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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 H01L |
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管理番号 | 1014611 |
異議申立番号 | 異議1998-72247 |
総通号数 | 11 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1988-12-21 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 1998-05-06 |
確定日 | 2000-01-19 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第2673517号「露光装置」の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第2673517号の特許を取り消す。 |
理由 |
1).本件特許の経緯 本件特許第2673517号は、昭和62年6月15日に特許出願され、平成9年7月18日に設定登録がされたものであって、その後、特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成11年4月19日に訂正請求がなされ、その後、訂正拒絶理由通知がなされ、その指定期間内である平成11年9月7日に意見書が提出されたものである。 2).異議申立ての概要 異議申立人株式会社ニコンは、甲第1号証(Koichiro Hoh and Hiroshi Tanino,”Feasibility Study on the Extreme UV/Soft X-ray Projection-type Lithography”:Bulletin of the ElectrotechnicaI Laboratory Vol.49 No.12(1985)983-990頁 以下、「引用例1」という。)、甲第2号証(特開昭53-139469号公報 以下、「引用例2」という。)、甲第3号証(特関昭62-131518号公報 以下、「引用例3」という。)、甲第4号証(特開昭58-191433号公報 以下、「引用例4」という。)、甲第5号証(米国特許第4,432,635明細書 以下、「引用例5」という。)及び甲第6号証(第33回 応用物理学会関係連合講演会 難波 義治 “超精密鏡面研磨”1986年講演予稿集 375頁 以下、「引用例6」という。)を提出し、本件特許請求の範囲に記載された発明は、引用例1〜6に記載された発明及び技術事項に基いて当業者が容易に発明できたものであるから、本件特許請求の範囲に記載された発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、特許を取り消すべき旨主張している。 3).平成11年2月3日付取消理由通知の概要 「本件特許の請求の範囲に記載された発明は、引用例1〜6に基いて当業者が容易に発明することができたものであるから、本件特許は取り消すべきものである。」旨の取消理由を通知した。 4).訂正の概要 平成11年4月19日付訂正請求の概要は、願書に添付された明細書の特許請求の範囲第1項の「表面にマスクパターン」、「X線領域の電磁波で照明された上記マスクのパターン」及び「X線縮小投影光学系と、」を、特許請求の範囲の減縮を目的として、それぞれ、「マスク基板の表面に多層反射膜によるマスクパターン」、「X線領域の電磁波を非垂直入射して照明された上記マスクのパターン」及び「前記複数枚のX線反射鏡のうち少なくとも初めの数枚に取り付けた強制冷却手段と」と訂正するものである。 5).訂正拒絶理由の概要 「訂正請求における特許請求の範囲第1項に記載された発明は、引用例1、2及び「SPIE」Vol.688 Multilayer Structures and Laboratory X-Ray Laser Research(1986)第139〜第145頁(以下、「引用例7」という。)に記載された事項に基いて当業者が容易に発明することができたものであるから、訂正後の特許請求の範囲第1項に記載された発明は、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 従って、本件訂正請求は、特許法第120条の4第3項で準用する同法第126条第4項の規定に適合しない。」旨の訂正拒絶理由を通知した。 6). 引用例の記載内容 6).1 引用例1の記載内容 引用例1は、極端紫外線や軟X線領域での投影露光装置の実現可能性とその技術に関する論文であり、989頁の§6Summaryの第1行目に、「極端紫外線/軟X線(100A-300A)を用いた投影型の露光システムが可能である」と記載されている。 987頁の4.2Maskの項の1行目に、「たいていの物質は極端紫外線/軟X線を強く吸収するため、紫外線でのガラス板や軟X線でのメンブレンマスクは使えそうにない。現在考えられる代替マスクは穴あきマスクか反射型マスクである。」と記載されている。同5行目には「縮小投影を用いれば、マスク中のパターンの大きさに対する許容量が緩和される」と記載されている。 986頁の12行目に、「露光はまた円弧状に限定されるからサブフィールドの露光中にマスクとウェハは同時に移動され、そしてウェハは単独に隣のサブフィールドを露光するために移動される。」と記載されている。 989頁の図4にはマスクをウェハに投影する3枚の反射鏡からなる5:1の縮小投影系が記載されている。 987頁の4.2Maskの項の1行目に、「たいていの物質は極端紫外線や軟X線に対して強い吸収を持つ」と記載されている。 988頁の7行目には、「この波長領域ではマスクの反射率が低い」と記載されている。 987頁下から2行〜末行において、「反射マスクとして反射部を、4.1で議論した多層反射体とで構成できる」と記載されている。 6).2 引用例2の記載内容 第1頁の特許請求の範囲の第2項には、「X線感光材料を対設し、該マスクにX線を入射させ、その反射光によりX線感光材料を露光する」と記載されている。 第3頁左上欄14行目には、「物体がX線を吸収すると熱を発生するが、本発明のX線マスクでは基板を厚くすることが出来るので放熱が大きく発熱が少ない。また、基板の機械的強度が大きいのでヒートパイプなどの放熱部品を取り付けることも容易である。」と記載されている。 6).3 引用例3の記載内容 第3頁左上欄20行目〜右上欄2行目には、「第1図のX線露光装置におけるX線露光装置用ミラーである全反射ミラー3の素材は、高熱伝導SiCセラミックスであり」と記載され、第3頁右上欄第17行〜左下欄第2行には、「高熱伝導SiCであるため、さらに水冷構造にすることにより、温度上昇が小さくなり、また熱膨張率が小さいために、シンクロトロン放射光等の高輝度X線源において長時間使用しても、ミラーの変形が極く微量に抑えられる。」と記載されている。 7).訂正の適否についての判断 7).1 訂正後の特許請求の範囲第1項に記載された発明 「マスク基板の表面に多層反射膜によるマスクパターンを備えた反射型X線マスクを保持するマスクステージとウエハを保持するウエハステージと、該反射型マスクを強制冷却するための、該反射型マスクの裏面に設けた強制冷却手段と、複数枚のX線反射鏡を含み、X線領域の電磁波を非垂直入射して照明された上記マスクのパターンを上記ウエハ上に縮小投影するX線縮小投影系と、前記複数枚のX線反射鏡のうち少なくとも初めの数枚に取り付けた強制冷却手段とを有することを特徴とする露光装置。」 7).2 訂正後の特許請求の範囲第1項に記載された発明(以下、「訂正発明」という。)の独立特許要件の検討 7).2.1 刊行物1に記載された発明について 刊行物1の987頁下から2行〜末行において、「反射マスクとして反射部を、4.1で議論した多層反射体とで構成できる」と記載されているので、当該記載及び刊行物1は、X線投影型リソグラフィについて論じていることを考慮すると、刊行物1には、「多層反射膜によるマスクパターンを備えた反射型X線マスク」について記載されており、上記多層反射体は、刊行物1記載の4.1を参照すると、基板上に多層反射体が積層されるものであるから、刊行物1には、「マスク基板の表面に多層反射膜によるマスクパターンを備えた反射型X線マスク」の発明が記載されている。 7).2.2 訂正発明と刊行物1に記載された発明との対比 訂正発明と刊行物1に記載された発明は、「マスク基板の表面に多層反射膜によるマスクパターンを備えた反射型X線マスク」 である点で一致し、訂正発明が、「マスクを保持するマスクステージとウエハを保持するウエハステージ」(以下、「訂正発明の構成1」という。)、「反射型マスクを強制冷却するための、該反射型マスクの裏面に設けた強制冷却手段」(以下、「訂正発明の構成2」という。)、「複数枚のX線反射鏡を含み、X線領域の電磁波を非垂直入射して照明された上記マスクのパターンを上記ウエハ上に縮小投影するX線縮小投影系」(以下、「訂正発明の構成3」という。)及び「複数枚のX線反射鏡のうちの少なくとも初めの数枚に取り付けた強制冷却手段とを有すること」(以下、「訂正発明の構成4」という。)を有するのに対し、刊行物1に記載された発明は、上記訂正発明の構成1〜4がない点で相違する。 そこで、上記訂正発明の構成1〜4について検討する。 7).2.2.1 訂正発明の構成1について 縮小投影露光装置において当然備えている手段である。 7).2.2.2 訂正発明の構成2について 刊行物7の第139頁Abstractの項には、多層膜X線光学素子の多くの有望な適用が、強い輻射に当てることを伴うとの記載がされている。また、同頁Introductionの項には、多層膜がシンクロトロンの適用によって、真空下において高温に加熱されることが記載されている。従って、刊行物7には、多層膜X線光学素子は、使用中に高温になることが記載されており、多層膜X線光学素子を用いる際には、冷却手段を設ける必要があることは、当業者において自明であると認められる。 そうすると、「多層反射膜によるマスクパターンを備えた反射型X線マスク」を用いる際に、当該多層反射膜を冷却することは、当業者が容易になし得たものである。さらに、「反射型マスクを強制冷却するための、該反射型マスクの裏面に設けた強制冷却手段」なる強制冷却手段の構成については、X線マスクが真空中で使用されることを考慮すると自明のことにすぎない。 7).2.2.3 訂正発明の構成3について 上記構成要件のうち、「X線領域の電磁波を非垂直入射して照明された上記マスク」について検討すると、反射型マスクにおいては、マスクに対してX線領域の電磁波を垂直に入射させると、マスクから反射したX線領域の電磁波は、当該X線領域の電磁波を発生する線源の方向に回帰するので、当該線源によって、マスクから反射したX線領域の電磁波による像が劣化しないようにするために何らかの手段を講じなければならないことは当業者において明らかである。 そうすると、マスクに、「X線領域の電磁波を非垂直入射して照明」することについては、当業者が通常に選択する事項である。 また、その効果は、上記マスクが多層反射膜によるマスクであることを考慮しても、当業者が予測できたものである。 また、「複数枚のX線反射鏡を含み、X線領域の電磁波を照明された上記マスクのパターンを上記ウエハ上に縮小投影するX線縮小投影系」について検討すると、刊行物1には、上記構成要件が記載されている。 7).2.2.4 訂正発明の構成4について 刊行物7の第139頁Abstractの項には、多層膜X線光学素子の多くの有望な適用が、強い輻射に当てることを伴うとの記載がされている。また、同頁Introductionの項には、多層膜がシンクロトロンの適用によって、真空下において高温に加熱されることが記載されている。従って、刊行物7には、多層膜X線光学素子は、使用中に高温になることが記載されており、多層膜X線光学素子を用いる際には、冷却手段を設ける必要があることは、当業者において自明であると認められる。 また、複数枚の反射光学素子を用いる際には、入射側の最初の反射光学素子が光の影響を最も強く受け、次の反射光学素子が受ける光の影響は、最初の反射光学素子が光を吸収した分、緩和されることは当業者において自明であって、「複数枚のX線反射鏡のうちの少なくとも初めの数枚に取り付けた強制冷却手段とを有すること」は、当業者が容易に想到できることである。 なお、X線光学素子を用いる際には、冷却手段を設ける必要があることは、刊行物3にも記載されている。 7).2.2.5 相乗効果について 平成11年9月7日付け意見書で主張している構成要件間の相乗効果については、刊行物1に記載されたマスクヘの照明光を非垂直入射させることは当業者が通常に採用する構成であるから、当該構成と当業者が通常に採用するその他の構成により生ずる効果は、訂正発明に特有のものとはいえない。 したがって、訂正発明の構成要件相互の関係においても相乗効果は認められない。 7).3 結論 そうすると、訂正発明は、刊行物1、2及び7に記載されたものに基いて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 従って、訂正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件訂正請求は特許法第120条の4第3項で準用する同法第126条第4項の規定に適合しないので、本件訂正請求は認められない。 8).異議申立に対する判断 8).1 本件の特許請求の範囲に記載された発明(以下、「本件特許発明」という。)の要旨 「表面にマスクパターンを備えた反射型X線マスクを保持するマスクステージと、ウエハを保持するウエハステージと、該反射型マスクを強制冷却するための、該反射型マスクの裏面に設けた強制冷却手段と、複数枚のX線反射鏡を含み、X線領域の電磁波で照明された上記マスクのパターンを上記ウエハ上に縮小投影するX線縮小投影系と、を有することを特徴とする露光装置。」 8).2 取消理由に引用した引用例の内容 上記6).1に記載のとおり。 8).3 本件特許発明と取消理由に引用した引用例との対比 引用例1には、反射膜によるマスクパターンを備えた反射型X線マスクによる、3枚の反射鏡を用いた縮小投影光学系の発明が記載されているから、本件特許発明と、引用例1に記載された発明を対比すると、両者は、表面にマスクパターンを備えた反射型X線マスクを複数枚のX線反射鏡を含み、X線領域の電磁波で照明された上記マスクのパターンを上記ウエハ上に縮小投影するX線縮小投影系と、を有する露光装置」である点で一致し、本件特許発明が、「マスクを保持するマスクステージと、ウエハを保持するウエハステージと、該反射型マスクを強制冷却するための、該反射型マスクの裏面に設けた強制冷却手段」を有するのに対し、引用例1に記載された発明にはこの点の記載がない点で相違する。 上記相違点について検討すると、「マスクを保持するマスクステージと、ウエハを保持するウェハステージ」については、投影露光装置における慣用手段にすぎない。 また、「反射型マスクを強制冷却するための、該反射型マスクの裏面に設けた強制冷却手段」については、 刊行物7の第139頁Abstractの項には、多層膜X線光学素子の多くの有望な適用が、強い輻射に当てることを伴うとの記載がされている。また、同頁Introductionの項には、多層膜がシンクロトロンの適用によって、真空下において高温に加熱されることが記載されている。従って、刊行物7には、多層膜X線光学素子は、使用中に高温になることが記載されており、多層膜X線光学素子を用いる際には、冷却手段を設ける必要があることは、当業者において自明であると認められる。 また、冷却手段を反射型マスクの表面に設けるとマスクが用をなさないことは明らかであり、さらに、冷却手段を被冷却物に密接させることは慣用手段であるので、冷却手段を反射型マスクの裏面に設けることは、設計上の事項である。 そうすると、本件特許発明は、引用例1及び当業者の知得事項に基いて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 9).むすび 以上のとおりであるから、本件特許発明に係る特許は、取消すべきものである。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 1999-11-11 |
出願番号 | 特願昭62-148613 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
ZB
(H01L)
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最終処分 | 取消 |
前審関与審査官 | 正山 旭 |
特許庁審判長 |
小林 武 |
特許庁審判官 |
橋本 武 辻 徹二 |
登録日 | 1997-07-18 |
登録番号 | 特許第2673517号(P2673517) |
権利者 | キヤノン株式会社 |
発明の名称 | 露光装置 |
代理人 | 関口 鶴彦 |
代理人 | 伊東 哲也 |
代理人 | 渡辺 隆男 |
代理人 | 伊東 辰雄 |