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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 無効とする。(申立て全部成立) F01L
管理番号 1013849
審判番号 審判1999-35243  
総通号数 11 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1992-08-05 
種別 無効の審決 
審判請求日 1999-05-26 
確定日 2000-02-25 
事件の表示 上記当事者間の特許第2782386号発明「内燃機関の動弁機構用ローラ付ロッカアーム」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第2782386号発明の特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 【1】手続の経緯・本件発明の要旨
本件特許第2782386号の出願は、昭和60年7月3日に出願された特願昭60-146241号の一部を特許法第44条第1項の規定により平成3年2月15日に分割出願して新たな特許出願(特願平3-22309号)としたものであって、その特許請求の範囲に記載された発明に対して、平成10年5月22日にその特許権の設定がなされたものである。
そして、本件特許の発明の要旨は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載された以下のとおりのもの(以下、「本件発明」という。)と認める。
「ロッカアーム本体(1)と、このロッカアーム本体(1)に付設されてカム(10)のカム面に接するローラ(9)とよりなり、前記ロッカアーム本体(1)は、前記ローラ(9)の挿入空間(11)を挟んで相対向する一対の支持壁(w1,w2)と、これら支持壁(w1,w2)間を連結すると共にロッカシャフト(4)を嵌挿支持する軸受部(1b)とを少なくとも備え、前記各支持壁(w1,w2)を貫通するローラ軸孔(12)内にはローラ軸(13)の両端部がそれぞれ支持され、そのローラ軸(13)の中間部にはニードル(15a)を介して前記ローラ(9)が回転自在に支持されてなる、内燃機関の動弁機構用ローラ付ロッカアームにおいて、
前記ローラ軸(13)は、その外周面を高周波焼入れする一方、その両外端面を未焼入れとし、
そのローラ軸(13)外周面の、ニードル(15a)との接触領域を高硬度とすると共に、該接触領域より外側で且つローラ軸(13)の軸端近傍のローラ軸(13)外周面を該接触領域よりも低硬度とし、
各支持壁(w1,w2)の、ローラ軸孔(12)が開口する外側面を、その外側面と同側の前記軸受部(1b)外側面よりも内方に凹ませると共に、該各支持壁(w1,w2)のローラ軸孔(12)外端縁に面取り部(16)を形成して、この面取り部(16)にローラ軸(13)外端面周縁部をかしめ結着(17)したことを特徴とする、内燃機関の動弁機構用ローラ付ロッカアーム。」
【2】請求人の主張および提出した証拠方法
(1)請求人の主張
請求人は、「特許第2782386号の特許を無効にする、審判請求費用は被請求人の負担とする」との審決を求め、その理由として、「本件特許の特許請求の範囲に記載された発明は、甲第1号証、甲第2号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明である。よって、上記発明に係る本件特許は特許法第123条第1項第1号により無効とすべきである。」旨主張している。
(2)請求人の提出した証拠方法
請求人は上記主張を立証するために、以下の証拠方法を提出している。
・甲第1号証;実願昭58-180156号(実開昭60-88016号)の願書に添付された明細書及び図面のマイクロフィルム
・甲第2号証;「NSK TORRINGTON,NEEDLE ROLLER BEARINGS」総合カタログ(日本精工株式会社)[1983年(昭和58年)発行]
・甲第3号証;米国特許3,209,446号明細書
・甲第4号証;実願昭55-122794号(実開昭57-46110号)の願書に添付された明細書及び図面のマイクロフィルム
・甲第5号証;特開昭55-54616号公報
・甲第6号証;実願昭57-163159号(実開昭59-67505号)の願書に添付された明細書及び図面のマイクロフィルム
・甲第7号証;実願昭57-165302号(実開昭59-68107号)の願書に添付された明細書及び図面のマイクロフィルム
・甲第8号証;特開昭56-167804号公報
・甲第9号証;実願昭50-71186号(実開昭51-150336号)の願書に添付された明細書及び図面のマイクロフィルム
・甲第10号証;特開昭51-37366号公報
・甲第11号証;米国特許3,071,986号明細書
・甲第12号証;米国特許2,935,878号明細書
・甲第13号証;米国特許3,139,076号明細書
・甲第14号証;平成7年(行ケ)第292号審決取消請求事件判決文
【3】甲第1、2号証記載の発明
(1)甲第1号証:
甲第1号証(以下、「引用例1」という。)は、エンジン弁機構の一部を構成するカムフォロア装置(ロッカアーム)に関するもので、以下の趣旨の構成が記載されている。
すなわち、「カムの運動を受けるカムフォロア装置、特にエンジン弁機構の一部を構成するカムフォロア装置に関する」(明細書第1頁第17〜19行)もので、このカムフォロア装置は、「一対の足部11,11を互いに間隔を設けて有するヨーク1と、両足部11,11の取付穴15に両端部を嵌合し、端部端面周囲を加締めて固定され、足部11間に配置される軸2と、軸2の外周側に軸2と半径方向に空間をもって配置される外輪3と、前記空間に配置される複数のローラ4とで構成される」(明細書第3頁第18行〜第4頁第4行)、「図示しないカムに外輪3の外径が接触していて、カムの回転に伴い、第4図上で左右に図示しないロッカアーム軸を支点にして動く。このときに外輪3(2は3の誤記)にはカムからの回転力と荷重を受け、外輪3が軸2の周囲をローラ4を介して回転する。」(明細書第4頁第11〜16行)、
そして、以上の記載からみて、甲第1号証には、カムフォロア本体と、このカムフォロア本体に付設されてカムのカム面に接する外輪3とよりなり、前記カムフォロア本体は、前記外輪3の挿入空間を挟んで相対向する一対の足部11,11と、これら足部11,11間を連結すると共にロッカアーム軸を嵌挿支持する軸受部とを少なくとも備え、前記各足部11,11を貫通する取付穴15内には軸2の両端部がそれぞれ支持され、その軸2の中間部にはローラ4を介して前記外輪3が回転自在に支持されてなる内燃機関の動弁機構用外輪付カムフォロア装置、が記載されているものと認められる。
(2)甲第2号証:
甲第2号証(以下、「引用例2」という。)は、日本精工株式会社がユーザ向けに発行したニードルベアリングの総合カタログであり、使用上の様々の技術的事項や、各種産業分野・技術分野での使用例が記載されており、特に、第233頁の図12には、ニードルベアリングの適用例として「エンジンカムシャフトのフォロア」を例示すると共に、以下の趣旨の記載がある。
「ニードルベアリングの軌道輪ところは極めて小さい接触面で繰り返し応力を受けるので、直接軌道輪となる軸またはハウジングの材料は、硬さが高く、永久変形を生じにくく、また、転がり疲れ寿命の長いことが必要である。その他耐摩耗性、耐衝撃性、寸法安定なども要求される。」(第29頁左欄下から3行〜右欄下から2行)、「浸炭焼入あるいは高周波焼入れによって軌道面を硬化する場合には、その表面硬さをHRC58〜64(HRC60〜64が望ましい)の値にするだけでなく、ビッカース硬さHv653(HRC58)とHv550(HRC52.3)の硬化層が、それぞれ適切な深さまで必要である。」(第30頁右欄第2〜6行)
【4】甲第3〜8、11〜13号証の記載事項
(1)甲第3号証:
「このような表面硬化の過程において、中間領域が硬化される一方、銅メッキで保護された両端部は、柔らかいままで残る。‥‥(略)‥‥重要な特徴として理解すべきことは、穴明けされ、先細にされ、又は面取りされた両端部がポンプ鋳造品内部にピンを固着させるのに都合のよい程度にフレア状にされるように、その柔らかさが存続していることである。」(第1頁第2欄第20〜32行)
(2)甲第4号証:
「従来のシャフトの取付構造は、図1、図2に示すものが知られており、シャフト1の両端部に穴2を設け、両端部の肉を薄くしてある。また、両端部はしかめを容易にするために焼鈍あるいは防炭処理を施してある。」(第1頁第14行〜第2頁第4行)
(3)甲第5号証:
第2図には、ロッカーアーム19のロッカー軸21で揺動自在に支持されている部分(中央部)は、広幅に形成され、ローラ27がピン29で支持されている他端19bのフォーク状の各支持壁部分B1,B2の外側面は、中央部よりも内側(ローラ27側)に凹んで狭い幅に形成されることが記載されているものと認められる。
(4)甲第6、7号証:
それぞれの第2図には、ロッカーアーム3のピン4aで揺動自在に支持されている部分(基部)は、広幅に形成され、ローラ11が軸で支持されている各支持壁部分(中央部)の外側面は、基部よりも内側(ローラ11側)に凹んで狭い幅に形成され、先端部は更に狭い幅に形成されることが記載されているものと認められる。
(5)甲第8号証:
第2図イ.ロ.ハ.には、ロッカーアームの各ベアリング2支持部外側面を、その外側面と同側の軸受部外側面よりも内方に凹ませた4行程エンジンのカムシャフト構造が記載されているものと認められる。
(6)甲第11号証:
「ボス18のスタッド20はリングメンバ12の孔22に嵌挿される。かしめ加工時にスタッド20が拡大し且つ孔22のフレア部24に満たされるように、くぼみ26がスタッド20の自由端に形成される。」(第1頁第2欄第12〜17行)
(7)甲第12号証:
図1、図2には、一対の足部を貫通する孔に、横断スタッド16の両端部外周を嵌合し、端部端面周囲をコントロールロッド11の外端面に向かって拡がる円錐状の面取り部にかしめ固定し、その横断スタッド16の中間部に前記ローラ17を回転自在に支持することが記載されているものと認められる。
(8)甲第13号証:
図1には、一対の股40,40を貫通する孔に、軸42の両端外周を嵌合し、端部端面周囲をタペット34の外端面に向かって拡がる円錐状の面取り部にかしめ固定し、その軸42の中間部前記ローラ38を回転自在に支持することが記載されているものと認められる。
【5】対比・判断
そこで、本件発明と引用例1に記載された発明とを対比すると、引用例1における「カムフォロア装置」、「外輪3」、「一対の足部11」、「カムフォロア本体」、「取付穴15」、「軸2」、「ロッカアーム軸」及び「ローラ4」は、夫々、本件発明の「ロッカアーム」、「ローラ(9)」、「一対の支持壁(W1、W2)」、「ロッカアーム本体(1)」、「ローラ軸孔(12)」、「ローラ軸(13)」、「ロッカシャフト(4)」及び「ニードル(15a)」に相当するから、両者は、
ロッカアーム本体と、このロッカアーム本体に付設されてカムのカム面に接するローラとよりなり、前記ロッカアーム本体は、前記ローラの挿入空間を挟んで相対向する一対の支持壁と、これら支持壁間を連結すると共にロッカシャフトを嵌挿支持する軸受部とを少なくとも備え、前記各支持壁を貫通するローラ軸孔内にはローラ軸の両端部がそれぞれ支持され、そのローラ軸の中間部にはニ一ドルを介して前記ローラが回転自在に支持されてなる、内燃機関の動弁機構用ローラ付ロッカアーム、
の点で一致し、以下の相違点1〜3で相違する。
・相違点1:
本件発明では、ローラ軸は、その外周面を高周波焼入れする一方、その両外端面を未焼入れとし、しかもそのローラ軸外周面の、ニードルとの接触領域を高硬度とすると共に、該接触領域より外側で且つローラ軸の軸端近傍のローラ軸外周面を該接触領域よりも低硬度としたものであるのに対し、引用例1記載の発明は、ローラ軸の焼き入れ、未焼入れ、外周面の硬度の差についての構成は不明である点。
・相違点2:
本件発明は、各支持壁のローラ軸孔外端縁に面取り部を形成したのに対し、引用例1記載の発明は、ローラ軸孔外端縁に面取り部が形成されていない点。
・相違点3:
本件発明は、各支持壁の、ローラ軸孔が開口する外側面を、その外側面と同側の前記軸受部外側面よりも内方に凹ませたものであるのに対し、引用例1記載の発明は、そのような構成について不明である点。
そこで、上記各相違点について検討する。
・相違点1について:
引用例2の第29頁及び第30頁には、ニードルベアリングの軌道輪となる軸の材料は、硬さが高く、永久変形を生じにくいことが必要であること、その他耐摩耗性、耐衝撃性も要求されることが記載されている。そして、軸の材料の具体例を提示し、硬度を高くする手段として、高周波焼入れすることにより軌道面を硬化することが記載されている。更に、このニードルベアリングの具体的な適用例として、エンジンカムシャフトのフォロアが第233頁に図面と共に記載されている。これらのことから、引用例2には、ローラ付カムフォロアのローラ軸の外周面のニードルとの接触する領域(軌道面)を、少なくとも、高硬度に高周波焼入れすることが記載ないし示唆されているものと認められる。
そして、機械部品の分野では、焼入れ処理した軸部材をある部材にかしめ加工するのに際し、該かしめ加工を容易にするために、軸の両外端面や軸端近傍の軸外周面を未焼入れとすることが、一例として、上記甲第3、4号証、米国特許第565049号明細書に記載されるように、本件出願前、当業者にとって周知の技術であり、また、かしめ加工に関する技術は、機械部品の分野では各種部品に共通の普遍的技術といえるから、上記周知技術をローラ付カムフォロアのローラ軸に適用することに格別の困難性はない。
また、この場合に、かしめ加工を容易に行うため軸部材の外端面を未焼入とするだけでなく、その近傍の軸硬度を適宜低くすればかしめ加工がより容易になることは、当業者が容易に予測できることであるから、外周面が高周波焼入れされる軸部材において、かしめ加工される軸端近傍の軸外周面を低硬度とすることは、当業者が必要に応じて容易になし得るものと云うべきである。
以上の検討から、引用例1記載の動弁機構用ローラ付ロッカアームにおいて、ローラ軸の外周面及び両外端面に、引用例2に記載された高周波焼入れの技術及び上記周知のかしめ固定の技術を適用して、本件発明の前記相違点1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たものと認められる。
・相違点2について:
ローラ軸を各支持壁の一方または双方にかしめ固定するにあたり、ローラ軸孔の外端縁に面取り部を設けることは、一例として、上記甲第11〜13号証に記載されるように、本件出願前、当業者にとって周知の技術であり、前記相違点1で述べた様に、かしめ固定技術は機械部品の分野で共通の技術であるから、この相違点2は、単にかしめ固定に関する従来周知の技術を採用したか、あるいは採用しないか、という程度の相違にすぎず、この点は格別のものではない。
・相違点3について:
動弁機構用ローラ付ロッカアームにおいて、各支持壁の、ローラ軸孔が開口する外側面を、その外側面と同側の前記軸受部外側面よりも内方に凹ませることは、一例として、上記甲第5〜8号証に記載されるように、本件出願前、当業者にとって周知の技術であるから、前記相違点3における構成上の差異は、当業者が必要に応じて適宜選択し得る程度の事項にすぎない。
そして、明細書に記載された本件発明の構成によってもたらされる効果は、引用例1及び引用例2に記載された発明、及び、上記周知技術から予測できる程度の効果であって、格別なものとは認められない。
【6】むすび
以上のとおりであるから、本件発明は、引用例1及び引用例2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本件発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123項第1項第1号に該当し、無効とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 1999-12-01 
結審通知日 1999-12-10 
審決日 1999-12-17 
出願番号 特願平3-22309
審決分類 P 1 112・ 121- Z (F01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 飯塚 直樹三原 彰英  
特許庁審判長 西野 健二
特許庁審判官 清田 栄章
藤田 豊比古
登録日 1998-05-22 
登録番号 特許第2782386号(P2782386)
発明の名称 内燃機関の動弁機構用ローラ付ロッカアーム  
代理人 安達 功  

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