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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C21D |
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管理番号 | 1014562 |
異議申立番号 | 異議1998-70110 |
総通号数 | 11 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1993-12-14 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 1998-01-13 |
確定日 | 2000-02-14 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第2631256号「優れたクリープ強度と良好な靭性を有する高Cr耐熱鋼の製造方法」の請求項1ないし2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第2631256号の請求項1ないし2に係る特許を取り消す。 |
理由 |
1.本件発明 本件第2631256号(平成4年6月3日出願、平成9年4月25日設定登録)の請求項1及び請求項2に係る発明は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び請求項2に記載された次のとおりのものである。 「【請求項1】重量%にて、 C :0.05〜0.15%、 Si:0.01〜0.5%、 Mn:0.1〜1%、 Cr:8〜13%、 Mo:0.7〜1.5.%、 V :0.05〜0.25%、 Nb:0.01〜0.15%、 Al:0.005〜0.05%、 N :0.005〜0.1% を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼を、1100℃以上の温度で加熱し、スラブ表面温度が950℃以上1125℃未満の温度域で圧延を開始し、750℃以上の温度で圧延を終了し、300℃以下まで冷却の後、Ac1以下で焼もどすことを特徴とする優れたクリープ強度と良好な靱性を有する高Cr耐熱鋼の製造方法。 【請求項2】重量%にて、さらに B :0.0002〜0.0025% を含むことを特徴とする請求項1記載の優れたクリープ強度と良好な靱性を有する高Cr耐熱鋼の製造方法。」 2.取消理由の概要 取消理由の概要は、本件請求項1及び請求項2に係る発明は、刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項1及び請求項2に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである、というものである。 3.刊行物に記載された発明 刊行物1(「材料とプロセス」Vol.2(1989)No.6、日本鉄鋼協会発行、第1728〜1731頁)には、「TMCP適用による改良9Cr-1Mo鋼の機械的性質改善」と題し、 「供試鋼の代表的な化学組成をTable 1に示す。化学組成はASTM規格を満足している。」(第1728頁本文11行) と記載され、 表1には、供試鋼の化学組成は、C:0.09%,Si:0.24%,Mn:0.38%,Ni:0.08%,Cr:8.99%,Mo:0.95%,Nb:0.09%,V:0.22%,N:0.0420%であることが示されている。 また、「実験工程の概略をFig.1に示す。まずスラブ加熱温度の組織に及ぼす影響を明らかにするために、種々の温度に加熱後冷却してγ粒径および合金元素の固溶状態を調べた。次に圧延条件の影響を調べるために加熱圧延温度を種々変化させて2パスの圧延を行った後空冷した。・・・その後焼もどし処理を行い、組織、硬さ、引張特性、靱性およびクリープ破断特性を調べた。さらに実工程の圧延と対応させるために、厚さ100mmのスラブを用いて加熱温度を1150,1200,1250℃に変化させ、圧延仕上げ温度950℃の多パス圧延を行い同様の特性を調査した。・・・また機械試験用試験材の焼もどし温度は、これまでの報告と同様に強度レベルを同一にするためにTMCP材は780〜790℃、焼ならし材は760℃とした。」(同頁本文11〜20行) と記載され、 Fig.1には、実験的製造工程と試験条件(2パス圧延の場合は、スラブ加熱温度:1050〜1250℃→圧延温度:750〜1150℃→空冷→時効処理:720〜800℃、4時間、空冷及び多パス圧延の場合は、スラブ加熱温度:1150〜1250℃→圧延終了温度:950℃→時効処理:720〜800℃、4時間、空冷)が示されている。 さらに、「圧延後の鋼板の組織を観察し、熱間圧延中のオーステナイトの再結晶挙動を調べた結果をTable 2に、また代表的な組織の例をPhoto.1に示す。950℃以下の圧延ではγの再結晶は起こらない。1050℃圧延材では部分的に再結晶が進行し、1150℃圧延材では加熱温度に依らず全面に渡り再結晶している。したがって本鋼の熱間圧延中のγの再結晶下限温度は約1000℃と推定される。」(第1728頁下から3行〜第1729頁6行) 「次に圧延条件と引張強さ、シャルピー吸収エネルギおよびクリープ破断時間との関係についてスラブ加熱温度および圧延温度で整理した結果をそれぞれFig.4および5に示す。クリープ試験条件は600℃.15kgf/mm2である。・・・シャルピー吸収エネルギは主として加熱温度に依存する。1200℃を越えると急激に低下しており、γ粒の粗大化が一要因と考えられる。クリープ破断時間は本試験ではスラブ加熱温度あるいは圧延温度が高いほど優れている。」(第1730頁6〜12行) 「多パス圧延後のγ粒をPhoto.2に示す。本実験では1000℃以上の再結晶温度域での総圧下率はいずれもほぼ同程度であったため、1150℃加熱材のγ粒は1200および1250℃加熱材に比べて小さく、初期γ粒の差が現れている。しかし再結晶温度域での圧延により、γ粒そのものは微細化されている。」(第1730頁19〜29行) と記載され、 Fig.4には、スラブ加熱温度の機械的性質に与える影響(2パス圧延)について示されており、シャルピー吸収エネルギは、スラブ加熱温度が1100〜1150℃では、圧延温度950℃のものが圧延温度750℃のものより大きいが、スラブ加熱温度が1150〜1250℃では、圧延温度750℃、950℃、1150℃と大きくなるに従って低下することが、クリープ破断時間は、スラブ加熱温度が1100〜1250℃では、圧延温度950℃のものが圧延温度750℃、1150℃のものより長いことが、それぞれ読みとれ、 Fig.5には、圧延温度の機械的性質に与える影響(2パス圧延)について示されており、スラブ加熱温度が1150℃のものは、圧延温度950〜1050℃の場合に、シャルピー吸収エネルギ、クリープ破断時間が共に優れていることが読みとれる。 刊行物2(特開平1-123023号公報)には、 「原子力発電、火力発電、化学プラントにおけるような、一般に高温度環境にて使用される構造材料、例えば圧力容器、配管、管板及びバルブ、などの部材として特に好適な高クロムフェライト鋼の製造方法・・・」(第1頁右下欄3〜7行) 「熱間圧延後、焼ならし工程を省略しとくに直接焼もどし処理を施すことにより前述の問題点が解決されることを見出し、また進んで熱間圧延条件を適正な範囲に制御することにより、より顕著にその効果が現れることが知見された。 この知見に基くこの発明は、 C :0.05〜0.15wt%、 Si:0.50wt%以下、 Mn:1.5wt%以下、 Cr:8.0〜12.0wt%、 Ni:1.0wt%以下、 Mo:0.8〜1.3wt%、 V :0.01〜0.3wt%、 Nb:0.01〜0.30wt%、 Al:0.20wt%以下、 N :0.005〜0.10wt% を含有する組成になる高クロムフェライト鋼を熱間加工後焼きもどしすることを特徴とする高クロムフェライト鋼の製造方法である。 この発明で、シャルピー衝撃特性の改善のためには熱間加工の加熱温度を1200℃以下とするのが好ましい。また、クリープ破断強度改善のためには圧延仕上温度が1050℃以下が好ましく、クリープ破断延性改善のためには圧延仕上温度900℃以上とするのが好ましい。」(第2頁左上欄最下行〜左下欄4行) 「Niは、強度およびじん性の改善に有効であるが、多過ぎるとコスト増となるため上限は1.0%とした。」(第3頁右下欄3〜5行) 「Alは脱酸剤として添加するが多過ぎると脆化を招くため上限は0.20%とした。」(第3頁右下欄17〜18行) 「なお、上記成分以外に、・・・焼入性向上のためにB≦0.01%・・・を添加してもこの発明で所期した効果には影響を与えない。」(第4頁左上欄2〜8行) 「この発明によれば、高クロムフェライト鋼における溶接部の健全性、クリープ破断強度および延性の向上により構造物の信頼性向上が実現される。また、高強度あるいは高延性設計により材料コスト低減、プラントの効率向上(例えば高温高圧化)が実現される。」(第5頁右下欄5〜10行) とそれぞれ記載されている。 4.本件各発明と刊行物に記載された発明との対比・判断 (1)本件請求項1に係る発明について、 刊行物1には、高Cr系鋼である9Cr-1Mo鋼に対し、2パス圧延の場合、スラブ再加熱温度1050〜1250℃、圧延温度750〜1150℃であり、多パス圧延の場合、スラブ再加熱温度1150〜1250℃、圧延終了温度950℃であり、共に圧延後空冷し、720〜800℃で4時間焼もどすことが記載されており、空冷は通常300℃以下に冷却するものであり、720〜800℃はこの合金のAc1以下と認められるから、本件請求項1に係る発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、両者は、高Cr耐熱鋼の製造方法であり、化学組成においてC,Si,Mn,Cr,Mo,V,Nb,Nを含有し、これらの各成分の含有量において一致し、また、スラブ再加熱温度、圧延終了温度、冷却温度及び焼もどし温度においても軌を一にする発明であるが、▲1▼本件請求項1に係る発明は、前記各成分のほかAlを0.005〜0.05%含有するのに対し、刊行物1に記載された発明には、Alを含有することが示されておらず、前記各成分のほかNiを0.08%含有する点で相違するほか、▲2▼本件請求項1に係る発明は、950℃以上1125℃未満の温度域で圧延を開始するのに対し、刊行物1に記載された発明は、圧延開始温度が不明である点で相違する。 上記相違点について検討する 相違点▲1▼について 刊行物1に記載された改良9Cr-1Mo鋼は、従来の9Cr-1Mo鋼に比べ、清浄度を高め、Nb、Vを微量添加したものであるが、Niを添加せず、不純物としてNiを0.40%以下(0.1%程度)、Alを0.040%以下含有するものであることは周知である(例えば、三菱重工技報 Vol.22 No.4(1985-7)第65頁〜第72頁、特に、第65頁右下欄第5行〜下から第6行、第66頁表1、第67頁表3、川崎製鉄技報 Vol.22 No.4(1990)第257頁〜第265頁、特に、第258頁Table1,2、第261頁Table4、参照)から、▲1▼の点で両者が実質的に相違するとは認められない。 相違点▲2▼について 刊行物1に記載された発明は、「950℃以下の圧延ではγの再結晶は起こらない。1050℃圧延材では部分的に再結晶が進行し、1150℃圧延材では加熱温度に依らず全面に渡り再結晶している。したがって本鋼の熱間圧延中のγの再結晶下限温度は約1000℃と推定される。」というものであり、また、多パス圧延の圧延仕上げ温度(圧延終了温度)を950℃とするものであるから、スラブ表面温度が950℃以上の温度域で圧延が開始されていることは明らかである。 さらに、Fig.4より、シャルピー吸収エネルギは、スラブ加熱温度が1100〜1150℃では、圧延温度950℃のものが圧延温度750℃のものより大きいが、スラブ加熱温度が1150〜1250℃では、圧延温度750℃、950℃、1150℃と大きくなるに従って低下することが、クリープ破断時間は、スラブ加熱温度が1100〜1200℃では、圧延温度950℃のものが圧延温度750℃、1150℃のものより長いことが、それぞれ読みとれ、Fig.5より、スラブ加熱温度が1150℃のものは、圧延温度950〜1050℃の場合に、シャルピー吸収エネルギ、クリープ破断時間が共に優れていることが読みとれるから、シャルピー吸収エネルギ、クリープ破断時間を共に向上させるためには、950℃以上で且つ1150℃よりかなり低い温度で圧延を行う必要があることは明らかである。 してみると、950℃以上で且つ本件請求項1に記載された温度域に属する温度で圧延を開始することは当業者が適宜なし得るものと認める。 したがって、本件請求項1に係る発明は、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (2)本件請求項2に係る発明について、 本件請求項2に係る発明は、化学組成において本件請求項1に係る発明に、さらにB:0.0002〜0.0025%含む高Cr耐熱鋼の製造方法の発明であり、その圧延条件については本件請求項1に係る発明と共通であり、刊行物2には、刊行物1と同様の成分からなる9Cr-1Mo鋼について「上記成分以外に、・・・焼入性向上のためにB≦0.01%・・・を添加してもこの発明で所期した効果には影響を与えない。」と記載されているから、刊行物1に記載された改良9Cr-1Mo鋼の焼入性を向上させるためにBを添加することは当業者が容易に想到し得るものと認める。 したがって、本件請求項2に係る発明は、刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである、 5.むすび 以上のとおりであるから、本件請求項1及び請求項2に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 1999-12-10 |
出願番号 | 特願平4-142963 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Z
(C21D)
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最終処分 | 取消 |
前審関与審査官 | 小川 武 |
特許庁審判長 |
松本 悟 |
特許庁審判官 |
内野 春喜 影山 秀一 |
登録日 | 1997-04-25 |
登録番号 | 特許第2631256号(P2631256) |
権利者 | 新日本製鐵株式会社 |
発明の名称 | 優れたクリープ強度と良好な靭性を有する高Cr耐熱鋼の製造方法 |
代理人 | 中村 誠 |
代理人 | 大関 和夫 |
代理人 | 鈴江 武彦 |