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審判番号(事件番号) データベース 権利
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審決分類 審判 全部申し立て 特29条の2  B01J
審判 全部申し立て 2項進歩性  B01J
管理番号 1020678
異議申立番号 異議1999-74741  
総通号数 14 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-07-11 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-12-10 
確定日 2000-07-24 
異議申立件数
事件の表示 特許第2918787号「光触媒体およびその製造方法」の請求項1ないし9に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2918787号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。 
理由 1.本件の経緯
本件特許第2918787号は、平成5年6月28日に出願した特願平5-181834号および平成5年10月26日に出願した特願平5-291212号を基礎として国内優先権を主張して、平成6年6月27日に出願したものであって、平成11年4月23日に設定登録され、同年7月12日に特許公報に掲載され、同年12月10日に須賀京子から、平成12年1月12日にゼオン化成株式会社から特許異議の申立を受けたものである。
2.本件発明
本件発明は、特許公報に掲載されたとおりの次のものである。
[請求項1]光触媒機能を有する光触媒粒子とセメント、セッコウから選ばれる少なくとも一種の難分解性結着剤とからなる混合物を基体上に接着させてなることを特徴とするNOxガス除去用光触媒体。
[請求項2]光触媒機能を有する光触媒粒子の量が、光触媒粒子と難分解性結着剤との合量に対する容積基準で5〜40%であることを特徴とする請求項1に記載の光触媒体。
[請求項3]基体上に、結着剤からなる、光触媒粒子を含有しない第一層を設け、さらに、第一層の上に、光触媒機能を有する光触媒粒子とセメント、セッコウから選ばれる少なくとも一種の難分解性結着剤とからなる第二層を設けてなることを特徴とする請求項1に記載の光触媒体。
[請求項4]光触媒機能を有する光触媒粒子が、光触媒粒子の内部および/またはその表面に、第二成分として、V、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ru、Rh、Pd、Ag、PtおよびAuからなる群より選ばれる少なくとも一種の金属および/または金属化合物を含有してなる粒子であることを特徴とする請求項1に記載の光触媒体。
[請求項5]光触媒機能を有する光触媒粒子が酸化チタンであることを特徴とする請求項1に記載の光触媒体。
[請求項6]光触媒機能を有する光触媒粒子とセメント、セッコウから選ばれる少なくとも一種の難分解性結着剤とからなる混合物を基体上に配置させ、次いで、固化することを特徴とするNOxガス除去用光触媒体の製造方法。
[請求項7]光触媒機能を有する光触媒粒子と難分解性結着剤とを溶媒に分散させた塗料組成物を基体に塗布しあるいは吹き付けて、光触媒粒子と難分解性結着剤とを基体上に配置させることを特徴とする請求項6に記載の光触媒体の製造方法。
[請求項8]光触媒機能を有する光触媒粒子とセメント、セッコウから選ばれる少なくとも一種の難分解性結着剤とを溶媒に分散させてなることを特徴とするNOxガス除去用塗料組成物。
[請求項9]光触媒機能を有する光触媒粒子の量が、光触媒粒子と難分解性結着剤との合量に対する容積基準で5〜40%であることを特徴とする請求項8に記載の塗料組成物。
3.特許異議申立人の主張
3-1.須賀京子の主張
特許異議申立人須賀京子は、甲第1〜12号証を提出して次の(a)および(b)のような主旨の主張をしている。
(a)本件請求項1〜9に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1〜11号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
(b)本件請求項1〜9に係る発明は、本件特許の出願の日前の出願であって出願後に出願公開された甲第12号証に係る先願の出願当初の明細書または図面に記載された発明と同一であり、また、本件特許の発明者は先願の発明者と同一ではないし、しかも、本件特許の出願人はその出願の時に先願の出願人と同一ではないから、本件請求項1〜9に係る発明は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものである。
3-2.ゼオン化成株式会社
特許異議申立人ゼオン化成株式会社は、甲第1〜6号証を提出して次の(c)のような主旨の主張をしている。
(c)本件請求項1〜9に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1〜3号証の少なくとも一つに記載された発明と、本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第4〜6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
4.特許異議申立人の主張についての検討
4-1.上記(a)の主張について
甲第9号証(特開昭61-86458号公報)には、コンクリート床の非酸化性表面強化材について記載され、それには白色顔料として酸化チタンを加えることが示されているものの、それは触媒ではないから、本件請求項1〜9に係る発明に何ら関係するものではない。
甲第11号証(特開昭60-232251号公報)には、「少なくともアルミン酸石灰とマグネシアセメントを含む触媒担体に、白金族および希土類元素よりなる群から選択される少なくとも一種の触媒を担持したことを特徴とする排ガス用触媒体。」(特許請求の範囲第1項)および「触媒担体が酸化チタンを含む特許請求の範囲第1項記載の排ガス浄化用触媒体。」(特許請求の範囲第2項)等が記載されているが、その実施例1や2をみれば判るように、その触媒体は、300℃や400℃の高温においてCOを浄化するもので、しかも、触媒は白金族および希土類元素で、酸化チタンは触媒担体を構成するものにすぎないから、甲第11号証に記載された触媒体は、光触媒ではないし、NOx除去用のものでもない。
したがって甲第11号証に記載された発明は、本件請求項1〜9に係る発明と何ら関係がない。
甲第1号証(「化学工学」、第50巻、第9号、1986、p.618-623)には、「家電機器における触媒利用」と題した西野敦および田畑研二の技術紹介記事が掲載されており、自己浄化型触媒(Self-Cleaning Catalyst=SC触媒)に関する技術が紹介されていて、その表1には、環境保全用触媒(バナピュール)のCのタイプはTiO2,Al2O2(Al2O3の誤り)、SiO2とアルミン酸石灰および白金族触媒から成ることが示され、また、図10には、松下製のバナピュールC型についてのCO-HC-NOxの三元触媒特性が示されているものの、その図10の「入口ガス温度:400℃」という記載からみて、その触媒は、高温で作用する触媒であって、光触媒ではないし、また、その図3のSC触媒の製造工程図から分かるように、SC触媒は、下塗りホーローの上に塗布し焼成して製造されるもので、しかも、その表4から分かるように、バナピュールC型触媒は、白金属(白金族の誤り)触媒が、酸化還元触媒の作用機能を有する成分であって、アルミン酸石灰は、固体塩基触媒および耐熱性結合剤としての成分で、水硬性材料として使用されているものではないから、水硬性材料であるセメントとして用いられているわけではないし、二酸化チタンは単に耐熱性担体としての成分にすぎないから、甲第1号証に記載されたSC触媒は、本件請求項1〜9に係る発明と何ら関係がない。
なお、特許異議申立人須賀京子は、甲第1号証に関連する主張として、甲第2〜4号証に記載されているように、二酸化チタンが光触媒作用を示すことは本件特許の出願前に既に技術常識であったと主張(特許異議申立書第13頁末行から14頁4行)しているが、それは、それらに記載された触媒についてのことであって、そうであるからといって、甲第1号証に記載されたTiO2,Al2O3、SiO2とアルミン酸石灰および白金族触媒から成っていて、焼成して製造したものであるバナピュールC型等の触媒が光触媒であるとする理由にはならない。
甲第7号証(特開平3-221146号公報)には、「無機質繊維に酸化チタンをコーティングしてなることを特徴とする燃焼排ガス処理触媒フィルタ基材。」(特許請求の範囲)が記載されているものの、その実施例の試験条件を見ればわかるように、その触媒フィルタはガス温度230℃という高温で使用されて作用する触媒で、光触媒ではないし、また、その第2頁右上欄19行から同頁左下欄8行に、「チタニウムアルコキシドを出発原料とした粘性ゾル溶液は、上記チタニウムアルコキシドに、アルコール(メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなど)と純水を加え、つぎに塩酸などの酸(他にギ酸、酢酸、シュウ酸など)を加えて粘性ゾルをつくる。つぎに、この粘性ゾル溶液中に例えばガラス繊維のファイバーもしくは、織物またはマット状に成形したものを浸漬したのち乾燥し、焼成する。」と記載されているように、その触媒は、チタニウムアルコキシドの加水分解液により製造されるもので、難分解性結着剤としてセメントや石膏を使用するものではないから、甲第7号証に記載された発明は、本件請求項1〜9に係る発明と何ら関係がない。
甲第2号証(「表面」、Vol.25、No.8、1987、p.477-495)には、「金属担持酸化チタンによる光化学反応とその新しい応用」と題した大谷文章および鍵谷勤の技術紹介記事が掲載されているが、酸化チタンや金属担持酸化チタンによる光化学反応についていろいろ紹介されてはいるものの、それには、NOx除去について触れるところはないし、また、難分解性の結着剤としてセメントや石膏を用いることについての記述もないから、甲第2号証の記載は、本件請求項1〜9に係る発明と何ら関係がない。
甲第3号証(日本表面科学会主催(1991年)第11回表面科学セミナーの予稿集、p.91-105)には、「光励起過程と特異的化学反応-光触媒反応と光誘起反応-」と題した安保正一の技術紹介が掲載されており、それには、光触媒や光触媒作用についての説明(第92頁、2.の項を参照)や固定化チタン酸化物の光触媒活性によるN2Oの分解について紹介(第100頁から101頁の3.3.2の項を参照)されているが、それには、N2Oの分解が示されているだけで、NOx一般の除去について示されているわけではないし、また、それには、固定化チタン酸化物の光触媒の製造に難分解性の結着剤としてセメントや石膏を用いることについての記載もない。
甲第5号証(特開昭63-111929号公報)には、「亜酸化窒素を含有するガス混合物に光化学触媒の存在下光照射及び/又は放射線照射することにより亜酸化窒素を分解無害化することを特徴とするガス混合物中の亜酸化窒素の分解除去方法。」(特許請求の範囲第1項)等が記載されているものの、それには、亜酸化窒素(N2O)の分解が示されているだけで、NOx一般の除去について示されているわけではないし、また、その実施例から分かるように、その光化学触媒は金網状容器に充填されているから、粒子状または粉末状のままのものであって、しかも、その光化学触媒には難分解性の結着剤としてセメントや石膏が用いられてはいない。
甲第8号証(「Chemistry Letters.1992、p.2381-2384)には、室温におけるN2OのN2とO2への分解は、水蒸気の存在下でのPt/TiO2光触媒上において実証された旨等が示されているが、それは、N2Oの分解について示しているだけで、NOx一般の除去について示すものではないし、また、それには、光触媒の製造に難分解性の結着剤としてセメントや石膏を使用することは示されていない。
甲第4号証(特開平5-184874号公報)には、「フィルタ構造の光触媒により燃焼排ガス中の微粒子を除去し、上記光触媒の排ガス下流側より該光触媒に向けて紫外線を照射することにより排ガス中のNOxを除去することを特徴とするNOx除去方法。」(特許請求の範囲第1項)等が記載されているが、その[0008]段落に「本発明でいうフィルタ構造の光触媒とは光触媒の焼結体や多孔質構造材に光触媒薄膜を蒸着したものを意味し、光触媒としては酸化チタン、酸化亜鉛、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カリウム、ニオブ酸カリウム等があげられる。」と記載されているように、その光触媒は焼結体や蒸着膜であって、甲第4号証には、光触媒の製造に難分解性の結着剤としてセメントや石膏を用いることは示されていない。
甲第6号証(特公平2-62297号公報)には、「空気中の低濃度窒素酸化物を300nm以上の人工光あるいは太陽光を照射した二酸化チタン-活性炭混合物によって除去する方法。」(特許請求の範囲)が記載されており、その3欄9〜11行には、「光照射は二酸化チタンを活性化し、表面に生じる酸化活性種によって窒素酸化物を酸化する効果があり、・・・」と記載されているものの、その実施例1には、「市販の試薬特級品である複種類の金属酸化物と活性炭を約200mg反応管に塗布し、200〜300℃で一晩、空気中で焼成した。」と記載され、また、実施例2には、「別紙第1表に示した二酸化チタンBと活性炭を種々の割合で機械的に混合し、実施例1と同様な実験を行った・・・」と記載されているだけで、その二酸化チタン-活性炭混合物の光触媒の製造に難分解性の結着剤としてセメントや石膏を使用することは示されていない。
甲第10号証(特開平2-273514号公報)には、「0.5〜5eVの禁止帯幅を有する半導体を添加した粘土成形体に、被酸化性有害物質を含有する気体を接触させ、紫外線を照射することを特徴とする該気体中の被酸化性有害物質の除去方法。」(特許請求の範囲第1項)等が記載されており、また、その比較例6のCやDおよび比較例7のCやDでは、0.5〜5eVの禁止帯幅を有する半導体物質である二酸化チタンの担体として、石膏やセメントを用いた例が示されているものの、その第3頁左上欄18行から右上欄10行に、「粘土成形体を用いる利点としては、ラテックス、有機系粘着剤、水ガラスなどの他のバインダーや石膏、セメントなどの水和凝集体を支持体として用いるのと異なり、活性点を失活させることがないので、半導体本来の有害物質除去能力を落とさず、むしろ逆に相当向上させることにある。このような顕著な好ましい作用が起こるのは、粘土成形体の場合には、他のバインダー等を用いる場合のようにバインダー自体や水などが半導体表面を覆うことがないことや同一半導体量では半導体を粉末のまま使用する場合よりもより広範囲に分散でき、光の照射面積を大きくできるためと推定することができる。」と記載されているように、石膏やセメント等の水和凝集体は活性点を失活させるので好ましくないとしているものであって、そのため、甲第10号証に記載された発明では、0.5〜5eVの禁止帯幅を有する二酸化チタン等の半導体を粘土に添加して粘土成形体にしているのであり、また、甲第10号証の第2頁右上欄1〜8行に、「本発明の目的は、気体中に含まれる硫化水素、アンモニア、メルカプタン、アミン及びアルデヒドなどの悪臭成分やホルムアルデヒド、アクロレイン、オゾンなどの刺激性成分並びにエチレンなどの植物成長ホルモンなどの被酸化性有害物質を同時に迅速に効率よく除去し、しかも、使用による除去活性が落ちない方法及び該有害物質の除去剤を提供することにある。」と記載されていることから明らかなように、甲第10号証に記載された発明は、悪臭成分や刺激性成分や植物成長ホルモンの除去を目的とするもので、NOxの除去を目的とするものではない。
そして、特許異議申立人須賀京子は、セメントや石膏を結着剤として使用することは甲第9〜11号証に記載されていると主張(特許異議申立書第14頁24行から15頁2行)しているが、甲第9号証に記載されたコンクリート床の非酸化性表面強化材は触媒ではないし、また、甲第11号証に記載された排ガス浄化用触媒体は光触媒ではなく、NOx除去用のものでもないから、甲第9号証および甲第11号証のそのような記載は、本件請求項1〜9に係る発明と関係がないものであり、さらに、甲第10号証には、石膏やセメントを用いた例が示されているものの、それには、上述のように、光触媒において、石膏やセメント等の水和凝集体を支持体として用いると活性点を失活させるので好ましくないことが示されているであるから、甲第3〜6号証や甲第8号証に記載されたN2OやNOxを除去する光触媒を製造するにあたり、敢えて石膏やセメントを結着剤として使用することは、甲第10号証の記載から当業者の容易に想到し得るものではない。
そして、難分解性結着剤としてセメントを使用した場合のNOx除去の効果は本件明細書に出願当初から実施例として記載されているところであり、また、本件明細書には、石膏についての実施例は特に記載されていないものの、石膏はセメントと並んで水硬性材料の代表的なものであるから、セメントでは効果があって石膏では効果がないとする理由を導き出すことはできないし、さらに、特許異議申立人須賀京子は石膏では効果がないとする理由や証拠を自ら示しているわけではないから、本件各発明の光触媒としてのNOxガスの除去の効果は否定されるものではない。
してみると、甲第1〜11号証の記載を総合したところで、本件請求項1〜9に係る発明は、それらに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
したがって、上記(a)の主張は妥当ではない。
4-2.上記(b)の主張について
甲第12号証(特開平6-327965号公報)に係る先願(特願平5-341505号、以下単に先願という。)の出願当初の明細書及び図面(同公報参照)には、「水硬性化合物の水和凝集物に、0.5〜5eVの禁止帯幅を有する半導体が分散してなることを特徴とする有害物質除去剤」(特許請求の範囲の請求項1)および「請求項1記載の有害物質除去剤に、有害物質を含有する気体を接触させ、光を照射することを特徴とする有害物質の除去方法。」(特許請求の範囲の請求項2)等が記載されているが、その「0001」段落に、「本発明は有害物質の除去剤、除去方法及び除去装置に関する。更に詳しくはメルカプタン、アンモニア等の悪臭物質、青果物や花卉類などの鮮度を低下させるエチレン等の成長促進物質などのごとき有害物質を効率的に除去できる有害物質除去剤、除去方法及び除去装置に関する。」と記載されているように、先願の発明は、メルカプタン、アンモニア等の悪臭物質やエチレン等の成長促進物質の除去に関する発明であって、その実施例にはエチレンを除去した例しか挙げられていない。
そして、触媒というものは、被反応物質のある特定の化学反応を接触により媒介するものであるから、その被反応物質の特定の化学反応から離れて汎用的な触媒というものはあり得ない。
してみると、上記先願の出願当初の明細書には、NOxの分解という特定の化学反応が開示されていないのであるから、たとえ他の構成が同じであるとしても、NOxガス除去用光触媒体や、NOxガス除去用光触媒体の製造方法、NOxガス除去用塗料組成物に係る本件請求項1〜9に係る発明は、先願の出願当初の明細書または図面に記載された発明と同一であるとは認められない。
したがって、上記(b)の主張は妥当ではない。
4-3.上記(c)の主張について
甲第1号証(特開昭61-133125号公報)には、「酸化チタンもしくは酸化亜鉛の単独またはこれらの混合物の存在下で、窒素酸化物を含む含酸素気体に紫外線を照射することを特徴とする窒素酸化物含有含酸素気体の紫外線脱硝処理法。」(特許請求の範囲第1項)および「酸化チタンもしくは酸化亜鉛の単独またはこれらの混合物とアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の酸化物または水酸化物からなる混合金属酸化物の存在下で行う特許請求の範囲第1項記載の処理法。」(特許請求の範囲第2項)等が記載されており、また、その3頁右上欄13行から左下欄4行には、「本発明において、これらの混合金属酸化物とNOxを含む含酸素気体との接触方法としては、NOxを含む含酸素気体中にこれらの混合金属酸化物を粉体のまま飛散させる方法、気体の流路中に粉体を静置させる方法、あるいはしっくい状に練り固めて反応装置の内壁に塗りつける方法など、これらの金属酸化物がNOxを含む含酸素気体と直接接触でき、紫外線が効率よく金属酸化物に直接吸収される方法であればいかなる方法であってもよい。また、塗料や顔料中にこれらの金属酸化物を分散させて反応装置の内壁を塗装する方法も採用することができる。」と記載されているものの、それには、その「酸化チタンもしくは酸化亜鉛の単独またはこれらの混合物」あるいは「酸化チタンもしくは酸化亜鉛の単独またはこれらの混合物とアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の酸化物または水酸化物からなる混合金属酸化物」をセメントや石膏の結着剤を用いて結着させることは示されていない。
甲第2号証(特開平3-233100号公報)には、「自動車道トンネルの車両空間から導かれた汚染空気の煤じんを除去する電気集じん機と、この電機(気)集じん機の後段に配置され煤じんを除去された前記汚染空気から有害ガスを除去する有害ガス除去装置とを備えたことを特徴とする自動車道トンネル用換気設備。」(特許請求の範囲第1項)、「有害ガス除去装置は二酸化チタンと活性炭との混合物と、これに波長が300nm以上の光を照射する光源とからなることを特徴とする請求項1記載の自動車道トンネル用換気設備。」(特許請求の範囲第2項)および「有害ガス除去装置は二酸化チタン、活性炭及び鉄系金属化合物の混合物と、これに波長が300nm以上の光を照射する光源とからなることを特徴とする請求項1記載の自動車道トンネル用換気設備。」(特許請求の範囲第3項)が記載されており、その第3頁右下欄15〜18行には、「反応管21はガラス管の外表面に接着剤を塗布し、その上にサブミクロンオーダに粉砕したTiO2粉、活性炭粉及びFe2O3粉の混合粉をまぶすようにして付着させて構成したものである。」、第4頁右上欄10〜13行には、「・・・ケーシング19の内周面及びじゃま板30の表面に接着剤を塗布し、その上にTiO2粉、活性炭粉及びFe2O3粉の混合粉をまぶすようにして付着させてある。」と記載されているものの、甲第2号証には、その接着剤が何であるか記載するところはない。
甲第3号証(日本化学会第50春季年会1985年の講演予稿集I)の3I39および3I40には、荻田堯外3名の「光励起触媒による汚染空気の室温浄化(1)、チタン酸アルカリ触媒によるNOxの紫外線酸化反応」および「光励起触媒による汚染空気の室温浄化(2)、酸化チタン触媒によるNOx-NH3系紫外線分解反応」についてが報告されているものの、それには、セメントやセッコウを結着剤として使用することは示されていない。
甲第4号証(特開平2-251241号公報)には、「紫外線照射ランプの周囲に金属酸化物触媒からなる中空円筒状ハニカム構造体を設置したことを特徴とする光触媒装置。」(特許請求の範囲第1項)および「紫外線照射ランプの周囲に金属酸化物触媒とセラミックスバインダーとからなる中空円筒状ハニカム構造体を設置したことを特徴とする光触媒装置。」(特許請求の範囲第2項)等が記載されており、その第2実施例では、酸化チタンとアルミナセメントを用いた例が記載されているが、その実施例では水の光分解を行っているにすぎない。
そして、甲第4号証には、その第1頁右下欄12〜13行で、「本発明は、水の光分解を初めとする酸化還元反応や殺菌装置に用いる光触媒装置に関する。」と記載されており、また、第1〜5実施例では水の光分解、第6実施例ではプロピレンのメタセシス反応、第7実施例では冷蔵庫内の脱臭、第8実施例では室内の脱臭、第9実施例では黒かびの生育抑制の例が示されているが、触媒というものは、被反応物質のある特定の化学反応を接触により媒介するものであって、その被反応物質の特定の化学反応から離れて汎用的な触媒というものはあり得ないし、また、甲第1号証(特開昭61-133125号公報)の第3頁左下欄14行から同頁右下欄16行に「本発明における金属酸化物の作用原理については詳細に研究中であるが、酸化チタンや酸化亜鉛などのn型半導体が紫外線を吸収し、n型半導体の価電帯にある電子が導電帯に励起され価電帯中に生じた正孔は金属酸化物の表面上に存在する水酸基を一電子酸化してOHラジカルを生ぜしめ、このOHラジカルがNOxを酸化して硝酸に変化せしめ、これらがアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の酸化物または水酸物に捕獲されるものと考えられる。また、アンモニアが共存するばあいは、NH3の一電子酸化反応によってNH3カチオンラジカルを生じ、これがNH2ラジカルとH+に解離し、NH2ラジカルがNOと反応して水と窒素に変化するものと考えられる。他方、導電帯に励起された電子はNO2を一電子還元して亜硝酸イオンを生ぜしめ、これが水と反応して亜硝酸を生じ、これがさらに酸化されて硝酸になり、これが金属酸化物に固定されるものと考えられる。さらに、アンモニアが共存するばあいは、生じた亜硝酸がアンモニアと反応して亜硝酸アンモニウムを生じ、これが金属酸化物上で窒素と水に分解するものと考えられる。」と記載されていることからみて、NOxの除去反応は複雑であるから、甲第1〜3号証の記載を基に甲第4号証に記載された光触媒をNOx除去用に使用することが単純に予測できるものではない。
なお、特許異議申立人ゼオン化成株式会社は、特許異議申立書第8頁13〜21行で、甲第4号証に関して、「また、別の具体例として、シリカ、水硬性アルミナ、チタン酸カリウム、メチルセルロースからなるセラミック成形体の表面に酸化チタンとベーマイトとの混合スラリーから被覆層を形成したものが記載(第3実施例)されており、ここで結着剤として用いられているベーマイトは、α-アルミナ水和物であって、アルミナセメントの先駆体であるが、この具体例では、その水硬性を生かして結着剤として利用されているのであるから、明らかにセメントの一種であって、本件発明にいう難分解性結着剤に該当するという主張をしているが、ベーマイトは、ベーム石(γ-Al2O3・H2O)のことで、セメントとはいえないものであり、また、いわゆるアルミナセメントとはアルミン酸カルシウムを主鉱物とするセメントであり、ベーマイトとは関係がないものである。
したがって、特許異議申立人ゼオン化成株式会社のそのような主張は妥当ではない。
甲第6号証(特開平4-174679号公報)には、「金属アルコキシドの加水分解生成物及び光反応性半導体を含有して成る光反応性有害物質除去剤。」(特許請求の範囲第1項)、「金属アルコキシドの加水分解が光反応性半導体の存在下においてなされたものである請求項(1)の光反応性有害物質除去剤。」(特許請求の範囲第2項)および「貴金属化合物の存在下における金属アルコキシドの加水分解生成物及び光反応性半導体を含有して成る光反応性有害物質除去剤。」(特許請求の範囲第3項)等が記載されているが、甲第6号証に記載された発明は、金属アルコキシドの加水分解生成物を用いることが特徴であり、結着剤としてセメントや石膏を用いるものではないし、また、硫化水素、アンモニア、メルカプタン、アミン、アルデヒド及び脂肪酸等の悪臭物質や刺激臭物質、また、エチレンなどの園芸作物成長促進物質等を除去するものであって、NOxを除去するものではない。
そして、甲第5号証(特開平2-273514号)は特許異議申立人須賀京子が提出した甲第10号証と同じであって、これについては上記4-1の項で既に検討したところである。
そして、上記4-1の項で既に述べたように、甲第5号証(特許異議申立人須賀京子が提出した甲第10号証)には、石膏やセメントを用いた例が示されているものの、それは、光触媒において、石膏やセメント等の水和凝集体を支持体として用いると活性点を失活させるので好ましくないことを示すものであるから、甲第1〜3号証に記載されたNOxを除去する光触媒を製造するにあたり、敢えて石膏やセメントを結着剤として使用することは、甲第4号証や甲第5号証の記載から当業者の容易に想到し得るものではない。
そして、上記4-1の項で述べたように、本件各発明の光触媒としてのNOxガスの除去の効果は否定されるものではないから、本件請求項1〜9に係る発明は、甲第1〜6号証の記載を総合したところで、それらに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
したがって、上記(c)の主張も妥当ではない。
5.結び
以上のとおりであるから、特許異議の申立の理由および証拠によっては、本件請求項1〜9に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1〜9に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、平成6年附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、上記のとおり決定する。
 
異議決定日 2000-06-22 
出願番号 特願平6-165836
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B01J)
P 1 651・ 16- Y (B01J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 野田 直人関 美祝  
特許庁審判長 石井 勝徳
特許庁審判官 新居田 知生
山田 充
登録日 1999-04-23 
登録番号 特許第2918787号(P2918787)
権利者 藤嶋 昭 石原産業株式会社 東陶機器株式会社 橋本 和仁
発明の名称 光触媒体およびその製造方法  
代理人 内田 幸男  
代理人 山本 忠  
代理人 山本 忠  
代理人 山本 忠  
代理人 山本 忠  

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