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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 G10H 審判 全部申し立て 2項進歩性 G10H |
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管理番号 | 1012548 |
異議申立番号 | 異議1998-73253 |
総通号数 | 10 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1989-07-18 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 1998-07-08 |
確定日 | 2000-03-06 |
異議申立件数 | 2 |
事件の表示 | 特許第2696868号「楽音制御用パラメータ発生装置」の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第2696868号の特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 本件特許第2696868号発明は、昭和63年1月11日に特許出願されたものであって、平成9年9月19日にその特許の設定登録がなされ、その後、小野省一及び大町由美子より特許異議の申立がなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成11年4月27日に訂正請求がなされた後、訂正拒絶理由通知がなされ、これに対して、手続補正書が提出されたものである。 2.訂正の適否 (1)補正後の訂正の内容 ア.特許請求の範囲請求項1及び請求項2を下記のとおり訂正する。 「(1)楽音の音色を決定する音色パラメータと楽音に付与される効果を制御する効果制御パラメータとからなる楽音制御用パラメータを楽音発生装置に供給する楽音制御用パラメータ発生装置において、楽音の音色を選択するための音色選択操作子と、 前記音色選択操作子により選択された音色に対応した音色パラメータを前記楽音発生装置に供給する音色パラメータ発生手段と、 楽音に付与される効果を制御するための一つの効果制御操作子と、 前記選択された音色毎に異なる種類の複数の効果制御パラメータであって、一種類の効果に対して同効果を決定する複数の要素をそれぞれ独立して制御する複数の効果制御パラメータを含み、前記一つの効果制御操作子の操作状態を前記効果制御パラメータ毎に設定されていて同操作状態の変化に対して曲線的に効果制御パラメータを変化させる各変換特性にしたがってそれぞれ変換することによって得られ同時に変化する複数の効果制御パラメータを前記楽音発生装置に供給する効果制御パラメータ発生手段とを 備えたことを特徴とする楽音制御用パラメータ発生装置。 (2)楽音発生装置にて楽音形成のために利用される楽音制御用パラメータを該楽音発生装置に供給する楽音制御用パラメータ発生装置において、 楽音に付与される効果を制御するための一つの効果制御操作子と、 前記楽音制御用パラメータの一部を構成するとともに一種類の効果に対して同効果を決定する複数の要素をそれぞれ独立して制御する複数の効果制御パラメータを含み、前記一つの効果制御操作子の操作によって同時に変化する複数の効果制御パラメータであって、前記一つの効果制御操作子の操作に対し予め用意された複数の変換特性のうちからそれぞれ選択された変換特性にしたがって変換された複数の効果制御パラメータを前記楽音発生装置に供給する効果制御パラメータ発生手段と、 前記効果制御パラメータ発生手段から前記楽音発生装置に供給される効果制御パラメータの種類及び数を選択設定する選択設定手段と を備えたことを特徴とする楽音制御用パラメータ発生装置。」 イ.明細書の第5頁第6行〜第7頁第3行(本件特許公報第2頁第4コラム第8行〜第3頁第5コラム第7行)の記載を下記のとおり訂正する。 「[課題を解決するための手段] 上記課題を解決するために、第1の発明の構成上の特徴は、楽音の音色を決定する音色パラメータと楽音に付与される効果を制御する効果制御パラメータとからなる楽音制御用パラメータを楽音発生装置に供給する楽音制御用パラメータ発生装置において、楽音の音色を選択するための音色選択操作子と、音色選択操作子により選択された音色に対応した音色パラメータを楽音発生装置に供給する音色パラメータ発生手段と、楽音に付与される効果を制御するための一つの効果制御操作子と、前記選択された音色毎に異なる種類の複数の効果制御パラメータであって、一種類の効果に対して同効果を決定する複数の要素をそれぞれ独立して制御する複数の効果制御パラメータを含み、一つの効果制御操作子の操作状態を効果制御パラメータ毎に設定されていて同操作状態の変化に対して曲線的に効果制御パラメータを変化させる各変換特性にしたがってそれぞれ変換することによって得られ同時に変化する複数の効果制御パラメータを楽音発生装置に供給する効果制御パラメータ発生手段とを備えたことにある。 また、第2の発明の構成上の特徴は、楽音発生装置にて楽音形成のために利用される楽音制御用パラメータを楽音発生装置に供給する楽音制御用パラメータ発生装置において、楽音に付与される効果を制御するための一つの効果制御操作子と、楽音制御用パラメータの一部を構成するとともに一種類の効果に対して同効果を決定する複数の要素をそれぞれ独立して制御する複数の効果制御パラメータを含み、一つの効果制御操作子の操作によって同時に変化する複数の効果制御パラメータであって、一つの効果制御操作子の操作に対し予め用意された複数の変換特性のうちからそれぞれ選択された変換特性にしたがって変換された複数の効果制御パラメータを楽音発生装置に供給する効果制御パラメータ発生手段と、効果制御パラメータ発生手段から楽音発生装置に供給される効果制御パラメータの種類及び数を選択設定する選択設定手段とを備えたことにある。 また、第3の発明の構成上の特徴は、楽音発生装置にて楽音形成のために利用される楽音制御用パラメータを楽音発生装置に供給する楽音制御用パラメータ発生装置において、楽音に付与される効果を制御するための一つの効果制御操作子と、一つの効果制御操作子の操作状態から楽音制御用パラメータの一部を構成する効果制御パラメータへの変換特性を決定するための制御データをそれぞれ記憶する複数のマッピングファンクションテープルと、複数のマッピングファンクシヨンテープルのうちの一つをそれぞれ指定するテーブル番号データであって前記一つの効果制御操作子に対して複数のテーブル番号データを記憶可能なテーブル番号データ記憶手段と、テーブル番号データ記憶手段内に所望のテーブル番号データを効果制御パラメータの種類に対応させて書き込むテーブル番号データ設定手段と、一つの効果制御操作子の操作に応答して、テーブル番号データ記憶手段内に前記一つの効果制御操作子に対して記憶されている全てのテーブル番号データを読み出し、同読み出したテーブル番号データにより指定されるマッピングファンクションテーブル内に記憶されている制御データを読み出し、かつ前記読み出した制御データにより決定される変換特性にしたがって一つの効果制御操作子の操作状態を効果制御パラメータに変換して楽音発生装置に供給する効果制御パラメータ供給手段とを備えたことにある。」 ウ.明細書の第7頁第4行〜第9頁第7行(本件特許公報第3頁第5コラム第8行〜第3頁第6コラム第2行)の記載を下記のとおり訂正する。 「[作用] 上記のように構成した第1の発明においては、音色選択操作子が操作されると、音色パラメータ発生手段は音色選択操作子の前記操作に応じて選択された音色に対応した音色パラメータを楽音発生装置に供給するので、同発生装置は前記選択された音色の楽音を形成する。一方、効果制御操作子が操作されると、効果制御パラメータ発生手段は、前記選択音色毎に異なる種類の複数の効果制御パラメータであって、効果制御操作子の操作によって同時に変化する複数の効果制御パラメータを楽音発生装置に供給する。この効果制御パラメータは、一種類の効果に対して同効果を決定する複数の要素を夫々独立して制御する複数の効果制御パラメータを含んでおり、一つの効果制御操作子の操作状態を効果制御パラメータ毎に設定されていて同操作状態の変化に対して曲線的に効果制御パラメータを変化させる各変換特性にしたがってそれぞれ変換することによって得られる。したがって、楽音発生装置は、効果制御操作子の操作に応じて同時に変更制御されるとともに音色毎に異なる複数種類の効果の付与された楽音を形成し、また前記効果のいずれかにおいては、その複数の要素が、一つの効果制御操作子の操作により、操作状態に対して曲線的な変換特性にしたがうとともに、それぞれ独立して制御される。 また、上記のように構成した第2の発明においては、効果制御操作子が操作されると、効果制御パラメータ発生手段は、効果制御操作子の操作によって同時に変化する複数の効果制御パラメータを楽音発生装置に供給する。この場合、選択設定手段は、効果制御パラメータの種類及び数を選択設定するので、演奏者は効果制御操作子の操作に応じて楽音に付与される効果の種類及び数を任意に設定できる。したがって、楽音発生装置は、効果制御操作子の操作に応じて同時に変化し、かつ演奏者が任意に設定した種類及び数の効果の付与された楽音を形成する。 また、前記効果制御パラメータは、一種類の効果の対して同効果を決定する複数の要素それぞれ独立して制御する複数の効果制御パラメータを含んでいるので、前記効果のいずれかにおいては、その複数の要素の全部又は一部が効果制御操作子の操作に応じて制御されたり、されなかったりする。さらに、前記効果制御パラメータは、前記効果制御操作子の操作に対し予め用意された複数の変換特性のうちからそれぞれ選択された変換特性にしたがって変換されたものであるので、楽音に付与される効果が効果制御操作子の操作によって種々に変更制御される。 さらに、上記のように構成した第3の発明においては、効果制御操作子が操作されると、効果制御パラメータ供給手段は、テーブル番号データ記憶手段内に前記操作された効果制御操作子に対して記憶されている全てのテーブル番号データを読み出し、同読み出したテーブル番号データにより指定されるマッピングファンクションテーブル内に記憶されている制御データを読み出し、かつ前記読み出した制御データにより決定される変換特性にしたがって効果制御操作子の操作状態を効果制御パラメータに変換して楽音発生装置に供給する。この場合、テーブル番号設定手段は、テーブル番号データ記憶手段内に一つの効果制御操作子に対して所望のテーブル番号データを任意の数だけ効果制御パラメータに対応させて書き込めるので、演奏者は効果制御操作子の操作状態から一つ若しくは複数の効果制御パラメータへの変換特性を各効果制御パラメータ毎に独立して任意に設定できる。したがって、楽音発生装置は、演奏者が任意に設定した変化特性に従うとともに効果制御操作子の操作に応じて同時に変化する任意の数の効果の付与された楽音を形成する。」 エ.明細書の第9頁第8行〜第10頁第4行(本件特許公報第3頁第6コラム第3行〜第3頁第6コラム第27行)の記載を下記のとおり訂正する。 「[発明の効果] 上記作用説明から理解できるとおり、上記第1の発明によれば、一つの効果制御操作子の操作に応じて同時に楽音に付与される複数の効果の種類が音色毎に変更制御されるので、発生楽音に対してその音色に適した効果を付与できる。また、複数種類の効果のいずれかにおいては、同効果を決定する複数の要素が、一つの効果制御操作子の操作により、操作状態の変化に対して曲線的な変換特性にしたがうとともに、それぞれ独立して制御されるので、細やかな効果制御を行うことができる。 また、上記第2の発明によれば、演奏者は、効果制御操作子の操作に応じて楽音に同時に付与される複数の効果の種類及び数を任意に設定できるので、演奏者は発生楽音に対してその音色に適した効果を自由に付与できる。また、複数種類の効果のいずれかにおいては、同効果を決定する複数の要素の全部又は一部が効果制御操作子の操作に応じて選択的に制御されたり、されなかったりするとともに、効果のための効果制御パラメータは、効果制御操作子の操作に対して種々に変更制御されたものとなるので、細やかな効果制御を行うことができる。 さらに、上記第3の発明によれば、演奏者は、一つの効果制御操作子の操作に応じて楽音に付与される任意の種類及び数の効果を選択できるとともに、同選択された効果における効果制御操作子の操作状態から効果制御パラメータへの変換特性を各効果制御パラメータ毎に独立して任意に設定できるので、演奏者は発生楽音に対してその音色に適した効果を自由に付与することができる。また、この場合、効果制御操作子の操作状態から効果制御パラメータへの複数の変換特性を表す制御データは複数のマッピングファンクシヨンテーブルにそれぞれ記憶されていて、演奏者は所望の変換特性を表す制御データを記憶したマッピングファンクションテーブルを選択するのみでよいので、簡単な操作で種々の変換特性を選択できる。」 (2)訂正の適否 ア.訂正の目的の適否及び拡張・変更の存否 前記訂正アは、請求項1及び請求項2についての訂正であって、いずれの請求項に対しても、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 前記訂正イ〜エは、訂正アに対応したものであって、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 そして、前記訂正ア〜エは、いずれも、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 イ.独立特許要件の判断 (ア)訂正後の請求項に係る発明 訂正後の各請求項に係る発明は、補正された訂正請求書に添付された訂正明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲請求項1〜2に記載された前記(2.(1)ア)のとおりのものである。 (イ)刊行物の記載 これに対して、当審が通知した特許法第29条第2項の規定にかかる取消理由で引用した 「キーボード・マガジン(1987年3月号)」第182〜187頁(昭和62年3月1日リットーミュージック発行)(以下、刊行物1という)、「キーボード・マガジン(1987年12月号)」「第40回KMデジタル・クラブ」(昭和62年12月1日リットーミュージック発行)(以下、刊行物2という)及び「キーボードスペシャル(1987年1月号)」第47〜63頁(昭和62年1月15日立東社発行)(以下、刊行物3という)には、それぞれ以下の記載がある。 [刊行物1] ・製品名DX7IIの音作りに関わる全パラメーターをボイス・データ表の形で紹介する旨 ・ボイス・データについて、音色の最小単位であって、組み合わせたり、単体のままで使ったりする旨 ・各コントローラーについて、モジュレーション・ホイール/ブレス・コントローラー/アフター・タッチ/フット・コントローラー/MIDI:効果を加える操作子・ピッチ・モジュレーション:ピッチの変調・・・・・ボリューム:音量がある旨 ・コントローラーについて、各種のコントローラーに本体内のいろいろな機能を割り当てることができ、ボイスのデータとして指定できるパラメーターの組み合わせは、各ボイス・データの右下のマトリクスで示されている旨 ・マトリクス内に、行方向にMW、BC、AT・・・が、列方向に、Pmod、Amod、EGbias、CS1及びVolの記載があり、各要素に種々の数値が設定されている。 ・パフォーマンス・データの方では、フット・スイッチでコントロールできるのがサステイン、ポルタメント、キー・ホールドの4種類、コンティニュウアス・スライダーでは表の105パラメーターから選んでコントロールできる旨 [刊行物2] ・DX7IIでは、モジュレーション・ホイールやアフター・タッチなどを駆使して、演奏時にその音に色づけすることで、表情豊かなプレイが可能になる旨 ・ボイスごとにコントローラーの働きを設定できる旨 ・ボイス側の設定で、値が0となっている効果は、モジュレーションがかからない旨 ・モジュレーション・ホイールが、ビブラートの深さ、トレモロ、ワウの深さ、音色の明るさや音量のうち2つ以上の効果を同時に得ることができる旨 ・ブレス・コントロール、アフター・タッチ、フット・コントロールで、複数の効果を同時に得ることができる旨 [刊行物3] DX7II及びDX7IIFDなる製品について、 ・本体内のボイス・メモリーは、32個から64個になり、これらのボイス(音色)は、A・B2種類を呼び出すことができる旨 ・6オペレータ、32アルゴリズムを有するFM音源を備えている旨 (ウ)異議申立人提出による刊行物の記載 [申立人大町由美子提出によるもの] 甲第1号証 「キーボード・マガジン(1987年3月号)」(昭和62年3月1日リットーミュージック発行)第182〜187頁(前記刊行物1と同じ) 甲第2号証 「キーボード・マガジン(1987年12月号)」(昭和62年12月1日リットーミュージック発行)「第40回KMデジタル・クラブ」(前記刊行物2と同じ) 甲第3号証 「キーボードスペシャル(1987年1月号)」(昭和62年1月15日立東社発行) 第47〜63頁(前記刊行物3と同じ) 甲第4号証 「キーボード・マガジン新年特大号(1988年1月号)」(昭和62年12月1日リットーミュージック発行)(以下、刊行物4という) 甲第5号証 「Musician’s Msnual SQ80 Cross Wave Synthesizer」(以下、刊行物5という) 甲第6号証 「ミュージックトレード(昭和63年6月号)」(以下、刊行物6という) [申立人小野省一提出によるもの] 甲第1号証 特開昭61-128293号公報(以下、刊行物7という) 甲第2号証 実願昭61-36247号(実開昭62-149099号公報)の願書に最初に添付した明細書および図面の内容を撮影したマイクロフィルム(昭和62年9月21日特許庁発行)(以下、刊行物8という) [各刊行物の記載] 刊行物1〜刊行物3 前記したとおりである。 刊行物4 ENSONIQ SQ-80なる製品について、 ・このSQ-80は、ESQ-1の上位モデルで、8音ポリフォニック、1音につき3オシレーター、4DCA、1フィルター、3LFOのマルチ・モード対応のシンセサイザーである旨 ・ポリフォニック・キー・プレッシャー(この製品でPOLY-キーと呼ぶ)が、チャンネル・プレッシャーでやっていた様々なコントロール(音量、音色、ビブラートの振幅、ピッチなど)を1音ごとに独立して行うことができるので、和音のバランスを変えたり、和音の中の1つの音だけにピッチ・ベンドをかけたり、ビブラートのかかり具合がバラバラな和音を出したりできる旨 ・プレッシャーを、3つあるオシレータのうちの1つのピッチやボリュームだけにかけたり、それらを同時に作用させたりすることができる旨 ・オシレーター波形が75種類あり、音作りの方法は、3つのオシレーターに波形を割り当て、フィルターで加工していくという方式をとる旨 ・3つのオシレータに割り当てた音がDCAを通って出力される間に、さまざまなモジュレーションをかけて音作りする旨 ・モジュレーションは、エンベロープ1〜4,LFO1〜3、モジュレーション・ホイール、ベロシティ1〜2、フット・コントロールなど15種類あり、各ブロックに2つずつアサインできる旨 刊行物5 ・An SQ-80 Voiceのブロック図に、15種類のモジュレーション・ソースが図のMODに自由に割り当てられる旨 ・モジュレーターについて、15のモジュレーション・ソースは、互いに独立して、各オシレータのピッチ、各オシレータの音量、フィルターのカットオフ周波数、音色の明るさなどの手動レベルを変更するように割り当てられる旨 ・オシレーターピッチページ、音量ページ及びフィルターページで、2つの異なるモジュレータを選択でき、モジュレータを選択した後、モジュレーションデプスを調節する旨 ・VEL(ベロシティー)は、押鍵の強さを意味するものであり、モジュレーターとしてVELを選択すると、ベロシティーで多くの手動レベルを変調できる旨 ・VELは、直線カーブのベロシティーであり、VEL-Xは、指数関数で変化するカーブのベロシティーである旨 ・鍵盤の左側のモジュレーションホイールは、選択された一つのモジュレーターを割り当てることができ、一例として、ビブラートホイールとしてモジュレーションホイールを使用する場合、オシレーターピッチを変調するLFOに割り当てる旨 刊行物6 ・機種別発売順キーボード一覧表の発売年月の欄に、エンソニック SQ-80について、「87.12」の表示がある。 刊行物7 ・発明の目的として、鍵の押鍵速度に応じてその鍵の本来の音高周波数に達する時間又はグライド幅が自由に変化し、変化に富み、またより自然な感じのする楽音が得られる電子楽器を提供すること ・複数種類のグライドデータがグライドメモリ8に記憶され、グライドデータの種類の選択は、音色スイッチ部9に複数設けてある各種音色スイッチの選択によって行われる旨 ・楽音作成部7は、音色スイッチからの設定音色データも入力し、設定音色の楽音であってしかも押鍵時からの周波数が本来の音高周波数とは余り差はないが短時間で本来の音高周波数に近づいてゆくグライド効果をもった楽音信号を作成する旨 刊行物8 ・目的が、演奏中にユーザーが簡単な操作によりディレイのパラメータ(例えば遅れ信号間の混合比、遅れ時間、帰還の量)を自由に制御することのできる電子楽器の効果装置を提供することにある旨 ・制御情報入力部4は例えばモジュレーション・ホイールやフットペダルのように演奏者により自由に操作される手動操作子4aを含むものであり、手動操作子の操作量のデジタル値を出力する入力コントローラ、あるいは直接コード化された操作情報を出力するスイッチ入力装置で構成される旨 ・演算制御部6は、原音に効果音を導入するための演算処理部であり、3つの係数乗算器と係数乗算器の各出力と楽音発生部2からの原音波形とを加算して楽音出力部3に渡す加算器を有する旨 ・係数乗算器は、制御情報入力部4の手動操作子4aに対して演奏者が演奏中に操作した操作量に従って、異なる係数を求め、その係数を異なる遅れをもつ信号に乗ずるという処理を実行するものである旨 ・記憶部5と演算制御部6の要素は、制御情報入力部4からの信号により異なるフィルター制御を行う、可変型のデジタルフィルターで構成することもでき、演奏者は演奏中、手動操作子4aを操作することにより、遅延出力の混合比を自由に変えることができる旨 (エ)対比・判断 刊行物1〜刊行物3の記載は、いずれもDX7IIなる製品についてのものであり、該製品が、複数の音色を発音することができるものであって、音色ごとに、モジュレーション・ホイールなどのコントローラーの働きを設定でき、1つのコントローラーに複数の効果を割り当て、1つのコントローラーの操作で、同時に複数の効果を得ることができるものであるとされている。 即ち、本件訂正後の請求項1及び請求項2に係る発明が、いずれも、音色ごとに設定された効果を制御するためのものであって、1つの操作子に対して、効果の制御のための複数の機能を割り当てていることにおいて、一応共通するものである。 しかしながら、本件訂正後の請求項1に係る各発明が、効果制御パラメータに対するものであって、一種類の効果に対して同効果を決定する複数の要素をそれぞれ独立して制御する複数の効果制御パラメータを含み、一つの効果制御操作子の操作状態を効果制御パラメータ毎に設定されていて同操作状態の変化に対して曲線的に効果制御パラメータを変化させる各変換特性にしたがってそれぞれ変換することによって得られ同時に変化する複数の効果制御パラメータを楽音発生装置に供給するものであるとしている点、及び本件訂正後の請求項2に係る発明が、効果制御パラメータの一部を構成するものに対するものであって、一種類の効果に対して同効果を決定する複数の要素をそれぞれ独立して制御する複数の効果制御パラメータを含み、一つの効果制御操作子の操作に対し予め用意された複数の変換特性のうちからそれぞれ選択された変換特性にしたがって変換された複数の効果制御パラメータを楽音発生装置に供給するものであるとしている点については、前記刊行物1〜刊行物3のいずれにも、更に、前記刊行物3〜刊行物8のいずれにも、記載されていない。 しかも、刊行物1〜刊行物8記載の事項をいかように組み合わせても、前記各点を導出することは、困難である。 しかも、本件訂正後の各発明は、これらの構成を備えることにより、明細書記載の所期の効果を奏するものである。 結局、本件訂正後の各発明は、前記いずれの刊行物に記載されたのものとも、又前記いずれの刊行物に記載された発明のいかなる組合わせによっても容易には導出することができず、本件訂正後の各発明について、特許法第29条第1項及び第2項の規定により、特許を受けることができないとすることはできない。 又、他に本件訂正後の各発明を、特許出願の際独立して特許を受けることができない発明とするにたる理由を発見しない。 以上のとおりであるから、前記訂正請求は、特許法第120条の4第2項の規定及び同条第3項で準用する第126条第2〜4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 3.特許異議の申立についての判断 (1)申立の理由の概要 申立人大町由美子は、甲第1〜6号証刊行物(刊行物1〜6)を、申立人小野省一は、甲第1、2号証刊行物(刊行物7、8)を、それぞれ提出し、前者は、請求項1〜請求項3に係る特許発明について、後者は、請求項1に係る特許発明について、各刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとして、本件特許は、特許法第29条2項の規定に違反してなされたものであるから、特許を取り消すべきである旨主張している。 (2)本件特許発明 本件各請求項1及び請求項2に係る特許発明は、訂正明細書及び図面の記載からみて、訂正後の特許請求の範囲に記載された前記(2.(1)ア)したとおりのものである。 請求項3に係る発明は、訂正明細書の特許請求の範囲請求項3に記載された以下のとおりのものである。 「(3)楽音発生装置にて楽音形成のために利用される楽音制御用パラメータを該楽音発生装置に供給する楽音制御用パラメータ発生装置において、 楽音に付与される効果を制御するための一つの効果制御操作子と、 前記一つの効果制御操作子の操作状態から前記楽音制御用パラメータの一部を構成する効果制御パラメータへの変換特性を決定するための制御データをそれぞれ記憶する複数のマッビングファンクションテーブルと、 前記複数のマッピングファンクションテーブルのうちの一つをそれぞれ指定するテーブル番号データであって前記一つの効果制御操作子に対して複数のテーブル番号データを記憶可能なテーブル番号データ記憶手段と、 前記テーブル番号データ記憶手段内に所望のテーブル番号データを前記効果制御パラメータの種類に対応させて書き込むテーブル番号データ設定手段と、 前記一つの効果制御操作子の操作に応答して、前記テーブル番号データ記憶手段内に前記一つの効果制御操作子に対して記憶されている全てのテーブル番号データを読み出し、同読み出したテーブル番号データにより指定されるマッピングファンクションテーブル内に記憶されている制御データを読み出し、かつ前記読み出した制御データにより決定される変換特性にしたがって前記一つの効果制御操作子の操作状態を効果制御パラメータに変換して前記楽音発生装置に供給する効果制御パラメータ供給手段と を備えたことを特徴とする楽音制御用パラメータ発生装置。」 (3)甲各号証刊行物の記載 いずれも、前記したとおりである。 (4)判断 本件訂正後の請求項1及び請求項2に係る発明が前記各刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともすることができないことは前記したとおりである。 [請求項3に係る発明について] 申立人大町由美子の主張の概要は、請求項3に係る発明は、甲第4号証及び甲第5号証の各刊行物記載のものに基づいて、又は、甲第1号証〜甲第5号証記載のものに基づいて当業者が容易に発明し得たというものである。 甲第3、4号証(前記刊行物4,5)は、いずれも、製品名SQ-80なるシンセサイザーに関するものである。 本件請求項3に係る発明のマッピングファンクションテーブル(以下、MFTという)が、一つの効果制御操作子の操作状態から効果制御パラメータへの変換特性を決定するための制御データを記憶するものであって、複数あるとされているので、前記製品SQ-80における効果制御操作子の操作状態と効果制御パラメータとの変換特性関係について検討する。 刊行物5に記載の特性VEL及びVEL-Xが、一応変換特性に相当していると認められる。 しかしながら、両特性は、押鍵強度に対応して効果を制御しようとするものではあるが、鍵盤上の鍵自体は、もともと複数あるものであって、押鍵された鍵に対応した音高の楽音を押鍵強度に応じた音量で発音するものであり、しかも、両特性を各別の効果制御パラメータのための変換特性として、一つの鍵に割り当てるものでもなく、鍵自体は、本件請求項3に係る発明の複数の効果制御パラメータをその操作状態に応じて変換出力するための一つの効果制御操作子とは異なるものである。 又、効果制御操作子に対応すると考えられるモジュレーションホイールには、一つのモジュレータが割り付けられるとされている(ペダルについても、同様の記載がある。)。 更に、刊行物4、5には、一つの効果制御操作子に対して、その操作状態を効果制御パラメータへ変換する変換特性決定のための制御データを記憶する複数のMFTについての記載及びこれを示唆する記載は、いずれにも見いだせない。 そして、本件請求項3に係る発明が有するMFT、更には、テーブル番号データ記憶手段、テーブル番号データ設定手段、効果制御パラメータ供給手段についての記載は、他の刊行物のいずれにも、見いだせない。 結局、本件請求項3に係る発明は、前記刊行物記載の発明のいかなる組み合わせによっても容易に発明し得たということはできない。 又、他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2000-02-02 |
出願番号 | 特願昭63-4363 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YA
(G10H)
P 1 651・ 113- YA (G10H) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 橋本 武、板橋 通孝、河口 雅英 |
特許庁審判長 |
高瀬 博明 |
特許庁審判官 |
江頭 信彦 藤井 浩 |
登録日 | 1997-09-19 |
登録番号 | 特許第2696868号(P2696868) |
権利者 | ヤマハ株式会社 |
発明の名称 | 楽音制御用パラメータ発生装置 |
代理人 | 大庭 咲夫 |