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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01F
管理番号 1020563
異議申立番号 異議1999-70363  
総通号数 14 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-04-22 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-02-05 
確定日 2000-07-17 
異議申立件数
事件の表示 特許第2784386号「磁性多層膜」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2784386号の請求項1ないし4に係る特許を取り消す。 
理由
1.手続の経緯
特許第2784386号の発明は、平成5年1月18日(優先権主張平成4年8月14日)の出願であって、平成10年5月29日にその発明について特許の設定登録がなされ、その後異議申立人保田博志より特許異議の申立がなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成11年8月10日に特許異議意見書が提出されたものである。
2.請求項1ないし4に係る発明
特許第2784386号の請求項1ないし4に係る発明は、それぞれ、特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された次のとおりのものと認められる。
「【請求項1】基板上に、磁性体と非磁性絶縁体とを交互に積層してなる磁性多層膜において、磁性体が磁歪を有し、前記磁性多層膜がストライプ形状に加工されることにより長辺方向と短辺方向とに応力差を生じて膜応力の異方性を有することを特徴とする磁性多層膜。
【請求項2】請求項1記載の磁性多層膜が、1本あるいは複数本の、直線状あるいは蛇行状に曲がったあるいはジグザグ状に曲がったストライプ形状を成すことを特徴とする磁性多層膜。
【請求項3】磁性体の磁歪定数の絶対値が10-6以上であることを特徴とする請求項1あるいは請求項2に記載の磁性多層膜。
【請求項4】磁性多層膜を強磁性共鳴周波数以下の周波数帯域で使用する場合、磁性体の厚さが強磁性共鳴周波数における表皮深さ以下であり、非磁性絶縁体の厚さが前記磁性体間の電気的絶縁を保ち得る厚さ以上であることを特徴とする請求項1あるいは請求項2あるいは請求項3に記載の磁性多層膜。」
3.申立ての理由の概要
申立人保田博志は、本件の特許請求の範囲は、特許を受けようとする発明の構成に欠くことのできない事項のみが記載されたものではないから、本件発明の特許はその明細書が特許法第36条に規定する要件を満たしていない出願に対してなされたものであり取り消されるべきものであり、また、証拠として甲第1号証刊行物(電気学会研究会資料、1992年7月23日社団法人電気学会発行、第89〜96頁「MHz-GHz帯におけるCoZrNb/SiO2多層膜の高周波磁気特性」論文)、甲第2号証刊行物(日本応用磁気学会誌、1983年、第7巻第2号、第99〜102頁「薄膜磁気ヘッド用パーマロイ膜の透磁率と磁歪定数」論文)、甲第3号証刊行物(日本応用磁気学会誌、1987年、第11巻第2号、第91〜94頁「薄膜磁気ヘッド用多層パーマロイ膜の磁区構造」論文)、甲第4号証刊行物(IEEE TRANSACTIONS ON MAGNETICS, Vol.MAG-20, No.3, May 1984、第485〜488頁「Patterning Effect on Easy Axis Alignment in Permalloy Thin Film(パーマロイ薄膜の容易軸配列に及ぼすパターニングの影響)」論文)を提出し、本件請求項1〜4に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり取り消されるべきものである旨主張している。
4.引用刊行物記載の発明
当審が通知した取消理由において引用した刊行物1(上記甲第1号証刊行物)には、高周波帯域で磁性体コアとして使用される磁性体/非磁性絶縁体多層膜が記載され、第90頁図1に示された直線状のストライプ形状に加工された磁性多層膜を参酌すると、結局刊行物1には、「基板上に、磁性体と非磁性絶縁体とを交互に積層してなる磁性多層膜」が記載されていると認められる(以下、「刊行物1の発明」という。)。さらに、「磁性体/非磁性絶縁体多層膜の高周波磁気特性を支配するのは、(1)磁性体層における渦電流損失、(2)磁性体層における強磁性共鳴、および(3)非磁性絶縁体層における電気的絶縁破壊であった[1,2,5-8]。渦電流損失を特徴づけるパラメータである表皮深さδは、
δ={2ρm/(μr’(0)・μ0・2πf)}1/2 ……(3)
で表され、磁性体層厚tmが〜δとなるとμr’の低下、μr''の増大が顕著となる。ここで、ρmは磁性体の抵抗率、μr’(0)は静的比透磁率、μ0は眞空の透磁率である。」(第92頁第10〜15行)こと、「高周波化を図るためにはまず(1)の渦電流損失を回避する必要がある。渦電流損失は、tmを(3)式のδより十分薄く設定することにより回避できる。…従って、tmとしてはfkにおいて渦電流が生じない範囲でできるだけ厚い値に設定すればよいことになる。一方、tnとしては(3)の絶縁破壊が起きない範囲でできるだけ薄い値が最適値ということになる。」(第92頁第27〜34行)こと、「fkを上げるためには、Hkをできる限り大きな値に設定することが有利である。Hk制御法としては磁界中熱処理による誘導磁気異方性を利用する方法、形状磁気異方性および歪磁気異方性を積極的に利用する方法が考えられる。」(第93頁第15〜18行)こと、が記載されている。
同じく引用した刊行物2(上記甲第2号証刊行物)には、基板上にスパッタ形成した磁歪性磁性膜を直線状のストライプ形状にパターニングした磁歪性の磁性膜が示され(第99頁の図1、右欄5〜7行)、「本実験に用いたパーマロイ膜の磁歪定数は-1.0〜+2.5×10-6であった」(第100頁左欄第19〜21行)こと、「ストライプ状パターンに生じる応力として基板とパーマロイとの熱膨張係数差に起因する熱応力が大きく影響している」(第100頁右欄第9〜12行)こと、「膜厚に比べて十分に広いシート状の磁性体を幅50μm程度で十分に長いストライプ状にパターニングするれば、応力誘起異方性により磁気特性が変わる」(第99頁左欄第12〜14行)こと、「シート状の膜では等方的引張応力、ストライプ状の膜ではストライプ長手方向に引張応力」が作用する(第102頁左欄第1〜5行、図7)こと、「これらパーマロイ膜の形状の違いによる磁気特性の変化は応力誘起異方性で説明される」(第102頁右欄第3〜4行)こと、が記載されている。
5.対比・判断
(1)請求項1に係る発明について
本件特許の請求項1に係る発明と上記刊行物1の発明とを比較すると、両者は「基板上に、磁性体と非磁性絶縁体とを交互に積層してなる磁性多層膜」である点で一致し、次の点で相違する。
相違点1:
本件特許の請求項1に係る発明が「磁性体が磁歪を有し、前記磁性多層膜がストライプ形状に加工されることにより長辺方向と短辺方向とに応力差を生じて膜応力の異方性を有する」のに対し、上記刊行物1の発明にはそのような限定がない点
以下、相違点1につき検討する。
基板上に形成した磁歪性磁性膜をストライプ形状に加工して長辺方向と短辺方向とに応力差を生じさせて膜応力の異方性を持たせることにより異方性磁場を生じさせる方法が上記刊行物2に記載されており、さらに、上記刊行物1には、異方性磁界Hkの制御法として、磁界中熱処理による誘導磁気異方性を利用する方法以外にも形状磁気異方性および歪磁気異方性を積極的に利用する方法があることが示されているから、上記刊行物1の発明の異方性磁界Hk制御法として上記刊行物2に記載された異方性磁界を生じさせる方法を適用して本件特許の請求項1に係る発明の構成とする程度のことは当業者が容易に想到し得るものである。
したがって、請求項1に係る発明は上記刊行物1ないし2に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものである。
(2)請求項2に係る発明について
本件特許の請求項2に係る発明は請求項1に係る発明において、磁性多層膜の形状を「1本あるいは複数本の、直線状あるいは蛇行状に曲がったあるいはジグザグ状に曲がったストライプ形状を成す」と限定するものであるが、上記刊行物1には直線状のストライプ形状に加工された磁性体/非磁性絶縁体磁性多層膜が記載されているから、請求項2に係る発明と上記刊行物1に記載されたものとの相違は結局上記相違点1のみであり、該相違点1に対する判断は上記5.(1)に示した通りである。
したがって、請求項2に係る発明は上記刊行物1ないし2に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものである。
(3)請求項3に係る発明について
本件特許の請求項3に係る発明は請求項2に係る発明において、「磁性体の磁歪定数の絶対値を10-6以上」に限定するものであり、本件特許の請求項3に係る発明と上記刊行物1の発明とは上記5.(1)の相違点1及び次の点で相違する。
相違点2:
本件特許の請求項3にかかる発明が磁性体の磁歪定数の絶対値を10-6以上に限定するのに対し、上記刊行物1の発明にはそのような限定がない点。
以下、相違点につき検討する。
相違点1:
相違点1に対する判断は上記5.(1)に示した通りである。
相違点2:磁歪定数が-1.0〜+2.5×10-6の磁性膜を用いて応力により異方性磁場を誘起することが上記刊行物2に記載されているから、上記刊行物1の発明の磁性体として上記刊行物2に記載されたものを用いる際にその磁性体の磁歪定数の絶対値を10-6以上に限定する程度のことは上記刊行物2の記載に基づいて当業者が容易に想到し得るものである。
したがって、請求項3に係る発明は上記刊行物1ないし2に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものである。
(4)請求項4に係る発明について
本件特許の請求項4に係る発明は請求項3に係る発明において、「磁性多層膜を強磁性共鳴周波数以下の周波数帯域で使用する場合、磁性体の厚さが強磁性共鳴周波数における表皮深さ以下であり、非磁性絶縁体の厚さが前記磁性体間の電気的絶縁を保ち得る厚さ以上である」と限定するものであるが、この点は上記4で示したように上記刊行物1に記載されているから、請求項4に係る発明と上記刊行物1に記載されたものとの相違は結局上記相違点1及び2のみであり、該相違点1に対する判断は上記5.(1)に示したとおりであり、該相違点2に対する判断は上記5.(3)に示したとおりである。
したがって、請求項4に係る発明は上記刊行物1ないし2に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものである。
6.むすび
以上のとおりであるから、本件請求項1ないし4に係る発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件請求項1ないし4に係る発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認める。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第1項及び第2項の規定により、上記のとおり決定する。
 
異議決定日 2000-05-23 
出願番号 特願平5-23281
審決分類 P 1 651・ 121- ZB (H01F)
最終処分 取消  
前審関与審査官 田中 友章  
特許庁審判長 片岡 栄一
特許庁審判官 小林 信雄
新川 圭二
登録日 1998-05-29 
登録番号 特許第2784386号(P2784386)
権利者 日本電信電話株式会社
発明の名称 磁性多層膜  
代理人 澤井 敬史  

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