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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 B60L |
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管理番号 | 1014749 |
異議申立番号 | 異議1999-70882 |
総通号数 | 11 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1997-09-05 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 1999-03-10 |
確定日 | 1999-12-15 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第2796711号「電気自動車」の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第2796711号の特許を取り消す。 |
理由 |
I.本件発明 本件特許(平成4年3月31日に出願した特願平4-105405号の一部を平成8年12月25日に分割出願し、平成10年7月3日に設定登録されたもの)の請求項1に係る発明(以下、本件発明という。)は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。 「車両の駆動用トルクを電気的に発生させるモータと、このモータに電力を供給する電源と、車速を検出する車速検出手段と、要求されている要求トルクを検出する要求トルク検出手段と、前記車速検出手段で検出された車速が所定値以下の低速である場合、前記要求トルク検出で検出した要求トルクに対応する出力トルクを一定範囲内に制限する出力トルク制限手段と、この出力トルク制限手段で制限された出力トルクとなるように、前記電源から前記モータに供給する電力を制御する制御回路と、を具備することを特徴とする電気自動車。」 II.異議申立の理由の概要 異議申立人 梅津雅由は、本件発明は甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件発明の特許は、同法113条2号に該当し、取り消されるべきであると主張する。 III.甲第1号証(特開昭62-217805号公報)記載の発明 甲第1号証(以下、引用例という。)には、「ところで、上述したように電気自動車のような車両の駆動用に使用される交流モータを駆動するインバータに使用されるトランジスタにおいても最大定格を超えるような過電流が流れた場合にトランジスタの破損を防止するために、最大定格を超えた過電流を検出し、これによりトランジスタを遮断することが従来行われている。上述したように、最大定格には絶対最大定格と連続最大定格があり、過電流が連続使用最大定格のみを超えた場合にはトランジスタは直ぐには破損するわけではないので、一時的に電流を最大定格以下に低下させる程度でよいものである。」(2頁右下欄2行乃至13行)、「この発明は、上記に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、過電流の検出レベルを複数設け、連続使用最大定格に相当するレベルを超えただけでは遮断することなく電流レベルを低下させるようにすることによりモータの動作を円滑にした交流モータの制御装置を提供することにある。」(3頁左上欄3行乃至9行)、「このモータ21によって車両、例えばフォークリフト等の電気自動車を駆動しているものである。そのため、本装置は車両の走行速度を加減速制御するためのアクセル踏込量Aを検出するアクセル踏込量検出器23を有し、このアクセル踏込量検出器23で検出したアクセル踏込量A、すなわち加減速信号AはI/Oインターフェース25を介してCPU27に供給されている。」(3頁右上欄15行乃至左下欄3行)、「第1の基準電流レベルIR1は例えばインバータ41を構成するトランジスタやサイリスタ等のスイッチング素子の連続使用最大定格に設定され、」(3頁右下欄15行乃至18行)、「CPU27は以下に説明するように第1のコンパレータ53から第1の検出信号を受けたときにはインバータ41が過電流で破損するのを防止すべくインバータによりモータ21に流れる電流を低減するようにI/Oインターフェース25を介してPWM発生器39およびインバータ41を制御し、」(4頁8行乃至14行)、「まず、CPU27はI/Oインターフェース25を介してアクセル踏込量Aおよびモータ回転数foを読み込む(ステップ110、120)。この読み込んだアクセル踏込量A、モータ回転数foに基づき、モータ印加電圧指令信号V*とすべり周波数指令信号fs*をステップ130、140に示す式により演算する。」(4頁左上欄20行乃至右上欄6行)、「第1の基準電流レベルIR1は上述したように連続使用最大定格に設定されているレベルであり、モータ電流がこの電流レベルを一時的に超えたとしても直ぐにインバータ41のスイッチング素子は破損するものではないので、この場合にはステップ180に進んでアクセル踏込量Aを所定値△A低減した値(A-△A)によりモータ印加電圧指令信号V*およびすべり周波数指令信号fs*を演算し、これらの信号に基づいてステップ170で示す式で低減したモータ駆動指令信号V*を算出し、この指令信号によりインバータ41を介してモータ21を駆動して、モータ電流を第1の基準電源レベルIR1よりも低減し、インバータ41のスイッチング素子を保護するようにしている。」(4頁左下欄18行乃至右下欄12行)と記載されていることが認められる。 ところで、アクセル踏込量は運転者が要求するトルクといえ、引用例はアクセル踏込量をアクセル踏込量検出手段23で検出し、その出力信号であり、かつ要求電流を表す信号である加減速信号AをCPU27で処理しているのであるから要トルク検出手段を有することは明らかであり、また、モータのトルクが電流と比例関係にあることは周知事項であり、この周知事項を考慮すると引用例の、モータ電流が連続使用最大定格を超えたときにアクセル踏込信号Aを所定量△A低減した値に基づくモータ駆動指令信号を算出するCPU27は要求トルク検出手段で検出した要求トルクに対応する出力トルクを一定範囲内に制限する出力トルク制限手段ということができる。 そうすると、引用例には「車両の駆動用トルクを電気的に発生させるモータと、このモータに電力を供給する電源と、車速を検出する車速検出手段と、要求されている要求トルクを検出する要求トルク検出手段と、連続使用最大定格に相当するモータ電流を検出しモータ電流が連続使用最大定格を超えた場合、要求トルク検出手段で検出した要求トルクに対応する出力トルクを一定範囲内に制限する出力トルク制限手段と、この出力トルク制限手段で制限された出力トルクとなるように、電源からモータに供給する電力を制御する制御回路とを具備する電気自動車」が開示されていると認めることができる。 III.対比・判断 本件発明と引用例とを対比すると、両者は「車両の駆動用トルクを電気的に発生させるモータと、このモータに電力を供給する電源と、車速を検出する車速検出手段と、要求されている要求トルクを検出する要求トルク検出手段と、要求トルク検出手段で検出した要求トルクに対応する出力トルクを一定範囲内に制限する出力トルク制限手段と、この出力トルク制限手段で制限された出力トルクとなるように、電源からモータに供給する電力を制御する制御回路とを具備する電気自動車」の点で一致し、本件発明が車速検出手段で検出された車速が所定値以下の低速である場合に出力トルクを一定範囲内に制限するのに対し、引用例が連続使用最大定格に相当するモータ電流を検出しモータ電流が連続使用最大定格を超えた場合に出力トルクを一定範囲内に制限する点で相違する。 そこで、前記相違点について検討する。 本件明細書の、「このような電気自動車では、電気モータが完全に停止しまたは略停止している状態では、駆動用電源から電気モータヘの供給電流(電力)を制御する制御回路の一部、例えば、特定のIGBTのみに過大は負荷が集中してしまう。そしてこの状態が長時間継続してしまうと、負荷が集中する制御回路の一部(IGBT等)を損傷する恐れがある。」(【0003】段落)との記載、「そこで、本発明の目的は、車速が所定値以下の低速になっても、駆動用電源から電気モータヘの供給電力を制御する制御回路の損傷を回避することが可能な電気自動車を提供することにある。」(【0004】段落)との記載によれば、本件発明が前記相違点に係る構成を採用したのは電気自動車が完全に停止または略停止している状態では電気自動車の電気モータの供給電流を制御する制御回路の特定のIGBTのみに過大な負荷が集中し、この状態が長時間継続することによって生じる制御回路をするスイッチング素子の損傷を回避するためと認められる。 ところで、本件発明の実施例として本件明細書に記載されているIGBT等のスイッチング素子からなるブリッジ回路によるモータ制御装置は引用例1にインバータとしても示されているように従来周知の制御装置であって、この制御装置は、これを構成するあるスイッチング素子から次のスイッチング素子へと切り換える間隔を制御して所望の周波数を得ることをその技術原理としているのであるから、切り換える間隔は周波数(モータの回転数)が低くなるほど長くなり、個々の素子に流れる電流による発熱のピーク値が大きくなることは当然の現象といえ、この状態で過電流を流すと素子破壊につながるという問題点が生じることは当業者が技術常識として理解できることであって、そして、引用例の電気自動車においても低速走行時、すなわち、モータ回転数が小さい時にかかる問題点が存在することは容易に認識できることといえる。 しかるところ、引用例はスイッチング素子の連続使用最大定格を超える電流がどのような原因によって流れるかについて示すものではないが、スイッチング素子に流れる過電流によってスイッチング素子が破損されることを回避するとの観点では本件発明の技術的課題と共通するものであるから、引用例に接した当業者であれば、前記問題点を回避しようとすること、すなわち、本件発明の車速が所定値以下の低速になっても、駆動用電源から電気モータヘの供給電力を制御する制御回路の損傷を回避するとの技術的課題は容易に予測できるというべきである。 そして、前記課題を解決するにはスイッチング素子に流れる過大電流によってスイッチング素子が破損される状態になる所定の車速を検出して足りるのあるから、これを引用例の車速検出手段で検出するように構成することは何ら困難な事ではない。 したがって、本件発明の前記相違点に係る構成は当業者が容易に想到できたものである。 IV.むすび 以上のとおり、本件発明は引用例記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は特許法29条2項の規定に違反してなされたものであり、同法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。 |
異議決定日 | 1999-10-27 |
出願番号 | 特願平8-356276 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Z
(B60L)
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最終処分 | 取消 |
前審関与審査官 | 本庄 亮太郎 |
特許庁審判長 |
大森 蔵人 |
特許庁審判官 |
岩本 正義 祖父江 栄一 |
登録日 | 1998-07-03 |
登録番号 | 特許第2796711号(P2796711) |
権利者 | 株式会社エクォス・リサーチ |
発明の名称 | 電気自動車 |
代理人 | 仲野 均 |
代理人 | 光石 忠敬 |
代理人 | 川井 隆 |
代理人 | 光石 俊郎 |
代理人 | 田中 康幸 |