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審決分類 審判 判定 判示事項別分類コード:なし 属さない(申立て不成立) G09F
管理番号 1012659
判定請求番号 判定2000-60033  
総通号数 10 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 1994-07-08 
種別 判定 
判定請求日 2000-03-13 
確定日 2000-07-10 
事件の表示 上記当事者間の平成2000年判定第60032号及び平成2000年判定第60033号(特許第2048688号の判定請求事件)について、審理を併合の上、次のとおり判定する。 
結論 平成2000年判定第60032号及び平成2000年判定第60033号における各イ号物件「物品係止材料」は、いずれも、特許第2048688号の技術的範囲に属しない。 
理由 〔1〕請求の趣旨・手続の経緯
本件平成2000年判定第60032号(以下「判定請求1」という。)及び平成2000年判定第60033号(以下「判定請求2」という。)の各請求の趣旨は、請求人が宣伝販売活動を行っている各イ号物件に係る「物品係止材料」が、特許第2048688号(以下「本件特許」という。)の技術的範囲に属しない、との判定を求めたものであり、本件特許及び本件判定請求に係る手続の経緯の概要は、以下のとおりである。
(1)本件特許の出願日:平成4年12月17日
(2)出願公告日:平成7年9月6日
(3)特許権の設定の登録:平成8年4月25日
(4)判定請求1:平成12年3月9日判定請求書差出
(5)判定請求2:平成12年3月13日判定請求書差出
(6)物件提出書(請求人・判定請求1及び2):平成12年5月23日付け
(7)答弁書(被請求人・判定請求1及び2):平成12年5月31日付け
(8)手続補正書(被請求人・判定請求1及び2):平成12年6月1日付け
(9)口頭審理:平成12年6月13日
なお、平成12年6月13日期日の口頭審理において、請求人は、各平成12年5月23日付け物件提出書に添付した「イ号物件」が本件判定請求に係る各イ号物件であって、各判定請求書に添付された「イ号図面とイ号物件の説明書」は、本件イ号物件の参考説明書・図面である旨陳述した。

〔2〕本件特許に係る考案
本件特許に係る発明(以下「本件発明」という。)は、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載された
「連結胴部材と、前記連結胴部材から一方向に伸び出ているフック状第1係止部材と、前記連結胴部材から、反対方向に直線状に伸び出でいる紐状第2係止部材とを有し、前記連結胴部材、並びに第1および第2係止部材が可撓性合成樹脂により一体成形されており、前記紐状第2係止部材の先端部分には、スカート状突起を有する挿入頭部が形成されており、前記連結胴部材には、第2係止部材挿入頭部の挿入を許す嵌合孔が、前記第2係止部材の伸び出し方向に平行に設けられていて、この嵌合孔内には、前記第2係止部材挿入頭部のスカート状突起と係止して、これを引き抜き不能に係止する係合顎が形成されている、物品係止材料。」にある。

〔3〕当事者の主張
1.請求人の主張
請求人は、本件発明を、下記(1)の如く1)〜5)の構成要件に分説し、一方、判定請求1に係るイ号物件を下記(2)の如く1)'〜5)'の構成要件に分説して両者を対比し、下記(3)の理由により、イ号物件は本件発明の技術範囲に属する旨主張する。

(1)本件発明
1) 連結胴部材と、前記連結胴部材から一方向に伸び出ているフック状第1係止部材と、前記連結胴部材から、反対方向に直線状に伸び出でいる紐状第2係止部材とを有し、
2) 前記連結胴部材、並びに第1および第2係止部材が可撓性合成樹脂により一体成形されており、
3) 前記紐状第2係止部材の先端部分には、スカート状突起を有する挿入頭部が形成されており、
4) 前記連結胴部材には、第2係止部材挿入頭部の挿入を許す嵌合孔が、前記第2係止部材の伸び出し方向に平行に設けられていて、この嵌合孔内には、前記第2係止部材挿入頭部のスカート状突起と係止して、これを引き抜き不能に係止する係合顎が形成されている、
5) 物品係止材料。

(2)イ号製品
1)' 連結胴部材2と前記連結胴部材2から一方向に伸び出ているフック状第1係止部材3と、前記連結胴部材2から反対方向に直線状に伸び出ている紐状第2係止部材4とを有し、
2)' 前記連結胴部材2、並びに第1および第2係止部材3,4が可撓性合成樹脂により一体形成されており、
3)' 前記紐状第2係止部材4の先端部分には、スカート状突起4cを有する挿入 頭部4bが形成されており、
4)' 前記連結胴部材2には、第2係止部材挿入頭部4bの挿入を許す嵌合孔2aが、前記第2係止部材2の伸び出し方向に『対して小角度を持って設 けられていて』、この嵌合孔2a内には、前記第2係止部材挿入頭部4b のスカート状突起4cと係止して、これを引き抜き不能に係止する係合顎 2bが形成されている、
5)' 物品係止材料。

(3)イ号物件本件発明の技術的範囲に属するとする請求人の理由(要旨)
「(6)イ号物件が本件特許発明の技術的範囲に属するとの説明
前記のように、分説番号1),2),3)及び5)の構成は、本件特許発明とイ号物件とは同一であることは明らかである。
分説番号4)(嵌合孔2aの開口方向)が、本件特許においては平行であるのに対してイ号物件は小角度で開口されている点が相違しているが、このような相違点は下記の如く、作用効果上何ら影響を与えるものではなく、単なる設計変更に過ぎないものである。
(1)相違部分が本件特許発明の本質的部分でないことの説明
前記本件特許発明の構成に基づく作用効果は、
a.連結胴部材2、フック状第1係止部材3、紐状第2係止部材4が可撓性合成樹脂による一体成形であること、
b.紐状第2係止部材4を連結胴部材2に係合させてループ状とする際に、表示札のような所望物品を吊下げることができること、
c.吊下げループはほゞ左右均等な形状となること、この紐状第2係止部材4が形成する吊下げループとフック第1係止部材3とは一線上に伸び、そしてこの吊下げループの形状が端整かつ強固なものとなる。
d.このように本件特許発明とイ号物件とは実質的に同一の構成を有し、しかも同一の作用効果を奏することができる。
従って、イ号物件の嵌合孔2aの開口方向が、第2係止部材4の伸び出し方向に平行ではなく、小角度を持っていても、このような微細な設計変更は実質的に同一な構成であり、作用効果に何ら影響を及ぼすものではない。
即ち、連結胴部材2の嵌合孔2aに、紐状第2係止部材4(テグス状のフイラメント)の挿入頭部4bを押込んでループを形成した場合は、嵌合孔2aの小角度の有無に関係なく、左右均等な形状のループとなる。
また、挿入頭部4bと嵌合孔2aとの間に間隙があることから、ループは左右均等な形状とならざるを得なく、特にループに支持させる物品が重い場合は尚更この傾向が強い。そのため吊下げループはほゞ左右均等な形状を有し、この吊下げループと第1係止部材とは一線上に伸びる。従って、連結胴部に不均等な荷重がかゝることがなく、かつ、このループに物品を係止した形状が端整かつ強固なものとなることも明らかである。
例えば、悪意に満ちた者が、本件特許発明の侵害を避けようとしてその構成要件の一部の設計変更を試みる場合は、「嵌合孔が、前記第2係止部材の伸び出し方向に平行に設けられていて」という要件について行う以外には方法がない。つまり、それ以外の要件については請求項に明確に記載されており、疑問の余地がないからである。
しかも、この要件は、【請求項1】と【0007】に「単に」記載されているのみで【0021】の【発明の効果】の項には何ら説明されていないことから判断しても、相違部分が本件特許発明の本質的部分でないことは明らかである。
(2)イ号物件のデザインについて、
本件特許発明の技術的範囲とは関係がないが、公報に添付された図面とイ号図面(及びイ号図面の2)とを対比すると理解できるように、本件特許発明のフック状第1係止部材3が「疑問符形」にデザインされているのに対して、イ号物件は「涙滴形」にデザインされている。
また、本件特許発明の連結胴部材2が側面視で「矩形」であるのに対してイ号物件においては「ハート形」にデザインされている。
一方、本件特許発明の発明者は、その出願日である平成4年12月以前より本件物品係止材料に関して多数のモデルを試作し、その成形性、フック状第1係止部材と紐状第2係止部材の強度、金型の製作上の問題、更に市場価格等の検討を行ない、出願後速やかにこれを商品化して販売したが、従来から使用されたことがないタイプの物品係止材料を、通常の販売ルートに乗せることは困難であった。
しかし、長年の本件物品係止材料の宣伝に努力した結果、最近になってようやく本件物品係止材料の販売が軌道に乗るようになった。
ところが、本件判定請求人の動向を監視していた件外株式会社サトーゴーセーは、イ号物件のように、本件判定請求人が製造販売している本件物品係止材料とはデザインを変えた設計変更を行ない、この度、本件判定被請求人を通じて本格的な販売に乗り出したのである。
(3)本件特許発明と公知技術との関係
本件特許発明は、紐状第2係止部材4(フイラメント部)とフック状第1係止部材3(フック部)とを連結胴部材2(本体)を介して一体化した、3部材を複合的に合成した新規な物品係止材料であって、例えば表示札等の孔にフイラメント部に通し、これをループ状にして本体と連結しておき、そしてこれを衣類やオーバーコート等の所望物品にフック部を引っ掛けて支持させるようにしものである。
そして本件特許発明に関連する公知技術については、公報第2欄に記載された特公昭50-9400号公報等や、審査段階に引用された特公昭56-16294号、特公昭57-8473号公報が存在しているが、これらの公知技術には、「3部材を一体化させて表示札を保持する機能と、物品へ表示札を取付ける機能とを持たせた物品係止部材」について開示ないし示唆されたものは抽出されていない。
このように、フック部と本体とフイラメント部の3者を結合させた物品係止材料は当技術分野においては草分け的なものであると判断できる。」(判定請求書第7頁第15行〜第10頁第1行)

(4)証拠方法
甲第1号証:特公平7-82294号(特許第2048688号)公報
甲第2号証:イ号図面とその説明書
甲第2号証の1:イ号物品のパンフレット
甲第3号証:平成11年11月29日付判定請求人の警告書
甲第4号証:平成12年1月28日付判定被請求人の回答書
甲第5号証:平成12年2月7日付判定請求人の通告書
物 件:本件イ号物件

2.被請求人の主張
これに対して、被請求人は、イ号物件は本件特許の技術的範囲に属しないとして、以下のように反論する。
「2 被請求人の主張
(1)イ号物件は、第2係合部材の挿入頭部の挿入を許す嵌合孔が、前記第2係合部材の伸び出し方向と15度の角度に交差して設けられている。
一方、本件特許発明では、上記嵌合孔が、前記第2係合部材の伸び出し方向に平行に設けられている。
そして、上記の差異について、請求人は、作用効果上何ら影響を与えないとし、更にこの差異は本件特許発明の本質的部分ではない、と主張している。
(2)しかし、請求人の上記主張は、本件特許の出願手続の経緯を無視した主張であり、本件特許発明においては嵌合孔が「平行」である構成に限定し、「交差」する構成を意識的に除外したものである。
(a)即ち、本件特許出願では、出願手続の経緯で明らかなように、平成6年11月22日付けで願書に最初に添付された明細書(乙第2号証)の発明に対する拒絶理由通知書が発送されており、これに対して平成7年1月23日付けで手続補正書(乙第3号証)、および意見書(乙第4号証)が提出されている。
(b)上記意見書によれば、原請求項1を補正し、補正請求項1において、
「連結胴部材の、第2係合部材挿入頭部の挿入を許す嵌合孔が、前記第2係合部材の伸び出し方向に平行に設けられていること」を明確にしたものである。
これに伴って、原請求項3の「連結胴部材の嵌合孔が、第2係止部材の伸び出し方向と交差する方向に形成される」構成およびその実施例の記載は削除され、交差する方向の一例としての直交方向を図示した図3、図4も削除された(意見の内容1/5頁(2)(ロ)(ハ)参照)。
そして、構成要件Dの「嵌合孔が第2係合部材の伸び出し方向に平行に設けられている」構成について、「嵌合孔を、第2係止部材の伸び出し方向と交差する方向に形成すると、その嵌合孔の方向は第1係止部材の伸び出し方向とも交差することになり、また、第1係止部材および第2係止部材のそれぞれに物品を係止した場合、それらの荷重方向は互に反対であるから、この反対方向の2荷重により嵌合孔は、その直径方向に変形する。このような変形は、しばしば第2係止部材挿入頭部の嵌合孔からの抜けを発生させる。これに対して、本願発明の場合、第1および第2係止部材に対する2荷重は、いづれも嵌合孔の長さ方向に平行であるから、それにより嵌合孔が変形することはない。つまり嵌合孔は、その方向により競合性能が変化するのであって、本願発明の要件(D)は重要な技術的、および実用的意義を有するのである」(意見の内容4/5頁(ホ)参照)としており、前記請求人の重要でないとする主張と明らかに矛盾する。
(c)このように、本件特許発明の構成要件中、嵌合孔が第2係合部材の伸び出し方向に「平行」に設けられている点については、第2係止部材の伸び出し方向と「交差」する方向に設けられる構成を意識的に除外したものであることが明瞭である。
(d)これに対して、イ号製品は、第2係止部材の伸び出し方向と15度の角度で「交差」する方向に設けられているから、「平行」に限定された本件特許発明の構成要件に該当することはない。
(3)更に、本件特許発明とイ号物件とは、その構成上の相違に基づいて、その作用、効果を全く異にするものである。
(a)本件特許発明では、係止顎2bが嵌合孔2aの内部に設けられていることを前提としており、そのため、前記意見書でも述べられていたように、嵌合孔2aが「交差」する構成では、反対方向から加わる二方向の荷重により上記嵌合孔2aがその直径方向に変形し、これに伴って係止顎2bも変形するのでスカート状突起4cとの係合が外れやすくなり、第2係止部材の挿入頭部が嵌合孔から抜け落ちる虞れがあるという不具合を生じるのである。
そして本件特許発明では、上記問題点を解決するために、嵌合孔を「平行」に設け、反対方向から加わる二方向の荷重によっても嵌合孔の直径方向における変形が生じないという解決手段を採ったものである。
また、係止顎2bは、嵌合孔2aの内周壁に一体形成されるため、それが環状の場合は受面となる幅を広く設定することができず、突片の場合は突片が形成されていない個所を受面とすることができない。
そこで、本件特許発明では係止顎2bに係合する突起4cをスカート状に形成して、確実な係合を図っているのである。
(b)これに対してイ号物件では、前記解決課題である、第2係止部材の挿入頭部が嵌合孔から抜け落ちないようにするために、嵌合孔が15度で交差する構成を採りながら、係合受部を嵌合孔内に設けず、連結胴部材の広面を貫通する貫通孔の内壁部分に形成して、二方向から荷重がかかった場合にも係合力が損なわれないようにする、という解決手段を講じている。
(c)イ号物件では、1)嵌合孔が15度の角度で交差している、2)嵌合孔2aと連通して連結胴部材の広面を貫通する貫通孔の内壁面で、連結胴部材の外周に沿って形成された幅広のフランジ部分の内面に係止顎に対応する係合受部が形成されている、3)スカート状突起40に代えて一対の爪状の係止突部が設けられている、というイ号物件に特有の構成を講じている。
上記構成からなっているので、イ号物件では、二方向から荷重がかかった場合にも係合個所がフランジ部分であるので、嵌合孔が変形しにくく、また係合状態に影響を与えない。
そこで、嵌合孔が変形したり係合部分が変形する虞れがないので、嵌合孔を第2係合部材の伸び出し方向に平行ではなく15度に交差して設けることが可能となったものである。
また、フランジ部分の内面であって貫通孔の内壁面に係合突部が掛止められ、頭部は貫通孔内に収納されるので、係合突部はスカート状に形成する必要がなく一対の爪状のものとすることができた。
このように、本件特許発明とイ号物件との構成上の差異は異なる技術的思想に基づくものといわなければならず、両者は異別の構成である。
(d) (i)このようにして、イ号物件では、嵌合孔を15度に交差した状態とすることにより、小さな連結胴部材を用いた場合でも第2係合部材を左右バランスのとれた吊下げループ形状にすることができる(乙第1号証の4)。
これは、第2係合部材をループ状に折り返した際に、その先端係合側は15度に拘束され、垂直に延びる基端側は折り返した第2係合部材の弾性反発力でほぼ15度前後で外側に曲がるからである。
これに対してイ号物件に本件特許発明のような嵌合孔を平行に設定した場合には、第2係合部材の先端係合側は連結胴部材に対して垂直に拘束されるが、その基端側は折り返した第2係合部材の弾性反発力が作用するので大きく外側に曲がってしまい、左右バランスのとれた吊下げループ形状にすることはできない(乙第1号証の5)。
本件特許発明では、嵌合孔の位置と第2係合部材の基端の位置とを離間し、第2係合部材を折り返した際の弾性反発力が第2係合部材の基端を垂直姿勢から外側に曲げることがない程度に離して大径のループとした場合に左右のバランスがとれる。そのため連結胴部材はイ号物件のように小型化することは困難である。
(ii)また、イ号物件の場合は、第2係合部材の係合頭部の係合状態が嵌合孔から目視することができ、外から係合状態の監視を行うことができる。
これに対して、本件特許発明では係合状態は嵌合孔内であるため、外から係合状態を監視することができないので、係合が外れかかっている場合にこれを調整することは不可能である。
(iii)以上のように本件特許発明とイ号物件とは、その目的、構成、効果のいずれにおいても相違するものであり、イ号物件は本件特許発明の技術的範囲に属することはない。
(4)更に、付言するならば、本件特許発明は、実開平2-194776号(乙第5号証)で開示された構造と実質的に同一であり、特許無効理由を内在するものである。
(a)即ち、この引例発明には、特に第5図(a)に示されるように、
(i) 連結胴部材に対応する板状の本体(1)と、該板状の本体(1)の端部に丸い孔(5)を設けて本体(1)の一方向に伸び出ている吊下げ用の係上部材と、前記本体(1)から反対方向に直線状に伸び出ている紐状第2係上部材に対応するフィラメント部(2)とを有する、
(ii)封緘部全体(前記板状の本体(1)、並びに吊下げ用の係止部材とフィラメント部(2)が合成樹脂で一体に形成されており、フィラメント部は延伸されて可撓性が高められている、
(iii)前記フィラメント部(2)の先端部分には、スカート状突起に対応する羽根部(3b)を有する頭部(3a)が形成されている、
(iv)前記本体(1)には、フィラメント部(2)の係合突起部(3)の頭部(3a)の挿入を許す係合孔部(4)がフィラメント部(2)の伸び出し方向に平行に設けられている、
(v) 前記係合孔部(4)内には、前記係合突起部(3)の羽根部(3)に係止して、これを引き抜き不能に係上する係止顎が形成されている、
(vi)これにより、上記引例発明の封緘具では、吊下げ用の係止部材が形成されており、封緘具1を吊下げできるように構成されている、
という技術的手段が開示されている。
(b)そこで、上記引例発明と本件特許発明とを対比すると、本件特許発明では環状の端部が切り欠かれた略C状のフックであるのに対して、引例発明では丸い孔が形成された吊下げ用の係止部材からなる点で微差があるが、その他の構成は全て同一であり、新規性を具備しないものである。
これに対して、本件特許発明とイ号発明とは両者共に吊り下げて使用する点で同一であり、その他の構成も同一であることから、両者は実質的に同一な構成と謂える。
このように本件特許では、明白な無効理由を有することから、その権利範囲の解釈に当たっては図示例の構造に限定されるものと言わなければならない。
従って、この点からもイ号製品が、本件特許発明の技術的範囲に属しないということができる。」(答弁書第1頁第21行〜第6頁第18行)

証拠方法
乙第1号証の1:イ号物件の係止突部を示す写真
乙第1号証の2:イ号物件の嵌合孔とフランジ部分と係合受部を示す写真
乙第1号証の3:イ号物件の第2係合部材の係合部材の係合状態を示す写真
乙第1号証の4:イ号物件の吊下げループの形状を示す写真
乙第1号証の5:イ号物件で嵌合孔を平行にした場合の吊下げループの形状を示 す写真
乙第2号証:本件特許発明の公開公報
乙第3号証:平成7年1月23日付け手続補正書写
乙第4号証:平成7年1月23日付け意見書写
乙第5号証:実開平2-194776号公報

〔4〕当審の判断
1.本件発明について
(ア)本件発明の構成について
本件発明は、その明細書の特許請求の範囲、請求項1に記載とおりであり、これを分説すると、請求人主張のとおり、
A 連結胴部材と、前記連結胴部材から一方向に伸び出ているフック状第1係止部材と、前記連結胴部材から、反対方向に直線状に伸び出でいる紐状第2係止部材とを有し、
B 前記連結胴部材、並びに第1および第2係止部材が可撓性合成樹脂により一体成形されており、
C 前記紐状第2係止部材の先端部分には、スカート状突起を有する挿入頭部が形成されており、
D 前記連結胴部材には、第2係止部材挿入頭部の挿入を許す嵌合孔が、前記第2係止部材の伸び出し方向に平行に設けられていて、この嵌合孔内には、前記第2係止部材挿入頭部のスカート状突起と係止して、これを引き抜き不能に係止する係合顎が形成されている、
E 物品係止材料。
である。
(イ)本件発明の作用効果について
本件発明の作用効果は、明細書の発明の詳細な説明中「発明の効果」の項によれば以下のとおりである。
「本件特許発明の物品係止材料は、連結胴部材と、第1係止部材および第2係止部材とが、可撓性合成樹脂により一体的に成形されているため、連結胴部材と、第1係止部材および第2係止部材との組み合わせ合体操作が不要であり、簡単な作業により第2係止部材をループ状にして所望物品を(例えば表示札)をこのループ状第2係止部材に吊下げることができ、かつ、この物品を吊り下げた係止材料を、第1係止部材により所望物品(例えば洋服、オーバーコートなど)に容易に係止することができる(公報第6欄第11行〜第16行)。しかも、第1係止部材が連結胴部材と係合して形成される吊下げループはほゞ左右均等な形状を有し、この吊下げループと第1係止部材とは一線上に伸びているから連結胴部材に不均等な荷重がかかることがなく、かつ、このループに物品を係止した形状が端整かつ強固なものとなる。」(本件特許公告公報第3頁第6欄第7〜21行)

2.判定請求1のイ号物件について
(1)イ号物件の構成について
1)イ号物件が、上記分説した構成のうち、A及びBの構成を有するEの物品係止材料である点に関しては、両当事者間に争いはない。
上記分説した構成のうち、Cに関しては、
請求人は、「前記紐状第2係止部材4の先端部分には、スカート状突起4cを有する挿入 頭部4bが形成されて(いる)」と主張するのに対して、被請求人は、「スカート状突起4cではなく一対の爪状の係止突部が設けられている」と主張する。
また、上記分説した構成のうち、Dに関して、請求人が、「前記連結胴部材2には、第2係止部材挿入頭部4bの挿入を許す嵌合孔2aが、前記第2係止部材2の伸び出し方向に対して小角度を持って設けられてい(る)」と主張するのに対して、被請求人は、「小角度、正確には15度の角度で交差している、および嵌合孔2a内に係止顎2bが形成されているのではなく、嵌合孔2aと連通して連結胴部材の広面を貫通する貫通孔の内壁で幅広に設定されたフランジ部分に係止顎に対応する係合受部が形成されている(乙第1号証の2および3)、という構成からなっている。」と主張する。
2)そこで、イ号物件についてみてみると、「スカート状突起」の定義は必ずしも明確でなく、本件特許の明細書においても一義的に明確であるとはいえず、さらに、本件特許の図面に示される「スカート状突起」とイ号物件の紐状第2係止部材の先端部分の構成が同一であるとはいえないから、構成Cは、「スカート状突起」というより、被請求人のいう「一対の爪状の係止突部」と表現するのが適切であると認められる。(ただし、この「一対の爪状の係止突部」が本件発明の「スカート状突起」に相当するか否かは別途判断されるべきことである。)
次に、構成Dについてみてみると、イ号物件は、「嵌合孔」が、「第2係止部材」の伸び出し方向に対して約15度の角度で交差しているものと認められる。
さらに、イ号物件は、「連結胴部材」には「嵌合孔」と連通する「貫通孔」が形成されており、該「貫通孔」の内壁に設定されたフランジ部分に、第2係止部材の係合受部が形成されているものと認められる。
請求人のいうような、嵌合孔2a内に係止顎2bが形成されているとはいえず、本件特許の明細書・図面にも、かかる態様を示唆する記載は何ら見あたらない。

(2)イ号物件の作用効果について
イ号物件の「嵌合孔」が、「第2係止部材」の伸び出し方向に対して約15度の角度で交差している点は、イ号物件の使用例からみると、請求人のいうように、使用時には左右ほぼ均等の吊下げループが形成され、第2係止部材の伸び出し方向に平行に設けられた場合と作用効果上格別の差異が生ずるものではないと認められる。
一方、イ号物件は、第2係止部材が、「連結胴部材」の「貫通孔」の内壁に設定されたフランジ部分で係合されるものであり、この構成において、第2係止部材は、嵌合孔2a内に係止顎2bを形成した本件発明に比して、連結胴部材に対してより安定して係合されるという有利な効果を奏するものと認められる。しかも、この構成のために、紐状第2係止部材の先端部分も「一対の爪状の係止突部」となし得たものであると認められる。

(3)イ号物件が本件特許の技術的範囲に属するか否かについて
1)請求人は、イ号物件と本件発明の構成の差異は微細であり、作用効果も実質的に同一であるという。
しかしながら、イ号物件は、請求人のいう差異のほかに、「第2係止部材が貫通孔の内壁に設定されたフランジ部分で係合されている」という構成上明確な差異を有し、しかも、この点で、上述のとおり、本件発明に比して連結胴部材に対してより安定して係合されるという有利な効果を奏することになるのであるから、請求人のいう、構成の差異は微細で作用効果も実質的に同一であるとすることは到底できない。
したがって、イ号物件の紐状第2係止部材の先端部分の「一対の爪状の係止突部」が本件発明の「スカート状突起」に相当するものとはいえず、結局、イ号物件は、本件発明の構成Dを具備しないものというほかない。
2)また、請求人は、予備的に、イ号物件は本件特許製品の悪意の設計変更品にすぎない旨主張し、一方、被請求人も、本件特許の出願経過からみて、第2係止部材の伸び出し方向に対して「交差」する方向に設けられた構成は意識的に除外したものである旨主張する。
そこで、これらの主張について付言すると、従来、「迂回発明」(特許発明と基本的に同一の技術的思想に基づきながら、特許請求の範囲中の構成要件のうち、出発的要件と最終的要件を同一にしつつ、その中間に、客観的にみて無用かつ容易な要件を施した発明)や、「不完全利用発明」(特許発明を知ってこれを回避するために、あえて当該発明と同一の技術思想に基づきながら、特許請求の範囲の発明の構成のうち比較的重要度の低いものを省略したり、効果が劣ることになる他の構成と置換した発明)など、権利侵害の責任を逃れるための悪意の実施を権利侵害であるとする法理がいくつかの判決においても支持されてきたところである。
しかしながら、本件イ号物件は、上述したように、構成の相違点において本件発明に対して有利な効果を奏するものであるから、その余について検討するまでもなく、これを悪意の設計変更品であるということはできない。
なお、本件特許は審査の段階で、出願当初の請求項3の「連結胴部材の嵌合孔が第2係止部材の伸び出し方向と交差する方向に形成される構成」と、それに関連した実施例及び図面が削除された上で特許査定に至ったものであると認められ、連結胴部材の嵌合孔が第2係止部材の伸び出し方向に対して90度の方向に設けられたものが意識的に除外されたものであるということができるとしても、イ号物件のような、第2係止部材の伸び出し方向に対して約15度の角度としたものまで意識的に除外されたものであるということは到底できない。

3.判定請求2のイ号物件について
判定請求2のイ号物件は、第1係止部材のループフックが、判定請求1のイ号物件のハンガータイプに比してループフックである点において構成上相違するほかは、同一の構成を有するものであり、上述した判定請求1のイ号物件の作用効果を奏するものであると認められる。
そうすると、判定請求2のイ号物件も、本件発明に対して、「第2係止部材が貫通孔の内壁に設定されたフランジ部分で係合されている」点で、構成上明確な差異を有し、この点で本件発明に比して連結胴部材に対してより安定して係合されるという有利な効果を奏するものであると認められる。

〔5〕以上のとおりであるから、その余について判断するまでもなく、各判定事件のイ号物件は、本件特許に係る考案の技術的範囲に属しないものとして解するのが相当である。
よって結論のとおり判定する。
 
別掲 請求人提出の「イ号図面とイ号物件の説明書」

1.イ号図面は、甲第3号証(警告状)に添付された図1と同一の図面であって「ループロック(フックタイプ MP-200)」を拡大して描いており、右側面図、正面図、平面図、底面図及び連結胴部材の断面図が含まれている。
このイ号図面に示されたイ号物件の各部に本件特許発明と同じ部材に同じ符号を付けて説明すると次のように構成されている。
1)連結胴部材2と、この連結胴部材2から一方向に伸び出ているフック状第1係止部材3と、前記連結胴部材2から反対方向に直線状に伸び出ている紐状第2係止部材4とを有し、
2)前記連結胴部材2、並びに第1および第2係止部材3,4が可撓性合成樹脂により一体形成されており、
3)前記紐伏第2係止部材4の先端部分には、スカート状突起4cを有する挿入頭部4bが形成されており、
4)前記胴部材2には、第2係止部材挿入頭部4bの挿入を許す嵌合孔2aが、前記第2係止部材2の伸び出し方向に『対して小角度を持って設けられており』、この嵌合孔2a内には、前記第2係止部材挿入頭部4bのスカート状突起4cと係止して、これを引き抜き不能に係止する係合顎2bが形成されてい る
5)物品係止部材である。
そしてイ号物件は、次の作用効果を奏することができる。
a.連結胴部材2と、フック状第1係止部材4とが可撓性合成樹脂により一体に成形されているため、連結胴部材2と、フック状第1係止部材3および紐状第2係止部材との組み合わせ合体操作が不要である。
b.また、簡単な作業により紐状第2係止部材4をループ状にして所望物品を(例えば表示札)をこのループ状第2係止部材4に吊下でることができ、かつ、この物品を吊り下げた物品係止材料1を、フック状第1係止部材3により所望 物品(例えば洋服、オーバーコートなど)に容易に係止することができる。
c.しかも、紐状第1係止部材4が連結胴部2と係合して形成される吊下げル ープはほゞ左右均等な形状を有し、この吊下げループとフック状第1係止部材3とは一線上に伸びているから連結胴部材2に不均等な荷重がかゝることがなく、かつ、このループに物品を係止した形状が端整かつ強固なものとなる。
2.イ号図面の参考のために、被判定請求人(明和産業株式会社)が頒布しているイ号物件のパンフレットのコピーを「イ号図面の1」として添付する。
なお、このイ号図面の1の左側の図が本件判定請求に係るイ号物件である。

 
判定日 2000-06-20 
出願番号 特願平4-337305
審決分類 P 1 2・ - ZB (G09F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 張谷 雅人川嵜 健  
特許庁審判長 青山 紘一
特許庁審判官 藤本 信男
長崎 洋一
登録日 1996-04-25 
登録番号 特許第2048688号(P2048688)
発明の名称 物品係止材料  
代理人 野口 賢照  
代理人 西 良久  
代理人 小川 信一  
代理人 斎下 和彦  

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