ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード![]() |
審決分類 |
審判 全部無効 2項進歩性 無効としない F04B |
---|---|
管理番号 | 1013845 |
審判番号 | 審判1995-20944 |
総通号数 | 11 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1985-09-09 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 1995-09-26 |
確定日 | 2000-01-14 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第1711111号発明「容量可変型斜板式圧縮機」の特許無効審判事件についてされた平成8年8月30日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成8年(行ケ)第227号、平成10年9月8日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次の通り審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
1.手続の経緯 本件特許第1711111号発明(以下「本件発明」という。)は、昭和59年2月21日に出願され、平成2年12月20日に、特公平2ー61627号として出願公告され、平成4年11月11日に特許の設定登録がされたものである。 その後、平成7年9月26日付けで、本件発明につき特許無効の審判の請求がなされ、平成8年8月30日付けで、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決がなされたところ、東京高等裁判所において、平成8年(行ケ)第227号(平成10年9月8日判決言渡)により、当該審決は取り消された。 一方、平成10年9月18日付けで、本件発明の出願の願書に添付した明細書を訂正する訂正審判(平成10年審判第39065号)がなされ、平成11年3月23日付けで訂正を容認する審決がなされ、その審決は同年4月24日確定した。 請求人に対して、本件発明が訂正審判によって訂正された旨の通知が発せられ、請求人は平成11年8月24日に弁駁書を提出した。 2.本件発明 本件発明の要旨は、訂正された明細書(以下「訂正明細書」という。)及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載されたとおりの 「クランク室に配置された斜板と、シャフト軸と平行に配置された複数のシリンダーに摺動可能にそれぞれ配置された複数の中空円筒状のピストンと、該ピストンを前記斜板に連結するための連結機構と、前記斜板の傾斜角が予め定められた範囲で変化可能に前記斜板を前記シャフト軸に支持するためのヒンジ機構と、前記クランク室圧力を調整するための調整手段とを有し、前記斜板の両面に球面を有する一対のスライディングシューをその球面を外側にして該斜板の円周に沿って摺動可能な状態に当接して前記連結機構を構成し、上記シリンダー内で摺動可能に前記ピストンに設けたピストンロッドの先端部を2又にし、当該2又の先端部の一方を前記シャフト軸の軸線方向において前記斜板と前記ヒンジ機構との間に配置し、上記ヒンジ機構のヒンジ部と略同じ半径方向位置において上記2又で前記一対のスライディングシューを挟持して、前記ピストンを前記斜板に連結し、前記シャフト軸の回転によって上記ヒンジ機構を介して前記斜板を回転させ、前記ピストンを前記シリンダー内で往復運動させ、前記調整手段によってクランク室圧力を調整することによって前記斜板の傾斜角を変化させて、前記ピストンのストローク量を変化させるようにしたことを特徴とする容量可変型斜板式圧縮機。」にあるものと認める。 3.請求人の主張 請求人は「第1711111号の特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、その理由を、審判請求書、平成8年4月26日付け弁駁書及び平成11年8月24日付け弁駁書において、本件発明は、甲第1号証に記載された発明に、甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明を組み合わせることにより当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に該当するものであるから、同法123条の規定により無効とされるべきである旨主張した。 そして、この主張を立証する証拠として以下の刊行物を提出した。 甲第1号証 米国特許第4425837号明細書 (1984年1月17日発行) 甲第2号証 米国特許第4073603号明細書 (1978年2月14日発行) 甲第3号証 オーストラリア特許公開明細書第15629号 (1984年2月9日公開) 4.引用例の認定 請求人の提出した甲第1号証には、 「ハウジング内に配置された斜板44と、シャフト軸18と平行に配置された複数のシリンダー28に摺動可能にそれぞれ配置された複数のピストン32と、該ピストン32を前記斜板44に連結するための連結機構と、前記斜板の傾斜角が予め定められた範囲で変化可能に前記斜板を前記シャフト軸に支持するための半径方向旋回支軸ピン60、案内溝62、アーム64、案内ピン66、弧状の長孔68と、前記斜板の両面45、46に-対のスライディングシュー79、86とボール74、80とを組み合わせ、そのボール74、80の球面を外側にして該斜板の円周に沿って摺動可能な状態に当接して前記連結機構を構成し、上記シリンダー内で摺動可能に前記ピストンに設けたブリッジ70の先端部を2又にし、当該2又の先端部の一方を斜板とピン66と一対のアーム64で構成される機構との問に配置し、上記2又で前記一対のスライディングシューを挟持し、前記ピストンを前記斜板に連結し、前記シャフト軸の回転によってピン60、案内溝62、アーム64、案内ピン66、弧状の長孔68からなる機構を介して、前記斜板を回転させ、前記ピストンを前記シリンダー内で往復運動させた容量可変型斜板式圧縮機。」が記載され、甲第1号証の明細書第3欄の第54行〜第58行には、「上記の可変角度斜板装置の場合では、斜板の角度は、明細書において参照として前述した米国特許第4108577号及び第4073603号(甲第2号証)に開示されているようなサーボ機構又は被制御クランクケース圧力によって制御できる。」との記載がある。 同じく甲第2号証には、 「クランクケース40内に配置された振動板Cと駆動板Dと、駆動シャフト18と平行に配置された複数のシリンダー10に摺動可能にそれぞれ配置された複数の中空円筒状ピストン56と、該ピストン56を前記振動板Cに連結するための連結ロッド60と、前記駆動板の傾斜角が予め定められた範囲で変化可能に前記駆動板Dを前記シャフト18に支持するためのピン104、110、リンク100、102と、前記クランクケース内圧力を調整するための容量制御装置Gとを有し、振動板に当接して連結ロッドを構成し、シリンダー10内で摺動可能に前記ピストンに設けた連結ロッド60の玉型拡大部61、62、リンク102のピン104、110をシャフト18の略同じ半径方向位置において、ピストンを前記振動板に連結し、シャフトの回転によって軸線方向において、ピン104、110、リンク100、102とを介して前記駆動板を回転させ、前記ピストンを前記シリンダ内で往復運動させ、前記容量制御装置によってクランクケース内圧力を調整することによって前記駆動板、振動板の傾斜角を変化させて、前記ピストンのストローク量を変化させるようにした容量可変型斜板式圧縮機」が記載され、同じく甲第3号証には、 「クランクケース40内に配置された振動板Cと駆動板Dと、駆動シャフト18と平行に配置された複数のシリンダー10に摺動可能にそれぞれ配置された複数の中空円筒状ピストン56と、該ピストン56を前記振動板Cに連結するための連結ロッド60と、前記駆動板の傾斜角が予め定められた範囲で変化可能に前記駆動板Dを前記シャフト18に支持するためのピン104、110、リンク100、102と、前記クランクケース内圧力を調整するための容量制御装置Gとを有し、振動板に当接して連結ロッドを構成し、シリンダー10内で摺動可能に前記ピストンに設けた連結ロッド60の玉型拡大部61、62、リンク102のピン104、110をシャフト18の略同じ半径方向位置において、ピストンを前記振動板に連結し、シャフトの回転によって軸線方向において、ピン104、110、リンク100、102とを介して前記駆動板を回転させ、前記ピストンを前記シリンダ内で往復運動させ、前記容量制御装置によってクランクケース内圧力を調整することによって前記駆動板、振動板の傾斜角を変化させて、前記ピストンのストローク量を変化させるようにした容量可変型斜板式圧縮機」が記載されている。 5.対比 そこで、本件発明(以下「前者」いう)と甲第1号証に記載されたもの(以下「後者」という)とを比較すると、後者の「ハウジング」、「半径方向旋回支軸ピン60、案内溝62、アーム64、案内ピン66、弧状の長孔68」、「ブリッジ70」はそれぞれの機能に照らすと、前者の「クランク室」、「ヒンジ機構」、「ピストンロッド」に各々相当するから、両者は「クランク室に配置された斜板と、シャフト軸と平行に配置された複数のシリンダーに摺動可能にそれぞれ配置された複数のピストンと、該ピストンを前記斜板に連結するための連結機構と、前記斜板の傾斜角が予め定められた範囲で変化可能に前記斜板を前記シャフト軸に支持するためのヒンジ機構と、前記斜板の両面に球面を外側にして該斜板の円周に沿って摺動可能な状態に当接して前記連結機構を構成し、上記シリンダー内で摺動可能に前記ピストンに設けたピストンロッドの先端部を2又にし、当該2又の先端部の一方を斜板とヒンジ機構との間に配置し、上記2又で前記一対のスライディングシューを挟持して、前記ピストンを前記斜板に連結し、前記シャフト軸の回転によって、前記斜板を回転させ、前記ピストンを前記シリンダー内で往復運動させた容量可変型斜板式圧縮機。」の点で一致し、以下の4点で相違する。 1)前者が中空円筒状のピストンであるのに対して、後者は該構成を有していない点。 2)前者がクランク室圧力を調整するための調整手段を有しており、この調整手段によってクランク室圧力を調整することによって斜板の傾斜角を変化させて、ピストンのストローク量を変化させるようにしたのに対して、後者は該構成を有していない点。 3)前者が斜板の両面に球面を有する一対のスライディングシューをその球面を外側に配設したのに対して、後者は斜板の両面45、46に一対のスライディングシュー79、86とボール74、80とを組み合わせ、そのボール74、80の球面を外側に配設した点。 4)前者がヒンジ機構のヒンジ部と略同じ半径方向位置において2又で一対のスライディングシューを挟持したのに対して、後者は該構成を有していない点。 6.判断 各相違点について検討すると 相違点1)について ピストンが中空円筒状とすることは、甲第2号証の第1図に記載されていることから、甲第1号証記載のピストンを甲第2号証記載のような中空円筒状のピストンに形成することは、当業者が容易に想到し得ることであり、上記相違点1)における本件発明に係る構成は、当業者が容易に想到し得る事項にすぎない。 相違点2)について 前記4.に認定したとおり、甲第1号証には「上記の可変角度斜板装置の場合では、斜板の角度は、明細書において参照として前述した米国特許第4108577号及び第4073603号(甲第2号証)に開示されているようなサーボ機構又は被制御クランクケース圧力によって制御できる。」(第3欄の第54行〜第58行)との記載がある。したがって、甲第1号証の容量可変型斜板式圧縮機においては、斜板の角度をクランクケース圧力によって制御するために甲第2号証のような圧力調整手段を組み込むことを想定していることは明白である。そして、調整手段を組み込めば、斜板の傾斜角を変化させ、ピストンのストローク量を変化することは自明のことである。すなわち、この相違点2)における本件発明に係る構成は、甲第2号証に開示されており、甲第1号証には斜板の角度をクランクケースの圧力によって制御する手段を適用する旨の前記記載もあることから、当業者が容易に推考し得るものである。 相違点3)について 「斜板の両面に球面を有する一対のスライディングシューを球面を外側に配設する」ことは、 慣用手段(例えば特許異議申立時に証拠として提出された米国特許明細書第3746475号(1973年7月17日発行))である。したがって、甲第1号証に記載の「斜板の両面45、46に一対のスライディングシュー79、86とボール74、80とを組み合わせ、そのボール74、80の球面を外側に配設したもの」を、前記慣用手段の構成にすることは当業者が容易に想到し得ることであり、相違点3)における本件発明に係る構成は、当業者が容易に想到し得る事項にすぎない。 相違点4)について 請求人は平成11年8月24日付け弁駁書で、甲第2号証に記載される連結ロッド60の玉型拡大部61、62、リンク102のピン104、110の略直線的に整列する位置関係から、ヒンジ部と2又で挟持する部位を半径方向位置においてどの程度にするかは単なる設計の問題である旨の主張をしている。 なるほど、甲第2号証の第1図には、ロッド60とリンク102とが半径方向略等しい位置に記載されている。 しかしながら、甲第2号証記載のものは、スライディングシューのない形式ものであって、甲第2号証にはあくまでロッド60とリンク102との関係が開示されているのであり、ヒンジ部とスライディングシューの挟持位置とを略同じ半径方向位置とする点については、記載も示唆もするものではない。 そして、スライディングシューを有しない甲第2号証の前記「ロッド60とリンク102とが半径方向略等しい位置」の構成を、スライディングシューを有する形式の甲第1号証のものに直ちに適用する動機付けも記載されていない。 さらに、甲第1号証に記載されたものにおいて、案内ピン66及び弧状の長孔68が、本件発明のヒンジ機構のヒンジに相当し、前記案内ピン66及び弧状の長孔68はシャフト軸18の軸線方向位置において、常にすべてのピストン32の範囲内にあるから、甲第2号証にロッド60及びリンク102がシャフト軸から略同じ半径方向位置とすることが記載されていても、この記載された事項が甲第1号証に記載されたピストン32の中心軸線上に近い位置に配置されたスライディングシュー79、86と略同じ半径方向位置に前記案内ピン66及び弧状の長孔68を配置することを動機付けるものではない。 よって、前記相違点4)の本件発明に係る構成は、甲第1号証及び甲第2号証に記載されたものから容易に想到し得たものとすることができない。また、他の証拠及び周知技術から容易に推考し得るものでもない。 したがって、本件発明が、甲第1号証乃至甲第3号証に記載されたものに基づいて当業者が容易に発明をすることができたとすることはできない。 7.むすび 以上のとおりであるから、請求人の主張および証拠によっては、本件発明の特許を無効とすることはできない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 1999-11-02 |
結審通知日 | 1999-11-16 |
審決日 | 1999-11-24 |
出願番号 | 特願昭59-29654 |
審決分類 |
P
1
112・
121-
Y
(F04B)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 桜井 義宏、石橋 和夫 |
特許庁審判長 |
藤田 豊比古 |
特許庁審判官 |
西野 健二 小池 正利 蓑輪 安夫 小谷 一郎 |
登録日 | 1992-11-11 |
登録番号 | 特許第1711111号(P1711111) |
発明の名称 | 容量可変型斜板式圧縮機 |
代理人 | 栗原 聖 |
代理人 | 山本 格介 |
代理人 | 池田 憲保 |
代理人 | 三好 秀和 |
代理人 | 後藤 洋介 |