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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 訂正を認める。無効とする(申立て全部成立) C04B
管理番号 1019617
審判番号 審判1995-703  
総通号数 14 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1990-01-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 1994-12-29 
確定日 2000-08-04 
事件の表示 上記当事者間の特許第1803139号「高圧木毛セメント板及びその製造方法」の特許無効審判事件についてされた平成 9年 6月27日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成09(行ケ)年第0197号平成11年6月15日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第1803139号発明の明細書の請求項1,2に記載された発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第1803139号は、昭和63年7月15日に出願され、平成5年2月23日に出願公告(特公平5-13895号)された後、平成5年11月26日に設定の登録がされたものである。そして、該特許無効審判事件についてした平成9年6月27日付けの審決に対し、東京高等裁判所において審決取消しの判決(平成9年(行ケ)第197号、平成11年6月15日判決言渡)があった。その後、平成11年12月1日付けで特許無効理由通知がなされたが、被請求人からは何らの意見書の提出がなされなかった。
II.訂正の請求について
被請求人は、平成8年10月28日付け訂正請求書により、本件特許明細書の訂正を請求しているので、まずこの訂正が認められるか否かについて検討する。
被請求人が求めている訂正の請求は、誤記の訂正を目的として、本件特許明細書を訂正請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正しようとするものであり、その訂正の内容は以下の(a)、(b)のとおりである。
(a)明細書第1頁第5行および第3頁第18行(公報第1頁第1欄第2行および第2頁第3欄第9行)の「・・・外周面の付着せしめた・・・」とあるのを、「・・・外周面に付着せしめた・・・」と訂正する。
(b)明細書第9頁第7行〜第8行(公報第3頁第5欄第14行〜第15行)の「厚さ0.5mm〜0.5mm」とあるのを、「厚さ0.3mm〜0.5mm」と訂正する。
そこで、まず上記(a)の訂正について検討する。
上記(a)の訂正事項に関連する記載として、訂正前の明細書の詳細な説明には、「巾3.5mm〜5mm、厚さ0.3mm〜0.5mmの不定形な帯状木片とセメントミルクとを混合し、これを型詰めし、」(明細書第1頁第11〜13行)及び「これをセメントと共にミキサーに入れて撹拌する。 」(明細書第9頁第11〜12行)と記載されており、セメントの溶剤は帯状木片の外周面に付着されたものであることは明らかであるし、その前後の文意から「の」は「に」の誤記であることも自明のことである。
次に、上記(b)の訂正について検討する。
上記(b)の訂正事項に関連する記載として、訂正前の明細書の詳細な説明には、帯状木片の厚さは「0.3mm〜0.5mm」(明細書第1頁第6、11行、第3頁第19行、第4頁第3〜4行、及び第5頁第3行)とあり、帯状木片の厚さは0.3mm〜0.5mmであることは明らかであるから、明細書第9頁第7〜8行の「厚さ0.5mm〜0.5mm」は「厚さ0.3mm〜0.5mm」の誤記であるといえる。
してみると、上記(a)、(b)の訂正は、特許法第134条第5項で準用する同法第126条第1項第2号に掲げる「誤記の訂正」を目的とするものであり、同じく同法第134条第5項で準用する同法第126条第2項及び第3項の規定に適合するものである。
III.本件特許発明
本件特許発明は、平成8年10月28日付け訂正請求書に添付された訂正明細書の記載及び図面からみて、その特許請求の範囲請求項1,2に記載された次のとおりのものである。
「(1)セメントの溶剤を外周面に付着せしめた、巾3.5mm〜5mm、厚さ0.3mm〜0.5mmの不定形な帯状木片を用いて加圧成型し、硬化乾燥して木毛セメント板を形成するにあたり、該木毛セメント板の嵩比重を1.0〜1.2に設定したことを特徴とする高圧木毛セメント板。
(2)巾3.5mm〜5mm、厚さ0.3mm〜0.5mmの不定形な帯状木片とセメントミルクとを混合し、これを型詰めし、厚さの方向に圧力を均一に加え、所定の厚さに圧縮した後、これを養生し、嵩比重を1.0〜1.2にしたことを特徴とする高圧木毛セメント板の製造方法。」
IV.特許無効理由通知の内容
特許無効理由通知の内容は、刊行物1(栗山寛著「増補 建築用セメントコンクリート製品」株式会社技術書院、昭和48年12月15日発行、122〜158頁、請求人の提出した甲第12号証)、刊行物2(北海道立林産試験場「林産試験場研究報告 第65号」、昭和51年6月30日発行、88〜137頁、同甲第6号証)および刊行物3(全国木毛セメント板工業組合編集兼発行、「木毛セメント板ガイドブック」昭和46年3月1日発行、1〜8頁、同甲第1号証)を引用して、下記のとおり、本件特許の訂正された請求項1に係る発明(以下「本件特許発明1」という)および本件特許の請求項2に係る発明(以下「本件特許発明2」という)は、刊行物1ないし3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるので同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである、というものである。
すなわち、
「(刊行物1ないし3記載の発明)
刊行物1ないし3には、次の発明が記載されている。
刊行物1;
(1)木毛に付着した水だけで撹拌しながらセメントを散布して、セメントペーストをつくって、セメントペーストを木毛の表面に付着せしめた、幅3mm〜4mm、厚さ0.3mm〜0.5mmの不定形な帯状の木片を用いて圧縮成形し、硬化乾燥した木毛セメント板及び木毛セメント板の製造方法、について記載される。
(2)木毛セメント板の強度について、「木毛セメント板の強度は、セメントの種類が同一、木毛の配列が均一ならばおもにかさ比重、換言すれば板の重量によって定まる。・・・・次に昭和37年、防火用木毛セメント板(太木毛および細木毛セメント板)の曲げ試験を行なった結果は図5.27平均値は表5.314)」(142頁5行ないし末行)と記載される。
(3)木毛セメント板の熱伝導率について、「熱伝導率はかさ比重、含湿率、温度などに関連し、・・・図5.20は東京大学生産技研12)における実験結果である。」(137頁下から6行ないし2行)と記載され、図5.20(138頁)には、同図中の◎(厚さ:20mm、木毛種類:太)、及び△(厚さ:60皿、木毛種類:特太)の熱伝導率は、嵩比重1.0以下において、嵩比重の増大とともに増大するが、×(厚さ:40mm、木毛種類:細)の熱伝導率は、嵩比重の増大とともに増大するが、嵩比重0.7ないし0.9の辺りで横ばいとなることが図示されている。
刊行物2;
(1)研究の目的として、「本章では木質小片として形状形態の全く異るパールマン小片と鋸屑を用い、原料の配合割合、ボード比重とボードの機械的性質および吸水性の関係を把握しようとした。」(88頁下から2行、1行)と、製板方法として、「セメント/木質比;1.5〜2.5、ボードの設計予定比重;0.7〜1.2のくみあわせで各々水/セメント比を6水準とした。」(89頁11行、12行)とそれぞれ記載される。
(2)試験の結果として、パールマン小片を含む木質セメントボードと鋸屑を含む木質セメントボードにおける曲げ強さとボード比重の関係が第1-8図(93頁)として図示されており、この第1-8図は、木質セメントボードの曲げ強さは、木質小片の形状・形態(パールマン小片か鋸届か)、及びセメント/木質比(1.5、2.0、2.5)にかかわらず、ボード比重1.0を越える領域を含めて、ボード比重の増大とともに直線的に増大することを示している。
刊行物3;
木毛セメント板の製造に関して、巾3.5mm(±0.5mm)、厚さ0.3mm〜0.5mm、長さ自由(多くは300〜400mm)の不安形な木毛とセメントミルクを混合し、これを型詰めし、厚さ方向に圧力を均一に加え所定の厚さに圧縮成型した後、これを硬化乾燥し養生することが記載される。
(対比・判断)
[本件特許発明1について]
本件特許発明1と刊行物1,2に記載の発明とを比較検討する。
本件特許発明1と刊行物1に記載の発明とを対比すると、前者の「セメントの溶剤 」とは、セメントを水で溶かしたものを、木毛の外周面に塗るか、まぶすことにより、木毛の外周面にセメントペーストが付くことを意味する(平成7年10月2日付けの当審からの尋問書に対する被請求人からの平成7年12月11日付け回答書、第2頁第12〜22行)、との被請求人からの釈明からも明らかなとおり、後者の「セメントペースト」は前者の「セメントの溶剤」に相当することになり、また、前者の「加圧成型」が、原料を型詰めし、厚さの方向に圧力を均一に加え所定の厚さに圧縮することを意図したものであることが明らかであるから、後者の「圧縮成形」は、前者の「加圧成型」に相当することになるから、両者は、「セメントの溶剤を外周面に付着せしめた、巾3.5mm〜4mm、厚さ0.3mm〜0. 5mmの不定形な帯状木片を用いて加圧成型し、硬化乾燥して得た木毛セメント板」の点で一致するが、後者には、前者の構成要件の一部である「該木毛セメント板の嵩比重を1.0〜1.2に設定した」点について記載されていない点で異なる。
上記相違点について刊行物1,2を検討する。
本件特許発明1は、発明の課題として、曲げ強さ、断熱性、釘打ち可能性を挙げているので、これらの点について刊行物1,2を検討する。
a.曲げ強さについて
刊行物2の前記(2)に記載されたことの知見が、形状・形態を異にするパールマン小片と鋸屑に共適するものであることを考慮すれば、この知見は、本質セメント板が木質組織を含むことに基づくものであり、木質組織として木毛を用いた木毛セメント板にもそのまま当てるものと認められる。したがって、刊行物2は、木毛セメント板の曲げ強さが、嵩比重1.0を越える領域を含めて、嵩比重の増大とともに増大することを示唆しているものである。
また、刊行物1の前記(2)の記載は、木毛セメント板の曲げ強さは、セメントの種類及び木毛の配列態様が一様であれば、主として嵩比重(板重量)により定まるものであり、嵩比重1.0を越える領域を含めて、嵩比重の増大とともに増大するものであることを示唆するものと認められる。そして、刊行物1の前記(2)の太木毛とは、昭和36年改正のJIS「木毛セメント板」表1(1頁)によれば、幅4〜5mm、厚さ0.3〜0.5mmのものであることが認められ、この数値が、本件特許発明1が規定する木毛の巾(3.5〜5mm)、厚さ(0.3〜0.5mm)の数値とほぼ一致することが認められるから、上記知見は、木毛の中及び厚さを本件特許発明1と同じくするものにおいても、嵩比重1.0を越える領域を含めて、嵩比重の増大とともに増大することを示唆していると認めるべきである。
b.断熱性について
刊行物1の前記(3)の記載によれば、刊行物1には、木毛セメント板における熱伝導率は嵩比重の増大とともに増大するが、木毛の種類、木毛セメント板の厚さによってどの程度の嵩比重において生ずるかは異なるものの、嵩比重が増大しても熱伝導率が上昇せず、横ばいとなる現象が生ずることが開示されているものと認められる(空気の存在が断熱性に関係するとの技術常識からすると、圧縮して嵩比重を増大していってもある限界以上で空隙の圧潰減少も限界に達し、それ以上では空気があまり排除されなくなることがこの横ばい現象に関係していることを容易に推認することができる。)。
c.釘打ち可能性について
本件明細書にいう「施工時の釘打ちが可能」(3欄5行、6行)の意味が、木毛セメント板に割れないで釘が打てることないし釘が突き刺さるということだけを意味するものではなく、木毛セメント板に突き刺さった釘が簡単には抜けないこと、すなわち、所定の保釘力(引抜耐力)を有することを意味するとしても、木材における保釘力(引抜耐力)が、木材と釘との間の摩擦により生じる力であることが技術常識として知られていることからすれば、木毛セメント板における保釘力は、木毛セメント板中の木質組織(木毛)により主として担われるものであると認められるから、嵩比重が増大するとともに、木毛セメント板中に形成される木質組織が密実性を増して保釘力が増大し、釘打ちが可能となることは、当業者が当然認識することと認められる。
d.動機づけの有無
以上のように、刊行物1,2には嵩比重と曲げ強さの関係が、刊行物1には嵩比重と断熱性の関係が、そして技術常識から嵩比重と釘打ち可能性との関係がそれぞれ示唆されている以上、木毛セメント板の嵩比重を適宜調整して、必要とされる曲げ強さ、断熱性及び釘打ち可能性の3つの要請を満たす嵩比重の範囲を選択し、本件特許発明1の構成とすることは、当業者が容易になし得ることである。
[本件特許発明2について]
本件特許発明2のような木毛セメント板の製造方法は、刊行物3に記載されるように知られたことである。
したがって、上記「本件特許発明1について」の項で述べたように、本件特許発明1の木毛セメント板は当業者が容易になし得たものである以上、本件特許発明2の木毛セメント板の製造方法は、刊行物3に記載の発明と刊行物1,2に記載の発明とに基づいて当業者が容易になし得ることである。」
V.むすび
上記無効理由通知の内容は妥当なものであるから、本件特許発明1,2は、刊行物1ないし3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるので同法第123条第1項第2号に該当する。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 1997-05-26 
結審通知日 1997-06-03 
審決日 1997-06-27 
出願番号 特願昭63-176421
審決分類 P 1 112・ 121- ZA (C04B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 鈴木 紀子  
特許庁審判長 石井 勝徳
特許庁審判官 唐戸 光雄
新居田 知生
能美 知康
野田 直人
登録日 1993-11-26 
登録番号 特許第1803139号(P1803139)
発明の名称 高圧木毛セメント板及びその製造方法  
代理人 森 哲也  
代理人 内藤 嘉昭  
代理人 森 哲也  
代理人 内藤 嘉昭  
代理人 崔 秀▲てつ▼  
代理人 森 哲也  
代理人 内藤 嘉昭  
代理人 佐藤 英昭  
代理人 崔 秀▲てつ▼  
代理人 内藤 嘉昭  
代理人 内藤 嘉昭  
復代理人 服部 正美  
代理人 崔 秀▲てつ▼  
代理人 崔 秀▲てつ▼  
代理人 森 哲也  
代理人 森 哲也  
代理人 森 哲也  
代理人 森 哲也  
代理人 内藤 嘉昭  
代理人 崔 秀▲てつ▼  
代理人 崔 秀▲てつ▼  
代理人 内藤 嘉昭  
復代理人 斎藤 栄一  
代理人 崔 秀▲てつ▼  

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