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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C23C |
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管理番号 | 1013864 |
審判番号 | 審判1998-2689 |
総通号数 | 11 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1990-08-16 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 1998-02-23 |
確定日 | 2000-06-08 |
事件の表示 | 平成1年特許願第500797号「蒸着法」拒絶査定に対する審判事件〔(平成1年6月29日国際公開WO89/05872、平成2年8月16日国内公表特許出願公表平2-502549号)について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
I.手続の経緯 本願は、1988年12月16日(パリ条約による優先権主張1987年12月18日、イギリス国)を国際出願日とする出願であり、平成10年2月23日付けで特許法第17条の2第4号の規定による手続補正がなされたものである。 II.本願発明 本願発明は、補正された明細書および図面の記載からみて、平成10年2月23日付け手続補正書の補正の内容の欄の請求の範囲1〜6に記載されたとおりのものと認められるところ、その請求の範囲1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。 「1.基体の少なくとも1つの主面に所定材料の膜を蒸着する低圧化学的蒸着法であって、蒸着室内に基体を設け、ガス流の全体的な方向が基体の該面に実質的に直交するように、基体を配向させた状態で、蒸着室に少なくとも一種の反応体ガスを供給し、そして加熱して上記少なくとも一種の反応体ガスを反応させて、該面に膜を生成することからなる方法において、 蒸着室内の圧力を10mTorr未満レベルに維持するとともに、下記式で表されるシャーウッド数(Sh)を実質的に1より小さい範囲に限定して上記蒸着を行うことを特徴とする方法: Sh=kDd/D 但し、kDは表面反応速度、 dは基体の半径、 Dは反応温度および圧力における反応体ガスの拡散性である。」 III.引用例 原査定で引用された特開昭50-56155号公報[以下、「引用例1」という。]には、以下の(a)〜(g)の記載がある。 (a)「複数の基板を立てた状態で反応室の長手方向に配列し、前記反応室外から給熱することにより前記各基板を処理温度となし、反応ガスを10[mmHg]未満の圧力で前記反応室の長手方向に流して皮膜を形成することを特徴とする半導体装置の製造方法。」(特許請求の範囲)、 (b)「本発明は、何等特殊な装置を用いることなく、現存する装置により、一時に多数枚の基板に対して均一な皮膜を形成し、良質な半導体装置を製造することができるようにすることを目的とし」(第2頁左上欄16〜19行)、 (c)「本発明においては、横方向に長い反応室が使用され、基板は立てた状態にして反応室の長手方向に配列されるので、一時に多数の基板を装置することが可能である。・・(省略)・・皮膜を形成すべき基体、例えば、半導体基板・・(省略)・・。この装置にあっては、反応ガスが反応室の長手方向に流され、特に注目すべきことは、反応ガスの圧力を10[mmHg]未満に維持することである。このような減圧状態で皮膜を形成すると、前記従来例の高周波加熱による場合と比較すると、はるかに優れた皮膜の均一性及び量産性を得ることが見出された。・・(省略)・・前記均一な皮膜形成に反応ガスの種類は関与しない。しかしながら、反応速度は反応ガスの組合せにより当然変化する。反応ガスとしては、例えばシリコンの水素化合物、塩化物と酸素、酸素化合物、水素、アンモニアの組合せを含み、塩化水素等のエッチングガスも含んでいる。」(第2頁右上欄6行〜同頁左下欄18行)、 (d)「モノシランと一酸化窒素の反応により、二酸化硅素の皮膜を成長する場合を例にとると、」(第2頁右下欄16〜17行)、 (e)「第4図は、石英管10内の圧力をパラメータとして反応ガス供給量に対する皮膜成長速度、及び反応ガス供給量に対する一基板における膜厚分布率の特性を表わしている。図において、a,a′は圧力50[mmHg]、b,b′は圧力20[mmHg]、c,c′は圧力9[mmHg]、d,d′は圧力2[mmHg]、e,e′は圧力0.5[mmHg]の各場合を示している。・・(省略)・・成長速度を向上させるには反応ガスの流量を増加させれば良いが、単に増加させただけでは膜厚が不均一になる。そこで、皮膜の成長速度が100[Å]以上であっても、膜厚分布率は10[%]以下にしなければならないが、それには前記の如く、反応室内、即ち、石英管10内の圧力を10[mmHg]未満とすることにより解決される。第4図から明らかなように、石英管10内の圧力を低下させると、膜厚分布率は大きく低下する。また、この場合、皮膜の成長速度も低下するが、その割合は極めて小さい。本発明において、実用となる石英管10内の圧力の範囲は0.1[mmHg]を越え、10[mmHg]未満である。この範囲では、反応ガスの流量を増して皮膜の成長を促進するようにしても、皮膜の厚みは高い均一性を維持できる。」(第3頁右上欄7行〜同頁左下欄20行)、 (f)第2図及び第3図(第4頁)、 (g)第4図(第4頁)。 同じく引用された特開昭62-229931号公報[以下、「引用例2」という。]には、以下の(h)〜(k)が記載されている。 (h)「(1)基体を加熱し、この基体上にシランガスを通して、加熱された基体にシランガスを付着させ、これにより該基体にポリシリコン膜を蒸着させることからなる蒸着方法において、蒸着膜の粒径を大きくできるように、該基体の温度及びシランガスの圧力を制御することを特徴とする蒸着方法。(2)シランガスの圧力を1パスカル以下に維持することを特徴とする特許請求の範囲第1項に記載の蒸着方法。」(特許請求の範囲)、 (i)「特に、本発明は低圧化学蒸着法を利用して、シランガスからポリシリコンを蒸着させる蒸着方法に関する。[従来の技術]シランからポリシリコンを蒸着させる低圧化学蒸着法は技術上標準的な方法である。この方法では・・(省略)・・各ポリシリコン膜を基体に蒸着している。・・(省略)・・[発明が解決しようとする問題点]このような膜は例えばトランジスタなどのある種の薄膜電子装置に対しては満足のいくものではない。」(第1頁右下欄11行〜第2頁左上欄16行)、 (k)「以下、本発明の蒸着方法の一つの実施態様を、使用する化学蒸着装置を示す概略図に即して説明していく。・・(省略)・・チューブ1内の圧力を0.25〜1パスカル、即ち2.5〜10mTorrに維持する。蒸着後、供給源7からのN2を使用して、系を通気する。」(第2頁左下欄2行〜同頁右下欄11行)。 IV.引用例1と本願発明との比較 引用例1には、上記内容からみて、反応室内に基板を設け、反応ガスの供給方向である長手方向に対して立てた状態で基板を配向させ、反応室に反応ガスを供給し、加熱し、皮膜を生成させることからなる半導体装置の製造方法において、反応室内の圧力を10[mmHg]未満に維持すること[上記(a)参照]が記載され、上記「皮膜」は反応ガスの反応により基板面に形成される膜であること[上記(c)及び(d)参照]、上記10[mmHg]未満という圧力は優れた皮膜の均一性を得るのに有効であり、圧力が低くなるほど膜厚分布率が低下し膜厚の均一性が向上する傾向を示すこと、さらに、該傾向は反応ガスの種類によらないこと[上記(c)、(e)及び(g)参照]が記載されていると解される。 そこで、引用例1に記載された上記方法の発明(以下、「前者」という。)と本願発明(以下、後者という。)とを比較すると、前者の「基板」、「形成」及び「反応ガス」は、それぞれ、後者の「基体」、「生成」及び「反応体ガス」に相当するから、両者は、ともに、「基体の少なくとも1つの主面に所定材料の膜を形成する方法であって、室内に基体を設け、基体を配向させた状態で、室に少なくとも一種の反応体ガスを供給し、そして加熱して上記少なくとも一種の反応体ガスを反応させて、該面に膜を生成することからなる方法」である点で一致し、以下の点で一応の相違を有するものである。 (1)後者は、基体に膜を付着する工程が蒸着である旨を明示し、室を蒸着室と称しているが、前者ではその点の明示がなく、室を反応室と称している点。 (2)後者は、方法全体を「低圧化学的蒸着法」と称しているが、前者ではそのような明示がない点。 (3)後者は、室内の圧力を「10mTorr未満レベル」としているのに対し、前者は「10[mmHg]未満」としている点。 (4)後者は、「Sh=kDd/D(但し、kDは表面反応速度、dは基体の半径、Dは反応温度および圧力における反応体ガスの拡散性である。)で表されるシャーウッド数(Sh)を実質的に1より小さい範囲に限定して上記蒸着を行う」としているのに対し、前者にはそのような明示がない点。 (5)後者は、基体の配向を「ガス流の全体的な方向が基体の該面に実質的に直交するように」としているのに対し、前者は、基体の配向を「反応ガスの供給方向である長手方向に対して立てた状態」としている点。 V.相違点の検討 (1)の相違点について 前者及び後者はともに「室内に基体を設け、基体を配向させた状態で、室に反応体ガスを供給し、そして加熱して上記反応体ガスを反応させて、該面に膜を生成することからなる方法」である点において差違がなく、後者は該方法を「基体の少なくとも1つの主面に所定材料の膜を蒸着する化学的蒸着法」と称していること(本願の請求の範囲1参照)からみて、前者も蒸着により基体に膜を付着するものであり、その反応室が蒸着室と呼ばれうるものであることは明らかである。したがって、(1)の相違点は実質的な相違点でない。 (2)の相違点について 前者の方法が、10[mmHg]未満という低圧で実行され、化学的蒸着法と称することができるものであることは上記したところから明らかであるから、前者が方法全体を「低圧化学的蒸着法」と称していないとの理由で、前者を後者と実質的に相違するものであるとすることはできない。 (3)の相違点について 引用例1には、後者の「10mTorr未満レベル」を具体的に示す記載はないが、前者の「10[mmHg]未満」との表現には「10mTorr未満レベル」も包含され、引用例1には、膜厚を均一にすることが課題であること[(b)参照]、半導体装置製造用の反応ガスは、10[mmHg]未満の圧力を含めて、圧力が低くなればなるほど膜厚の均一性が向上すること[(e)及び(g)参照]、この傾向が反応ガスの種類によらないこと[(c)参照]が記載されているうえに、引用例2には、引用例1と同様に半導体装置製造用のシリコンガスを、2.5〜10mTorrという減圧下で化学蒸着できること[(i)及び(k)参照]が記載されているから、反応ガスとしてシランガスを用いる態様に着眼して、前者において、圧力を2.5〜10mTorr、すなわち、10mTorr未満レベルとすることに想到することは当業者にとって容易なことである。したがって、(3)の相違点に係る後者の構成は、引用例1及び2の記載に基づいて当業者が容易に想到できるものにすぎない。 (4)の相違点について 引用例1には、後者の「Sh=kDd/Dで定義されるシャーウッド数(Sh)を実質的に1より小さい範囲に限定して上記蒸着を行う」ことについて記載はない。 しかし、後者の「シャーウッド数を小さい範囲に限定」という内容は、シャーウッド数の定義からみて、反応ガスの拡散性(上記D)を大きくし、反応速度(上記kD)および基体の半径(上記d)を小さくことを示すものと解されるところ、引用例1には、均一な膜厚を形成するという目的が記載されており[(b)参照]、該目的を達成するためには、未反応のガスが基板の全面に均一に供給され均一に反応するようにすることが必要であり、そのためには、基板の全面に未反応ガスが供給されるように反応ガスの拡散性が大きいほどよいこと、反応が基板の周縁のみで生起しないように反応速度が小さいほどよいこと、および、基板の半径が小さいほど望ましいことは、前者の反応ガスの流れと基板の配置の状態からみて自明なことであるから、後者の「シャーウッド数を小さい範囲に限定」という内容は前者においてその目的から自明な内容をシャーウッド数を用いて表現したにすぎないものと解される。 そして、本願明細書の記載をみても、本願発明が、シャーウッド数として1より小さい値を採用したことにより1以上の値を採用した場合に比して1を境にして格別の効果を奏したとも認められない。 してみれば、後者における「1よりは小さい」という表現には、格別の臨界的な技術的意義がなく、結局、後者の「Sh=kDd/Dで定義されるシャーウッド数(Sh)を実質的に1より小さい範囲に限定して上記蒸着を行う」という構成の点には、格別の技術的意義を認めることができないから、(4)の相違点は格別の相違点であるとすることができない。 (5)の相違点について 引用例1には、基体の配向について「反応ガスの供給方向である長手方向に対して立てた状態」であると記載されているのみで、後者のように「ガス流の全体的な方向が基体の面に実質的に直交するよう」な状態であるとの記載はない。 しかし、引用例1には、「立てた状態」としてガス流に直交に近い状態が図示され[前記(f)参照]、また、特にガス流に直交するように配向することを排除する旨の記載はない。 そして、半導体装置の製造に用いる減圧CVD装置において、基体面をガス流の全体的な方向に実質的に直交するように配向させることは、本願発明の出願前に周知の技術である[必要ならば、社団法人 電子通信学会編「LSIハンドブック」(昭和59年11月30日)、株式会社 オーム社発行、p.307〜309、特に図2参照]。 してみれば、引用例1の図に示された[立てた状態」に代えて、同じ技術分野において周知である上記技術を参考にして、「ガス流に直交するように立てた状態」を採用してみることは当業者にとって容易なことである。 したがって、(5)の相違点に係る後者の構成も、当業者にとって格別に困難なものであるとすることはできない。 VI.本願発明の効果について 本願発明の上記各構成を採用することにより生成膜の均質性を向上することができるという効果は、引用例1の膜厚に関する上記(b)、(c)、(e)及び(g)の記載から予想されるところである。 VII.むすび 以上を総合すると、本願発明は、本出願前に頒布された刊行物である引用例1および2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 1999-12-07 |
結審通知日 | 1999-12-21 |
審決日 | 1999-12-24 |
出願番号 | 特願平1-500797 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C23C)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 吉水 純子、種村 慈樹 |
特許庁審判長 |
酒井 正己 |
特許庁審判官 |
松田 悠子 雨宮 弘治 |
発明の名称 | 蒸着法 |
代理人 | 飯田 伸行 |