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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  F23G
管理番号 1016674
異議申立番号 異議1999-71840  
総通号数 12 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2000-12-22 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-05-10 
確定日 2000-02-16 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2824480号「有機化合物を含む廃棄物の処理方法」の請求項1ないし2、4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2824480号の請求項1ないし2、4に係る特許を維持する。 
理由 (1)手続きの経緯
本件特許第2824480号は、平成7年4月18日された出願とみなされるもので、平成10年9月11日に設定登録がなされ、その後、特許異議の申立てがなされ、取消理由が通知され、指定期間内に訂正請求がなされたものである。
(2)訂正の適否についての判断
ア)本件訂正請求
平成11年9月24日付訂正請求の要旨は、特許明細書を添付した訂正明細書のとおりに訂正しようとするものであり、
a、請求の範囲2の「又は供給燃料中のみの可燃性元素に対して」を削除する
b、明細書4頁25行「をを」を「を」と訂正する
c、同13頁13〜14行「生成したガス、タール及び未燃物のDXNの量(TEQ)は」を「生成したガスのDXNの量(TEQ)は」
と訂正しようとするものである。
イ)この訂正の、aは特許請求の範囲の減縮に該当するものであり、b、cは誤記の訂正に該当するものである。
ウ)この訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載されていた事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張または変更するものではない。
エ)独立特許の要件
(i)取消理由は、
「本件は、明細書の記載が下記の点で不備であるため、請求項1、請求項2、および請求項4に係る発明の特許は、特許法第36条第4項に違反してなされたものである。

請求項1に係る発明の酸素比は、容器内の可燃性元素に対して1以下0、3以上であり、請求項2に係る発明の酸素比は、容器内の廃棄物と供給燃料中の可燃性元素に対して、又は供給燃料中のみの可燃性元素に対して1以下0、3以上であり、総可燃性元素に対する酸素比は異なるものになる。
一方、特許明細書6頁15行〜23行には、燃料を用いる点と、酸素比が1以下である点と、酸素比を0、3以上にするのは、酸素比が小さいとタール分が多くなるので望ましくない点の記載があるだけである。
しかしながら、上記したように総可燃性元素に対する酸素比は異なるものになるから、請求項1、請求項2、又はこれらの請求項を引用して記載された請求項4に係る発明のように、酸素比を限定することの技術的意義が不明確であり、明細書に、それぞれの発明が明確かつ十分にに開示されているとは認められない。」
というものである。
ii)しかしながら、請求項2が前記のように訂正されたので、この取消理由は意味のないものとなった。
iii)したがって、請求項1,請求項2、請求項4に係る発明は、独立して特許を受けることができるものである。
(オ)以上のとおりであるから、この訂正を認める。
(3)特許異議の申立てについて
(ア)本件請求項1、請求項2、請求項4に係る発明は、次のものである。
1.下記の工程を備えた有機化合物を含む廃棄物のダイオキシンを発生させない処理方法。
a)有機化合物を含む廃棄物を大気から遮断した容器内に収容する工程と、
b)前記容器内の廃棄物中の酸素と結合する可燃性元素に対して酸素比1以下0.3以上の酸素量を供給して該容器内で燃焼させ、前記有機化合物を含む廃棄物を500℃以上に加熱して熱分解する工程。
2.下記の工程を備えた有機化合物を含む廃棄物のダイオキシンを発生させない処理方法。
a)有機化合物を含む廃棄物を大気から遮断した容器内に収容する工程と、
b)前記容器内の廃棄物と供給燃料中の可燃性元素に対して、酸素比1以下0.3以上の酸素量を供給して該容器内で燃焼させ、前記有機化合物を含む廃棄物を500℃以上に加熱して熱分解する工程。
4.前記有機化合物を含む廃棄物が自動車あるいは家庭電気製品のシュレッダーダスト、都市ゴミ、古タイヤ、その他各種廃プラスチック、廃油(機械油)及び農薬の何れか1種以上である請求の範囲1、2又は3のいずれか1の請求の範囲に記載した有機化合物を含む廃棄物のダイオキシンを発生させない処理方法。
(イ)特許異議申立人は、
甲第1号証として、特公昭52-24790号公報
甲第2号証として、「廃棄物新処理技術開発 高温・ガス化燃焼技術開発」 平成2年度報告書
甲第3号証として、特公平2-606号公報
を提示して、請求項1、請求項2、請求項4に係る各発明がこれらの刊行物から容易に発明をすることができた旨主張している。
(ウ)各甲号証の記載内容
甲第1号証には、1欄22行〜2欄4行に「可燃性有機物質及び非可燃性無機物質を含む廃物の処理方法にして、立炉にその頂部において廃物を送給しそしてその底部において酸素富化空気からなる燃焼支持ガスを供給し、それにより該炉内に下方における燃焼及び溶融域と、中間部における熱分解域と、上方部における乾燥域とを形成し、そして該炉からガス状燃焼生成物を取出すと共に該燃焼及び溶融域から放出される溶融無機物質を補集することを含む廃物処理方法において、
(1)前記燃焼支持ガスが、少なくとも4,0容量%の酸素を含有しそして前記炉に送人される酸素対廃物の重量比が、0,15:1から0,28:1の範囲に維持されるような量において該炉に給送され、そして(2)該炉の乾燥帯域から放出されるガス状燃焼生成物が、乾量基準で、少なく共50容量%の水素及び酸化炭素を含有しそして大気圧及び21℃(70°F)において1780Kcal/m3(200But/ft3)以上の熱量値を有する有用燃料或いは合成ガスを構成することを特徴とする廃物処理方法」、10欄13行〜20行に「炉からの放出ガスの温度は500°F(260℃)以下でありそして180〜250°F(80〜120℃)と言った低温に維持可能である。それは、約20フィート(6m)高さにすぎない大型の工業規模のユニットにおいてさえ、炉底において金属及びスラッグを溶融しそして流動化するべく3000°F (1650℃)水準の温度が維持されることを考える時、実際予想外の事である」と記載されている。
甲第2号証には、廃棄物焼却におけるダイオキシン類の生成と分解に関するラボプラント研究であって、25頁25行〜末行に「ダイオキシン類が生成する反応については、一部で、室内実験より検討されているが、競合する生成反応(経路)が多く、どの条件でどの生成反応が優先するかといった詳細な点までははっきりしていないものの、ダイオキシン類を抑制するための重要な要素の一つとして、完全燃焼を目指した燃焼改善が挙げられる。この燃焼改善という考え方は、未燃分や一酸化炭素などの不完全燃焼生成物から一部ダイオキシン類が生成するという知見に基づいている。燃焼改善のためには、高い燃焼温度、高温域での十分に長い燃焼ガスの滞留時間、燃焼ガス中の未燃ガスと空気との良好な混合、適正な燃焼空気の供給といった条件が必要である。これらの条件が達成されていれば、不完全燃焼の代表的指標である一酸化炭素濃度や未燃分濃度が低くなり、またダイオキシン類の発生も抑制できるものと考えられる」、44頁、45頁に 表/2・10 ラボプラント実験結果の一覧であって、流動炉の一時燃焼における温度が700℃とその近辺で、空気比0.8、1.0、1.2における一時燃焼ガス組成とその中の酸素量と、T、TEQsの量、及び二次燃焼における二次排ガス組成と、その中の酸素量とT、TEQsの量が表示されている。
甲第3号証には、廃棄物溶融方法であって、1欄2行〜2欄14行に「炭素系可燃物質によって形成した高温炉床2の上部において、前記高温炉床2への燃焼用酸素含有ガスの供給により産業廃棄物あるいはその中間処理物を焼却溶融させると共に、燃焼排ガスを前記高温炉床2の上方に形成した上昇流路7と前記高温炉床2の下部に接続した流路8に排出させる廃棄物溶融方法であって、
前記高温炉床2への燃焼用酸素含有ガス供給量の調節によって、前記高温炉床2内の上昇ガス空塔速度を15〜60Nm3/m2・minに維持すると共に、前記下部流路8における排ガスの温度を1350℃以上に維持し、
前記高温炉床2へ供給される酸素量が前記高温炉床2に補給される炭素系可燃物質の燃焼用理論酸素量の0,8〜1,2倍となるように、炭素系可燃物質の補給量を調節し、
前記高温炉床2の上方に位置する産業廃棄物あるいは中間処理物の充填層5を通過した上昇ガスの温度が400℃ないし1200℃になるように、産業廃棄物あるいは中間処理物の供給量を調節し、
前記上昇流路7内への燃焼排ガス後燃焼用酸素含有ガスの供給量を、前記高温炉床2の酸素供給量と炭素系可燃物質補給量と産業廃棄物供給量に見合って調節することによって、前記上昇流路7内に供給される酸素量と前記高温炉床2へ供給される酸素量との和を、前記炭素系可燃物質の燃焼用理論酸素量と前記産業廃棄物あるいはその中間処理物の燃焼用理論酸素量との和の1,0〜1,2倍に維持する廃棄物溶融方法」と記載されている。
(エ)しかしながら、前記各甲号証には、請求項1又は請求項4に係る発明の
「容器内の廃棄物中の酸素と結合する可燃性元素に対して酸素比1以下0.3以上の酸素量を供給して該容器内で燃焼させ、前記有機化合物を含む廃棄物を500℃以上に加熱して熱分解する工程」と、
請求項2又は請求項4に係る発明の
「容器内の廃棄物と供給燃料中の可燃性元素に対して、酸素比1以下0.3以上の酸素量を供給して該容器内で燃焼させ、前記有機化合物を含む廃棄物を500℃以上に加熱して熱分解する工程」により、「有機化合物を含む廃棄物の燃焼によるダイオキシンを発生させない処理方法」に関しては記載も示唆もされていない。
そして各請求項に係る発明は、この点において特許明細書に記載された効果を奏するものである。
(オ)したがって、特許異議申立人の主張は採用できない。
また、他に前記各請求項に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
有機化合物を含む廃棄物の処理方法
【発明の詳細な説明】
技術分野
本発明は、各種の有機化合物を含む廃棄物のダイオキシン(以下DXNという)の発生しない処理方法を目的とする。ここで、有機化合物を含む廃棄物とは、自動車あるいは家庭電気製品のシュレッダーダスト、都市ゴミ、古タイヤ、その他各種廃プラスチック、廃油(機械油)、農薬等の有機化合物を含む廃棄物をいう。
背景の技術
今日、代表的有機化合物として樹脂類が大量に生産されている。1992年の統計によれば樹脂類は1260万トン生産されており、また同年における廃棄されたプラスチック類は一般廃棄物として390万トン、さらに産業廃棄物として300万トン発生し、年間合計690万トンの廃棄物が発生しているが、有効利用されたものが75万トン(11%)、埋め立て用材料として投棄されたものが255万トン(37%)、焼却されたものが360万トン(52%)である。
上記投棄されたプラスチック類の内、埋め立てに使用された255万トンについては、再利用可能な資源を単に埋め立て用材料として使用しており、資源の有効利用という観点から望ましくない。また焼却された360万トンについては樹脂類を熱源として使用するものの、樹脂類の燃焼の際に生じるDXNが発生しており、国民の健康上大きな問題を投げかけている。
有機化合物を含む廃棄物のうち自動車や家庭電気製品のシュレッダーダストはプラスチック類を多く含み、燃焼に際して有害なガスが発生するため埋め立て処分が主な処理方法となっている。しかし、これらについても処分場の確保が年々厳しくなっており、焼却処分による廃棄物の減量や、さらには焼却灰の有効利用も望まれている。古タイヤは一部を燃料として使用しているが、燃焼に際してDXNが発生している可能性がある。
また、よく知られている通り、現在都市ゴミが大量に発生しており、焼却場および焼却灰処分場の確保が極めて困難な状況にある。このDXNは、有機物と塩素が酸素の存在の下に数百度℃以上の高温で燃焼するとき発生する発ガン性の有害物質である。都市ゴミ、農薬、廃油、医療廃棄物等の焼却でDXNが出ることは、これらの廃棄物に多くの有機化合物が含まれているためである。
1994年12月15日付け朝日新聞によれば、日本国内のDXNの発生源と発生量についての試算が発表されている。1990年においては都市ゴミの焼却により年間3100から7400gのDXNが発生し、廃油等の焼却により460g,医療系廃棄物の焼却により80から240g発生したとの試算が報告されている。このような多量のダイオキシンのわが国における発生は国民の衛生健康の面から大きな問題となっている。上記DXNの最大の発生源である焼却炉に関しては、例えば欧州は規制を強めている。
これに対し、日本においては、新設炉についてだけ、排ガス1m3当たりDXNを0.5ng以下に抑えるガイドラインが与えられている。しかし、これに関して法的な拘束力はない。1990年の時点において日本において1841箇所の焼却炉が稼働している。従って、わが国においても将来樹脂類を焼却炉において燃焼することについて大きな制約が課されるものと予想されている。
ここでダイオキシン(DXN)とは、ポリ塩化ジベンゾパラオキシン(PCDD)の略称で、塩素の置換数、位置の差により75種類もの同族体や異性体がある。また、これとともに環境を汚染しているものとしてボリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)があり、135種類の同族体や異性体がある。
このPCDDとPCDFを合わせてダイオキシンと呼んでいる。一般にダイオキシンの中で最も毒性が強いのが2、3、7、8-塩素パラジオキシン(2、3、7、8-T4CDD)であり、除草剤や木材防腐剤として使用されているクロロフェロフェノール、枯葉剤として知られる2、4、5-トリクロロフェノキシン酢酸等に不純物として含まれている。
ここでDXNの化学構造式を図1に示した。この構造式から明らかなように塩素を含む二つのベンゼン環を1個または2個の酸素が結合した化学構造式を有する。またPCDDは塩素を含むベンゼン環を2個の酸素が結合し、PCDFは1個の酸素が塩素を含む二つのベンゼン環を結合している。上記の構造から明らかな通り、DXNは酸素を多量に含む雰囲気において樹脂類を燃焼させたときに発生する可能性があると考えられている。
DXN類の毒性は同族体、異性体により大きく異なる。そこで、これらの同属体等に関して毒性換算係数(TEF)が与えれており、通常国際的な毒性換算係数が用いられている。本明細書においてもこの係数を用いてDXNの量(TEQ)を表示する。
上記の様な背景があるため、DXNの発生を極力防止するごみ焼却技術が種々開発されている。三井造船技報、151号(平成6年2月)によれば同社は1991年8月ドイツのジーメンス社から都市ごみ焼却のために熱分解・溶融・有価物回収システムを導入した。このシステムは、都市ごみを酸素を遮断した雰囲気で、450℃において熱分解し、次に生成したガスとカーボンを燃焼溶融炉において1300℃で燃焼している。しかし、排ガス中のDXNの濃度は1ng/Nm3以上であり、環境上問題である。
K.Durai-Swamy等は製紙工場からのバイオマス廃棄物を流動床ガス化装置により燃焼する方法を発表しているが(Tappi Journal,Octobcr 1991,P137〜143.)、サイクロン中の灰分中には約100pptのDXNが発見されており、この方法も環境上問題がある。
発明の開示
本発明は、有機化合物を含む廃棄物を従来のゴミ焼却炉、或いはその他の方法で処理する場合に発生するDXNが発生しないような有機化合物を含む廃棄物の処理方法を課題とする。本発明の発明者等は、先に樹脂類を燃焼したときの燃焼ガスが実質的に酸素を含まないように燃焼させた場合にはDXNが発生しないことを確認しているので、このような方法で有機化合物を含む廃棄物を燃焼させ、DXNが発生しないように処理する方法を課題とする。
本発明者等は、前述のようにDXNが塩素を含有する二つのベンゼン環を1まは2の酸素がこれを結合して発生することに注目し、大気を遮断した状態において有機化合物を分解すればDXNを発生しないということに着目した。そこで、大気を遮断した雰囲気で有機化合物を含む廃棄物を熱分解する実験を種々行った結果、DXNを発生しない有機化合物を含む廃棄物の熱分解方法を知見し、下記の発明をするに到った。
(1)発明の第1の態様は、下記の工程を備えた有機化合物を含む廃棄物のダイオキシンを発生させない処理方法を提供する。
(a)有機化合物を含む廃棄物を大気から遮断した容器内に収容する工程と、
(b)前記容器内の廃棄物中の酸素と結合する可燃性元素に対して酸素比1以下0.3以上の酸素量を供給して該容器内で燃焼させ、前記有機化合物を含む廃棄物を500℃以上に加熱して熱分解する工程。
(2)発明の第2の態様は、下記の工程を備えた有機化合物を含む廃棄物のダイオキシンを発生させない処理方法を提供する。
(a)有機化合物を含む廃棄物を大気から遮断した容器内に収容する工程と、
(b)前記容器内の廃棄物と供給燃料の可燃性元素に対し、酸素比1以下0.3以上の酸素量を供給して該容器内で燃焼させ、前記有機化合物を含む廃棄物を500℃以上に加熱して熱分解する工程。
(3)発明の第3の態様は、前記容器内における前記燃料と前記酸素の燃焼をオキシフュエルバーナーにより行う有機化合物を含む廃棄物のダイオキシンを発生させない処理方法を提供する。
(4)発明の第4の態様は、前記有機化合物を含む廃棄物が自動車あるいは家庭電気製品のシュレッダーダスト、都市ゴミ、古タイヤ、その他各種廃プラスチック、廃油(機械油)及び農薬の何れか1種類以上である有機化合物を含む廃棄物のダイオキシンを発生させない処理方法を提供する。
図面の簡単な説明
図1 DXNの化学構造を示す図である。
図2 本発明の実験のために用いた熱分解炉を示す図である。
発明の実施態様
有機化合物は必ずしもベンゼン環を有するものではないが、しかし有機化合物には所謂炭化水素類と塩素等を含んでおり、これらを空気中において燃焼するとその作用は明らかではないが塩素を含むベンゼン環が生成し、この塩素を含むベンゼン環を大気中に含有されている酸素が結合してダイオキシン(DXN)が生成されるものと推定される。
従って、大気からの自由な酸素の供給を遮断した状態において有機化合物を含む廃棄物を熱分解すれば低級の炭化水素が発生し、その際、DXNは発生しないものと考えられる。ここで、有機化合物を含む廃棄物とは、自動車あるいは家庭電気製品のシュレッダーダスト、都市ゴミ、廃プラスチック例えばポリエチレン、塩化ビニール、ポリプロピレン、ポリスチレン等の各種の天然及び合成した樹脂類を含む廃棄物、古タイヤ、廃油(機械油)等を含み、本発明はこれら有機化合物を含む廃棄物の全てを対象とする。
有機化合物を含む廃棄物の熱分解温度は500℃以上が望ましく、600℃以上がより望ましい。500℃未満では分解速度が小さく実用的でないためである。また、熱分解圧力は1.5気圧以下が望ましい。圧力が高すぎると設備費が高くなるためである。
上記温度を達成する手段として、容器外部から酸素ガス、または、燃料と酸素ガスを供給し容器内で可燃性元素を燃焼させる。ここに、可燃性元素とは主に炭素と水素である。その際、供給酸素の量を下記に定義される酸素比で1以下とする。
酸素比=供給酸素量+廃棄物中の有機酸素量
/((C×32/12)十(H×16/2))
ここで、酸素比の計算は方法には下記の3通りがある。
(1)容器外から酸素のみを供給する場合には、以下の通りとする。
供給酸素量:容器外から供給する酸素量(kg)、C:該酸素及び廃棄物中の有機酸素と結合する容器内の有機化合物を含む廃棄物中の炭素量(kg)、H:該酸素及び廃棄物中の有機酸素と結合する容器内の有機化合物を含む廃棄物中の水素量(kg)
(2)容器外から酸素と燃料を供給する場合には、以下の通りとする。
供給酸素量:容器外から供給する酸素(kg)、C:該酸素及び廃棄物中の有機酸素と結合する容器内の有機化合物を含む廃棄物と燃料中の炭素量の合計(kg)、H:該酸素及び廃棄物中の有機酸素と結合する容器内の有機化合物を含む廃棄物と燃料中の水素量の合計(kg)
(3)容器外から酸素と燃料を供給する場合には、上記(2)以外に以下の通りとすることができる。
供給酸素量:容器外から供給する酸素量(kg)、C:該酸素と結合する容器内に供給した燃料中の炭素量の合計(kg)、H:該酸素と結合する容器内に供給した燃料中の水素量の合計(kg)
上記において、有機酸素とは、廃棄物中に含まれている有機物と結合している酸素であって、燃焼に際しては外部から供給された酸素と同様にC,Hと結合する酸素である。
また、上記廃棄物中にハロゲン元素を含む場合には通常ハロゲン元素は水素と結合するのでその分の水素量は含まれない。また、酸素は純酸素でも空気でもよいが、効率の点からは純酸素が望ましい。上記式において、C×32/12は廃棄物中の炭素、廃棄物と燃料中の炭素、又は燃料中の炭素がCO2まで燃焼するための酸素量である。又、H×16/2は廃棄物中の水素、廃棄物と燃料中の水素、又は燃料中の水素が酸素と結合しH2Oとなるための水素量である。したがって、酸素比が1であることは、供給した酸素が廃棄物、又は廃棄物と燃料、又は燃料中のCとHを丁度CO2とH2Oになるまで燃焼させ、燃焼ガス中に酸素ガスが存在しないような酸素量を供給することを意味する。上記において、燃料としては例えば、石油、高炉ガス、コークス炉ガス(Cガス)、プロパン等の可燃性燃料を用いることができる。この際、いわゆるオキシフュエルバーナーを用いることが燃料を効率的に燃焼させる点から望ましい。また、酸素源としては空気でもよいが、純酸素の方が効率の点から望ましい。酸素比が小さいと熱分解後にタール分が多くなるので、発生したガスを利用するためには望ましくない。従って、酸素比は0.3以上が望ましい。タール分をガス化するためには、水、水蒸気等の改質剤を添加することができる。以下実施例において具体的に説明する。
実施例
以下実施例において具体的に説明する。
本発明の実施例においては、図2に示す熱分解炉を使用して実験を行った。熱分解容器2の寸法は、内径300mm、高さ約500mmのステンレス鋼製容器であり、その外部からヒーター4、例えば電気ヒーターにより加熱することもできる。
図2に示すように、ステンレス鋼製の熱分解容器2の外部を保温材6で囲み、熱の放散を防止している。熱分解容器2の内部に約5kg程度の樹脂類を装入し、これを密閉した状態に保つことができる。加熱開始前において酸素配管20より不活性ガス、例えば窒素ガスを内部に封入し、ガス排出管8から内部に含まれている空気を外部に排出する。その後、燃料配管18からコークス炉ガス、酸素配管20から酸素を供給し、オキシフュエルバーナー7により加熱し、熱分解を行う。発生した分解ガスは、まず濾紙等を備えた濾過器10を通過する。ここで発生したタール類が捕捉され、分解ガスはDXNの捕集装置12を通過する。捕集装置12は、氷水の中に浸漬された複数の捕集瓶とジエチレングリコール溶液を含む捕集瓶及びXAD-2樹脂を収容する容器からなり、通過した分解ガス中のDXNを捕集する。DXNが捕集された分解ガス量はガスメーター13により計量し、その一部をテトラバック14中に捕集する。テトラバック14に捕集された分解ガスはこれを分析に供する。
オキシフュエルバーナーによる加熱により、樹脂類中の炭化水素が分解し、炉内を500〜1250℃の温度に保つことができる。以上が本発明の実施例において用いた実験装置である。オキシフュエルバーナーとは酸素ガス又は空気と各種の燃料を混合して燃焼するバーナーである。実施例においては、上記図2に示した熱分解炉において、シュレッダーダスト、都市ゴミ、古タイヤ及び農薬DDTの熱分解を行った。
表1にシュレッダーダストの成分の構成を示した。表1に示すようにシュレッダーダスト中には金属のほか、土砂等を含んでいるが、その約50wt%がプラスチック及びゴム類である。表2にシュレッダーダストの元素分析値を示した。この表からシュレッダーダストの元素成分は灰分が約42wt%、炭素が42wt%である。ここで灰分は金属、土砂等を含んでいる。次に、古タイヤの成分組成を表3に示す。古タイヤは、カーボンブラック約26wt%、天然ゴムまたは合成ゴムが約50wt%、残部が鋼線等の無機物である。従って、主成分は炭素であり、灰分は各種の添加剤や鋼線等であり、通常不燃性である。









表4に農薬として代表的なDDTの組成を示す。DDT自体の化学構造はC14H9C15であるが、実験に供したものは増量剤を含んでおり、これは燃焼すると残渣となる。表5には都市ゴミの構成、表6には都市ゴミの元素分析を示した。都市ゴミの特徴は水分が約37wt%、酸素が約18wt%と多い点である。その他、炭素が32wt%存在する。
使用したコークス炉ガス(Cガス)の成分組成を表7に、実験の水準を表8に示した。実験の手続きとして先ずシュレッダーダスト等を5kg炉内に装入し,オキシフュエルバーナーによりCガスを酸素比0.8の酸素ガスにより燃焼し、シュレッダーダスト等を加熱分解した。処理時間は約120分である。タールを分解するため水を20g/分添加した。オキシフュエルバーナーは燃料と酸素ガスを効率良く混合し、燃料を完全に燃焼させるために有効であり、また、酸素ガスが直接廃棄物に接触しないためDXNの生成を防止することができる。
実験結果を表9にまとめて示した。生成したガスのDXNの量(TEQ)は何れの場合にも0.01ng/Nm3未満であり、又タール及び未燃物中のDXNの量(TEQ)は0.01ng/g未満であり、これらを投棄しても問題がない程度であった。
また、発生したガスはCO、H2、CH4等が多く、再利用可能で、また熱量の高いガスであった。タールの生成量は0.1wt%以下で、添加した水により改質され、上記のようなガスに変成していた。
産業上の利用分野
以上説明したように本発明の方法によれば、有機化合物を含む廃棄物を大気から遮断した状態において、燃料と外部から添加した酸素により燃焼し、有機化合物を含む廃棄物の熱分解を行うことにより、DXNを含有しないガス、タール及び残渣に熱分解することができる。従って、本発明を、例えば従来のゴミ焼却炉において実施することにより、従来燃焼できなかったシュレッダーダスト等、各種の有機化合物を含む廃棄物を人体に有害なDXNを発生させずに処理できるとともに、他方有効に利用できる燃料ガスを回収することができ、産業上及び国民の衛生、健康上極めて有用な発明である。
(57)【特許請求の範囲】
1.下記の工程を備えた有機化合物を含む廃棄物のダイオキシンを発生させない処理方法。
(a)有機化合物を含む廃棄物を大気から遮断した容器内に収容する工程と、
(b)前記容器内の廃棄物中の酸素と結合する可燃性元素に対して酸素比1以下0.3以上の酸素量を供給して該容器内で燃焼させ、前記有機化合物を含む廃棄物を500℃以上に加熱して熱分解する工程。
2.下記の工程を備えた有機化合物を含む廃棄物のダイオキシンを発生させない処理方法。
(a)有機化合物を含む廃棄物を大気から遮断した容器内に収容する工程と、
(b)前記容器内の廃棄物と供給燃料中の可燃性元素に対して、酸素比1以下0.3以上の酸素量を供給して該容器内で燃焼させ、前記有機化合物を含む廃棄物を500℃以上に加熱して熱分解する工程。
3.前記容器内における前記燃料と前記酸素の燃焼をオキシフュエルバーナーにより行う請求の範囲2に記載した有機化合物を含む廃棄物のダイオキシンを発生させない処理方法。
4.前記有機化合物を含む廃棄物が自動車あるいは家庭電気製品のシュレッダーダスト、都市ゴミ、古タイヤ、その他各種廃プラスチック、廃油(機械油)及び農薬の何れか1種以上である請求の範囲1、2又は3のいずれか1の請求の範囲に記載した有機化合物を含む廃棄物のダイオキシンを発生させない処理方法。
 
訂正の要旨 っp 本件訂正請求の要旨は、特許2830746号の明細書を、本件訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正しようとするもので、その訂正の内容は下記(1)〜(3)のとおりである。
(1) 請求の範囲 2 の「又は供給燃料中のみの可燃性元素に対して」を削除する。
(2) 特許明細書第4頁25行「をを」を「を」と訂正する。
(3) 同13頁13行〜14行「生成したガス、タール及び未燃物のDXNの量(TEQは」を「生成したガスのDXNの量(TEQ)は」 と訂正する。
異議決定日 1999-12-14 
出願番号 特願平8-505636
審決分類 P 1 652・ 121- YA (F23G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 田村 嘉章  
特許庁審判長 寺尾 俊
特許庁審判官 歌門 恵
岡田 和加子
登録日 1998-09-11 
登録番号 特許第2824480号(P2824480)
権利者 川井 得吉 鋼管計測株式会社 市田 正次 佐藤 佳雄 宮下 芳雄
発明の名称 有機化合物を含む廃棄物の処理方法  
代理人 川和 高穂  
代理人 川和 高穂  

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