ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 全部申し立て 発明同一 C22C |
---|---|
管理番号 | 1016586 |
異議申立番号 | 異議1998-73759 |
総通号数 | 12 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1989-11-22 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 1998-07-27 |
確定日 | 2000-01-12 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第2713980号「Fe基軟磁性合金」の請求項1ないし2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第2713980号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 本件特許第2713980号号の請求項1及び請求項2に係る発明についての出願は、昭和63年5月17日に出願され、平成9年10月31日にその発明について特許の設定登録がなされ、その後、その特許について特許異議の申立てがなされ、取消通知がなされ、その指定期間内である平成11年2月10日に訂正請求がなされ、さらに、訂正拒絶理由通知がなされ、その指定期間内である平成11年8月20日に訂正請求書の補正がなされ、再度、平成11年10月18日に訂正拒絶理由通知の手交がなされると同時に訂正請求書の補正がなされたものである。 2.訂正の要旨 ▲1▼特許請求の範囲の請求項1の「・・・微細結晶粒を有することを特徴とする・・・」を「・・・微細結晶粒が合金中に面積比で30%以上存在し、その中で結晶粒径50〜300Aの結晶が80%以上存在する合金を薄帯形状で高周波磁心に適用することを特徴とする・・・」と訂正し、 請求項2の「微細結晶粒は合金中に面積比で30%以上存在し、その中で結晶粒径50〜300Aの結晶が80%以上存在することを特徴とする請求項1のFe基軟磁性合金」を 「一般式 Fe100-a-b-cCuaMbYc M:周期律表IVa,Va,VIa族元素またはMn,Co,Ni,Alから選ばれる少なくとも1種以上 Y:Si,B,P,Cから選ばれる少なくとも1種以上 3<a≦8 (原子%) 0.1≦b≦8 3.1≦a+b≦12 15≦c≦28 で表わされ、微細結晶粒が合金中に面積比で30%以上存在し、その中で結晶粒径50〜300Aの結晶が80%以上存在する合金を薄帯形状でセンサー用磁性部品に適用することを特徴とする高飽和磁束密度で優れた軟磁気特性を有するFe基軟磁性合金。」と訂正する。 ▲2▼明細書第5頁15行の「特に」を「次に示す」に、同頁第17行の「特に」を「具体的には」に、同頁同行の「は」を「が」に、同頁18行の「ことが好ましく」を「と共に」に、同頁18〜19行の「ことが好ましい」を「ものである」に、同8頁7行の「により得る」を「により薄帯を得る」に、同第9頁9行の「合金は」を「合金薄帯は」に、それぞれ訂正する。 ▲3▼平成1年8月11日付け手続補正書の6の(5)の第8頁7行「また、スパッタ法、蒸着法等により上記と同様の特性を薄膜として得ることも可能となる。」、明細書第7頁20行〜第8頁1行の「あるいは、アトマイズ法などにより急冷粉末を得た後」、同第9頁2〜3行の「薄膜ヘッド」を、それぞれ削除する。 3.訂正の適否についての判断 3-1.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否 平成11年10月18日付けの訂正請求書の補正は、平成11年2月10日付け訂正請求書に記載された事項をさらに減縮するものであり、請求書の要旨を変更するものではないから、以下、平成11年10月18日付けの手続補正書(訂正請求書)に記載された訂正の要旨に基づいて訂正の適否を検討する。 ▲1▼の訂正は、「微細結晶粒」を、明細書第5頁17行〜末行の「特に微細結晶粒は、・・・ことが好ましい。」なる記載に基づき、その面積比及び結晶粒度の割合を粒径とその粒径の結晶粒が占める割合で限定するものであり、特許法第120条の4第2項ただし書第1号の特許請求の範囲の減縮に該当し、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 ▲2▼及び▲3▼の訂正は、▲1▼の訂正による特許請求の範囲の記載と整合させるために、明細書の記載を訂正及び削除することにより明りょうとするものであり、特許法第120条の4第2項ただし書第2号の明りょうでない記載の釈明に該当し、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。 3-2.独立特許要件 (本件発明) 本件請求項1及び請求項2に係る発明は、訂正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び請求項2に記載された次のとおりのものである。 「【請求項1】一般式 Fe100-a-b-cCuaMbYc M:周期律表IVa,Va,VIa族元素またはMn,Co,Ni,Alから選ばれる少なくとも1種以上 Y:Si,B,P,Cから選ばれる少なくとも1種以上 3<a≦8 (原子%) 0.1≦b≦8 3.1≦a+b≦12 15≦c≦28 で表わされ、微細結晶粒が合金中に面積比で30%以上存在し、その中で結晶粒径50〜300Aの結晶が80%以上存在する合金を薄帯形状で高周波用磁心に適用することを特徴とする高飽和磁束密度で優れた軟磁気特性を有するFe基軟磁性合金。 【請求項2】一般式 Fe100-a-b-cCuaMbYc M:周期律表IVa,Va,VIa族元素またはMn,Co,Ni,Alから選ばれる少なくとも1種以上 Y:Si,B,P,Cから選ばれる少なくとも1種以上 3<a≦8 (原子%) 0.1≦b≦8 3.1≦a+b≦12 15≦c≦28 で表わされ、微細結晶粒が合金中に面積比で30%以上存在し、その中で結晶粒径50〜300Aの結晶が80%以上存在する合金を薄帯形状でセンサー用磁性部品に適用することを特徴とする高飽和磁束密度で優れた軟磁気特性を有するFe基軟磁性合金。」 (取消理由の概要) 取消理由は、本件請求項1及び請求項2に係る発明は、特願昭62-307273号の願書に最初に添付した明細書又は図面(特開平1-149940号公報参照)に記載された発明(以下、「先願明細書に記載された発明」という。)と同一であり、両者は、発明者が同一であるとも、出願時において出願人が同一であるとも認められないから、本件請求項1及び請求項2に係る発明の特許は、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものである、というものである。 (先願明細書に記載された発明) 先願明細書には、 「(1)一般式 (Fe1-aMa)100-x-y-zーαーβーγーδCuxSiyBzM’αM″βXγYδ(原子%) (ただし、MはCo及び/又はNiであり、M’はNb,W,Ta,Zr,Hf,Ti及びMoからなる群から選ばれた少なくとも1種の元素、M″はV,Cr,Mn,Al,白金属元素,Sc,Y,希土類元素,Au,Zn,Sn,Reからなる群から選ばれた少なくとも1種の元素、XはC,Ge,P,Ga,Sb,In,Be,Asからなる群から選ばれた少なくとも1種の元素、YはLi,Mg,Ca,Sr,Ba,Ag,Cd,Pb,Bi,N,O,S,Se及びTeからなる群から選ばれた少なくとも1種の元素であり、a,x,y,z,α,β,γ及びδはそれぞれ 0≦a<0.5,3≦x≦10,0≦y≦30,0≦z≦25,0.1≦α≦30,0≦β≦10,0≦γ≦20及び0≦δ≦2を満たす。)により表される組成を有し、組織の少なくとも50%が微細な結晶粒からなり、前記結晶粒の最大寸法で測定した粒径の平均が1000Å以下の平均粒径を有することを特徴とするFe基磁性合金。」(特許請求の範囲第1項) が記載され、また、 「本発明は高周波帯で用いるのに適するFe基磁性合金、特に圧粉磁心や磁気シールド材に適する粉末化が容易で組織の大半が超微細な結晶粒からなるFe基磁性合金に関するものである。」(第2頁左上欄4〜7行) 「本発明合金は、主に1000Å以下の粒径の超微細な均一に分布した結晶粒からなるが、より優れた軟磁性を示す合金の場合は500Å以下の平均粒径を有する場合が多い。特に好ましい軟磁気特性はその粒径が20〜200Å平均の場合である。」(第3頁右下欄最下行〜第4頁左上欄4行) 「実施例1 原子%でCu 5%,Si 6.5%,B6%,Nb 3%及び残部実質的にFeからなる組成の溶湯から、単ロール法により幅5mm、厚さ18μmのリボンを作製した。 X線回折および組織観察の結果、この合金リボンはアモルファス相主体であることが確認された。 次にこの合金を外径19mm、内径15mmのトロイダル状に巻きN2ガス雰囲気550℃に1時間保持後室温まで冷却し、磁気特性を測定した。 飽和磁束密度Bsは11.1kG,100kHz,2kGにおけるコア損失が530mW/ccであった。1kHzにおける実効透磁率5500、保磁力Hcが0.120e、飽和磁歪λsが+0.5×10-6であった。この合金は組織観察の結果1000Å以下の粒径の超微細な結晶粒からなることが確認された。 この熱処理後の合金薄帯は著しく脆化しており、振動ミルにより粉砕したところ、Cu添加量が1at%の合金に比べ容易に微粉化でき2割程度粉砕時間が短縮された。 次にこの合金粉末に耐熱性無機ワニスをバインダーとして7wt%加え、500℃まで昇温し圧力を加えながら圧粉磁心を作製した。 実効透磁率は160であり周波数特性も良好であった。」(第4頁右下欄2行〜第5頁左上欄6行) 「本発明によれば、超微細結晶粒組織からなり粉末化が容易で軟磁気特性に優れた合金を得ることができるためその効果は著しいものがある。」(第6頁右上欄2〜4行) とそれぞれ記載されている。 (対比・判断) 本件請求項1に係る発明と取消理由に引用された先願明細書に記載された発明とを対比すると、両者は、一般式Fe100-a-b-cCuaMbYcで表され、その成分組成が重複し、微細結晶粒を有する高飽和磁束密度で優れた軟磁気特性を有するFe基軟磁性合金である点で一致し、本件請求項1に係る発明が「薄帯形状で高周波磁心に適用する」Fe基軟磁性合金であるのに対し、先願明細書に記載された発明は、合金薄帯を振動ミル等粉砕し微粉化して圧粉磁心等を作製するための粉末化が容易なFe基軟磁性合金である点で相違する。 この相違点について検討すると、先願明細書に記載された発明は、粉末化を容易にするために、熱処理によって合金薄帯を脆化させるものであり、「薄帯形状で高周波磁心に適用する」ことを示唆するものではないから、本件請求項1に係る発明は、先願明細書に記載された発明と同一であるとは認められない。 また、本件請求項2に係る発明は、適用対象が「センサー用磁性部品」であるが、本件請求項1に係る発明と「薄帯形状で・・・適用する」点では共通であるから、上記と同様の理由により、先願明細書に記載された発明と同一であるとは認められない。 (まとめ) したがって、本件請求項1及び請求項2に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができない発明とすることはできない。 3-3.訂正の適否についての結論 よって、上記訂正請求は、特許法第120条の4第2項、同条第3項で準用する同法第126条第2項〜第4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 4.特許異議申立てについての判断 4-1.申立て理由の概要 特許異議申立人は、甲第1号証(特開平1-149940号公報)を提出して、本件請求項1,2に係る発明は、甲第1号証に係る特願昭62-307273号の願書に最初に添付した明細書に記載された発明と同一であるから、本件請求項1,2に係る発明の特許は、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものであり(理由1)、また、特許請求の範囲の請求項1において「微細結晶粒」の具体的構成の記載がなく本件請求項1に係る発明を把握することができず、請求項2の規定でも微細結晶粒が特定できないため、本件請求項1,2に係る発明の特許は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである(理由2)、と主張している。 4-2.当審の判断 理由1について、 上記3-2に述べたとおり、本件請求項1及び請求項2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と同一であるとは認められないから、この点に理由はない。 理由2について、 訂正の結果、請求項1に「微細結晶粒」についての具体的構成が記載され、また、結晶粒径の測定方法は本件特許明細書に「TEM観察」(第11頁3〜4行)と記載されており、結晶粒径50〜300Aを中心にその前後にわたる粒径の結晶を観察して微細結晶粒を特定していることは明らかであり、訂正前の請求項2(訂正後の請求項1,2)における規定で微細結晶粒は特定できるから、この点にも理由はない。 5.むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1及び請求項2に係る発明の特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1及び請求項2に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 Fe基軟磁性合金 (57)【特許請求の範囲】 (1)一般式 Fe100-a-b-cCuaMbYc M:周期律表IVa,Va,VIa族元素またはMn,Co,Ni,Alから選ばれる少なくとも1種以上 Y:Si,B,P,Cから選ばれる少なくとも1種以上 3<a≦8 (原子%) 0.1≦b≦8 3.1≦a十b≦12 15≦c≦28 で表わされ、微細結晶粒が合金中に面積比で30%以上存在し、その中で結晶粒径50〜300Aの結晶が80%以上存在する合金を薄帯形状で高周波用磁心に適用することを特徴とする高飽和磁束密度で優れた軟磁気特性を有するFe基軟磁性合金。 (2)一般式 Fe100-a-b-cCuaMbYc M:周期律表IVa,Va,VIa族元素またはMn,Co,Ni,Alから選ばれる少なくとも1種以上 Y:Si,B,P,Cから選ばれる少なくとも1種以上 3<a≦8 (原子%) 0.1≦b≦8 3.1≦a+b≦12 15≦c≦28 で表わされ、微細結晶粒が合金中に面積比で30%以上存在し、その中で結晶粒径50〜300Aの結晶が80%以上存在する合金を薄帯形状でセンサー用磁性部品に適用することを特徴とする高飽和磁束密度で優れた軟磁気特性を有するFe基軟磁性合金。 【発明の詳細な説明】 [発明の目的] (産業上の利用分野) 本発明は、Fe基軟磁性合金に関する。 (従来技術) 従来から、スイッチングレギュレータなど高周波で使用する磁心としては、パーマロイ、フェライトなどの結晶質材料が用いられている。 しかしながら、パーマロイは比抵抗が小さいので高周波での鉄損が大きくなる。また、フェライトは高周波での損失は小さいが、磁束密度もせいぜい5000Gと小さく、そのため大きな動作磁束密度での使用時にあっては、飽和に近くなりその結果鉄損が増大する。近時、スイッチングレギュレータに使用される電源トランス、平滑チョークコイル、コモンモードチョークコイルなど高周波で使用される磁心においては、形状の小形化が望まれているが、その場合、動作磁束密度の増大が必要となるため、フェライトの鉄損増大は実用上大きな問題となる。 このため、結晶構造を持たない非晶質磁性合金が、高透磁率、低保磁力など優れた軟磁気特性を示すので最近注目を集めて一部実用化されている。これらの非晶質磁性合金は、Fe、Co、Niなどを基本とし、これに非晶質化元素(メタロイド)としてP、C、B、Si、Al、Geなどを包含するものである。 しかしながら、これら非晶性質磁性合金の全てが高周波領域で鉄損が小さいというわけではない。例えば、Fe基非晶質合金は、安価であり50〜60Hzの低周波領域ではケイ素鋼の約1/4という非常に小さい鉄損を示すが、10〜50Hzという高周波領域にあっては著しく大きな鉄損を示し、とてもスイッチングレギュレータ等の高周波領域での使用に適合するものではない。これを改善するために、Feの一部をNb、Mo、Cr等の非磁性金属で置換することにより低磁歪化し、低鉄損、高透磁率を図っているが、例えば樹脂モールド時の樹脂の硬化収縮等による磁気特性の劣化も比較的大きく、高周波領域で用いられる軟磁性材料としては、充分な特性を得られるに至っていない。 一方、Co基非晶質合金は、高周波領域で低鉄損、高角形比が得られるため可飽和リアクトルなどの電子機器用磁性部品に実用化されるが、コストが比較的高いものである。 (発明が解決しようとする課題) 以上に述べたように、Fe基非晶合金は安価な軟磁性材料でありながら、磁歪が比較的大きく、Co基非晶質合金に比べ鉄損、透磁率とも劣っており、高周波領域における用途には問題があった。一方Co基非晶質合金は磁気特性は良好であるものの、素材の値段が高いため工業上有利ではなかった。 したがって本発明は、上記問題点に鑑み、高周波領域において高飽和磁束密度で優れた軟磁気特性を有する軟磁性合金を提供することを目的とする。 [発明の概要] (課題を解決するための手段と作用) 上記目的を達成するためにFe基合金について種々検討を重ねた結果、一般式 Fe100-a-b-cCuaMbYc M:周期律表IVa,Va,VIa族元素またはMn,Co,Ni,Alから選ばれる少なくとも1種以上 Y:Si,B,Pから選ばれる少なくとも1種以上 3<a≦8 (原子%) 0.1≦b≦8 3.1≦a+b≦12 15≦c≦28 で表わされ、微細結晶粒を有する合金が軟磁性材料に優れた特性を有することを初めて見い出し本発明に至ったものである。 本発明は上記組成を有する合金中に次に示す微細結晶粒を有することを特徴とする。 具体的には微細結晶粒は、合金中に面積比で30%以上存在すると共に、前記微細結晶粒中に50〜300Aの結晶粒が80%以上存在するものである。 以下に、本発明合金の組成限定理由および微細結晶粒の限定理由について説明する。 まず組成限定理由について説明する。 Cuは耐食性を高め、結晶粒の粗大化を防ぐと共に、鉄損、透磁率など軟磁気特性を改善するのに有効な元素であるが、あまり少ないと添加の効果が得られず、逆にあまり多いと磁気特性の劣化を生じるために、その範囲を3を越えて8原子%以下とした。好ましくは3を越えて5原子%以下である。 Mは結晶粒径の均一化に有効であると共に、磁歪および磁気異方性を低減させ軟磁気特性の改善および温度変化に対する磁気特性の改善に有効な元素であるが、その量があまり少ないと添加の効果が得られず、逆にあまり多いと飽和磁束密度が低くなるため、その量を0.1〜10原子%とした。好ましくは1〜7原子%、さらに好ましくは1.5〜5原子%である。ここでMにおける各添加元素は上記効果と共にさらにそれぞれ、IVa族元素は最適磁気特性を得るための熱処理条件の範囲の拡大、Va族元素およびMnは耐脆化性の向上および切断等の加工性の向上、VIa族元素は耐食性の向上および表面性状の向上、Alは結晶粒の微細化と共に磁気異方性の低減に有効であり、これにより磁歪、軟磁気特性の改善、等の効果を有している。 前記Mの元素中特に低鉄損化にはNb,Mo,Cr,Mn,Ni,Wが好ましく、特に高飽和磁束密度化のためにはCoが好ましい。 Yは製造時における合金の非結晶化に有効な元素であり、その量があまり少ないと製造時における超急冷の効果が得られにくく上記状態が得られず、逆にあまり多いと飽和磁束密度が低くなり上記状態が得られにくくなるため、優れた磁気特性が得られなくなるため、その量を15〜28原子%とした。好ましくは18〜26原子%である。特に(Si,C)/(P,B)の比は1以上が好ましい。 上記本発明のFe基軟磁性合金は、例えば液体急冷法により、非晶質合金薄帯を得た後、後前記非晶質合金の結晶化温度に対し-50〜+120℃、好ましくは-30〜+100℃の温度で1分〜10時間、好ましくは10分〜5時間の熱処理を行い、意図する微細結晶を析出させる方法、等により薄帯として得ることが可能となる。 次に本発明のFe基軟磁合金の微細結晶粒について述べる。 本発明において、あまり小さいと磁気特性の改善が図れず、逆にあまり大きいと磁気特性の劣化が発生するため、上記微細結晶粒中においても、結晶粒径50〜300Aの結晶が80%以上存在することが好ましい。 本発明のFe基軟磁性合金は高周波での軟磁気特性に優れているため、例えば磁気ヘッド、大電力用を含む高周波トランス、可飽和リアクトル、コモンモードチョークコイル、ノーマルモードチョークコイル、高電圧パルス用ノイズフィルタ、レーザ電源等に用いられる磁気スイッチなど高周波で用いられる磁心、電流センサー、方位センサー、セキュリティセンサー,トルクセンサー等の各種センサー用の磁性材料等磁性部品の合金薄帯として優れた特性を示している。 (実施例) Fe75-aCuaNb3Si12B10なる合金においてa=0,2,4,6,8,10について母合金を作成し、単ロール法により約15μmの非晶質合金薄帯を得た。 上記薄帯につき合金の第1発熱ピークから得られる結晶化温度(昇温速度10deg/minで測定)より20℃高い温度で80分間の熱処理を行った。 得られた薄帯の耐食性を1NHCl中100時間に浸漬した場合における初期値に対する減量分として測定した。その結果を第1図にまた、上記非晶質合金薄帯を巻回し、外径18mm、内径12mm、高さ4.5mmのトロイダル状磁心に成形し、前記と同様の温度で熱処理を行った。 得られた磁心の飽和磁化を試料振動型磁力計(VSM)により測定した。その結果を併せて第1図に示す。 第1図より明らかなように耐食性はCu添加により大幅に改善され、3原子%を越えるとその値は0.5%以下となっている。また、Cu量が8原子%を越えると飽和磁化が7.5KGとなりCo基非晶質合金と同様の値となってしまう。したがって、耐食性と飽和磁化を満足するにはCuの値は3原子%を越えて8原子%以下である。 なお鉄損はX=0原子%を除きB=2KG,f=100KHzでの鉄損を測定したところ、290〜330mW/ccにあり低鉄損化を実現している。 上記合金組成の中でFe71.5Cu3.5Nb13Si13B9の合金薄帯を巻回し外径18mm、内径12mm、高さ4.5mmのトロイダル状磁心に成形した後、第1表に示す条件で熱処理を行った。なお比較として熱処理条件を約430℃で約80分間の熱処理を行った磁心を製作した。得られた磁心にはTEM観察により微細結晶粒は析出していないことを確認した。 上記本発明の微細結晶粒を存在する磁心と比較例り微細結晶が存在しない磁心についてそれぞれ5個用いB=2KG,f=100KHzでの熱処理後の鉄損とエポキシ樹脂モールド後の鉄損、磁歪、1KHz,10mOeでの透磁率および飽和磁束密度を測定し、それらの平均値を第1表に示す。 上記第1表より明らかなように、本発明の合金は微細結晶粒を設けることにより、同組成の非晶質合金薄帯よりなる磁心に比べ鉄損特に樹脂モールド後の鉄損が低く、低磁歪で高透磁率であり、高周波において優れた軟磁気特性を示している。 [発明の効果] 本発明の合金は、所望の合金組成において、微細結晶粒を設けることにより、高周波領域において高飽和磁束密度で優れた軟磁気特性を有するFe基軟磁性合金、特に高周波用磁心またはセンサー用磁性部品に好適な高飽和磁束密度で優れた軟磁気特性を有するFe基軟磁性合金を提供することが可能となる。 【図面の簡単な説明】 第1図は、本発明合金のCuの添加による耐食性と飽和磁化の変化を示すグラフである。 |
訂正の要旨 |
▲1▼特許請求の範囲の請求項1の「・・・微細結晶粒を有することを特徴とする・・・」を「・・・微細結晶粒が合金中に面積比で30%以上存在し、その中で結晶粒径50〜300Aの結晶が80%以上存在する合金を薄帯形状で高周波磁心に適用することを特徴とする・・・」と訂正し、 請求項2の「微細結晶粒は合金中に面積比で30%以上存在し、その中で結晶粒径50〜300Aの結晶が80%以上存在することを特徴とする請求項1のFe基軟磁性合金」を 「一般式 Fe100-a-b-cCuaMbYc M:周期律表IVa,Va,VIa族元素またはMn,Co,Ni,Alから選ばれる少なくとも1種以上 Y:Si,B,P,Cから選ばれる少なくとも1種以上 3<a≦8 (原子%) 0.1≦b≦8 3.1≦a+b≦12 15≦c≦28 で表わされ、微細結晶粒が合金中に面積比で30%以上存在し、その中で結晶粒径50〜300Aの結晶が80%以上存在する合金を薄帯形状でセンサー用磁性部品に適用することを特徴とする高飽和磁束密度で優れた軟磁気特性を有するFe基軟磁性合金。」と訂正する。 ▲2▼明細書第5頁15行の「特に」を「次に示す」に、同頁第17行の「特に」を「具体的には」に、同頁同行の「は」を「が」に、同頁18行の「ことが好ましく」を「と共に」に、同頁18〜19行の「ことが好ましい」を「ものである」に、同8頁7行の「により得る」を「により薄帯を得る」に、同第9頁9行の「合金は」を「合金薄帯は」に、それぞれ訂正する。 ▲3▼平成1年8月11日付け手続補正書の6の(5)の第8頁7行「また、スパッタ法、蒸着法等により上記と同様の特性を薄膜として得ることも可能となる。」、明細書第7頁20行〜第8頁1行の「あるいは、アトマイズ法などにより急冷粉末を得た後」、同第9頁2〜3行の「薄膜ヘッド」を、それぞれ削除する。 |
異議決定日 | 1999-12-09 |
出願番号 | 特願昭63-118335 |
審決分類 |
P
1
651・
161-
YA
(C22C)
|
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 瀬良 聡機 |
特許庁審判長 |
松本 悟 |
特許庁審判官 |
内野 春喜 影山 秀一 |
登録日 | 1997-10-31 |
登録番号 | 特許第2713980号(P2713980) |
権利者 | 株式会社東芝 |
発明の名称 | Fe基軟磁性合金 |
代理人 | 外川 英明 |
代理人 | 外川 英明 |