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審決分類 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  G06K
管理番号 1014712
異議申立番号 異議1998-75840  
総通号数 11 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1992-05-08 
種別 異議の決定 
異議申立日 1998-12-02 
確定日 2000-02-25 
異議申立件数
事件の表示 特許第2761570号「媒体処理装置」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2761570号の請求項1に係る特許を取り消す。 
理由 I 手続きの経緯
本件特許第2761570号発明(以下「本件特許発明」という)は、平成2年9月26日に特許出願され、平成10年3月27日にその特許の設定登録がなされたものであり、その後、平成10年12月2日に飯島洋より特許異議の申立てがなされ、平成11年4月28日に取消理由通知がなされ、平成11年7月9日に訂正請求がなされ、平成11年8月6日に訂正拒絶理由通知がなされたものである。
II 訂正の適否
1 訂正の要旨
▲1▼ 訂正事項a
特許第2761570号発明の特許明細書中の特許請求の範囲の請求項1において、「前記搬送手段による媒体の搬送速度を、」を、特許請求の範囲の減縮を目的として、「前記繰り出し手段及び前記搬送手段による媒体の繰り出し及び搬送の速度を、」と訂正する。
これに伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るため、明瞭でない記載の釈明を目的として、請求書に添付された訂正明細書の通りに、すなわち
(イ)特許第2761570号公報第3頁右欄第28行目「前記搬送手段による媒体の搬送速度を、」を明瞭でない記載の釈明を目的として、「前記繰り出し手段及び前記搬送手段による媒体の繰り出し及び搬送の速度を、」と訂正する。
(ロ)特許明細書第20頁18行目(特許第2761570号公報第5頁右欄第11行目)「この時、用紙1の搬送速度は、」を明瞭でない記載の釈明を目的として、「用紙1の繰り出し及び搬送速度は、」と訂正する。
(ハ)特許明細書第21頁5行目(特許第2761570号公報第5頁右欄第17行目)「用紙1を搬送する速度を調節して、」を明瞭でない記載の釈明を目的として、「用紙1の繰り出し及び搬送する速度を調節して、」と訂正する。
(ニ)特許第2761570号公報第7頁左欄第16行目〜19行目)「このため、容易に媒体の搬送速度を低速に設定することができると共に、高速で搬送することによる騒音を防止することが可能となり、窓口業務に適した装置を実現できるという効果が得られる。」を明瞭でない記載の釈明を目的として、「このため、容易に媒体の繰り出し及び搬送速度を低速に設定することができると共に、高速で繰り出し及び搬送することによる騒音を防止することが可能となり、窓口業務に適した装置を実現できるという効果が得られる。」と訂正する。
▲2▼ 訂正事項b
特許明細書第8頁10行目(特許第2761570号公報第3頁左欄第24行目)「動機」を、誤記の訂正を目的として、「同期」と訂正する。
2 前記訂正拒絶理由
本件訂正請求は、下記の理由で、訂正事項aが願書に添付した明細書及び図面に記載した事項の範囲内でなされていないので、特許法第120条の4第3項で準用する第126条第2項の規定に適合しない。

本件訂正事項aは、特許請求の範囲の減縮を目的として、請求項1を訂正請求書の訂正事項a記載の通り、即ち特許請求の範囲の欄の請求項1中の「搬送手段による媒体の搬送速度」という記載を、「繰り出し手段及び搬送手段による媒体の繰り出し及び搬送の速度」に訂正し、これに伴い、発明の詳細な説明の欄の4箇所を、明りょうでない記載の釈明を目的として、“繰り出し手段による媒体の繰り出しの速度”を実質的に追加訂正するものである。(訂正事項(イ)〜(ニ))
しかし、願書に添付した明細書及び図面には、繰り出し手段による媒体の繰り出しの速度について何も記載されていない。
3 訂正の適否
3-1 願書に添付した明細書及び図面には、“繰り出し手段による媒体の繰り出しの速度”について何も記載されていないし、まして“繰り出し手段による媒体の繰り出しの速度”を切り換えることについては何も記載されていない。
3-2 特許権者は、平成11年10月14日付け特許異議意見書中で、特許明細書の第7頁9行目〜第8頁2行目(特許第2761570号公報第3頁左欄第5行目〜17行目、以下「第1箇所」という)、第9頁15行目〜第10頁1行目(特許第2761570号公報第3頁左欄第46行目〜右欄1行目、以下「第2箇所」という)、第14頁1行目〜4行目(特許第2761570号公報第4頁左欄第42行目〜44行目、以下「第3箇所」という)の各記載を根拠として、上記訂正事項aは、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であると主張している。
3-3 前記第1及び第2箇所の記載は、何れも従来技術に関するものであって、“繰り出し手段による媒体の繰り出しの速度”について何も記載されていないし、まして“繰り出し手段による媒体の繰り出しの速度”を切り換えることについては何も記載されていない。
3-4 前記第3箇所には、「この後、搬送開始キーを押下すると、前記切り換えスイッチにて選択した速度で媒体をホッパから繰り出して搬送を開始し、読み取り処理部へ搬送する。」と記載されている。
3-5 当該記載では、「前記切り換えスイッチにて選択した速度で」「繰り出」すのか、「前記切り換えスイッチにて選択した速度で」「搬送する」のか、それとも「前記切り換えスイッチにて選択した速度で」「繰り出」し且つ「搬送する」のか、必ずしも明確でない。
即ち、当該記載だけから見ると、「切り換えスイッチにて選択した速度で媒体をホッパから繰り出」すこと、即ち“繰り出し手段による媒体の繰り出しの速度”を切り換えること、が記載されていると解する余地が無くも無い。
3-6 しかし、当該記載は〔作用〕の欄中に記載されており、〔作用〕の欄の記載は〔課題を解決するための手段〕の欄に記載された構成による作用を記載したものである。
そして、〔課題を解決するための手段〕の欄には(第2及び第3の発明の構成を含めても)“搬送手段による媒体の搬送速度”を切り換えることが記載されているだけで、“繰り出し手段による媒体の繰り出しの速度”を切り換えることは勿論のこと“繰り出し手段による媒体の繰り出しの速度”についてさえ記載されて無い。
従って、当該記載は、「前記切り換えスイッチにて選択した速度で」「搬送する」と解するのが妥当である。
3-7 ちなみに、実施例の記載においても、“繰り出し手段による媒体の繰り出しの速度”を切り換えることは記載されて無い。
3-8 結局、特許権者の前記特許異議意見書中での前記主張は採用できない。
3-9 従って、本件訂正事項aは、特許法第120条の4第3項で準用する特許法第126条第2項の規定に違反するので、当該訂正は認められない。
III 前記取消理由
1 前記取消理由は次の通りである。
本件特許異議申立に係る発明(請求項1に係る発明、以下「本件特許発明」という)は、その出願前に国内において頒布された刊行物である特開昭61-18651号公報(特許異議申立人飯島洋が提出した甲第1号証)に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
2 なお、特許異議申立人の特許異議申立ての要旨は、特許請求の範囲の請求項1記載に係る特許発明は、甲第1号証刊行物(特開昭61-18651号公報)に記載された発明と同一、または同発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号または同第2項の規定により特許を受けることができない、と言うものである。
IV 前記取消理由の妥当性
1 本件特許発明
明細書及び図面の記載からみて、本件特許発明の目的、効果は「(媒体処理)装置からの騒音を調節」することであり、
その発明の構成は、
「ホッパ上に載置した媒体を、繰り出し手段により媒体搬送路へと繰り出して搬送手段にて読み取り処理部へと搬送し、該読み取り処理部において媒体情報を光学的に読み取った後、スタッカヘと搬送して排出する媒体処理装置において、
手動により前記媒体の搬送速度を複数段階に切り換えて選択する切り換えスイッチと、
この切り換えスイッチにより選択した搬送速度値を格納する搬送速度設定メモリと、
この搬送速度設定メモリに、前記切り換えスイッチにより選択した搬送速度値が設定されたか否かを確認する速度設定確認手段と、
この速度設定確認手段により前記切り換えスイッチにより選択した搬送速度値に設定されていると確認された場合、前記搬送手段による媒体の搬送速度を、前記搬送速度設定メモリに設定した搬送速度に切り換える速度切り換え手段とを設けたことを特徴とする媒体処理装置」
である。(特許請求の範囲の欄或いは〔課題を解決するための手段〕の欄の記載参照)
2 刊行物記載発明
前記刊行物1(特開昭61-18651号公報(昭和61年1月27日特許庁発行))には、
「原稿トレー7」上に載置した「原稿11」を、「給紙ローラ8」により「原稿11」の搬送路へと繰り出して(「搬送ローラ9,10」等から成る)搬送手段にて(「原稿載置台1」等から成る)読み取り処理部へと搬送し、該読み取り処理部において「原稿11」の情報を光学的に読み取った後、「トレイ19」へと搬送して排出する「原稿送り装置」において、
手動により前記「原稿11」の搬送速度を複数段階(「2段階」)に切り換えて選択する「選択スイッチ21,22」と、
この「選択スイッチ21,22」により選択した搬送速度値を(“0”又は“1”として)格納する「RAM32」と、
この「RAM32」に、前記「選択スイッチ21,22」により選択した搬送速度値が設定されたか否かを確認する速度設定確認手段(「RAM32」の内容が“0”か“1”かをチェックする手段)と、
この速度設定確認手段により前記「選択スイッチ21,22」により選択した搬送速度値に設定されていると確認された場合、前記搬送手段による「原稿11」の搬送速度を、前記「RAM32」に設定した搬送速度に切り換える速度切り換え手段とを設けた「原稿送り装置」
であって、
「原稿送り装置」からの騒音を調節することができる、
という発明が記載されている。
なお、刊行物1には上記効果については明記されていないが、装置の速度を変えると騒音が変わる(低速にすると騒音は小さくなる)ことは自明事項であるので、上記のように認定する。
ここで、上記発明を本件特許発明の用語で表現する。
上記発明の「原稿トレー7」、「トレイ19」、「選択スイッチ21,22」、「RAM32」は、夫々本件特許発明の「ホッパ」、「スタッカ」、「切り換えスイッチ」、「搬送速度設定メモリ」と等価であることを考慮すると、
刊行物1には、
ホッパ上に載置した「原稿11」を、「給紙ローラ8」により「原稿11」の搬送路へと繰り出して搬送手段にて読み取り処理部へと搬送し、該読み取り処理部において「原稿11」の情報を光学的に読み取った後、スタッカヘと搬送して排出する「原稿送り装置」において、
手動により前記「原稿11」の搬送速度を複数段階に切り換えて選択する切り換えスイッチと、
この切り換えスイッチにより選択した搬送速度値を格納する搬送速度設定メモリと、
この搬送速度設定メモリに、前記切り換えスイッチにより選択した搬送速度値が設定されたか否かを確認する速度設定確認手段と、
この速度設定確認手段により前記切り換えスイッチにより選択した搬送速度値に設定されていると確認された場合、前記搬送手段による「原稿11」の搬送速度を、前記搬送速度設定メモリに設定した搬送速度に切り換える速度切り換え手段とを設けた「原稿送り装置」、
であって、
「原稿送り装置」からの騒音を調節することができる、
という発明(以下、「第1の発明」という)が記載されている。
3 本件特許発明と第1の発明の関係
本件特許発明と第1の発明を比較すると、本件特許発明の「媒体」、「繰り出し手段」、「媒体処理装置」は、夫々第1の発明の「原稿11」、「給紙ローラ8」、「原稿送り装置」を包摂する。
従って、本件特許発明は刊行物1に記載された第1の発明に包摂される。
4 結び
以上1〜3項を総合して判断すると、特許請求の範囲の請求項1記載に係る特許発明は、刊行物1に記載された第1の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許請求の範囲の請求項1記載に係る本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。
従って、当審の前記取消理由は妥当である。
V 結び
以上述べた通り、特許請求の範囲の請求項1記載に係る本件特許は、特許法第113条第1項第2号に該当するので、取り消すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2000-01-10 
出願番号 特願平2-256611
審決分類 P 1 652・ 113- ZB (G06K)
最終処分 取消  
前審関与審査官 瀧 廣往  
特許庁審判長 丸山 光信
特許庁審判官 治田 義孝
大橋 隆夫
登録日 1998-03-27 
登録番号 特許第2761570号(P2761570)
権利者 沖電気工業株式会社
発明の名称 媒体処理装置  
代理人 大西 健治  

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