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審決分類 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  G09F
審判 一部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  G09F
審判 一部申し立て 2項進歩性  G09F
管理番号 1012252
異議申立番号 異議1999-70538  
総通号数 10 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-04-02 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-02-22 
確定日 2000-02-16 
異議申立件数
事件の表示 特許第2787419号「親展ラベル及びその製造方法」の請求項1、3ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2787419号の請求項1、3ないし4に係る特許を維持する。 
理由 (I)本件特許発明
特許第2787419号(出願日、平成6年9月14日、請求項の数6)に係る発明は、特許明細書の特許請求の範囲に記載されたとおりのものであり、請求項1、3、および4には、次のとおり記載されている。
「【請求項1】
支持体の一面に隠蔽層及び感熱接着剤層を順次積層してなる親展ラベルであって、前記隠蔽層がスチレンと(メタ)アクリル酸エステルの共重合体又は(メタ)アクリル酸エステルの単独もしくは共重合体からなる樹脂成分(A)と、顔料成分(B)とからなることを特徴とする親展ラベル。
【請求項3】
隠蔽層における樹脂成分(A)と、顔料成分(B)との配合比率が、前者が25〜99重量%、後者が75〜1重量%である請求項1又は請求項2記載の親展ラベル。
【請求項4】
隠蔽層における樹脂成分(A)のガラス転移温度(Tg)が6〜25℃であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の親展ラベル。」
(II)異議申し立ての理由の概要
特許異議申立人は、甲第1号証として実開平2-7682号公報、甲第2号証として特開平5-27683号公報、甲第3号証として1989年11月25日、(社)色材協会編集、(株)朝倉書店発行「色材工学ハンドブック」第996,998頁,および1144頁、甲第4号証として実公平5-40537号公報、甲第5号証として特開昭62-78296号公報、甲第6号証として特開平4-142933号公報、甲第7号証として1991年6月20日第2刷(株)工業調査会発行「粘着剤活用ノート」第32〜33頁を提出して、
(1)本件請求項1に係る発明は、甲第1〜2号証に記載された発明と同一、または甲第1〜4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでであるから、特許法第29条第1項第3号、および同法第29条第2項の規定により特許を取り消されるべきものである、
(2)本件請求項3に係る発明は、甲第1〜2号証に記載された発明と同一、または甲第1〜6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号、および同法第29条第2項の規定により特許を取り消されるべきものである、
(3)本件請求項4に係る発明は、甲第1〜7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を取り消されるべきものである、
(4)本件明細書には、支持体に本件発明の目的を達成できないものを含んでおり、記載不備であるから、本件出願は、特許法第36条第4項の規定に違反する、
と主張している。
(III)甲号各証に記載された発明
甲第1号証には、隠蔽性のあるラベルシートに関して、「葉書を被着物とした場合に、葉書に記載されている伝達情報を途中で第三者に知られないようにするために、葉書の表面にラベルシートを貼付するという用途もある。この場合に、葉書に一度貼付したラベルシートを、名宛人が剥離するときに、伝達情報を破損しないようにしなければならない。」(明細書第2頁右第12〜18行)こと、「本考案のラベルシート1は、支持体11と樹脂層12とから構成されている。支持体11は、隠蔽性があり、比較的薄く柔軟な材料、例えば、紙、フィルム、着色塗膜、金属箔、金属または金属化合物の蒸着膜やスパッタ膜の積層体または複合体等からなるシート状体であればよく、支持体11の表面側には、文字や絵柄等の伝達情報を印刷したり、手書きすることができるものが望ましい。
また、支持体11の裏面側には、隠蔽性をもたせるために、例えば、アルミニウム等の金属箔を貼り合わせたり、チタン白、亜鉛華、金属粉、カーボンブラック等を含んだ隠蔽インキをグラビア印刷等により印刷したり、スパッタリング、蒸着等により金属、金属化合物、無機化合物の薄膜を形成することも有効に利用できる。
支持体11の片面の一部または片面の全面には、熱可塑性樹脂からなる樹脂層12が形成されている。この樹脂層12は、実質的に透明であって、熱溶融時には被着体に融着性を有し、室温固化時には支持体11からの剥離性がよく、一度剥離したものは再接着しないものが用いられる。この樹脂層12を形成する樹脂としては、例えば、ポリエチレン、エチレン/酢酸ビニル共重合体、・・アクリル、・・系樹脂などの樹脂を単独または混合して、あるいは、他の添加剤、着色剤、・・充填剤など通常樹脂に添加されて用いられるものを混合して用いることができる。」(明細書第4頁第10行〜第6頁第2行)こと、「樹脂層12を形成する樹脂は、熱可塑性があり、融解時は被着体への融着性をもち、固化時には支持体11からの剥離性をもつ必要がある。このため、支持体11の表面を物理的に平滑にしておくことや、カレンダー処理した紙、コート紙、フィルム、金属箔などの面を使用したり、あらかじめシリコーン系材料・・、アクリル系、・・などの耐熱温度の高い樹脂で処理しておくことも有効である。」(明細書第6頁第12〜20行)と記載されている。
甲第2号証には、
「シート基材の一方主面に隠蔽性及び剥離性を有する隠蔽層が形成され、前記隠蔽層の一方主面の一部にプライマ層が形成され、前記隠蔽性の露出した一方主面および前記プライマ層の表面に熱接着性樹脂層が形成された、貼着材。」
が図面と共に記載され、詳細な説明の欄には、
「この基材18は、たとえば紙、合成樹脂フィルム等の比較的柔軟で手などで切断することが可能な素材をもって形成され、この基材18の一方主面には離型性隠ぺい層20が形成されている。離型性隠ぺい層20は剥離性を有し、例えば離型剤を混ぜて、グラビアインキ、UVインキなどでベタ印刷をすることによって形成される。」(公報第3頁左欄第6〜12行)こと、「前記実施例以外の熱接着性樹脂の例としては、スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体、スチレン-インプレン-スチレン共重合体、・・エチレン-エチルアクリレート共重合樹脂、エチレン-アクリル酸共重合樹脂、エチレン-アクリル酸メチル共重合樹脂、エチレン-メチルメタクリレート共重合樹脂、エチレン-メタクリル酸共重合樹脂、・・スチレン-アクリル酸共重合樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアクリル酸共重合樹脂、・・などが選択できる。」(公報第3頁右欄第37〜49行)こと、「はがき台紙12としては、予め官製はがき大にカッテングされ形成されたものあるいはまた前記図示例のような複数枚適宜な切目を介して連続したものを準備する。もっとも、郵便はがきの表面の一部に形成された銀行預金残高等の秘密事項をこの貼着材によって被覆するには、予め郵便はがきの適宜な箇所、たとえば表面下欄に適宜な文字を予め印刷しておく必要性がある。また、くじ部をはがき台紙側に形成する場合も、予め貼着材によって被覆される部分に形成しておく必要がある。」(公報第5頁左欄第1〜10行)と記載されている。
甲第3号証には、「3.2.3グラビア印刷インキ用ビヒクル」の項に、「グラビアインキの組成は、色料とビヒクルよりなり、さらにビヒクルは樹脂、溶剤、助剤の3成分から構成されている。ビヒクルに要求される物性としては、被印刷体に対する密着性、乾燥性、耐熱性、光沢性、その他数多くの特性が要求される。」(第996頁第23〜26行)こと、グラビアインキに使用される樹脂として、「(xi)アクリル樹脂」の項に、「溶剤可溶型と水可溶型に分けられ、前者には熱可塑性タイプと熱硬化性タイプがある。熱可塑性アクリル樹脂はアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルを主成分とする重合体で、単独、あるいはセルロース誘導体や塩化ビニル-酢酸ピニル共重合体などの各種の樹脂と併用して、塩化ピニルフィルム用、スチレンフィルム用、紙用グラビアインキに使用される。」(第998頁第31〜35行)こと、「出版グラビアインキの組成」の項に、「インキは一言でいえば、トルエンを主体とした炭化水素系溶剤と、ハードレジンをビヒクルとして、着色材である顔料から構成される。一般的な組成は次に通りである。
〔出版グラビアインキ組成〕
着色剤(顔料) 5〜10部
(体質顔料)10〜20部
樹脂 30〜40部
溶剤 30〜40部
補助剤 1〜2部
計 100部。」
(第1144頁第22〜31行)と記載されている。
甲第4号証には、
「紙を主体とする基材と、隠蔽性を有する墨インキ層と、透明インキ層と、感圧接着剤層と、剥離紙とを順に積層して成り、前記墨インキ層と透明インキ層との間で剥離可能であることを特徴とする、隠蔽ラベル。」
が図面と共に記載され、詳細な説明の欄には、
「本考案は、葉書のプライバシー保護をはじめとして、くじやその他の書面を隠蔽するために使用するラベルに関するものである。」(公報第1頁左欄第12〜14行)こと、「また、隠蔽のためのアルミ箔を使用しているためコストが高いし、廃棄処理上も焼却処理できないので好ましくないという問題がある。」(公報第2頁左欄第10〜13行)こと、「本考案で使用する隠蔽性を高めるための墨インキ層2は、任意色の顔料、樹脂バインダー、溶剤、その他の添加物(例えばタツキフアイアー等)から成るもの」(公報第2頁右欄第39〜42行)であること、「廃棄処理上の問題もない等実用上極めて優れた隠蔽ラベルである。」(公報第3頁右欄第13〜14行)と記載されている。
甲第5号証には、
「本発明は印刷用塗被紙の製造方法に関し、特に顔料として少なくとも炭酸カルシウム及びタルクを含有する塗工液を原紙に塗工する印刷用塗被紙に於て、塗工工程で塗工液により覆われないスポットの発生がなく、さらに得られた塗被紙の平滑度、隠蔽力、光沢を改良する方法に関するものである。」(公報第1頁左下欄第18行〜右下欄第3行)こと、「従来より、塗被紙の製造は顔料と接着剤を主成分とする塗工液を原紙に塗被することにより製造されるが、かかる原料としてはカオリン、クレー、酸化チタン、炭酸カルシウム、タルク等の無機鉱物質顔料が用いられている。」(公報第1頁右下欄第5〜9行)こと、「接着剤については特に限定するものでなく、スチレン-ブタジエン系共重合体、スチレン-アクリル系共重合体、酢ビ-アクリル系共重合体、・・スチレン-無水マレイン酸共重合体、・・等の水溶性合成高分子接着剤、さらには、・・酸化澱粉、・・大豆蛋白等の天然接着剤の如き一般に知られた接着剤は全て使用が可能である。尚顔料に対する接着剤の配合量は通常の使用される量である対顔料3〜25重量部である。」(公報第3頁左上欄第3〜15行)ことが記載されている。
甲第6号証には、
「(1)ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、反応性モノマーを含有するポリ(メタ)アクリル酸エステル共重合体を主成分とした被覆層を塗設したことを特徴とする印刷用受容シート。
(2)被覆層に白色隠蔽顔料を含有することを特徴とする請求項(1)記載の印刷用受容シート。」
が記載され、詳細な説明の欄には、
「印刷用受容シートは、従来より紙支持体が支配的であったが、近年、プラスチックフィルムが使用され、中でも、・・優れた特性を有するポリエステルフイルムが普及しつつある。しかし、一般にポリエステルフィルム表面は・・接着性に乏しいため表面上に種々の印刷処理を施すにあたっては、インキ密着性を強靱なものとするために、インキとの親和性に優れた被覆層を形成することが盛んに実施されている。」(公報第2頁左上欄第8〜17行)こと、「本発明のポリ(メタ)アクリル酸エステル共重合体のTg(ガラス転移温度)について次式、・・・・・・・・・・・・・・・・・の方法で計算したT値が30〜100℃、より好ましくは40〜90℃であることが望ましい。この範囲より低いとブロッキング性が悪く、一方高いと密着性が悪くなり好ましくない。」(公報第3頁左上欄第17行〜同頁右上欄第12行)こと、「本発明では、印刷用受容シートとして用いた時、該シートが透明では印刷の解像度や鮮明さ、印刷場所の確認等に支障を生じるような場合、例えば、バーコードを印刷するような場合には、被覆層に白色隠ペイ顔料を含有せしめることが好ましい。本発明でいう白色隠ペイ顔料とは、被覆層を白色に呈する無機あるいは有機顔料であって、無機顔料としては、例えば、炭酸亜鉛、酸化亜鉛、硫化亜鉛、タルク、カオリン、重質・軽質あるいは合成の炭酸カルシウム、酸化チタン、シリカ、・・硫酸バリウム、アルミナ、・・マイカ等が挙げられ、有機顔料としては、例えば、・・ポリエチレン、・ポリメチルメタクリレート、・・等が挙げられ、これらの中から選ばれた少なくとも1種以上が適用されるが、特に限定されるものではない。・・また白色隠ペイ顔料の添加量は、0.1〜70重量%が好ましく、5〜50重量%がより好ましい。添加量が0.1重量%未満では白色隠ペイ性が不十分となり、70重量%以上では被覆層と基材の密着性が低下し易い。」(公報第3頁右上欄第14行〜同頁右下欄第3行)と記載されている。
甲第7号証には、
「溶媒型粘着剤 アクリル系(Acrylic Solvent)」として、
「(2)粘着性を与えるガラス転移点の低いモノマー(アクリル酸ブチル、アクリル酸2エチルヘキシル)に接着性や凝集力を与えるガラス転移点の高い(酢酸ビニル、MMA、スチレン、水酸基モノマー、不飽和カルボン酸モノマーなど)を共重合したものを主成分としている。」(第32頁第9〜12行)こと、配合例として、
「▲1▼両面テープ、ラベル
アクリル酸2-エチルヘキシル 78部
アクリル酸メチル 20
無水マレイン酸 2
ヘキサメチレンジアミン 0.5当量
特開昭48-66143
▲2▼医療用粘着テープ
ブチルアクリレート 100部
2-ヒドロキシエチルアクリレート 7.5
特開昭47-98744」
と記載されている。
(IV)対比・判断
(1)の主張について、
先ず、本件請求項1に係る発明と甲第1号証記載の発明とを対比すると、甲第1号証の「チタン白、亜鉛華、金属粉、カーボンブラック等」、「熱可塑性樹脂からなる樹脂層12」は、それぞれ本件発明の「顔料成分(B)」、「感熱接着剤層」に該当するから、両者は共に、
「支持体の一面に隠蔽層及び感熱接着剤層を順次積層してなる親展ラベル」において一致し、
隠蔽層として、本件発明が「スチレンと(メタ)アクリル酸エステルの共重合体又は(メタ)アクリル酸エステルの単独もしくは共重合体からなる樹脂成分(A)と、顔料成分(B)」であるのに対して、甲第1号証記載の発明は「顔料成分(B)を含んだ隠蔽インキ」である点において相違する。
異議申立人は、前記相違点について、
『甲第1号証には、「隠蔽インキをグラビア印刷などにより印刷した」ものであることが記載され、つまり、隠蔽インキがグラビア印刷用インキであることが記載されており、グラビアインキの主成分は、顔料、樹脂、溶剤などであって、それらの具体的な成分はインキの一般的な技術文献である甲第3号証には、グラビアインキの樹脂成分として、「アクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルを主成分とする重合体」が記載されているから、結局、甲第1号証には、(メタ)アクリル酸エステルの単独もしくは共重合体からなる樹脂成分と顔料からなるグラビアインキが実質的に記載されている。』旨主張をしている。
そこで、上記異議申立人の主張を検討すると、
先ず、甲第1号証には、「隠蔽インキをグラビア印刷などにより印刷した」と記載されているのであって、グラビアインキで印刷したとは記載されていないのである。
次に、甲第1号証の「遮蔽インキ」は、甲第3号証のグラビアインキと同じであるとする根拠がないのであるから、甲第3号証の記載を以て、甲第1号証の「遮蔽インキ」の成分が、本件発明と同じであるとすることはできないのである。
よって、本件発明は、甲第1号証に記載された発明と同一であるとすることができない。
次に、本件請求項1に係る発明と甲第2号証記載の発明とを対比すると、両者は共に、
「支持体の一面に隠蔽層及び感熱接着剤層を順次積層してなる親展ラベル。」において一致し、
(a).親展ラベルの層の構成が、本件発明は支持体、隠蔽層、感熱接着剤層の3層であるのに対して、甲第2号証は支持体、隠蔽層、「隠蔽層の一方主面の一部にプライマ層が形成され、前記隠蔽性の露出した一方主面および前記プライマ層の表面に熱接着性樹脂層が形成された」ものであるから、プライマ層を含めて4層である点、および
(b).隠蔽層として、本件発明が「スチレンと
(メタ)アクリル酸エステルの共重合体又は
(メタ)アクリル酸エステルの単独もしくは共重合体からなる樹脂成分(A)と、顔料成分(B)」
であるのに対して、甲第2号の発明は「グラビアインキ、UVインキ」である点、
において相違する。
異議申立人は、前記相違点(b)について、
「甲第2号証のグラビアインキは、甲第3号証の記載を以て、同じ成分であるから、本件請求項1の発明は、甲第2号証と実質的に同一である。」旨主張している。
そこで、上記異議申立人の主張を検討すると、
(a)親展ラベルの層の構成が異なる点について、異議申立人は、なにも主張していない。
(b)隠蔽層が異なる点について、甲第3号証の記載を以て、甲第2号証の「グラビアインキ」の成分が、本件発明と同じであるとすることはできないことは、甲第1号証との対比の項に記載したとおりである。
よって、本件発明は、甲第2号証に記載された発明と同一であるとすることができない。
したがって、本件請求項1に係る各発明は、甲第1号証、並びに甲第2号証に記載された発明と同一であるとすることはできない。
さらに、異議申立人は、本件請求項1に係る発明と甲第1号証、並びに甲第2号証に記載された発明との前記相違点について、容易であるとして下記の旨を主張している。
『甲第1号証の第6頁第12〜20行には、感熱接着剤層からの剥離を向上させるために、支持体と感熱接着剤層との間にアクリル系樹脂層を形成させることが記載されている。この記載と、前述の甲第1号証に記載されている紙などの支持体の表面にグラビアインキからなる隠蔽層を形成させることを加味すれば、グラビアインキからなる隠蔽層をアクリル系樹脂層にすれば感熱接着剤層との剥離性が向上することが分かる。
従って、甲第1号証又は甲第2号証に記載されているグラビアインキとして、甲第3号証に記載されている(メタ)アクリル酸エステルの単独もしくは共重合体からなる樹脂成分と顔料からなる一般的なグラビアインキを用いることは、当業者であれば容易に想起できる。
さらに、本件発明の目的・効果は、非燃焼の金属や燃焼炉を痛めるおそれがあるプラスチックを含有せず、郵便物として本人に手濃されるまで秘密文書としての機能を有し、本人が受領後隠蔽層を含む積層体を廃棄するに際して公害問題を発生せず再生紙としてリサイクル可能であり、地球環境の保護を図ることである。
しかし、金属が非燃焼であることは周知事実であり、また、プラスチックフィルムが燃焼炉を痛めることも周知事実である。
従って、燃焼炉を痛めずに焼却処分するために、本件特許公報に記載されている従来技術の親展シートである紙とポリエチレン等のプラスチックフィルムとの間にカーボン入り黒色隠蔽剥離層を設けたもの又は紙と金属蒸着膜もしくは金属箔の複合体から、ポリエチレン等のプラスチックフィルムを除くことや金属蒸着膜もしくは金属箔の代わりに隠蔽インキを印刷して隠蔽層を設けることは、当業者であれば、容易に想起できる。
従来の親展ラベルにおいて、隠蔽のためのアルミ箔を削除して、焼却処理できるようにすることは、甲第4号証にも記載されている。
従って、本件発明の目的・効果も当業者が容易に想起できるから、本件請求項1の発明は、甲第1号証又は甲第2号証と甲第3号証とから、あるいはこれらと甲第4号証から当業者が容易になし得るものである。』
そこで、上記異議申立人の主張を検討すると、異議申立人は、「甲第1号証の第6頁第12〜20行には、感熱接着剤層からの剥離を向上させるために、支持体と感熱接着剤層との間にアクリル系樹脂層を形成させることが記載されている。」と主張しているが、この箇所の記載内容は、支持体11の表面処理の一つとして、その表面を物理的に平滑にしておくことや、コート紙と同列のものとして、アクリル系などの耐熱温度の高い樹脂で処理することが記載されているのであって、その処理をしたものを支持体として用いるいるのであるから、この記載を以て、「支持体と感熱接着剤層との間にアクリル系樹脂層を形成させることが記載されている」とすることはできないし、さらに、甲第1号証の隠蔽インキをアクリル系樹脂を含有するグラビアインキにすることが示唆されているとすることはできない。
よって、本件請求項1に係る発明は、甲第1〜4号証に記載された発明に基づき、異議申立人の主張する理由によって、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできないから、前記異議申立人の前記主張は採用できない。
(2)の主張について、
本件請求項3に係る発明は、「隠蔽層における樹脂成分(A)と、顔料成分(B)との配合比率が、前者が25〜99重量%、後者が75〜1重量%である」という点をさらに限定するものであるから、
甲第1号証、並びに甲第2号証に記載された発明とを対比すると、前項の「(1)の主張について」で述べた(a)、(b)の相違点のほかに、
(c).隠蔽層における樹脂成分(A)と、顔料成分(B)との配合比率が記載されていない点でも相違する。
異議申立人は、これらの前記相違点について、下記の旨を主張している。
「甲第3号証には、出版用グラビアインキの顔料の含有量が一般的に15〜30重量部であり、樹脂の含有量が一般的に30〜40重量部であることが記載されている。すなわち、重量%に換算すれば、顔料27〜50重量%、樹脂50〜73重量%となる。
出版用グラビアインキは、主として紙に印刷するインキであり、本件発明の紙基材に印刷する隠蔽インキと、印刷する基材が同一であるという点で一致する。
従って、本件請求項3の発明は、甲第1号証又は甲第2号証と甲第3号証とから、あるいはこれらと甲第4号証とから当業者が容易になし得るものであるといえる。
なお、甲第5号証には、スチレン-アクリル系共重合体の接着剤とカオリン、クレー、酸化チタン、炭酸カルシウム、タルク等の無機鉱物質顔料からなる塗工液が紙基材の表面に設けられている。
また、甲第6号証にも、ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、反応性モノマーを含有するポリ(メタ)アクリル酸エステル共重合体及び白色隠蔽顔料からなる被覆層が設けられていることが記載されている。
甲第5号証及び甲第6号証は、親展ラベルではないが、基材シートの表面に隠蔽層を設けるためには、スチレンと(メタ)アクリル酸エステルの共重合体又は(メタ)アクリル酸エステルの単独もしくは共重合体からなる樹脂成分と顔料の組成物を使用すればよいことが分かる。
さらに、甲第5号証には、スチレン-アクリル系共重合体の接着剤の配合量が顔料100重量部に対して3〜25重量部であることが記載されている。
また、甲第6号証には、ポリ(メタ)アクリル酸エステル共重合体及び白色隠蔽顔料からなる被覆層において、白色隠ペイ顔料の添加量が0.1〜70重量%であることが記載されている。
従って、隠蔽層の隠蔽力を発揮させるために、隠蔽層の樹脂と顔料の配合割合を本件請求項3の発明に記載されている範囲にすることは、通常行われていることであり、当業者が容易に想起できる。」
そこで、上記異議申立人の主張を検討すると、
先ず、請求項3に係る発明は、請求項1の発明をさらに限定するものであり、請求項1の発明が甲第1〜2号証に記載された発明と同一でないことは前記したとおりであるから、請求項3に係る発明も甲第1〜2号証に記載された発明と同一であるとすることはできない。
次に、甲第3号証に、樹脂と顔料との配合比率が記載されていたとしても、前提となる進展ラベルの構成が相違するので、請求項3に係る発明は、甲第1〜4号証から容易であるとすることができないことは前記したとおりである。
さらに、甲第5〜6号証は、いずれも印刷用塗被紙、いわゆるコート紙であり、本件発明における支持体に該当するものであるから、この記載をもって、進展ラベルの隠蔽層が示唆されるとすることはできない。
一方、本件発明は、前記請求項3に記載された構成要件によって、明細書記載の効果を奏するものである。
したがって、本件請求項3に係る各発明は、甲第1〜6号証に記載された発明に基づき、異議申立人の主張する理由によって、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
(3)の主張について、
本件請求項4に係る発明は、「隠蔽層における樹脂成分(A)のガラス転移温度(Tg)が6〜25℃である」という点をさらに限定するものであるから、甲第1号証、並びに甲第2号証に記載された発明とを対比すると、前項の「(1)の主張について」で述べた(a)、(b)の相違点のほかに、
(d).隠蔽層における樹脂成分(A)のガラス転移温度(Tg)が記載されていない点でも相違する。
異議申立人は、これらの前記相違点について、下記の旨を主張している。
『甲第6号証には、ポリ(メタ)アクリル酸エステル共重合体のTgが30〜100℃であることが望ましいことが記載されており、この範囲より低いとブロッキング性が悪く、一方高いと密着性が悪くなり好ましくないと記載されている。
甲第6号証のこの記載から(メタ)アクリル酸エステル共重合体のTgが高い程密着性が悪くなり、Tgが低い程密着性が良くなることが分かり、そして、30℃よりも低くなるとブロッキングを起こす程度密着性が良くなることが分かる。すなわち、ブロッキングを起こす程度の密着性を有し、しかも剥離できる程度の密着性を持たせるには、Tgが30℃未満であって、30℃に近い範囲であることが分かる。
さらに、甲第6号証は、ポリ(メタ)アクリル酸エステル共重合体のTgが30〜100℃であることが望ましいと記載されているのであり、30℃未満のものを排除しているのではなく、30℃未満のもの含んでおり、実質的に30℃未満のものも記載されている。
従って、(メタ)アクリル酸エステル共重合体のTgを30℃未満である「6〜25℃」の特定の範囲に限定することは、当業者であれば、容易に想起できる。
また、甲第3号証には、グラビアインキが被印刷体に対する密着性を有するものであることが記載されており、グラビアインキの成分から考慮し、グラビアインキ中の樹脂が密着性、すなわち粘着性を有するものであることが分かる。
アクリル系樹脂として粘着剤に一般的に使用されているのは、甲第7号証に記載されている(メタ)アクリル酸エステル共重合体である。
甲第7号証には、粘着性を与えるガラス転移点の低いモノマー(アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル)に接着性や凝集力を与えるガラス転移点の高い(酢酸ビニル、MMA、スチレン、水酸基モノマー、不飽和カルボン酸モノマーなど)を共重合した(メタ)アクリル酸エステル共重合体が適度な粘着性を有することが記載されている。
つまり、粘着性は、ガラス転移点が重要な因子であることが分かる。
(メタ)アクリル酸エステル共重合体のTgを適度な粘着性を付与するために、適当な範囲にすることは、周知技術であり、当業者が容易に想起できることである。』
そこで、上記異議申立人の主張を検討すると、
先ず、異議申立人は、粘着性はガラス転移温度が重要な因子であるとしているが、ガラス転移温度は粘着性とは関係のない物性である。
よって、甲第7号証のアクリル系粘着剤についての粘着性の記載を甲第3号証のグラビアインキ、および甲第6号証のガラス転移温度に結びつける根拠はないのである。
次に、甲第6号証は、ポリエステルフィルムが印刷性に乏しいため、それを改良するために被覆層を塗設した印刷用受容シートであるから、これは本件発明の支持体に相当するものであって、親展ラベルにおける隠蔽層を示唆するものではない。
一方、本件発明は、前記請求項4に記載された構成要件によって、明細書記載の効果を奏するものである。
したがって、本件請求項4に係る発明は、甲第1〜7号証に記載された発明に基づき、異議申立人の主張する理由によって、当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
(4)の主張について、
異議申立人は、『本件特許公報の「課題を解決するための手段」の欄には、「本発明における支持体は不透明な木材パルプ紙、不織布、化学繊維紙、合成樹脂フィルム等比較的柔軟な素材で構成されている。」と記載されている。ここで、不織布は合成樹脂繊維で出来ているものもあり、化学繊維紙は合成樹脂繊維で出来たものであり、合成樹脂フィルムは当然合成樹脂で出来たものである。
すなわち、支持体は、紙以外の合成樹脂製不織布、合成樹脂製化学織維紙、合成樹脂フィルムでも良いことになる。
ところで、本件特許公報の「従来の技術」及び「発明が解決しようとする課題」の欄には、従来の親展ラベルとしては紙とポリエチレン等のプラスチックフィルムとの間にカーボン入り黒色隠蔽剥離層を設けたものがあり、ポリエチレンフィルムがあるので、燃焼処理をした場合燃焼炉を傷めると記載している。
つまり、ポリエチレンフィルム等のプラスチックフィルムを含むと本件発明の効果を生じさせることができないと記載している。
しかしながら、上記のように本件発明は、支持体としては化学繊維紙、ポリエチレンフィルムも含まれる合成樹脂フィルムであってもよいと記載されており、支持体が合成樹脂フィルムである場合は、本件発明の効果が得られず、明らかに矛盾する。
従って、本件発明は、支持体に発明の目的を達成できないものを含んでおり、記載不備である。』旨を主張している。
そこで、上記異議申立人の主張を検討すると、
先ず、本件特許明細書の段落【0002】には、従来の技術として、「親展シートとしては、例えば紙支持体と透明プラスチックフィルムとの間にカーボン入り黒色隠蔽剥離層をポリエチレン等のプラスチックを押出しラミネート法で形成した」と記載され、次いで、段落【0003】【発明が解決しようとする課題】には、「上記の如き従来技術によるときは、剥離される隠蔽部分が、紙とポリエチレン等のプラスチックフィルム・・であったので、・・燃焼炉を傷めるおそれがあるプラスチックを含有しており」と記載されているものであり、異議申立人が主張するような「ポリエチレンフィルム等のプラスチックフィルムを含むと本件発明の効果を生じさせることができないと記載している。」ものではない。
すなわち、燃焼炉を傷めるのは、発熱量が高いことに起因するものであって、その発熱量は、プラスチックの種類およびその使用量によって変わるものであり、従来のラミネート法で形成したものに比べて、隠蔽層を薄くできれば、その分だけプラスチックの使用量が少なくなり、少なくなった分だけ発熱量は少なくなるから、燃焼炉を傷めることも少なくなるものであると認められる。
したがって、本件特許明細書に、使用される支持体として、化学繊維紙、合成樹脂フィルムが記載されているからといって、本件発明の効果が得られないとするまでには至らないから、異議申立人の主張する理由によって、本件明細書が記載不備であるとすることはできない。
(V)むすび
以上のとおりであるから、異議申立人が提出した証拠および理由によって、本件請求項1、3および4に係る発明についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 1999-12-17 
出願番号 特願平6-244952
審決分類 P 1 652・ 113- Y (G09F)
P 1 652・ 121- Y (G09F)
P 1 652・ 531- Y (G09F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 松澤 福三郎  
特許庁審判長 岡田 幸夫
特許庁審判官 大里 一幸
長崎 洋一
登録日 1998-06-05 
登録番号 特許第2787419号(P2787419)
権利者 日本理化製紙株式会社
発明の名称 親展ラベル及びその製造方法  
代理人 竹内 守  
代理人 折口 信五  

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