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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B65D
管理番号 1017499
審判番号 審判1995-26254  
総通号数 13 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1990-03-13 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 1995-12-04 
確定日 2000-05-31 
事件の表示 平成1年特許願第180680号「高分子フイルム」拒絶査定に対する審判事件(平成2年3月13日出願公開、特開平2-73831)について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 本審判請求に係る出願は、平成元年7月14日(優先権主張1988年7月15日,英国)の特許出願であって、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成7年12月28日付で補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載された次のとおりのものと認められる。
「開孔率が3.14×10-7〜7.85×10-4%であって、その平均孔径が20〜100μmの微細孔を1m2当り10〜1000個有し、それによりフイルム全体の物性として25℃、相対湿度75%の条件下で測定して800gm-2d-1以下の水蒸気透過率及び200,000cm3m-2d-1atm-1以下の酸素透過率を有する高分子フイルムにより構成されていることを特徴とする植物資材貯蔵用あるいは包装用高分子フイルム。」
ここで、上記開孔率の最小値(3.14×10-7)は、平均孔径の最小値(20μm)と分布密度の最小値(1m2当り10個)を用いて算出される値であり、上記開孔率の最大値(7.85×10-4)は、平均孔径の最大値(100μm)と分布密度の最大値(1m2当り1000個)を用いて算出される値であるので、上記特許請求の範囲において平均孔径と分布密度に加えて開孔率の数値範囲を特定した点に格別の技術的意義は認められない。
また、本願明細書中の発明の詳細な説明の記載を参酌すると、本願発明は、袋に設けた孔の大きさとその分布密度によって包装袋としての酸素透過率の大きさを決めるものと認められるが、フイルムにはいかなる素材から構成されるものであっても酸素透過性があり、酸素透過率はフイルム素材が有する物性によっても左右される。本願発明において酸素透過率の上限のみが特定され、下限が特定されていないからといって、本願発明が酸素透過率の無限に小さいものを含むと解すべきではなく、本願発明は、青果物に供給される酸素量を青果物が窒息死しない程度に低く抑えることを目的とし、その目的の範囲において酸素透過率を小さく抑えようとしたものであると解するのが相当である。このことは、本願明細書中に「しかしながら、酸素透過率はフイルム材料に固有の値よりも大きくすること、典型的には、フイルム材料固有の値よりも少なくとも900cm3m-2d-1atm-1だけ大きくする必要がある。このことは、少なくとも3500cm3m-2d-1atm-1であることを意味する。」(9頁13〜18行)との記載があることからも理解される。
さらに、本願特許請求の範囲において「・・・それによりフイルム全体の物性として25℃、相対湿度75%の条件下で測定して800gm-2d-1以下の水蒸気透過率」とあるのは、水蒸気透過率がフイルムの孔径及び開孔数に依存することを念頭に置いたものと認められる。一方、明細書12頁8〜9行に「水蒸気透過率(すなわち、フイルムに用いられる高分子のタイプ及び厚さ)」とある記載によれば、水蒸気透過率は主としてフイルムの素材と厚さによって左右されると解されるが、水蒸気透過率がフイルムの孔径及び開孔数にも左右されることは否定し得ないので、上記特許請求の範囲の記載はこのことに基づくものと解される。
これに対して、原査定の拒絶の理由において引用した特開昭63ー119647号公報(以下「引用例1」という。)には、青果物の包装袋に用いる複層フイルムが記載されている。この引用例1には「包装袋に開口やカット処理等を施さなくとも青果物の生理作用に好適な水蒸気透過性、酸素及び炭酸のガス透過性を発揮し、且つ内面に曇り現象を生じることのない様な複層フイルムを開発すべく研究を行った。その結果、複層フイルムの水蒸気透過性、酸素透過性及び炭酸ガス透過性を夫々適正範囲に特定すると共に、複層フイルム構成材中に適量の防曇剤を配合しておけば、上記の難点が一応解消されること確認し、こうした知見を基にして先の特許出願を済ませた。」(3頁左上欄7〜17行)との記載があることから、青果物の包装袋の水蒸気透過度、酸素透過度をフイルム素材の物性によって適正範囲にする技術が開示されている。さらに、引用例1には「本発明の包装袋を構成する複層フイルムは、まず第1の条件として水蒸気透過度、酸素透過度、炭酸ガス透過度を特定すると共に、包装用途等で用いたときの青果物に接する側の表面層に防曇剤を存在せしめたところに特徴を有するものであるから、以下上記各特性を定めた理由について説明する。
水蒸気透過度:15〜200g/m2・24hr・atm・40℃
・・・
酸素透過度:3000〜35000cc/m2・24hr・atm・20℃・90%RH
・・・
以上の様な諸特性を有する複層フイルムは、夫夫の要求特性に合致し得る合成樹脂の共押出しあるいはインラインラミネート法等によって製造することができるが、前述の要求特性との関係を考慮して最も好ましい基層構成材及び表面層構成材について説明すると次の通りである。
・・・
このようにして得られる複層フイルムは、防曇剤を含む層が内面側となるように且つ少なくとも3方を閉じて包装袋とされるが、この袋に生理作用の激しい青果物を装入して密封した場合は、先に述べた如く該フイルムのガス透過性能だけでは青果物の激しい生理作用に伴う内部ガス組成の変化及び湿度の増大に十分対応することができず、酸欠状態となって青果物が生理作用を喪失したり、あるいは急激な温度変化があった場合は内部の水蒸気が結露して袋内に水がたまり、水腐れの原因となる。
そこで本発明では包装袋内のガス組成の変化を内外の換気促進によって即座に平均化し得るよう、包装袋のフイルム面の一部もしくは全面に適当な大きさの開孔を設けることとしている。・・・」(3頁右下欄4行〜7頁左上欄12行)と記載されているから、前記記載と総合して判断すると、生理作用の激しい青果物を包装する場合は別として、そうでない青果物を包装する場合は、包装袋に開孔を設けず、そのフイルム素材により水蒸気透過率、酸素透過率等を適正な範囲の値にした包装袋が有用であり、その適正な範囲とは以下のとおりであることを、引用例1から窺い知ることができる。
水蒸気透過率:15〜200g/m2・24hr・atm・40℃
酸素透過率:3000〜35000cc/m2・24hr・atm・20℃・90%RH
ところで、本願発明における水蒸気透過率「800gm-2d-1以下」及び酸素透過率「200,000cm3m-2d-1atm-1以下」は、いずれも25℃、相対湿度75%の条件下で測定された値であり、水蒸気透過率の値が40℃の条件下、酸素透過率の値が20℃、湿度90%の条件下でそれぞれ示された上記引用例1記載のものと単純に数値を比較することはできないが、水蒸気透過率、酸素透過率が温度、湿度によって大きく変化するという合理的な理由は見当たらない(フイルムの素材として想定されるポリプロピレン等の水蒸気透過率、酸素透過率は温度、湿度によって大きく変化するものではない)から、上記引用例に示された水蒸気透過率及び酸素透過率は、本願発明における水蒸気透過率及び酸素透過率の範囲内にあると解するのが相当である(なお、本願発明の水蒸気透過率、酸素透過率の単位中「d-1」はday-1の意味であって/24hrと同じ意味と認められる)。
そこで、本願発明と上記引用例1記載の発明とを比較すると、両者は次の点で相違し、その余の点では一致するものと認められる。
本願発明は、開孔率が3.14×10-7〜7.85×10-4%であって、その平均孔径が20〜100μmの微細孔を1m2当り10〜1000個設けることによって、酸素透過率及び水蒸気透過率を所望の値としたのに対して、引用例1記載の発明は、フイルムを特定の素材により構成することによって、酸素透過率及び水蒸気透過率を所望の値とした点。
次に上記相違点について考察する。
同拒絶の理由において引用した特開昭62ー148247号公報(以下、引用例2という)には、生花や野菜の包装に用いる穿孔樹脂フイルムが記載されている。この穿孔樹脂フイルムは、孔径が50〜300μmの孔が1cm2当り50〜300個(1m2当り500,000〜3000,000個)の割合で穿孔されて通気性を有し、透湿度が1000g/m2・24時間・1気圧以上、透気度が30秒以下であるように孔径、孔の数、孔の間隔を選択するものである。ここで、透湿度は水蒸気透過率に相当し、透気度は酸素等のガスの透過性を示す指標であるから、引用例2には、包装袋に設ける孔の大きさと分布密度によって、酸素透過率及び水蒸気透過率の値を調整する技術が実質的に記載されていると言うことができる。しかも、引用例2における平均孔径は、本願発明における平均孔径20〜100μmに含まれ得るものである。なお、引用例2の穿孔樹脂フイルムは、本願発明よりも孔の数がはるかに大きくなっているが、これは本願発明が酸素透過率を青果物が窒息死しない程度に低く抑えようとするのに対して、引用例2は、通気性を高めようとすることに基づく相違点である。したがって、この引用例2を参酌すれば、前記引用例1記載のものにおいて、水蒸気透過率、酸素透過率を当該所望の値とするための手段として、フイルムに孔を設け、その大きさと分布密度を調整するという手法を用いることとし、平均孔径を例えば50μmとすることは当業者が容易になし得たことと認められる。そして、平均孔径をそのような値に選択したとき、孔の分布密度をどうずればよいかは、実験等によって容易に得られることである。
したがって、上記相違点は、引用例2を参酌することによって、当業者が容易になし得たことであると言わざるを得ない。
以上のとおりであるから、本願発明は、引用例1、2に記載されたものに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められ、特許法第29第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 1996-09-17 
結審通知日 1996-10-04 
審決日 1996-10-18 
出願番号 特願平1-180680
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B65D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 伏見 隆夫  
特許庁審判長 熊谷 繁
特許庁審判官 祖山 忠彦
千馬 隆之
発明の名称 高分子フィルム  
代理人 川島 利和  
代理人 友松 英爾  

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