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審決分類 |
審判 全部無効 1項3号刊行物記載 無効としない H01R |
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管理番号 | 1017509 |
審判番号 | 審判1998-35015 |
総通号数 | 13 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1987-04-30 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 1998-01-12 |
確定日 | 2000-06-27 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第1869849号発明「IC検査用ソケツト」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
I.手続の経緯 本件特許第1869849号に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、昭和60年10月21日に特許出願(特願昭60-235054号)され、平成1年10月13日付け及び平成2年9月29日付けで手続補正され、平成3年4月2日に出願公告(特公平3-24035号)され、その公告後に平成4年2月14日付けで手続補正され、平成6年9月6日に設定登録されたものである。 これに対し、審判請求人 山一電機株式会社(以下、「請求人」という。)は、証拠として甲第1号証ないし甲第14号証を提示し、「本件特許第1869849号は、これを無効とする。」との審決を求め、被請求人は、証拠として乙第1号証ないし乙第3号証を提示し、「本件審判の請求は成り立たない。」との審決を求めた。 <証拠方法> 甲第1号証:特開昭56-45581号公報(昭和56年4月25日公開) 甲第2号証:実開昭50-94490号公報(昭和50年8月8日公開) 甲第3号証:特開昭62-93964号公報(昭和62年4月30日公開) 甲第4号証の1:特公平3-24035号公報(本件出願公告公報) 甲第4号証の2:本件出願公告公報の訂正公報 甲第5号証:平成1年10月13日付け手続補正書(公告前) 甲第6号証:平成2年9月29日付け手続補正書(公告前) 甲第7号証:平成4年2月14日付け手続補正書(公告後) 甲第8号証:特公平8-10615号公報(平成8年1月31日公告) 甲第9号証:特公平5-61781号公報(平成5年9月7日公告) 甲第10号証:特公平4-63510号公報(平成4年10月12日公告) 甲第11号証:実開昭53-43876号公報(昭和53年4月14日公開) 甲第12号証:特公平2-22509号公報(平成2年5月18日公告) 甲第13号証:実公平2-18547号公報(平成2年5月23日公告) 甲第14号証:特許異議決定の写し 乙第1号証:米国特許第4691975号明細書及びその抄約 乙第2号証:甲第3号証と同じ公開公報 乙第3号証:甲第4号証の1と同じ公告公報 II.請求人及び被請求人の主張 1.請求人の主張 請求人の主張の概要は、次の(1)ないし(3)の理由のように、「本件特許は、特許法第29条第1項第3号、又は同法第29条第2項、同法第36条第4項の規定に違反してなされたものであって、特許法第123条第1項第2号の規定に該当するから、無効とすべきである。」というものである。 (1)無効理由の1 平成1年10月13日付手続補正書にて追加した、図面第5図の記載及びその構造と効果の説明に関する記載は、出願当初の明細書又は図面に記載したコンタクトピンの構造の範囲を逸脱し、明細書の要旨を変更したものである。 よって、本件出願は、特許法第40条の規定により上記手続補正書を提出した日にしたものと看做される。 この結果、本件特許発明は、平成1年10月13日以前に頒布された甲第3号証に記載の発明と同一に帰し、本件特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものとなる。 なお、請求人が平成10年9月9日付けで提出した弁駁書において、「この公告時発明は請求人がなした異議申し立てで詳述したとおり、甲第1号証(・・・)に記載の発明と同一に帰し、特許法第29条第1項第3号乃至同法第29条第2項により拒絶されるべきである。」と記載されているが、他に「特許法第29条第2項により拒絶されるべきである」という実質的な理由が記載されていないので、この記載をもって、いわゆる進歩性に関する主張がなされているとすることができない。 ▲1▼出願当初の第3図に示すコンタクトピンの接触解除構造と、追加図面第5図に示す同接触解除構造とは、後方変位を惹起させるためのメカニズムが全く異なり、作用効果が顕著に異なる。両者は技術的に明確に弁別されるべき方式である。 追加事項(第5図のコンタクトピンの構造並びにその構造と効果の説明)が、出願当初の明細書に記載されていないことは包袋記録上争う余地がなく、加えて当該追加事項は当業者において自明な事項とも言い難いものである。 ▲2▼出願当初の第3図に開示されたコンタクトピンは挟持片2dを後方へ繰り返し撓ませることによって、挟持片2dと基部2aとの結合部に応力が集中して変形する致命的欠陥を問題点として存しているが、追加した第5図のコンタクトピンではこの問題を解消し耐久性を向上すると共に、押下操作力を軽減する格別の効果を生ずる。 (2)無効理由の2 平成4年2月14日付手続補正書による補正は、下記各要件事項において、特許法第64条第1項に違反し、公告時の要件事項の概念を、公告後において上位概念に変更するか、又は公告時の要件事項を公告後において削除し、又は原明細書には記載のない事項を加入し、結果として請求の範囲を拡張するものである。 よって、本件特許は、特許法第42条の規定により上記補正がされなかった特許出願について特許がされたものと看做される。 この結果、本件特許発明(公告時の特許請求の範囲に記載された発明)は、甲第1号証に記載の発明と同一であり、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものとなる。 ▲1▼「載置」から「挿入」への補正について ICパッケージをソケット本体1に載置するとは、文字通りICパッケージ4のリード端子4aをソケット本体1に載せ置くか、又はICパッケージ4の本体をソケット本体1に載せ置くことを意味する。 補正前の本件特許発明において、コンタクトピン2にICパッケージ4のリード端子4aを載置する解釈が出てくる余地がない。 「挿入」は「載置」の上位概念用語であり、ICパッケージをソケット本体に「挿入」の構成は、ICパッケージをソケット本体に載置してレベル設定する形式と、ICパッケージをコンタクトに載置してレベル設定する形式の双方を含み、特許法で規定する特許請求の範囲の拡張に相当する。 ソケット本体載置型であったものをコンタクト載置型をも包含するように補正したものである。 ▲2▼「ソケット本体に係止」の要件削除について 公告時特許請求の範囲においては、ソケット本体にリード端子を載置し、このリード端子を内外挟持片で挟持することによりソケット本体にICパッケージを係止することを必須要件としている。 要件削除によってICパッケージをソケット本体に載置して係止する場合とコンタクトに載置して係止する場合の双方を含む結果となり、特許法で規定する特許請求の範囲の拡張に相当する。 ▲3▼「リード端子の挟持を解除する」の要件削除について 押動片3a″が「受爪2d″の該上側斜面と当接して該一方の挟持片2dを撓ませ上記リード端子の挟持を解除する」ことを要件としているが、補正後の請求の範囲においては、「受爪2d″と係合して前記傾斜面を押動して外側挟侍片2dを外方に弾性変形させ得る」と書き改められ、公告時の請求の範囲における「リード端子の挟持を解除する」の要件が削除されている。 この補正は、「リード端子の挟持を解除する」場合に限定されず、リード端子の挟持の解除を要件とせずに、単に外方に弾性変形させることのみを限定要件としたものであって、明らかに上位概念への構成の変更である。 よって上記公告時請求の範囲における「リード端子の挟持を解除する」の要件を公告後補正において削除し、これを単に「弾性変形させ得る」と補正したのは発明の拡張に当る。 ▲4▼内側挟持片2cの弾性変形及びリード端子の加圧接触について 内側挟持片2cが弾性変形して、リード端子に加圧接触する旨の補正加入は、出願当初の明細書に記載されていない事項であるから、第64項第1項ただし書きの何れにも該当しない補正である。 公告時請求の範囲の請求項1においては、「一方の挟侍片2dを撓ませ」る場合のみを要件としているが、公告後請求の範囲の1項においては、ソケットとして(ソケット完成体として)「一対の挟持片2c,2d」が「弾性変形可能」であると要件変更している。 然しながら、公告時明細書には外側挟持片2dが撓んで加圧接触する旨の開示は存するが、内側挟持片2cが撓んで加圧接触する旨の開示は一切存しない。 (3)無効理由の3 無効理由の1及び2が認められないとしても、本件特許発明(公告後補正に係る発明)は、次の▲1▼、▲2▼のように、特許法第36条第4項、同法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。 ▲1▼「中央部」とは、外側挟持片の中心部付近を意味し、「中間部」は外側挟持片の両端部の間を意味し、技術的概念が明確に相違する。 明細書の発明の詳細な説明において「中央部」と記載されているものを、特許請求の範囲に「中間部」と記載することは、「特許請求の範囲に発明の詳細な説明した発明の構成に欠くことができない事項のみを記載しなければならない。」に違反している。 ▲2▼本件特許発明(公告後補正に係る発明)は、甲第1号証、甲第2号証及び甲第11号証から当業者が容易に推考し得る程度のものであり、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとなる。 2.被請求人の主張 被請求人の主張の概要は、次のとおりである。 (1)無効理由の1 平成1年10月13日付手続補正書にて追加した事項は、出願当初の明細書又は図面に記載されている事項の要旨を変更するものではない。 本件特許の特許請求の範囲は、第5図のコンタクトピンの特徴である「湾曲したばね部2d′′′を具備する構成」を省いた内容の上位概念からなるコンタクトピンの構成を記載しているので、第5図のコンタクトピンの構成は本来的に本件特許発明の技術的範囲に含まれる。 なお、第5図のものは、解除体が降りてきて、コンタクトピンの受爪の傾斜面に力が作用すれば、下方にも動くかは不知である。 (2)無効理由の2 平成4年2月14日付手続補正書による補正は、特許法第64条第1項に違反するものではない。 ▲1▼「載置」から「挿入」への補正について 「ソケット本体1の開口部にICパッケージを挿入することにより、該パッケージの本体側方から突出するリード端子と接触するコンタクトピン2が列設されて成るIC検査用ソケットにおいて、」からなる構成は、補正前の「ICパッケージをソケット木体に載置する」という構成がどのように載置を行なうかが不明確であったものを、本件出願時の明細書、即ち乙第2号証の第3頁右上欄第11行から第17行に記載されている内容及び本件の図面第1図に記載されている内容「列設されているコンタクトピン2の上にICパッケージのリード端子を接触させるようにICパッケージを挿入して載置させる点」の構成であることを明確となるようにしたものである。 ▲2▼「ソケット本体に係止」の要件削除について 本件出願時の明細書、即ち乙第2号証の第3頁右上欄第7行から左下欄第13行に記載されている内容より、本件特許発明は「ICパッケージ4を挟持片2cのカット部2c′と挟持片2dのフック部2d′とによりそのリード端子4aを挟持すると同時に核リード端子4aを押さえてICパッケージ4を係止する。」ものであることは明白である。 そして、本件特許発明の公告後の補正内容においても、係止の語は削除されているが、前記の本件特許発明の内容を構成要件としていることは、平成10年8月17日付けの回答書において記載した理由により、あらたに説明するまでもなく明らかである。 更に、本件出願時の明細書、即ち乙第2号証の第3頁右下欄第3行から第5行に記載されている内容より、「ICパッケージ4を挟持片2cのカット部2c′と挟持片2dのフック部2d′とによりそのリード端子4aを挟持することの意味は、同時に該リード端子4aを押さえてICパッケージ4を係止することを意味している。」こととなり審判請求人の主張する「ICパッケージをソケット本体に載置して係止する場合」は発生しないことは明らかである。 ▲3▼「リード端子の挟持を解除する」の要件削除について 本件特許発明のコンタクトピン2の構成は、ICパッケージ4のりード端子4aを1対の挟符片2c、2dによって挟持するものであり、その一方の外側挟持片2dを外方に弾性変形させることは、前記リード端子4aの挟特を解除することにほかならない。 ▲4▼内側挟持片2cの弾性変形及びリード端子の加圧接触について 本件特許発明における「1対の挟持片2c、2dがともに弾性変形可能であるとする構成」は、本件出願当初の明細書が公開されている前記乙第2号証の第2頁右下欄第12行から第18行および本件の公告公報である乙第3号証の第4欄第28行から第34行に明示されているように、原明細書に記載されている事項である。 (3)無効理由の3 ▲1▼出願当初の明細書及び公告時の明細書には、受爪2d″の分岐位置として、「挟持片2dの略中央外側」としており(乙第2号証第3頁左上欄第3行から第5行および乙第3号証第4欄第39行から第41行参照)、請求人の主張する範囲が中央のみに限定される内容からなる「中央部」ではなく、この「中央部」より範囲が広い内容からなる「略中央部」であって、「中間部」の意味を実質的に保有するものである。 ▲2▼本件特許発明は甲第1号証、甲第2号証および甲第11号証に記載されている発明とは相違し、新規性および進歩性を具備しているものである。 III.当審の判断 1.無効理由の1について 出願公告後である平成4年2月14日付けの手続補正は、後述するように、実質上特許請求の範囲を拡張するものであるから、その補正がされなかった特許出願について特許がされたものとみなされる。 そうすると、本件発明は、平成1年10月13日付け及び平成2年9月29日付けで手続補正され、平成3年4月2日に出願公告された特許請求の範囲に記載された事項により特定されるとおりのものと認められる。 そこで、該特許請求の範囲に記載された技術的事項を「コンタクトピンの接触解除構造」についてみると、「受爪2d″の該上側斜面と当接して該一方の挟持片2dを撓ませ上記リード端子の挟持を解除する押動片3a″を備えた解除体3」となっていて、ここでは、解除体3の押動片3a″がコンタクトピン2の受爪2d″の上側斜面と当接して一方の挟持片2dを撓ませてリード端子の挟持を解除することが特定されているのみで、挟持片2dが撓身む具体的な態様とリード端子の挟持を解除することの関係までが特定されていない。 してみると、本件特許の明細書の要旨、すなわち、本件特許の特許請求の範囲に記載された技術的事項は、挟持片2dが撓む具体的な態様とリード端子の挟持を解除することの関係までを含むものと認めることができない。 そして、第3図及び第5図に記載されたものを対比すると、共に、解除体3の押動片3a″がコンタクトピン2の受爪2d″の上側斜面と当接して一方の挟持片2dを撓ませて、斜めカット部2c′とフック部2d′との間を開くことにより、リード端子の挟持を解除する点で一致していて、ただ、第5図に記載されたものが、「ばね部2d″によれば、解除体3の押圧操作時、該ばね部2d″が弾性変形するので、挟持片2dと基部2aとの結合部に応力が集中するのを防ぐことができ、これによりコンタクトピン2の耐久性の向上を図ることができる。」といった第3図に記載されたものに比べて優れた効果を奏することができる点で相違するが、この効果は、本件特許の特許請求の範囲に記載された技術的事項によって直接もたらされるものではない。 したがって、平成1年10月13日付けの手続補正(第5図及びその説明を加えた補正)は、その結果、本件特許の特許請求の範囲に記載された技術的事項が願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内でないものとするものでなく、本件特許の明細書の要旨を変更するものではない。 以上のとおりであるから、無効理由の1に係る請求人の主張は採用することができない。 2.無効理由の2について (1)公告後補正の適否についての判断 ▲1▼「載置」から「挿入」への補正について 出願公告時と補正後の発明の要旨(以下、前者を「公告時発明」、後者を「補正後発明」という。)は、それぞれ、その時点の特許請求の範囲に記載されるとおりのものと認められる。 公告時発明と補正後発明について、「載置」と「挿入」に注目して「ICパッケージ」、「ソケット本体1」及び「コンタクトピン2」の関係をみると、公告時発明では、「ソケット本体1」は「ICパッケージ」を載置するためのものであること及び「コンタクトピン2」は「ICパッケージ」から突出したリード端子を挟持することとなっているのに対し、補正後発明では、「コンタクトピン2」は「ソケット本体1」の開口部に「ICパッケージ」を挿入することにより、「ICパッケージ」の本体側方から突出するリード端子と接触することとなっているが、少なくとも、「ソケット本体1」は「ICパッケージ」を載置するためのものとなっていない。 これについて、被請求人は、公告時発明の不明確である構成を明確となるようにしたものであるとして、上記II.(2)▲1▼のように主張している。 ところが、ここで被請求人が指摘する乙第2号証の第3頁右上欄第11行から第17行及び本件の図面第1図のいずれにも、「ICパッケージ4を・・・挿入することにより、・・・コンタクトピン2の・・・カット部2c′上にICパッケージ4を載置させる点」が記載されていないばかりか、補正後発明において、ここで被請求人が主張するように、「ICパッケージを挿入して載置させる」と特定されているものではない。 そして、「載置」と「挿入」は、異なる概念を示すものであって、「ソケット本体1」及び「コンタクトピン2」の関係が、公告時発明においては、「載置」の態様を特に限定することなく、「載置」とのみ限定していて、このこと自体、明りょうでない記載とすることができないものであって、これが、補正により、補正後発明のように、「ソケット本体1」が「ICパッケージ」を載置するためのものでなくなっている以上、このような補正は、実質上特許請求の範囲を変更するものにほかならない。 してみれば、これに関する被請求人の主張は、採用することができない。 ▲2▼「ソケット本体に係止」の要件削除について 公告時発明と補正後発明について、「係止」と「挟持」に注目して「ICパッケージ」及び「コンタクトピン2」の関係をみると、公告時発明では、「コンタクトピン2」はその一対の挟持片2c,2dにより「ICパッケージ」から突出したリード端子を挟持して「ICパッケージ」を係止することとなっているのに対し、補正後発明では、「コンタクトピン2」はその一対の内側挟持片2cと内側挟持片2dにそれぞれ形成された接触部2c′と接触挟持部2d′により「ICパッケージ」の本体側方から突出するリード端子と挟持接触し得ることとなっていて、少なくとも、「係止」なる文言が存在しない。 「係止」と「挟持」の一般的な技術的意味は、被請求人が平成10年8月17日付けで提出した回答書に添付された「基本テキスト:特・実用新案の中間手続の実務」の第4章「機械関係の明細書」第34頁[弁理士会研修所編、平成元年12月26日発行]に記載されるように、「係止」が「かかわりあって止めること。」を意味し、「挟持」が「挟んだ状態で支持すること。」を意味し、両者は、明らかに異なる。 また、「係止」と「挟持」の公告時発明における技術的意味は、公告時発明に係る明細書の記載「一方の挟持片2dのフック部2d′がICパッケージ4のリード端子4aに対して挟持作用のみならず係止作用も発揮するので、ICパッケージ4の装着が確実に行われる」(公告公報第3頁第6欄第10〜13行)からみて、両者は、明らかに異なる。 そして、「係止」と「挟持」に関する上記公告時発明に係る明細書の記載は、公告時発明の実施例のものが、挟持作用のみならず係止作用も発揮するようになっていることを示すものであって、「挟持作用」を発揮すれば、常に「係止作用」までも発揮することを意味するものではない。 さらに、補正後発明では、係止の概念を含まない「接触」と複合した「接触挟持」となっているうえに、ICパッケージ4を他の手段でも係止することが可能であるから、このような「接触挟持」を常に「係止作用」までも発揮するものと解することに合理性がない。 そうすると、「コンタクトピン2」の一対の挟持片2c,2dにより「ICパッケージ」から突出したリード端子を挟持して「ICパッケージ」を係止することを発明の構成要件としていたものを、「係止」を特定することなく、「接触挟持」に止まるようにした補正は、実質上特許請求の範囲を拡張するものにほかならない。 してみると、これに関する被請求人の主張は、採用することができない。 ▲3▼「リード端子の挟持を解除する」の要件削除について 補正後発明を特定する事項「外側挟持片2dには、・・・接触挟持部2d′と、・・・受爪2d″とが形成され、内側挟持片2cには・・・リード端子を挟持接触し得る接触部2c′が形成されており、・・・下方への押動時に受爪2d″と係合して・・・外側挟持片2dを外方に弾性変形させ得る押動片3a″を有する解除体3が具備されている」からみて、補正後発明は、「解除体3がリード端子を挟持接触し得る接触部2c′が形成されている外側挟持片2dを外方に弾性変形させる」のであるから、「リード端子の挟持を解除する」ことをその要件としていることが明らかである。 してみると、これに関する請求人の主張は、採用することができない。 ▲4▼内側挟持片2cの弾性変形及びリード端子の加圧接触について 「一対の挟持片2c,2d」が「弾性変形可能」であるとすること自体は、減縮に相当し、補正後発明は、内側挟持片2cが弾性変形して、リード端子に加圧接触することを特定しているものでない。 してみると、これに関する請求人の主張は、採用することができない。 したがって、公告後の平成4年2月14日付けの手続補正書は、上記▲1▼及び▲2▼で説示したように、実質上特許請求の範囲を拡張するものであり、本件特許は、該補正がされなかった特許出願についてされた特許とみなされる。 (2)特許法第29条についての判断 ▲1▼本件発明 本件発明は、平成1年10月13日付け及び平成2年9月29日付けで手続補正され、平成3年4月2日に出願公告された特許請求の範囲に記載された事項により特定される次のとおりのものと認められる。 「ICパッケージを載置するためのソケット本体1と、該ソケット本体1内に配置されていて上記ICパッケージからの突出したリード端子を挟持してICパッケージをソケット本体1に係止せしめる一対の挟持片2c,2dを有するコンタクトピン2と、上下動するように上記ソケット本体1に装着されていて下方向へ押動された時に上記コンタクトピン2の上記一対の挟持片2d,2cのうちの一方の挟持片2dの外方に突出して設けられた上側斜面を有する受爪2d″の該上側斜面と当接して該一方の挟持片2dを撓ませ上記リード端子の挟持を解除する押動片3a″を備えた解除体3とからなることを特徴とするIC検査用ソケット。」 ▲2▼甲第1号証に記載された発明 甲第1号証には、「LSIソケット」に関する発明について記載されていて、その明細書及び図面の記載からみて、次のような発明(以下、「甲第1発明」という。)が記載されていると認めることができる。 「LSIソケットのベースハウジング5と、該ベースハウジング5内に配置されていてLSIパッケージ1からの突出したリード2を挟持してLSIパッケージ1をベースハウジング5に接触固定せしめる一対のばね状端子6と、上下動するように上記ベースハウジング5に装着されていて下方向へ押動された時に上記一対の挟持部を有するばね状端子6の双方の外方に屈曲して設けられた上側斜面を有する部分の該上側斜面と当接して該双方の一方のばね状端子6を撓ませ上記リード2の挟持を解除するテーパー状突起部8を備えた駆動体3とからなることを特徴とするLSIソケット。」 ▲2▼本件発明と甲第1発明の対比及び判断 本件発明と甲第1発明を対比すると、甲第1発明の「LSIソケットのベースハウジング5」、「リード2」、「LSIパッケージ1」、「接触固定」、「一対の挟持部を有するばね状端子6」、「上側斜面を有する部分」、「テーパー状突起部8」及び「駆動体3」が、それぞれ、本件発明の「ソケット本体1」、「リード端子」、「ICパッケージ」、「係止」、「一対の挟持片2d,2cを有するコンタクトピン2」、「上側斜面を有する受爪2d″」、「押動片3a″」及び「解除体3」に相当するから、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。 <一致点> ソケット本体と、該ソケット本体内に配置されていてICパッケージからの突出したリード端子を挟持してICパッケージをソケット本体に係止せしめる一対の挟持部を有する電導体と、上下動するように上記ソケット本体に装着されていて下方向へ押動された時に上記一対の挟持部を有する電導体の外方に設けられた上側斜面を有する受爪の該上側斜面と当接して挟持部を有する電導体を撓ませ上記リード端子の挟持を解除する押動片を備えた解除体とからなることを特徴とするICソケット。 <相違点> イ ICパッケージとソケット本体の関係について本件発明では、ICパッケージを載置するためのソケット本体1となっているのに対し、甲第1発明では、明確でない点。 ロ 解除機構について、本件発明では、一方の挟持片2dの外方に突出して設けられた上側斜面を有する受爪2d″の該上側斜面と当接して該一方の挟持片2dを撓ませ上記リード端子の挟持を解除するとなっているのに対し、甲第1発明では、双方の挟持片の外方に屈曲して設けられた上側斜面を有す受爪2d″の該上側斜面と当接して該双方の挟持片を撓ませ上記リード端子の挟侍を解除するとなっている点。 ハ ソケットの用途について、本件発明では、IC検査用ソケットとなっているのに対し、甲第1発明では、LSIソケットとなっている点。 以下、上記相違点について検討する。 <相違点イについて> 甲第1号証の第4図及び第5図の記載からみて、「解除体(駆動板3)」が「挟持部を有する電導体(ばね状端子6)」の挟持動作を開放しているとき、「ICパッケージ(LSIパッケージ1)」は、何らかの手段により、位置保持されているとみることもできるが、「ICパッケージ(LSIパッケージ1)」を「ソケット本体(ベースハウジング5)」に載置していることが記載されているとも記載されているに等しいとも見て取れない。 <相違点ハについて> ICパッケージ及びLSIパッケージに対し電気的接続をして該パッケージを検査をするソケットが共に周知であるから、当業者にとって、このような用途の限定は、必要に応じ適宜実施できる程度のことにすぎない。 してみると、この相違点ハに係る本件発明の構成は、甲第1号証に記載されているに等しいものである。 <相違点ロについて> 甲第1発明は、甲第1号証の記載「第4図に示すように、LSIパッケージ1のリード2をソケットに挿入するときに、・・・この状態では、駆動板3の底面に設けられたテーパー状突起部8がばね状端子6をこじ開けるため、ばね状端子6とリード2とは接触しておらず接触カゼロである。次にカム状レバー4をもとの状態にもどすと、・・・ばね状端子6に縮ぢまる力が作用してリード2と接触固定される。 ・・・抜去は、・・・テーパー状突起部8がばね状端子6をこじ開ける。このため、ばね状端子6とリード2との接触力はゼロとなり、LSIパッケージ1を抜去することができる。」の記載からみて、リード端子の挟持・係止の前の挿入と係止・挟持の解除の後の抜去は、双方の挟持片とリード端子との間に接触力を伴わないようにして行うものであって、双方の挟持片を撓ませる構成が必須のものである。 このような甲第1発明において、片方の挟持片のみを撓ませるたり復帰させたりすることにより、リード端子の挟持・係止の前の挿入と係止・挟持の解除の後の抜去を行うようにすると、挟持片とリード端子との間に接触力が発生してしまうことになる。 そうすると、このような甲第1発明において、片方の挟持片のみを撓ませるたり復帰させたりすることにより、リード端子の挟持・係止の前の挿入と係止・挟持の解除の後の抜去を行うようにし、さらに、挟持片とリード端子との間に接触力が発生しないようにするには、本件発明の実施例のような「リード端子や一方の挟持片2cのカット部2c′のような特殊な構成」を採用しなければ実施できないことになる。 してみると、この相違点ロに係る本件発明の構成は、甲第1号証に記載されているに等しいものであるとすることができない。 したがって、本件発明は、甲第1号証に記載されている事項又は記載されているに等しい事項から把握される発明と同一であるとすることができなく、これに関する請求人の主張は、採用することができない。 したがって、請求人が主張する理由IIによっては、本件特許を無効とすることができない。 なお、請求人の主張には、「本件発明が甲第1号証、甲第2号証及び甲第11号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できた発明である。」との主張は、含まれていないが、少なくとも、上記相違点ロに係る本件発明の構成について、請求人が提示した甲第2号証及び甲第11号証に記載も示唆もなされていなく、また、このような構成を採用することは、出願当時の技術水準からみて、当業者にとって容易になし得る程度のことと認めることができないので、本件発明が甲第1号証、甲第2号証及び甲第11号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できた発明であるとすることはできない。 3.無効理由の3について これに関する請求人の主張は、公告後発明についての主張であるが、上記III.2.で説示のように、本件発明が公告時発明のとおりであるから、この請求人の主張に関する判断は、行わない。 IV.むすび 以上のとおりであるから、本件特許は、請求人が主張するいずれの理由及び提出した証拠方法によっても、本件特許を無効とすることはできない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 1999-03-25 |
結審通知日 | 1999-04-06 |
審決日 | 1999-04-16 |
出願番号 | 特願昭60-235054 |
審決分類 |
P
1
112・
113-
Y
(H01R)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 高橋 武彦、須原 宏光、青山 待子 |
特許庁審判長 |
舟木 進 |
特許庁審判官 |
神 悦彦 西村 敏彦 |
登録日 | 1994-09-06 |
登録番号 | 特許第1869849号(P1869849) |
発明の名称 | IC検査用ソケット |
代理人 | 阿部 和夫 |
代理人 | 山本 光太郎 |
代理人 | 升永 英俊 |
代理人 | 伊藤 高英 |