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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B01J
管理番号 1022178
審判番号 審判1999-1611  
総通号数 15 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1991-04-19 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 1999-02-04 
確定日 2000-05-12 
事件の表示 平成 1年特許願第228943号「金属製触媒担体の製造方法」拒絶査定に対する審判事件[平成 3年 4月19日出願公開、特開平 3- 94838、 ]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1、手続の経緯、本願発明
本願は、平成1年9月4日に出願されたものであって、本願の請求項1に係る発明は、平成12年1月28日付け手続補正書によって補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「(1)下記(イ)〜(ホ)の工程からなる金属製触媒担体の製造方法。
(イ)金属粉末と繊維物質とを重量混合比で1:2〜1:0.1の範囲で水中で混合物を得る工程。
(ロ)前記混合物を60〜200メッシュのスクリーンで水分を除去し、シート状物を得る工程。
(ハ)前記シート状物を乾燥する工程。
(ニ)乾燥されたシート状物を波板に成形するとともに、その波板と乾燥された他のシート状物とをそれらの接触面に焼却により消失する接着剤を付着させて積層して積層体を作り、その積層体を渦巻状に巻回し、焼結処理時の収縮率を加味して最終製品より大きい巻回物を得る工程。
(ホ)前記巻回物を焼結処理する工程。」

2、引用例
これに対して、当審の拒絶理由に引用された特開昭63-171802号公報(以下、引用例1という。)には、多孔質金属焼結体の製造方法が記載されており、特に次の事項が記載されている。
(a)、「加熱消失可能な消失性繊維に金属粉および/または金属繊維を抄き込んで混抄体を得た後、該混抄体を加熱処理し上記消失性繊維を消失させ、更に金属粉および/または金属繊維同士の焼結を行うことを特徴とする多孔質金属焼結体の製造方法。」(特許請求の範囲)
(b)、「本発明では、加熱により消失可能な消失性繊維、たとえばパルプ、天然繊維、合成繊維等の有機質繊維あるいは炭素繊維等の水分散液中に、ポリアクリルアミドの如き凝集定着剤と共に金属粉を加え、該金属粉を消失性繊維に吸着させた状態で抄紙することによって混抄体を得るか、あるいは金属繊維と消失性繊維を混抄して混抄体を得、この混抄体を加熱処理することにより消失性繊維を消失させると共に、該消失性繊維と共に混抄された金属粉および/または金属繊維を焼結一体化せしめ、消失性繊維の存在していた部分を空隙として残すことにより多孔質の金属焼結体を得るものである。」(第2頁右上欄第12行〜左下欄第4行)
(c)、「しかもこの焼結体は、均一な混抄状態から消失性繊維を消失せしめたものであるから、全体に亘って均一な多孔性を有するものとなり、且つ金属粉および/または金属繊維は焼結によって相互に3次元的に接合しあったものとなり、強度的にも優れたものとなる。また、消失性繊維の径や金属粉および/または金属繊維の直径や長さ等を調整することによって、所望の孔径を有する多孔質金属焼結体を得ることができ、更には混抄体の肉厚を変えることによって任意の厚さの多孔質金属焼結体を得ることができる。」(第2頁左下欄第7〜17行)
(d)、「混抄体の製造には格別特殊な技術が要求される訳ではなく、従来から一般に採用されている紙や繊維質ボード等の製法に準じて実施すればよく、・・・」(第2頁右下欄第7〜9行)
(e)、「本発明ではこの様にして得られる混抄体を一旦乾燥して水分を除去した後加熱処理し、・・・」(第2頁右下欄第14、15行)
(f)、「金属粉および/または金属繊維としては用途に応じて様々のものが使用されるが、代表的なものを例示すると、金属触媒や担体用としてはニッケル、ニッケル・クロム合金、ステンレス鋼、鉄・クロム合金等が・・・。」(第3頁左下欄最終行〜右下欄第4行)
(g)、「また焼結体の形状は抄造方法を工夫することによって平板状あるいは筒状等の任意の寸法・形状となし得るばかりでなく、焼結前または焼結後の切断あるいは変形加工等によっても自由に変更することができる。」(第3頁右下欄第10〜14行)
(h)、「ニッケル微粉末(インコ社製:カルボニルNi-123)と直径10〜20μmの木材パルプを用い凝集定着剤としてポリアクリルアミドを用いて常法により混抄し、前者:後者=1:1(重量比)の混抄体(厚み:1.02±0.02mm、乾燥後におけるニッケルの占める容積比率:5.5%)を得た。」(第3頁右下欄第17行〜第4頁左上欄第3行)
同じく特開昭64-11808号公報(以下、引用例2という。)には、セラミックハニカム構造体の製造法が記載されており、特に次の事項が記載されている。
(i)、「結合剤を混合したセラミックス原料をシート状に成形してセラミックス前駆体であるグリーンシートを製造し、その一部または全部にコルゲート加工を施して波形に形付けし、・・・・波形のグリーンシートと無加工の平板状グリーンシートとを交互に重ね合わせて接点を接着することによりハニカム構造体とし、得られたハニカム構造体を上記セラミックス原料の焼結温度まで昇温して焼成することを特徴とするセラミックハニカム構造体の製造法。」(請求項1)
(j)、「本発明は、熱交換素子や触媒担体として有用な、セラミックスからなるハニカム構造体の製造法に関するものである」(第1頁右下欄第2〜4行)
(k)「更に、波形シートと平板状シートとを接着後、接着剤を塗布しながら渦巻き状に巻き上げることも可能である。」(第3頁右上欄第7〜9行)
同じく特開昭62-42747号公報(以下、引用例3という。)には、触媒担持用構造体が記載されており、特に次の事項が記載されている。
(l)、「セラミック繊維とセラミック原料粉末から湿式抄造シートから成形され、焼成によりセラミック化されたハニカム構造体であって、・・・」(請求項1)
(m)、「アモルファス状のセラミック繊維を裁断してセラミック原料粉末とともに凝集スラリを作製したのち、通常の抄造方法、例えば長網式抄造機等を用いてシートを作成する。次にこのシートを用い段ボール紙製造と類似の方法によってコルゲートシートとなし、これを巻取ったり、一定寸法に裁断したものを積層してハニカム状の成形体とする。」(第2頁左下欄第6〜12行)
(n)「このシートを通常の段ボール紙製造機を用いて、一部のシートは蒸気を噴霧し適度の柔軟性をもたせたのち波形を付し、・・・残りのシートを平板のまま、接着剤を用いて貼り合わせ、・・・次に、一端部を閉塞されたコルゲートシートの他端部の波形部分にプラグ原料を充填したのち、連続的に巻き芯の上に、接着剤を波形頂部に塗布しつつ巻き上げて成形体を作成した」(第3頁左上欄第15行〜右上欄第11行)
同じく特開昭49-119904号公報(以下、引用例4という。)には、セラミック製波板の製造方法が記載されており、特に次の事項が記載されている。
(o)、「セラミック粒子を分散せしめた有機質繊維を抄いて紙葉状のセラミック分散紙を形成し、該セラミック分散紙をゴムまたは熱可塑性樹脂の溶液またはエマルジョン液で処理した後成型加工を施こし、該成型加工したセラミック分散紙を焼成することを特徴とするセラミック製波板の製造方法。」(特許請求の範囲)
(p)「本発明はセラミック製波板の製造方法に関するもので、更に具体的には熱交換器、触媒担体・・・等に使用されるセラミック製ハニカム構造物の製造方法に関するものである。」(第1頁左欄第11〜15行)
(q)、「次いで上記セラミック分散紙1を多数の歯を有する一対のコルゲートロール11および12にて波型に成型し、該波形セラミック分散紙の波型の頂部に接着剤塗布ロール13により接着剤(たとえばアクリル-酢酸ビニール共重合体水性エマルジョンのようなセラミック分散紙の接着に用いられる接着剤)14を塗布する。・・・該二重シート16の波型の頂部に再び前記と同じ接着剤14aを塗布ロール17により塗布した後巻取って円筒状のハニカム構造物18とする。」(第2頁右上欄第1〜14行)
同じく特開昭61-71841号公報(以下、引用例5という。)にはフルート状セラミックス担持触媒の製造法が記載されており、特に次の事項が記載されている。
(r)、「本発明は触媒担体として単位容積当りの表面積が極めて広く且つ開孔率が大きいフルート状セラミックスを使用したフルート状セラミックス担持触媒の製造法に関するものである。」(第1頁左下欄第15〜18行)
(s)、「第二工程は成形工程で第一工程により抄紙した紙7、8を第1図に示す如くロール状に捲いて用意し、一方の紙7は成形ローラ1、2の噛合せ部に導いて波形紙7aとなし、つづいて波形ローラ2と塗布ローラ4bとの接触部に導き接着剤6を波形紙7aの波頂部に塗布後、他方の紙8とともに波形ローラ2と圧着ローラ3との間に通して両者を接着し片波成形体9を得、つづいて接着剤塗布装置5により片波成形体9の波形紙7aの波頂部に接着剤6を塗布して円筒状に捲取りフルート状成形体を得る。」(第2頁右上欄第19行〜左下欄第9行)

3、対比・判断
上記(a)(b)(d)〜(h)の記載から、引用例1には、「加熱消失可能な消失性繊維の水分散液中に金属粉を加え、一般に採用されている紙やボードの製法に準じて常法により消失性繊維と金属粉の重量比が1:1の平板状の混抄体を得た後乾燥し、該混抄体を加熱処理し、上記消失性繊維を消失させ、更に金属粉同士の焼結を行うことを特徴とする触媒担体用の多孔質金属焼結体の製造方法」(以下、引用例1発明という。)が記載されていると云える。
そこで、本願請求項1に係る発明(以下、本願発明という。)と引用例1発明を対比すると、引用例1発明の「触媒担体用の多孔質金属焼結体」、「消失性繊維」、「平板状の混抄体」は、それぞれ本願第1発明の「金属製触媒担体」、「繊維物質」、「シート状物」に相当するから、
両者は「下記(イ)〜(ニ)の工程からなる金属製触媒担体の製造方法。
(イ)金属粉末と繊維物質とを水中に混合する工程。
(ロ)シート状物を得る工程。
(ハ)シート状物を乾燥する工程。
(ニ)焼結処理する工程。」で一致し、
ただ、(1)本願発明では、(イ)(ロ)の工程でシート状物を得るのに重量混合比で1:2〜1:0.1の範囲で水中で金属粉末と繊維物質の混合物を得て、該混合物を60〜200メッシュのスクリーンで水分を除去しシート状物を得ているのに対して、引用例1発明では、一般に採用されている紙やボードの製法に準じて常法により繊維物質と金属粉末の重量比が1:1のシート状物を得ている点、
(2)本願発明では、(ニ)の工程の前に乾燥されたシート状物を波板に成形するとともに、その波板と乾燥された他のシート状物とをそれらの接触面に焼却により消失する接着剤を付着させて積層して積層体を作り、その積層体を渦巻状に巻回し、焼結処理時の収縮率を加味して最終製品より大きい巻回物を得ているのに対し、引用例1発明では乾燥されたシート状物をそのまま(ニ)の工程で焼結処理している点でのみ相違する。
そこで相違点(1)について検討する。
繊維物質と粉末からシート状物を得る際に、水中で混合物を得て、該混合物からスクリーンを使用して水分を除去しシート状物を得ることは「一般に採用されている紙やボードの製法に準じた方法」であるものと認められる(例えば、上記(m)の記載)。
したがって、引用例1発明において、一般に採用されている紙やボードの製法に準じて実施する以上、シート状物を得るのに水中で混合物を得て、該混合物からスクリーンを使用して水分を除去しシート状物を得ているものと認められる。また、引用例1発明において、シート状物の繊維物質と金属粉末の重量比が1:1であるから、スクリーンで脱水する前の水中で混合物の状態でも繊維物質と金属粉末の重量比が1:2〜1:0.1の範囲内であることは明らかである。
また、スクリーンの目の大きさは水の除去速度や、使用される繊維物質のスクリーンからの漏出等を勘案して適宜設定されるものであるから、スクリーンの目の大きさを60〜200メッシュとすることは、当業者が適宜設計する事項である。
次に相違点(2)について検討する。
一般に、担体の材質がセラミックスでも金属でも触媒担体として知られるハニカム構造体は波形と平形のシート状物を巻回して製造していることは普通に知られている(例えば、セラミックスの場合は引用例2〜5、金属の場合は本願審査時拒絶理由通知に引用された実開昭63-9223号公報、同じく実開昭63-201631号公報参照)。
その場合、抄造したシート状物からハニカム構造体を製造する際に、抄造したシート状物(抄造しその後成形加工する以上、当然、適度に乾燥していると解される)を波板に成形するとともに、その波板と他の平形のシート状物とをそれらの接触面に接着剤を付着させて積層して積層体を作り、その積層体を巻回し焼成してハニカム構造体を得ることも普通に知られている(例えば、引用例3〜5、上記(n)、(q)、(s)の記載参照)。その際、抄造し成形したシート状物を積層する際に、接着剤として、焼却により消失する接着剤を使用することも本件出願前公知の事実(引用例4、上記(q)の記載参照)である。
しかるに、上記(d)に摘示した引例1の記載によれば、金属粉-加熱消失性繊維混抄体は、「従来から一般に採用されている紙や繊維質ボード等の製法に準じて」製造することができるとされているから、この混抄体は、金属粉の混抄体であるからといって、格別の性質を持っているものとも認められず、また、上記(g)に摘示した引例1の記載によれば、金属粉-加熱消失性繊維混抄体は、「筒状等の任意の寸法・形状となし得るばかりでなく、焼結前・・・の変形加工等によっても自由に変更することができる」とされているから、上記混抄体はその成形加工時に波板状を維持するに足るだけの強度と柔軟性を有していることが認められる。
そうすると、上記金属粉-加熱消失性繊維混抄体を波板状とし、また、他の平板状混抄体と接着剤を用いて接着することもできることは、当業者には容易に予想できることであると認められるから、金属粉-加熱消失性繊維混抄体に上記のセラミック粉含有抄造シートの製造加工技術を応用することは、当業者が容易にできることであると認められる。
また、一般に焼結体を製造する際に、焼結処理時の収縮率を加味して最終製品より大きいものを焼結し、所望の最終製品を得ることは本件出願前周知の事項である。
したがって、引用例1発明において、抄造したシート状物からハニカム構造体を製造すること、すなわち相違点(2)の構成を具備することは当業者が容易に想到し得るものである。
そして、「ハニカム状の堅固な、かつ極めて表面積の大きな金属触媒担体を安価に製造することができる」という本願発明が奏する効果は、「全体に亘って均一な多孔性を有するものとなり、且つ焼結によって相互に3次元的に接合しあったものとなり、強度的にも優れたものとなる」(上記(c)の記載)という引用例1発明が奏する効果や、「生産性よく製造する」(刊行物1第2頁右上欄第2行)という引用例1発明の目的からみて当業者が予測できる範囲内のものであると云える。
4、むすび
したがって、本願発明は、上記引用例1〜5記載の発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2000-02-22 
結審通知日 2000-03-07 
審決日 2000-03-22 
出願番号 特願平1-228943
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B01J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 新居田 知生服部 智関 美祝  
特許庁審判長 吉田 敏明
特許庁審判官 野田 直人
唐戸 光雄
発明の名称 金属製触媒担体の製造方法  
代理人 石井 光正  

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