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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  F01L
管理番号 1012628
異議申立番号 異議1999-72404  
総通号数 10 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1997-08-19 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-06-18 
確定日 2000-03-13 
異議申立件数
事件の表示 特許第2852026号「カム軸の製造方法とカム軸」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2852026号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 【1】 本件発明
本件特許第2852026号の出願は、昭和63年5月20日に出願された特願昭63-124831号[1987年5月22日パリ条約による優先権主張、ドイツ国]の一部を特許法第44条第1項の規定により平成8年11月19日に分割して新たな特許出願(特願平8-308237号)としたものであって、その特許請求の範囲の請求項1〜4にかかる発明に対し、平成10年11月13日にその特許権の設定がなされたものである。
そして、本件特許の請求項1〜4に係る発明(以下、それぞれ、「本件発明1」〜「本件発明4」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された次のとおりのものと認める。
「【請求項1】 下記の3工程、すなわち/ 第1工程;直径Dの軸(1)のカム取付領域(C)を転造してもとの直径Dよりも膨出した直径D′を有する膨出部を形成する。/ 第2工程;下記に記述する寸法の内壁(4)を持つカム(2)を準備する。すなわち内壁(4)の径は周方向に一様でなく、最大径D″と最小径Aを有し、最小径Aは前記の軸(1)の直径Dよりも大きく、前記の膨出した直径D′よりも小さい。/ 第3工程;カム(2)を軸(1)のカム取付領域(C)以外の領域を抵抗なく通過させ、次に膨出した直径D′を有する領域(C)に圧入して最小径Aを形成するカムの内壁と膨出部の間に遊びなく密着する形状を形成してカム(2)を軸(1)のカム取付領域(C)に固定する。/ という3工程によってカム軸を製造する方法。
【請求項2】 請求項1に記載の方法において、前記内壁(4)の最小径Aは周状の内壁から内側へ突出する複数の突出部(5)の先端面間に形成され、その複数の突出部(5)は等角度をなすように配置されていることを特徴とする請求項1に記載のカム軸の製造方法。
【請求項3】 直径Dの軸(1)のカム取付領域(C)が転造されてもとの直径Dよりも膨出した直径D′を有する膨出部が形成されており、/ カム(2)の軸(1)の取付用の内壁(4)に、前記軸(1)の直径Dよりも大きく、前記の膨出した直径D′よりも小さい最小径Aが形成されており、/ 前記カム(2)が前記軸(1)のカム取付領域(C)に圧入されて、最小径Aを形成するカムの内壁(4)と膨出部の間に遊びなく密着する形状が形成されて固定されていることを特徴とするカム軸。
【請求項4】 請求項3に記載のカム軸において、前記内壁(4)の最小径Aは周状の内壁から内側へ突出する複数の突出部(5)の先端面間に形成され、その複数の突出部(5)は等角度をなすように配置されていることを特徴とする請求項3に記載のカム軸。」

【2】 特許異議申立の概要
異議申立人日本ピストンリング株式会社(以下、「申立人A」という。)は、証拠として、甲第1号証(特開昭63-297707号公報)、甲第2号証(特開平7-189611号公報)を提出し、『補正後の請求項1、2、3、4に記載の発明は、カムを軸に圧入したときに、カムの最小内径を形成する内壁(突出部)が軸の膨出領域を切削して溝を創造しない方法及びカム軸を含むことになったが、これらは、補正前明細書には全く開示されていなかった。また、この切削を伴わない方法及びカム軸は、「切り粉」を全く発生しないから切り粉の除去作業が不要であるが、切削を伴う方法及びカム軸には、カムの固定後に切り粉の除去作業が必要になる等の製造工程上の極めて重要な欠陥が存在し、切削を伴わない固定方法及びカム軸との間に明らかに大きな有意差がある。そうであるとすれば、当該補正は、補正前明細書の記載からみて当業者にとって自明ではない事項を含むものであるから、旧特許法第41条の規定により要旨変更とみなされ、旧特許法第40条の規定により、本件特許発明についての出願は、手続補正書提出日である平成8年11月19日(以下、「繰り下げ出願日」という。)にされたとみなさなければならない。』とし、したがって、本件発明1〜4は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである旨主張している。
また、異議申立人有限会社神奈川フィールドサービス(以下、「申立人B」という。)は、証拠として、甲第1号証(特公昭58-25723号公報)、甲第2号証(特開昭59-206605号公報)、甲第3号証(特公昭58-54901号公報)、及び甲第4号証(特開昭58-81208号公報)を提出し、本件発明1〜4は、甲第1号証乃至甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである旨主張している。

【3】 申立人Bの提出した甲各号証記載の発明
申立人Bの提出した甲第1号証には、その第2頁第3欄第9〜16行に、「こゝで、パイプ1の外径φXとジャーナルピース3(第3図)の内径φYの関係は完全なスキマバメである。突起A、A’、A”の頂点を結ぶ径φZとジャーナルピース内径φYの関係はシマリバメとなる様に突起A、A’、A”を形成する。即ち、突起A、A’、A”はパイプ外径φXジャーナルとピース内径φYとの差(スキマ)より大きい突出量でもってパイプ外周面から突出している。」と記載されている。また、その第2頁第3欄第2〜22行には、「パイプ1のジャーナルピース3が組付けられる部分において、パイプ1の外周表面上に複数の突起A、A’、A”を形成する。」(同第2〜4行)、「その状態でジャーナルピース3のパイプ1に対する軸方向の位置及び回転方向の位相を相対的に位置決めしながら、このジャーナルピース3をパイプ1に圧入すれば、突起A、A’、A”とジャーナルピース3の内径φYが相互に圧迫され、ジャーナルピース3はパイプ1に固着し、」(同第16〜22行)と記載されている。また、その第2頁第4欄第9〜14行には、「第15図においては、パイプ1を軸受15、16にて回転可能に支持し、所定間隔おきに突出刃を有する部材14をパイプ1の外周に押し付け、突出刃周囲のパイプ外壁部分を盛り上がらせて各突起を形成するようにしたものである。」と記載されている。
また、同申立人の提出した甲第2号証には、その第2頁右下欄第3〜6行には、「第2図に示されるように、吸気カム4はこれの孔内に凹部のスプライン3を備える。これらスプライン3は等間隔に分配し、そしてカムの対称軸に関して対称的に設けられる。」と記載されている。また、その第2頁右下欄第15〜18行に、「カムの長手方向位置の固定は、好適には高温で重合化する接着剤による接着によって行われる。軸とカムとの相互に嵌合するスプラインの間には必ず多少の遊隙が存在する」と記載されている。
また、同申立人の提出した甲第3号証には、その第2頁第4欄第25〜28行に、「まず第1図に示すようにカムピース1の内径面の1ヶ所または2ヶ所軸方向に第2図(第1図A部の拡大断面図)のaに示すようなV形突起2もしくは半円形突起3を設ける。」と記載されている。さらに、当該カムピースの作用乃至効果として、第3頁第6欄第7〜13行には、「カム軸に位相の数だけの溝を設けカムピースの突起と嵌合させることにより、各溝は個々のピース専用の溝として使用されるので、カム軸に確実に固着し、しかも該嵌合部のみの部分圧入であるため、組付けに要する圧入強度が低荷重ですみ、ピースの圧入割れや、多数個圧入による軸ぼそり等の問題もなくなった。」と記載されている。
また、同申立人の提出した甲第4号証には、第1頁右下欄第19行〜第2頁左上欄第10行に、第2図の説明として、「工具4a、4bを回転させると、その円周面の歯6a、6bが軸2を挟圧しながら回転させるため、軸2に先ずローレット部3aが刻設される。次にローラー1aを軸2に嵌合し、ローレット部3aにエアシリンダ等の力で圧入する。その際ローレット部3b、3cは未だ加工されていないので、ローラー1aがそれらの位置を通過することに何ら支障を生じない。このようにして、ローラー1aが軸2に固定されたならば、軸2を移動させて、ローラー1bの固定位置に前記と同様にしてローレット部3bを設け、以下、同様の作業を繰返す。」と記載されている。

【4】対比・判断
そこで、 まず、申立人Aが主張する本件発明における上記「要旨変更」について、検討する。
異議申立人が主張するように、本件特許請求の範囲の請求項1には「膨出した直径D’を有する領域(C)に圧入して最小径Aを形成するカムの内壁と膨出部の間に遊びなく密着する形状を形成してカム(2)を軸(1)のカム取付領域(C)に固定する」(以下、「構成A」という。)との記載があり、また、請求項3には「前記カム(2)が前記軸(1)のカム取付領域(C)に圧入されて、最小径Aを形成するカムの内壁(4)と膨出部の間に遊びなく密着する形状が形成されて固定されている」(以下、「構成B」という。)との記載もあり、したがって、これら請求項1、3に記載される「圧入」は、最小径Aを形成するカムの内壁(以下、「突出部」という。)により、カム軸の膨出部に溝を切削形成することなく、カムをカム軸に固定させる「圧入」も含むような構成となっている。
しかし、カムの「突出部」によりカム軸の膨出部に溝を切削形成しつつカムをカム軸に固定させる圧入は、カムの「突出部」先端径部分とカム軸の膨出部との間に遊びなく密着する形状を形成してカム2を軸1のカム取付領域Cに固定する「圧入」そのものであることは、当業者にとって自明に等しい事項であるから、上記「構成A」及び「構成B」は、本件発明の実施例であるところの、カムの「突出部」によりカム軸の膨出部に溝を切削形成しつつ、カムをカム軸に固定させる「圧入」を、その上位概念による記載であらわした構成である、と解される。
しかも、本件の特許明細書に、カムの「突出部」先端部分によりカム軸の膨出部に溝を切削形成することなく、カムをカム軸の膨出部に圧入固定するという出願当初の明細書又は図面に記載した事項の範囲内でない「発明の構成に関する技術的事項」が、追加されて記載された訳でもない。
したがって、上記「構成A」を特許請求の範囲の請求項1に含ませると共に、上記「構成B」を特許請求の範囲の請求項3に含ませた補正により、本件特許の「発明の構成に関する技術的事項」が、出願当初の明細書又は図面に記載した事項の範囲内でないものとなった、ということはできない。
よって、上記「構成A」及び「構成B」の各構成を特許請求の範囲の請求項1及び3に含ませた補正を要旨変更とすることはできないから、本件発明1〜4についての出願日は、異議申立人の主張する上記「繰り下げ出願日」(平成8年11月19日)ではなく、原出願の出願日である昭和63年5月20日であり、それゆえ、申立人Aが提出した甲第1号証(特開昭63-297707号公報)、甲第2号証(特開平7-189611号公報)の両刊行物は、本件発明1〜4に係る特許の出願日よりも後に頒布された刊行物であるものと認められる。
したがって、本件発明1〜4は、申立人Aの提出した甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明から容易に発明をすることができたものとすることはできない。
次に、本件発明1〜4と申立人Bの提出した前記甲各号証に記載された発明とを対比すると、甲第1、4号証に記載されたカムは、上記「突出部」をもたないものであり、甲第2号証に記載されたカムは、カムの内壁に形成された溝により、カム軸に形成したスプラインの突起に遊嵌するものにすぎず、カムの突起部がカム軸の膨出部に圧入されるものではなく、さらに、甲第3号証に記載されたカムの突起部は、カム軸に形成された溝に圧入されるものであって、カム軸の膨出部に圧入されるものではないから、甲第1号証乃至甲第4号証に記載された発明は、いずれも、本件発明1、2の構成に欠くことができない事項である「下記に記述する寸法の内壁(4)を持つカム(2)を準備する。すなわち内壁(4)の径は周方向に一様でなく、最大径D″と最小径Aを有し、最小径Aは前記の軸(1)の直径Dよりも大きく、前記の膨出した直径D′よりも小さい」点且つ「膨出した直径D′を有する領域(C)に圧入して最小径Aを形成するカムの内壁と膨出部の間に遊びなく密着する形状を形成してカム(2)を軸(1)のカム取付領域(C)に固定する」点、及び、本件発明3、4の構成に欠くことができない事項である「カム(2)の軸(1)の取付用の内壁(4)に、前記軸(1)の直径Dよりも大きく、前記の膨出した直径D′よりも小さい最小径Aが形成されており、前記カム(2)が前記軸(1)のカム取付領域(C)に圧入されて、最小径Aを形成するカムの内壁(4)と膨出部の間に遊びなく密着する形状が形成されて固定されている」点を備えていない。
そして、本件発明1、2及び本件発明3、4は、それぞれこれらの点により明細書に記載の「・高い抗空転性を有する。/・カムへの負荷が少なく、焼結形成されたカムでも安全確実に取付けを行なえかつ耐久性に優れる。/・各組立部品を低コストで製造できる。/・組立コストが安価で済む。」(特許公報第4頁第7欄第30〜34行)という効果を奏するものである。
したがって、本件発明1〜4は、申立人Bの提出した甲第1号証乃至甲第4号証に記載された発明から容易に発明をすることができたものとすることはできない。

【5】むすび
以上のとおりであるから、異議申立人日本ピストンリング株式会社及び異議申立人有限会社神奈川フィールドサービスの主張するそれぞれの理由及び証拠方法によって、本件請求項1〜4に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1〜4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2000-01-27 
出願番号 特願平8-308237
審決分類 P 1 651・ 121- Y (F01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 高木 進土井 俊一  
特許庁審判長 西野 健二
特許庁審判官 清田 栄章
林 晴男
登録日 1998-11-13 
登録番号 特許第2852026号(P2852026)
権利者 エタブリスメント・スーパーヴィス
発明の名称 カム軸の製造方法とカム軸  
代理人 川上 肇  
代理人 小玉 秀男  
代理人 岡田 英彦  

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