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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G02F
管理番号 1012353
異議申立番号 異議1999-71631  
総通号数 10 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1988-12-07 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-04-27 
確定日 1999-12-20 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2815140号「温度制御型光導波路」の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2815140号の特許を維持する。 
理由 (1)手続きの経緯
本件特許第2815140号発明は、昭和62年5月29日に特許出願され、平成10年8月14日にその発明の特許がなされ、その後、日本電信電話 株式会社より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成11年9月7日に訂正請求がなされたものである。
(2)訂正の適否についての判断
ア.特許請求の範囲の訂正
a、訂正明細書の特許請求の範囲第1項に記載された発明は、次のとおりである。
「1.基板表面の一部に屈折率を変化させて形成した光導波路と、該光導波路の上で且つその近傍に形成された金属薄膜からなるヒータとを有する温度制御型光導波路において、少なくとも該ヒータ上に電気的絶縁性の熱抵抗層を形成し、該熱抵抗層を該光導波路の深さと同程度の数μmないし10μm程度の厚さを有するSiO2の層であることを特徴とする温度制御型光導波路。」
イ.訂正の目的の適否及び拡張・変更の存否等
上記訂正ア.は、特許請求の範囲の減縮ないし明瞭でない記載の釈明に該当し、願書に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内のものであり、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではなく、新規事項の追加もない。
ウ.独立特許要件の判断
(刊行物)
特許異議申立人日本電信電話 株式会社が提示した甲第1号証(特開昭58-93036号公報、以下、刊行物1という。)には、「誘電体基板1表面の一部に周囲より高い屈折率を有する光導波路2と、該光導波路2の上で且つその近傍に形成された金属薄膜からなる蒸着発熱層4,5とを有する温度制御型分岐デバイス。」が記載され、同じく提示した甲第2号証(実願昭57-77261号〔実開昭58-180533号〕のマイクロフイルム、以下、刊行物2という。)には、「TiO2絶縁体結晶1に形成されたTiOx半導体からなる低抵抗層3の上に高抵抗層5が形成された光偏向素子。」が記載され、同じく提示した甲第3号証(特開昭61-241735号公報、以下、刊行物3という。)には、「ガラス基板1の上に誘電体多層膜光学フィルター2,くし形電極3,膜厚5μm以上のSiO2保護膜を順次形成した光スイツチ。」が記載されている。
(対比・判断)
先ず、本件請求項1に記載された発明と上記刊行物1に記載された発明とを対比すると、本件請求項1に記載された発明の「基板」、「光導波路」、「ヒータ」は、夫々上記刊行物1に記載された発明の「誘電体基板1」、「光導波路2」、「蒸着発熱層4,5」に相当するから、両者は、基板表面の一部に屈折率を変化させて形成した光導波路と、該光導波路の上で且つその近傍に形成された金属薄膜からなるヒータとを有する温度制御型光導波路で一致し、
A本件請求項1に記載された発明は、少なくとも該ヒータ上に電気的絶縁性の熱抵抗層を形成し、該熱抵抗層を該光導波路の深さと同程度の数μmないし10μm程度の厚さを有するSiO2の層であるのに対して、上記刊行物1に記載された発明は、そのような記載が無い点で相違する。
次に、本件請求項1に記載された発明と上記刊行物2に記載された考案とを対比すると、両者は、低抵抗層の上に高抵抗層が形成された光素子で一致し、その余の構成は相違する。
最後に、本件請求項1に記載された発明と上記刊行物3に記載された発明とを対比すると、本件請求項1に記載された発明の「ヒータ」、「熱抵抗層」は、夫々上記刊行物3に記載された発明の「くし形電極3」、「保護膜」に相当するから、両者は、ヒータ上に所定の厚さのSiO2保護膜を設けた光素子で一致し、
B本件請求項1に記載された発明は、基板表面の一部に屈折率を変化させて形成した光導波路と、該光導波路の上で且つその近傍に形成された金属薄膜からなるヒータとを有する温度制御型光導波路であるのに対して、上記刊行物3に記載された発明は、ガラス基板1の上に誘電体多層膜光学フィルター2,くし形電極3、保護膜を順次形成した光スイツチである点、
A’熱抵抗層の厚さが、本件請求項1に記載された発明は、光導波路の深さと同程度の数μmないし10μm程度であるのに対して、上記刊行物3に記載された発明は、5μm以上である点で相違する。
そこで、上記刊行物1〜3に記載の発明ないし考案から、当業者が容易に本件請求項1に記載された発明を推考できるか否かを検討すると、
a、第1引用例には、本件請求項1に記載された発明の「空気への熱放散による大電力とヒータ酸化による短寿命とを解決する」という課題が記載されておらず、第2引用例には、空気への熱放散を防ぐとの記載、第3引用例には、連続使用時の経時変化を小さくするとの記載があるのみである。
b、第1引用例に記載されたものは、本件請求項1に記載された発明と同じ形式の素子であるが、第2、第3引用例に記載されたものは、本件請求項1に記載された発明とは全く別の形式の素子である。
してみると、各刊行物には、本件請求項1に記載された発明の課題ないし構成の一部がバラバラに開示されているに留まり、「空気への熱放散による大電力とヒータ酸化による短寿命とを解決する」という課題のもとに、これらを組み合わせて、本件請求項1に記載された発明を推考することは、当業者といえども困難であるといわざるをえない。
エ.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正請求は、特許法第120条の4第2項及び第3項で準用する第126条第2-4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
(3)特許異議の申立てについての判断
ア.申立ての理由の概要
申立人日本電信電話 株式会社は、証拠として甲第1号証(特開昭58-93036号公報、上記刊行物1)、甲第2号証(実願昭57-77261号〔実開昭58-180533号〕のマイクロフイルム、上記刊行物2)、及び、甲第3号証(特開昭61-241735号公報、上記刊行物3)を提出し、請求項1に記載された発明は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、特許を取り消すべき旨主張している。
イ.判断
〔本件請求項1に記載された発明〕
申立人日本電信電話 株式会社の主張については、上記(2)ウ.で示したとおりである。
ウ.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては、本件請求項1に記載された発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1に記載された発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
温度制御型光導波路
(57)【特許請求の範囲】
1.基板表面の一部に屈折率を変化させて形成した光導波路と、
該光導波路の上で且つその近傍に形成された金属薄膜からなるヒータとを有する温度制御型光導波路において、
少なくとも該ヒータ上に電気的絶縁性の熱抵抗層を形成し、
該熱抵抗層を該光導波路の深さと同程度の数μmないし10μm程度の厚さを有するSiO2の層であることを特徴とする温度制御型光導波路。
【発明の詳細な説明】
〔概要〕
温度制御方式の光導波路において、低電力制御のために、少なくともヒータが低熱伝導率の層で被覆されている。
〔産業上の利用分野〕
本発明は光導波路に係り、とくに温度変化による屈折率の変化を利用する光導波路に関する。
〔従来の技術〕
石英ガラス等の基板に、例えばチタン(Ti)を拡散あるいはイオン交換法により導入することにより形成された導波路を用いる,いわゆるガラス導波路は,一般に,導波路またはその近傍に温度変化を与えることにより生じた屈折率の変化に基づく光路長の変化を利用する。
この光導波路を用いて,温度によって制御される,例えば,光スイッチが構成される。
上記の温度変化を与えるために,導波路上またはその近傍に,これに沿ってヒータが設けられている。
〔発明が解決しようとする問題点〕
上記の光スイッチのヒータは,導波路の上に堆積された金または銅の薄膜から成る。
通常,このヒータは空気に直接触れる構造であるために,発生した熱が導波路の加熱に,効率的に用いられない。
その結果,所要の温度変化を生じさせるために,大きな電力を必要とし,かつ,ヒータ自身は過熱により空気酸化を受け,劣化するために,短寿命であるという問題があった。
〔問題点を解決するための手段〕
上記従来の温度制御方式の光導波路における問題点は、基板表面に形成された光導波路と、該光導波路の上で且つその近傍に形成された金属薄膜からなるヒータとを有する温度制御型光導波路において、少なくとも該ヒータ上に電気的絶縁性の熱抵抗層を形成し、該熱抵抗層は該光導波路と同程度の数μmないし10μm程度の厚さを有するSiO2の層であることを特徴とする温度制御型光導波路により解決される。
〔作用〕
温度制御方式の導波路型光スイッチにおいて、少なくともヒータを熱抵抗層で被覆することよって、低制御電力化と長寿命化された光スイッチを提供可能とした。
〔実施例〕
第2図は比較のために示した従来の温度制御方式の光導波路の原理的構造図である。
石英ガラス等の基板1には、チタン等を拡散あるいはイオン交換等の方法を用いて導入することにより光導波路2が形成されている。
基板1における光導波路2が形成されている表面には,光導波路2より僅かに屈折率の低い物質,通常,基板1の石英と同質の二酸化珪素(SiO2)から成る,厚さ4μm程度のバッファ層3が形成されている。
さらに、バッファ層3の上には、例えば、幅数μm,厚さ数1000Åの金(Au)薄膜から成るヒータ4が、光導波路2の直上もしくは光導波路2の近傍に設けられている。
図において、41および42は、それぞれ,ヒータ4のリード線部分および端子部分である。
ヒータ4を通電過熱することにより、基板1の導波路部分の温度を上昇させる。
その結果,この導波路部分の屈折率が変化し,導波路の実効光路長が変化する。
この光導波路を,例えば,マッハツェンダ型導波路に構成し,光スイッチとしてしようすることができる。
第1図は本発明の温度制御型光導波路の構造を示す断面図である。図において,第2図におけると同一部分には同一符合を付してある。
図示のように,本発明の光導波路においては、ヒータ4が設けられている基板1の表面に,熱抵抗層となる保護層5が形成されている。
保護層5は、基板1の光導波路2の部分と同等の,または,より低い熱伝導性を有し,例えば,光導波路2の深さと同程度の数μmないし10μm程度の厚さを有するSiO2層であって,通常の化学気相堆積(CVD)法,あるいはその他の薄膜技術を用いて形成される。
第2図に示す従来の光導波路においては、ヒータ4から発生する熱の大半は,直接大気中に放散されていたが,上記の保護層5を導入することにより,少なくとも半分は光導波路2の側に流れ,その温度上昇に寄与する。
その結果,従来,光導波路2の部分において所定の屈折率変化を生じさせるためにヒータ4の温度を,例えば100℃となるように電力供給する必要があったものが,本発明の光導波路においては、同じ屈折率変化を生じさせるためには,ヒータ4温度を室温より高々20℃程度上昇させれば足りることになる。
上記のように、本発明の温度制御型光導波路によれば、従来の光導波路に比して低電力動作が可能となる。
さらに,ヒータ4は,その動作温度が低下され,また,保護層5によって大気と遮断されているので,長寿命化が達成される。
〔発明の効果〕
本発明によれば,低電力・長寿命の温度制御型光導波路を提供することができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
第1図は本発明に係る温度制御型の光導波路の構造を示す断面図、
第2図は比較のために示した従来の温度制御型の光導波路の原理的構造図である。
図において,1は基板,2は先導波路,3はバッファ層,4はヒータ,5は保護層,41および42は,それぞれ,ヒータ4のリード線部分および端子部分である。
 
訂正の要旨 訂正の要旨
特許請求の範囲の減縮ないし明瞭でない記載の釈明を目的として、下記(1)のように特許請求の範囲を訂正する。
(1)特許請求の範囲を、次のとおり訂正する。
「1.基板表面の一部に屈折率を変化させて形成した光導波路と、該光導波路の上で且つその近傍に形成された金属薄膜からなるヒータとを有する温度制御型光導波路において、少なくとも該ヒータ上に電気的絶縁性の熱抵抗層を形成し、該熱抵抗層を該光導波路の深さと同程度の数μmないし10μm程度の厚さを有するSiO2の層であることを特徴とする温度制御型光導波路。」
異議決定日 1999-11-10 
出願番号 特願昭62-136778
審決分類 P 1 651・ 121- YA (G02F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 日夏 貴史  
特許庁審判長 高橋 美実
特許庁審判官 橋本 栄和
青山 待子
登録日 1998-08-14 
登録番号 特許第2815140号(P2815140)
権利者 富士通株式会社
発明の名称 温度制御型光導波路  
代理人 井桁 貞一  
代理人 井桁 貞一  
代理人 澤井 敬史  

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