記図面を参照すると柾目部分を除いて板目部分の幅でもってしかもその全長に亘る範囲も含んで)熱したパラフィンを刷毛で塗り乾燥処理するようにした前記木材のヒビ割れ防止方法が記載されていると認められる。
(5)ところで、訂正発明の「適宜の水分発散抑制処理を施し」について、本件明細書第7頁下から第5行〜第8頁第13行には、「本発明の実施に適した水分発散抑制方法としては、たとえば液状又は固形の種々の塗布剤を塗布する方法、あるいは接着テープ類を貼付する方法等があるが、この実施例では現在市販されているヒビ割れ防止剤Zを塗布している。又、この実施例では、木材1,11の木口4,14及び該木口付近の柾目3,13部分(適宜小寸法Sの長さ範囲だけ)にも水分発散抑制処理(ヒビ割れ防止剤Zの塗布)を施している。この実施例で使用されるヒビ割れ防止剤Zとしては、例えば(株)木研製の商品名「木研・ストッパー」と称される液状のものがある。このヒビ割れ防止剤Zはハケで塗布される。
そのほか、水分発散抑制用の塗布剤としては、固形物としてはたとえばワックス(ロウ)があり、液状物としてはたとえば各種の接着剤、ニス、塗料等がある。また、接着テープ類としては粘着剤つきのセロハンテープや紙テープ等がある。」と記載されており、水分発散抑制用の塗布剤として、ワックス(ロウ)や接着剤があげられている。
そこで、訂正発明(以下、「前者」という)と引用例に記載された発明(以下、「後者」という)とを比較すると、後者の「パラフィン」は、「パラフィンロウ」と同意義であることは周知であるから(要すれば、「化学大事典7」、昭和39年1月15日縮刷版第1刷、共立出版株式会社発行、第176頁 パラフィンの項参照)、ヒビ割れ防止として用いる物質において両者は変わりはないので、後者に記載されている「熱したパラフィンを刷毛で塗り」は、前者の「適宜の水分発散処理を施し」に相当する。また、後者の「榧の木を伐採し、これを製材した碁盤用の木材」は、前者の「製材された木材」に相当することは明らかである。
してみると、両者は、製材された木材を乾燥処理前において木材における板目が現出する表面に、該板目部分の幅でもってしかもその全長に亘る範囲に適宜の水分発散抑制処理を施し、その後に該木材を乾燥処理するようにした木材のヒビ割れ防止方法、である点で一致し、(イ)後者は、木口まで水分発散抑制処理をしているのに対して、前者はこれがない点、および(ロ)後者は、水分発散抑制処理をする前に木口に小ヒビが入るまで乾燥しているのに対し、前者は、これがない点及び(ハ)前者は、木材を建築用木材であるのに対して後者は碁盤用榧材である点で相違する。
そこで、相違点(イ)〜(ハ)について検討する。
相違点(イ)について
本件明細書をみると、その第8頁1〜4行には「この実施例では、木材1,11の木口4,14及び該木口付近の柾目3,13部分(適宜小寸法Sの長さ範囲だけ)にも水分発散抑制処理(ヒビ割れ防止剤Zの塗布)を施している。」と記載されており、このように、前者の実施例には木口にも水分発散抑制処理を施すものがあることから、両者において、この点に差異は認められない。
相違点(ロ)について
引用例の前記(A)の項には、「木を切り、製材してから木口や板目の部分に割り止めのボンドを塗り乾燥する」と記載され、水分発散抑制処理(割止めボンドを塗布することが相当することは自明)前に木材を乾燥させない方法が示されていることをみれば、後者の方法において、水分発散抑制処理前に乾燥させることを省略することは当業者が必要に応じて適宜なしうる程度のことといえる。
相違点(ハ)について
引用例には、「榧で碁盤を作りたい」と題して記載されており、前記(B)の項に「榧の立木は冬期に伐採する」、「原木もなるべく冬の間に製材する(・・・)」、「碁盤用に四角に木取ったものを木端立てにして、日陰の室内に乾燥する。・・・いわゆる予備乾燥、ヒビ割れ処理」及び「本乾燥」、が記載されているものとも認められる。このような記載からして榧は木材には変わりがなく、その乾燥時に割れが入りやすいことから、割れ即ちヒビ割れを生じないようにするための方法が引用例に示されているのである。ところで、引用例に記載のものに限らず種々の分野で用いられる木材は、原木を伐採し、製材後「乾燥」することは、必須の工程である。そしてその乾燥時にヒビ割れが生じ、それが、製品に影響を及ぼし、ヒビ割れを防止するべく処置の必要性のあることも周知である(農林省林業試験所編「木材工業ハンドブック」、昭和39年8月10日丸善株式会社発行、第240〜300頁、ヒビ割れについては第258〜263頁の4.1.7の乾燥による木材の損傷を参照のこと)。そして、木材を素材とする建築用材も碁盤同様ヒビ割れのないものがよりよい素材であることはその用途からみて自明であるから、引用例記載の碁盤用の榧材におけるヒビ割れの防止方法を建築用木材に適用することは当業者において格別の困難性があるものはいえない。
してみると、上記相違点において、前者のように「建築用木材」と限定することは当業者において容易になし得る程度のことといえる。
そして、前者は、前記相違点(イ)〜(ハ)において、前者の各構成を採用し組み合わせることによって、引用例から予期できない格別顕著な効果を奏するものとも認められない。
したがって、前者は、引用例に記載された発明および周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
以上のとおりであるから、訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により構成される発明は本件特許出願の際独立して特許を受けることができないものであり、本件訂正は特許法第134条第5項で準用する同法第126条第3項の規定に違反するものである。
よって、本件訂正は認めることができない。
なお、被請求人は、本件発明の「建築用木材」と引用例記載の「碁盤用に四角に木取った榧材」とは、同一の技術分野に属するとはいえないと主張する。しかしながら、両者とも原木から加工して建築用としたり、碁盤用とするものであって、最終製品は異なるとしても、木材の乾燥におけるヒビ割れ防止なる技術分野において異なるものではないので、この点についての上記被請求人の主張は採用できない。
第5 本件発明
本件特許に係る発明(以下、本件発明という)は、前述のように訂正が認められないので、前記訂正前の、即ち本件特許時の明細書に記載されたものであり、その記載からみて、本件発明の要旨は、その特許請求の範囲に記載された次のとおりであると認める。
「製材された木材を乾燥処理前において木材(1,11)における板目(2,12)が現出する表面に、柾目(3,13)部分を除いて該板目(2,12)部分の幅(W1,W2)でもってしかもその全長に亘る範囲に適宜の水分発散抑制処理を施し、その後に木材(1,11)を乾燥処理するようにした木材のヒビ割れ防止方法。」
第5 当審の判断
これに対して、当審で通知した無効理由中で引用した本件特許出願前に国内で頒布されたことが明らかな刊行物「室内」12月号(No.288、昭和53年12月1日発行)(以下、「引用例」という)の第148頁には、以下の事項が記載されている。
(ア)「榧で碁盤を作りたい
<問> 事情があって、碁盤を作らなければならなくなりました。今まで、様々な木を扱ってきましたが、榧は初めてです。榧は乾燥の時に割れが入りやすいと聞き、乾燥法についていろいろ尋ねてみました。ところが、みなさんちがった事をおっしゃいます。以下がそれです。
▲1▼冬に木を切り、製材してから木口や板目の部分に割止めのボンドを塗り乾燥する。
▲2▼・・・
▲3▼・・・
▲4▼・・・
▲5▼・・・
――など、この中のどれが正しいのでしょうか。ほかに、もっといい方法があるのでしょうか。最もよい方法をお教えください。」
(第1段右から1行〜2段16行)
(イ)「<答> 碁盤用材となる榧は、全国的に少なく、現在では貴重な銘木となっています。特に良材は木材の中で最も高価で、出来た製品の価格からしても木の宝石と呼ばれるに至っています。そのため、この貴重な材を割れないように製品にしなければなりません。
以下簡単に最も普通に行われている方法について述べます。
▲1▼榧の立木は冬期に伐採する。
▲2▼原木もなるべく冬の間に製材する(現在は木が細くなってきているので、白太も使用する。梅雨を越すと白太が変色するからである。)
▲3▼碁盤用に四角に木取ったものを木端立てにして、日陰の室内で乾燥する。一週間から一ヶ月くらい木口に小ヒビが入るぐらいまで乾かす(その場合、二寸角以上のサン木の上に置く)。
▲4▼小ヒビが入りかけたら、木口と板目の部分だけパラフィン(石油会社で売っている)をナベで煙の出るまで熱して刷毛で塗る。
▲5▼そして▲3▼の方法で日陰の室内で乾燥する。」(第2段右から18行〜4段3行)
(ウ)四角に製材された木材の表面に、板目部分の幅でもってしかもその全長に亘る範囲、木口および木口より1寸ぐらい回りにパラフィンを塗布したもの。(第4段図面)
そして、前記引用例に記載された事項によれば、引用例には、榧の木を伐採し、これを製材した碁盤用の木材を、まず、木口に小ヒビが入るぐらいまで乾燥させ、その後木口と板目の現出する表面部分だけ(前記図面を参照すると柾目部分を除いて板目部分の幅でもってしかもその全長に亘る範囲も含んで)熱したパラフィンを刷毛で塗り乾燥処理するようにした前記木材のヒビ割れ防止方法が記載されていると認められる。
ところで、本件発明の「適宜の水分発散抑制処理を施し」について、本件明細書第7頁下から第5行〜第8頁第13行には、「本発明の実施に適した水分発散抑制方法としては、たとえば液状又は固形の種々の塗布剤を塗布する方法、あるいは接着テープ類を貼付する方法等があるが、この実施例では現在市販されているヒビ割れ防止剤Zを塗布している。又、この実施例では、木材1,11の木口4,14及び該木口付近の柾目3,13部分(適宜小寸法Sの長さ範囲だけ)にも水分発散抑制処理(ヒビ割れ防止剤Zの塗布)を施している。この実施例で使用されるヒビ割れ防止剤Zとしては、例えば(株)木研製の商品名「木研・ストッパー」と称される液状のものがある。このヒビ割れ防止剤Zはハケで塗布される。
そのほか、水分発散抑制用の塗布剤としては、固形物としてはたとえばワックス(ロウ)があり、液状物としてはたとえば各種の接着剤、ニス、塗料等がある。また、接着テープ類としては粘着剤つきのセロハンテープや紙テープ等がある。」と記載されており、水分発散抑制用の塗布剤として、ワックス(ロウ)や接着剤があげられている。
そこで、本件発明(以下、「前者」という)と引用例に記載された発明(以下、「後者」という)とを比較すると、後者の「パラフィン」は、「パラフィンロウ」と同意義であることは周知であるから(要すれば、「化学大事典7」、昭和39年1月15日縮刷版第1刷、共立出版株式会社発行、第176頁 パラフィンの項参照)、ヒビ割れ防止として用いる物質において両者は変わりはないので、後者に記載されている「熱したパラフィンを刷毛で塗り」は、前者の「適宜の水分発散処理を施し」に相当する。また、後者の「榧の木を伐採し、これを製材した碁盤用の木材」は、前者の「製材された木材」に相当することは明らかである。
してみると、両者は、製材された木材を乾燥処理前において木材における板目が現出する表面に、該板目部分の幅でもってしかもその全長に亘る範囲に適宜の水分発散抑制処理を施し、その後に該木材を乾燥処理するようにした木材のヒビ割れ防止方法、である点で一致し、(a)後者は、木口まで水分発散抑制処理をしているのに対して、前者はこれがない点、および(b)後者は、水分発散抑制処理をする前に木口に小ヒビが入るまで乾燥しているのに対し、前者は、これがない点で一応相違する。
そこで、相違点(a)および(b)について検討する。
相違点(a)について
本件明細書をみると、その第8頁1〜4行には「この実施例では、木材1,11の木口4,14及び該木口付近の柾目3,13部分(適宜小寸法Sの長さ範囲だけ)にも水分発散抑制処理(ヒビ割れ防止剤Zの塗布)を施している。」と記載されており、このように、本件発明の実施例には木口にも水分発散抑制処理を施すものがあることから、両者において、この点に差異は認められない。
相違点(b)について
引用例の第1段の▲1▼の項には、「木を切り、製材してから木口や板目の部分に割り止めのボンドを塗り乾燥する」と記載され、水分発散抑制処理(割止めボンドを塗布することが相当することは自明)前に木材を乾燥させない方法が示されていることをみれば、後者の方法において、水分発散抑制処理前に乾燥させることを省略することは当業者が必要に応じて適宜なしうる程度のことといえる。
そして、本件発明の効果について、明細書を検討したが、引用例記載の事項から予期しうる程度のことといえる、
したがって、本件発明は、引用例に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。
なお、被請求人は、乙第7号証を示し、引用例の発明は、「割れの防止」を解決すべき課題としており、「ヒビ割れの防止」を解決すべき課題としているものではない旨主張している。しかしながら、この乙第7号証を参照するも引用例記載の
「榧で碁盤を作りたい
<問> 事情があって、碁盤を作らなければならなくなりました。今まで、様々な木を扱ってきましたが、榧は初めてです。榧は乾燥の時に割れが入りやすいと聞き、乾燥法についていろいろ尋ねてみました。・・・・」(第148頁上から第1段右から2行〜8行))における「割れ」がヒビ割れ以外の意味を持つものとは認められず、「割れの防止」と「ヒビ割れの防止」とは異なり、両者の課題が相違する旨の上記被請求人の主張は採用できない。
また、被請求人は、乙第1〜3号証、乙第5号証、乙第8〜11号証を提出し、引用例の「熱したパラフィンを刷毛で塗り」の点について、引用例には具体的に煙の出るまで熱するのであるから、パラフィンはかなりの高温となり、木材に影響を及ぼすものである旨、また、引用例の「熱したパラフィンを刷毛で塗り」は、本件発明の「適宜の水分発散抑制処理を施し」に相当するものではない旨主張する。しかしながら、引用例の記載では、製材された木材の乾燥において、割れの防止に木材に影響するほど高温度で該パラフィンを塗布するとは認められず、また、引用例の記載において、木材の乾燥の際、本件発明と同様の処理方法がなされていることは前述のとおりであって、前記のパラフィンを塗布すれば木材からの水分発散抑制がなされることは技術常識である。そうしてみると、上記被請求人の主張は採用できない。
さらに、乙第6号証には、単に、木材の人工乾燥において、乾燥初期の割れとして考える場合、特定の短尺材を除き、木口部分から伸びた表面割れが主体となる旨記載されているに過ぎなく、該特定短尺材が直ちに引用例に記載の如き碁盤を指すものとは考えられない。
このように、乙号各証をみても、前記の判断を覆す根拠とはならない。
第6 結語
以上のとおりであるから、本件特許は、特許法第29条の規定に違反してなされたものであり、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 1997-11-28 
結審通知日 1997-12-16 
審決日 1997-12-26 
出願番号 特願昭59-281632
審決分類 P 1 112・ 121- Z (B27K)
最終処分 成立  
特許庁審判長 酒井 雅英
特許庁審判官 木原 裕
大▲高▼ とし子
登録日 1992-08-27 
登録番号 特許第1690426号(P1690426)
発明の名称 木材のヒビ割れ防止方法  
代理人 須藤 阿佐子  
代理人 大浜 博  
代理人 松川 雄次  
代理人 塩入 明  
代理人 冨島 智雄  
代理人 塩入 みか  

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