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審決分類 審判 査定不服 発明同一 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1019231
審判番号 審判1998-322  
総通号数 14 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1992-10-21 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 1997-12-25 
確定日 2000-06-22 
事件の表示 平成3年特許願第89840号「窒化ガリウム系化合物半導体の結晶成長方法」拒絶査定に対する審判事件〔平成4年10月21日出願公開、特開平4-297023、平成8年1月29日出願公告、特公平8-8217、請求項の数( 4 )〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 [1]手続の経緯・本願発明の要旨
本願は、平成3年3月27日(優先権主張:平成3年1月31日)の出願であって、その発明の要旨は、出願公告された後の、平成10年1月26日付けの手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】バッファ層の上に、有機金属化合物気相成長法で反応容器内に反応ガスを供給して窒化ガリウム系化合物半導体の結晶を成長させる方法において、
バッファ層と窒化ガリウム系化合物半導体の両方を有機金属化合物気相成長法で成長させると共に、窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる反応容器内において、窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる前に、窒化ガリウム系化合物半導体の成長温度よりも低温で、一般式を、GaXAl1-XN(但しXは0.5≦X≦1の範囲である。)とするバッファ層を、0.2μm以下の膜厚で成長させ、続いてバッファ層よりも高い成長温度で窒化ガリウム系化合物半導体を成長させると共に、バッファ層と窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる基板に、サファイア基板を使用することを特徴とする窒化ガリウム系化合物半導体の結晶成長方法。
【請求項2】サファイア基板の上に、一般式がGaXAl1-XN(但しXは0.5≦X≦1の範囲である。)で示されるバッファ層を成長させ、このバッファ層の上に窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる請求項1記載の窒化ガリウム系化合物半導体の結晶成長方法。
【請求項3】窒化ガリウム系化合物半導体の上に、一般式がGaXAl1-XN(但しXは0.5≦X≦1の範囲である。)で示されるバッファ層を成長させ、さらにこのバッファ層の上に窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる請求項1記載の窒化ガリウム系化合物半導体の結晶成長方法。
【請求項4】前記バッファ層の厚さが0.002μm以上、0.2μm以下であることを特徴とする請求項1記載の窒化ガリウム系化合物半導体の結晶成長方法。」(以下、請求項1〜4に記載の発明を「本願発明1〜4」という。)

[2]原査定の拒絶の理由の概要
これに対し、原査定の拒絶の理由である特許異議の決定の理由の概要は、本願発明1、2及び4は、先願明細書(特願平2-406246号(特開平4-209577号公報参照)の願書に最初に添付した明細書または図面)に記載の発明(以下、「先願発明」という。)と実質的に同一であると認められ、しかも、本願発明の発明者が先願明細書に記載の発明の発明者と同一であるとも、また本願出願時にその出願人が上記先願の出願人と同一であるとも認められないので、本願発明1、2及び4は、特許法第29条の2第1項の規定により特許を受けることができない、というものである。

[3]先願明細書
上記先願明細書には、可視(赤色)から紫外で発光する半導体発光素子及びその作製方法に関する発明が、第1、2図とともに記載され、さらに、
「図1は、In1-x-yGaxAlyN(0≦x≦1、0≦x+y≦1)のGa組成x、Al組成yと(0001)面内の格子定数の関係を示すものであって、図中実線上の組成で上記酸化物基板とエピタキシャル膜の格子整合を得ることができる。」(2頁左欄40〜45行)、
「図2は本発明の第一の実施例を説明する図であって、発光素子の断面を示す。この発光素子はMnO(111)基板1の上に成長した膜厚500ÅのアンドープGaAlNバッファ層2、膜厚5μmのSnドープn型低抵抗GaAl層3、膜厚0.5μmのZnドーピングにより半絶縁化したGaAlN発光層4、前記発光層上に設けた半絶縁層の電極5、及び低抵抗層3上に設けたn型抵抗層のオーミック電極6からなる。」(3頁右欄19〜27行)、
「図5は、原料ガスとしてIII族有機金属とNH3を用いる場合について、本発明の半導体発光素子の作製方法を実施するための成長装置の一例を示すものである。・・・
・・・石英反応管32内に0.5〜201/分の不活性ガスであるN2ガスを導入した後、・・・カーボン・サセプタ31を500〜600℃に加熱し、N2ガスを0.5〜201/分のNH3ガスに切り替える。この状態で、バブラの温度を-30〜50℃に設定したトリメチルインジウム(TMIn)、トリメチルガリウム(TMGa)及びトリメチルアルミニウム(TMAl)のうち必要な原料を1〜1000cc/分のH2ガス(あるいはN2ガス)でバブリングし、0〜101/分のH2ガス(あるいはN2ガス)と合流させた後、導入管37より石英反応管32へ供給し、成長基板上にIn1-x-yGaxAlyN(0≦x≦1、0≦x+y≦1)バッファ層を堆積する。成長中の石英反応管32内の総ガス圧は40〜1000Torrに調整する。
・・・これに続けて、必要な膜厚を堆積したIn1-x-yGaxAlyN(0≦x≦1、0≦x+y≦1)バッファ層をNH3雰囲気中600〜1300℃の温度で1〜60分保持した後、600〜1300℃に基板温度を設定し上記と同様の手順で発光素子用の多層膜構造(例えばクラッド層、活性層)を作製する。なお、上記の過程において、InGaAlNバッファ層の堆積温度を1000℃を越えた温度にすると、表面が多結晶化し、その上に成長したInGaAlN単結晶とはならなかった。」(3頁右欄38行〜4頁左欄23行)
「【発明の効果】以上説明した通り、本発明の半導体発光素子では基板としてサファイアより格子整合性の良好なMnO、ZnO、MgAl2O4、MgO、あるいはCaO等の酸化物基板を用いるため、エピタキシャル膜の品質が向上し高性能化できる。さらに本発明の半導体発光素子では、基板に格子整合したDH構造も実現できる。また、本発明の作製方法を用いれば、これら酸化物基板表面を表面の変質が起こらない低温で成長したバッファ層で基板表面を保護するため、基板表面を多結晶化することなくその上に単結晶膜を成長できる。
・・・一般にヘテロエピタキシャル成長では基板・エピタキシャル膜間の界面エネルギが高い場合、十分な表面マイグレーションが起こる高温で直接成長を行うと顕著な三次元成長が起こり、凸凹の激しい表面モホロジを示すばかりでなく、10〜100分の方位分布を持った結晶性の不十分な膜が成長することが知られている。このことは発光素子を作製する際、多層膜構造の作製が難しい、発光効率が低いあるいは素子寿命が短い等の問題の原因となる。界面エネルギは基板結晶とエピタキシャル膜結晶の結合の性質の差によって決まり、イオン結晶である酸化物基板と共有結合性の強いIII族窒化物半導体では界面エネルギが高いものと考えられる。本発明の作製方法は、不十分な表面マイグレーションしか起こらない低温で平坦なInGaAlNバッファ層を堆積し、この上に結晶性の良好なエピタキシャル膜を得るため高温で成長する構成となっている。高温成長層とバッファ層はいずれもIII族窒化物半導体であるため、これらの間の界面エネルギは低い。このように、本発明の作製方法は、基板・エピタキシャル膜の界面エネルギを下げ三次元成長を抑制する作用を持つため、膜を平坦化し、方位分布を低減するという効果も持つ。」(4頁左欄33行〜右欄13行)
が、それぞれ記載されている。

[4]対比・判断
上記先願発明は、基板として、サファイアより格子整合性の良好なMnO等の酸化物基板を用い、さらに、酸化物基板表面を表面の変質が起こらない500〜600℃の低温で成長した、In1-x-yGaxAlyN(0≦x≦1、0≦x+y≦1)のバッファ層で基板表面を保護することにより、基板表面を多結晶化することなくその上に単結晶膜を成長できるようにした結晶成長方法に関するものである。
しかしながら、先願明細書の第1図をみると、バッファ層について、一般式In1-x-yGaxAlyN(0≦x≦1、0≦x+y≦1)の(0001)面内の格子定数とGa組成x、Al組成yとの関係を示しているものの、本願発明1のバッファ層と同じ組成のGaAlNであるInを含まないバッファ層としては、MnOを酸化物基板とし、一般式をGa0.4Al0.6N(x=0.4、y=0.6)とするGaAlNのバッファ層が記載されているだけである。
そうすると、本願発明1と先願発明とは、バッファ層上に、有機金属化合物気相成長法で窒化ガリウム系化合物半導体の結晶を成長させる方法において、バッファ層と窒化ガリウム系化合物半導体の両方を有機金属気相成長法で成長させると共に、窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる前に、窒化ガリウム系化合物半導体の成長温度よりも低温で、組成がGaAlNのバッファ層を成長させ、続いてバッファ層よりも高い成長温度で窒化ガリウム系化合物半導体を成長させる点では一致するものの、本願発明1の結晶成長方法のように、基板にサファイア基板を使用し、しかも、バッファ層の一般式をGaxAl1-xNとし、xの範囲を0.5≦x≦1に特定して,Al混晶比の少ないところを選択してクラックなどの弊害を解消したものとは明らかに相違する。
しかも、先願発明の、サファイア基板に替えて酸化物基板を用い、さらに、一般式In1-x-yGaxAlyN(0≦x≦1、0≦x+y≦1)のバッファ層で基板表面を保護するという課題解決の手段からみて、先願発明の基板をサファイア基板とし、バッファ層の一般式をGaxAl1-xNとして、xの範囲を0.5≦x≦1に特定することは、単なる設計的事項にすぎないとすることもできない。

[5]むすび
したがって、本願発明1は、先願明細書に記載の発明と同一であるとすることはできないし、また、本願発明2、4については、本願発明1を引用してさらに他の構成を付加した発明であるから、本願発明1における理由と同じ理由により、先願発明と同一であるとすることはできない。
よって、本願発明1、2及び4は、特許法第29条の2第1項の規定により特許を受けることができない、とした原審の判断は妥当ではない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2000-05-29 
出願番号 特願平3-89840
審決分類 P 1 8・ 161- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 山本 一正大日方 和幸  
特許庁審判長 関根 恒也
特許庁審判官 雨宮 弘治
松田 悠子
発明の名称 窒化ガリウム系化合物半導体の結晶成長方法  
代理人 豊栖 康弘  

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