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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16F
管理番号 1013929
審判番号 審判1996-19592  
総通号数 11 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1994-08-23 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 1996-11-25 
確定日 2000-05-16 
事件の表示 平成6年特許願第5855号「振動減衰器」拒絶査定に対する審判事件(平成6年8月23日出願公開、特開平6-235438)について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、出願日が平成6年1月24日であって、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成11年10月20日付けの手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりである。
【請求項1】
往復運動している機械部分のためのアクティブ型振動減衰器であって、往復運動方向に移動可能な慣性質量体と、機械部分に固定可能な保持板とを有し、慣性質量体と保持板とがばね部材によって互いに結合されている形式のものにおいて、慣性質量体とばね部材(5)とから形成されている振動系の固有周波数が最高でも、往復する運動(2)の周波数と同じ大きさであり、慣性質量体が保持板(4)に相対的に動かないように固定されたプランジャコイル(6)により運動可能であり、ばね部材(5)がプランジャコイル(6)によって変形可能であり、慣性質量体が鉢形磁石(7)によって形成され、該鉢形磁石(7)がプランジャコイル(6)を半径方向内方と外方で少なくとも部分的に同心的に取囲んでおり、鉢形磁石(7)が案内(8)によってプランジャコイル(6)の軸線(9)に対して平行に案内されていることを特徴とする、振動減衰器。
なお、審判請求時になされた平成8年11月25日付け手続補正書は、当審において、平成11年7月23日に却下された。
2.引用例
これに対し、原査定の拒絶の理由に引用された実願昭58-181155号(実開昭60-88150号)のマイクロフィルム(以下、「引用例」という。)には、
▲1▼「車両に加振機を装備させることにより、車体振動を低減できるようにした、車体振動低減装置を提供することを目的とする。」(第2頁第9〜11行)、
▲2▼「加振機2は、第16,17図に示すようにして車体Bに取り付けられている。すなわち、車体Bのボディフレーム1先端に取り付けられたクロスメンバー1a(第1図参照)の下面に加振機取り付け用の孔1bが形成され、この孔1bを通してクロスメンバー1a内に加振機2が挿入配設されている。加振機2は、そのベース21をクロスメンバー1aにボルトにより固着されて、クロスメンバー1aに固定されている。」(第15頁第14行〜第16頁第4行)、
▲3▼「加振機2は、第4図に示すように構成されており、ベース21の中央部に摺動軸22が立設され、摺動軸22には可動部材としてのマス23が嵌挿されており、マス23は摺動軸22に姿勢を拘束されながら上下に移動できるようになっている。また、有底筒状に形成された固定部材を構成するハウジング24が、マス23を上方から収容するように配設され、…ハウシング24の下端24bは、固定部材を構成するベース21に固着され…ハウジング24の底部24aとマス23の上端面との間及びベース21の上端面とマス23の下端面との間には、スプリング25a,25bが介装されており、マス23をベース21から浮かした状態で一定の位置に支持して、マス23が支障なく上下動できるようになっている。また、マス23には、円筒状空間部23aが半径方向における中間部にマス23と同軸に形成されている。円筒状空間部23aは、マス23の下端面に開口しており、ベース21に立設された円筒状駆動コイル26が円筒状空間部23a内に配設されている。さらに円筒状空間部23aには、駆動コイル26に対向する外方部に、円筒状永久磁石27が配設されており、永久磁石27はマス23に固着されてマス23の一部を構成している。駆動コイル26は、…アンプ7の出力に応じて駆動コイル26に電流が流れ、永久磁石27により発生する磁場との相互作用により駆動コイル26とマス23とが相対的に変位するようになっている。」(第9頁第12行〜第11頁第5行)、と記載されている。
▲4▼第4図及び上記▲3▼の記載事項から、マス23と永久磁石27は駆動コイル26を半径方向内方と外方で少なくとも部分的に同心的に取囲んでおり、マス23が摺動軸22によって駆動コイル26の軸線に対して平行に案内されていることが看取できる。
以上の記載事項及び図面の記載からみて、引用例には、以下の発明が記載されているものと認めることができる。(以下、「引用発明」という。)
「振動している車体Bのための加振機2であって、振動方向に移動可能なマス23と、車体Bに固定可能な固定部材(ベース21)とを有し、マス23と固定部材(ベース21)との間には、スプリング25a,25bが介装されており、マス23を一定の位置に支持している形式のものにおいて、マス23が固定部材(ベース21)に相対的に動かないように固定された駆動コイル26により運動可能であり、スプリング25a,25bが駆動コイル26によって変形可能であり、マス23にはマス23の一部を構成する永久磁石27が固着されており、マス23と永久磁石27が駆動コイル26を半径方向内方と外方で少なくとも部分的に同心的に取囲んでおりマス23が摺動軸22によって駆動コイル26に対して平行に案内されている加振機。」
3.対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「振動」は、本願発明の「往復運動」に、以下同様に、「加振器2」は「アクティブ型振動減衰器」に、「車体B」は「機械部分」に、「固定部材(ベース21)」は「保持板」に、「スプリング25a,25b」は「ばね部材」に、「駆動コイル26」は「プランジャコイル」に、「摺動軸22」は「案内」に、それぞれ相当する。
また、引用例には、「永久磁石27はマス23に固着されてマス23の一部を構成している。」と記載されていることからみて、引用発明の「マス23」及び「永久磁石27」は慣性質量体として構成されているものである。
さらに、本願発明と引用発明における振動減衰器(加振器)は、慣性質量体(マス)と保持板(固定部材)とがばね部材を介して互いに接続されている形式のものとみることができる。
したがって、両者は「往復運動している機械部分のためのアクティブ型振動減衰器であって、往復運動方向に移動可能な慣性質量体と、機械部分に固定可能な保持板とを有し、慣性質量体と保持板とがばね部材を介して互いに接続されている形式のものにおいて、慣性質量体が保持板に相対的に動かないように固定されたプランジャコイルにより運動可能であり、ばね部材がプランジャコイルによって変形可能であり、慣性質量体がプランジャコイルを半径方向内方と外方で少なくとも部分的に同心的に取囲んでおり、慣性質量体が案内によってプランジャコイルに対して平行に案内されている振動減衰器。」の点で一致し、以下の各点で相違するものと認める。
[相違点1]
慣性質量体と保持部材間のばね部材の接続態様において、本願発明では、「慣性質量体と保持部材とがばね部材によって互いに結合されている」のに対し、引用発明では、慣性質量体と保持部材との間にばね部材が介装されており、慣性質量体を一定の位置に支持している点。
[相違点2]
本願発明では、「慣性質量体とばね部材とから形成されている振動系の固有周波数が最高でも、往復する運動の周波数と同じ大きさ」であるのに対し、引用発明では、振動系の固有周波数と往復する運動の周波数との関係が明示されていない点。
[相違点3]
慣性質量体が、本願発明では、「鉢形磁石」によって形成されているのに対して、引用発明では、「マス」及び「永久磁石」によって構成されている点。
4.当審の判断
そこで、上記相違点1〜3について検討する。
[相違点1について]
振動減衰器において、ばね部材を慣性質量体と保持部材間に接続する場合に、ばね部材を慣性質量体及び保持部材と結合させることにより接続することは周知の技術的事項(必要であれば、実開平1-146034号公報又は特開平2-225839号公報参照)であるから、引用発明において、上記周知の技術的事項を適用し、上記相違点1における本願発明のように構成することは、当業者が容易に想到できたものである。
[相違点2について]
アクティブ型(能動型)振動減衰装置は、減衰させようとする振動に対して、逆位相の振動を強制的に与えることにより、振動を相殺させて制振するものであるから、受動型振動減衰装置のように、慣性質量体とばね部材とから形成されている振動系の固有周波数と、減衰させようとする振動の周波数を一致させることが必須ではないことは、当業者にとって明らかな技術的事項であるから、当該振動系の固有周波数と減衰させようとする振動の周波数との関係は、当業者が、減衰器を適用する機械・構造体や振動特性等を考慮して、適宜に設定できるものと認められる。
また、アクティブ型振動減衰装置において、慣性質量体とばね部材とから形成されている振動系の固有周波数を、減衰させようとする振動の周波数よりも低く設定することは、周知の技術的事項(例えば、実願昭59-86318号(実開昭61-1748号)のマイクロフィルム又は特開昭61-207212号公報参照)である。
そして、本願発明において、慣性質量体とばね部材とから形成されている振動系の固有周波数が最高でも、往復する運動の周波数と同じ大きさにしたという事項は、当該振動系の固有周波数の最高値を往復する運動(減衰させようとする振動)の周波数よりも低く設定した構成を包含するから、引用発明において、上記周知の技術的事項を適用し、上記相違点2における本願発明のように構成することは当業者が容易に想到できたものである。
[相違点3]
本願明細書の慣性質量体及び鉢形磁石に関する「慣性質量体は磁石ケーシング12の重量を変えることにより変化可能」、「鉢形磁石7は磁石ケーシング12と、…磁石11とから成っている。」(段落番号【0017】、【0018】参照)との記載からみて、本願発明において、鉢形磁石は非磁石部材である磁石ケーシングを含むものであること、そして、引用発明におけるマス23及び永久磁石27は、上記磁石ケーシング12及び磁石11に対応するものであることは明らかであって、機能上、本願発明の鉢形磁石によって形成される慣性質量体と引用発明のマス及び永久磁石から構成される慣性質量体は同等のものである。また、構造上も本願第1図と引用例第4図の記載を参酌すれば、格別の相違は認められない。したがって、上記相違点3における本願発明の構成は格別のものではない。
5.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明及び周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 1999-11-30 
結審通知日 1999-12-10 
審決日 1999-12-17 
出願番号 特願平6-5855
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F16F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 間中 耕治川上 益喜  
特許庁審判長 舟木 進
特許庁審判官 和田 雄二
佐藤 洋
発明の名称 振動減衰器  
代理人 矢野 敏雄  
代理人 ラインハルト・アインゼル  
代理人 山崎 利臣  

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