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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C10G
管理番号 1020393
異議申立番号 異議1998-75843  
総通号数 14 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1997-06-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 1998-12-01 
確定日 1999-08-18 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2761636号「炭化水素の水蒸気改質方法」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2761636号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第2761636号は、昭和63年12月16日(優先権主張 昭和62年12月17日 日本)に特許出願した特願昭63-318818号の一部を平成8年12月2日に新たに特許出願したもので、平成10年3月27日に設定登録されたものである。これに対して、足立泰守より特許異議の申立てがなされ、当審で取消理由を通知したところ、その指定期間内に訂正請求がなされた。
2.訂正の適否
2-1 訂正の内容
本件訂正請求は、本件特許明細書を訂正明細書のとおり、次のように訂正することを求めるものである。
(1)特許請求の範囲
特許請求の範囲に記載された請求項1〜3のうち、請求項1及び2を削除するとともに、請求項1及び2を引用する形式で記載された請求項3を、新たに独立した記載形式として請求項1及び請求項2とする。
これにより、訂正後の特許請求の範囲は次のとおりとなる。
「【請求項1】炭化水素を高次脱硫剤により硫黄含有量を1vol.ppb以下に脱硫した後、S/C(炭化水素中の炭素1モルあたりの水蒸気のモル数)=0.7〜3.5の条件下に水蒸気改質を行うことを特徴とする炭化水素の水蒸気改質方法。
【請求項2】炭化水素を高次脱硫剤により硫黄含有量を0.1vol.ppb以下に脱硫した後、S/C(炭化水素中の炭素1モルあたりの水蒸気のモル数)=0.7〜3.5の条件下に水蒸気改質を行うことを特徴とする炭化水素の水蒸気改質方法。」
(2)発明の詳細な説明
明細書【0010】欄に「水蒸気改質を行う」とあるのを、「S/C(炭化水素中の炭素1モルあたりの水蒸気のモル数)=0.7〜3.5の条件下に水蒸気改質を行う」と訂正する。
2-2 訂正の適否の検討
2-2-1 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
(1)訂正事項(1)について
上記2-1の訂正事項(1)は、請求項1及び2を削除するとともに、これに伴い引用形式で記載することができなくなった請求項3を、新たに請求項1及び請求項2として独立した形式で記載するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正後の請求項1は、訂正前の請求項3において訂正前の請求項1を引用したものと同一内容であり、訂正後の請求項2は、訂正前の請求項3において訂正前の請求項2を引用したものと同一内容であるから、この訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものにはあたらない。
(2)訂正事項(2)について
上記2-1の訂正事項(2)は、特許請求の範囲の訂正に伴い、それと整合させるために発明の詳細な説明を訂正しようとするものであって、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。そして、この訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものにはあたらない。
2-2-2 独立特許要件
(1)当審で通知した取消理由について
▲1▼ 取消理由の概要
当審で通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
(ア)理由1
本件特許の請求項1〜3に係る発明はいずれも、その出願前に国内において頒布された刊行物である特開平1-259088号公報(以下、「引用例1」という。)に記載された発明であるから、当該請求項に係る発明の特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものである。
(イ)理由2
本件特許の請求項1に係る発明は、その出願前に国内において頒布された刊行物である特開昭60-238389号公報(特許異議申立人が提出した甲第1号証。以下、「引用例2」という。)に記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたものであるから、当該請求項に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。
▲2▼ 対比・判断
(ア)理由1について
引用例1は、本件特許出願の原出願である特願昭63-318818号(特許第2683531号)の特許出願公開公報である。
そして、理由1は、本件特許の出願日が現実の出願日である平成8年12月2日であることを前提とするものであり、その根拠は次のとおりである。
すなわち、上記特許第2683531号に係る発明は、
「【請求項1】銅化合物、亜鉛化合物およびアルミニウム化合物を原料として共沈法により調製した酸化銅-酸化亜鉛-酸化アルミニウム混合物を水素還元して得た高次脱硫剤を使用して炭化水素を硫黄含有量1vol,ppb以下に脱硫した後、水蒸気改質を行うことを特徴とする炭化水素の水蒸気改質方法。
【請求項2】炭化水素を硫黄含有量0.1vol.ppb以下に脱硫した後、水蒸気改質を行う特許請求の範囲第1項に記載の炭化水素の水蒸気改質方法。
【請求項3】銅化合物および亜鉛化合物を原料として共沈法により調製した酸化銅-酸化亜鉛混合物を水素還元して得た高次脱硫剤を使用して炭化水素を硫黄含有量1vol.ppb以下に脱硫した後、水蒸気改質を行うことを特徴とする炭化水素の水蒸気改質方法。
【請求項4】炭化水素を硫黄含有量0.1vol.ppb以下に脱硫した後、水蒸気改質を行う特許請求の範囲第3項に記載の炭化水素の水蒸気改質方法。」(特許2683531号公報参照)
であるところ、本件の訂正前の請求項1に係る発明は、原出願の請求項1または3に係る発明と、また、本件の訂正前の請求項2に係る発明は、原出願の請求項2または4に係る発明と、それぞれ実質的に同一のものであるから、本件特許に係る出願は、適法な分割出願ではなく、したがって、本件特許については、特許法第44条に基く出願日の遡及は認められない。
取消理由においては、上記の根拠により、本件特許の出願日が現実の出願日である平成8年12月2日であるとしたものであるが、訂正後の本件特許請求の範囲は、訂正前の請求項1及び2を削除したものであるから、上記の根拠は失われることとなる。
したがって、引用例1は、本件特許の出願前に国内において頒布された刊行物には該当しないこととなり、理由1は、本件特許の訂正後の請求項1及び2に対しては妥当しない。
(イ)理由2について
上記引用例2は、ガスの高次脱硫方法に関するもので、次の記載がある。
(a)「イオウ化合物含有ガスを水添脱硫処理及び亜鉛系脱硫剤を使用する吸着脱硫処理に供した後、銅系脱硫剤を使用する吸着脱硫処理に供することを特徴とするガスの高次脱硫方法」(特許請求の範囲)
(b)「本発明はイオウ化合物を含有するガスの高次脱硫方法に関する。本発明方法は、水蒸気改質、メタン化、水添処理等に供される各種ガスの脱硫に特に適している。」(第1頁左下欄第10行〜第13行)
(c)「第2図に示す形式の脱硫方法によれば、全ての反応が正常に行われた場合においても、ガス中のH2S濃度を0.02ppm以下にすることは、実用上困難である。従って、より高活性の触媒を使用するようになって来たが為にH2Sの悪影響をより大きく受ける様になった技術の現況から、より高次の脱硫を簡易に行いうる新たな方法の実用化が切望されている。」(第1頁右下欄第11行〜第2頁左上欄第1行)
(d)「本発明者は、上記の如き技術の現状に鑑みて種々研究を重ねた結果、イオウ化合物含有ガスを脱硫するに際し、水添脱硫及び吸着脱硫を行った後、銅系脱硫剤による吸着脱硫を行う場合には、ガス中のイオウ化合物濃度を0.1ppm〜1ppb程度まで低減させうることを見出した。」(第2頁左上欄第3行〜第8行)
(e)「本発明によれば、以下の如き効果が達成される。
(1)ガス中に含まれるイオウ化合物濃度を0.1ppm以下、最大限1ppb程度まで容易に低減させることができる。
(2)従って、後続の水蒸気改質、メタン化、水添分解等における触媒の被毒を防止し、もって触媒寿命の大巾な延長をはかることができる。」
(第2頁右下欄「発明の効果」の項)
上記記載事項よりみて、引用例2には、水蒸気改質に供すべき炭化水素ガス中のイオウ化合物濃度を、脱硫剤により0.1ppm以下あるいは最大限1ppb程度まで低減させることができること、これにより触媒被毒を防止し、もって触媒寿命を大幅に延長させることが記載されていると認められる。
しかしながら、引用例2には、硫黄含有量を最大限1ppb「程度」まで低減できる可能性は示されているものの、本件の訂正後の請求項1に係る発明(以下、「本件発明1」という。)が要件とする、1ppb「以下」にすることは、具体性をもって開示されているとはいえない。
また、本件発明1は、「水蒸気改質に供される炭化水素中の硫黄含有量を5ppb以下、より好ましくは1ppb、更に好ましくは0.1ppb以下という低いレベルとする場合には、水蒸気改質触媒の硫黄被毒を実質的に防止しうるのみならず、触媒への炭素の析出をも防止しうることを見出した」(本件明細書【0009】欄)ことに基づき、硫黄含有量を1ppb以下とするものであるが、一方、引用例2では、イオウ化合物濃度を低減させる目的として、硫黄による触媒被毒の抑制は記載されるものの、触媒への炭素の析出抑制については記載がない。
さらに、引用例2には、S/C比を含めて、水蒸気改質を行う際の条件についての具体的記載はなく、したがって、本件発明1の要件である、S/C=0.7〜3.5の条件下に水蒸気改質を行う点についても記載がない。
そして、本件発明1が、炭化水素中の硫黄含有量を1ppb以下とし、かつ、S/C=0.7〜3.5とすることにより、水蒸気改質触媒の硫黄被毒及び該触媒に対する炭素の析出が極めて効果的に防止され、触媒寿命が大幅に延長されるとともに、必要水蒸気量を減少させることができるという作用効果を奏するものであることは、本件実施例から認めることができ、これらの作用効果は、引用例2の記載からは容易に予測できないものである。
そうであれば、本件発明1は、引用例2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたものとはいえない。
(2)特許異議申立人が提出した証拠について
▲1▼甲第1号証(特開昭60-238389号公報)について
特許異議申立人が甲第1号証として提出した特開昭60-238389号公報(取消理由における「引用例2」)には、上記2-2-2の(1)▲2▼(イ)の(a)〜(e)の事項が記載されている。そして、上記2-2-2の(1)▲2▼(イ)に記載した理由により、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたものとすることはできない。
また、本件の訂正後の請求項2に係る発明(以下、「本件発明2」という。)は、本件発明1について、更に硫黄含有量を0.1ppb以下に低減したものに相当するから、本件発明1についてと同様の理由により、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたものとすることはできない。
▲2▼甲第2号証(特開昭62-17003号公報)について
特許異議申立人が甲第2号証として提出した特開昭62-17003号公報には、
「ルテニウム系触媒を用いて原料炭化水素を水蒸気改質する方法に於て、原料炭化水素を予め水素化脱硫し、その硫黄含量を0.05wt.ppm以下に維持してルテニウム系触媒に接触させることを特徴とする前記の水蒸気改質法」(特許請求の範囲)
が記載されている。
しかし、甲第2号証には、本件発明1の構成要件である「炭化水素を高次脱硫剤により硫黄含有量を1vol.ppb以下に脱硫」する点については記載がなく、また、本件発明1の基礎となる知見である、「水蒸気改質に供される炭化水素中の硫黄含有量を5ppb以下、より好ましくは1ppb、更に好ましくは0.1ppb以下という低いレベルとする場合には、水蒸気改質触媒の硫黄被毒を実質的に防止しうるのみならず、触媒への炭素の析出をも防止しうる」(本件明細書【0009】欄)点についても、何ら示唆する記載がない。
したがって、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたものとすることはできない。
また、本件発明2は、本件発明1について、更に硫黄含有量を0.1ppb以下に低減したものに相当するから、本件発明1についてと同様の理由により、甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたものとすることはできない。
▲3▼ 甲第1、2号証の組合せについて
甲第1号証及び甲第2号証を組み合わせても炭化水素を高次脱硫剤により硫黄含有量を1vol.ppb以下に脱硫するとともにS/Cを0.7〜3.5にすることは教示されず、したがって、本件発明1及び本件発明2のいずれも、当業者が容易に発明できたものとすることはできない。
(3)独立特許要件についてのまとめ
したがって、訂正後の特許請求の範囲の請求項1及び2に係る発明はいずれも、特許出願の際独立して特許を受けることができたものである。
2-2-3 訂正の適否についての結論
以上のとおりであって、本件訂正請求は、特許法第120条の4第2項の規定及び同条第3項において準用する第126条第2項〜第4項の規定に適合するものであるから、当該訂正を認める。
3.特許異議申立てについての判断
特許異議申立人足立泰守は、証拠として甲第1号証(特開昭60-238389号公報)及び甲第2号証(特開昭62-17003号公報)を提出し、本件の請求項1〜3に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、取り消されるべき旨主張している。
そこで検討すると、本件特許明細書の訂正後の請求項1、2に記載された発明(訂正により、請求項の数は3から2となった。)は、上記2-1の(1)に記載されたとおりのものである。
そして、上記2-2-2の(2)に記載した理由により、本件特許明細書の訂正後の請求項1、2に記載された発明は、甲第1、2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明できたものとすることはできない。
4.むすび
以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件の訂正後の請求項1、2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件の訂正後の請求項1、2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
炭化水素の水蒸気改質方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】炭化水素を高次脱硫剤により硫黄含有量を1vol.ppb以下に脱硫した後、S/C(炭化水素中の炭素1モルあたりの水蒸気のモル数)=0.7〜3.5の条件下に水蒸気改質を行うことを特徴とする炭化水素の水蒸気改質方法。
【請求項2】炭化水素を高次脱硫剤により硫黄含有量を0.1vol.ppb以下に脱硫した後、S/C(炭化水素中の炭素1モルあたりの水蒸気のモル数)=0.7〜3.5の条件下に水蒸気改質を行うことを特徴とする炭化水素の水蒸気改質方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、高度に脱硫した炭化水素の水蒸気改質方法に関する。
【0002】
【従来技術】
従来炭化水素を水蒸気改質するに先立ち行われている代表的な脱硫方法は、Ni-Mo系またはCo-Mo系触媒の存在下に炭化水素中の有機硫黄を水添分解した後、生成するH2SをZnOに吸着させて、除去する方法である。
【0003】
しかしながら、この様な従来方法には、多くの問題点がある。すなわち、水添脱硫工程において、炭化水素中に一定量以上の有機硫黄、特にチオフェンなどの難分解性の有機硫黄が含まれている場合には、未分解のものがスリップして、ZnOに吸着されることなく、素通りする。また、吸着脱硫に際しては、例えば、
【0004】
【化1】

【0005】
で示される平衡のため、H2S、COSなどの量も一定値以下とはならない。特に、H2OおよびCO2が存在する場合には、この傾向は、著しい。さらに、装置のスタートアップ、シャットダウンなどに際して脱硫系が不安定である場合には、水添脱硫装置及び吸着脱硫触媒から硫黄が飛散して、精製物中の硫黄濃度が増大することもある。したがって、現在の水蒸気改質プロセスにおける脱硫工程は、精製後の炭化水素中の硫黄濃度が数vol.ppm乃至0.1vol.ppmとなる様なレベルで管理せざるを得ない。
【0006】
上記のようにして脱硫された炭化水素は、次いで、Ru系、Ni系などの触媒の存在下に水蒸気改質に供される。しかるに、マカーティら(McCarty et al;J.Chem.Phys.vol 72.No.12.6332、1980:J.Chem.Phys.vol 74.No.10.5877、1981)の研究が明らかにしている様に、NiおよびRuの硫黄吸着力は、強力であるので、炭化水素中の硫黄含有量が極微量であっても、触媒表面の大部分は、硫黄により覆われる。具体的には、一般の水蒸気改質プロセスの入口条件(450℃近傍)において、現在の最善のレベルである硫黄含有量0.1ppm程度の状態では、NiまたはRu触媒の表面の約90%が、硫黄により、短時間内に覆われてしまう。このことは、現行の炭化水素の脱硫レベルでは、水蒸気改質工程における触媒の硫黄被毒を防止することが出来ないことを意味している。
【0007】
この様な問題点を考慮して、特開昭62-17003号公報には、0.5ppm以下に脱硫した炭化水素を使用する水蒸気改質方法が提案されている。しかしながら、ここに記載されている方法では、炭化水素の脱硫度が不十分で、水蒸気改質触媒の被毒を十分に防止することが出来ず、また後述するように水蒸気使用量の低減も実現されない。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
従って、水蒸気改質触媒の硫黄被毒を効果的に防止して、触媒寿命を延長させることを主な目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記の如き技術の現状に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、水蒸気改質に供される炭化水素中の硫黄含有量を5ppb以下、より好ましくは1ppb以下、更に好ましくは0.1ppb以下という低いレベルとする場合には、水蒸気改質触媒の硫黄被毒を実質的に防止し得るのみならず、触媒への炭素の析出をも防止し得ることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、炭化水素を高次脱硫剤により硫黄含有量1ppb以下に脱硫した後、S/C(炭化水素中の炭素1モルあたりの水蒸気のモル数)=0.7〜3.5の条件下に水蒸気改質を行うことを特徴とする炭化水素の水蒸気改質方法に係る。
【0011】
なお、本発明において、硫黄濃度を示す単位「ppb」は、vol.ppb(容量ppb)を意味する。
【0012】
【発明の実施の形態】
従来から、硫黄被毒が、水蒸気改質用触媒の主な劣化要因であることは、良く知られている。しかるに、水蒸気改質に供される炭化水素中の硫黄含量を5ppb以下、より好ましくは1ppb以下、さらに好ましくは0.1ppb以下とすることにより、硫黄被毒のみならず、炭素の析出までもが防止されるということは、従来まったく予期し得なかった新しい知見である。したがって、本発明方法によれば、炭化水素の水蒸気改質において、触媒への炭素析出による活性劣化、反応器閉塞等が制約となって採用出来なかった低水蒸気比運転や低水素比運転及び灯軽油留分等の重質な炭化水素原料を使用する運転が可能となる。この結果、水蒸気改質プロセスの経済性は、大巾に改善される。
【0013】
以下図面に示すフローチャートを参照しつつ、本発明をさらに詳細に説明する。
【0014】
図1は、全硫黄化合物含有量が10ppm以下(硫黄として:以下同じ)である炭化水素を原料とする本発明方法の一実施態様を示す。この場合には、原料は、硫黄含有量を5ppb以下、より好ましくは1ppb以下更に好ましくは0.1ppb以下にまで減少させる為の脱硫工程に供される(以下これを高次脱硫という)。この様な高次脱硫では、炭化水素中の硫黄含有量を5ppb以下、好ましくは1ppb以下、より好ましくは0.1ppb以下とする。この様な高次脱硫方法としては、特願昭62-279867号および特願昭62-279868号に開示された銅-亜鉛系および銅-亜鉛-アルミニウム系脱硫剤を使用する脱硫方法が好ましい例として挙げられる。この様な脱硫剤は、下記に示す様な方法により、調製される。
【0015】
(1)銅-亜鉛系脱硫剤
銅化合物(例えば、硝酸銅、酢酸銅等)及び亜鉛化合物(例えば、硝酸亜鉛、酢酸亜鉛等)を含む水溶液とアルカリ物質(例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等)の水溶液を使用して、常法による共沈法により沈澱を生じさせる。生成した沈澱を乾燥し、300℃程度で焼成して、酸化銅-酸化亜鉛混合物(原子比で通常銅:亜鉛:=1:約0.3〜10、好ましくは1:約0.5〜3、より好ましくは1:約1〜2.3)を得た後、水素含有量6容量%以下、より好ましくは0.5〜4容量%程度となる様に不活性ガス(例えば、窒素ガス等)により希釈された水素ガスの存在下に150〜300℃程度で上記混合物を還元処理する。この様にして得られる銅-亜鉛系脱硫剤には、他の担体成分としてある種の金属酸化物、例えば、酸化クロムなどを含有させても良い。
【0016】
(2)銅-亜鉛-アルミニウム系脱硫剤
銅化合物(例えば、硝酸銅、酢酸銅等)、亜鉛化合物(例えば、硝酸亜鉛、酢酸亜鉛等)及びアルミニウム化合物(例えば、硝酸アルミニウム、アルミン酸ナトリウム等)を含む水溶液とアルカリ物質(例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等)の水溶液を使用して、常法による共沈法により、沈澱を生じさせる。生成した沈澱を乾燥し、約300℃で焼成して、酸化銅-酸化亜鉛-酸化アルミニウム混合物(原子比で通常銅:亜鉛:アルミニウム=1:約0.3〜10:約0.05〜2、より好ましくは1:約0.6〜3:約0.3〜1)を得た後、水素含有量6容量%以下、より好ましくは0.5〜4容量%程度となる様に不活性ガスにより希釈された水素ガスの存在下に150〜300℃程度で上記混合物を還元処理する。この様にして得られる銅-亜鉛-アルミニウム系脱硫剤には、他の担体成分としてある種の金属酸化物、例えば、酸化クロムなどを含有させても良い。
【0017】
上記(1)及び(2)の方法で得られる銅系脱硫剤は、大きな表面積を有する微粒子状の銅が、酸化亜鉛(及び酸化アルミニウム)中に均一に分散しているとともに、酸化亜鉛(及び酸化アルミニウム)との化学的な相互作用により高活性状態になっている。従って、これらの脱硫剤を使用する場合には、炭化水素中の硫黄含有量を確実に5ppb以下、適切な条件を選択すれば1ppb以下、さらに最適条件下には容易に0.1ppb以下とすることができ、またチオフェン等の難分解性の硫黄化合物をも確実に除去することができる。特に、銅-亜鉛-アルミニウム系脱硫剤にあっては、酸化アルミニウムの作用により、耐熱性に優れ、高温での強度低下及び硫黄吸着力の低下を著るしく減少させることができるという利点が得られる。
【0018】
上記の銅系脱硫剤を用いる高次脱硫は、通常温度200〜400℃程度、圧力1〜50kg/cm2・G程度、GHSV1000〜5000程度の条件下に行なわれる。
【0019】
図2は、全硫黄化合物含有量が10ppm以上であるが、難分解性の有機硫黄化合物含有量が10ppm未満である炭化水素を原料とする本発明方法の一実施態様を示す。この場合には、まず、原料炭化水素を例えばZnO系脱硫剤を使用する常法による一次吸着脱硫に供する。この際の条件は、特に限定されるものではないが、後続の高次脱硫工程での硫黄化合物吸着効果を最大限に発揮させるために、炭化水素中の硫黄含有量を1〜0.1ppm程度に低下させておくことが望ましい。従って、一次吸着脱硫においては、ZnO系脱硫剤の存在下温度250〜400℃程度、圧力10kg/cm2・G程度、GHSV1000程度の条件を採用することが好ましいが、その他の条件を採用することも、当然可能である。次いで、一次吸着脱硫を終えた炭化水素を上記と同様の高次脱硫工程に送り、硫黄含有量を5ppb以下、好ましくは1ppb以下、より好ましくは0.1ppb以下とした後、常法による水蒸気改質を行う。
【0020】
図3は、難分解性の有機硫黄化合物を主とする全硫黄化合物の含有量が10ppm以上である炭化水素を原料とする本発明方法の一実施態様を示す。この場合には、まず、原料炭化水素は、常法に従って、例えば、Ni-Mo系、Co-Mo系等の触媒の存在下温度350〜400℃程度、圧力10kg/cm2・G程度、GHSV3000程度の条件下に水添脱硫される。次に、図2に関連して述べたと同様の一次吸着脱硫を行った後、高次脱硫を行い、炭化水素中の硫黄含有量を5ppb以下、好ましくは1ppb以下、より好ましくは0.1ppb以下とする。この際、吸着脱硫処理された炭化水素は高温となっているので、耐熱性に優れた銅-亜鉛-アルミニウム系脱硫剤を使用して、高次脱硫を行うことが好ましい。高次脱硫された炭化水素は、常法による水蒸気改質に供される。
【0021】
本発明において原料として使用する炭化水素としては、天然ガス、エタン、プロパン、ブタン、LPG(液化石油ガス)、ライトナフサ、ヘビーナフサ、軽灯油、コークス炉ガス、各種の都市ガス等が例示される。
【0022】
【発明の効果】
本発明によれば、水蒸気改質触媒の硫黄被毒及び該触媒に対する炭素の析出が極めて効果的に防止されるので、触媒寿命が大巾に延長される。また、必要水蒸気量を減少させることができる。即ち、従来の水蒸気改質方法では、長時間の運転を行うためには、S/C(炭化水素中の炭素1モル当りの水蒸気のモル数)を3.5以上とする必要があったが、本発明方法によれば、S/Cが0.7〜3.5でも、長時間安定に運転することができる。
【0023】
【実施例】
以下参考例、実施例及び比較例を示し、本発明の特徴とするところをより一層明らかにする。
【0024】
参考例
現在の測定技術では、炭化水素の様な可燃性物質中に含まれるppbオーダーの硫黄を直接的に測定することは、困難である。従って、本明細書において、炭化水素中のppbオーダーの硫黄含有量の測定は、下記の方法に基いて計算した値である。
【0025】
常法により予備精製されたコークス炉ガスを特願昭62-279868号に開示された銅-亜鉛-アルミニウム系脱硫剤を用いて高次脱硫した。得られた高次脱硫コークス炉ガスを5000Nm3/hrにて、2wt.%RU/Al2O3/触媒3.5ton(かさ密度0.8kg/リットルを充填した改質反応器(内径160cmφ)に導入し、入口温度300℃で16000時間改質反応を行なった。使用した触媒の飽和被毒量は、約0.002g・S/g・触媒である。
【0026】
ルテニウムは極めて硫黄吸着能力が高く、気相に僅かな濃度の硫黄が存在すると直ちに吸着する。従って、硫黄は触媒層の表面の極く薄い層(表層から10cmでの深さ)に吸着されているものと考えられる。
【0027】
そこで、上記の反応の終了後、触媒層の表面から10cmまでの表層部について螢光X線分析法により硫黄を分析した。その結果、螢光X線分析法による硫黄の検出限界(0.00005g・S/g・触媒)以下であった。従って、高次脱硫した原料ガス中に含まれる硫黄含有量は、下記式により算出され、0.1ppb以下であることが判明した。
【0028】
【数1】

【0029】
コークス炉ガス以外のLPG、ナフサなどを使用する場合についても、同様の手法に従って硫黄含有量の計算を行なった。
【0030】
実施例1
硫黄含有量100ppmのナフサを、常法にしたがって、まずNi-Mo系水添脱硫触媒の存在下に温度380℃、圧力10kg/cm2・G、 LHSV2、水素/ナフサ=0.1(モル比)の条件下に水添分解した後、ZnO系吸着脱硫剤に接触させて、一次吸着脱硫した。得られた一次吸着脱硫ナフサ中の硫黄濃度は、約2ppmであった。
【0031】
一方、硝酸銅、硝酸亜鉛及び硝酸アルミニウムを溶解する混合水溶液にアルカリ物質として炭酸ナトリウムを加え、生じた沈澱を洗浄および濾過した後、高さ1/8インチ×直径1/8インチの大きさに打錠成形し、約400℃で焼成した。次いで、該焼成体(酸化銅45%、酸化亜鉛45%、酸化アルミニウム10%)100ccを充填した脱硫装置に水素2%を含む窒素ガスを流通させ、温度約200℃で還元した後、上記で得た一次吸着脱硫ナフサ400リットル/hrを通じ、温度350℃、圧力8kg/cm2・Gの条件下に高次脱硫した。得られた高次脱硫ナフサ中の硫黄濃度は、7000時間の運転にわたり、平均0.1ppb以下であった。
【0032】
次いで、得られた高次脱硫ナフサを原料とし、流通式疑似断熱型の反応器(直径20mm)を使用して、ルテニウム触媒(γ-アルミナ担体にルテニウム2wt.%を担持)の存在下に第1表に示す条件で低温水蒸気改質を行ない、メタンを製造した。
【0033】
第 1 表
反応温度(入口) 490℃(断熱)
反応圧力 8kg/cm2・G
ナフサ流量 160cc/hr
触媒量 100cc
S/C 1.7
H2/ナフサ 0.1(モル比)
図4に結果を示す。図4において、曲線A-1は、反応開始直後の反応器内触媒層の温度プロフィールを示し、曲線A-2は、反応開始400時間後の反応器内触媒層の温度プロフィールを示す。
【0034】
本発明方法によれば、400時間経過後にも、改質触媒が十分に高い活性を維持し続けているので、反応開始直後と同様に、触媒層の入口で吸熱反応であるナフサの分解が起きて温度が下がり、引き続いて起こる発熱反応であるメタン化反応、CO変性反応等により、温度が上昇している。
【0035】
この様な改質触媒の高活性状態は、400時間経過後の触媒上の各位置における炭素析出量(反応器入口においてのみ0.4wt.%以下)及び硫黄析出量(反応器入口においても螢光X線分析の検出限界以下)によっても裏付けられている。従って、本発明によれば、炭素析出防止の為の大量の水素又は水蒸気を必要とせず、改質触媒の消耗量が大巾に低下し、必要触媒量も減少して反応器の小形化が可能となる。
【0036】
比較例1
硫黄含有量100ppmのナフサを、常法にしたがって、まずNi-Mo系水添脱硫触媒の存在下に温度380℃、圧力10kg/cm2・G、LHSV=2、水素/ナフサ=0.1(モル比)の条件下に水添分解した後、ZnO系吸着脱硫剤に接触させて、一次吸着脱硫した。得られた一次脱硫ナフサ中の硫黄濃度は、約2ppmmであった。
【0037】
かくして得た一次脱硫ナフサを実施例1と同様にして、水蒸気改質に供した。
【0038】
結果は、図5に示す通りである。図5において、曲線B-1は、反応開始直後の反応器内触媒層の温度プロフィールを示し、曲線B-2は、反応開始200時間後の反応器内触媒層の温度プロフィールを示す。
【0039】
曲線B-1から明らかな様に、反応開始直後には、改質触媒が十分に活性を有しているので、触媒層の入口で吸熱反応であるナフサの分解が起きて温度が下がり、その後引き続いて起こる発熱反応であるメタン化反応、CO変性反応等により温度は上昇している。
【0040】
これに対し、曲線B-2から明らかな様に、200時間経過後には、改質触媒はほぼ完全に失活しており、吸熱反応及び発熱反応による触媒層の温度変化も認められず、一次脱硫ナフサが未反応のまま改質反応器から出てくる。
【0041】
この様な改質触媒の失活状態は、200時間経過後の触媒上の各位置における炭素析出量(触媒重量に対する%)を示す曲線B-3及び硫黄析出量(触媒重量に対する%)を示す曲線B-4によっても裏付けられている。
【0042】
この様な大量の炭素析出は、触媒の細孔を閉塞して、触媒活性低下の原因となるのみならず、触媒の粉化延いては反応器の閉塞、差圧の増大の原因ともなる。従って、これらは、長時間の運転を行うためには、極力防止すべき事項であり、一般に大量の水蒸気又は水素を使用してその防止を図っている。
【0043】
実施例2
実施例1で使用したものと同様の水蒸気改質触媒を予め硫黄被毒させ又はさせることなく、実施例1と同様の水蒸気改質に使用した。夫々の触媒の詳細は、以下の通りである。
【0044】
触媒I…硫黄被毒なし
触媒II…硫黄付着量0.05wt.%
触媒III…硫黄付着量0.2wt.%
結果を図6に示す。触媒Iを使用する場合には、300時間経過後にも、炭素の析出はほとんど認められなかったのに対し、触媒II及び触媒IIIの場合には、多量の炭素が析出した。このことは、少量の硫黄の触媒への付着が炭素析出を促進することを明らかにしている。従って、炭化水素の高次の脱硫を行った後、水蒸気改質を行う本発明は、触媒への炭素析出を効果的に防止し、以て改質触媒の寿命延長に大きく貢献するものである。
【0045】
実施例3
実施例1と同様にして高次脱硫吸着を行なったナフサを原料として使用し、S/Cを種々変える以外は実施例1と同様にして、水蒸気改質を行なった。反応器入口部におけるRu系触媒上の炭素析出量とS/Cとの関係を図7に曲線Cとして示す。
【0046】
図7から明らかなごとく、高次脱硫を終えたナフサを原料とする場合には、S/Cを0.7程度にまで低下させても、触媒上への炭素析出は実質的に生じない。
【0047】
これに対し、比較例1と同様にして得た一次脱硫ナフサを原料として同一条件により水蒸気改質を行う場合には、上記と同様の炭素析出防止効果を達成するために、運転初期においてもS/Cを1.5以上とする必要があり、さらに長期間安定して運転を行うためには、S/Cを2.5以上とする必要があった。
【0048】
実施例4
水蒸気改質用の触媒として最も一般的なNi系触媒(共沈法により製造、NiO濃度50wt.%)を使用する以外は、実施例3と同様にして精製ナフサの水蒸気改質を行った。反応器入口部におけるNi系触媒上の炭素析出量とS/Cとの関係を図7に曲線Dとして示す。
【0049】
炭素析出を安定して抑制するに必要なS/C=1.5という値は、高活性のRu系触媒を使用する場合に比べれば、高い。しかしながら、比較例1と同様にして得られた一次吸着脱硫ナフサを原料として使用する場合に必要とされるS/C=2以上(運転初期)に比べれば、かなり低く、更に長期間安定して運転するた杓に必要なS/C=3.5以上に比べると、かなり低い。
【0050】
実施例5
実施例1と同様にして得られた高次脱硫精製ナフサと比較例1と同様にして得られた一次脱硫精製ナフサとを夫々原料とし、且つ実施例1と同様なRu系触媒を充填した外熱式反応器(管径1.5インチ)を使用して、第2表に示す条件下にナフサの高温水蒸気改質を行った。
【0051】
2ppmの硫黄を含む一次脱硫精製ナフサを原料とする場合には、200時間後に触媒の活性が失われて、ほとんど全量のナフサが未反応のまま反応器外に出てきたのみならず、触媒層内に差圧が生じ始めた。また、反応器入口付近の触媒には、20wt.%以上もの大量の炭素の析出が認められた。
【0052】
一方、高次脱硫精製ナフサを原料とする場合には、400時間経過後にも、ナフサのスリップなどの活性劣化現象はみられず、また、触媒への炭素析出も認められなかった。
【0053】
第 2 表
反応温度 入口:400℃
出口:700℃
反応圧力 8kg/cm2・G
S/C 2.0
H2/ナフサ 0.1(モル比)
LHSV 1.2
触媒量 100cc
実施例6
実施例5と同様にしてナフサの高温水蒸気改質を第3表に示す条件下に行なった。
【0054】
高次脱硫精製ナフサを原料とする場合には、2000時間経過後にも、ナフサのスリップなどの活性劣化現象はみられず、また、触媒への炭素析出も認められなかった。
【0055】
一方、水添脱硫時のLHSVを1とする以外は比較例1と同様にして脱硫した一次脱硫精製ナフサ(硫黄含有量0.1ppm)を原料とする場合には、2000時間経過後には、触媒層での差圧が増大して運転が不可能となった。この際、大量の未反応ナフサが反応器外に出てきていた。また、このようにして使用した触媒を分析したところ、10〜20wt.%の炭素析出が認められた。
【0056】
第 3 表
反応温度 入口:400℃
出口:745℃
反応圧力 8kg/cm2・G
S/C 2.0
H2/ナフサ 0.1(モル比)
LHSV 2.0
触媒量 100cc
実施例7
実施例1と同様にして得られた高次脱硫精製ナフサと比較例1と同様にして得られた一次脱硫精製ナフサとをそれぞれ原料とし、流通式疑似断熱反応器(直径20mm)を使用して、実施例4で使用した市販Ni触媒の存在下に第4表に示す条件で水蒸気改質を行なった。
【0057】
第 4 表
反応温度 入口:490℃(断熱)
反応圧力 8kg/cm2・G
ナフサ流量 160cc/hr
触媒量 100cc
S/C 2.5
H2/ナフサ 0.1(モル比)
図8および図9にその結果を示す。
【0058】
図8において、曲線E-1および曲線E-2は、それぞれ反応開始直後と反応開始400時間後の反応器内触媒層の温度プロフィールを示す。高次脱硫精製ナフサを使用する場合には、実施例1におけると同様に、400時間経過後にも、温度プロフィールは変化せず、改質触媒は十分に高い活性を維持し続けている。従って、本発明によれば、Ni触媒を使用する場合にも、炭素析出防止のために従来使用されている様な大量の水素または水蒸気を必要せず、改質触媒の消耗量の低下、必要触媒量の減少による反応器の小型化が可能となる。
【0059】
一方、一次脱硫ナフサを使用した場合の結果は、図9に示す通りである。図9において、曲線F-1および曲線F-2は、それぞれ反応開始直後と反応開始400時間後の反応器内触媒層の温度プロフィールを示す。
【0060】
曲線F-1と曲線F-2との対比から明らかな様に、400時間後には、反応器入口付近の改質触媒が失活しており、吸熱反応および発熱反応による温度変化の領域が触媒層の出口の方向に移動している。また、この際、10wt.%以上の大量の炭素が析出しており、差圧の増大により、これ以上の運転の継続は不可能であった。
【0061】
実施例8
実施例1と同様にして得た高次脱硫精製ナフサを原料とし、市販Ni触媒(Ni濃度14wt.%、天然ガス用水蒸気改質触媒)を充填した外熱式反応器(管径1.5インチ)を使用して、第5表に示す条件下にナフサの高温水蒸気改質を行なった。
その結果、600時間経過後にもナフサのスリップなどの活性劣化現象は発生せず、また、触媒への炭素析出も認められなかった。
【0062】
第 5 表
反応温度 入口:490℃
出口:750℃
反応圧力 8kg/cm2・G
S/C 2.5
H2/ナフサ 0.1(モル比)
LHSV 1.0
触媒量 300cc
実施例9
硫黄含有量200ppmのコークス炉ガスを、常法に従って、まずNi-Mo系水添脱硫触媒の存在下に温度380℃、圧力8kg/cm2・G、GHSV100の条件下に水添分解した後、ZnO系吸着脱硫剤に接触させて、一次吸着脱硫した。得られた一次吸着脱硫コークス炉ガス中の硫黄化合物濃度は、約0.1ppmであった。
【0063】
一方、硝酸銅及び硝酸亜鉛を溶解する混合水溶液にアルカリ物質として炭酸ナトリウムを加え、生じた沈澱を洗浄及び濾過した後、高さ1/8インチ×直径1/8インチの大きさに打錠成形し、約300℃で焼成した。次いで、該焼成体(酸化銅50%、酸化亜鉛50%)100ccを充填した高次脱硫装置(脱硫層長さ30cm)に水素2%を含む窒素ガスを通じ、温度約200℃で還元した後、上記で得た一次吸着脱硫コークス炉ガス400リットル/hrを通じ、温度250℃、圧力8kg/cm2・Gの条件下に高次脱硫した。
【0064】
その結果、最終的に得られた精製ガス中の硫黄濃度は、10000時間の運転にわたり、0.1ppb以下であった。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施態様を示すフローチャートである。
【図2】本発明の他の実施態様を示すフローチャートである。
【図3】本発明のさらに他の実施態様を示すフローチャートである。
【図4】炭化水素の精製度が水蒸気改質に及ぼす影響を示すグラフである。
【図5】炭化水素の精製度が水蒸気改質に及ぼす影響を示すグラフである。
【図6】硫黄被毒程度の異なる触媒における水蒸気改質反応中の炭素析出量の経時変化を示すグラフである。
【図7】高温水蒸気改質におけるS/C(炭化水素中の炭素1モル当りの水蒸気のモル数)と触媒への炭素析出量との関係を示すグラフである。
【図8】炭化水素の精製度が水蒸気改質に及ぼす影響を示す他のグラフである。
【図9】炭化水素の精製度が水蒸気改質に及ぼす影響を示すさらに他のグラフである。
 
訂正の要旨 訂正の要旨
特許第2761636号の明細書を、訂正請求書に添付された訂正明細書のとおり、次のように訂正する。
(1)特許請求の範囲
特許請求の範囲に記載された請求項1〜3のうち、請求項1及び2を削除するとともに、請求項1及び2を引用する形式で記載された請求項3を、新たに独立した記載形式として請求項1及び請求項2とする。
これにより、訂正後の特許請求の範囲は次のとおりとなる。
「【請求項1】炭化水素を高次脱硫剤により硫黄含有量を1vol.ppb以下に脱硫した後、S/C(炭化水素中の炭素1モルあたりの水蒸気のモル数)=0.7〜3,5の条件下に水蒸気改質を行うことを特徴とする炭化水素の水蒸気改質方法。
【請求項2】炭化水素を高次脱硫剤により硫黄含有量を0.1vol.ppb以下に脱硫した後、S/C(炭化水素中の炭素1モルあたりの水蒸気のモル数)=0.7〜3.5の条件下に水蒸気改質を行うことを特徴とする炭化水素の水蒸気改質方法。」
(2)発明の詳細な説明
明細書【0010】欄に「水蒸気改質を行う」とあるのを、「S/C(炭化水素中の炭素1モルあたりの水蒸気のモル数)=0.7〜3.5の条件下に水蒸気改質を行う」と訂正する。
異議決定日 1999-07-22 
出願番号 特願平8-321361
審決分類 P 1 651・ 121- YA (C10G)
最終処分 維持  
前審関与審査官 船岡 嘉彦  
特許庁審判長 嶋矢 督
特許庁審判官 星野 浩一
胡田 尚則
登録日 1998-03-27 
登録番号 特許第2761636号(P2761636)
権利者 大阪瓦斯株式会社
発明の名称 炭化水素の水蒸気改質方法  
代理人 舘 泰光  
代理人 中川 博司  
代理人 大月 伸介  
代理人 関 仁士  
代理人 藤井 淳  
代理人 齋藤 健治  
代理人 三枝 英二  
代理人 鈴木 活人  
代理人 三枝 英二  
代理人 中野 睦子  
代理人 小原 健志  
代理人 掛樋 悠路  

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