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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  G11B
管理番号 1020397
異議申立番号 異議1998-74909  
総通号数 14 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-06-07 
種別 異議の決定 
異議申立日 1998-10-02 
確定日 1999-07-05 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2736869号「磁気ディスク基板の製造方法」の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 本件特許異議の申立てを却下する。 
理由 (1)手続の経緯
本件特許第2736869号の請求項2に係る発明は、平成6年11月16日に特許出願され、平成10年1月16日にその特許の設定登録がなされ、その後、大関隆久より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内に訂正請求がなされ、これに対して訂正拒絶理由通知がなされ、その指定期間内に訂正請求の補正がなされたものである。
(2)訂正の適否についての判断
ア.訂正請求に対する補正の適否について
当該訂正請求に対する補正は、訂正請求書の請求項2を削除し、請求項3〜5を請求項2〜4に繰り上げ、新請求項2について、従属形式(旧請求項2の)から独立形式に改めると共に、これに伴い明細書の記載を整合させたものであって、訂正請求書の要旨を変更するものではないから、特許法第120条の4第3項において準用する同法第131条第2項の規定に適合する。
イ.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
特許権者が求めている訂正の内容は次のA〜Cのとおりである。
A、特許請求の範囲の請求項2を削除する訂正。
B、上記Aの訂正に伴い請求項3〜5を請求項2〜4に繰り上げると共に、新請求項2について、従属形式(旧請求項2の)から独立形式に改めるための訂正。
C、上記A、Bの訂正に伴い明細書の記載を整合させるための訂正。
上記Aの訂正は、特許請求の範囲の減縮に該当し、上記B、Cの訂正は、明瞭でない記載の釈明に該当する。そして、上記A〜Cのいずれの訂正も新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
オ.むすび
以上のとおりであって、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項で準用する第126条第2〜4項の規定に適合するものであるから、当該訂正を認める。
(3)特許異議申立てについての判断
請求項2に係る発明は、訂正の結果削除されたので、特許異議の申立ての対象が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
磁気ディスク基板の製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 結晶相が二珪酸リチウム(Li2O・2SiO2)およびα-クオーツ(α-SiO2)であって、該α-クオーツの成長結晶粒子がそれぞれ凝集した複数の粒子からなる球状粒子構造を有しており、該球状粒子は0.3μm〜3.0μmの範囲内の径を有する結晶化ガラスを該球状粒子の粒子径よりも小さな砥粒径の研磨材で研磨することを特徴とする磁気ディスク基板の製造方法。
【請求項2】 平均粒子径が3μm以下の球状粒子が分散してなる結晶相を有する結晶化ガラスを該球状粒子の粒子径とほぼ等しいかまたはこれよりも大きな砥粒径の研磨材で研磨した後該球状粒子の粒子径よりも小さな砥粒径の研磨材で研磨する磁気ディスク基板の製造方法において、該結晶化ガラスは、結晶相が二珪酸リチウム(Li2O・2SiO2)およびα-クオーツ(α-SiO2)であって、該α-クオーツの成長結晶粒子がそれぞれ凝集した複数の粒子からなる球状粒子構造を有しており、該球状粒子は0.3μm〜3.0μmの範囲内の径を有することを特徴とする磁気ディスク基板の製造方法。
【請求項3】 該結晶化ガラスは、重量百分率で、SiO265〜83%、Li2O 8〜13%、K2O 0〜7%、MgO 0.5〜5.5%、ZnO0〜5%、PbO 0〜5%ただし、MgO+ZnO+PbO 0.5〜5.5%、P2O51〜4%、Al2O30〜7%、As2O3+Sb2O30〜2%を含有するガラスを熱処理することにより得られることを特徴とする請求項1または2記載の磁気ディスク基板の製造方法。
【請求項4】 該球状粒子の粒子径よりも小さな砥粒径の研磨材はコロイダルシリカであることを特徴とする請求項1、2または3記載の磁気ディスク基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、研磨後の表面特性が改善された結晶化ガラスからなる磁気ディスク基板の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
磁気ディスクは大型コンピューター、パーソナルコンピューター等の外部記憶媒体として近年需要が増大しているため、その開発が急速に進んできている。一般的にこの磁気ディスク用基板材には、次のような特性が要望される。すなわち
(1)磁気ディスクの始動/停止(CSS)特性において、ディスクの表面粗度(Ra)が15Å以下の滑らかな表面では、高速回転で起る接触抵抗の増大にともなうヘッドとディスクの吸着が発生するため、表面粗度(Ra)は15Å以上であること、さらに表面粗度(Ra)が50Å以上の粗い表面では、ヘッドの損傷やメディアの破壊を発生する為、表面粗度(Ra)は50Å以下である制御された表面特性を有すること。
【0003】
(2)磁気ディスクの記録密度向上のため、グライド高さ(磁気ディスク表面との間隔)が低減の方向にあり、ディスク表面は、所望のグライド高さを可能にする程度に平坦かつ平滑であること。
【0004】
(3)磁気ディスク用基板材は、材料に結晶異方性、欠陥がなく組織が緻密で均質、微細であること。
【0005】
(4)高速回転やヘッドの接触に十分耐える機械的強度、硬度を有すること。
【0006】
(5)材料中にNa2O成分を含有するとNaイオンが成膜工程中に拡散し、膜の特性が悪化するため、基本的にNa2O成分を含有しないこと。
【0007】
(6)種々の薬品による洗浄やエッチングに耐え得る化学的耐久性を有すること。
【0008】
従来磁気ディスク基板材には、アルミニウム合金が使用されているが、アルミニウム合金基板では、種々の材料欠陥の影響により、研磨工程における基板表面の突起またはスボット状の凹凸を生じ、平坦性、表面粗度の点で十分でなく、今日の情報量のより一層の増大にともなう高密度記録化に対応できない。
【0009】
さらにアルミニウム合金板の問題点を解消する材料として化学強化ガラス等の磁気ディスク用ガラス基板が各種知られているが、この場合、
(1)研磨は化学強化後に行われ、ディスクの薄板化における強化層の不安定要素が高い。
【0010】
(2)基板には始動/停止(CSS)特性向上のためのメカニカルテクスチャーまたは、ケミカルテクスチャーを行う必要があり、製品の低コスト安定量産性が難しい欠点がある。
【0011】
(3)ガラス中にNa2O成分を必須成分として含有するため、成膜特性が悪化し、表面コート処理等が必要となる。また化学強化ガラスや結晶化ガラスにおいて始動/停止(CSS)特性向上のテクスチャー処理の問題点を解消する手段として研磨工程での表面を荒らす技術が近年行われているが、やはりこの技術もテクスチャー処理と同様に安定量産性に対しては不十分である。
【0012】
そこで、アルミニウム合金基板や化学強化ガラス基板に対して前記のような要求のいくつかを満たす結晶化ガラスが多数知られている。例えば、特開昭60-229234号公報記載のSiO2-Al2O3-Li2O系結晶化ガラスは、β-石英固溶体またはβ-スポジュメン固溶体を析出させ結晶粒径が約0.1〜1.0μmの粒状のものであり、また、特開昭62-72547号公報記載のSiO2-Li2O系結晶化ガラスは、主結晶として二珪酸リチウムおよびメタ珪酸リチウムを析出させ、それぞれ結晶粒径が二珪酸リチウムは約0.3〜1.5μmの板状およびメタ珪酸リチウムは0.3〜0.5μmの粒状のものである。また、米国特許第3,231,456号公報には、SiO2-Li2O-P2O5-MgO系ガラスにCuO、SnO成分を含有させ、主結晶相として二珪酸リチウム、副結晶としてα-クオーツが析出し得る結晶化ガラスが開示されている。
【0013】
また、米国特許第3,977,857号公報には、金属接着用結晶化ガラスとして金属部材に直接接着するために適当なSiO2-Li2O-MgO-P2O5-(Na2O+K2O)系結晶化ガラスが開示されている。この米国特許公報には得られる結晶化ガラスの主結晶相はLi2O・2SiO2であることが記載されている。
【0014】
特開昭63-210039号公報には磁気ヘッド用基板として好適なSiO2-Li2O-MgO-P2O5系結晶化ガラスが開示されている。この公報には、得られる結晶化ガラスの主結晶相はLi2O・2SiO2とα-クリストバライトであることが記載されている。
【0015】
上記従来のLi2O-SiO2系結晶化ガラス(特開昭62-72547号公報、米国特許第3,231,456号公報、米国特許第3,977,857号公報および特開昭63-210039号公報)においては、析出する結晶相は主結晶相としてのLi2O・2SiO2と副結晶相としての小量のSiO2(α-クリストバライトまたはα-クオーツ)である。これら従来の結晶化ガラスにおいて主たる機能を発揮するのは主結晶相であるLi2O・2SiO2結晶相でありα-クオーツまたはα-クリストバライト結晶相ではない。これら従来の結晶化ガラスは、研磨後の結晶化ガラス自身に内在する表面特性として、磁気ディスクの始動/停止(CSS)特性にとって必要な15Å〜50Åの表面粗度を提供することができない。このため、磁気ディスク基板材として必要な始動/停止(CSS)特性を向上させるために研磨加工後に結晶化ガラスの表面を粗くするためのなんらかのテクスチュア処理工程を施すことが必要不可欠であり、このため上記必要な諸特性を備えた磁気ディスクを低コストで量産することを妨げている。
【0016】
そこで、本出願人は、前記従来技術にみられる欠点を解消し、析出結晶の結晶構造および結晶粒子を制御することにより研磨による表面特性に一段と優れた結晶化ガラスからなる磁気ディスク基板およびその製造方法を提供することを目的として研究を重ねた結果、SiO2-Li2O-P2O5系においてMgO成分を必須成分とし厳密に限られた熱処理温度範囲で得られた結晶化ガラスは、その結晶相が二珪酸リチウム(Li2Si2O5)の均一に析出した相にα-クオーツ(α-SiO2)の凝集球状粒子がランダムに析出した微細構造を取り、この微細構造は、機械的、化学的に不安定な二珪酸リチウム(Li2Si2O5)相と、機械的、化学的に安定なα-クオーツ(α-SiO2)の凝集球状粒子の構成から成り、研磨加工で生じる機械的、化学的作用に対応し表面の凹凸を生成することを見い出し、かつα-クオーツ(α-SiO2)の凝集球状粒子サイズを制御することにより研磨して成る表面特性の優れた磁気ディスク基板が得られることを見い出した。
【0017】
すなわち、上記本出願人の開発した磁気ディスク基板は、平成6年10月7日出願の特願平6年第270647号にかかるものであって、結晶化ガラスの結晶相が二珪酸リチウム(Li2O・2SiO2)およびα-クオーツ(α-SiO2)であって、該α-クオーツの成長結晶粒子がそれぞれ凝集した複数の粒子からなる球状粒子構造を有しており、該球状粒子は0.3μm〜3.0μmの範囲内の径を有する結晶化ガラスからなり、磁気ディスク基板の研磨してなる表面の粗度(Ra)が15Å〜50Åの範囲内にあることを特徴とするものである。上記磁気ディスク基板は、重量百分率で、SiO265〜83%、Li2O 8〜13%、K2O 0〜7%、MgO 0.5〜5.5%、ZnO 0〜5%、PbO 0〜5%ただし、MgO+ZnO+PbO0.5〜5.5%、P2O51〜4%、Al2O3 0〜7%、As2O3+Sb2O3 0〜2%を含有するガラスを熱処理することにより得られる。
【0018】
【発明が解決しようとする課題】
磁気ディスクの始動/停止(CSS)特性においてディスクの表面粗度(Ra)が15Å〜50Åの範囲内にあることが必要であり、本出願人の開発した上記結晶化ガラスはなんらの機械的または化学的テクスチャーを行うことなく上記15Å〜50Åの範囲内の表面粗度を研磨のみによって得られるものであるが、磁気ディスクの記録密度向上のためのグライド高さの低減は、研磨により上記15Å〜50Åの表面粗度を達成すれば自動的に同時に達成されるものではない。
【0019】
グライド高さは磁気ディスク基板の表面粗度および表面うねり(Wa)に関連して決定され、それぞれの特性を示す値が小さい方がグライド高さが低くなる。現在グライド高さの限界値を示す指標としてGABP(glide avalanche break point、単位はμ″(マイクロインチ)が用いられており、現在磁気ディスク基板に求められているGABPは1.0μ″〜1.5μ″程度であるが、高密度記録に対する要求が今後一そう高まるにつれ、より小さいグライド高さが要求される傾向が大である。
【0020】
しかるに、従来結晶化ガラスの研磨は一般的に光学ガラスの研磨に用いられる粒子径1〜2μm程度の酸化セリウム研磨材等の研磨材を使用して行われているが、本出願人の開発にかかる上記結晶化ガラスの場合、この研磨方法によれば、15Å〜50Åの範囲内の表面粗度を達成することはできるが、グライド高さとしてはGABP 0.8μ″以上のグライド高さしかうることができず、0.8μ″以下のグライド高さを達成することは困難であり、将来のグライド高さ低減に対する要請に対処することが困難であることが判った。
【0021】
本発明は、結晶化ガラスを研磨することによって高密度記録のために要求される非常に小さいグライド高さを達成する上で生じる上記問題点にかんがみなされたものであって、将来の一層のグライド高さ低減に対する要請に対処することができる結晶化ガラスからなる磁気ディスク基板の製造方法を提供しようとするものである。
【0022】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意試験と研究を重ねた結果、平均粒子径が3μm以下の球状粒子が分散してなる結晶相を有する結晶化ガラスを該球状粒子の粒子径よりも小さな砥粒径の研磨材で研磨すると、表面に均一な高さの球状粒子の突起を有し、表面うねりが著るしく小さい結晶化ガラスからなる磁気ディスク基板が得られ、この結果従来の一般的研磨方法により得られる磁気ディスク基板に比べてグライド高さが小さい磁気ディスク基板が得られることを発見し、本発明に到達した。
【0023】
すなわち、上記本発明の目的を達成する磁気ディスク基板の製造方法は、平均粒子径が3μm以下の球状粒子が分散してなる結晶相を有する結晶化ガラスを該球状粒子の粒子径よりも小さい砥粒径の研磨材で研磨することを特徴とするものである。
【0024】
一般的に結晶化ガラスの研磨後の表面には、含まれる結晶相同志やガラス相との磨耗性の差異により微細な凹凸を生じる。また含まれる結晶の大きさや形状により表面の構造が異なる。
【0025】
本出願人の開発にかかる上記結晶化ガラスは、物理的、化学的に二珪酸リチウム(Li2O・28iO2)よりも本質的に強いα-クオーツの凝集した複数の小粒子からなる球状粒子が物理的、化学的に弱い二珪酸リチウムの結晶粒子中にランダムに析出してなる特定の結晶構造を有しており、この結晶構造のために、研磨工程において二珪酸リチウムの結晶粒子はα-クオーツの球状粒子よりも迅速に研削され、その結果研磨工程が進行するにつれて、α-クオーツの球状粒子が二珪酸リチウムの結晶粒子の表面に比較的に顕著に突出することにより、15Å〜50Åという理想的な範囲の表面粗度(Ra)が得られる。この表面粗度は酸化セリウム研磨材等一般に使用される研磨材によって研磨を行うことによって充分に得ることができる。
【0026】
しかしながら、上記結晶化ガラスにおいて、α-クオーツの球状粒子の径がたとえば0.5μmの場合たとえば平均砥粒径1.2μmの通常の酸化セリウム研磨材を用いて研磨すると、砥粒径が球状粒子径よりも大きい状態で研磨されることになる。この場合基板表面を砥粒が粗く削るため、α-クオーツの突起の高さが不均一となり、基板表面のうねりは比較的大きい状態で残ることが判った。
【0027】
本発明によれば、球状粒子の粒子径よりも小さな砥粒径(たとえば上記の設例の場合0.5μm以下)の研磨材を用いて研磨することにより、球状粒子が表面にほぼ均一の高さで突出し、かつ各球状粒子の間の部分が平坦に研磨される結果表面うねりが小さくなり、したがってより小さいグライド高さが得られる。
【0028】
使用される研磨材は、砥粒の粒子径が球状粒子の粒子径よりも小さければ良く、特に限定はない。使用可能な研磨材としては、酸化セリウム、コロイダルシリ力、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化クロム、炭化珪素等を挙げることができるが、特にコロイダルシリ力は砥粒径が他の研磨材に比べ著るしく小さいので好適である。
【0029】
本発明の方法においては、砥粒径が球状粒子径よりも小さい研磨材のみを用いて結晶化ガラスを研磨してもよいが、研磨に多大の時間を要し、またコロイダルシリカ等の研磨材は高価でありコスト的にも不利であるので、最初に球状粒子の粒子径とほぼ等しいかまたはこれよりも大きな砥粒径の研磨材(上記の設例の場合砥粒径1.2μmの酸化セリウム研磨材)を用いて第一次研磨を行い、次に球状粒子の粒子径よりも小さな砥粒径の研磨材(たとえば砥粒径0.08μmのコロイダルシリカ)を用いて第二次研磨を行うことが好ましい。
【0030】
本発明が適用されるもつとも好適な結晶化ガラスは、本出願人の開発にかかる上記結晶化ガラスである。すなわち、本発明の一側面において、結晶化ガラスは、結晶相が二珪酸リチウム(Li2O・2SiO2)およびα-クオーツ(α-SiO2)であって、該α-クオーツの成長結晶粒子がそれぞれ凝集した複数の粒子からなる球状粒子構造を有しており、該球状粒子は0.3μm〜3.0μmの範囲内の径を有するものである。
【0031】
この結晶化ガラスは、好ましい一態様において、重量百分率で、SiO265〜83%、Li2O 8〜13%、K2O 0〜7%、MgO 0.5〜5.5%、ZnO 〜5%、PbO 0〜5%ただし、MgO+ZnO+PbO 0.5〜5.5%、P2O51〜4%、Al2O30〜7%、As2O3+Sb2O30〜2%を含有するガラス熱処理することにより得られることを特徴とするものである。
【0032】
実験を重ねた結果、本出願人の開発にかかる上記結晶化ガラスの場合、表面うねり(Wa)と表面粗度(Ra)の比Wa/Raが0.5以下であるとき、GABPが0.8μ″以下の好ましいグライド高さが得られることが実験的に判明した。したがって本発明の好ましい実施態様においてはWa/Raは0.5以下である。
【0033】
本発明にかかる方法は、本出願人の開発にかかる上記結晶化ガラスからなる磁気ディスク基板の製造に適用することができる。
【0034】
本出願人の開発にかかる上記結晶化ガラスを製造するための原ガラスとして種々の組成のものが使用可能であるが、以下にその好ましい一例について説明する。
【0035】
磁気ディスク基板を構成する結晶化ガラスの組成は、原ガラスと同様酸化物基準で表示し得る。上記好ましい一実施態様において原ガラスの組成を上記特定の範囲に限定した理由について以下に述べる。
【0036】
SiO2成分は、原ガラスの熱処理により、結晶相としてα-クオーツ(α-S1O2)および二珪酸リチウム(Li2O・2SiO2)を生成するきわめて重要な成分であるが、その量が65%未満では、得られる結晶化ガラスの析出結晶不安定で組織が粗大化しやすく、また、83%を超えると原ガラスの溶融が困難になる。実験の結果、特に好ましい範囲は70〜82%であることが判った。
【0037】
Li2O成分は、ガラスの加熱処理により結晶相として二珪酸リチウム(Li2O・2SiO2)を生成する重要な成分であるが、その量が8%未満では、上記結晶の析出が困難となると同時に、原ガラスの溶融が困難となり、また、13%を超えると得られる結晶化ガラスの析出結晶が不安定で組織が粗大化しやすいうえ、化学的耐久性および硬度が悪化する。特に好ましい範囲は8〜11%である。
【0038】
K2O成分はガラスの溶融性を向上させる成分であり、7%まで含有させることができる。特に好ましい範囲は1〜6%である。
【0039】
MgO成分は、本発明において主結晶相としてのα-クオーツ(α-SiO2)の結晶を凝集した球状粒子としてガラス中に全体にランダムに析出させることが見い出された重要な成分であるが、その量が0.5%未満では上記効果が得られず、また5.5%を超えると所望の結晶が析出し難くなる。特に好ましい範囲は1〜5%である。
【0040】
またZnOおよびPbO成分もMgOと同等の効果があるので添加し得るが、その量が各々5%を超えると所望の結晶が析出し難くなる。ZnOの特に好ましい範囲は0.2〜5%である。
【0041】
ただし上記MgO、ZnOおよびPbO成分の合計量は、同様の理由で0.5〜5.5%とすべきである。
【0042】
P2O5成分は本発明において、ガラスの結晶核形成剤として不可欠であるが、その量が1%未満では、所望の結晶を生成させることができず、また4%を超えると得られる結晶化ガラスの析出結晶が不安定で粗大化しやすいうえ、原ガラスの失透性が悪化する。特に好ましい範囲は1〜3%である。
【0043】
Al2O3成分は、結晶化ガラスの化学的耐久性を向上させる有効な成分であるがその含有量が7%を超えると溶融性が悪化し、主結晶としてのα-クオーツ(α-SiO2)の結晶析出量が低下する。特に好ましい範囲は1〜6%である。
【0044】
As2O3および/またはSb2O3成分は、ガラス溶融の際の清澄剤として添加し得るが、これらの1種または2種の合計量は2%以下で十分である。
【0045】
なお、本発明においては、使用するガラスに上記成分の他に所望の特性を損なわない範囲で少量のB2O3、CaO、SrO、BaO、TiO2、SnO2およびZrO2の各成分を含有させることができる。
【0046】
上記組成範囲の原ガラスから磁気ディスク基板を製造するには、上記の組成を有するガラスを溶解し、熱間成形および/または冷間成形を行った後450〜540℃の範囲の温度で約1〜5時間熱処理して結晶核を形成し、続いて700〜840℃の範囲の温度で約1〜5時間熱処理して結晶化を行う。
【0047】
核形成温度が450℃未満ではP2O5による分相によってひき起される核形成が不充分であり、一方核形成温度が540℃を超えると、結晶核として析出するLi2O・SiO2の微結晶が均一に析出しないのと同時に粗大な結晶核となるため、その後析出するα-クオーツの凝集粒子を分散させα-クオーツを単一粒子としてしまう。
【0048】
また、結晶化温度はMgO成分の効果と相いまってα-クオーツ(α-SiO2)の結晶を凝集した球状粒子の球状構造の制御に重要な温度であるが、その温度が700℃未満では、α-クオーツ(α-SiO2)結晶が充分に析出し難く、また、840℃を超えるとα-クオーツ(α-SiO2)の凝集した粒子の球状構造を保つことができなくなり、上記効果が得られなくなる。
【0049】
次にこの結晶化ガラスを常法によりラッピングした後球状粒子の粒子径よりも小さな砥粒径の研磨材で結晶化ガラスの表面を研磨することにより、表面粗度が15Å〜50Åでかつ表面うねり(Wa)と表面粗度(Ra)の比Wa/Raが0.5以下、GABPが0.8μ″以下の表面特性を有する磁気ディスク基板が得られる。
【0050】
本発明の好ましい実施態様においては、まず球状粒子の粒子径よりも大きな砥粒径の研磨材で第一次研磨を行った後球状粒子の粒子径よりも小さな砥粒径の研磨材で第二次研磨を行う。
【0051】
研磨は公知のポリッシャーを用いて一般に使用する片面もしくは両面研磨用の装置等により常法により行うことができる。
【0052】
【実施例】
次に本発明の好適な実施例について説明する。なおガラスの組成は重量%で示す。
【0053】
実施例I
SiO276.7%、Li2O 10.5%、Al2O33.8%、MgO2.5%、ZnO 0.5%、K2O 4.0%、P2O5 2.0%、As2O3 0.5%の組成からなる原料を混合し、これを通常の溶融装置を用いて約1350〜1500℃の温度で溶融し、攪拌均質化した後所望の形状に成形して冷却し、ガラス成形体を得た。その後これを540℃で約5時間熱処理して結晶核形成後、780℃の結晶化温度で約2時間保持することにより、結晶相が二珪酸リチウム(Li2O・2SiO2)およびα-クオーツ(α-SiO2)であって、該α-クオーツの成長結晶粒子がそれぞれ凝集した複数の粒子からなる球状粒子構造を有する結晶化ガラスを得た。α-クオーツの球状粒子の平均粒子径は電子顕微鏡観察によると1.2μmであった。この成形体を平均粒径11.5μmのGC砥粒で約60分間ラッピングした。
【0054】
両面研磨用装置の回転定盤上に不織布製硬質研磨布を装着した後上記ラッピングした結晶化ガラス成形体を取付け、回転定盤を回転させて、平均砥粒径1.2μmの酸化セリウム砥粒を水で20重量%の濃度で懸濁させたスラリー(pH7.4)を試料1枚当り3リットル/分で供給しながら120g/cm2の研磨荷重で70分間研磨した。
【0055】
次に平均砥粒径0.08μmのシリカを40重量%含有するコロイダルシリカ(pH9.5)を試料1枚当り0.2リットル/分で供給しながら60g/cm2の研磨荷重で5分間研磨して磁気ディスク基板とした。
【0056】
この磁気ディスク基板の平均表面粗度(Ra)、最大表面粗度(Rp)、および平均表面うねり(Wa)を触針式のTencor-P2表面粗さ計を使用して測定したところ、Ra 18Å、Rp 127Å1Wa 9Åであった。、このときの表面プロファイルを図1に示す。図1(a)は表面粗度を、図1(b)は表面うねりを示すものである。
【0057】
この磁気ディスク基板を真空状態で加熱した後スパッタリングによりクロームの中間層、コバルト合金の磁性層、炭素の保護層を成膜し、その上に潤滑材層の塗布を行うことにより磁気ディスクを製造した。この磁気ディスクのGABPを日立電子エンジニアリング社製RX-2000型グライドテスターを使用して測定したことろ0.61μ″であった。
【0058】
実施例2
SiO2 75.7%、Li2O 11.0%、Al2O3 3.3%、MgO 3.0%、ZnO 0.5%、K2O 4.0%、P2O5 2.0%の組成からなる原料を混合し、これを通常の溶融装置を用いて約1350〜1500℃の温度で溶融し、攪拌均質化した後所望の形状に成形して冷却し、ガラス成形体を得た。その後これを540℃で約5時間熱処理して結晶核形成後、740℃の結晶化温度で約6時間保持することにより、結晶相が二珪酸リチウム(Li2O・2SiO2)およびα-クオーツ(α-SiO2)であって、該α-クオーツの成長結晶粒子がそれぞれ凝集した複数の粒子からなる球状粒子構造を有する結晶化ガラスを得た。α-クオーツの球状粒子の平均粒子径は電子顕微鏡観察によると0.6μmであった。この成形体に対し実施例1と同一方法によりラッピングおよび研磨処理を行い、磁気ディスク基板を製造した。この磁気ディスク基板はRa 30Å、Rp 171Å、Wa 13Åであった。このときの表面プロファイルを図2に示す。図2(a)は表面粗度を、図2(b)は表面うねりを示すものである。
【0059】
この磁気ディスク基板に対し実施例1と同様の成膜処理を行い磁気ディスクを製造してGABPを測定したところ、0.80μ″インチであった。
【0060】
比較例1
研磨工程において実施例1と同一の平均砥粒径1.2μmの酸化セリウム研磨材のみを使用して実施例1と同一研磨で研磨を行った以外は実施例1と同一方法により磁気ディスク基板を製造した。この磁気ディスク基板はRa 19Å、Rp 116Å、Wa 12Åであった。このときの表面プロファイルを図3に示す。図3(a)は表面粗度を、図3(b)は表面うねりを示すものである。
【0061】
この磁気ディスク基板に対し実施例1と同様の成膜処理を行い磁気ディスクを製造してGABPを測定したところ0.85μ″であった。
【0062】
比較例2
研磨工程において実施例2と同一の平均砥粒径1.2μmの酸化セリウム研磨材のみを使用して実施例2と同一研磨で研磨を行った以外は実施例2と同一方法により磁気ディスク基板を製造した。この磁気ディスク基板はRa 32Å、Rp 162Å、Wa 19Åであった。このときの表面プロファイルを図4に示す。図4(a)は表面粗度を、図4(b)は表面うねりを示すものである。
【0063】
この磁気ディスク基板に対し実施例2と同様の成膜処理を行い磁気ディスクを製造してGABPを測定したところ0.99μ″であった。
【0064】
各実施例と各比較例の比較
上記実施例1,2と比較例1,2のRa、Rp、Wa、GABPおよびWa/Raをまとめて表1に示す。
【0065】

【0066】
表1から、Wa/Raは実施例1,2においてはいずれも0.5以下であるのに対し、比較例1,2においては0.5を越えており、このときの実施例1,20GABPは0.8μ″以下であるのに対し比較例1,2のGABPは0.8μ″を越えていることが判る。
【0067】
また実施例1および比較例1の研磨後の表面のAFM(Atomic Force Microscope)による三次元立体像を示す写真を図5および図6として示す。これらの写真から明らかなように、実施例1においてはα-クオーツの各球状粒子は二珪酸リチウム結晶相の表面にほぼ均一1高さで突出し、しかも各α-クオーツ球状粒子の間の谷間となる二珪酸リチウム結晶相の表面はおおむね平坦に研磨されているのに対し、比較例1においては、α-クオーツ球状粒子の突起の高さは不均一であり、また二珪酸リチウム結晶相の表面は微小なうねりが形成されていることが判る。
【0068】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明によれば、結晶化ガラスの球状粒子の粒子径よりも小さな砥粒径の研磨材を用いて研磨することにより、球状粒子が表面にほぼ均一の高さで突出し、かつ各球状粒子の間の部分が平坦に研磨される結果、表面うねりが小さくなり、GABP 0.8μ″以下のきわめて小さいグライド高さを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の1実施例の結晶化ガラス磁気ディスクの基板の研磨後のプロファイルを示すグラフである。
【図2】
本発明の他の実施例の結晶化ガラス磁気ディスク基板の研磨後のプロファイルを示すグラフである。
【図3】
1比較例の結晶化ガラス磁気ディスク基板の研磨後のプロファイルを示すグラフである。
【図4】
他の比較例の結晶化ガラス磁気ディスク基板の研磨後のプロファイルを示すグラフである。
【図5】
本発明の上記1実施例の研磨後のAFMによる三次元立体像を示す写真である。
【図6】
上記1比較例の研磨後のAFMによる三次元立体像を示す写真である。
 
訂正の要旨 訂正の要旨
A、請求項2を削除する訂正。
B、請求項2の削除に伴い、明瞭でない記載の釈明を目的として、請求項3〜5を請求項2〜4に繰り上げると共に、新請求項2について、従属形式(旧請求項2の)から独立形式に改めるための訂正。
C、特許請求の範囲の訂正に伴い、明瞭でない記載の釈明を目的として明細書の記載を整合させるための訂正。
異議決定日 1999-06-14 
出願番号 特願平6-306840
審決分類 P 1 652・ 121- XA (G11B)
最終処分 決定却下  
前審関与審査官 北岡 浩小林 秀美  
特許庁審判長 内藤 照雄
特許庁審判官 岡本 利郎
今井 義男
登録日 1998-01-16 
登録番号 特許第2736869号(P2736869)
権利者 株式会社オハラ
発明の名称 磁気ディスク基板の製造方法  
代理人 坂本 徹  
代理人 坂本 徹  
代理人 福留 正治  
代理人 原田 卓治  
代理人 原田 卓治  

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