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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C03B
審判 全部申し立て 2項進歩性  C03B
管理番号 1012493
異議申立番号 異議1999-74142  
総通号数 10 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1999-03-02 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-11-10 
確定日 2000-04-03 
異議申立件数
事件の表示 特許第2889877号「板ガラスを成形する装置と方法」の請求項1ないし19に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2889877号の請求項1ないし19に係る特許を維持する。 
理由 1、本件発明
特許第2889877号(平成10年6月15日特許出願(パリ条約による優先権主張日1997年6月16日 米国)、平成11年2月19日設定登録)の請求項1〜19に係る発明は、それぞれその特許請求の範囲の請求項1〜19に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】板ガラスを成形する装置において、支持フレームと、前記支持フレームに支持され、成形すべき板ガラスの周縁部の最終の所望の形状と高さおよび外形が一致する板ガラス成形面を有する成形レールと、前記成形レールの部分に沿って位置した少なくとも1個の補助レールであって、前記成形レールの部分の方は前記板ガラスの選択した周縁部の前記最終の所望する形状に全体的に対応する板ガラス成形面部分を有しており、前記補助レールの方が前記板の前記選択した周縁部の一次形状に全体的に対応する板ガラス成形面を有しており、前記補助レールが、前記補助レールの前記板ガラス成形面の部分が前記成形レールの部分の前記板ガラス成形面部分の上方にあり、前記成形レール部分の上方において前記板の前記選択した周縁部を支持し、前記選択した周縁部を一次成形することが可能である第1の位置と、前記補助レールの前記板ガラス成形面が、前記成形レールの部分が前記板ガラスの前記選択した周縁部を支持し、前記最終の所望する形状に成形することが可能なように前記成形レールの部分の前記板ガラス成形面の部分の下方にある第2の位置とから前記成形レールの部分に対して運動するように装着されている少なくとも1個の補助レールとを含むことを特徴とする板ガラスを成形する装置。
【請求項2】前記成形レールの部分が前記成形レールの枢動部分であることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】前記補助レールが前記枢動部分に装着されていることを特徴とする請求項2に記載の装置。
【請求項4】前記補助レールの第1の位置において前記補助レールを支持する第1の位置から前記補助レールがその第1の位置から第2の位置まで落下しうるようにする第2の位置まで運動するように前記フレームに装着された補助レール支持装置を更に含むことを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項5】前記補助レールをその第1の位置と第2の位置との間で垂直方向に往復運動させる昇降装置を更に含むことを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項6】前記補助レールの前記板ガラス成形面が真っ直ぐな外形を有していることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項7】前記補助レールが前記成形レールの部分の外方に位置され、前記補助レールの前記板ガラス成形面が、前記補助レールがその第1の位置にあるとき、隣接の成形レールの前記板ガラス成形面部分の完全に上方に位置していることを特徴とする請求項6に記載の装置。
【請求項8】前記補助レールをその第1の位置において支持する第1の位置から、前記補助レールがその第1の位置から第2の位置まで落下しうるようにする第2の位置まで運動するように前記フレームに装着された補助レール支持装置を更に含むことを特徴とする請求項7に記載の装置。
【請求項9】前記補助レールは前記成形レールの部分の水平方向曲率に全体的に対応する水平方向曲率を有していることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項10】前記補助レールが前記成形レールの部分の外方に位置していることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項11】前記補助レールが前記成形レールの部分の内方に位置していることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項12】前記補助レールの前記板ガラス成形面が前記補助レールがその第1の位置にあるとき、隣接する成形レールの前記板ガラス成形面の完全に上方にあることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項13】前記補助レールがその第1の位置と第2の位置との間で運動するように装着されていることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項14】重力による垂れ曲げにより板ガラスを成形する方法において、成形レールに、成形すべき板ガラスの周縁部の最終の所望の形状に全体的に対応する高さ形状と外形を有する上側板ガラス成形面を設ける段階と、前記板ガラスの選択した周縁部の一次形状に全体的に対応する上側板ガラス成形面を有する補助レールを、前記補助レールの前記上側板ガラス成形面が隣接する成形レール部分の前記上側板ガラス成形面の少なくとも一部の上方にある、前記成形レールの隣接部分に沿った第1の位置において支持する段階と、前記板ガラスの前記選択した周縁部が前記補助レールの前記上側板ガラス成形面によって、かつ隣接する成形レールの部分の前記上側板ガラス成形面の前記部分の上方において支持されるように前記板ガラスを前記成形レールと前記補助レールに位置させる段階と、前記板ガラスの第1の部分が重力で垂れて前記成形レールの前記上側板ガラス成形面と接触し、前記板ガラスの前記選択した周縁部分が前記補助レールの前記上側板ガラス成形面と接触して前記板ガラスを一次成形するように前記板ガラスを高温の軟化温度まで加熱する段階と、前記板ガラスの前記選択した周縁部が垂れて隣接する成形レール部分の前記上側板ガラス成形面と接触し、前記板ガラスが前記最終の所望形状まで垂れうるように前記板ガラスの選択した周縁部を隣接する成形レールの部分の上に置くように前記補助レールを降下させる段階とを含むことを特徴とする板ガラスを成形する方法。
【請求項15】前記補助レールの前記上側成形面に真っ直ぐな高さ形状を設ける段階を更に含むことを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項16】前記補助レールが前記隣接する成形レール部分の外方に位置していることを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項17】前記補助レールの上側板ガラス成形面が前記第1の位置にあるとき、前記隣接の成形レールの前記上側板ガラス成形面全体の上方に位置していることを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項18】前記板ガラスの主要面の少なくとも一部を、前記最終の所望の形状に全体的に対応する板ガラス成形面を有する押圧面と接触させる段階を更に含むことを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項19】重力による垂れ曲げにより板ガラスを成形する方法において、対向して長手方向に延びるレールと、それに対向して横方向に延びるレールとを有し、前記レールが成形すべき板ガラスの周縁部の最終の所望の形状と全体的に対応する高さ形状を備えた上側板ガラス成形面を有している成形リングを提供する段階と、それぞれ真っ直ぐな高さ形状を備えた上側板ガラス成形面を有する補助レールを、対応する横方向に延びるレールに沿って、前記補助レールの上側板ガラス成形面が前記対応する横方向に延びるレールの前記上側板ガラス成形面の上方にある第1の位置に位置させる段階と、前記板ガラスの少なくとも第1の選択された周縁部が前記補助レールの前記上側板ガラス成形面によって、かつ前記横方向に延びるレールの前記上側板ガラス成形面の上方で支持されるように前記成形リング上に前記板ガラスを位置させる段階と、前記板ガラスの第2の周縁部が重力により垂れて前記対向して長手方向に延びるレールの前記上側板硝子成形面と接触するようになり前記板ガラスに全体的に円筒形の曲率を加え、前記板ガラスを一次的に成形するように前記板ガラスをその軟化温度まで加熱する段階と、前記板ガラスの前記第1の選択した周縁部が垂れて前記横方向に延びたレールの前記上側板ガラス成形面と接触し、前記最終の所望の形状まで垂れうるように前記補助レールを第2の位置まで動かし、前記板ガラスの第1の選択した周縁部を前記横方向に延びるレール上に置く段階を含むことを特徴とする板ガラスを成形する方法。」
2、申立ての理由の概要
特許異議申立人旭硝子株式会社は、証拠方法として甲第1、2号証を提出し、請求項1〜19に係る発明の特許は、下記(1)〜(4)の理由で取り消されるべきものである旨主張している。
(1)請求項1〜8、10〜17に係る発明は甲第1号証に記載された発明であるから、請求項1〜8、10〜17に係る発明の特許は特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである。
(2)請求項9に係る発明は甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項9に係る発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(3)請求項18に係る発明は甲第1、2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項18に係る発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(4)請求項19に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるか、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項19に係る発明の特許は特許法第29条第1項第3号、第2項の規定に違反してされたものである。
3、理由(1)について
3-1、甲第1号証の記載内容
甲第1号証(特開平8-183625号公報)には、ガラスシートを曲げるための方法と装置が記載されており、特に次の事項が記載されている。
(a)「本発明にしたがってフレーム上で重力により少なくとも1枚のガラスシートを曲げる方法は、適切に曲げ加工する少なくとも2つの工程を含み、その工程の間に1枚以上のガラスシートは重力による形状加工を受け、これは1枚以上のガラスシートを第1ラインから第2ラインに移行させ、第1工程の際に第1周囲ラインにそって周囲を支持し、第2工程の際に第2周囲ラインを支持することによって行われ、この移行は第2周囲ラインに接触しようとする1枚以上のガラスシートの部分に及ぼす力の作用を常時積極的に(positively)に調節し、この第2周囲ラインのガラスシートの接触部分への応答(reaction)によって行われる。」(第3頁第3欄第24〜36行)
(b)「別な態様において、第2周囲ラインは、第1周囲ラインと部分的にのみ異なることができる。この違い、又は相違は、2つのラインの側面(lateral)部分にあてはまることもできる。この場合、一般にこの相違は、第2ラインの側面部分が、第1ラインの側面部分よりも強調された曲面を有し、高い位置に作用位置を有することからなる。」(第3頁第4欄第6〜12行)
(c)「周囲ラインは、特に1枚以上のガラスシートの仕上曲がり形状を定めるラインについては連続的なラインであるが、適当な位置に配置されたいくつかの部分又は区分で形成されたラインもまた適切であることがある。第1曲げ加工工程に対応する周囲ラインは、他方の曲げ加工工程に対応する周囲ラインの内側でも外側でもよい。また、2つの周囲ラインの各々は、曲げ加工工程の間に変化する形状を有してもよい。」(第3頁第4欄第13〜20行)
(d)「用語「ラフフレーム(rough frame)」は、本発明において、重力によるガラスシートの第1曲げ加工操作がその上で行われるフレームを意味すると理解すべきである。用語「仕上曲げ加工フレーム(definitive bending frame)」又は「仕上フレ一ム」は、本発明において、重力による次の曲げ加工がその上で行われ、主として最終的な所望の曲げ加工を提供する仕上曲げ加工工程が行われるフレームを意味すると理解すべきである。より一般には、ラフフレームは、重力による曲げ加工の操作又は工程がその上で行われるフレームであり、仕上フレームは、重力による次の曲げ加工の操作又は工程がその上で行われるフレームであり、他の曲げ加工工程がこれら2つの工程に先立って行われる及び/又は続いて行われるてもよいと理解されるべきである。」(第3頁第4欄第34〜47行)」
(e)「ラフフレームは種々の形態を有することができる。最も簡単な構造の形態は平面状フレームであり、ガラスシートは、曲げ加工の最初からその周囲に乗る。」(第4頁第5欄第40〜43行)
(f)「図1〜5に示す曲げ加工装置が、可動式キャリッジ1の上に据え付けられる。ホイール2を装備されたキャリッジ1は、重力曲げ加工炉(図示せず)を通るレールの上を走行することができる。重力によって曲げ加工する炉の中で、曲げ加工装置の上に配置されたガラスシートがその変形温度に達すると、そのシートは重力下で直ちに曲がり、その周囲部分において曲げフレーム上にのしかかることになる。フレーム上で重力によって曲げ加工するこのような技術は、特にその後に一緒に組み合わされてラミネートされたペイン(pane)を作成するためのガラスシートのペアを曲げ加工することに関し周知である。」(第4頁第6欄第7〜18行)
(g)「本願で開示の本発明による装置は、2つの曲げ加工用フレーム、即ちラフフレーム5と、仕上曲がり形状を形成するための仕上フレーム6を含む。この場合、仕上フレームは2つのハーフフレーム6aと6bからなり、2つの対称的な部分6aと6b は、全体軸A-Aに位置する軸7の回りに配置され且つラフフレーム5のピボットベアリング18 の上に据え付けられた接合部8によって接合される。ラフフレーム5と仕上フレームを形成するハーフフレーム6aと6bは、第1曲げ加工工程の際にラフフレーム5がより高いレベルに位置するように配置される。即ち、この位置において、ラフフレーム5の上に乗るガラスシートは、ハーフフレーム6aと6bには接触しない。この位置において、ラフフレームは、ハーフフレーム6aと6bの4つのコーナーに固定された支持部品11上の、ラフフレームの4つのコーナーに配置された、4つのヒンジボルト10の媒介によって支持される。したがって、ラフフレーム5の重さは、下げられた(又は開いた)位置の2つのハーフフレーム6aと6bを含む。」(第4頁第19〜36行)
(h)「ハーフフレーム6aと6bは、軸受13によってシャフト14の回りに取り付けられる。シャフト14は、支持ブロック17によって支持された軸16に取り付けられたレバー15によって往復運動されるように装着され、それ自身はキャリッジ1の上に据え付けられる。曲げ加工炉(図示せず)において、予め曲げられたラフな状態のガラスシートをラフフレーム5から仕上フレーム6に移すための移動ステーションが提供される。この目的のため、ボルト10は、適当な装置(図示せず)によって操作されて矢印Fの方向に軸回転することによって、支持部品11から外される。ラフフレームの重さとガラスシートの重さの合計が接合部8に伝わり、ハーフフレーム6aと6bを上方に軸回転させ、同時にラフフレーム5を下げさせる。ラフフレームがその上方の作用位置からその下方の休止位置に下がる間、このラフフレーム5は単独で2つのピボット軸受の上に乗っているため、移動の間に軸A-Aの回りに軸回転することができ、本発明のよるガラスシート上の力のバランスを可能にする。」(第4頁第5欄第45行〜第5頁第7欄第12行)
(i)「図2に示すような仕上フレーム6の作用位置において、ガラスシートが仕上フレーム6の上に乗るまで、ラフフレーム5は下降する。ラフフレーム5を仕上フレーム6よりかなり低くすることが望ましい場合、図3〜5に示すようなピボット軸受18の穴を、その長軸を垂直にした長円形の穴20の形態にすることもできる。」(第5頁第7欄第13〜18行)
(j)「この装置は、次のように作動する。1枚以上のガラスシートがラフフレーム上に置かれ、並べられ、図4に示すようにリンク装置によってその上側の作用位置にブロックされ、その装置全体が曲げ加工炉に移動する。第1の曲げ加工操作の間、ガラスシートはラフフレームの周囲に乗っている。ガラスシートが所望のラフな曲がり形状を形成した後、ラフフレームはその上げられた位置から、リンク装置38の作用によって解かれる。ガラスシートの重さの作用下で、ラフフレームは、4つのケーブル32に支持されて上昇する釣り合い錘33とバランスする状態で図7Aと7Bに示す矢印方向に下降し、スライド35のフィンガー36に案内され、ガラスシートは仕上フレームと接触する。この接触は、制御され釣り合った状態で生じる。必要により、ラフフレームは、2つのフィンガー36によって形成された軸の回りにこの接触の間に部分的に軸回転することができる。フレームの下降運動は、1枚以上のガラスシートのみの重さの影響下で実質的に生じる。また、ガラスシートと仕上フレームの間の接触力を修正するため、釣り合い錘の重さを修正することもできる。ガラスシートが仕上フレームによって支持され、曲げ加工操作が継続される。」(第5頁第8欄第24〜44行)
3-2、対比・判断
(ア)請求項1〜8、10〜13に係る発明について
上記(a)、(d)〜(j)の記載から、甲第1号証には「キャリッジ上に、第2周囲ラインにそって周囲を支持する仕上フレームと、第1周囲ラインにそって周囲を支持するラフフレームを含むガラスシート曲げ加工装置において、第1周囲ラインにそって周囲を支持するラフフレームであって、ラフフレームが、第1の曲げ加工操作の間、上げられた位置と、ガラスシートが所望のラフな曲がり形状を形成した後、仕上げフレームの作用位置においてガラスシートが仕上げフレームの上に乗るように仕上げフレームより下方の休止位置とを仕上フレームに対して運動するように装着されているラフフレームとを含んでいるガラスシート曲げ加工装置。」が記載されていると云える(以下、甲1発明という。)。
本件請求項1に係る発明(以下、本件発明1という。)と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「キャリッジ」、「第2周囲ラインにそって周囲を支持する仕上フレーム」は、それぞれ本件発明の「支持フレーム」、「成形すべき板ガラスの周縁部の最終の所望の形状と高さおよび外形が一致する板ガラス成形面を有する成形レール」に相当するから、
両者は「板ガラスを成形する装置において、支持フレームと、成形すべき板ガラスの周縁部の最終の所望の形状と高さおよび外形が一致する板ガラス成形面を有する成形レールを含む板ガラスを成形する装置。」で一致しているが、
以下、理解を助けるためにかっこを使って記載すると、
本件発明1では、成形レールの部分に沿って位置した少なくとも1個の補助レールであって、(成形レールの部分の方は板ガラスの選択した周縁部の最終の所望する形状に全体的に対応する板ガラス成形面部分を有しており、補助レールの方が前記板の選択した周縁部の一次形状に全体的に対応する板ガラス成形面を有しており)、補助レールが、(補助レールの板ガラス成形面の部分が成形レールの部分の板ガラス成形面部分の上方にあり、成形レール部分の上方において前記板の選択した周縁部を支持し、選択した周縁部を一次成形することが可能である)第1の位置と、(補助レールの板ガラス成形面が、(成形レールの部分が板ガラスの選択した周縁部を支持し、最終の所望する形状に成形することが可能なように)成形レールの部分の板ガラス成形面の部分の下方にある)第2の位置とから成形レールの部分に対して運動するように装着されている少なくとも1個の補助レールとを含むのに対して、
甲1発明では、第1周囲ラインにそって周囲を支持するラフフレームであって、ラフフレームが(第1の曲げ加工操作の間)上げられた位置と、(板ガラスが所望のラフな曲がり形状を形成した後、成形レールの作用位置において板ガラスが成形レールの上に乗るように)成形レールより下方の休止位置とを成形レールに対して運動するように装着されているラフフレームとを含む点で相違している。
そこで、検討すると、本件発明1の補助レールは成形レールの部分に沿って位置し、選択した周縁部(の一次形状に全体的)に対応する板ガラス成形面を有しているのに対して、甲1発明のラフフレームは第1周囲ラインにそって周囲の全周を支持するものであるから、本件発明1は甲1発明と相違していると認められる。
なお、上記(b)、(c)に記載されている甲1発明の別の態様のラフフレームも第1周囲ラインにそって周囲の全周を支持するという点で、上記と同じである。
したがって、本件請求項1に係る発明は甲第1号証に記載された発明であるとすることはできない。
さらに、請求項2〜8、10〜13に係る発明は、本件請求項1に係る発明を引用して、さらに限定した発明であるから、上記と同じ理由で、甲第1号証に記載された発明であるとすることはできない。
(イ)請求項14〜17に係る発明について
上記(a)、(d)〜(j)の記載から、甲第1号証には「重力によるガラスシートの曲げ加工方法において、仕上フレームにガラスシート周囲を支持させる第2周囲ラインを設ける段階と、第1周囲ラインにそって周囲を支持するラフフレームを上げられた位置において支持する段階と、ガラスシートをラフフレームに位置させる段階と、第1の曲げ加工操作の間加熱しガラスシートに所望のラフな曲がり形状を形成する段階と、ガラスシートが仕上げフレームの上に乗るように仕上げフレームより下方の休止位置にラフフレームを降下させる段階とを含むことを特徴とするガラスシートの曲げ加工方法。」が記載されていると云える(以下、甲1方法発明という。)。
本件請求項14に係る発明(以下、本件発明14という。)と甲1方法発明とを対比する。
甲1方法発明の「第2周囲ライン」、「仕上フレーム」は、それぞれ本件発明の「成形すべき板ガラスの周縁部の最終の所望の形状に全体的に対応する高さ形状と外形を有する板ガラス成形面」、「成形レール」に相当するから、
両者は「重力による垂れ曲げにより板ガラスを成形する方法において、成形レールに、成形すべき板ガラスの周縁部の最終の所望の形状に全体的に対応する高さ形状と外形を有する上側板ガラス成形面を設ける段階とを含む板ガラスを成形する方法。」で一致しているが、
以下、理解を助けるためにかっこを使って記載すると、
本件発明14では、(板ガラスの選択した周縁部の一次形状に全体的に対応する上側板ガラス成形面を有する)補助レールを(補助レールの上側板ガラス成形面が隣接する成形レール部分の上側板ガラス成形面の少なくとも一部の上方にある、成形レールの隣接部分に沿った)第1の位置において支持する段階と、
(板ガラスの選択した周縁部が補助レールの上側板ガラス成形面によって、(かつ隣接する成形レールの部分の上側板ガラス成形面の前記部分の上方において)支持されるように)板ガラスを成形レールと補助レールに位置させる段階と、
(板ガラスの第1の部分が重力で垂れて成形レールの上側板ガラス成形面と接触し、板ガラスの選択した周縁部分が補助レールの上側板ガラス成形面と接触して前記板ガラスを一次成形するように)板ガラスを高温の軟化温度まで加熱する段階と、
(板ガラスの選択した周縁部が垂れて隣接する成形レール部分の上側板ガラス成形面と接触し、前記板ガラスが最終の所望形状まで垂れうるように)板ガラスの選択した周縁部を隣接する成形レールの部分の上に置くように前記補助レールを降下させる段階とを含むのに対して、
甲1方法発明では、(第1周囲ラインにそって周囲を支持する)ラフフレームを上げられた位置において支持する段階と、
ガラスシートをラフフレームに位置させる段階と、
第1の曲げ加工操作の間加熱しガラスシートに所望のラフな曲がり形状を形成する段階と、
(ガラスシートが仕上げフレームの上に乗るように)仕上げフレームより下方の休止位置にラフフレームを降下させる段階とを含む点で相違している。
そこで、検討すると、本件発明14の補助レールは、板ガラスの選択した周縁部(の一次形状に全体的)に対応する上側板ガラス成形面を有しているとともに、成形レールの部分の隣接部分に沿って位置しているのに対して、甲1方法発明のラフレームは第1周囲ラインにそって周囲の全周を支持するものであるから、本件発明14は甲1方法発明と相違していると認められる。
なお、上記(b)、(c)に記載されている甲1方法発明の別の態様のラフフレームも、第1周囲ラインにそって周囲の全周を支持するという点で、上記と同じである。
したがって、本件請求項14に係る発明は甲第1号証に記載された発明であるとすることはできない。
さらに、請求項15〜17に係る発明は、本件請求項14に係る発明を引用して、さらに限定した発明であるから、上記と同じ理由で、甲第1号証に記載された発明であるとすることはできない。
4、理由(2)について
請求項9に係る発明は、請求項1に係る発明を引用しているから、請求項9に係る発明と甲第1号証に記載された発明(上記、甲1発明に相当)を対比すると、上記3-2(ア)で述べた相違点で相違し、さらに、請求項9に係る発明では、補助レールは成形レールの部分の水平方向曲率に全体的に対応する水平方向曲率を有しているのに対して、甲1発明では、その点が触れられていない点で相違する。
そこで上記3-2(ア)で述べた相違点を検討すると、甲1発明では、一次成形の際ラフフレームだけを使用し、二次成形の際に成形レールだけを使用するということとなり、これは、まず粗い一次形状の板ガラスを成形し、次に最終形状を成形するという技術思想であるから、ここから、一次成形の際に、一部の周縁部では一次形状に成形し、残りの周縁部では最終形状に成形するという技術思想は生まれてこない。
なお、上記(b)、(c)に記載された別の態様の場合も一次成形の際にラフフレームだけを使用するという点で、上記と同じである。
したがって、請求項9に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到するものであるとすることはできない。
そして、請求項9に係る発明は上記3-2(ア)で述べた相違点の構成を具備することにより、成形レールの近傍における板ガラスの過度の変形を調整できるという明細書記載の効果を奏する。
5、理由(3)について
5-1、甲第2号証の記載内容
甲第2号証(米国特許第4804397号明細書)には、「重力曲げ炉における選択部分のプレス曲げ装置と方法」(訳文、以下同じ。)が記載されており、特に次の事項が記載されている。
(A)「ガラス板を所望輪郭に成形する装置であって、成形されるべきガラス板を支持する成形レールと、前記ガラス坂の周縁が前記成形レールの形状に合致するように前記ガラス板が前記成形レール上に支持されている間に前記成形されるべきガラス板を変形温度に加熱する手段とを有する装置において、成形ガラス板の選択部分の所望曲率に一致するガラス板係合面を有する成形手段と、前記ガラス板が前記成形レール上に支持されている間に変形温度に達して重力により垂下し始めた該ガラス板の前記選択部分と接触するように前記成形手段を偏きさせる手段とを有することを特徴とするガラス板を所望輪郭に成形する装置。」(第10欄第21〜36行)
5-2、対比・判断
請求項18に係る発明は、請求項14に係る発明を引用しているから、請求項18に係る発明と甲第1号証に記載された発明(上記、甲1方法発明に相当)を対比すると、上記3-2(イ)で述べた相違点で相違し、さらに、請求項18に係る発明では、最終の所望の形状に全体的に対応する板ガラス成形面を有する押圧面と接触させる段階を更に含むのに対して、甲1方法発明では、その点が触れられていない点で相違する。
そこで上記3-2(イ)で述べた相違点を検討すると、甲1方法発明では、一次成形の際ラフフレームだけを使用し、二次成形の際、成形レールだけを使用していることとなり、これは、まず粗い一次形状の板ガラスを成形し、次に最終形状を成形するという技術思想であるから、ここから、一次成形の際に、一部の周縁部では一次形状に成形し、残りの周縁部では最終形状に成形するという技術思想は生まれてこない。
なお、上記(b)、(c)に記載された別の態様の場合も一次成形の際ラフフレームだけを使用するという点で、上記と同じである。
また、甲第2号証も、「成形レール」と「接触して成形する手段」は記載されているものの、補助レールについては記載も示唆もされていない。
したがって、請求項18に係る発明は、甲第1、2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものであるとすることはできない。
そして、請求項18に係る発明は上記3-2(イ)で述べた相違点の構成を具備することにより、成形レールの近傍における板ガラスの過度の変形を調整できるという明細書記載の効果を奏する。
6、理由(4)について
請求項19に係る発明は、請求項14に係る発明における「成形レール」を具体的に「対向して長手方向に延びるレールと、それに対向して横方向に延びるレール」と限定し、さらに「補助レール」の形状を具体的に「真っ直ぐな高さ形状を備えた」と限定し、また「補助レール」の位置を「対応する横方向に延びるレールに沿って」と限定したものであるから、請求項19に係る発明と上記甲1方法発明とを対比すると、上記3-2(イ)で述べたのと同じ相違点が存在するから、請求項9に係る発明は甲1方法発明とは相違し、さらに、上記3-2(イ)で述べた相違点について上記5-2で述べたと同じ理由で、請求項9に係る発明は甲1方法発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものであるとすることはできない。
7、むすび
以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠方法によっては、本件請求項1〜19に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1〜19に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2000-03-16 
出願番号 特願平10-166513
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C03B)
P 1 651・ 113- Y (C03B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 五十棲 毅武重 竜男  
特許庁審判長 吉田 敏明
特許庁審判官 唐戸 光雄
野田 直人
登録日 1999-02-19 
登録番号 特許第2889877号(P2889877)
権利者 ピーピージー インダストリーズ オハイオ,インコーポレイテッド
発明の名称 板ガラスを成形する装置と方法  
代理人 浅村 皓  
代理人 浅村 肇  

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