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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  E04H
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  E04H
管理番号 1023883
異議申立番号 異議1999-72580  
総通号数 15 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1990-10-19 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-07-06 
確定日 2000-05-01 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2844078号「建造物用免震装置の外周被覆方法」の請求項1ないし9に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2844078号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。 
理由 1.本件発明
本件特許第2844078号に係る発明は、平成1年3月31日に特許出願され、平成10年10月30日にその特許権の設定の登録がなされ、その後押谷泰紀より特許異議の申立がなされ、次いで取消通知がなされ、その指定期間内である平成12年3月23日に訂正請求がされたものである。
2.訂正請求について
(2-1). 訂正の趣旨及び訂正の内容
訂正は、明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし請求項9を、以下の通り訂正するものである。
「【請求項1】胴部と底部より成る型の中に、胴部の内側面との間に適宜空間を有して免震装置を配し、前記空間に被覆材となる液状材料を注入した後、前記液状材料を硬化させ、さらに脱型することを特徴とする建造物用免震装置の外周被覆方法。
【請求項2】液状材料に難燃材を混ぜた請求項1記載の建造物用免震装置の外周被覆方法。
【請求項3】被覆材がシリコンゴムフォームよりなる請求項1又は2記載の建造物用免震装置の外周被覆方法。
【請求項4】被覆材が熱硬化型液状樹脂フォームからなる請求項1又は2記載の建造物用免震装置の外周被覆方法。
【請求項5】被覆材が液状ゴムフォームからなる請求項1又は2記載の建造物用免震装置の外周被覆方法。
【請求項6】被覆材がシリコンゴムからなる請求項1又は2記載の建造物用免震装置の外周被覆方法。
【請求項7】被覆材が熱硬化型液状樹脂からなる請求項1又は2記載の建造物用免震装置の外周被覆方法。
【請求項8】被覆材が液状ゴムからなる請求項1又は2記載の建造物用免震装置の外周被覆方法。
【請求項9】被覆材がプラスチゾルからなる請求項1又は2記載の建造物用免震装置の外周被覆方法。」
(2-2).訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
特許請求の範囲の上記訂正は、特許請求の範囲の誤記の訂正であって、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
3.異議申立ての理由の概要
特許異議申立人 押谷泰紀は証拠方法として、
甲第1号証(特開昭63ー51543号公報)、
甲第2号証(特開昭62ー83138号公報)、
甲第3号証(実願昭57-154924号(実開昭59-58107号)のマイクロフイルム)、
甲第4号証(1988年版「シリコーンとその応用」、東芝シリコーン株式会社、1988年10月1日発行、第142頁、第143頁、第158頁、第205頁、及び第215頁)、及び
甲第5号証(「化学大辞典 第7巻」、共立出版 株式会社発行、第942頁及び第943頁)を提出し、請求項1〜9記載の特許発明は、いずれも甲第1〜5号証の記載を組み合わせれば、当業者であれば容易になし遂げることができたものであり、何ら進歩性を有しないものである。従って、本件特許発明は、特許法第29条第2項の規定に該当し、特許を受けることができないものであると主張している。
さらに、参考資料甲1(「技術動向シリーズ 特許からみた可塑物の成形加工技術」、社団法人発明協会、昭和53年5月20日発行、第157頁及び第159頁)を提出し、参考資料甲1には、熱硬化性樹脂等を用いて、型の内部空隙部を所望の成形品の形状にした後、樹脂を流入させて、固化させた後割型を開いて成形品を得る方法が記載されており、このような方法は非常に多くの分野において一般に利用されていることであるから、本件特許発明(請求項1〜9の発明)もこのような方法を免震装置の外周被覆方法に転用したものにすぎず、その発明の構成に何ら困難性の認められないものである(特許異議申立書7頁中段)とも主張している。
4.甲各号証及び参考資料の記載事項
特許異議申立人の提出した甲各号証及び参考資料甲1(以下、「参考資料」という。)の記載事項について検討する。
特許異議申立人の提出した甲第1号証には、建築物等の構造物に、それらの基礎から伝達される振動エネルギーを減少させて構造物を地震から保護する免震防振装置の製造方法に関して、
「(1)少なくとも1枚の弾性板と複数枚の金属板とを交互に積層し固着して構成され、構造物あるいは各種機器とそれらの基礎との間に配置される免震防振装置の製造方法であって、前記弾性板を液状ゴムを用いて成型することを特徴とする免震防振装置の製造方法。
(中略)
(3)複数枚の金属板をスペーサを用いて一定間隔で固定した後、金属板の間の間隙に液状ゴムを充填し、しかる後に、室温または比較的低温の加熱状態において液状ゴムを硬化する特許請求の範囲第1項記載の免震防振装置の製造方法。」(特許請求の範囲)と記載され、
「平行に対向させたフランジ10,10の間において、・・・セパレータ11をフランジ10に直角に配するとともに、セパレータ11のくし刃状の支持部14に金属板15・・・を第1図に示す如く嵌入して組立体16を作成する。次に、第4図に示す容器17を用意し、この容器17に液状のシリコーンゴム等の液状ゴム18を満たし、この液状ゴム18に前記組立体16を投入する。・・・この操作により液状ゴム18は硬化して 金属板15どうしの間と、 金属板15とフランジ10の間に弾性板が形成される。ここで、前記液状ゴム18は、従来用いていた天然ゴムに比較して流動性が高いために金属板15の間の隙間と、金属板15およびフランジ10との間の隙間に均一に浸透する」(公報2頁右下欄2行〜3頁左上欄3行)と記載され、「次に、所定時間経過したならば、セパレータ11を取り外すとともに、金属板15の外方側のシリコーンゴムを切断して取り除くことにより第6図に示す免震防振装置と同等の構成の免震防振装置を製造することができる。このように液状ゴムを用いて免震防振装置を製造するならば、液状ゴムが金属板15間の間隙と、フランジ10および金属板15の間の間隙に均一に浸透するために、金属板15およびフランジ10に対して弾性板を十分に密着させることができ、品質の安定した免震防振装置を製造することができる」(公報3頁右上欄2〜13行)と記載され、
「ところで、前記実施例においては、液状ゴム18を金属板間に充填する手段として、容器17に満たした液状ゴム18に組立体16を投入する手段を用いたが、充填手段はこれに限定されるものではなく、組立体16を金型中に設置して、液状ゴムを注入して自然含浸させる方法、あるいは、この金型内に液状ゴムを加圧充填あるいは減圧充填する方法等を適宜選択することができる」(公報3頁左下欄4〜11行)と記載されている。
そして、甲第1号証には、液状ゴム18を金属板間に充填する手段として、前記記載のように、組立体16を金型中に設置して、液状ゴムを注入して自然含浸させる方法(公報3頁左下欄8〜9行)も記載されているから、この方法を採用すれば、甲第1号証には次のような発明が記載されているものと認められる。
「平行に対向させたフランジ10,10の間に、セパレータ11をフランジ10に直角に配するとともに、セパレータ11のくし刃状の支持部14に金属板15を嵌入して組立体16を形成し、この組立体16を金型中に設置し、次いで液状ゴム18を注入することによって、液状ゴムを金属板15どうしの間と、金属板15とフランジ10の間で硬化させ、脱型後、セパレータ11を取り外すとともに、金属板15の外方側の液状ゴムを切断して取り除くことを特徴とする免震防振装置の製造方法」
同じく提出した甲第2号証には、耐候性に優れた免震構造体に関して、
「複数個の剛性を有する硬質板と粘弾性的性質を有する軟質板とを交互に貼り合わせた免震構造体において、硬質板及び軟質板の外周縁部を耐候性に優れたゴム材料で被覆したことを特徴とする免震構造体。」(特許請求の範囲)と記載され、
被覆層と、硬質板及び軟質板との接着に関して、
「被覆層4は、硬質板3及び軟質板2と強固に接着することが重要であるが、接着は、
a 軟質板2のゴム材料(以下「内部ゴム」ということがある。)と被覆層4のゴム材料(以下「被覆ゴム」ということがある。)とを同時に加硫接着する方法。
b 内部ゴムのみ先に加硫した後、被覆ゴムを加硫させて接着させる二段式加硫接着法。
c 内部ゴム、被覆ゴムを別々に加硫した後、接着剤で貼り合わせる方法。
などにより容易に行える」(公報3頁右下欄2〜12行)と記載され、
「本発明の免震構造体においては、内部ゴムは被覆ゴムにより、空気、湿度、オゾン、紫外線、放射線、海風等の外部環境から完全に遮断されるため、これらにより劣化することがない。また、金属等の硬質板にも外部環境の影響が及ぼされることはないから、錆の発生や硬質板と軟質板との剥離の問題も解決される」(公報5頁右下欄10〜16行)と記載されている。
同じく提出した甲第3号証には、耐火手段を施した免震構造体に関して、
「鉛直方向及び水平方向にそれぞれ弾性変形可能な積層体を備えた免震構造体において、積層体外面を弾性を有する耐火材で被覆したことを特徴とする免震構造体。」(特許請求の範囲)と記載され、
「積層体11外周面は弾性を有する耐火材14により全面にわたって被覆されている。耐火材14としては、例えば、・・・自己消焔性ゴム等が用いられている。自己消焔性ゴムとしては、含ハロゲン有機化合物(例えば塩素化パラフイン)、リン酸エステル(例えばトリフェニルホスフェート)・・・がそれぞれ配合されたゴム、クロロプレンゴム・・・等が使用され、積層体11の外周面に接着剤等で接合一体化されるが・・・」(明細書3頁17行〜4頁8行)と記載され、
「火災時には、耐火材14の機能により、弾性板12が燃え難いと共に、硬質板13への熱伝導が従来より遅くなって、硬質板13と弾性板12との固着力が失われにくく・・・」(明細書4頁13〜17行)と記載され、
「本考案は、積層体の外面を耐火材で被覆したので、積層体が燃えにくく、・・・耐火材に弾性を具備させたので、耐火材が積層体の弾性変形に支障を及ぼしたりすることはなく・・・」(明細書9頁15〜20行)と記載されている。
同じく提出した甲第4号証には、液状シリコーンゴムに関して、次のような記載がある。
「液状シリコーンゴムは機械的特性が比較的弱い以外は、ゴムとして要求されるほとんどの特性において優れていることと、施工や加工が容易なことから、建築、土木、電気・電子、自動車、事務用機器,航空・宇宙産業などにその応用分野を広げつつあり,また最近ではさらに導電性や超耐熱性を付与されたものや、ゲル状、フォーム状、塗膜状のものも開発され、一口にゴムと称すことも難しくなるほど多様化を極めている。」
同じく提出した甲第5号証は、本件特許に係る発明の出願前に頒布されたか否かが明らかでないところではあるが、プラスチゾルに関して、次のような記載がある。
「プラスチゾル・・・加熱によって成形、注型あるいは連続フイルム状に成形できるように、樹脂と可塑剤とを混ぜた混合物をいう。普通は塩化ビニル樹脂粉末と可塑剤とを混和してペースト状にしたものをいい、熱処理によってゲル化し均一な弾性体にすることができるので、これを型に入れて加熱成形し、人形、手袋など種々の製品をつくるのに用いる。」
同じく提出した参考資料には、注型成形に関して、次のような記載がある。
「型(一般には割型)の内部空隙部を所望の成形品の形状にした後、熱可塑性の樹脂を流入させて、固化させて、固化させた後、割型を開いて成形品を得る。」
5.本件請求項1ないし請求項9に係る発明
本件請求項1ないし請求項9に係る発明は、訂正明細書の特許請求の範囲に記載されたとおりのものと認める(上記2.(2-1)欄参照)。
6.対比、判断
本件請求項1ないし請求項9に係る発明と甲各号証、及び参考資料に記載された発明とを対比する。
(1)本件請求項1に係る発明について
本件請求項に係る発明が解決しようとする技術課題は、「免震装置との固定状態が強固であると共に、耐熱性や難燃性をもたせるために必要とする材料を用いて、容易且つ迅速に外周被覆層を形成することのできる、建造物用免震装置の外周被覆方法を提起しようとする」(本件特許掲載公報3欄16〜21行)ものと認められ、発明の効果は、「完成している免震装置1に対して必要に応じて外周被覆層4を設けることができ、・・・この方法によって外周被覆層4を作ると、作業が容易であると共に、外周被覆層4が免震装置1に強固に固定されており、且つ免震装置1を構成しているゴム層の材料とは別個の、耐熱性・難燃性に選れた材料を選定して外周被覆層4を形成することができる」(同公報6欄4〜13行)ものと認められ、前記「完成している免震装置1」とは、適宜の厚みとした金属板2とゴム層3を交互に積層したもので、略円柱形状を有するもの(同公報3欄44〜46行)と認められる。
これに対して、甲第1号証の発明の目的は、免震防振装置の一部を構成する金属板に対して弾性板(液状ゴム)が十分に密着できるようにしようとするものであって、そのために複数枚の金属板を一定の間隔で配置し、その金属板どうしの間隙に液状ゴムを注入したもので、しかも、金属板の外方側で硬化した液状ゴムは切断して取り除かれるものであるから、これは要するに、甲第1号証においては、本件請求項に係る発明でいうところの「(完成している)免震装置」を製造しようとするものであり、免震防振装置の外周を硬化した液状ゴムで被覆しようとすることなどは何も考慮していないのである。
以上のように、 本件請求項に係る発明と甲第1号証に記載の発明とは、その技術思想において大きく相違している。
次に、本件請求項1に係る発明の構成と、甲第1号証の発明の構成とを対比すると、甲第1号証の発明の「金型」及び「液状ゴム」は、それぞれ本件請求項1に係る発明の「胴部と底部より成る型」及び「液状材料」に対応するから、両発明は、「胴部と底部より成る型の中に、胴部の内側面との間に適宜空間を有して所要物を配し、前記空間に液状材料を注入した後、前記液状材料を硬化させ、さらに脱型する」点で構成が一致しており、次の(イ)〜(ハ)点で構成が相違している。
(イ)本件請求項1に係る発明では、型の中に配する所要物が(完成している)免震装置である(以下「構成A」という。)のに対して、甲第1号証の発明では、金型の中に設置される所要物はいまだ免震防振装置となっていない複数枚の金属板を一定の間隔で配置した組立体である点。
(ロ)本件請求項1に係る発明が、型の胴部の内側面と免震装置との間の適宜空間に被覆材となる液状材料を注入し(以下、「構成B」という。)、その注入された液状材料が硬化して(完成している)免震装置の被覆材となるのに対して、甲第1号証の発明では、金型に注入された液状ゴムは、組立体の金属板どうしの間隙に注入されて免震防振装置を形成するが、免震防振装置の被覆材とはならない点。
(ハ)本件請求項1に係る発明が、建造物用免震装置の外周被覆方法に係る発明であるのに対して、甲第1号証の発明は、免震防振装置の製造方法に係る発明である点。
以上のとおり、本件請求項1に係る発明と甲第1号証に記載の発明とは、その技術思想、及び構成において相違している。
そこで、これら相違を甲第2〜5号証、及び参考資料をもとに検討する。
甲第2号証には、複数個の剛性を有する硬質板と粘弾性的性質を有する軟質板とを交互に貼り合わせた免震構造体において、硬質板及び軟質板の外周縁部を耐候性に優れたゴム材料で被覆した免震構造体が記載され、
被覆層4と、硬質板3及び軟質板2との接着に関して、
a 軟質板2のゴム材料(以下「内部ゴム」ということがある。)と被覆層4のゴム材料(以下「被覆ゴム」ということがある。)とを同時に加硫接着する方法。
b 内部ゴムのみ先に加硫した後、被覆ゴムを加硫させて接着させる二段式加硫接着法。
c 内部ゴム、被覆ゴムを別々に加硫した後、接着剤で貼り合わせる方法。
などにより容易に行えるという記載があるが、 本件請求項1に係る発明の前記「構成A」及び「構成B」は記載されていない。
また、甲第3号証には、鉛直方向及び水平方向にそれぞれ弾性変形可能な積層体を備えた免震構造体において、積層体外面を弾性を有する耐火材で被覆したことを特徴とする免震構造体が記載されているだけであり、
甲第4号証には、液状シリコーンゴムが、建築、土木分野などで利用され、フォーム状のものも開発されているということが記載されているだけであり、
甲第5号証の刊行物が、本件特許に係る発明の出願前に頒布されたか否かは別として、甲第5号証には、プラスチゾルに関する技術事項が記載されているだけであり、
参考資料には、注型成形に関する一般技術が記載されているだけであって、
甲第2号証〜甲第5号証、及び参考資料のいずれにも本件請求項1に係る発明の前記「構成A」及び「構成B」の構成はもちろん、それを示唆する記載もない。
そうすると、甲第1号証〜甲第5号証、及び参考資料には、本件請求項1に係る発明の前記「構成A」及び「構成B」が記載されておらず、これら構成には技術的意義が認められるから、本件請求項1に係る発明が、甲第1号証〜甲第5号証、及び参考資料に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとは認められない。
なお、特許異議申立人は、参考資料には、熱硬化性樹脂等を用いて、型の内部空隙部を所望の成形品の形状にした後、樹脂を流入させて、固化させた後割型を開いて成形品を得る方法が記載されており、このような方法は非常に多くの分野において一般に利用されていることであるから、本件特許発明(請求項1〜9の発明)もこのような方法を免震装置の外周被覆方法に転用したものにすぎず、その発明の構成に何ら困難性が認められないと主張するものであるが、この参考資料の技術は、単に、型の内部空隙部を所望の成形品の形状にした後、樹脂を流入させて、固化させるというものであって、型の内部空隙部に所要物を配し、その所要物の外面と型の内面の間に形成された空隙に樹脂を流入させて、固化させるという技術、つまり、本件請求項1に係る発明が採用した「胴部と底部より成る型の中に、胴部の内側面との間に適宜空間を有して免震装置を配し、前記空間に被覆材となる液状材料を注入した後、前記液状材料を硬化させ」という構成とは相違しているから、本件特許発明は、参考資料に記載の方法を免震装置の外周彼覆方法に転用したものにすぎず、その発明の構成に何ら困難性が認められないという特許異議申立人の前記主張は採用できない。
(2)本件請求項2に係る発明について
本件請求項2に係る発明は、本件請求項1に係る発明を引用し、本件請求項1に係る発明の液状材料に難燃材を混ぜたと限定したものである。
そして、本件請求項1に係る発明が、甲第1号証〜甲第5号証、及び参考資料に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたと認められない以上、その本件請求項1に係る発明を技術的に限定した本件請求項2に係る発明が、甲第1号証〜甲第5号証、及び参考資料に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたといえないのは明らかである。
(3)本件請求項3に係る発明について
本件請求項3に係る発明は、本件請求項1または本件請求項2に係る発明を引用し、それら請求項に係る発明の被覆材がシリコンゴムフォームよりなると限定したものである。
そして、本件請求項1または本件請求項2に係る発明が、甲第1号証〜甲第5号証、及び参考資料に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたと認められない以上、その本件請求項1または本件請求項2に係る発明を技術的に限定した本件請求項3に係る発明が、甲第1号証〜甲第5号証、及び参考資料に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたといえないのは明らかである。
(4)本件請求項4に係る発明について
本件請求項4に係る発明は、本件請求項1または本件請求項2に係る発明を引用し、それら本件請求項に係る発明の被覆材が熱硬化型液状樹脂フォームからなると限定したものである。
そして、本件請求項1または本件請求項2に係る発明が甲第1号証〜甲第5号証、及び参考資料に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたと認められない以上、その本件請求項1または本件請求項2に係る発明を技術的に限定した本件請求項4に係る発明が、甲第1号証〜甲第5号証、及び参考資料に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたといえないのは明らかである。
(5)本件請求項5に係る発明について
本件請求項5に係る発明は、本件請求項1または本件請求項2に係る発明を引用し、それら本件請求項に係る発明の被覆材が液状ゴムフォームからなると限定したものである。
そして、本件請求項1または本件請求項2に係る発明が、甲第1号証〜甲第5号証、及び参考資料に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたと認められない以上、その本件請求項1または本件請求項2に係る発明を技術的に限定した本件請求項5に係る発明が、甲第1号証〜甲第5号証、及び参考資料に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたといえないのは明らかである。
(6)本件請求項6に係る発明について
本件請求項6に係る発明は、本件請求項1または本件請求項2に係る発明を引用し、それら本件請求項に係る発明の被覆材がシリコンゴムからなると限定したものである。
そして、本件請求項1または本件請求項2に係る発明が、甲第1号証〜甲第5号証、及び参考資料に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたと認められない以上、その本件請求項1または本件請求項2に係る発明を技術的に限定した本件請求項6に係る発明が、甲第1号証〜甲第5号証、及び参考資料に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたといえないのは明らかである。
(7)本件請求項7に係る発明について
本件請求項7に係る発明は、本件請求項1または本件請求項2に係る発明を引用し、それら本件請求項に係る発明の被覆材が熱硬化型液状樹脂からなると限定したものである。
そして、本件請求項1または本件請求項2に係る発明が、甲第1号証〜甲第5号証、及び参考資料に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたと認められない以上、その本件請求項1または本件請求項2に係る発明を技術的に限定した本件請求項7に係る発明が、甲第1号証〜甲第5号証、及び参考資料に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたといえないのは明らかである。
(8)本件請求項8に係る発明について
本件請求項8に係る発明は、本件請求項1または本件請求項2に係る発明を引用し、それら本件請求項に係る発明の被覆材が液状ゴムからなると限定したものである。
そして、本件請求項1または本件請求項2に係る発明が、甲第1号証〜甲第5号、及び参考資料に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたと認められない以上、その本件請求項1または本件請求項2に係る発明を技術的に限定した本件請求項8に係る発明が、甲第1号証〜甲第5号証、及び参考資料に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたといえないのは明らかである。
(9)本件請求項9に係る発明について
本件請求項9に係る発明は、本件請求項1または本件請求項2に係る発明を引用し、それら本件請求項に係る発明の被覆材がプラスチゾルからなると限定したものである。
そして、本件請求項1または本件請求項2に係る発明が、甲第1号証〜甲第5号証、及び参考資料に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたと認められない以上、その本件請求項1または本件請求項2に係る発明を技術的に限定した本件請求項9に係る発明が、甲第1号証〜甲第5号証、及び参考資料に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたといえないのは明らかである。
7.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び提出した証拠方法(参考資料を含む。)によっては、本件請求項1〜請求項9に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1〜請求項9に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
建造物用免震装置の外周被覆方法
(57)【特許請求の範囲】
1.胴部と底部より成る型の中に、胴部の内側面との間に適宜空間を有して免震装置を配し、前記空間に被覆材となる液状材料を注入した後、前記液状材料を硬化させ、さらに脱型することを特徴とする建造物用免震装置の外周被覆方法。
2.液状材料に難燃材を混ぜた請求項1記載の建造物用免震装置の外周被覆方法。
3.被覆材がシリコンゴムフォームよりなる請求項1又は2記載の建造物用免震装置の外周被覆方法。
4.被覆材が熱硬化型液状樹脂フォームからなる請求項1又は2記載の建造物用免震装置の外周被覆方法。
5.被覆材が液状ゴムフォームからなる請求項1又は2記載の建造物用免震装置の外周被覆方法。
6.被覆材がシリコンゴムからなる請求項1又は2記載の建造物用免震装置の外周被覆方法。
7.被覆材が熱硬化型液状樹脂からなる請求項1又は2記載の建造物用免震装置の外周被覆方法。
8.被覆材が液状ゴムからなる請求項1又は2記載の建造物用免震装置の外周被覆方法。
9.被覆材がプラスチゾルからなる請求項1又は2記載の建造物用免震装置の外周被覆方法。
【発明の詳細な説明】
〔産業上の利用分野〕
この発明は、地震の際の揺れを和らげるために各種建造物の底部分に用いる免震装置の外周に、被覆層を形成する方法に関するものである。
〔従来の技術〕
従来より、建造物用免震装置の外周に耐熱性・難燃性をもたせるための被覆層を形成することは考えられてきた。
しかし、従来の免震装置の外周被覆層は、ゴムの板状物を巻きつけたもの、又は免震装置のゴム層を外周にはみ出させて一体に形成したものであった。
前記のゴムの板状物を巻きつける方法の場合には、被覆層と免震装置の固定が強固にならないと共に、巻きつけ作業に多くの手数が掛かり、容易且つ迅速に被覆層を作ることができなかった。
また免震装置のゴム層を外周にはみ出させて、このはみ出し部分を被覆層とする方法の場合には製造を容易に行うことができない他、被覆層の材料が免震装置のゴム層の材料と同一にしかできず、耐熱性や難燃性をもたせるために必要とする好ましい材料の選定ができなかった。
〔発明が解決しようとする課題〕
そこでこの発明では、免震装置との固定状態が強固であると共に、耐熱性や難燃性をもたせるために必要とする材料を用いて、容易且つ迅速に外周被覆層を形成することのできる、建造物用免震装置の外周被覆方法を提起しようとするものである。
〔課題を解決するための手段〕
そのためにこの発明では、胴部と底部より成る型の中に、胴部の内側面との間に適宜空間を有して免震装置を配し、前記空間に被覆材となる液状材料を注入した後、前記液状材料を硬化させ、さらに脱型するようにした建造物用免震装置の外周被覆方法を提起した。
また、液状材料に難燃材を混ぜて実施できる他、被覆材として、シリコンゴムフォーム、熱硬化型液状樹脂フォーム、液状ゴムフォーム、シリコンゴム、熱硬化型液状樹脂、液状ゴム、プラスチゾルなどを用いることができる。
〔作用〕
上記の方法を採用すると、液状主剤や硬化剤などから成る液状材料を型の中に流し込むことにより免震装置に外周被覆層と形成することができ、作業が容易であると共に、被覆層が免震装置に強固に固定されており、且つ免震装置を構成しているゴム層の材料とは別個の、耐熱性・難燃性に優れた材料を選定して被覆層を形成することができる。
〔実施例〕
以下、この発明の構成を1実施例として示した図面に従って説明する。
(1)は免震装置で、適宜の厚みとした金属板(2)とゴム層(3)を交互に積層して成り、一般的には略円柱形状を有しており、地震の振動を和らげて建造物に伝えるように各種の建造物の底部分に配される。
(4)は外周被覆層で、免震装置(1)の上下両面を除く外周全面に設けられてあり、火災が発生しても免震装置(1)を保護するために設けられている。前記の外周被覆層(4)は、第2図及び第3図に示す通りの型(5)を用いて作られる。
すなわち、前記の型(5)は胴部(6)と底部(7)より成っており、外周被覆層(4)を形成する際には、胴部(6)の内側面との間に適宜空間(8)を有して免震装置(1)を型(5)中に挿入する。
前記の空間(8)は被覆層(4)になる部分であり、この空間(8)に被覆層(4)になる液状主剤と硬化剤の混合液(液状材料)を注入する。
尚、主剤の種類によっては硬化剤が不要な場合もある。
混合液を注入した後、暫く放置すると硬化剤の作用で前記液状材料は硬化し、免震装置(1)の外周に一体的に装着され、外周被覆層(4)を形成した状態となる。
このようにして外周被覆層(4)を設けた免震装置(1)を型(5)から抜き取る(離型する)と、必要とする外周被覆層(4)を形成した免震装置(1)を得ることができる。
また、難燃性を大きくするために、液状材料に難燃材を混ぜて実施できる他、断熱性をもたせるために液状材料に発砲剤を混入させて、外周被覆層(4)を発砲させて実施することもできる。
この外周被覆層(4)はいろんな材料を用いて実施できるが、液状シリコンゴムフォーム被覆として実施することが望ましい。
この場合には、他の被覆材としてポリウレタン等の熱硬化型液状樹脂フォーム、液状ゴムフォームを用いて実施することができる。
また、液状シリコンゴムを外周被覆層(4)とすることができる他、ポリウレタン等の熱硬化型液状樹脂、液状ゴム、プラスチゾル等を用いることができる。
これら免震装置における外周被覆層(4)形成の場合、免震装置本体と外周被覆層(4)との間に接着剤を使用することがより好ましい。
次にこの発明の具体的な実施例を説明する。
実施例1
被覆材がシリコンゴムフォームである場合、液状の主剤と硬化剤を1対1の割合で混合した混合液(液状材料)を2リットル型(5)内の空間(8)に流し込み、10分間、常温下で放置すると混合液は硬化し、免震装置(1)に厚さ約2cmの外周被覆層(4)を設けることができた。
この液状シリコンゴムフォーム被覆の場合、室温で短時間のうちに発泡硬化させることができ、加工性が良く、軽量で製品のコストダウンも図れる。また、被覆層の取り替えも容易である。
実施例2
被覆材がシリコンゴムである場合、液状の主剤と硬化剤を10対1の割合で混合した混合液を2リットル型(5)内の空間(8)に流し込み、40度C温度下24時間放置すると混合液は硬化し、免震装置(1)に厚さ約1cmの外周被覆層(4)を設けることができた。
実使用時における製品の信頼性(寿命)の面では、前記の液状シリコンゴムフォーム被覆の場合より液状シリコンゴム被覆の方が好ましい結果を得ることができる。
実施例3
被覆材がポリウレタン(熱硬化型液状樹脂)である場合、液状の主剤と硬化剤を3対2の割合で混合した混合液を2リットル型(5)内の空間(8)に流し込み、24時間、常温下で放置すると混合液は硬化し、免震装置1に厚さ約1cmの外周被覆層(4)を設けることができた。
実施例4
被覆材が塩化ビニル(プラスチゾル)である場合、塩化ビニル配合液を2リットル型(5)内の空間(8)に流し込み、150度C温度下で60分間放置すると配合液は硬化し、免震装置(1)に厚さ約1cmの外周被覆層(4)を設けることができた。
〔発明の効果〕
この発明は上述のような構成を有するものであり、従って、型(5)の中に免震装置(1)を挿入すると共に液状材料を型(5)の中の空間(8)に流し込むことにより免震装置(1)に外周被覆層(4)を形成することができる。
よって、この方法によれば完成している免震装置(1)に対して必要に応じて外周被覆層(4)を設けることができ、免震装置(1)の設置場所に於いても外周被覆層(4)を形成することが可能である。
また、この方法によって外周被覆層(4)を作ると、作業が容易であると共に、外周被覆層(4)が免震装置(1)に強固に固定されており、且つ免震装置(1)を構成しているゴム層の材料とは別個の、耐熱性・難燃性に優れた材料を選定して外周被覆層(4)を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
第1図は外周被覆層を有する免震装置の断面図。第2図は型の中に免震装置を挿入した状態の斜視図。第3図は第2図の中央縦断面図。
(1)…免震装置 (2)…金属板 (3)…ゴム層 (4)…外周被覆層 (5)…型 (6)…胴部 (7)…底部 (8)…空間
 
訂正の要旨 本件訂正は、誤記の訂正を目的として、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の請求項の記載を、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項に記載のとおり、
「【請求項1】胴部と底部より成る型の中に、胴部の内側面との間に適宜空間を有して免震装置を配し、前記空間に被覆材となる液状材料を注入した後、前記液状材料を硬化させ、さらに脱型することを特徴とする建造物用免震装置の外周被覆方法。
【請求項2】液状材料に難燃材を混ぜた請求項1記載の建造物用免震装置の外周被覆方法。
【請求項3】被覆材がシリコンゴムフォームよりなる請求項1又は2記載の建造物用免震装置の外周被覆方法。
【請求項4】被覆材が熱硬化型液状樹脂フォームからなる請求項1又は2記載の建造物用免震装置の外周被覆方法。
【請求項5】被覆材が液状ゴムフォームからなる請求項1又は2記載の建造物用免震装置の外周被覆方法。
【請求項6】被覆材がシリコンゴムからなる請求項1又は2記載の建造物用免震装置の外周被覆方法。
【請求項7】被覆材が熱硬化型液状樹脂からなる請求項1又は2記載の建造物用免震装置の外周被覆方法。
【請求項8】被覆材が液状ゴムからなる請求項1又は2記載の建造物用免震装置の外周被覆方法。
【請求項9】被覆材がプラスチゾルからなる請求項1又は2記載の建造物用免震装置の外周被覆方法。」と訂正する。
異議決定日 2000-04-10 
出願番号 特願平1-82124
審決分類 P 1 651・ 121- YA (E04H)
P 1 651・ 534- YA (E04H)
最終処分 維持  
前審関与審査官 渋谷 知子  
特許庁審判長 佐田 洋一郎
特許庁審判官 小野 忠悦
宮崎 恭
登録日 1998-10-30 
登録番号 特許第2844078号(P2844078)
権利者 ニッタ株式会社
発明の名称 建造物用免震装置の外周被覆方法  
代理人 辻本 一義  

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