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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C21D
管理番号 1013683
審判番号 審判1996-20636  
総通号数 11 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1988-10-14 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 1996-12-12 
確定日 2000-03-22 
事件の表示 昭和62年特許願第79570号「常温遅時効で焼付け硬化性を有する熱延薄鋼板の製造方法」拒絶査定に対する審判事件(平成7年4月5日出願公告、特公平7-30408)について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、昭和62年4月2日の出願であって、その発明の要旨は、出願公告時の明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載された次のとおりのものと認める。
「1.C :0.02〜0.10wt%、
Mn:0.5〜1.2wt%、
P :0.045〜0.10wt%、
Al:0.02〜0.05wt%および
N :0.005〜0.020wt%
を含有する組成になる鋼を、Ar3-20℃以上の温度で熱間圧延し、ついで平均冷却速度:30℃/s以上の速度で冷却したのち、150〜450℃の温度範囲で巻取ることを特徴とする、常温遅時効で焼付け硬化性を有する熱延薄鋼板の製造方法。」(以下、「本願発明」という。)
なお、出願公告後の平成9年1月10日付の手続補正は、特許法第17条の3第2項で準用する同法第126条第2項の規定に違反するという理由により、特許法第159条第1項で準用する同法第54条第1項の規定により却下されたので、本願発明の要旨を前記の如く認定した。
また、出願公告時の特許請求の範囲の「常時遅時効」という記載は、本願明細書及び図面全体の記載内容からみて、「常温遅時効」の明白な誤記と認められるので、そのように認定した。
2.原査定の理由
原査定の拒絶の理由となった特許異議の決定に記載した理由の概要は、本願発明は、本願出願前に頒布された刊行物である特開昭60-145355号公報(以下、「引用例」という。)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない、というにある。
3.引用例の記載事項
引用例には、延性が良好で時効劣化のない低降伏比高張力熱延鋼板とその製造方法に関し、下記(イ)〜(ニ)が記載されている。
(イ)「鋼中成分として、
C :0.03〜0.15重量%、
Mn:0.6〜2.0重量%、
P :0.04〜0.15重量%、
Al:0.10重量%以下および
N :0.005〜0.025重量%
を含有する組成になる鋼を溶製し、この容鋼から常法に従い調整したスラブに熱間圧延を施すに際し、スラブの加熱温度を1100〜1250℃、熱間仕上げ圧延終了温度を780〜900℃、巻取り温度を450℃以下とし、かつ圧延終了後巻取りに至る冷却速度を10〜200℃/Sとしたことを特徴とする、延性が良好で時効劣化のない低降伏比高張力熱延鋼板の製造方法。」(第1頁右下欄10行〜第2頁左上欄4行)、
(ロ)「最近、加工性が良好な高張力鋼板として、フェライト相に第2相が分散した混合組織からなる複合組織鋼板が注目されている。この鋼板は、・・・常温での時効劣化が小さいことや高い焼付け硬化性などのすぐれた特長をもっている。」(第2頁右上欄2〜11行)、
(ハ)「次に、N添加鋼の時効性について検討した結果について述べる。表1は、・・・仕上げ圧延後の冷却速度30〜50℃/s、巻取り温度200℃という条件で2.6mm厚の熱延板を作成し、・・・示したものである。」(第5頁右上欄5〜17行)、
(ニ)「発明鋼は、100℃、30minの時効ではほとんど材質は変化しなかったが、比較鋼はY.S.,Y.Elが増加し、Elが減少しいわゆる時効劣化を生じた。また、5%予ひずみ170℃、30minのひずみ時効により、発明鋼および比較鋼ともにT.S.,Y.S.の増加を示し、いわゆる焼付け硬化性を呈したが、比較鋼はY.Elの増加が著しかった。このことは、本発明鋼が製品として使用されるに際し、加工時は、低降伏比であり成型しやすいが、その後の焼付け処理により、Y.S.が増加し、強度的に有利となる極めて優れた鋼板であることを示すものである。以上のようにN添加鋼は、焼付け硬化性を有しているが、従来の場合は時効による材質劣化があったのに対し、この発明のように・・・することで、焼付け硬化性を維持したまま時効による材質劣化の問題を解消できたのである。」(第6頁左上欄)
4.対比・判断
本願発明と引用例に記載された発明(記載事項(イ))とを対比するに、本願発明の製造方法における熱延鋼板と、引用例に記載されたそれとは、鋼板の合金成分及びその組成範囲が一致し、また、熱間圧延後の冷却速度及び巻取り温度範囲においても一致している。
さらに、本願明細書に記載される実施例、特に、表1中の適合例A、B、D、E、G鋼のAr3として示される温度によれば、本願発明の製造方法における熱間圧延の下限温度Ar3-20℃に相当する温度は、具体的にはほぼ、785〜868℃程度であるところ、引用例でも、熱間仕上げ圧延終了温度を780〜900℃としていることから、本願発明と引用例記載のものとは熱間圧延温度範囲においても重複している。
よって、本願発明と引用例記載のもの(記載事項(イ))とは、
「C :0.03〜0.10wt%、
Mn:0.6〜1.2wt%、
P :0.045〜0.10wt%、
Al:0.02〜0.05wt%および
N :0.005〜0.020wt%
を含有する組成になる鋼を、Ar3-20℃以上の温度で熱間圧延し、ついで平均冷却速度:30〜200℃/sの速度で冷却したのち、150〜450℃の温度範囲で巻取ることを特徴とする、熱延鋼板の製造方法。」で一致し、本願発明では、「常温遅時効で焼付け硬化性を有する薄鋼板の製造」を構成として備えるのに対して、引用例の記載事項(イ)からでは、この点が明らかといえず、この点においてのみ両者は相違するものと認められる。
そこで、上記相違点について検討するに、まず、「常温遅時効」に関し、本願明細書中には「かつ室温での時効劣化がほとんどなく、」(本願公告公報第3欄27行)、「常温での時効劣化が顕著となり、」(本願公告公報第6欄4行)、「(作用)この発明では、・・・しかもPとこれら固溶元素との相互作用により室温での時効を抑制いている。(実施例)・・・ここに、ΔY.Elは1%スキンパス後、40℃で6ケ月時効した場合のY.Elの増加量を%で示したものであり、・・・この発明ではΔY.Elはおおむね0.5%以下であることが・・・要求される。」(本願公告公報第6欄8〜24行)と記載されており、かかる記載からすれば、本願発明でいう「常温遅時効」とは、常温での時効劣化が少ない鋼板特性、即ち、その具体的な指標としては、Y.Elの増加量が小、ΔY.Elの値が小さい鋼板特性のことであると解されるところ、引用例の記載事項(ロ)によれば、従来から、常温での時効劣化が小さい鋼板が望まれていた旨記載されていることからも明らかなように、引用例に記載される「時効劣化のない」鋼板特性とは、当然に「常温での時効劣化のない」鋼板特性を含むものといえ、そして、引用例の記載事項(ニ)によれば、引用例記載の鋼においては、Y.Elの増加等時効による材質劣化は生じなかったことが明らかにされているから、引用例記載の「時効劣化のない」という鋼板特性は、結局、本願発明でいう「常温遅時効」という鋼板特性に相当するものと認められる。
また、「焼付け硬化性」については、引用例の記載事項(ロ)、(ニ)からも引用例記載のものが優れた「焼付け硬化性」を有することは明らかであり、さらに、「薄鋼板」についても、引用例の記載事項(ハ)として、鋼板厚み2.6mmのものが記載され、これが「薄鋼板」であることは明らかである。
よって、本願発明と引用例記載の発明との相違点として挙げた「常温遅時効で焼付け硬化性を有する薄鋼板の製造」という構成は、実質的に引用例に開示されているものといえるから、本願発明は、引用例に記載された発明と同一と認められる。
5.むすび
以上のとおり、本願発明は引用例に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 1999-12-07 
結審通知日 1999-12-21 
審決日 2000-01-14 
出願番号 特願昭62-79570
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C21D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中村 朝幸  
特許庁審判長 影山 秀一
特許庁審判官 雨宮 弘治
池田 正人
発明の名称 常温遅時効で焼付け硬化性を有する熱延薄鋼板の製造方法  
代理人 杉村 興作  
代理人 杉村 暁秀  

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