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審決分類 |
審判 全部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備 無効としない B21D 審判 全部無効 2項進歩性 無効としない B21D 審判 全部無効 4項(5項) 請求の範囲の記載不備 無効としない B21D |
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管理番号 | 1013857 |
審判番号 | 審判1999-35215 |
総通号数 | 11 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1988-07-15 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 1999-05-11 |
確定日 | 2000-03-17 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第2129980号発明「曲げ修正機」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件特許第2129980号については、昭和57年7月28日に出願された特願昭57-131871号の一部について同63年1月12日に特願昭63-4262号として新たな出願がされ、平成9年6月6日にその設定登録がされ、その後、同9年9月29日に石原機械工業株式会社(本件審判請求人)より平成9年審判第16458号として無効審判請求がされ、同10年1月19日に特許権者である株式会社オグラ(同被請求人)より明細書の訂正請求がされ、同10年4月17日付けで「訂正を認める。本件審判の請求は、成り立たない。審判費用は、請求人の負担とする。」との審決がなされ、この審決の確定後、同11年5月11日に再び石原機械工業株式会社より本件無効審判請求がされた。 第2 本件特許発明の要旨 本件特許第2129980号発明(以下単に「本件特許発明」という。)の要旨は、訂正された明細書(以下「本件特許明細書」という。)及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載されたとおりの次のものと認める。 「ケーシング本体の前方部に取付けられた受けアームに対し修正用フックを往復移動させることにより棒状部材の曲げ修正を行う曲げ修正機において、前記ケーシング本体の前方部外周には円周溝が形成され、この円周溝に対しリング部材が回動可能に嵌合され、前記受けアームは、間隔をおいて一対取付けられその後端部が前記リング部材に固着されているとともに、前記修正用フックは、前記一対の受けアームの間に配設されケーシング本体内に回動かつ往復移動可能に配設されたピストンロッドの先端に取付けられていることを特徴とする曲げ修正機。」 第3 請求人の主張 これに対して、請求人の主張する本件特許を無効とする理由は、おおよそ以下のとおりである。 1 理由1 本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件特許発明の効果として「油槽、ピストン作動用ポンプ機構を曲げ修正機のケーシング本体内に内蔵してあるので、従来のように別置の給油ユニットを必要とせず、取扱いが容易で作業能率の向上を図ることができる。」こと及び「ケーシング本体の外周に、送油用のパイプ類を配設してないので、作業中障害となったり、パイプ破損事故を生ずることがない。」ことが述べられているが、特許請求の範囲には、油槽やピストン作動用ポンプ機構の配置及びパイプ類がどのように配管されて油送経路がどのように形成されているかについては何も述べられていないから本件特許発明が上記効果を奏することはあり得ない。 したがって、本件特許は、特許法第36条第4項又は第5項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 2 理由2 本件特許発明は、本件特許に係る出願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲第1号証(実公昭47-29063号公報)又は甲第2号証(実願昭55-20235号(実開昭56-121515号)のマイクロフイルム)記載の発明に基づいて、または、甲第1号証及び甲第2号証記載の発明を組み合わせたものに基づいて当業者が容易に想到することができたものである。 したがって、本件特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものである。 第4 当審の判断 1 理由1について 本件特許明細書の特許請求の範囲の記載自体には特に不明りょうな点はなく、発明の詳細な説明に上記効果についての記載があるからといって、格別当業者が容易に本件特許発明の実施をすることができないというものではない。また、上記効果は、本件特許発明を発明の詳細な説明に記載されているその実施例に則して具現化することにより奏される効果であり、この効果を奏するための構成が特許請求の範囲に明記されていないからといって直ちに明細書の記載が不備となるわけではない。 したがって、本件特許は、特許法第36条第4項又は第5項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとする請求人の主張を採用することはできない。 2 理由2について (1)甲各号証の記載内容 イ)甲第1号証 甲第1号証には、「鉄筋等折曲矯正両用機」に関連して、第1頁左欄第16〜18行に「本考案は鉄筋コンクリート建造物或はブロック建築に於ける鉄筋の折曲、矯正加工を簡単に施行しようとする装置であって」と、第1頁左欄第33行〜同右欄第15行に「この考案を図面の1実施例について説明すれば1はシリンダ、2はシリンダの1側に嵌設したシリンダエンドで内部の室3に通じる透孔4を設けている。5はピストン、6はピストンに装着されたOリング、7はピストンに連結されたロッドで、シリンダの他側の開口8より該開口を覆ってシリンダに嵌着するブラケット9を挿通して外部に突出している。10はOリング、11は軸封装置、12はロッド7に固定するコマで陥んだ円弧状の周側面をもつ、13はロックナット14はブラケット内に形成された室で、シリンダの開口8に一面を接し、該室から外部に通じる透孔15を有する。16はブラケットの両側にロッド7の延長方向に対して45°の角度で設けられたアームで、各アームの先部に台17を形成し、各台に植立する突子18に陥んだ円弧状の周側面をもつロール19を嵌装し、輪板20を介してボルト21で回動自在に止着している。22はコ字型フレームでその各角の台23には前記同様植立する突子24に嵌装するロール25を回動自在に取付けている。」と、また、第1頁右欄第24〜35行に「コマ12の往動(図では左行)はシリンダエンド2の透孔4より作動圧力を室3に供給するとピストン5の全面に力が加わってピストンは左行し、復動(図では右行)はブラケット9の透孔15より作動圧力を室14に供給するとシリンダ開口8よりピストン5の周辺環状部に力が加わりピストンは右行する。各運動に加工される鉄筋Aをコ字型フレームに載置し、ピストン5の往復動でコマの周側面を鉄筋Aの曲げ個所又は矯正する個所に接しめ加工個所の両側を4つの各回転ロールで受け、コマの運動につれて鉄筋Aが曲げ、又は矯正加工される。」と記載されている。 また、第1図及び技術常識からみて、「シリンダに嵌着するブラケット9」は、ブラケット9内周に設けられた雌ねじとシリンダ1の端部外周に設けられた雄ねじとによってシリンダ1に螺着され、同じくシリンダ1の前記雄ねじに螺着されたロックナット13によりシリンダ1に固定されていることが明らかである。 これらの記載事項を本件特許発明に沿って表現すると、甲第1号証には次の発明が記載されていると認める。 シリンダ1の前方部に取付けられたアーム16に対し曲げ又は矯正用コマ12を往復移動させることにより鉄筋Aの曲げ又は矯正を行う鉄筋等折曲矯正両用機において、前記シリンダ1の前方部外周にはロックナット13により固定されるブラケット9が螺着され、前記アーム16は、間隔をおいて一対取付けられその後端部が前記ブラケット9に固着されているとともに、前記曲げ又は矯正用コマ12は、前記一対のアーム16の間に配設されシリンダ1内に往復移動可能に配設されたピストンロッド7の先端に取付けられている鉄筋等折曲矯正両用機。 ロ)甲第2号証 甲第2号証には、「手動油圧鋼棒剪断機」に関連して、第1頁第14行〜第2頁第2行に「この考案は可搬型の手動油圧による鋼棒剪断機に関するものである。 被剪断体である鋼棒は主に鉄筋とし、その鉄筋を構築物を目的とした建込現場で不要部分の切断に使するようにしたものである。また他の用法として一般棒体の勇断において被勇断体のおかれた状態を問わず容易に勇断できる汎用軽便鋼棒剪断機として用いることができるものである。」と、第2頁第14行〜第5頁第5行に「次にこの考案の一実施例を図面と共に説明すれば、油圧ポンプと油槽とを内装したポンプ本体(1)と一体化したハンドル(2)と、ポンプ本体(1)の一部で枢着し、枢軸(3)の廻りを回動できるようにしたした作動ハンドル(4)とで一対の鋏作動形態の作用を行い得るように構成し、作動ハンドル(4)の往復運動によってポンプ本体(1)内より前方に突出するピストン(5)が動作するようにしたポンプを構成し、該ポンプは無負荷のとき早送りできるようにしてある。 ポンプ本体(1)の前部に接続するカッターヘッド(6)は前端に鈎形の固定刃受部(7)が突設してあり、被剪断物嵌合部(8)に面した内側に固定刃(9)を締結具(10)で着脱自在に固定する。この固定刃受部(7)を設けたカッターヘッド(6)の主体は筒状を形成し、前記固定刃(9)と相対向する開口部にはブッシュ(11)を嵌合し、該ブッシュ(11)内をその軸心方向に摺動するプランジャー(12)を挿入嵌合する。このプランジャー(12)とブッシュ(11)との一部摺動面には平行キー(13)が挿入されている。またブッシュ(11)の後面とプランジャー(12)の後端との間には反発作用するスプリング(14)を嵌挿してプランジャー(12)がブッシュ(11)の後方に常時押圧しておく作用を構成している。このようにしたプランジャー(12)の先端には前記固定刃(9)と咬合できる位置に移動刃(15)を固定具(16)を介して固着すると共に、また該プランジャー(12)の後端面には前記ポンプ本体(1)に設けたピストン(5)が係合する係合孔(17)が穿たれている。 このようにしたカッターヘッド(6)を前記ポンプ本体(1)と結合するものであるが、前述のようにポンプ本体(1)に対しカッターヘッド(6)が自在に回動し得るようにするもので、ポンプ本体(1)の前端に突出させた接続部(18)とカッターヘッド(6)の後端内周に設けた接続部(19)とを回動助材(20)を介装して回動自在に連結するものである。この考案においては該回動助材(20)としてピアノ線等の鋼線を用い、カッターヘッド(6)側の接続部(19)内に嵌合挿入するポンプ本体(1)側の接続部(18)の外周に前記鋼線の半周を没入させることができる深さの環状凹溝(21)を凹設し、これと同形の環状凹溝(22)を前記カッターヘッド(6)側の接続部(19)の内周に凹設すると共にこの環状凹溝(22)の一部に外部に通ずる明孔(23)を設け、双方の接続部(18)(19)を嵌合挿入連続して互の環状凹溝(21)(22)を合致させ且つ明孔(23)から鋼線の回動助材(20)を挿入して、ポンプ本体(1)と、カッターヘッド(6)とを合体し且つ回動自在に一体化させるものである。この合体作業時にポンプ本体(1)の前端中央より突出しているピストン(5)のロッドの前端を、カッターヘッド(6)側のプランジャー(12)の後面に凹設してある係合孔(17)に嵌挿してなるものである。」と、第5頁第9行〜第6頁第9行に「この考案は以上のように構成したもので、カッターヘッド(6)の被剪断物嵌合部(8)に被勇断物を係合させたのち、剪断作業に適する方向、即ち、ハンドル(2)および作動ハンドル(4)に対し鋏み動作を行う運動に適する方向にポンプ本体(1)を回動する。この回動作業はポンプ本体(1)とカッターヘッド(6)とを接続する接続部(18)(19)によって任意に行われその内部作動関連部材のピストン(5)とプランジャー(12)とが凹凸関係をもって自由嵌合連結しているのでこれ等は容易に回動することができる。作動ハンドル(4)とハンドル(2)との離接を行う操作によってポンプ作用がなされ、ピストン(5)は前動し、且つプランジャー(12)をその後端よりスプリング(14)の弾力に抗して前方に押圧すれば、該プランジャー(12)の前端に取り付けた移動刃(15)は直ちに前進して被勇断物の側方に接触する。そしてなおもポンプ作用を行うことによってポンプは加圧されて勇断に要する力が貯えられると、一挙に移動刃(15)はプランジャー(12)を介して前進し、固定刃(9)の受圧によって剪断の目的は達成される。」と、また、第6頁第16行〜第7頁第4行に「この考案は・・・・・・・・・、カッターヘッドとポンプ本体とが自在に任意角度をもって回動し得るものでその作業性をすこぶる向上させることができる効果あるものである。」と記載されている。 これらの記載事項を本件特許発明に沿って表現すると、甲第2号証には次の発明が記載されていると認める。 ポンプ本体(1)の前方部に取付けられた固定刃(9)対し移動刃(15)を往復移動させることにより鉄筋等の鋼棒の剪断を行う手動油圧鋼棒剪断機において、前記ポンプ本体(1)の前端に突出させた接続部(18)の外周とカッターヘッド(6)の後端内周に設けた接続部(19)の内周とにそれぞれ同形の環状凹溝(21)(22)が凹設され、双方の接続部(18)(19)を嵌合挿入して互の環状凹溝(21)(22)を合致させてできる環状孔に鋼線の回動助材(20)が挿入されて、前記ポンプ本体(1)に対し前記カッターヘッド(6)が回動可能に嵌合され、前記固定刃(9)は、前記カッターヘッド(6)に固着されているとともに、前記移動刃(15)は、前記ポンプ本体(1)内より前方に突出するピストン(5)にスプリング(14)によって常時係合し前記カッターヘッド(6)内を軸心方向に摺動するように設けられたプランジャー(12)の先端に取付けられている手動油圧鋼棒剪断機。 (2)対比 イ) 本件特許発明と甲第1号証記載の発明 そこで、先ず、本件特許発明と甲第1号証記載の発明とを対比すると、甲第1号証記載の発明の「シリンダ1」、「アーム16」、「曲げ又は矯正用コマ12」、「鉄筋A」及び「曲げ又は矯正を行う鉄筋等折曲矯正両用機」は、それぞれ本件特許発明の「ケーシング本体」、「受けアーム」、「修正用フック」、「棒状部材」及び「曲げ修正を行う曲げ修正機」に相当することが明らかである。また、甲第1号証記載の発明の「ブラケット9」は、受けアームの後端部が固着されるケーシング本体の前方部外周に設けられた部材であるという限りで、本件特許発明の「リング部材」に対応している。 したがって、本件特許発明と甲第1号証記載の発明とは、 「ケーシング本体の前方部に取付けられた受けアームに対し修正用フックを往復移動させることにより棒状部材の曲げ修正を行う曲げ修正機において、前記受けアームは、間隔をおいて一対取付けられその後端部がケーシング本体の前方部外周に設けられた部材に固着されているとともに、前記修正用フックは、前記一対の受けアームの間に配設されケーシング本体内に往復移動可能に配設されたピストンロッドの先端に取付けられている曲げ修正機。」 である点で一致し、次の点で相違している。 相違点: 本件特許発明では、ケーシング本体の前方部外周には円周溝が形成され、この円周溝に対しリング部材が回動可能に嵌合され、このリング部材に受けアームの後端部が固着されており、また、ピストンロッドがケーシング本体内に回動かつ往復移動可能に配設されているのに対して、甲第1号証記載の発明では、ケーシング本体の前方部外周にはロックナットにより固定されるブラケットが螺着され、このブラケットに受けアームの後端部が固着されており、また、ピストンロッドがケーシング本体内に往復移動可能に配設されているものの回動可能に配設されているかどうかは明らかでない点。 ロ)本件特許発明と甲第2号証記載の発明 次に、本件特許発明と甲第2号証記載の発明とを対比すると、甲第2号証記載の発明の「ポンプ本体(1)」及び「鉄筋等の鋼棒」は、それぞれ本件特許発明の「ケーシング本体」及び「棒状部材」に、また、甲第2号証記載の発明の「固定刃(9)」、「移動刃(15)」、「手動油圧鋼棒勇断機」、「カッターヘッド(6)」及び「プランジャー(12)」は、それぞれ加工用固定部材、加工用移動部材、棒状部材の加工を行う加工機、ケーシング本体の前方部外周に回転可能に嵌合され加工用固定部材が固着される部材、及び往復移動可能に配設されその先端に加工用移動部材が取付けられる部材であるという限りで、本件特許発明の「受けアーム」、「修正用フック」、「曲げ修正機」、「リング部材」及び「ピストンロッド」に対応している。 したがって、本件特許発明と甲第2号証記載の発明とは、 「ケーシング本体の前方部に取付けられた加工用固定部材に対し加工用移動部材を往復移動させることにより棒状部材の加工を行う加工機において、前記ケーシング本体の前方部外周には前記加工用固定部材が固着される部材が回転可能に嵌合され、前記加工用移動部材は、往復移動可能に配設された部材の先端に取付けられている加工機。」 である点で共通しており、次の3点で相違している。 相違点1: 本件特許発明は、加工用固定部材が受けアームで、加工用移動部材が修正用フックである棒状部材の曲げ修正を行う曲げ修正機であるのに対して、甲第2号証記載の発明は、加工用固定部材が固定刃(9)で、加工用移動部材が移動刃(15)である棒状部材の勇断を行う手動油圧鋼棒剪断機である点。 相違点2: 本件特許発明では、ケーシング本体の前方部外周には円周溝が形成され、この円周溝に対しリング部材が回動可能に嵌合され、受けアームは、間隔をおいて一対取付けられその後端部が前記リング部材に固着されているのに対して、甲第2号証記載の発明では、ケーシング本体の前端に突出させた接続部(18)の外周とカッターヘッド(6)の後端内周に設けた接続部(19)の内周とにそれぞれ同形の環状凹溝(21)(22)が凹設され、双方の接続部(18)(19)を嵌合挿入して互の環状凹溝(21)(22)を合致させてできる環状孔に鋼線の回動助材(20)が挿入されて、前記ケーシング本体に対し前記カッターヘッド(6)が回動可能に嵌合され、固定刃(9)は、前記カッターヘッド(6)に固着されている点。 相違点3: 本件特許発明では、修正用フックは、一対の受けアームの間に配設されケーシング本体内に回動かつ往復移動可能に配設されたピストンロッドの先端に取付けられているのに対して、甲第2号証記載の発明では、移動刃(15)は、ケーシング本体内より前方に突出するピストン(5)にスプリング(14)によって常時係合しカッターヘッド(6)内を軸心方向に摺動するように設けられたプランジャー(12)の先端に取付けられている点。 (3)判断 イ)本件特許発明と甲第1号証記載の発明との相違点について 本件特許発明は、建設現場などにおいて、すでに組立てられている鉄筋の曲りを修正する際、曲げ修正すべき鉄筋の箇所が作業者の位置との関係で作業しにくい場合があり、曲げ修正機を取扱いにくい姿勢で動作させなければならない等の問題があったことを考慮し、取扱いが容易で作業性の優れた携帯用の曲げ修正機を提供することを目的として、相違点の構成を採用することにより、曲げ修正機を用いて作業する際に、作業者の位置と棒状部材との位置との関係上、受けアームと修正用フックが作業しやすい位置に配置できない場合には、修正用フックを手動で回動するとともに、補助ハンドルあるいは受けアームを手動で旋回させることにより、最適な位置にセットすることができるようにしたものである(本件特許明細書第1頁「〔発明の技術的背景とその課題〕」の項、第2頁「〔発明の目的〕」の項及び第7頁第13〜19行参照)。 これに対して、請求人は、甲第1号証について審判請求書第16頁第21行〜第17頁5行で「ここで、ロックナット13の作用について詳細に述べられていないが、ロックナット13が緩められていれば、ブラケット9はケーシング本体1の回りを回動自在となり、ブラケット9と一体的にアーム16も回動し、ロックナット13を締めれば、ブラケット9は固定されて回動不能となることは、当業者であれば容易に理解できる。 また、本件特許発明におけるピストンロッドとほぼ同じ構成のピストンロッドを甲第1号証でも用いているから、ロッド7は回動可能であり、ロッドの先端にはコマ12も固定されていることが示されている。 使用時、つまり、第3図、第4図およびその説明のとおりにコマ12、ロールの間において鉄筋Aを折曲げ、または矯正するとき、ロックナット13を緩め、鉄筋Aの位置に合わせてブラケット9、アーム16を一体的に回動させるとともに、鉄筋Aがコマ12、ロールの間に位置するように、アーム16の回動に対応させてロッド7、コマ12を回動させ、最も作業しやすい位置でこの曲げ修正機(折曲矯正両用機)を使用でき、折曲げ、矯正が能率よく行えることも本件特許発明と同じである。」と主張している。 しかしながら、甲第1号証には、本件特許発明の上記課題及びその課題を解決するための手段としてコマ12(修正用フック)及びアーム16(受けアーム)を手動で回動乃至旋回可能とすることについて何等記載されていない。また、甲第1号証記載の発明のロックナット13は、シリンダ1に螺着されるブラケット9が緩まないように固着するためのものであって、技術常識からみて、一旦締められた後は曲げ修正機を修理等のために分解する場合を除いて緩めたりするものではないと解するのが相当である。仮に、甲第1号証記載の発明が、請求人の主張するようにロックナット13を緩めることによりブラケット9、アーム16を一体的に回動させることができるものであるとしても、ロックナット13を緩めたり締めたりするためにはスパナ等の工具を必要とするものであって、本件特許発明のように工具を用いることなく文字通り手動で受けアームを旋回させることができるものではない。 したがって、甲第1号証記載の発明のピストンロッドがケーシング本体内に回動可能に配設されているかどうかに関わりなく、本件特許発明は、甲第1号証記載の発明に基づいて当業者が容易に想到することができたとすることはできない。 ロ)本件特許発明と甲第2号証記載の発明との相違点について 相違点1及び相違点3について: 本件特許発明と甲第2号証記載の発明とは、一方が曲げ修正機であり他方が剪断機であるというようにその使用目的を異にする別種の発明であるが、共に建設現場等において鉄筋等の棒状部材を加工するものであって、通常両者が同一のメーカーにより製造、販売されるものであることを考慮すると、曲げ修正機と剪断機との間での技術の置換、転用は、当業者が必要に応じて適宜なし得る事項であると一応いうことができる。 しかしながら、甲第2号証記載の発明は、移動刃(15)がシリンダ本体内より前方に突出するピストン(5)にスプリング(14)によって常時係合しカッターヘッド(6)内を軸心方向に摺動ずるように設けられたプランジャー(12)の先端に取付けられており、ピストン(5)が伸出する往動時にのみ棒状部材に剪断力を及ぼせばよい剪断機であることから、たとえその固定刃(9)を受けアームに、また、移動刃(15)を修正用フックに置換えたとしても、プランジャー(12)の先端に取付けられることとなる修正用フックは、ピストン(5)の復動時に棒状部材に力を及ぼすことができず曲げ修正を行うことができない。 したがって、相違点1及び相違点3において、本件特許発明のように構成することは、甲第2号証記載の発明の単なる設計変更にすぎないとすることができないだけでなく、それに基づいて当業者が容易に想到することができたとすることもできない。 相違点2について: 甲第2号証には、上記(1)のロ)で摘記したように「一般棒体の剪断において被剪断体のおかれた状態を問わず容易に剪断できる汎用軽便鋼棒剪断機として用いることができるものである」、「カッターヘッドとポンプ本体とが自在に任意角度をもって回動し得るものでその作業性をすこぶる向上させることができる」等、本件特許発明と共通する課題、目的乃至作用効果が記載されている。 しかしながら、上記課題を解決するための甲第2号証記載の発明の具体的構成は、接続部に形成される環状孔に鋼線の回動助材を挿入するものであって、ケーシング本体の外周に形成された円周溝に対して他方の部材が嵌合されるという本件特許発明のものとは全く異なるものであり、この構成上の相違に基づき、両者の間には回動可能に嵌合された部分が受けることのできる軸方向の力等について有意の差があるものと解される。 したがって、相違点2についても本件特許発明のように構成することは、甲第2号証記載の発明の単なる設計変更にすぎないとすることができないだけでなく、それに基づいて当業者が容易に想到することができたとすることもできない。 そして、本件特許発明は、その要旨とする構成を採用することによって上記の課題を解決しその目的を達成するものである。 よって、本件特許発明は、甲第2号証記載の発明に基づいて当業者が容易に想到することができたとすることもできない。 ハ)甲第1号証記載の発明と甲第2号証記載の発明との組み合わせについて 次に、上記(2)のイ)で示した本件特許発明と甲第1号証記載の発明との相違点を、本件特許発明と共通する課題、目的乃至作用効果を有する甲第2号証記載の発明に基づいて検討する。 甲第1号証記載の発明と甲第2号証記載の発明とは、本件特許発明と甲第2号証記載の発明と同様その使用目的を異にする別種の発明であるが、共に建設現場等において鉄筋等の棒状部材を加工するという点で軌を一にするものであること、通常同一のメーカーにより製造、販売されるものであること等を考慮すると、甲第1号証記載の発明と甲第2号証記載の発明とを組み合わせることは、当業者が必要に応じて適宜なし得る事項であると一応いうことができる。 しかしながら、上記ロ)の相違点2についての検討で述べたように、上記課題を解決するための甲第2号証記載の発明の具体的構成は、ケーシング本体の外周に形成された円周溝に対して他方の部材が嵌合されるという本件特許発明の構成とは全く異なるものである。 また、本件特許発明のこの構成に関して、審判請求人は、平成11年11月10日付け無効審判弁駁書第3頁最下行〜第4頁第3行で「『円周溝によって受けアームを回動可能に支持する』技術は、本件特許発明の原出願の出願時に既に公知と言うよりむしろ周知の技術であって、格別のものでなく、この周知の技術を甲第1号証に採用することにより、本件特許発明は当業者をして容易に想到できることは明らかである。」と主張すると共にその一例として実公昭40-15395号公報を提出している。 しかしながら、上記実公昭40-15395号公報記載のものは、壁掛扇兼用換気扇において、室内用換気扇として使用したり、室内空気循環用壁掛扇として使用するために、壁等に固定された蝶番10に根本部が嵌合されたU字状の支え腕5の両先端5’に設けられた小穴6に、回転羽根4を駆動する電動機本体ケース1の左右側面に設けられた案内ボルト7を挿入した後、案内ボルト7に締付けナット8を螺着させるとともに案内ボルト7の先端に抜け止め具9を固着したものであって、甲第1号証記載の鉄筋等折曲矯正両用機及び甲第2号証記載の手動油圧鋼棒剪断機とは全く技術分野を異にするものであり、また、ケーシング本体の外周に形成された円周溝に対して他方の部材が嵌合されるというものでもない。 したがって、本件特許発明は、甲第1号証及び甲第2号証記載の発明、または、これらの発明及び上記実公昭40-15395号公報記載の技術的事項に基づいて当業者が容易に想到することができたとすることはできない。 なお、審判請求人は、審判請求書第26頁第9〜21行で、受けアームが回動不能である点でのみ本件特許発明と相違する公知の曲げ修正機と甲第2号証記載の発明との組み合わせについても主張しているが、この組み合わせについては上記平成10年4月17日付け審決で実質的に判断している。 第5 むすび したがって、請求人が主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件特許を無効とすることはできない。 よって、本件審判費用の負担については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条を適用して、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 1999-12-10 |
結審通知日 | 2000-01-04 |
審決日 | 2000-01-11 |
出願番号 | 特願昭63-4262 |
審決分類 |
P
1
112・
121-
Y
(B21D)
P 1 112・ 531- Y (B21D) P 1 112・ 532- Y (B21D) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 市川 幹雄、沼沢 幸雄、日比野 隆治、松本 貢 |
特許庁審判長 |
小池 正利 |
特許庁審判官 |
播 博 小関 峰夫 |
登録日 | 1997-06-06 |
登録番号 | 特許第2129980号(P2129980) |
発明の名称 | 曲げ修正機 |
代理人 | 神谷 巌 |
代理人 | 藁科 孝雄 |
代理人 | 森 秀行 |
代理人 | 佐藤 一雄 |
代理人 | 黒瀬 雅志 |