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審決分類 審判 審判種別コード:65 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  C08F
審判 審判種別コード:65 1項3号刊行物記載  C08F
審判 審判種別コード:65 2項進歩性  C08F
管理番号 1012581
異議申立番号 異議1999-71445  
総通号数 10 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1992-08-04 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-04-21 
確定日 2000-03-22 
異議申立件数
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結論 訂正を認める。特許第2812565号の特許請求の範囲第1項、第3項および第4項に記載された発明についての特許を維持する。 
理由 〔1〕手続の経緯
本件特許第2812565号の発明は、平成3年(1991)3月11日(優先主張 平2.5.14 日本)に特許出願され、平成10年8月7日にその特許の設定登録がなされたものである。
その後、菊地信より特許異議の申立がなされ、当審において、平成11年8月5日付け取消理由が通知され、その指定期間内である平成11年11月8日付けで訂正請求がなされたものである。
〔2〕訂正の適否についての判断
1.訂正事項は次のとおりである。
(1)訂正事項a
「【請求項1】 エチレンから導かれる構成単位(a)および炭素数3〜20のα-オレフィンから導かれる構成単位(b)からなるエチレン系共重合体であって、エチレンから導かれる構成単位(a)を55〜99重量%、炭素数が3〜20のα-オレフィンから導かれる構成単位(b)を1〜45重量%の割合で含有し、
(A)前記エチレン系共重合体の密度(d)が0.86〜0.95g/cm3 であり、
(B)190℃における2.16kg荷重でのMFRが0.001〜50g/10分の範囲にあり、
(C)溶融張力(MT)とMFRとが
log MT>-0.66log MFR+0.6
で示される関係を満たし、
(D)示差走査型熱量計(DSC)により測定した吸熱曲線における最大ピーク位置の温度(T)と密度(d)とが
T<500d-344
で示される関係を満たし、
23℃におけるn-デカン可溶成分量分率(W)と密度(d)とが
logW<-50d+46.5
で示される関係を満たすことを特徴とするエチレン系共重合体。
(2)訂正事項b
明細書の段落【0008】中の、
「で示される関係を満たすことを特徴としている。本発明に係るエチレン系共重合体は、さらに23℃におけるn-デカン可溶成分量分率(W)と密度(d)とがlogW<-50d+46.5で示される関係を満たすことが好ましい。」を、
「で示される関係を満たし、23℃におけるn-デカン可溶成分量分率(W)と密度(d)とがlogW<-50d+46.5で示される関係を満たすことを特徴としている。」と訂正する。
(3)訂正事項c
「【請求項2】 エチレンから導かれる構成単位(a)および炭素数3〜20のα-オレフィンから導かれる構成単位(b)からなるエチレン系共重合体であって、エチレンから導かれる構成単位(a)を55〜99重量%、炭素数が3〜20のα-オレフィンから導かれる構成単位(b)を1〜45重量%の割合で含有し、
(A)前記エチレン系共重合体の密度(d)が0.87〜0.94g/cm3であり、
(B)190℃における2.16kg荷重でのMFRが0.001〜50g/10分の範囲にあり、
(C)溶融張力(MT)とMFRとが
log MT>-0.66log MFR+0.6
で示される関係を満たし、
(D)示差走査型熱量計(DSC)により測定した吸熱曲線における最大ピーク位置の温度(T)と密度(d)とが
T<500d-344
で示される関係を満たし、
23℃におけるn-デカン可溶成分量分率(W)と密度(d)とが
logW<-50d+46.5
で示される関係を満たすことを特徴とするエチレン系共重合体。」
2.訂正の適否の判断
訂正は、願書に最初に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものである。
そして、(1)訂正事項a、(3)訂正事項cは特許請求の範囲の減縮を目的としたものである、
また(2)訂正事項bは、特許請求の範囲の減縮に伴う明瞭でない記載の釈明を目的としている。
以上の訂正は、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
3.独立特許要件の判断
訂正明細書の請求項1乃至請求項4に係る発明は、下記「〔3〕特許異議の申立てについての判断」の項で詳細に指摘するとおりの理由で、本件各請求項に係る発明は、甲第1号証乃至甲第3号証に対応する刊行物1乃至刊行物3に記載された発明ではないばかりか、刊行物1乃至刊行物3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することが出来たものとはいえない。
また、本件特許明細書の記載に不備がない。
以上のとおりであるから、本件発明は特許出願の際に独立して特許を受けることができる発明であるといえる。
(むすび)
したがって、上記訂正請求は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項で準用する第126条第2〜4項の規定に適合するので、当該訂正を適法なものとして認める。
〔3〕特許異議申立についての判断
1.本件発明
特許異議申立ての対象である本件訂正前の特許明細書の特許請求の範囲の請求項1乃至請求項4に係る発明は、上記訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1乃至請求項4に記載された事項により特定される次のとおりの発明となっている。
「【請求項1】 エチレンから導かれる構成単位(a)および炭素数3〜20のα-オレフィンから導かれる構成単位(b)からなるエチレン系共重合体であって、エチレンから導かれる構成単位(a)を55〜99重量%、炭素数が3〜20のα-オレフィンから導かれる構成単位(b)を1〜45重量%の割合で含有し、
(A)前記エチレン系共重合体の密度(d)が0.86〜0.95g/cm3であり、
(B)190℃における2.16kg荷重でのMFRが0.001〜50g/10分の範囲にあり、
(C)溶融張力(MT)とMFRとが
log MT>-0.66log MFR+0.6
で示される関係を満たし、
(D)示差走査型熱量計(DSC)により測定した吸熱曲線における最大ピーク位置の温度(T)と密度(d)とが
T<500d-344
で示される関係を満たし、
23℃におけるn-デカン可溶成分量分率(W)と密度(d)とが
logW<-50d+46.5
で示される関係を満たすことを特徴とするエチレン系共重合体。」
【請求項2】;掲載省略
【請求項3】
(i)アニオン化されたインデ二ル基またはその置換体から選ばれた2個の基が低級アルキレン基を介して結合した二座配位化合物と周期律表IVb族の遷移金属化合物のハロゲン化物との反応により得られる触媒成分、
(ii)有機アルミニウムオキシ化合物、
(iii)有機アルミニウム化合物、
(iv)担体、
から形成される触媒の存在下に、エチレンと炭素数3〜20のα-オレフィンとを共重合させて得られる請求項1または2に記載のエチレン系共重合体。
【請求項4】
(i)アニオン化されたインデニル基またはその置換体から選ばれた2個の基が低級アルキレン基を介して結合した二座配位化合物と周期律表IVb族の遷移金属化合物のハロゲン化物との反応により得られる触媒成分、
(ii)有機アルミニウムオキシ化合物、
(iii)有機アルミニウム化合物、
(iV)担体、
から形成される触媒成分にオレフィンを予備重合することによって形成される触媒の存在下に、エチレンと炭素数3〜20のα-オレフィンとを共重合させて得られる請求項1または2に記載のエチレン系共重合体。」
2.特許異議申立理由の概要
2.1.申立人菊池信は、証拠として甲第1号証乃至甲第4号証を提出し、
(1)本件訂正前の請求項1、3、4に係る発明は、甲第1号証乃至甲第2号証刊行物に記載された発明であるから、本件各発明の特許は特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものであること、
(2)本件訂正前の請求項1、3、4に係る発明は、甲第1乃至甲第3号証刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、本件各発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであること、および
(3)本件特許明細書の記載が、甲第4号証を参酌すれば、その記載に不備があるから、本件特許は特許法第36条第4項および第5項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから、
本件特許を取り消すべきである旨主張する。
2.2.甲号各証の記載事項
(1)甲第1号証(特開平1-292009号公報)には、
「・・エチレンの単独またはエチレンとα‐オレフィンとを共重合させることを特徴とするエチレン系重合体の製造方法。」(特許請求の範囲)、
「エチレンと共重合する場合に使われるα-オレフィンとしては、・・プロピレン、ブテン-1、ヘキセン-1・・・があげられる。得られるエチレン系共重合体中に占める上記のα-オレフィンの割合は一般には20モル%以下が好ましく、特に15モル%以下が好適である。」(第4頁左上欄第16行〜同右上欄第4行)、
「実施例13
「エチレンとブテン-1との共重合」
・・この重合体はMI=0.58g/10min、・・・密度=0.928g/ccであり、溶融張力は15g、・・であつた。」(第5頁左下欄第8行〜同右下欄第4行)、
「実施例14
・・・「エチレンとブテン-1との共重合」・・・その結果、235gの重合体が得られ、MI=2.3g/10min、・・・密度=0.939g/ccであつた。又、溶融張力は5g・・・であつた。」(第5頁右下欄第5行〜第6頁左上欄第5行)、
と記載されている。
(2)甲第2号証(特開昭63-304006号公報)には、
「チーグラー型触媒の存在下にエチレンまたはエチレンとα-オレフィンを重合させるポリエチレンの製造方法において、・・・ポリエチレンの製造方法。」(特許請求の範囲)、
「共重合に用いるα-オレフィンとしては、プロピレン、1‐ブテン、1-ペンテン、・・・などが挙げられる。」(公報第5頁右上欄第20行〜同左下欄第3行)、
「実施例10
・・・エチレンと1-ブテンの共重合によりポリエチレンを製造した。・・・その結果、MIが1.5g/10分、・・・密度が0.932g/cm3 のポリエチレン140gが得られた。このポリエチレンの溶融張力が4.2g、・・であつた。」(第7頁左上欄第5行〜同右上欄第3行)、
と記載されている。
(3)甲第3号証(「有機合成化学」第39巻、第6号、第554〜560頁(1981)には、
一般的なLLDPEの密度と融点の関係が記載されている(557頁Fig.5;図省略)。これによると、α-オレフィンの種類により密度と融点の関係が決まることが示されている。
Fig.5によるとエチレンとブテン-1との共重合体は密度が0.92〜0.94 g/cm3 では融点が殆ど変らず、ほぼ119〜120℃程度を示している。
(4)甲第4号証(「図面」)は、
吸熱曲線における最大ピーク位置の温度(T)と密度(d)の関係式をグラフ化したものである。
3.対比・判断
本件特許異議申立の対象となっている訂正前の特許明細書に記載の請求項1,3および4に係る発明は、上記訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1,3および4に記載された事項により特定されるとおりのものとなっている。
〔理由1〕〈新規性についての検討〉
本件請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)と上記甲号各証記載の発明とを対比するに、本件発明は「エチレンから導かれる構成単位(a)および炭素数3〜20のα-オレフィンから導かれる構成単位(b)からなるエチレン系共重合体」に係る発明であるのに対して、甲第1記載の発明は、エチレン系共重合体の製造方法によって製造されるエチレン系共重合体とは、エチレンと炭素数が少なくとも20個程度のα-オレフィンからなるエチレン系共重合体であるから、両者はエチレン系共重合体という高分子物質である点で一致する。
さらに、両発明のエチレン系共重合体の物性を子細に対比するに、本件発明は、密度(d)を0.86〜0.95g/cm3と限定しているのに対して、甲第1号証記載のそれは、特に実施例13に、0.928g/cm3、実施例14に0.939g/cm3という記載にみるとおり、両者は同じ程度の密度であるから、密度の点で一致する。
次に、本件発明は、(B)190℃における2.16kg荷重でのMFRが0.001〜50g/10分と限定しているのに対して、甲第1号証記載のそれは、MRFと同じ意味に解されるMIは、0.58g/10min、2.3g/10minと記載されているから、両者はMIの点でも一致する。
本件発明は、(C)溶融張力(MT)とMFRとが
log MT>-0.66log MFR+0.6
で示される関係を満たすように限定しているが、甲第1号証記載のそれは、特に実施例13のMIが0.58g/10min、溶融張力(MT)が15g、実施例14のMIが2.3g/10min、MTが5gであり、それぞれ代入して算定すると、
実施例13;Log15=1.17 >0.75
実施例14;Log5 =0.69 >0.36
となり、甲第1号証のエチレン系共重合体もその条件を満たしており、この点でも両者は一致する。
同様に、本件発明と甲第2号証に記載の発明とを対比するに、上記甲第1号証との対比で指摘したことと全く同じ趣旨のことがいえる。
また、本件発明は(D)示差走査型熱量計(DSC)により測定した吸熱曲線における最大ピーク位置の温度(T)と密度(d)とが
T<500d-344
で示される関係を満たすと限定をしているのに対して、甲第1号証および甲第2号証には、エチレン系共重合体のその関係を明示する記載はない。
ところが、甲第3号証の特にFig5には、密度と結晶融点の関係を特にエチレンとブテンー1の共重合体についても開示されており、本件発明のエチレン系共重合体の密度では、融点がほぼ「119〜120℃」程度であることが容易に推察できる。
その甲第3号証を参酌して、甲第1号証および甲第2号証記載のエチレン系共重合体に、密度を0.928、0.939g/cm3、融点を119℃とし設定し、それに基づいて算定するなら、「120〜125℃」程度の範囲になり、殆どが本件発明の条件を満たすことになり、両者のエチレン系共重合体の本質的な違いを示す物性限定ではないといえる。
しかしながら、本件発明は、エチレン系共重合体が、23℃におけるn-デカン可溶成分量分率(W)と密度(d)とが
logW<-50d+46.5
で示される関係を満たす(以下、「(E)狭い組成分布」という。)のに対して、同甲号各証にはそれを明示する記載がない点で相違する。
この本件発明のエチレン系共重合体の(E)狭い組成分布は、同甲号各証記載のそれとは本質的な違いを形成する技術要件であるといえる。
そして、参考までに、平成11年11月8日付け特許異議意見書に添付された参考資料1(「実験報告書」)を参酌しても、甲第1号証および甲第2号証のエチレン系共重合体はその条件を満たさないことが証明されている。
してみれば、本件発明は、甲第3号証に記載のエチレン系共重合体に係る物性を参酌しても、甲第1号証または甲第2号証2に記載された発明ではない。
次に、本件請求項3および請求項4に係る発明は、特に触媒成分を具体化したプロセス限定のエチレン系共重合体に係るものであるが、請求項1に係る本件発明が、上記のとおり甲第1号証または甲第2号証に記載された発明でないことからすると、同じ理由で同甲号各証に記載された発明ではないといえる。
したがって、本件請求項1、3および4に係る発明の特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものではない。
〔理由2〕〈進歩性についての検討〉
本件発明は、組成分布が狭く、かつ溶融張力に優れたエチレン系共重合体を提供することを目的としている。
本件発明のエチレン系共重合体と甲第1号証および甲第2号証記載のエチレン系共重合体とは、上記〈理由1〉の項で指摘したとおり、本件発明は、(E)狭い組成分布を限定しているのに対して、同甲号各証にはそれを明示する記載がない点で相違しており、その余の点では一致している。
そして、同甲号各証は、本件発明の(E)狭い組成分布を指標とする、可溶成分量分立(W)、密度(d)の関係を如何なる範囲に設定するかという技術事項を何ら示唆するものではない。
してみれば、本件発明の組成分布がが狭く、溶融張力を有する特に(E)狭い組成分布を限定したエチレン系共重合体を想到することは、同甲号各証記載の発明に基づいて当業者が容易に為し得ることではない。
次に、本件請求項3および請求項4に係る発明は、特定の触媒系を限定したエチレン系共重合体に係わり、請求項1に係る本件発明が、上記のとおり同甲号各証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができないことからすると、同じ理由で同甲号各証に記載された発明に基づいて容易に発明することができたものとはいえない。 したがって、本件請求項1、3および4に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではない。
〔理由3〕〈明細書の記載について〉
特許異議申立人は、甲第4号証を提出し、本件明細書の特にエチレン系共重合体の記載には不備があることを指摘している。
しかしながら、本件明細書の特にエチレン系共重合体の記載は、本件明細書の特に段落【0020】に記載に見る、DSCにより測定した吸熱曲線における最大ピーク位置の温度(T)と密度(d)との関係、およびn-デカン可溶成分量(W)と密度(d)との関係を限定することにより既に明瞭となっている。
したがって、本件特許は、特許法第36条第4項および第5項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものではない。
4.むすび
したがって、特許異議申立人の主張および証拠によっては、本件発明の特許を取り消すことができない。
また、他に本件発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2000-02-01 
出願番号 特願平3-45020
審決分類 P 1 65・ 534- YA (C08F)
P 1 65・ 121- YA (C08F)
P 1 65・ 113- YA (C08F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 杉原 進藤本 保  
特許庁審判長 三浦 均
特許庁審判官 谷口 浩行
柿沢 紀世雄
登録日 1998-08-07 
登録番号 特許第2812565号(P2812565)
権利者 三井化学株式会社
発明の名称 エチレン系共重合体  
代理人 牧村 浩次  
代理人 鈴木 俊一郎  

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