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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A01C
管理番号 1012378
異議申立番号 異議1998-71163  
総通号数 10 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-03-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 1998-03-06 
確定日 2000-01-17 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2651133号「田植機の苗供給装置」の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2651133号の特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第2651133号は、昭和63年1月28日に出願された特願昭63-17719号の一部を特許法第44条第1項の規定により新たな特許出願とした特願平7-261323号に係り、平成9年5月16日に設定登録がなされ、その後、特許異議の申立てが、ヤンマー農機株式会社(以下、申立人という。)よりなされ、取消理由が通知され、その指定期間内に訂正請求がなされ、さらに、訂正拒絶理由が通知されたところ、その指定期間内に訂正拒絶理由に対する手続補正書が提出されたものである。
2.訂正の適否についての判断
(2-1)訂正請求に対する補正の適否について
特許権者は、訂正明細書を次のように補正しようとするものである。
▲1▼【特許請求の範囲】を、
「【請求項1】苗のせ台(1)の苗のせ面に、載置苗を下端の摺動レール(6)側へ向けて縦送りする無端回動ベルトからなる縦送り装置(3)を備えた田植機の苗供給装置であって、
前記摺動レール(6)に沿って左右往復移動する苗のせ台(1)の下端部に、摺動レール(6)上に突出するマット状苗(W)の底面を下から受け止め、且つ、苗のせ台(1)の横移動に伴うマット状苗(W)と摺動レール(6)との摩擦による横ズレを規制する弾性材からなる複数の苗支持杵(7)を苗のせ台(1)の横幅方向に適当間隔置きに設けるとともに、
前記縦送り装置(3)による縦送り作用位置の終端と苗のせ台(1)の下端との間で、前記苗支持杆(7)の横脇に、前記苗のせ面から突出して、マット状苗(W)の底面に食い込んでその横ズレを規制する突条(9)を、マット状苗(W)の縦送り方向に沿って形成してある田植機の苗供給装置。」と補正する。
▲2▼【0004】を、
「【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために講じた本発明の技術手段は、苗のせ台の苗のせ面に、載置苗を下端の摺動レール側へ向けて縦送りする無端回動ベルトからなる縦送り装置を備えた田植機の苗供給装置において、前記摺動レールに沿って左右往復移動する苗のせ台の下端部に、摺動レール上に突出するマット状苗の底面を下から受け止め、且つ、苗のせ台の横移動に伴うマット状苗と摺動レールとの摩擦による横ズレを規制する弾性材からなる複数の苗支持杆を苗のせ台の横幅方向に適当間隔置きに設けるとともに、前記縦送り装置による縦送り作用位置の終端と苗のせ台の下端との間で、前記苗支持杆(7)の横脇に、前記苗のせ面から突出して、マット状苗の底面に食い込んでその横ズレを規制する突条を、マット状苗の縦送り方向に沿って形成したことである。」と補正する。
上記補正▲1▼、▲2▼は、訂正請求書の要旨を変更するものでないから、特許法第120条の4第3項において準用する同法第131条第2項の規定に適合する。
(2-2)訂正の内容
本件訂正の趣旨は、本件特許の明細書を手続補正書により補正された訂正請求書に添付した訂正明細書のとおり訂正することを求めるにあり、その訂正の要旨は、次のように訂正しようとするものである。
▲1▼特許明細書の【特許請求の範囲】の欄の第9〜10行(本件特許公報第1欄第13行〜15行)の「縦送り作用位置と…下端部に、」を、『縦送り作用位置の終端と苗のせ台(1)の下端との間で、前記苗支持杆(7)の横脇に、前記苗のせ面から突出して、』と訂正する。
▲2▼特許明細書の【課題を解決するための手段】の欄の第7〜8行(本件特許公報第4欄第2〜3行)の「縦送り作用位置と…の下端部に、」を『縦送り作用位置の終端と苗のせ台の下端との間で、前記苗支持杆(7)の横脇に、前記苗のせ面から突出して、』と訂正する。
(2-3)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張、変更の存否
本件の特許請求の範囲を上記▲1▼の構成とすることは、特許明細書【0010】第2〜5行(本件特許明細書の記載「図2及び図3に示すように、前記苗のせ面1a上には、前記縦送り装置3による縦送り作用位置の終端から苗のせ台1の下端にわたる苗のせ台1の下端部に、マット状苗Wの底面に食い込んでその横ズレを規制する突条9を、マット状苗Wの縦送り方向に沿って形成してある。この突条9は、前記苗支持杆7の両脇に沿って、各苗支持杆7に対して2本ずつ形成してあり、」、及び、図2、図3の記載に基づくもので、願書に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内において特許請求の範囲を減縮することに該当する。
発明の詳細な説明の欄を上記▲2▼のように訂正することは、願書に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内において、訂正後の特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図る、不明りょうな記載の釈明に該当する。
また、本件訂正において、特許請求の範囲の記載及び発明の詳細な説明の欄の記載を前記のように訂正することは、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は、変更するものとも認められない。
(2-4)独立特許要件
(2-4-1)訂正明細書の発明
訂正明細書の請求項1に係る発明(以下、訂正明細書の発明という。)は、平成11年10月19日付け手続補正書(訂正請求書)に添付の明細書の特許請求の範囲に記載された事項により特定されるとおりのものであり、上記「2.訂正の適否についての判断」の「(2-1)訂正請求に対する補正の適否について」の「▲1▼」の項に記載したとおりである。
(2-4-2)取消理由通知について
当審が通知した前記取消理由は、「原出願の願書に最初に添付された明細書及び図面(刊行物:特開平1-191613号公報)には、訂正前の発明が(a)「苗植杆(7)の両脇の位置以外であって、縦送り装置(3)による縦送り作用位置と苗のせ台(1)の下端との間に、突条(9)を設けたこと」は記載されておらず、また、この構成(a)が原出願の願書に最初に添付された同明細書及び図面の記載から自明のこととも認められないから、訂正前の発明の出願日は、現実の出願日である平成7年10月9日となり、上記刊行物は、本件特許出願前に頒布されたものとなるから、訂正前の発明は、その出願前に頒布された上記刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許は、特許法29条第2項の規定に違反してされたものである。」というものである。
しかしながら、補正された訂正明細書により、訂正明細書の発明の上記(a)に関連する構成は、「前記縦送り装置(3)による縦送り作用位置の終端と苗のせ台(1)の下端との間で、前記苗支持杆(7)の横脇に、前記苗のせ面から突出して、マット状苗(W)の底面に食い込んでその横ズレを規制する突条(9)を、マット状苗(W)の縦送り方向に沿って形成してある」と訂正され、この構成は、原出願の願書に最初に添付された明細書及び図面に「第2図及び第3図に示すように、前記苗のせ面(la)上には、接当部の一例として、苗支持杆(7)の両脇に沿った突条(9)を各苗支持杆(7)に対して2本ずつ形成し、この突条(9)をして苗支持杆(7)の横巾方向への一定範囲以上の揺動を制限する接当部(S)としてある。」(特開平1-191613号公報第2頁右下欄第5〜10行)と記載されているとおり、原出願の願書に最初に添付された明細書及び図面に明確の記載されているから、訂正明細書の発明の出願日は、原出願の出願日である昭和63年1月28日に遡及し、上記刊行物は、本件特許出願前に頒布されたものとはいえない。
したがって、訂正明細書の発明が本件特許出願前に頒布された上記刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
(2-5)むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求は、平成6年法律第116号附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法120条の4第2項、同条第3項の規定において準用する第126条第2〜4項の規定に適合するので、当該訂正は認められる。
3.本件発明
上記訂正が認められる結果、訂正明細書の発明(以下、本件発明という。)は、上記「2.訂正の適否についての判断」の「(2-1)訂正請求に対する補正の適否について」の「▲1▼」の項に記載したとおりのものである。
4.特許異議の申立てについて
(4-1)申立の概要
特許異議の申立ては、訂正前の発明が本件出願前に頒布された下記甲第1号証〜甲第3号証の2記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたというものである。

甲第1号証:特開昭59-213316号公報
甲第2号証の1:実開昭50-151719号公報
甲第2号証の2:実開昭53-159926号公報
甲第3号証の1:実願昭60-4407号(実開昭61-120329号)のマイクロフィルム
甲第3号証の2:実開昭62-68514号公報
(4-2)甲号各証の記載内容
甲第1号証(特開昭59-213316号公報)には、
「苗載置台(3)の苗のせ面に、載置苗を下端の苗受止枠(13)側へ向けて縦送りするベルト(11)からなる縦送り装置を備えた田植機の苗供給装置であって、
前記縦送り装置による縦送り作用位置と苗載置台(3)の下端との間における苗載置台(3)の下端部に、マット状苗の底面に食い込んでその横ズレを規制する突起条(6)の複数本を、マット状苗の縦送り方向に沿って形成してある田植機の苗供給装置。」
が記載されている。
甲第2号証の1(実開昭50-151719号公報)には、
「苗載置台(2)の苗のせ面に、載置苗を下端の苗受板(1)側へ向けて縦送りする苗繰出回転機構(7)を備えた田植機の苗供給装置であって、前記苗繰出回転機構(7)による縦送り作用位置と苗載置台(2)の下端との間における苗載置台(2)の下端部に、マット状苗の底面に食い込んでその横ズレを規制する横移動防止突起(6)の複数本を、マット状苗の縦送り方向に沿って形成してある田植機の苗供給装置。」
が記載されている。
甲第2号証の2(実開昭53-159926号公報)には、
「苗タンク(7)の苗のせ面に、載置苗を下端の摺動レール21側へ向けて縦送りする縦送り装置14を備えた田植機の苗供給装置であって、
苗タンク(7)の下端との間における苗タンク(7)の下端部に、マット状苗の底面に食い込んでその横ズレを規制する喰込凸状(8)を、マット状苗の縦送り方向に沿って形成してある田植機の苗供給装置。」
が記載されている。
甲第3号証の1(実願昭60-4407号(実開昭61-120329号)のマイクロフィルム)には、
「苗のせ台(3)の苗のせ面に、載置苗を下端の摺動レール(5)側へ向けて縦送りする苗送り具(9)を備えた田植機の苗供給装置であって、前記摺動レール(5)に沿って左右往復移動する苗のせ台(3)の下端部に、摺動レール(5)上に突出するマット状苗(A)の底面を下から受け止め、且つ、苗のせ台(3)の横移動に伴うマット状苗(A)と摺動レール(5)との摩擦による横ズレを規制する弾性材からなる複数の支持杆(10)を苗のせ台(3)の横幅方向に適当間隔置きに設けてある田植機の苗供給装置。」
が記載されている。
甲第3号証の2(実開昭62-68514号公報)には、
「苗のせ台(1)の苗のせ面に、載置苗を下端の苗支持杆(2)側へ向けて縦送りする縦送り装置(5)を備えた田植機の苗供給装置であって、前記苗支持杆(2)に沿って左右往復移動する苗のせ台(1)の下端部に、苗支持杆(2)上に突出するマット状苗(W)の底面を下から受け止め、且つ、苗のせ台(1)の横移動に伴うマット状苗(W)と苗支持杆(2)との摩擦による横ズレを規制する弾性材からなる複数の苗支持杆(7)を苗のせ台(1)の横幅方向に適当間隔置きに設けてある田植機の苗供給装置。」
が記載されている。
(4-3)対比・判断
本件発明と上記甲第1号証〜甲第3号証の3記載の発明とを対比すると、本件発明が、少なくとも、「前記縦送り装置(3)による縦送り作用位置の終端と苗のせ台(1)の下端との間で、前記苗支持杆(7)の横脇に、前記苗のせ面から突出して、マット状苗(W)の底面に食い込んでその横ズレを規制する突条(9)を、マット状苗(W)の縦送り方向に沿って形成してある」のに対し、上記甲第1号証記載の発明がこのような構成を有しない点で相違する。そして、甲第1号証及び甲第3号証、又は、甲第2号証及び甲第3号証記載の発明を組合せても、上記相違点の構成にはなりえない。
本件発明は、上記相違点により、
「この突条9をして苗支持杆7の横巾方向への一定範囲以上の揺動を制限する接当部Sを兼ねる構成としてある。つまり、苗支持7は片持ち支持されている上に柔軟性があって長いために横巾方向への揺動が比較的容易であり、それ故に突条9によって揺動範囲を制限してマット状苗Wの横ズレを小さく押さえているのである。」という訂正明細書【0010】記載の格別の作用効果を奏する。
したがって、本件発明が上記甲第1号証〜甲第3号証の2記載の発明に基づいて容易に発明をすることができたものとは認められず、本件特許が特許法第29条第2項の規定に違反してなされたということはできない。
5.むすび
以上のとおり、申立人の申し立ての理由及び提出した証拠方法によっては、本件特許を取り消すことができない。
また、他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
田植機の苗供給装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 苗のせ台(1)の苗のせ面に、載置苗を下端の摺動レール(6)側へ向けて縦送りする無端回動ベルトからなる縦送り装置(3)を備えた田植機の苗供給装置であって、
前記摺動レール(6)に沿って左右往復移動する苗のせ台(1)の下端部に、摺動レール(6)上に突出するマット状苗(W)の底面を下から受け止め、且つ、苗のせ台(1)の横移動に伴うマット状苗(W)と摺動レール(6)との摩擦による横ズレを規制する弾性材からなる複数の苗支持杆(7)を苗のせ台(1)の横幅方向に適当間隔置きに設けるとともに、
前記縦送り装置(3)による縦送り作用位置の終端と苗のせ台(1)の下端との間で、前記苗支持杆(7)の横脇に、前記苗のせ面から突出して、マット状苗(W)の底面に食い込んでその横ズレを規制する突条(9)を、マット状苗(W)の縦送り方向に沿って形成してある田植機の苗供給装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、苗のせ台の苗のせ面に、載置苗を下端の摺動レール側へ向けて縦送りする無端回動ベルトからなる縦送り装置を備えるとともに、摺動レールに沿って苗のせ台を左右往復移動自在に構成し、この苗のせ台に載置されたマット状苗を、前記摺動レール部分に形成された苗取り出し口から植付爪でブロック状に分割して取り出すように構成してある田植機の苗供給装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
この種の苗供給装置において、無端回動ベルトからなる縦送り装置を備えたものではないが、従来では、摺動レールに沿って左右往復移動する苗のせ台の下端部に、摺動レール上に突出するマット状苗の底面を下から受け止めて、苗のせ台の横移動に伴うマット状苗と摺動レールとの摩擦による横ズレを防止するために、弾性材からなる複数の苗支持杆を苗のせ台の横巾方向に適当間隔置きに設け、かつ、この苗支持杆を上端が片持ち支持されたバネ線にすることによって植付爪が接触しても側方に弾性変形するようにしてあった(例えば、実開昭62-68514号公報)。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記苗支持杆は、苗支持機能を高めるためにバネ線の剛性を大きくすると弾性変形しにくくなって植付爪や苗支持杵自体が損傷もしくは変形しやすくなり、逆に、苗支持杆を柔軟にして、苗のせ面に沿って横巾方向へ弾性揺動し易くすると、前記損傷を防止するには有効であるが、その反面、摺動レールとの摩擦に伴うマット状苗の横ズレを十分に防止することができなくなる虞ある。
しかも、そのように弾性揺動し易くすると、植付爪との接当にともなって横方向へ逃げるバネ線によって、逆にマット状苗下端部が横方向へ大きく移動させられるという、苗支持杆の存在が苗の横移動のために働いてしまう弊害を招く虞もあって、バネ線の剛性設定がきわめて難しいものとなっていた。
又、苗支持杆の組付誤差や製作誤差によっても苗支持機能が変化しやすく、各機体ごとの性能安定化を図ることが困難となっていた。
そしてまた、前記無端回動ベルトからなる縦送り装置を備えた苗のせ台では、縦送り装置を構成する無端回動ベルトが広い面積でマット状苗の床土と接触して苗の縦送りを行うものであるから、マット状苗の横幅方向でのほぼ全体にわたって均一な縦送り作用力を得易いとともに、縦送り方向での苗保持力が横幅方向の全体にわたって良好に保たれる点で有用なものであるが、従来のスターホイール式の縦送り装置を備えた苗のせ台に比べて、左右横移動方向での苗保持力が比較的弱い傾向があり、より一層摺動レールとの摩擦によるマット状苗の横ズレを生じ易い傾向がある。
本発明は、このような実情に着目して創案されたもので、その目的は、無端回動ベルトからなる縦送り装置を備えた苗のせ台において、片持ち支持された苗支持杆の機能の安定化を図ることにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために講じた本発明の技術手段は、苗のせ台の苗のせ面に、載置苗を下端の摺動レール側へ向けて縦送りする無端回動ベルトからなる縦送り装置を備えた田植機の苗供給装置において、前記摺動レールに沿って左右往復移動する苗のせ台の下端部に、摺動レール上に突出するマット状苗の底面を下から受け止め、且つ、苗のせ台の横移動に伴うマット状苗と摺動レールとの摩擦による横ズレを規制する弾性材からなる複数の苗支持杆を苗のせ台の横幅方向に適当間隔置きに設けるとともに、前記縦送り装置による縦送り作用位置の終端と苗のせ台の下端との間で、前記苗支持杆(7)の横脇に、前記苗のせ面から突出して、マット状苗の底面に食い込んでその横ズレを規制する突条を、マット状苗の縦送り方向に沿って形成したことである。
【0005】
【作用】
上記技術手段を講じたことによる作用は次の通りである。
摺動レール上に突出するマット状苗の底面を下から受け止めて、苗のせ台の横移動に伴うマット状苗と摺動レールとの摩擦による横ズレを防止するための苗支持杆を設けるにあたり、無端回動ベルトからなる縦送り装置による縦送り作用位置と苗のせ台の下端との間における苗のせ台の下端部という、苗支持杆の近くに相当する位置で、マット状苗の底面に食い込んでその横ズレを規制する突条を形成してあるので、この突条と前記苗支持杆との相乗作用により、良好な苗保持を行えるものである。
すなわち、苗支持杆は、植付爪との接触による弾性変位を支障なく許すように、それ自体の剛性としては、マット状苗の横ズレに対する強大な抵抗を有したものを採用しなくとも、往復移動する摺動レールとの摩擦によるマット状苗の横ズレを、前記苗支持杵自体がある程度の剛性を備えることによる抵抗と、マット状苗に対して前記突条が食い込み状態となって、マット状苗を介して苗支持杆自体の移動抵抗として働くこととの、両抵抗作用の総和によって、つまり、マット状苗に食い込みによる移動抵抗を与えることで、この移動抵抗で苗支持杆の剛性を補助して、マット状苗の横移動を抑制することができる。
そして、苗支持杆が植付爪と接当して強制的に横移動させられたときには、本来マット状苗の横移動の抵抗となるべき苗支持杆が逆にマット状苗を横移動させる作用を生じてしまうが、このときの苗支持杆に対しては、マット状苗は、苗支持杵の或程度の移動抵抗にはなっても、その苗支持杆のマヅト状苗に対する相対移動は許しているものであり、そのことによって、マット状苗自体の位置は前記突条の食い込みによって位置保持されることになる。
【0006】
【発明の効果】
したがって、無端回動ベルトからなる縦送り装置を用いて、広い面積でマット状苗の床土と接触して、苗の縦送りをマット状苗の横幅方向でのほぼ全体にわたって均一な縦送り作用力を得易いとともに、縦送り方向での苗保持力が横幅方向の全体にわたって良好に保たれるという利点を活かしながら、苗縦送り方向に沿う突条の作用と、片持ち支持された苗支持杆の作用とにより、マット状苗の横ズレを最小限に抑制できるようになった。
すなわち、苗支持杆による支持作用と、苗のせ台側の突条の食い込み作用とが、共通のマット状苗に対して作用するように併用したことで、苗支持杵としては、植付爪との接触による塑性変形や損傷を避けられるように、あまり剛性の高くない弾性材を採用することができる。そして、あまり剛性の高くない弾性材を採用しながら、苗植付爪との接当による苗支持杆の弾性変形に伴うマット状苗の横移動も、往復移動する摺動レールとの摩擦によるマット状苗の横ズレも、苗支持杆の剛性のみで抑制するのではなく、突条に食い込んで移動範囲を制限されているマット状苗を利用して抑制する。したがって、そのマット状苗の変形抵抗を苗支持杆の変形に対する補助的抑制手段として利用し、苗支持杆とマット状苗とが相互に補強しあうことなる。
その結果、片持ち支持する苗支持杆を比較的柔軟にして、植付爪との接触による爪の損傷を確実に防止できるので、苗支持杆の組付誤差や製作誤差に拘らず植付爪との接触による損傷回避機能及び苗支持機能が安定し、各機体ごとの機能のバラツキも少なくして性能の安定化を図ることができるようになった。
【0007】
【実施例】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
乗用機体の後部に装着して使用される苗植付装置が図4に示されている。
前記苗植付装置は、一定ストロークで往復横移動可能な傾斜姿勢の苗のせ台1を備えており、この苗のせ台1に載置されたマット状苗Wを後部下方の苗植付機構2によって1株ずつ順次切出して地面に植付けていくように構成してある。
【0008】
前記苗のせ台1には、マット状苗Wの下端の一列の切出しが終了するストロークエンドにおいてマット状苗Wを苗のせ面1aに沿って下方へ送る左右一対の縦送り装置3を各条ごとに設けてある。この縦送り装置3は、表面に多数の突起4aが設けられている苗送りベルト4を縦回しする無端回動ベルトによって構成されている。
前記苗のせ台1には、図1に示すように、苗送りベルト4の突起4aを苗のせ面1aに臨ませるための開口5を形成してあり、この開口5の左右下端部には、苗のせ台1の下端辺から摺動レール6側へ突出する苗支持杆7を係止固定してある。
【0009】
この苗支持杆7は、摺動レール6上に突出するマット状苗Wの底面を垂れぬように下から受け止めるとともに、苗のせ台1の横移動に伴うマット状苗Wと摺動レール6との摩擦による横ズレを防止する機能を有している。
更に、この苗支持杆7は、植付爪8が接触しても損傷しないように弾力性のある柔軟なバネ線を利用しており、又、植付爪8の接触時の単位長さ当りの曲げ量が小さくなるように上端を片持ち支持させた長いものになっている。尚、苗支持杆7は一つの開口5に対して左右一対備えられ、かっ、互いに苗のせ台背面において連なっていて、苗のせ台背面の突起10に係止されて上方への抜止めがなされている。
【0010】
又、図2及び図3に示すように、前記苗のせ面1a上には、前記縦送り装置3による縦送り作用位置の終端から苗のせ台1の下端にわたる苗のせ台1の下端部に、マット状苗Wの底面に食い込んでその横ズレを規制する突条9を、マット状苗Wの縦送り方向に沿って形成してある。この突条9は、前記苗支持杆7の両脇に沿って、各苗支持杆7に対して2本ずつ形成してあり、この突条9をして苗支持杆7の横巾方向への一定範囲以上の揺動を制限する接当部Sを兼ねる構成としてある。つまり、苗支持杆7は片持ち支持されている上に柔軟性があって長いために横巾方向への揺動が比較的容易であり、それ故に突条9によって揺動範囲を制限してマット状苗Wの横ズレを小さく押さえているのである。
【0011】
尚、特許請求の範囲の項に図面との対照を便利にするために符号を記すが、該記入により本発明は添付図面の構成に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【図1】
苗支持杆の側面図
【図2】
苗支持杆の平面図
【図3】
苗のせ台の断面図
【図4】
苗植付装置の側面図
【符号の説明】
1 苗のせ台
3 縦送り装置
6 摺動レール
7 苗支持杆
9 突条
W マット状苗
 
訂正の要旨 訂正の要旨
本件特許第2651133号発明の明細書を、訂正明細書のとおり次のように訂正する。

▲1▼特許明細書の【特許請求の範囲】の欄の第9〜10行(本件特許公報第1欄第13行〜15行)の「縦送り作用位置と…下端部に、」を、『縦送り作用位置の終端と苗のせ台(1)の下端との間で,前記苗支持杆(7)の横脇に、前記苗のせ面から突出して、』と訂正する。
▲2▼特許明細書の【課題を解決するための手段】の欄の第7〜8行(本件特許公報第4欄第2〜3行)の「縦送り作用位置と…の下端部に、」を『縦送り作用位置の終端と苗のせ台の下端との間で、前記苗支持杆(7)の横脇に,前記苗のせ面から突出して、』と訂正する。
異議決定日 1999-12-10 
出願番号 特願平7-261323
審決分類 P 1 651・ 121- YA (A01C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 郡山 順中村 圭伸長谷部 善太郎  
特許庁審判長 木原 裕
特許庁審判官 新井 重雄
鈴木 寛治
登録日 1997-05-16 
登録番号 特許第2651133号(P2651133)
権利者 株式会社クボタ
発明の名称 田植機の苗供給装置  
代理人 石井 暁夫  
代理人 東野 正  
代理人 西 博幸  
代理人 北村 修一郎  
代理人 北村 修一郎  

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