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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B60L
管理番号 1023292
審判番号 審判1997-20608  
総通号数 15 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1993-03-05 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 1997-12-04 
確定日 2000-08-23 
事件の表示 平成 3年特許願第213862号「電気車」拒絶査定に対する審判事件[平成 5年 3月 5日出願公開、特開平 5- 56504]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【1】本願発明
本願は、平成3年8月26日に出願され、当審において平成12年1月31日付で拒絶の理由が通知されたものであって、その発明を特定するために必要な事項は、平成9年8月1日付、平成9年12月17日付及び平成12年4月10日付の各手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1乃至3に記載された「電気車」にあるものと認められるところ、当該請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】バッテリと、使用者の指示によってアクセル信号を発生するアクセルと、前記アクセル信号に基づいてモータの駆動を制御する制御装置と、前記モータによって駆動される駆動輪と、前記制御装置への通電を入切するためのスイッチ手段と、該スイッチ手段の入切を通電状態、或いは遮断状態にすることで指示する電源スイッチと、前記アクセル信号を検知するアクセル信号検知回路とを備え、前記制御装置は、前記アクセル信号検知回路が所定時間連続してアクセル信号を出力しないことを検知した時に、前記電源スイッチの入状態に係わらず、前記スイッチ手段によって前記制御装置への通電を切り、アクセル信号を無効にすることを特徴とする電気車。」
【2】引用刊行物
これに対して、当審における拒絶の理由に引用された特開昭58-175557号公報(以下、「引用刊行物」という。)には、「電動車椅子の電源回路」に係る発明が開示され、その実施例と共に図面の第1図乃至第2図を参酌すると、以下の記載が認められる。
「電源スイッチの投入によりセットされる自己保持回路を介して電力を供給する電動車椅子の電源回路において、操作端末が中立位置にあることを検出するアクセル信号検出回路と、前記アクセル信号検出回路の出力が連続して一定時間以上持続したときに前記自己保持回路をリセットするリセット信号発生回路とから構成したことを特徴とするとする電動車椅子の電源回路。」(第1頁左下欄「特許請求の範囲」)
「電動車椅子の停車中あるいは駐車中に電源スイッチを入れたままにしておくと、電流が消費されてしまい特に長期に渡る駐車の場合には完全にバッテリを放電してしまい、次回の走行が不能になるばかりでなく、バッテリ性能を劣化させてしまう。
また、電源スイッチを入れたまま、不用意に操作レバーに触れると、車椅子が発車してしまい危険なことがあった。
そこで、本発明の目的は電動車椅子が停車中あるいは駐車中に電源スイッチを切り忘れることによるバッテリの容量損失を防止できる電動車椅子の電源回路を提供することにある。」(第1頁右下欄第1〜13行)
「第1図は本発明による電動車椅子の電源回路の実施例を示すブロック図である。
バッテリ1には電源自己保持回路2が接続されており、この電源自己保持回路2は電源スイッチ3をオンすることにより、セット入力端子Sにハイレベルの信号を入力して系をオンにし、安定化電源回路4を介して制御系は通電される。
操作端末5の操作によるアクセル信号によりモータ回転制御回路6で駆動モータ8の回転数が演算され、モータ回転制御回路6からの制御信号にしたがい車椅子の後輪を駆動するモータ8を回転させる。
他方、操作端末5からのアクセル信号はアクセル停止信号検出回路9に接続されている。アクセル停止信号検出回路9はウインドコンパレータ構成であって、アクセル信号が発生していない電圧レベルにあることを検出したときにハイレベルの信号を出力する回路である。
停止信号検出回路9の出力は微分回路10を介して比較器11の非反転入力端子に接続されている。比較器11の反転入力端子には比較電圧V2が接続され、出力端子は電源自己保持回路2のリセット端子Rに接続されている。」(第2頁左上欄第7行〜同頁右上欄第10行)
「電源スイッチ3がオンにされ電源自己保持回路2がセットされており、アクセル操作がされている走行状態にあるときには、停止信号検出回路9は殆ど停止信号を出力しないので、比較器11の反転入力端子の比較電圧V2は信号V1よりも大である。したがって、比較器11の出力はローレベルであり、電源自己保持回路2はリセットされない。(t0〜t1の時点)。
……(略)……。
つぎに、t3の時点で同様に停止して停止信号検出回路9がハイレベルを継続して出力してt4の時点でV1が比較器11の比較電圧V2に達した場合、比較器11の出力はハイレベルとなり、自己保持回路2のリセット端子Rはハイレベルの信号が入力され、自己保持状態が解除され電源系は自動的にオフされる。」(第2頁右上欄第15行〜同頁右下欄第1行)
「以上詳しく説明したように本発明によれば、以下のような種々の効果を呈する。
電源スイッチを切らなくてもある一定時間停止状態が持続すると自動的に電源はオフされるので、電源スイッチの切り忘れによる無駄な電力の消費および過放電によるバッテリの容量低下等のバッテリの劣化を防止できる。
また、ある時間停止していれば自動的に電源がオフされるため、操作者が誤ってアクセルレバー等に触れても作動せず安全である。」(第2頁右下欄第2〜11行)
【3】対比・判断
(対比)
本願発明と前記引用刊行物に記載された発明とを対比すると、前記引用刊行物における電動車椅子も電源スイッチ(3)の切り忘れ等による停車中乃至駐車中におけるバッテリ(1)の容量損失防止とアクセルレバーの誤操作に係わる安全性を達成するものであって、本願発明の電気車と差異を有するものとは認められない。
なお、引用刊行物には、モータ(8)によって駆動される「駆動輪」に係る構成が明示されていないが、このものも電動車であり「駆動輪」を具備することは当業者に自明の事項と認められる。
したがって、両者は、以下の一致点及び相違点を有するものと認められる。
(一致点)
「バッテリと、使用者の指示によってアクセル信号を発生するアクセルと、前記アクセル信号に基づいてモータの駆動を制御する制御装置と、前記モータによって駆動される駆動輪と、前記制御装置への通電を入切するためのスイッチ手段と、該スイッチ手段の入切を指示する電源スイッチと、前記アクセル信号を検知するアクセル信号検知回路とを備え、前記制御装置は、前記アクセル信号検知回路が所定時間連続してアクセル信号を出力しないことを検知した時に、前記電源スイッチの入状態に係わらず、前記スイッチ手段によって前記制御装置への通電を切る電気車。」
(相違点)
(1)電源スイッチが、本願発明にあっては、スイッチ手段の入切を通電状態、或いは遮断状態にすることで指示するものであるのに対し、前記引用刊行物に記載された発明にあっては、この点の構成が明確に記載されていないものである点。
(2)スイッチ手段によって制御装置への通電を切った後、本願発明にあっては、アクセル信号を無効とするようにしたものであるのに対し、前記引用刊行物に記載された発明にあっては、この点の構成が明確に記載されていないものである点。
(判断)
以下、相違点について検討する。
相違点(1)について、
通常、スイッチとは電気回路を接続したり遮断したりするための器具(マグローヒル「科学技術用語大辞典」第2版、参照)であって、電源スイッチは電源を接続(ON)及び遮断(OFF)するものでそのいずれの操作もすることができるものであり、また前記摘記したように引用刊行物においても「電源スイッチを切らなくても……オフされるので、電源スイッチの切り忘れによる……」旨、電源スイッチ(3)の操作指示に係わる作用効果を明記するところであるから、引用刊行物における電源スイッチ(3)は電源の接続(ON)・遮断(OFF)を指示することができるものである。
そして、通常、電源スイッチの操作指示を具体的にどのようなスイッチ構成で達成するかは当業者が適宜に定めうる設計上の事項と認められ、また電源スイッチの操作指示が、該電源スイッチを通電状態、或いは遮断状態にすることで指示される(これにより、スイッチ手段により実質的に電源の入切がなされる。)ように構成することは、従来より周知の技術的事項(必要であれば、原査定の拒絶の理由で引用された実願昭61-114941号(実開昭63-21401号)のマイクロフィルム[第1図電源スイッチ(20)]及び実願昭59-161763号(実開昭61-77635号)のマイクロフィルム[第3図電源スイッチ(3)]参照)である。
したがって、前記したように引用刊行物における電源スイッチ(3)においても電源の接続(ON)・遮断(OFF)を指示することができるものであり、該電源スイッチの具体的な構成も前記したように周知の技術的事項であるから、該電源スイッチ(3)を通電状態、或いは遮断状態にすることで指示するようになすことは当業者が適宜になし得ることと認められる。
相違点(2)について、
本願発明において、「アクセル信号を無効にする」ことの技術的意義は、その明細書中の記載を参酌すると、制御装置への通電が切られたことにより、その後にアクセルの操作をしてもモータが駆動することがない(【0010】欄参照)点にあるものと認められるが、前記引用刊行物においても、通電が切られた後にアクセルの操作をしてもモータが駆動することがないものであって、安全性を改善するものであり、またその構成に係わる記載全般を勘案すると、前記引用刊行物に記載された発明においてもアクセル信号を無効にするように構成することは当業者が容易になし得ることと認められる。
また、本願発明における作用効果も、前記引用刊行物に記載のものから当業者が容易に予測し得る程度のものであって格別のものとは認められない。
【4】審判請求人の主張について
審判請求人は、意見書において、概要「本願発明は、……(略)……請求項1の構成によると、アクセル信号検知回路からの信号が所定時間無い時……(略)……に、電源スイッチの入状態に係わらず制御装置への通電を切るようにしたものであり、引例の場合であれば、電源スイッチの信号によって通電が開始されますが、その後はINより継続して通電が行われ、Rからのリセット信号が入力されたときにだけ電源が遮断されるもので、通電時は電源スイッチによって行われますが、電源遮断はアクセル信号が所定時間継続して無いときに遮断されるので、アクセル信号が無い状態が所定時間経過するまでは通電された状態であり、自動的に電源が遮断される場合には都合がよいのですが、使用者が電源を遮断したいときにはできないものであります。そのため、所定時間経過するまでの間は、前照灯などのバッテリの消費は行われることになり、無駄に消費されてしまうものであります。」旨、主張している。
しかしながら、前記したように「スイッチ」とは電気回路を接続したり遮断したりするための器具(マグローヒル「科学技術用語大辞典」第2版、参照)であって、通常「電源スイッチ」は電源の接続(ON)・遮断(OFF)の両操作を行うことができる機能を具備するとするのが技術常識であり、また電源の接続(ON)のみで遮断(OFF)は行なうことができないものとすることは「電源スイッチ」における通常の使用態様からは特段の構成(この場合は、通常明記される。)と認められることから、この遮断(OFF)を行なうことができないとする特段の構成が明記されていない引用刊行物にあって、その電源スイッチ(3)は、当然に電源の遮断(OFF)を行うことができると解するのが当業者の技術常識に適うものである。
そして、この電源スイッチの機能の相違、すなわち引用刊行物における電源スイッチ(3)が「使用者が電源を遮断したいときにはできないものであり」との前提事項を論拠として、「そのため、所定時間経過するまでの間は、前照灯などのバッテリの消費は行われることになり、無駄に消費されてしまう」とする作用効果の主張は、当を得ないものものである。
したがって、審判請求人の主張は採用することができない。
【5】まとめ
以上のとおりであるから、本件特許請求の範囲の請求項1に記載された発明は、引用刊行物に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、特許請求の範囲の請求項2乃至3について、論及するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2000-05-19 
結審通知日 2000-06-06 
審決日 2000-06-21 
出願番号 特願平3-213862
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B60L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 平岡 憲一糟谷 洋治小池 隆▲弥▼湯原 忠男小川 謙藤井 浩西村 泰英長馬 望  
特許庁審判長 吉村 宅衛
特許庁審判官 西川 一
岩本 正義
発明の名称 電気車  
代理人 芝野 正雅  

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