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審決分類 |
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 C07C 審判 全部申し立て 産業上利用性 C07C |
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管理番号 | 1020645 |
異議申立番号 | 異議2000-70922 |
総通号数 | 14 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1995-04-18 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2000-03-06 |
確定日 | 2000-07-24 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第2945507号「3-アミノ-2-(ヘテロ)アロイルアクリル酸誘導体の製造方法」の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第2945507号の請求項1の発明に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.本件特許発明 本件特許発明(特許第2945507号;平成3年5月7日出願;パリ条約に基づく優先日 1990年5月12日 ドイツ;平成11年6月25日設定登録)は、特許明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された、次のとおりのものである。 【請求項1】式 【化2】 式中、 Yはニトリル、エステル基-COOR1(ここで、R1はC1-C4-アルキルを表す)、 またはアセチル基を表し Rは1ないし6個の炭素原子を有するアルキル、2-フルオロエチル、2-クロロエチル、2-ヒドロキシエチル、1-(ヒドロキシメチル)-エチル、シクロプロピル、メトキシ、4-フルオロフェニル、2,4-ジフルオロフエニル、ジメチルアミノ、ホルミルメチルアミノまたはイソプロピリデンアミノを表し、 Aは窒素またはC-R2(ここで、R2は、水素、メチル、ハロゲン、ニトロ、メトキシまたはシアノを表す)を表し、 X1とX2とは同一であっても異なっていてもよく、ハロゲンを表し、 X3は水素、ハロゲンまたはニトロを表し、 X4はハロゲン、ニトロ、メトキシまたはメチルチオを表す の3-アミノ-2-(ヘテロ)アロイルアクリル酸誘導体の製造方法であって、式 【化1】 式中、 R3とR4とは同一であっても異なっていてもよく、1ないし4個の炭素原子を有するアルキル基を表すか、または、その結合している窒素原子とともに付加的に原子-O-もしくは-S-または基-SO2-を含有していてもよい5員または6員の環を形成する の3-ジアルキルアミノ-2-(ヘテロ)-アロイルアクリル酸誘導体を式R-NH2の第1級アミンと、少なくとも1当量の酸の存在下に溶媒中で、または過剰の酸中で反応させることよりなる方法。 2.申立ての理由の概要 特許異議申立人 坂井嘉彦は、甲第1号証ないし4号証を提出して、(1)本件の請求項1の特許発明(以下、「本件発明」という。)は、発明未完成で産業上利用できない発明であるから特許法29条柱書きに規定する発明に該当せず(理由1)、また、(2)本件発明は発明の詳細な説明に記載したものではないから、本件明細書は同36条5項1号の規定を満たしていない(理由2;申立人は36条6項1号を指摘したが、本件出願に対する36条の適用は、出願日からみて平成2年法が適用されるので前記のとおりとした。)、ことを理由に、同発明に係る特許は取り消されるべきと主張した。 3.証拠刊行物の記載 甲第1号証(ADVANCED ORGANIC CHEMISTRY,John Wiley&Sons,Inc.,1985年,585頁) には、下記の反応において、 SnAr機構活性化に影響を与える置換基Zが活性化能力の強い順に掲載され、反応速度の速いものとしてNO2基等が、また、遅いものとしてMe基、OMe基等が示されている。 甲第2号証(The Journal of Organic Chemistry ,Vol.48,1983年 183-191頁)のTable I.(185頁)には、フルオロアニソール(2-,3-,4-それぞれの異性体)とNH2-との気相反応において、100%ベンゼン環上の水素の引き抜きが起こり、フッ素が結合した炭素は攻撃されなかったとする実験結果が示されている。同187頁には、「酸性度の順位は、分子内の最も酸性の強い位置と関連しており、メトキシ基とフッ素原子とが陰荷電の局在化を安定化させていると結論づけられよう。電気陰性度の高いフッ素原子の寄与が大きければ大きいほどこの安定化は大きくなる、その結果2-、3-および4-フルオロアニソールの共役塩基の最も安定な構造は下記のように予想される。 甲第3号証(FUNDAMENTALS OF ORGANIC CHEMISTRY FIFTH EDITION,1997年,915頁)には、「求核置換は、強電子吸引性基がハロゲン原子に対してオルト又はパラ位にあるときに起きる。」と記載されている。 甲第4号証(特開昭61-112051号公報)の実施例2には、「エチル3-ジメチルアミノ-2-(2,4-ジクロロ-5-フルオロベンゾイル)アクリレート33.4gをシクロプロピルアミン7gとトルエン120mlとともに一時間加熱還流する。・・・トルエンを・・・蒸留し、固体の残留物を軽油から再結晶する。融点89〜91℃のエチル3-シクロプロピルアミノ-2-(2,4-ジクロロ-5-フルオロベンゾイル)アクリレート32.5gが得られた。」と記載されている。 4.対比・判断 4-i)理由1について 申立人が本件発明を未完成で産業上利用できないとする理由は次のとおりである。 すなわち、本件発明は、式(II)の化合物と第1級アミンとの反応時に、脱離するジアルキルアミンが環の反応性ハロゲン原子を攻撃して分離の困難な副生物を生成する、という従来の問題点を解決したものである(【0002】及び【0008】)ところ、式(I)及び式(II)の化合物におけるR2の定義中、メチル基及びメトキシ基は電子供与基であるから、これらの基がベンゼン環に置換する場合には、同ベンゼン環上のフッ素原子は活性化されないはず(甲第1号証ないし3号証)であり、本件明細書にこれらの化合物について効果の確認がなされていないこともあって、効果の推測ができないから、本件発明は未完成である。 そこで検討するところ、本件発明は、前記のとおりの「3-アミノ-2-(ヘテロ)アロイルアクリル酸誘導体の製造方法」であり、発明の詳細な説明には、産業上の利用性、及び各構成要素についての説明がなされたうえ、39の実施例が示されている。申立人が指摘した位置とは異なるものの、メトキシ基をベンゼン環上に有する化合物に係る製造例が実施例15として示されているから、ベンゼン環上に電子供与基が置換していても、本件発明に係る製造方法の実施に支障がないことが理解される。そうすると、メトキシ基と同様に電子供与基であるメチル基が置換した化合物に係る製造方法も実施可能な程度に記載されているとするのが相当であるから、結局、本件発明の式(I)及び式(II)においてR2がメチル基及びメトキシ基である化合物に係る製造方法は、明細書中に実施可能な程度に記載されているものと認められる。 申立人は、これらの化合物に係る製造方法について効果が推測不能であることを発明未完成の理由としたが、本件発明において効果に係る事項は発明を構成する要素となっていないから、効果の予測が不能であることのみをもって発明を未完成とすることはできない。すなわち、本件発明は、請求項1に記載されているとおり、それ自体において自然法則を利用した技術的思想の創作ということができるものであり、その技術的思想が産業上利用し得るものであることは明らかである。 したがって、申立人の、本件発明を未完成であり産業上利用できない発明とする主張は採用できない。 4-ii)理由2について 4-i)に示したとおり、本件明細書の発明の詳細な説明には、本件発明の各構成要素についての説明がなされたうえ、39の実施例が示されている。また、式(I)及び式(II)においてR2がメチル基及びメトキシ基である化合物に係る製造方法も、実施可能な程度に記載されているものと認められるから、請求項1の本件発明は、発明の詳細な説明に記載した発明に該当する。 甲第4号証によっても、4-i)及び4-ii)の判断を覆すことはできない。 5.むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によって、本件の請求項1の発明に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2000-07-03 |
出願番号 | 特願平3-131862 |
審決分類 |
P
1
651・
14-
Y
(C07C)
P 1 651・ 534- Y (C07C) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 唐木 以知良、近藤 政克 |
特許庁審判長 |
花田 吉秋 |
特許庁審判官 |
谷口 操 後藤 圭次 |
登録日 | 1999-06-25 |
登録番号 | 特許第2945507号(P2945507) |
権利者 | バイエル・アクチエンゲゼルシヤフト |
発明の名称 | 3-アミノ-2-(ヘテロ)アロイルアクリル酸誘導体の製造方法 |
代理人 | 小田島 平吉 |