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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C04B
審判 全部申し立て 2項進歩性  C04B
管理番号 1018279
異議申立番号 異議2000-70095  
総通号数 13 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1993-11-22 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-01-19 
確定日 2000-06-28 
異議申立件数
事件の表示 特許第2920016号「製紙パルプスラッジを用いた高強度建材用石膏ボードの製造方法」の請求項1ないし2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2920016号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第2920016号は、平成4年2月3日に出願し、平成11年4月23日に設定登録され、同年7月19日に特許公報に掲載されたところ、平成12年1月19日に藤田肇から特許異議の申立を受けたものである。
2.本件発明
本件発明は、本件特許公報に掲載されたとおりの次のものである。
[請求項1]製紙パルプスラッジと石膏とを混合しそして加圧成型することにより建材用石膏ボードを製造する方法において、製紙パルプスラッジの含水微細繊維と石膏との混合をフェニキュラーII(Funicular-II)領域からキャピラリー(Capillary)領域において剪断力を適用しつつ実施することにより、含水微細繊維の付着水と石膏とを効率的に反応せしめることを特徴とする高強度建材用パルプスラッジ石膏ボードの製造方法。
[請求項2]樹脂及び(或いは)補強剤を更に添加することを特徴とする請求項1の高強度建材用パルプスラッジ石膏ボードの製造方法。
3.特許異議申立人の主張
特許異議申立人藤田肇は、甲第1〜4号証を提出して次のような主旨の主張をしている。
(1)本件請求項1に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証または甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものである。(関連証拠方法;甲第1〜3号証)
(2)本件請求項1に係る発明は、甲第1号証または甲第2号証に記載された発明および甲第3号証に記載されている周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
(3)本件請求項2に係る発明は、甲第1号証または甲第2号証に記載された発明および甲第1〜4号証に記載されている周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
4.特許異議申立人の主張についての検討
4-1.上記(1)の主張について
甲第1号証(特公昭55-3313号公報)には、「固形物含有量5〜20%の含水状態の製紙廃滓に、前記製紙廃滓の含有固形分の0.5〜20倍重量の焼石膏を添加混合したのち、成形、乾燥することを特徴とする成形体の製造法。」(特許請求の範囲第1項)および「固形物含有量5〜20%の含水状態の製紙廃滓に、前記製紙廃滓の含有固形分の0.5〜20倍重量の焼石膏を加えたものを基材とし、これにパーライトなどの無機質軽量材およびガラス繊維、石綿などの無機繊維のいずれかまたは両者を加えて混合したのち、成形、乾燥することを特徴とする成形体の製造法。」(特許請求の範囲第2項)が記載されており、また、その実施例1および2には、製紙廃滓に焼石膏粉末を加え混練したこと、実施例3には、製紙廃滓に焼石膏粉末およびパーライト粉末を加え混練したこと、実施例4には、製紙廃滓に焼石膏粉末およびガラス繊維を加え混練したことが記載されているが、特許請求の範囲第1項や第2項には、単に「混合」としか表現されていないから、甲第1号証では、「混練」という用語や「混合」という用語を厳密に区別して使用しているわけではないし、また、甲第1号証の各実施例には、その「混練」の具体的な操作条件について記載するところはないから、甲第1号証の各実施例でいう「混練」が、はたして、フェニキュラーII領域からキャピラリー領域において剪断力を適用しつつ実施されたのか否かは不明である。
甲第2号証(特開昭55-77548号公報)には、「パルプ廃液を濃縮して泥状にする第1工程と、この第1工程で出来る泥状のパルプ廃液に焼石膏を40-100重量%混入して充分混練する第2工程と、この第2工程で出来る混練物を成型加工する第3工程と、この第3工程で出来るプレス加工品を乾燥させる第4工程とから成る新建材の製造法。」(特許請求の範囲)が記載されており、その第1頁右下欄18行から第2頁左上欄14行には、「先ず第1工程でパルプ廃液を含水率約80%に濃縮して泥状物を作る。次に第2工程は、前記第1工程で出来る泥状のパルプ廃液に、パルプ廃液の泥状のものから水分を差引いた重量に対する重量比が40-100%の焼石膏を混入する。尚、この第2工程で焼石膏を混入する際に、各種の混和剤、例えば増量剤、強度補強剤、接着補強剤、着色剤、消臭剤等を同時に混入すれば、要求される性能に応じた製品を提供することが出来る。第3工程は、第2工程で出来る混和物を公知の成型プレス機で各種形状に成型加工を行う。次いで、第4工程は、第3工程で出来る成型加工品を100℃以下の温度で強制的に乾燥させるか、又は自然乾燥させて含水率約10%に調節して製品化させるものである。この場合、150℃以上で乾燥させると粘結性や分散性が崩れてしまう。」と記載されているが、甲第2号証には、特許請求の範囲では「混練」、発明の詳細な説明では、「混入」や「混和」と表現されていて、「混練」という用語や「混入」や「混合」という用語を厳密に区別して使用しているわけではないし、また、甲第2号証には、その「混練」の具体的な操作条件について記載するところはないから、第2号証でいう「混練」が、はたして、フェニキュラーII領域からキャピラリー領域において剪断力を適用しつつ実施されたのか否かは不明である。
甲第3号証(橋本健次著、「混練技術」、産業技術センター、昭和53年10月5日初版発行、p.19-22,50-51,77-82,107-110)の1.1.3の項には、混練と捏和、分散、混合の違いに関する説明があり、その表1.4には、「混練、捏加、分散および混合の定義の違い」に関する表、その表1.5には、「粉体、液体と気体の状態および混練、捏加、分散と混合の区別」に関する表が示されており、それによれば、「混練」という用語の概念は、「混合」や「捏加」や「分散」のそれと重なる部分があることが示されているものの、それは一般論にすぎず、そうであるからといって、甲第1号証における「混練」の状態、および、甲第2号証における「混練」の状態が、甲第3号証の表1.5で挙げられているFunicularIIやCapillary状態になっているとする根拠にはならない。
そうすると、結局、甲第1号証や甲第2号証には、「製紙パルプスラッジの含水微細繊維と石膏との混合をフェニキュラーII(Funicular-II)領域からキャピラリー(Capillary)領域において剪断力を適用しつつ実施することにより、含水微細繊維の付着水と石膏とを効率的に反応せしめる」という事項が記載されているとはいえない。
なお、特許異議申立人は、本件請求項1における(A)「含水微細繊維の付着水と石膏とを効率的に反応せしめる」ことは、(B)「製紙パルプスラッジの含水微細繊維と石膏との混合をフェニキュラーII領域からキャピラリー領域において剪断力を適用しつつ実施する」ことによる作用効果を単に表現したものであるから、実質的な構成要件ではない等と主張しているが、(B)という事項は(A)という事項をもたらす手段ではあるが、同時に、(B)という事項によってもたらされる(A)という事項は、高強度の石膏ボードを得るという本件請求項1に係る発明の効果を最終的にもたらすものであるから、(A)という事項も本件請求項1における構成要件である。
したがって、特許異議申立人のそのような主張は誤りである。
また、特許異議申立人は、特許異議申立書第5頁6〜10行で、「本発明の実施例の混練・捏和における水分(水分:約30重量%)と、甲第1号証の実施例2の水分(水分30重量%)が実質的に同一であることから、甲第1号証における混練時にも、混練物が『フェニキュラーII領域からキャピラリー領域』の状態にあることが明らかである」と主張しているが、本件明細書における実施例では、製紙パルプスラッジ固形分に対して焼石膏の添加率はわずか1.56倍であるのに対し、甲第1号証の実施例2では、製紙廃滓固形物分に対して焼石膏の添加率は20倍である。
そして、本件明細書における実施例では添加する焼石膏の量が甲第1号証の実施例2と較べ遙かに少ないにもかかわらず曲げ強度が75/cm2で、甲第1号証の実施例2の80kg/cm2と較べても遜色のない効果を発揮していることからみて、甲第1号証の実施例2においても本件明細書における実施例と同様に、製紙パルプスラッジの含水微細繊維と石膏との混合をフェニキュラーII(Funicular-II)領域からキャピラリー(Capillary)領域において剪断力を適用しつつ実施することにより、含水微細繊維の付着水と石膏とを効率的に反応せしめていると考えるのは困難である。
したがって、含水率のみに着目したそのような主張は、合理性があるとはいえない。
してみると、甲第1号証または甲第2号証に記載された発明は、結局、「製紙パルプスラッジの含水微細繊維と石膏との混合をフェニキュラーII(Funicular-II)領域からキャピラリー(Capillary)領域において剪断力を適用しつつ実施することにより、含水微細繊維の付着水と石膏とを効率的に反応せしめる」という構成要件を備えているとは認められないから、本件請求項1に係る発明であるとはいえない。
したがって、上記(1)の主張は理由がない。
4-2.上記(2)の主張について
甲第3号証の第77〜82頁にはホイール形混練機について、第107〜110頁にはブレード形混練機について記載されており、また、第51頁の表1.16には、粉体同士を結びつける結合材の種類の一つとして「石こう」が挙げられているものの、甲第1号証や甲第2号証には、そこでいう「混練」に関して、使用する混練機の種類も含めて具体的操作条件について何も示していないのであるから、甲第3号証にホイール形混練機やブレード形混練機という混練機の種類が記載されていたとしても、甲第1号証や甲第2号証でいう「混練」を行う際に、そのような種類の混練機を特に選んで採用する理由は存在しないし、そして、そもそも、甲第1〜3号証には、本件明細書の段落[0007]に記載されているところの「製紙パルプスラッジの含水微細繊維と半水石膏との混合物にフェニキュラーII領域からキャピラリー領域において剪断力を加えることにより、瞬間的にパルプスラッジの含水微細繊維の中の付着水分と石膏の飽和水とが入れかわり、しかも、製紙パルプスラッジの微細繊維と半水石膏粒子相互間のメカノケミカル反応により、製紙パルプスラッジ中の微細繊維の中から二水石膏結晶化を完結せしめ、製紙パルプスラッジ中の微細繊維と復水石膏とが完全に密着し合う」という作用の認識についても示されていないのであるから、甲第1〜3号証の記載を総合したところで、本件請求項1に係る発明の構成要件である「製紙パルプスラッジと石膏とを混合しそして加圧成型することにより建材用石膏ボードを製造する際に、製紙パルプスラッジの含水微細繊維と石膏との混合をフェニキュラーII(Funicular-II)領域からキャピラリー(Capillary)領域において剪断力を適用しつつ実施することにより、含水微細繊維の付着水と石膏とを効率的に反応せしめる」という事項が当業者にとって容易に想到し得たものであったということはできない。
そして、本件請求項1に係る発明が、前記事項を構成要件とすることによって、廃棄物を有効利用し、かつ、曲げ強度や圧縮強度等に優れた石膏ボードを製造し得るという優れた効果を奏することは本件明細書の実施例等の記載から明らかである。
してみると、甲第1〜3号証の記載を総合したところで、本件発明は、それらの記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
したがって、上記(2)の主張も理由がない。
4-3.上記(3)の主張について
甲第1〜3号証については、上記4-1および4-2の項で既に検討したところであり、また、甲第4号証(特開昭50-95322号公報)には、「紙、パルプ製造工程に於て派生する微細な有機繊維質及び鉱物質等よりなる排水スラッジに1〜30mmの長繊維物質及び石膏を混合し、加圧成型し乾燥することを特徴とする建材用特殊ボードの製造法。」(特許請求の範囲第1項)および「当該組成物中に水溶性樹脂を用いる特許請求の範囲1に記載の建材用特殊ボードの製造法。」(特許請求の範囲第2項)が記載されているものの、甲第4号証は本件明細書で従来技術として挙げているものにすぎず、しかも、その実施例1(パルプ製紙廃泥、ガラス繊維および焼石膏の例)や実施例2および3(パルプ製紙廃泥、化繊繊維および焼石膏の例)では、撹拌混練し均一なスラリーとしていて、フェニキュラーII(Funicular-II)領域からキャピラリー(Capillary)領域において混練していないことは明らかである。
そして、甲第1〜4号証に、樹脂や補強剤を添加することが記載されているとしても、本件請求項2に係る発明は、請求項1の記載を引用し、その構成を踏襲しているものであるから、本件請求項2に係る発明は、上記4-2と同様な理由により、甲第1〜4号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
したがって、上記(3)の主張も理由がない。
5.結び
以上のとおりであるから、特許異議の申立の理由および証拠によっては、本件請求項1および2に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1および2に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2000-06-01 
出願番号 特願平4-46374
審決分類 P 1 651・ 113- Y (C04B)
P 1 651・ 121- Y (C04B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 鈴木 紀子  
特許庁審判長 石井 勝徳
特許庁審判官 新居田 知生
西村 和美
登録日 1999-04-23 
登録番号 特許第2920016号(P2920016)
権利者 日鉱金属株式会社
発明の名称 製紙パルプスラッジを用いた高強度建材用石膏ボードの製造方法  

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