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審決分類 |
審判 一部無効 4項(5項) 請求の範囲の記載不備 無効としない D06M 審判 一部無効 2項進歩性 無効としない D06M |
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管理番号 | 1016171 |
審判番号 | 審判1995-10186 |
総通号数 | 12 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1985-10-29 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 1995-05-12 |
確定日 | 1999-11-05 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第1736102号発明「ポリエステル繊維編織物の減量加工法および装置」の特許無効審判事件についてされた平成8年11月11日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成8年(行ケ)第316号、平成10年9月1日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
I.手続の経緯 1.出願・設定登録 本件特許第1736102号は、昭和59年4月11日に出願され、平成4年4月27日に特公平4-24461号として出願公告がされた後、平成5年2月26日に設定の登録がされた。 2.特許無効審判の請求 (1)これに対して、請求人は、平成7年5月10日に、本件特許の特許請求の範囲第1項に記載された発明についての特許につき無効審判を請求した。 (2)同請求は、本事件として審理され、平成8年11月11日、特許第1736102号の特許請求の範囲第1項に記載された発明についての特許を無効とする審決がされた。 3.特許無効審決取消の訴え 被請求人は、平成8年12月19日、本件請求の請求人を被告として、結論同旨の判決を求めた。 4.訂正審判の請求 (1)被請求人は、上記裁判継続中の平成9年12月16日、本件明細書の特許請求の範囲および発明の詳細な説明の記載を訂正する旨の訂正審判を請求した。 (2)同請求は、平成9年審判第21137号として審理され、平成10年3月12日、訂正を認容する審決がされ、該審決は確定した。 5.裁判事件 その後、上記訴えに対して、東京高等裁判所において、平成8年11月11日付けの特許を無効とする審決に対し、審決取消の判決(平成8年(行ケ)第316号、平成10年9月1日判決言渡)があった。 6.無効審判の再開 上記判決があったので、審理を再開し、請求人に対し、特許明細書が訂正された旨の通知をし、意見又は補充する証拠を提出する機会を与えたが、何の応答もなかった。 II.当事者適格について 本件審判請求においては、請求人と被請求人の間で当事者適格が争われている。 すなわち、被請求人は、 「請求人の代表者は、本件特許の発明者の一人であって、その発明に至るのに特許権者の資金設備を利用しており、出願に際し特許を受ける権利を本件特許権者に譲渡し、その対価として補償金を受領している」こと、および 「また、『株式会社アナック』は、代表者たる『田中伊佐男』個人に係る会社であって、事実上形骸化している」ことを指摘し、 「かかる事実を考慮すると、本件審判請求人は、実質的に『株式会社アナック』の代表者たる『田中伊佐男』個人とみることができ、信義則からして、本件特許の効力を損なうような行為はなし得ないものと思料する」ので、請求人適格を欠如するものであると答弁書で主張している。 そこで、まずこの点について検討する。 本件審判請求人は、田中伊佐男個人ではなく法律的に認められた法人である株式会社アナックであることは会社登記簿謄本から明かであるから、「株式会社アナック」は代表者たる「田中伊佐男」個人に係る会社であって、事実上形骸化している、という被請求人の主張は何等根拠のないものである。 また、該法人は請求人提出の製品カタログからみて、ポリエステル繊維編織物の減量加工に関連する製品を製造販売しており、これに対して、被請求人より該行為は被請求人の特許第1736102号の権利を侵害するものであるとして警告を受けていることは、警告の写しから明らかであり、特許が無効であると判定されることによって請求人は不当な権利行使から免れる立場にあるから、本件特許の無効審判請求人は請求人適格がないとする、被請求人の主張は根拠がないというべきである。 なお、田中伊佐男は本件特許発明の発明者の一人であるから、特許権者と田中伊佐男個人との間に緊密な協力関係にあったけれども、請求人は「株式会社アナック」であり田中伊佐男個人ではなく、また、田中伊佐男が実質的に「株式会社アナック」の所有者としても、被請求人の前記警告により前記協力関係が解消された事情にあるものと解されるから、本件無効審判請求に及んだことに信義則に違反があるものとは認め難い。 III.無効理由の有無について 1.訂正された本件発明 本件無効審判に係る発明の要旨は、訂正が認容された明細書および図面の記載からみて、その特許請求の範囲第1項に記載された次のとおりのものにあると認める。 「A.所望濃度の塩基性物質を含む処理浴中にポリエステル繊維を含む編織物を入れてポリエステル繊維を加水分解させるポリエステル繊維を含む編織物の減量加工法において、 B.予め処理浴中に既知量の塩基性物質を投入して20〜150(gr/l)の所定濃度の塩基性物質を含む処理浴を作製し、 C.塩基性物質の濃度の変化が小さくかつ塩基性物質の濃度及びポリエステル繊維を含む編織物の減量率が処理時間に対してほぼ直線状に変化する範囲内で減量加工を実行し、 D.処理浴中の塩基性物質の濃度の減少または加水分解生成物の濃度の増加を中和滴定装置により自動的かつ経時的に測定し、 E.消費された塩基性物質または生成された加水分解生成物の量が目的減量率に到達するまでに消費される塩基性物質または生成された加水分解生成物の推定量と一致した時点を減量加工の終点とする ことを特徴とするポリエステル繊維編織物の減量加工法」 (以下、これを「本件発明」という。なお、符号A〜Eは便宜上付した。) 2.請求人の主張 これに対し、請求人は、本件特許請求の範囲第1項に係る特許はこれをこれを無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、証拠として甲第1号証ないし甲第11号証を提出すると共に、その理由として、 〔1〕本件発明は、 1)甲第2号証に記載された発明に基づいて、 2)甲第5号証または甲第8号証に記載された発明に基づいて、 3)甲第4号証及び甲第5号証または甲第8号証に記載された発明に基づいて 4)甲第9号証または甲第9号証および甲第2号証に記載された発明に基づいて、 当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである 〔2〕本件特許は、特許請求の範囲に発明の詳細な説明に記載された発明に欠くことのできない事項が記載されていない点で、特許法第36条第5項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである 点を挙げ、本件特許請求の範囲第1項に係る特許は特許法第123条第1項第1号および第3号の規定により無効とすべきものである旨主張するものである。 上記の事実を証明するため、請求人は次の証拠を提出している。 (1)甲第1号証:本件特許公報(特公平4-24461号公報) (2)甲第2号証の1:「melliand TEXTILBERICHTE INTERNATIONAL TEXILEREPORTS」、1982年2月発行の表紙 甲第2号証の2:同上書の第164頁 甲第2号証の3:同上書の奥付 (3)甲第3号証:甲第2号証の2の和訳 (4)甲第4号証の1:日本染色工業研究会編集、株式会社染色社発行「染色工業」、1977年7月号、第25巻第7号No.286、昭和52年7月20日発行の表紙 甲第4号証の2〜5:同上書の第350頁〜353頁 甲第4号証の6:同上書の奥付 (5)甲第5号証の1:繊維社発行「加工技術」、1979年1月号、昭和54年1月10日発行の表紙 甲第5号証の2〜3:同上書の6頁〜7頁 甲第5号証の4:同上書の奥付 (6)甲第6号証の1:株式会社繊維研究社発行「繊維加工」、1981年7月号、第33巻第7号、No.7、昭和56年7月20日発行の表紙 甲第6号証の2:同上書の336頁 甲第6号証の3:同上書の奥付 (7)甲第7号証の1:繊維社発行「加工技術」、1985年11月号、昭和60年11月10日発行の表紙 甲第7号証の2:同上書の55頁 甲第7号証の3:同上書の奥付 (8)甲第8号証の1:繊維社発行「加工技術」、1981年10月号、昭和56年10月10日発行の表紙 甲第8号証の2〜3:同上書の10頁〜11頁 甲第8号証の4:同上書の奥付 (9)甲第9号証の1:京都府織物指導所の研究報告書、昭和57年度版、(1983年(昭和58年)7月21日付で大阪工業技術試験所の図書館に寄贈)の表紙 甲第9号証の2:同上書の目次 甲第9号証の3:同上書の中表紙 甲第9号証の4〜13同上書の37頁〜46頁 (10)甲第10号証の1:信州大学繊維学部発行「続絹糸の構造」、1980年(昭和55年)3月発行の表紙 甲第10号証の2〜5:同上書の499頁〜502頁 甲第10号証の6:同上書の奥付 (11)甲第11号証の1:株式会社地人書館発行「繊維化学」、昭和42年11月30日初版発行の表紙 甲第11号証の2:同上書の13頁 甲第11号証の3:同上書の16頁 甲第11号証の4:同上書の63頁 甲第11号証の5:同上書の奥付 4.当審の判断 (1)上記〔1〕の主張に対して 当該主張は、要するに、本件発明は甲第2号証および甲第4号証〜甲第9号証に記載された発明から容易に発明をすることができたというにあると解されるので、甲第2号証、甲第4号証〜甲第9号証、さらに甲第10号証および甲第11号証に記載された発明について、本件発明と対比して検討する。 (i)甲号証の記載 請求人が提出した甲第2号証、甲第4号証〜甲第11号証には次の記載があることが認められる。 甲第2号証: [記載2-イ]「アルカリ処理によるポリエステル繊維の減量率を追跡するためには、迅速で場合によっては連続で測定する方法が必要である」旨の記載(甲第2号証の2:164頁左欄3行〜5行、甲第3号証の訳文参照)、 [記載2-ロ]「苛性ソーダを使用したポリエステルの加水分解は、化学量論的に反応するため、次のように処理浴中のテレフタル酸CTSの量を重量減少ΔGの尺度として扱える。 ΔG=α・CTS 比例係数αは次の条件で決定される。 -アルカリ濃度 -処理浴 -ポリエステル繊維の履歴 -反応温度 -反応時間 -促進剤の種類と濃度 従って、テレフタル酸の濃度を測定することは間接的に減量率を確定する方法として適切である。実際に測定できる方法が下記の通り提案された。 a)UV測光法 b)テレフタル酸の電位差滴定法 c)残留NaOHの滴定法 d)伝導率」 旨の記載(同:同頁左欄9行〜24行,訳文参照)、 [記載2-ハ]「実際にはアルカリ処理は短時間で行われているため、迅速に測定するには連続的に測定するか少なくとも2分程度で測定できる方法を必要とする。従って、滴定法は条件付きで採用できる。・・・(中略)...従って、減量率の連続的測定には、直接測定できる伝導率法が最適と判断する。」旨の記載(同:同頁左欄30行〜41行、訳文参照)、 [記載2-ニ]「このように伝導率測定法を用い、促進剤添加の下、10g/lNaOH、温度110℃で、処理時間を変えて得られた結果を他の方法と比較したものを表に示した。 これから、伝導率測定法が測定精度の範囲内で良く一致していることが分かる。 要約 アルカリ処理浴中の比伝導率は、テレフタル酸の生成により減量率がおおきくなるに従い直線関係が小さくなる。5〜20g/lの範囲でNaOHの初期濃度に関係なく、伝導率の減少は、テレフタル酸1g/l当たり1.6mS・cm-1になる。 従って、減量率の連続的測定には、直接測定のできる伝導率測定法が適しており、実際上十分に正確なデータが得られることが分かる。 伝導率測定法を採用することにより、減量率を連続してモニターすることが可能である。」旨の記載(同:同頁右欄第1-22行、訳文参照) 甲第4号証: [記載4-イ]「一方、減量加工処理では、ポリエステル繊維の強度低下は大なり小なり避けることができず、下手な加工をすると、加工商品を全く使いものにならないほどに弱らせてしまうことにもなりかねない危険性を含んでいる。」(甲第4号証の2:350頁右欄6行〜10行)、 [記載4-ロ]「減量加工方法は至って簡単で、カセイソーダ水溶液中でポリエステル繊維を加熱処理すると、繊維が加水分解を受けて減量される。」(同:同欄14行〜16行)、 [記載4-ハ]「減量加工は、ポリエステル繊維のもつ硬直な感じをなくして、ドレープ性の良いしなやかな風合いにする目的で行われるのではあるが、何といっても、処理後得られる減量率を自由にコントロールできなければ、風合いまたは強度のコントロールができないことは容易に想像できるし、また、減量加工効果の目安として通常使われるのが減量率であるから、まず一番初めに考えねばならないことは減量率のコントロールの方法であろう。 もちろん、処理方法によって若干異なるが、浸せき処理を想定すると、減量率に影響を与える条件として次のようなものがある。 処理浴中のカセイソーダの濃度 処理浴中の助剤の種類と濃度 処理温度 処理時間 浴比 実際の現場では、これらの諸条件をいろいろ変えて減量率をコントロールしている。」 (同:同欄末行〜甲第4号証の3:351頁18行) 甲第5号証: [記載5-イ]「ポリエステル繊維が硬いのは結晶化度の高い部分が表皮を形成しているためである。この硬い表皮をアルカリで加水分解し、溶解させるとポリエステル繊維は柔軟になり、絹に類似した風合いになり製品の付加価値を高める。 ポリエステル強撚糸織物などのアルカリ加水分解によって、風合改良を行う減量加工は、ジョーゼットにニット様のスムースなドレープ性を付加し、今日のジョーゼットブームの原因となった風合をもたらし、広く応用されている。」(甲第5号証の2:6頁左欄6行〜末行)、 [記載5-ロ]「ポリエステル繊維を水酸化ナトリウムで加水分解すると、テレフタール酸ナトリウムとエチレングリコールに分解されて水可溶性となり、未反応の残留繊維成分は何ら、その重合度に変化を受けず下記のような反応でポリエステル繊維を減量する。 (反応式の記載省略)」 (甲第5号証の3:7頁左欄2行〜9行) 甲第6号証: [記載6-イ]「減量率の増大にともない、強度、伸度が大きく低下するため、対象とする糸の繊度、撚数、形態等を考慮して、減量率を設定する必要がある。」(甲第6号証の2:336頁の要旨(2))、 [記載6-ロ]「ポリエステル繊維が、苛性ソーダ等のアルカリ水溶液に溶解することを応用して、風合いの改良を行なうことを目的としたものを、通常、N処理と呼んでいるが、これをさらに押し進めて、より絹に近い風合いを付与する加工を減量加工と称している。 これは、ポリエステル繊維が、アルカリ水溶液で加水分解されることを利用したものであり、一般的にはデシン、楊柳、ジョーゼットなどの布地に対して加工がほどこされている。」 (同:同頁の緒言の欄1-9行) 甲第7号証: [記載7]「ここで浴中方式での当システムの減量率測定方法を従来の方法と比較して説明する。従来法の場合、まず処理浴の初浴(減量前)のアルカリ濃度を一定になるように調整した後、一定温度で一定時間減量加工を行うか、同質同布をサンプル布として添付し、経時的にその布を取り出して重量変化を測定する、といった方法がとられている。」(甲第7号証の2:55頁右欄2-8行) 甲第8号証: [記載8]「ポリエステル繊維を水酸化ナトリウムで加水分解すると、テレフタール酸ナトリウムとエチレングリコールに分解され、水可溶性となり未反応の残留部分はその集合度に変化を受けず、下記のような反応でポリエステル繊維を減量できる。 (反応式の記載省略) 理論的には、ポリエステルモノマー1molに対し水酸化ナトリウム2molでよい。」(甲第8号証の2、3:10頁右欄30行〜11頁左欄4行) 甲第9号証: 絹織物の精練加工(減量加工)に関するものであって、所定濃度の塩基性物質(メタ珪酸ソーダ)を含む浴中に絹織物を入れて減量加工する方法において、浴中に生成する反応生成物(セリシン)の濃度を経時的に測定し、この測定値に基づいて減量加工の終点を決定する方法についての開示(甲第9号証の4〜11) 甲第10号証: 絹織物の精練に関するものであって、精練によってフィブロインの周りのセリシンが溶出し、2本のフィラメントに分離するものであり、精練の程度を変えることによって微妙に風合いの違う織物を作ることもできる旨の開示(甲第10号証の3) 甲第11号証: 「絹は家蚕より得られる生糸、さく蚕などより得られる野蚕糸を精練によって表面を脱膠した中央部のフィブロインだけの繊維およびこれを原料とした繊維製品(糸、組物、編物、織物)の総称である。」(甲第11号証の2:13頁3〜5行) 〔なお、「記載1-イ」等の符号は便宜上付した。〕 (ii)対比・検討 甲第4号証〜甲第8号証に記載される技術を総合すると、上記記載4-ロ、記載5-イ、記載5-ロ、記載6-ロ、記載8からみて「所要濃度の塩基性物質を含む処理浴中にポリエステル繊維を含む編織物を入れてポリエステル繊維を加水分解させるポリエステル繊維を含む編織物の減量加工方法において」(本件発明の上記構成Aに相当する。)の構成、および前記記載4-イ、記載4-ハ、記載6一イ、記載7からみて、「減量加工において、処理されているポリエステル繊維編織物の、処理浴中での処理状態を何らかの方法により知り、処理を終了する時点を決定しなければならないこと」が本件に係る出願の出願前に周知であったと解することができる。 そこで、本件発明と上記周知発明とを対比すると、上述したように、周知発明は、本件発明の構成Aを有するものであり、本件発明における「処理浴中の塩基性物質の濃度の減少または加水分解生成物の濃度の増加」を「経時的に測定すること」は、ポリエステル繊維を含む編織物の減量加工の処理状態を知るという上位概念に含まれるから、両者は、「所要濃度の塩基性物質を含む処理浴中にポリエステル繊維を含む編織物を入れてポリエステル繊維を加水分解させるポリエステル繊維を含む編織物の減量加工方法において」、「処理浴中のポリエステル繊維を含む編織物の減量状態を知って終点を決定するポリエステル繊維編織物の減量加工方法」である点において一致し、本件発明が上記構成C〜Eを有するものであるのに対し、前記周知発明においてはその点が不明である点で相違する。 すなわち、 ▲1▼本件発明が有する構成C、 「塩基性物質の濃度の変化が小さくかつ塩基性物質の濃度及びポリエステル繊維を含む編織物の減量率が処理時間に対してほぼ直線状に変化する範囲内で減量加工を実行」する点 ▲2▼本件発明が有する構成D、 「処理浴中の塩基性物質の濃度の減少または加水分解生成物の濃度の増加を中和滴定装置により自動的かつ経時的に測定する」点 ▲3▼本件発明が有する構成E、 「消費された塩基性物質または生成された加水分解生成物の量が目的減量率に到達するまでに消費される塩基性物質または生成された加水分解生成物の推定量と一致した時点を減量加工の終点とする」点 については、周知発明において不明である。 そこで、上記相違点について検討する。 甲第2号証には、ポリエステル繊維を含む編織物ではないが、ポリエステル繊維のアルカリ処理による減量である点では共通する処理において、ポリエステル繊維のアルカリ処理による減量率を追跡するには、迅速、場合によっては連続的に測定する方法が必要であること(記載2-イ)、迅速に測定するには、連続的、少なくとも2分程度で測定できる方法が必要であること(記載2-ハ)が開示されており、このことからポリエステル繊維をアルカリ、換言すれば塩基性物質、を含む処理浴による処理による減量の状態を知るには、迅速な、場合によっては連続的に測定する方法、すなわち経時的な方法によって測定することが必要であることが理解される。 また、該甲第2号証には、ポリエステル繊維のアルカリ物質による処理は加水分解反応であり、該反応は化学量論的で、処理浴中のテレフタル酸の量の測定はポリエステル繊維の重量減少の尺度となり、間接的に減量率を確定する方法として適切であること、実際に測定できる方法としてテレフタル酸の電位差滴定法、残留NaOHの滴定法が減量率の測定方法として知られていること(記載2-ロ、記載2-ハ)、減量率の測定結果(記載2-ニ)も開示されている。 しかしながら、該記載2-ニの減量率の測定は、10g/lNaOHで実施されたものであって、本件発明の構成Bの濃度20〜150gr/lの範囲をはずれるものであり、また、該表の測定結果からみると、実施範囲が「塩基性物質の濃度の変化が小さくかつ塩基性物質の濃度及びポリエステル繊維を含む編織物の減量率が処理時間に対してほぼ直線状に変化する範囲」にあるとはいえない。 さらに、記載2-ハによれば、「滴定法は条件付きで採用できる」旨説明されており、滴定法による連続的測定法まで開示するものでもない。 そうすると、甲第2号証に、「20〜150(gr/l)の所定濃度の塩基性物質を含む処理浴」による処理を、「塩基性物質の濃度の変化が小さくかつ塩基性物質の濃度及びポリエステル繊維を含む編織物の減量率が処理時間に対してほぼ直線状に変化する範囲」において、「中和滴定装置により自動的かつ経時的に測定する」点の技術的思想が開示されているとは認められない。 また、他の甲号証の記載を検討しても、上記の技術的思想を開示するものは見当たらない。 それに対し、本件発明は、上記の技術的思想に基づいて、本件発明の構成C〜E(上記▲1▼〜▲3▼の構成)を採用するものであり、その構成を採用することによって、明細書記載の所定の作用効果(明細書11頁16〜18行)を奏することができたものと認められる。 したがって、上記周知発明に甲第2号証記載の技術を適用し、またその他の甲号証に記載された技術を考慮しても、上記▲1▼〜▲3▼に係る構成が当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。 なお、請求人は、本件発明は甲第9号証に記載された発明から容易に発明をすることができたものである旨の主張もしているが(上記〔1〕-4)、甲第9号証は絹織物の精練に関するものであり、その記載は「所定濃度の塩基性物質を含む浴中に絹織物を入れて減量加工する方法において、浴中に生成する反応生成物の濃度を経時的に測定し、この測定値に基づいて減量加工の終点を決定する方法」の開示に留まり、ポリエステル繊維編織物の減量加工の具体的構成(上記構成C〜E)まで示唆するものではない。 よって、甲第2号証、甲第4号証〜甲第11号証の記載をもってしては、本件発明を当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、本件発明についての特許を、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとすることができない。 (2)上記〔2〕の主張に対して 当該主張の要点は、「ポリエステル繊維編織物を所定の減量率に処理する具体的方法」について、特許請求の範囲における「処理浴中の塩基性物質の濃度の減少又は加水分解生成物の濃度の増加を経時的に測定する」の記載では不充分であり、発明に詳細な説明に記載した発明の構成に欠くことができない事項が特許請求の範囲に記載されていない、というにある。 しかしながら、本件明細書の特許請求の範囲第1項の記載は前示のとおり訂正され、当該「具体的方法」についても限定された構成が「発明の構成に欠くことができない事項」として記載されており、請求人が記載がないと主張する事項も充分に記載されたものとなっている。 したがって、その点で特許請求の範囲の記載に不備があるとすることはできず、上記〔2〕の主張は採用できない。 IV.むすび 以上のとおりであるから、請求人が主張する理由および提出した証拠方法によっては、本件特許を無効とすることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 1999-08-04 |
結審通知日 | 1999-08-17 |
審決日 | 1999-08-26 |
出願番号 | 特願昭59-72279 |
審決分類 |
P
1
122・
121-
Y
(D06M)
P 1 122・ 532- Y (D06M) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 渕野 留香 |
特許庁審判長 |
石井 勝徳 |
特許庁審判官 |
佐藤 雪枝 鈴木 美知子 船越 巧子 村本 佳史 |
登録日 | 1993-02-26 |
登録番号 | 特許第1736102号(P1736102) |
発明の名称 | ポリエステル繊維編織物の減量加工法および装置 |
代理人 | 蔦田 正人 |
代理人 | 橋本 ▲きよし▼ |
代理人 | 蔦田 璋子 |
代理人 | 竹内 三郎 |