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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C30B
管理番号 1020121
異議申立番号 異議1998-71209  
総通号数 14 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-06-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 1998-03-10 
確定日 2000-05-26 
異議申立件数
事件の表示 特許第2652344号「シリコンウエーハ」の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2652344号の特許を取り消す。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第2652344号に係る出願は、昭和60年11月22日に出願された特願昭60-261351号の一部を特許法第44条第1項の規定により、平成6年9月2日に、特願平6-232516号として新たに特許出願されたものであって、平成9年5月23日に特許の設定の登録がなされたところ、その特許請求の範囲の請求項1に係る発明の特許に対し、西谷光夫(以下、「申立人」という。)より特許異議の申立てがあり、請求項1に係る発明の特許に対して取消理由の通知がされ、その指定期間内である平成10年8月3日に訂正請求がなされ、次いで訂正拒絶理由の通知がなされたものである。

II.訂正の適否の判断

1.訂正明細書の請求項1に係る発明
訂正明細書の請求項1に係る発明(以下、「訂正発明」という。)は、その特許請求の範囲に記載された次のとおりのものである。
「水素ガス100%の雰囲気下において1000℃から1350℃の温度範囲に少なくとも30分間滞留させる熱処理を施したnタイプのシリコンウエーハであって、乾燥酸素ガス雰囲気で16時間熱処理を行ってエッチングをして表面の酸化誘起積層欠陥密度を測定した場合、その平均密度が100個/cm2以下であるとともに、H2100%ガス雰囲気中で熱処理をする前の平均密度の約1/5以下であり、熱処理後の表面に存在する酸化誘起積層欠陥発生原因となる結晶欠陥の平均密度と、表面から深さ5μmの平面における酸化誘起積層欠陥発生原因となる結晶欠陥の平均密度とがほぼ同じであることを特徴とするシリコンウエーハ。」

2.訂正発明の独立特許要件についての判断
2-1.当審が通知した訂正拒絶理由の概要
訂正発明は、刊行物1〜7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
2-2.当審が訂正拒絶理由通知において示した引用刊行物
刊行物1:特開昭60-3130号公報
刊行物2:特開昭57-199227号公報
刊行物3:Journal of Electronic Materials.Vol.3,No.2,(1974), pp579-599
刊行物4:特開昭54-21265号公報
刊行物5:特開昭60-119712号公報
刊行物6:特開昭52-97666号公報
刊行物7:特開昭57-197827号公報
2-3.刊行物1〜7の記載事項
(1)刊行物1
(1-1)「そこに結合したある濃度の酸素を有するシリコン・ウエーハを提供する段階、前記ウエーハを還元雰囲気中で所定時間高温に加熱し、前記ウエーハ表面に実質的に酸素析出物のない層をつくり出す段階、を具えることを特徴とするシリコンウエーハの表面層を無欠陥層とする方法。」(特許請求の範囲第1項)
(1-2)「ウエーハは、不活性または酸化雰囲気中で、充分な時間加熱することにより表面層は、酸素関連の欠陥が完全に除去された無欠陥層となり、格子間酸素はウエーハ表面に拡散し、そこでウエーハより除去される。無欠陥層形成ステップに続いて、ウエーハは約600-800℃の温度で長い時間加熱され、酸素はウエーハ・バルクに析出される。このプロセスは望ましい構造を作るのに部分的には有効なことは明らかであるが、表面層にかなり高濃度の、理由のはっきりしない欠陥(random defects)が残る欠点がある。・・・本発明の1つの目的は、シリコン・ウエーハの表面層を無欠陥(denuding)とする改良方法(プロセス)を提供することである。」(第2頁右上欄第19行〜同左下欄14行)
(1-3)「前述の目的、利点及びその他の本発明の目的と利点は、還元雰囲気を使用する、無欠陥層形成プロセスにより達成される。そこに結合した高濃度の酸素をやわらげるシリコン・ウエーハは、還元雰囲気中で高温に加熱され、格子間酸素はウエーハの表面層より拡散することを可能にする。ウエーハがその温度に保持される特定の温度と、その時間により無欠陥層の厚さが決定される。」(第2頁右下欄第1〜8行)
(1-4)「半導体産業において使用される大部分のシリコン・ウエーハは、単結晶インゴットが溶融物より引き上げられるチョコラルスキー法(CZ法)により、成長される。…(中略)…単結晶インゴットはさらにスライスされ、多数のウエーハとなり、ウエーハは、所望の厚さ及び表面仕上げに至るまでラッピングされ研磨される。…(中略)…内部ゲッタリング(internal gettering)作用に対し、格子間酸素は、ウエーハにおいて普通の濃度から高濃度にあるべきであり、出来れば約1.3〜1.4×1018cm-3(26-28ppm)より高い濃度が望ましい。」(第2頁右下欄第17行〜第3頁左上欄第13行)
(1-5)「大部分の半導体デバイスにとって、デバイス活性(能動)領域は高品位、高ライフ・タイム半導体材料の領域に配置されるべきであり、高濃度の酸素析出物を有する材料に配置してはならない。例えば、pn接合に交差するか、pn接合に関連した空乏層の中にある酸素析出物は、接合の漏洩電流を増加する。本発明によれば、無欠陥層(denuded layer)、即ち、ウエーハのバルクに比して実質上減少した欠陥密度を有する高品位半導体材料層は、ウエーハ表面に形成される。無欠陥表面層の厚さは、少なくとも最小限のデバイス活性領を設けるのに十分である。無欠陥層の下のウエーハ・バルクは、内部ゲッタリング領域として作用する酸素析出物とその関連欠陥が高濃度であることを特徴とし、少数キャリアのライフ・タイムを減少させる。」(第3頁左上欄末行〜同頁右上欄第15行)
(1-6)「第2図は、例えば水素中の高温処理中に、酸素ド-プされたウエーハに起ると考えられることを図式的に示す。…(中略)…水素が、ウエーハに拡散するのと同時に、酸素は、矢印17で示すとおり、ウエーハより外方に拡散する。酸素の外方拡散は、拡散条件により制御され、その結果の無欠陥層の厚さは、(Dt)1/2に比例する。ただし、Dは高温における酸素の拡散係数、tは高温段階に保たれた時間である。還元雰囲気中での高温無欠陥層形成処理の合成効果は第3図に示される。ウエーハ10は実質的に欠陥がない表面層21を具えることを特徴とする。ウエーハ10のバルク23、即ち無欠陥形成層21の直下のウエーハ10の領域は、本質的にウエーハの初期の高い酸素濃度であることに特徴がある。無欠陥形成帯域の酸素濃度は、酸素析出閾値より低い値まで低下されている。」(第3頁左下欄第3行〜同頁右下欄第5行)
(1-7)「ウエーハ温度はt0よりt1の間約1000-1200℃、好ましくは約1100℃の無欠陥層形成温度に上昇される。ウエーハは還元雰囲気中にて無欠陥層形成温度に保持され、時間t1〜t2の間、約1〜4時間保持されるのが望ましい。…(中略)…無欠陥層形成のための温度と、ウエーハがこの温度に保持される時間は、拡散の原理及び無欠陥形成層の深さにより決定される。例えば1150℃にて1時間保持した場合、約18マイクロメータの厚さの表面層の酸素濃度は、酸素析出閾値濃度以下に低下される。」(第4頁左上欄第9〜末行)
(1-8)「第5図は、ウエーハ中の深さの関数として酸素濃度を示す。初期酸素濃度が約1.65×1018cm-3のシリコン・ウエーハを1150℃にて1時間酸素含有雰囲気中(カーブ70)でまた本発明による還元雰囲気(水素)(カーブ72)中で無欠陥層形成を行なった。還元雰囲気中での無欠陥形成層の深さの増大は明らかである。」(第4頁右上欄第1〜7行)
(1-9)「大抵の応用に対してその結果でき上ったウエーハは、初期の酸素濃度及び正確な熱サイクルに依存して約5〜20ミクロンの厚さの無欠陥形成層及び約109〜1010cm-3の析出物の濃度を有する強く沈殿したバルクを具えている。」(第4頁左下欄第13〜17行)
(1-10)「雰囲気は、例えば、純水素であるか、又はヘリウムや、アルゴンなどの不活性ガスを混合した水素でもよい。純水素は、安全に取扱うのに問題があるが、非常に純度の高い不活性ガスを使用する必要はなくなる。窒素を混合した水素のように、他の雰囲気もまた使用される。窒素を含む雰囲気は、窒化物の被膜をシリコン表面に作る傾向と、ウエーハ表面に穴をあける傾向のため、純水素より有効でない。」(第4頁右下欄第9〜18行)
(2)刊行物2
(2-1)「LSI等の半導体装置において、転位ループ、析出物、積層欠陥等の微小欠陥がSiウエハー表面近傍の電気的活性領域に存在すると、素子特性に悪影響を与えることが知られている。」(第1頁左下欄第16〜19行)
(2-2)「結晶内部に発生した微小欠陥を観察しやすくする目的で、1000℃酸素雰囲気中で16時間アニールを施した。ウエハー深さ方向の欠陥密度は、上記ウエハーを劈開して、微小欠陥の検出に有効なseccoエッチングを行ない、ウエハー断面に発生した欠陥を顕微鏡で観察することにより求めた。」(第2頁右上欄12〜18行)
(3)刊行物3
(3-1)「酸化に先立って、H2又はH2含有雰囲気中でウエーハを焼鈍すると、キャパシタ内に見いだされる破壊欠陥の数が劇的に減少する。温度が高いほど欠陥除去がより効果的である。このプロセスを用いて欠陥密度は再現性よく10欠陥/cm2未満に制御でき、場合によっては無欠陥のウエーハができる。」(第579頁本文第5〜11行)
(3-2)「実験 基板はチョクラルスキー法で成長され、一方の側がメカノケミカル的に研磨され、他方の側が切断によるダメージを除去するべくエッチングされた(100)-方向の1-1/4インチ直径のシリコンウエーハであった。市販のPタイプ及びN-タイプのウエーハが試験された。」(第581頁下から第3行〜第582頁第3行)
(3-3)「酸化に先立つ熱処理は標準的な溶融シリカから作成されたエピタキシャル反応容器(長さ60cm、直径6cm)で行われた。…(中略)…サンプルは実験のために次のガス雰囲気の一つで熱処理された:純水素ガス、純ヘリウムガス、調製ガス(純窒素に20%の純水素を混合したもの)又は純水素に5%までの無水塩化水素を混合したもの」(第582頁9〜26行)
(3-4)「結果と考察 誘電破壊 高温熱処理は、熱処理後に清浄化工程を挟むことなく熱的に成長された酸化物の絶縁破壊分布に対して著しい、ある場合には有利な影響を与えることがわかった。…(中略)…HCl/SiH4/H2以外の雰囲気で処理されたウエーハについての結果を表Iにまとめた。このシリーズでは、59%欠陥キャパシタの標準試料が73欠陥/cm2であったのに対し、H2中又は…(中略)…で1/2時間熱処理したウエーハは12%欠陥キャパシタ又は10欠陥/cm2であった。」(第584頁第8行〜第585頁本文第9行)
(3-5)再汚染処理ウエーハに及ぼす脱イオン水による洗浄の影響を調べたデータであって、標準試料では欠陥密度が200個/cm2であるのに対し、1275℃の水素雰囲気で30分間熱処理した試料(1/2h、1275℃、H2)では欠陥密度が30個/cm2となること、及び、標準試料に対する1275℃で処理されたウエーハの欠陥密度の比は0.15であったこと(第585頁下から3行目〜第586頁本文第9行、TableII参照)
(3-6)「シリコンウエーハは、SiO2内の低領域絶縁破壊の原因となる欠陥密度とSi内の少数キャリアの発生率を低減させるために異なる雰囲気において高温度(1000℃以上)でアニールされた。水素の存在下での高温度アニールは、絶縁破壊欠陥密度の劇的な減少を生じた。例えば、1275℃で焼鈍されたウエーハの欠陥密度は非焼鈍ウエーハの約1/7である。この改善は焼鈍温度に非常に敏感であり、欠陥の4倍の減少を達成するためには、1200℃を超える温度が使用されなければならない。そのような欠陥の減少は典型的にはHCl酸化によって達成される。1200℃以上では水素焼鈍がHCl酸化より優れている。」(第596頁第11〜23行)
(4)刊行物4
(4-1)「例えば、結晶軸<100>のシリコンの場合、95℃の水分を含んだ酸素中で1,150℃で5時間酸化したとき約1.5μのシリコン酸化膜が生成される。しかし、一般に高温でシリコンを酸化すると、シリコン表面近傍の(111)面に沿って積層欠陥が発生することはよく知られている。そして、この積層欠陥はこのシリコンを用いて作った半導体装置におけるp-n接合のリーク電流の増大、電荷結合素子としたときの電荷蓄積時間の減少、またはダイナミックメモリ素子を構成したときのリフレッシュ間隔の減少などの悪影響をおよぼす。この積層欠陥の発生機構はまだ十分解明されてはいないが、積層欠陥の発生密度とその大きさとはシリコン酸化膜生成温度と生成時間とに依存しており、一般に低温、短時間である程、積層欠陥の発生密度と大きさとは小さいことは知られている。」(第1頁右下欄第3〜末行)
(4-2)「基板材料としては、結晶軸<100>、比抵抗4〜6Ω-cmのN形シリコン単結晶ウエーハを用いた。このウエーハを2分割し、第1の片を95℃の水分を含んだ酸素中で1,000℃で2時間酸化し、約5,000Åのシリコン酸化膜を生成させた後に、次に上記分割して未酸化の第2の片とともに、95℃の水分を含んだ酸素中で1,150℃で5時間酸化した。そして、2回酸化を施した前者の第1の片には約1.7μ、1回酸化をした後者の第2の片には約1.5μのシリコン酸化膜が生成された。」(第2頁左上欄第11行〜第2頁右上欄第1行)
(4-3)「この第1および第2のウエーハ片の表面に酸化工程で発生した積層欠陥数を知るために、生成した酸化膜をフッ酸で表面エッチングした後、引続いてSeccoエッチ液(フッ化水素2,000cc、水1,000cc、重クロム酸46.5gの混液)で5分間超音波をかけながらエッチングした。その結果、第1のウエーハ片にはエッチピットが102個/cm2程度、第2のウエーハ片にはエッチピットが103個/cm2程度発生し、第1のウエーハ片の方がシリコン酸化膜が厚かったにもかかわらず積層欠陥の発生密度が小さいという興味深い結果を得た。以上の新しい知見から、酸化を2段階に分け、まず、低温での酸化工程を先行させることによって積層欠陥の発生密度の小さい半導体酸化膜が得られることが判る。」(第2頁右上欄第1行〜同頁右上欄第16行)
(5)刊行物5
(5-1)「半導体基板の表面やエピタキシアル層の活性領域に発生する微小欠陥はデバイスの電気特性を悪化させることはよく知られており、この微小欠陥を最小限に抑制することが半導体素子の歩留り向上につながっている。この微小欠陥を発生させる主な原因としては半導体基板(以下シリコン基板について説明する)中に存在する転移、積層欠陥等の結晶欠陥と、素子の製造工程中に発生する重金属元素による汚染が考えられており種々の抑制方法、いわゆるゲッタリング方法が施されている。」(第1頁右下欄第2〜12行)
(5-2)「最近の半導体デバイスの高密度化、結晶の大口径化、高品質化、低価格化等の要求からシリコン基板の活性化領域中の微小欠陥の抑制はますます重要となってきている。特に最近開発が進められている固体撮像装置においては、広いチップ面積の中に多数の絵素を高密度に形成する必要があり、1個の微小欠陥でも絵素中に存在する場合はリーク電流が発生し白きず不良となる。このため活性領域に欠陥のない高品質のシリコン基板が要求されているが、従来のゲッタリング方法では目的とする欠陥レベルに達することはできず、歩留りよく良好な特性を有する固体撮像素子が得られないという欠点がある。」(第2頁左上欄第1〜13行)
(5-3)「IG効果を高めるにはシリコン基板内に多くの結晶欠陥を発生させることが必要であるが、従来は上記したように熱処理例えば、400℃〜500℃の低温処理後550℃〜1000℃の高温処理により結晶欠陥を発生させていた。しかしながら第1図に示すようにN型シリコン基板1の表面層には微小欠陥2が残り、表面に無欠陥層を形成することはできなかった。発明者はN型シリコン基板に含まれるN型不純物濃度が低下するにつれてシリコン基板内に発生する結晶欠陥が増加することを実験的に確かめ本発明に至った。すなわち、N型不純物濃度の異なるシリコン基板に、半導体装置の製造工程とほぼ同1条件で熱処理を施したのち、シリコン基板内に発生した結晶欠陥を調べた結果は第2図に示すとおりであった。同図から分るように、シリコン基板中に含まれるN型不純物濃度を下げてゆくと、熱処理後シリコン基板内に発生する結晶欠陥は多くなりそれだけシリコン基板表面の欠陥はIG効果により減少する。しかしながら、低濃度のN型不純物を含むシリコン基板上に固体撮像素子を形成することはシリコン基板の比抵抗が大きすぎて適当ではない。」(第2頁左下欄第2行〜同頁右下欄第3行)
(6)刊行物6
(6-1)「積層欠陥が存在する半導体ウエーハを非酸化性雰囲気中にてアニール処理を行ない、少なくとも前記半導体ウエーハの表面領域に存在する積層欠陥を消滅させたのち、この積層欠陥が消滅した半導体ウエーハ領域にPN接合を形成することを特徴とするPN接合を有する半導体装置の製造方法。」(特許請求の範囲)
(6-2)「現在のPN接合を有する半導体装置の製造方法は、そのほとんどがスターティングマテリアルとしてシリコンウエーハを用いたプレーナ法である。これは、シリコンウエーハ表面を酸素雰囲気中で熱酸化して、その表面に酸化シリコン(SiO2)膜を形成し、この下側にPN接合が表面を切るように、拡散法で接合構造を形成するものである。」(第1頁左下欄第14行〜同頁右下欄第1行)
(6-3)「その最も大きな問題として、シリコンウエーハ表面にSiO2膜を形成する際に、シリコンウエーハとSiO2膜とのSi-SiO2界面ならびにシリコンウエーハ中に積層欠陥が発生し、これが、ウエーハ処理中の繰り返しの熱処理によりさらに成長するために、この積層欠陥がシリコンウエーハに形成されるPN接合の幾何学的形状や電気特性特に耐圧、リーク電流、雑音等の特性それに製造歩留まりを悪化する主要な因子となってくるというものである。」(第1頁右下欄第13行〜第2頁左上欄第1行)
(6-4)「上記積層欠陥を消滅させるために、真空あるいは窒素ガスなどの非酸化性雰囲気中、高温(700〜1250℃)でウエーハ1を2乃至5時間アニール処理を行なう。たとえば、本実施例においては、窒素雰囲気中、1150℃で3時間アニール処理を行ない、シリコンウエーハ1表面から18μmの深さまで積層欠陥を消滅させる(第3図)。…(中略)…(ロ)上記積層欠陥が消滅した領域のシリコンウエーハ1にPN接合を形成し、この領域を素子活性領域としたMOS ICを製造する(第4図〜第8図)。すなわち、第4図に示すように、素子のソースおよびドレインを形成すべき個所のSiO2膜2をエッチオフし、ついでこのSiO2膜2を不純物遮蔽マスクとして、その表面が露出しているウエーハ1に、ウエーハ1とは逆導電型の活性不純物を拡散してソース層3とドレイン層4を、積層欠陥が消滅した領域に同時に形成する。」(第2頁左下欄第11行〜同頁右下欄第19行)
(6-5)「第9図は、上記実験の結果にもとづくもので、種々のアニール処理条件(アニール処理温度T、アニール処理時間t)に対するシリコンウエーハ中の積層欠陥の消滅状況を示したものである。同図において、実線αは、種々のアニール処理温度Tをもってシリコンウエーハ1をアニール処理した場合に、その深さ7μmまでの積層欠陥を消滅させるのに必要なアニール処理時間tを示すものである。」(第3頁左下欄第1〜9行)
(6-6)シリコンウエーハの表面層の積層欠陥が消滅している様子を表す図及びこの積層欠陥が消滅した領域にソース層及びドレイン層が形成されている様子を表す図(第6頁第1〜8図)
(6-7)アニール処理温度、アニール処理時間と積層欠陥が消滅する領域のシリコンウエーハ表面からの距離との関係を表す図(第6頁第10図)
(7)刊行物7
(7-1)「1.表面より5μmから100μmの深さの結晶欠陥の存在しない無欠陥領域を有し、該無欠陥領域よりも深い領域に積層欠陥領域を有することを特徴とする半導体基板。 2.上記基板はSi基板であることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の半導体基板。 3.上記基板の無欠陥領域に半導体素子が形成されてなることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の半導体基板」(特許請求の範囲)
(7-2)「本発明は、素子を形成するシリコン基板において、シリコン表面より5μmから100μmの深さの結晶欠陥の存在しない無欠陥領域(Denuded Zone:D.Z.)を有し、かつそれよりも深い領域に析出物よりもゲッタリング能力の高い結晶欠陥の一種である積層欠陥を有する半導体基板である。D.Z.が5μmより浅いと内部に発生する積層欠陥の一部が基板表面に現われることがあり望ましくない。また、D.Z.が100μmより深いと内部に存在する積層欠陥の基板表面に対するゲッタリング作用が弱まることから望ましくない。」(第2頁右上欄第12行〜同頁左下欄第3行)
(7-3)「本発明を、シリコン固体撮像素子に適用した結果について説明する。3種類の製造工程(A,B,C)によって同一の個体撮像素子を作成した。製造工程間の違いの概略を以下に記す。
製造工程A:シリコン基板内部に結晶欠陥が発生しにくい製造工程。
製造工程B:シリコン基板表面にD.Z.を形成し、その下に析出物を発生させる製造工程。
製造工程C:シリコン基板表面にD.Z.を形成し、その下に積層欠陥を発生させる製造工程。
製造工程A、B、Cによって作成した固体撮像素子の基板表面に発生した結晶欠陥密度(面密度)と、モニターテレビ画面上に発生した画像欠陥である白点数を表1に示す。」(第2頁左下欄第5〜末行)
(7-4) 表1
工程 A B C
表面結晶欠陥密度(cm-2) 約3000 60 0
白点数(1素子当たり) 約60 4 0
(第2頁右下欄)
2-4.訂正発明と刊行物1記載の発明との対比
(1)刊行物1記載の発明
前記(1-6)〜(1-8)によると、刊行物1には、シリコンウエーハを水素ガス雰囲気中で、1000〜1200℃で1〜4時間熱処理することが記載されている。また、(1-10)には、雰囲気として「純水素」を使用する旨の記載がある。
刊行物1の前記(1-5)には、シリコンウエーハの表面に無欠陥層を形成すること及びこの無欠陥層はウエーハのバルクに比して実質上減少した欠陥密度を有する高品位半導体材料層であること、前記(1-7)には、シリコンウエーハを還元雰囲気中で1150℃で1時間熱処理した場合には18μmの厚さの表面層の酸素濃度が酸素析出閾値濃度以下に低下されること及び前記(1-9)には5〜20μmの厚さの無欠陥形成層があれば大抵の用途に適用できることがそれぞれ記載されており、また、(1-6)には、無欠陥形成帯域の酸素濃度は、酸素析出閾値より低い値まで低下されていることが記載されている。
上記のことを勘案すると、刊行物1には次の発明が記載されている。
「水素ガス100%の雰囲気下において1000℃〜1200℃の温度範囲に1〜4時間滞留させる熱処理を施して、表面に5〜20μmの厚さの無欠陥層を形成したシリコンウエーハ。」
(2)訂正発明と刊行物1記載の発明との一致点
刊行物1記載のものにおける「1000〜1200℃」という温度範囲は訂正発明における「1000℃から1350℃」に包含されるものであるから、両者は熱処理の温度において差異はない。
刊行物1記載のものにおける熱処理時間1〜4時間は、訂正発明における「少なくとも30分」に相当する。
刊行物1記載のものにおいては、表面に5〜20μmの厚さの無欠陥層が形成されており、この無欠陥層は酸素濃度が酸素析出閾値より低い値まで低下されており、ウエーハのバルクに比して実質上減少した欠陥密度を有する高品位半導体材料層であることから、表面から5ミクロンの平面における結晶欠陥の平均密度が低減されたものであるといえる。
上記のことを勘案すると、訂正発明と刊行物1記載の発明とは次の構成の点で一致する。
「水素ガス100%の雰囲気下において1000℃から1350℃の温度範囲に少なくとも30分間滞留させる熱処理を施したシリコンウエーハであって、表面から5ミクロンの平面における結晶欠陥の平均密度が低減されたシリコンウエーハ。」
(3)訂正発明と刊行物1記載の発明との相違点
(3-1)相違点A
訂正発明は、シリコンウエーハが「nタイプのシリコンウエーハ」であるのに対し、刊行物1には、シリコンウエーハがnタイプのものであることについては記載がない点。
(3-2)相違点B
訂正発明が、「乾燥酸素ガス雰囲気で16時間熱処理を行ってエッチングをして表面の酸化誘起積層欠陥密度を測定した場合」という測定方法についての構成を具えているのに対し、刊行物1にはこの構成についての記載がない点。
(3-3)相違点C
訂正発明が、上記測定の結果として、酸化誘起積層欠陥について、「平均密度が100個/cm2以下であるとともに、H2100%ガス雰囲気中で熱処理をする前の平均密度の約1/5以下であり」という構成を具えているのに対し、刊行物1にはこの構成についての記載がない点。
(3-4)相違点D
訂正発明が、上記測定の結果として、「熱処理後の表面に存在する酸化誘起積層欠陥発生原因となる結晶欠陥の平均密度と、表面から深さ5μmの平面における酸化誘起積層欠陥発生原因となる結晶欠陥の平均密度とがほぼ同じである」という構成を具えているのに対し、刊行物1にはこの構成についての記載がない点。
2-5.相違点についての検討
(1)相違点Aについて
刊行物1には、シリコンウエーハについては、それがnタイプであるか、pタイプであるかは記載がない。
しかるに、シリコンウエーハとしては,nタイプのものも、pタイプのものも普通のものであり、また、刊行物1には熱処理の対象として特にnタイプのものを排除する旨の記載はない。
また、刊行物3には、シリコンウエーハ表面の欠陥密度を低減するためにシリコンウエーハを水素ガス中で熱処理することが記載されているが、その処理対象としてpタイプとnタイプの両者について試験したことが記載されている(刊行物3の摘記事項(3-2)参照)。
また、刊行物5には、nタイプのシリコンウエーハにおいてその表面の積層欠陥を低減する試験を行ったことが(刊行物5の摘記事項(5-2)参照)、刊行物6には、n型シリコン基板の表面に無欠陥層を形成する必要があることが(刊行物6の摘記事項(6-3)参照)それぞれ記載されている。
上記のことを勘案すると、nタイプのシリコンウエーハにおいてもその表面層に無欠陥層を形成することは本件特許に係る出願の出願前公知の技術的課題であると認める。
そして、シリコンウエーハ表面に無欠陥層を形成するための方法として提供されている刊行物1記載の方法をnタイプのシリコンウエーハについても適用することを妨げる格別の事情があるとすることはできない。
してみると、刊行物1記載の方法をnタイプのシリコンウエーハに適用してみることは当業者が容易に想到することであり、その結果としてnタイプのシリコンウエーハについて表面層の欠陥密度を低減できたという効果が奏せられたとしても、それは当業者が予測し得たものとせざるを得ない。
(2)相違点Bについて
訂正発明の構成要件B中の、「乾燥酸素ガス雰囲気で16時間熱処理を行ってエッチングをして表面の酸化誘起積層欠陥密度を測定した場合、」という構成は、結晶に発生した欠陥を測定する方法を特定したものである。
一方、刊行物2の上記摘記事項(2-2)には、結晶内部に発生した微小欠陥を観察しやすくする目的で、「1000℃酸素雰囲気中で16時間アニールを施した。ウエハー深さ方向の欠陥密度は、上記ウエハーを劈開して、微小欠陥の検出に有効なseccoエッチングを行い、ウエーハ断面に発生した欠陥を顕微鏡で観察することにより求めた。」旨の記載があり、これは本件発明における上記測定法と異なるところがない。
そうすると、構成要件Bは、結晶欠陥についての公知の測定方法を特定したに過ぎず、このような測定方法を採用することは当業者が容易に想到し得たところである。
(3)相違点Cについて
シリコンウエーハの表面層に欠陥が存在することが望ましくないことは刊行物1についての摘記事項(1-5)、刊行物2についての摘記事項(2-1)、刊行物3についての摘記事項(3-6)、刊行物4についての摘記事項(4-1)、刊行物5についての摘記事項(5-1)、刊行物6についての摘記事項(6-3)にそれぞれ記載されているように周知の事項である。
してみると、シリコンウエーハ表面付近の欠陥密度をできるだけ小さくすることは当業者の通常に志向するところであると認められる。
そして、刊行物1記載の、シリコンウエーハを水素ガス中で熱処理するというプロセスは、シリコンウエーハの表面部分に無欠陥層を形成することを目的としたプロセスであり、刊行物1についての摘記事項(1-6)中の「無欠陥形成帯域の酸素濃度は、酸素析出閾値より低い値まで低下されている。」との記載からみて、このプロセスは、熱処理後のシリコンウエーハ表面層の「酸化誘起積層欠陥密度」を低くすることを目的として行われるものであることは明らかである。
また、刊行物3には、刊行物1記載の発明と同様に、シリコンウエーハを純水素ガス中で加熱処理して欠陥密度を低減するという発明が記載されているところ、標準試料では欠陥密度が200個/cm2であるのに対し、水素ガス中で、1275℃、30分間熱処理を施すことによって欠陥密度が30個/cm2となったことが記載されており、この場合、欠陥密度の比は30/200=0.15である(刊行物3の摘記事項(3-5)参照)。
更に、同じく刊行物3には、水素ガス中での熱処理により欠陥密度が熱処理をしない場合の約1/7となったことについても記載されている(同(3-6)参照)。
そして、本件訂正明細書を参照しても、訂正発明における酸化誘起積層欠陥の平均密度が「100個/cm2以下」及び「H2100%ガス雰囲気中で熱処理をする前の平均密度の約1/5以下」という各数値限定に技術的に格別の臨界的な意義があることを認めることができない。
上記のことを勘案すると、訂正発明における酸化誘起積層欠陥の平均密度が「100個/cm2以下」及び「H2100%ガス雰囲気中で熱処理をする前の平均密度の約1/5以下」という各数値限定は、当業者がシリコンウエーハの表面層に酸化誘起積層欠陥の存在することが望ましくないという観点に立つならば、適宜容易に設定し得るものというべきである。
従って、相違点Cは格別のものではない。
(4)相違点Dについて
刊行物1には、熱処理後のウエーハについては、大抵の応用のためには約5〜20ミクロンの厚さの無欠陥形成層を有する旨記載されており(刊行物1の摘記事項(1-9)参照)、これはすなわち、用途によっては、表面から5μm乃至それ以上の深さまで無欠陥層を形成する必要があることを意味している。
また、刊行物6には、シリコンウエーハの表面から18μmの深さまで積層欠陥を消滅させたことが記載されており(刊行物6の摘記事項(6-4)参照)、刊行物7には表面から5〜100μmの深さの無欠陥領域を形成することが記載されている(摘記事項(7-2)参照)ことからみて、表面から5μm程度の深さまで積層欠陥をなくすことは普通に行われること認める。
上記の事項及び表面欠陥を低減させるのはそれが基板に形成される素子に悪影響を及ぼすことを避けるためであるから、そのような影響を及ぼす可能性がある領域に欠陥を存在させないようにすることは当業者が当然に志向するところであることをそれぞれ勘案すると、欠陥のない領域として表面から5μmという範囲を設定することは格別のことではなく、また、素子に悪影響を及ぼす可能性のある領域の欠陥を可及的に小さくすることが望ましいという観点に立てば、表面から深さ5μmまでの範囲内のどの位置においても結晶欠陥の密度が低いことが望ましいことは当業者には明らかであるから、訂正発明におけるように、表面から5μmの深さにおける欠陥の平均密度を表面における欠陥の平均密度と同程度にまで低めることも当業者が容易に想到し得た程度のことに過ぎない。
(5)まとめ
従って、相違点A〜Dは何れも格別のものではなく、訂正発明は、上記刊行物1〜7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際に独立して特許を受けることができないものである。

3.訂正の適否についての判断
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第3項で準用する特許法第126条第4項の規定に適合しないので、当該訂正は認められない。

III.特許異議申立について

1.本件発明
上記したとおり、訂正は認められないので、請求項1に係る発明は、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「水素ガス100%の雰囲気下において1000℃から1350℃の温度範囲に少なくとも30分間滞留させる熱処理を施したシリコンウエーハであって、乾燥酸素ガス雰囲気で16時間熱処理を行ってエッチングをして表面の酸化誘起積層欠陥密度を測定した場合、その平均密度が100個/cm2以下であるとともに、H2100%ガス雰囲気中で熱処理をする前の平均密度の約1/5以下であり、熱処理後の表面に存在する酸化誘起積層欠陥発生原因となる結晶欠陥の平均密度と、表面から深さ5μmの平面における酸化誘起積層欠陥発生原因となる結晶欠陥の平均密度とがほぼ同じであることを特徴とするシリコンウエーハ。」(以下、「本件発明」という。)

2.取消理由の概要
本件発明は、本件特許に係る出願前に頒布された下記の刊行物1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

刊行物1:特開昭60-3130号公報
刊行物2:特開昭57-199227号公報
刊行物3:Journal of Electronic Materials.Vol.3,No.2,(1974), pp.579-599

3.刊行物1〜3の記載事項
上記「II.2-3(1)〜(3)」参照

4.本件発明と刊行物1記載の発明との対比
(1)刊行物1記載の発明
上記「II.2-4(1)」参照
(2)本件発明と刊行物1記載の発明との一致点
上記「II.2-4(2)」参照
(3)本件発明と刊行物1記載の発明との相違点
上記「II.2-4(3)(3-2)〜(3-4)」であげた、上記相違点B〜Dに同じ

5.相違点についての検討
(1)相違点Bについて
上記「II.2-5(2)」に述べたとおりであり、相違点Bは格別のものではない。
(2)相違点Cについて
シリコンウエーハの表面層に欠陥が存在することが望ましくないことは刊行物1についての摘記事項(1-5)、刊行物2についての摘記事項(2-1)、刊行物3についての摘記事項(3-6)にそれぞれ記載されているように周知の事項である。
してみると、シリコンウエーハ表面付近の欠陥密度をできるだけ小さくすることは当業者の通常に志向するところであると認められる。
そして、刊行物1記載の、シリコンウエーハを水素ガス中で熱処理するというプロセスは、シリコンウエーハの表面部分に無欠陥層を形成することを目的としたプロセスであり、刊行物1についての摘記事項(1-6)中の「無欠陥形成帯域の酸素濃度は、酸素析出閾値より低い値まで低下されている。」との記載からみて、このプロセスは、熱処理後のシリコンウエーハ表面層の「酸化誘起積層欠陥密度」を低くすることを目的として行われるものであることは明らかである。
また、刊行物3には、刊行物1記載の発明と同様に、シリコンウエーハを純水素ガス中で加熱処理して欠陥密度を低減するという発明が記載されているところ、標準試料では欠陥密度が200個/cm2であるのに対し、水素ガス中で、1275℃、30分間熱処理を施すことによって欠陥密度が30個/cm2となったことが記載されており、この場合、欠陥密度の比は30/200=0.15(<1/5)である(刊行物3の摘記事項(3-5)参照)。
更に、同じく刊行物3には、水素ガス中での熱処理により欠陥密度が熱処理をしない場合の約1/7となったことについても記載されている(同(3-6)参照)。
そして、本件特許明細書を参照しても、本件発明における、酸化誘起積層欠陥の平均密度が「100個/cm2以下」及び「H2100%ガス雰囲気中で熱処理をする前の平均密度の約1/5以下」という各数値限定に技術的に格別の臨界的な意義があることを認めることができない。
上記のことを勘案すると、本件発明における酸化誘起積層欠陥の平均密度が「100個/cm2以下」及び「H2100%ガス雰囲気中で熱処理をする前の平均密度の約1/5以下」という各数値限定は、当業者がシリコンウエーハの表面層に酸化誘起積層欠陥の存在することが望ましくないという観点に立つならば、適宜容易に設定し得るものというべきである。
従って、相違点Cは格別のものではない。
(3)相違点Dについて
刊行物1には、熱処理後のウエーハについては、大抵の応用のためには約5〜20ミクロンの厚さの無欠陥形成層を有する旨記載されており(刊行物1の摘記事項(1-9)参照)、これはすなわち、用途によっては、表面から5μm乃至それ以上の深さまで無欠陥層を形成する必要があることを意味している。
上記の事項及び表面欠陥を低減させるのはそれが基板に形成される素子に悪影響を及ぼすことを避けるためであるから、そのような影響を及ぼす可能性がある領域に欠陥を存在させないようにすることは当業者が当然に志向するところであることをそれぞれ勘案すると、欠陥のない領域として表面から5μmという範囲を設定することは格別のことではなく、また、素子に悪影響を及ぼす可能性のある領域の欠陥を可及的に小さくすることが望ましいという観点に立てば、表面から深さ5μmまでの範囲内のどの位置においても結晶欠陥の密度が低いことが望ましいことは当業者には明らかであるから、訂正発明におけるように、表面から5μmの深さにおける欠陥の平均密度を表面における欠陥の平均密度と同程度にまで低めることも当業者が容易に想到し得た程度のことに過ぎない。
(4)まとめ
従って、上記相違点B〜Dはいずれも格別のものではなく、本件発明は、上記刊行物1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。

6.むすび
以上のとおりであるから、本件発明は上記刊行物1〜3記載に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものであるから、平成6年改正法附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、上記のとおり決定する。
(なお、本件特許に係る出願は昭和60年11月22日の出願であるため、上記のような法律条文の適用となるが、これは平成8年1月1日以降の特許出願に係る特許について適用される「本件発明についての特許は、特許法第113条第2号に該当するので取り消す。」と同趣旨である。)
 
異議決定日 2000-04-04 
出願番号 特願平6-232516
審決分類 P 1 651・ 121- ZB (C30B)
最終処分 取消  
前審関与審査官 板橋 一隆後谷 陽一  
特許庁審判長 酒井 正己
特許庁審判官 唐戸 光雄
新居田 知生
登録日 1997-05-23 
登録番号 特許第2652344号(P2652344)
権利者 東芝セラミックス株式会社
発明の名称 シリコンウエーハ  
代理人 田辺 徹  

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