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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
管理番号 1023906
異議申立番号 異議1999-70414  
総通号数 15 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-02-14 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-02-08 
確定日 2000-05-01 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2783349号「n型窒化ガリウム系化合物半導体層の電極及びその形成方法」の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2783349号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第2,783,349号に係る主な手続の経緯は以下のとおりである。
特許出願(特願平5-207274)平成5年7月28日
特許権設定登録 平成10年5月22日
公報発行日 平成10年8月6日
異議の申立て 平成11年2月8日
訂正請求 平成11年8月30日
手続補正(訂正請求) 平成12年2月18

2.訂正の適否についての判断
上記手続補正書により補正された訂正請求について検討する。
(1)訂正の目的の適否等について
訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1において、「前記電極が、」を「前記電極が、前記n型窒化ガリウム系化合物半導体層上にチタンとアルミニウムよりなる多層膜が形成された後、またはn型窒化ガリウム系化合物半導体層と接する側にチタンとアルミニウムとを含む合金が形成された後にアニーリングされてなるものであり、」と訂正することは、特許請求の範囲の減縮に該当し、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1において、「少なくともそのn型窒化ガリウム系化合物半導体に接する側の領域にチタンが含まれ、」とあるを「前記n型窒化ガリウム系化合物半導体に接する側の領域にチタンに加えてアルミニウムが含まれ、」と訂正することは、特許請求の範囲の減縮に該当し、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
訂正事項3
特許請求の範囲の減縮を目的として、請求項2を削除する。
訂正事項4
発明の詳細な説明の段落【0008】において、「前記電極が、」を「前記電極が、前記n型窒化ガリウム系化合物半導体層上にチタンとアルミニウムよりなる多層膜が形成された後、またはn型窒化ガリウム系化合物半導体層と接する側にチタンとアルミニウムとを含む合金が形成された後にアニーリングされてなるものであり、」と訂正することは、上記訂正事項1の訂正と整合させるためのものであり、明瞭でない記載の釈明に該当し、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
訂正事項5
発明の詳細な説明の段落【0008】において、「少なくともそのn型窒化ガリウム系化合物半導体に接する側の領域にチタンが含まれ、」とあるを「前記n型窒化ガリウム系化合物半導体に接する側の領域にチタンに加えてアルミニウムが含まれ、」と訂正することは、上記訂正事項1の訂正と整合させるためのものであり、明瞭でない記載の釈明に該当し、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
訂正事項6
発明の詳細な説明の段落【0008】において、「さらに本発明では前記n型壁化ガリウム系化合物半導体に接する側の領域にチタンに加えてアルミニウムが含まれていることを特徴とする。」を削除することは、上記請求項2の削除に伴い明細書の整合をはかるものであり、明瞭でない記載の釈明に該当し、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
訂正事項7
請求項3を請求項2に繰り上げることは、請求項2の削除に伴うものであり、明瞭でない記載の釈明し、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

(2)独立特許要件の判断
(2.1)本件発明
訂正された明細書の特許請求の範囲請求項1乃び2に記載されている事項により特定される発明(以下「本件第1発明」などという。)は、以下のとおりのものである。
「【請求項1】n型窒化ガリウム系化合物半導体層表面に形成されたオーミック接触用の電極であって、前記電極が、前記n型窒化ガリウム系化合物半導体層上にチタンとアルミニウムよりなる多層膜が形成された後、またはn型窒化ガリウム系化合物半導体層と接する側にチタンとアルミニウムとを含む合金が形成された後にアニーリングされてなるものであり、前記n型窒化ガリウム系化合物半導体に接する側の領域にチタンに加えてアルミニウムが含まれ、その上の領域にチタンとアルミニウムとが含まれていることを特徴とするn型窒化ガリウム系化合物半導体層の電極。
【請求項2】n型窒化ガリウム系化合物半導体層表面に接する側にチタン膜を形成し、その上にアルミニウム膜を形成して多層膜とした後、アニーリングすることにより、その多層膜の一部若しくは全部を合金化して、そのn型窒化ガリウム系化合物半導体とオーミック接触させることを特徴とするn型窒化ガリウム系化合物半導体層の電極形成方法。」
(2.2)引用刊行物に記載された発明
異議申立人シャープ株式会社の提示する甲第1号証(特開平4-273175号公報、以下「刊行物1」という。)には、「【0013】すなわち、上記構成の半導体発光素子は、第1の電極たるN側電極直下において、I型GaN層(I層)を貫通しN型GaN層(N層)まで達するN型低抵抗領域が形成され、N型GaN層へのコンタクトをこのN型低抵抗領域を介して行っている。そして、このN型低抵抗領域は、特定の熱処理によってN側電極材料をGaN層中へ拡散させることによって形成している。N型低抵抗領域の深さはI層の深さより深ければ良く、サファイア基板にまで到達していてもよい。
【0014】また、N側電極は、例えばニッケル(Ni)単体でも構成することができるが、チタン(Ti)またはクロム(Cr)による第1の薄膜と、NiまたはNiを含む合金による第2の薄膜とを積層した2層構造の電極を好ましく用いることができる。Ni層単独の場合には、該Ni層のGaN層に対する密着性が悪いため、TiあるいはCrの薄膜を介して電極を形成することにより、Ni層-GaN層の密着性を向上させることができ、また熱処理後のオーミック特性も良好となる。」
同じく甲第2号証(Appl. Phys. Lett. 62(15)12 April 1993, pp1786-1787、以下「刊行物2」という。)には、第1786頁右欄第7行目〜第14行目において、「図1はこれら1つのデバイスの平面図及び断面図を示す。図1のデバイスのゲート長さと幅はそれぞれ4μmと100μmであった。チャネル開ロ部(ソースとドレインの距離)は10μmであり、ゲートの占める割合は0.4であった。オーミックコンタクトとして、25ÅのTi上に1500ÅのAuで被せたものを用いた。オーミックコンタクトは250℃、30秒でアニールされる。」と記載されている。
同じく甲第3号証(特開平1-125870号公報、以下「刊行物3」という。)には、その特許請求の範囲において、「n型砒化ガリウム結晶表面にチタン(Ti)-アルミニウム(Al)-チタン(Ti)からなる金属層を設け、この金属層と前記n型砒化ガリウム結晶との界面にショットキ障壁を形成せしめてなる砒化ガリウムショットキ障壁型半導体装置」と記載され、上記公報第2頁右上欄第3行目乃至第10行目において、Ti-Al-Tiの順に電極を形成し、しかる後に熱処理をすることが記載されている。また、同じく第2頁左下欄の表及び第2頁左下欄第19行目乃至右下欄第2行目には、チタン上にアルミニウム/チタンからなる電極を設けることで電極の劣化が抑制できると記載されている。
同じく甲第4号証(第27回応用物理学関係連合講演会講演予稿集:昭和55年4月1日〜4日 第527頁、「4p-D-14」、以下「刊行物4」という。)には、シリコン基板に対するTi-Al電極について記載され、熱処理することによってTi-Al化合物層を形成することが記載されている。
同じく甲第5号証(特開平3-108779号公報、以下「刊行物5」という。)には、「次に、1分経過した時にTMAの供給を停止して、サファイア基板1の温度を1150℃に保持し、H2を2.5l/分、NH3を1.5l/分、TMGを1.7×10-5モル/分で60分間供給し、膜厚約3μmのn型のGaN層3を形成した。」(第2頁右下欄第8行〜第12行)、「その後、その試料に穴径200μmφ、500μmピッチの穴のあいたステンレス板をマスクとしてアルミニウムを基板温度225℃、蒸着時の真空度3×10-6Torrで厚さ5000Åに蒸着して、第5図に示すように電極6を形成した。」(第3頁左下欄第16行〜第20行)及び「又、アルゴン(Ar)ガスのエッチング時間を10分から20分に延長して、同様にアルミニウムの電極を形成して、そのV-I特性を測定した。その結果を第6図(c)に示す。若干、オーミック性が悪くなることが分かる。しかし、その試料をシンターすると、第6図(h)に示すように、オーミック性が改善されることが理解される。」(第3頁右下欄第9行〜第15行)と記載されている。
同じく甲第6号証(特開平3-133176号公報、以下「刊行物6」という。)には、「炭化珪素単結晶に対して用いるオーム性電極がチタン-アルミニウム合金であることを特徴とする炭化珪素半導体装置。」(請求項1)及び「Ti-Al合金は炭化珪素単結晶に対してオーム性電極となり、その膜は炭化珪素単結晶と強く密着し、外部配線との直接接続を可能とする。また、Ti-Al合金は、融点(660℃)の低いAl合金であるためその融点はTiに比べ低く真空蒸着による厚膜形成を容易にし、真空蒸着によりSiC単結晶表面に緻密かつ密着力の強いオーム性電極となるTi-Al合金が形成される。」(第2頁左上欄第18行〜右上欄第5行)と記載されている。

(2.3) 本件第1発明について
本件第1発明は、n型窒化ガリウム系化合物半導体に接する側の領域にチタンに加えてアルミニウムが含まれ、その上の領域にチタンとアルミニウムとが含まれていることを特徴とするn型窒化ガリウム系化合物半導体層の電極であるが、上記刊行物1乃至6には、上記本件第1発明の特徴点についての記載がなく、また、示唆もない。
すなわち、上記刊行物3、4及び6には、チタン-アルミニウムからなる金属層の電極を設けてはいるが、積層される側の半導体は、それぞれ砒化ガリウム、シリコン及び炭化珪素結晶であり、半導体が異なればそれに伴い電極材料も異なるのが一般的であるので、窒化ガリウムとは異なる半導体において、チタン-アルミニウムからなる金属層が設けられているからといって、n型窒化ガリウムにおいてチタン-アルミニウムがオーム性電極材料として好適であるということを想到し得るとはいえない。
したがって、本件第1発明は、上記刊行物1〜6に基いて当業者が容易になし得たこととすることはできない。

(2.4) 本件第2発明について
本件第2発明は、n型窒化ガリウム系化合物半導体層表面に接する側にチタン膜を形成し、その上にアルミニウム膜を形成して多層膜とした後、アニーリングすることにより、その多層膜の一部若しくは全部を合金化して、そのn型窒化ガリウム系化合物半導体とオーミック接触させることを特徴とするn型窒化ガリウム系化合物半導体層の電極形成方法であるが、上記(2.3)と同じく、上記刊行物3、4及び6には、チタン-アルミニウムからなる金属層の電極を設けてはいるが、積層する半導体は、それぞれ砒化ガリウム、シリコン及び炭化珪素結晶であり、半導体が異なればそれに伴い電極材料も異なるのが一般的であるので、窒化ガリウムとは異なる半導体において、チタン-アルミニウムからなる金属層が設けられているからといって、n型窒化ガリウムにおいてチタン-アルミニウムがオーム性電極材料として好適であるということを想到し得るとはいえない。
したがって、本件第2発明は、上記刊行物1〜6に基いて当業者が容易になし得たこととすることはできない。

(3) この項のむすび
以上のとおりであるので、上記訂正請求は、平成6年法律第116号附則第6条第1項において、なお従前の例によるとされる改正前の特許法第126条第1項ないし第3項の規定に適合するので、これを認める。

3.特許異議の申立てについての判断
特許異議申立人シャープ株式会社は、上記刊行物1乃至刊行物6を提示し、本件第1発明及び第2発明は、上記刊行物1乃至刊行物6に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであると主張する。
しかしながら、上記(2.3)及び(2.4)に記載の理由により、本件第1発明及び第2発明は、上記刊行物1乃至刊行物6に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たこととすることはできない。

4.むすび
以上のとおりであるので、本件特許は、特許異議申立人の提示した証拠及び理由によっては、取り消すことができない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
n型窒化ガリウム系化合物半導体層の電極及びその形成方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 n型窒化ガリウム系化合物半導体層表面に形成されたオーミック接触用の電極であって、前記電極が、
前記n型窒化ガリウム系化合物半導体層上にチタンとアルミニウムよりなる多層膜が形成された後、またはn型窒化ガリウム系化合物半導体層と接する側にチタンとアルミニウムとを含む合金が形成された後にアニーリングされてなるものであり、
前記n型窒化ガリウム系化合物半導体に接する側の領域にチタンに加えてアルミニウムが含まれ、その上の領域にチタンとアルミニウムとが含まれていることを特徴とするn型窒化ガリウム系化合物半導体層の電極。
【請求項2】 n型窒化ガリウム系化合物半導体層表面に接する側にチタン膜を形成し、その上にアルミニウム膜を形成して多層膜とした後、アニーリングすることにより、その多層膜の一部若しくは全部を合金化して、そのn型窒化ガリウム系化合物半導体とオーミック接触させることを特徴とするn型窒化ガリウム系化合物半導体層の電極形成方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、発光ダイオード、レーザーダイオード等の発光素子に用いられるn型窒化ガリウム系化合物半導体の電極とその製造方法に係り、特に、n型窒化ガリウム系化合物半導体と良好なオーミック接触が得られる電極とその電極形成方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
GaN、GaAlN、InGaN、InAlGaN等の窒化ガリウム系化合物半導体は直接遷移を有し、バンドギャップが1.95eV〜6eVまで変化するため、発光ダイオード、レーザダイオード等、発光素子の材料として有望視されている。現在、この材料を用いた発光素子には、n型窒化ガリウム系化合物半導体の上に、p型ドーパントをドープした高抵抗なi型の窒化ガリウム系化合物半導体を積層したいわゆるMIS構造の青色発光ダイオードが知られている。
【0003】
MIS構造の発光素子は発光強度、発光出力共非常に低く、また高抵抗なi層を発光層としているため順方向電圧(Vf)が20V以上と非常に高いために発光効率が悪く、実用化するには不十分であった。順方向電圧を下げ、発光効率を向上させて実用化を図るには、MISではなくp-n接合が有利であることは自明である。
【0004】
ところで、最近窒化ガリウム系化合物半導体をp型とする技術が開発され、p-n接合の窒化ガリウム系化合物半導体が実現できるようになってきた。(例えば、特開平2-257679号公報、特開平3-218325号公報、他文献)。
【0005】
p-n接合の発光素子が実現できるようになると、順方向電圧を下げ、発光効率を高めるためにも、p層およびn層とオーミック接触の得られる電極材料が非常に重要である。しかしながら、従来のMIS構造の窒化ガリウム系化合物半導体発光素子の電極はi層とショットキーバリアを用いる構造であったため、n層のオーミック電極にはほとんど注意されていなかった。
【0006】
例えば、MIS構造の素子のn層とオーミック接触を得る電極材料として、特開昭55-9442号公報に、AlまたはAl合金が開示されている。その他、Inもよく使用されている。しかしながら、In、Alともn型窒化ガリウム系化合物半導体と十分なオーミック接触が得にくく、さらにまた電極形成時に、電極材料を窒化ガリウム系化合物半導体となじませるため、アニーリング装置を用いてアニールを行うのであるが、そのアニーリング時に装置内の残留酸素、水分等の雰囲気により電極が変質しやすいという問題があった。また特開平4-321279号公報には、n型GaNと高抵抗なi型GaN層が積層され、その上に電極が形成された、いわゆるMIS(metal-insulater-semiconductor)構造の発光素子が開示されている。このMIS構造のn層、及びi層の両方に形成される電極としてAlとTiとNiとを順に積層した3層構造の電極が記載されている。しかしながら、この公報に開示される素子構造はMISであり、MIS構造の正電極はi層と接触しているため全くオーミックとは関係なく、いわばショットキーバリア接触である。また負電極も単に先にAlを形成し、AlとTiとNiとを順に積層した3層構造の膜ではn型GaNと良好なオーミックを得ることは難しい。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明はこのような事情を鑑み成されたもので、その目的とするところは、p-n接合の窒化ガリウム系化合物半導体を用いた発光素子を実現するにあたり、n型窒化ガリウム系化合物半導体と良好なオーミック接触が得られると共にアニーリング時に変質しにくい電極を提供することにより、発光素子の発光効率および信頼性を高めようとするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
我々はn型窒化ガリウム系化合物半導体層と良好なオーミック接触が得られ、アニール時に変質しにくい電極材料について、実験を重ねたところ、AlにTiを含有させ、さらにTiをn型窒化ガリウム系化合物半導体と接触する側にすることにより前記問題が解決できることを見いだした。即ち、本発明のn型窒化ガリウム系化合物半導体層の電極は、n型窒化ガリウム系化合物半導体層表面に形成されたオーミック接触用の電極であって、前記電極が、前記n型窒化ガリウム系化合物半導体層上にチタンとアルミニウムよりなる多層膜が形成された後、またはn型窒化ガリウム系化合物半導体層と接する側にチタンとアルミニウムとを含む合金が形成された後にアニーリングされてなるものであり、そのn型窒化ガリウム系化合物半導体に接する側の領域にチタンに加えてアルミニウムが含まれ、その上の領域にチタンとアルミニウムとが含まれていることを特徴とする。
また本発明の電極形成方法は、n型窒化ガリウム系化合物半導体層表面に接する側にチタン膜を形成し、その上にアルミニウム膜を形成して多層膜とした後、アニーリングすることにより、その多層膜の一部若しくは全部を合金化して、そのn型窒化ガリウム系化合物半導体とオーミック接触させることを特徴とする。
【0009】
本発明の電極は、Si、Ge、Se、S等のn型ドーパントをドープしてn型特性を示すように成長した窒化ガリウム系化合物半導体層表面、またはノンドープの窒化ガリウム系化合物半導体層表面に、蒸着、スパッタ等の技術により、チタンとアルミニウムよりなる合金膜を形成するか、またはチタンとアルミニウムよりなる多層膜を形成した後、アニーリング(熱処理)を行うことにより得ることができる。アニーリング温度は特に限定するものではないが、400℃以上、1200℃以下で行うことが好ましい。なぜなら、400℃よりも低いと、オーミック接触が得にくく、1200℃よりも高いと窒化ガリウム系化合物半導体が分解してしまうからである。
【0010】
上記のように合金膜、または多層膜として形成した電極材料を、アニーリングすることにより、電極材料と窒化ガリウム系化合物半導体層との接触を良くしてオーミック接触を得ることができる。さらに、多層膜はアニーリング条件(主として熱)、チタンとアルミニウムそれぞれの層の膜厚等により多層膜の一部、または全部が合金化する。多層膜がアニーリングにより合金化した場合、全体として電極はチタンとアルミニウムからなるオーミック電極となるが、例えばチタンが第1層目、アルミニウムが第2層目とはっきりと分離されたものではなく、前にも述べたように条件によっては電極層が合金化するため、チタンとアルミニウムが渾然一体となっている場合が多い。ただ、多層膜の場合、n型窒化ガリウム系化合物半導体層と接触する側の電極材料をチタンとした後、次にアルミニウムを形成して多層膜とする方が、再現性良くオーミック接触を得られるため、より好ましい。
【0011】
チタンのアルミニウムに対する含有率は特に限定するものではなく、チタンと、アルミニウムとをどのような比率で混合しても、n型窒化ガリウム系化合物半導体層と再現性良くオーミック接触が得られ、非常に有利である。多層膜の場合、この含有率は多層膜を形成する膜厚の比を調整することにより変えることができる。
【0012】
【実施例】
図1は、2インチφのサファイア基板上にSiをドープしたn型GaN層を成長させ、そのn型GaN層の表面に、数々の電極材料を100μmφの大きさで、それぞれ千個蒸着して450℃でアニーリングした後、同一種類の電極間のI-V(電流-電圧)特性を全て測定してオーミック特性を調べた結果を示す図である。図1において、A、B、C、Dはそれぞれ
A・・TiとAlとを0.01:1の膜厚比で順に積層した電極、
B・・Tiを1%含むAl-Ti合金で形成した電極、
C・・n型層にTi単独で形成した電極、
D・・n型層にAl単独で形成した電極、
のI-V特性を示す。
【0013】
A〜Dはそれぞれ代表的なI-V特性を示す図であるが、アルミニウムにチタンを含有させた電極はA、Bに示すようにn型GaN層と良好なオーミック接触が得られており、電極千個の内、A、Bのようなオーミック接触が確認されないものはなかった。一方、チタン単独、もしくはアルミニウム単独の電極は、C、Dに示すようにいずれにおいても良好なオーミック接触は得られず、千個の内でA、Bのようなオーミック接触が確認されたものは、Dの電極の方に数個あっただけである。
【0014】
さらにアニーリング後、電極表面の状態を顕微鏡で観察したところ、CとDの電極表面はその90%以上が黒く変質していた。
【0015】
図2は、同じく2インチφのサファイア基板の上にSiをドープしたn型Ga0.9Al0.1N層を成長させ、そのn型Ga0.9Al0.1N層の表面にTiとAlとを膜厚比を変えて100μmφの大きさで千個蒸着して、450℃でアニーリングした後、同じく同一種類の電極間のI-V(電流-電圧)特性を測定してオーミック特性を調べた結果を示す図である。図2において、E、F、G、Hはそれぞれ
E・・TiとAlとを0.001:1の膜厚比で順に積層した電極、
F・・AlとTiとを0.001:1の膜厚比で順に積層した電極、
G・・TiとAlとを1:0.001の膜厚比で順に積層した電極、
H・・AlとTiとを1:0.001の膜厚比で順に積層した電極、
のI-V特性を示している。
【0016】
E〜Hに示す図は、TiとAlの含有率にかかわらず、全て良好なオーミック接触が得られていることを示しているが、特に、E、Gに示すTiを先に形成した電極は千個全て、E、Gの図に示すようなオーミック接触が得られたが、F、Hに示すAlを先に形成した電極は、それぞれ数個、好ましいオーミック接触が得られていないものが発見された。また、電極の変質は全ての電極について観察されなかった。
【0017】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の電極はn型窒化ガリウム系化合物半導体層と非常に良好なオーミック接触が得られ、さらに電極の変質がない。しかもオーミックが得られるチタンのアルミニウムに対する定まった含有率が無いため、電極形成時において非常に生産性も向上する。従って、p-n接合を用いた窒化ガリウム系化合物半導体を実現した際、n型層と電極とが完全にオーミック接触しているため、発光素子のVfを下げ、発光効率を向上させることができ、電極の変質もないため発光素子の信頼性も格段に向上する。
【図面の簡単な説明】
【図1】 n型窒化ガリウム系化合物半導体層に形成した電極の電流電圧特性を比較して示す図。
【図2】 本発明の一実施例にかかる電極の電流電圧特性を示す図。
 
訂正の要旨 1.訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1において、「前記電極が、」とあるを、特許請求の範囲の減縮を目的として、「前記電極が、前記n型窒化ガリウム系化合物半導体層上にチタンとアルミニウムよりなる多層膜が形成された後、またはn型窒化ガリウム系化合物半導体層と接する側にチタンとアルミニウムとを含む合金が形成された後にアニーリングされてなるものであり、」と訂正する。
2.訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1において、「少なくともそのn型窒化ガリウム系化合物半導体に接する側の領域にチタンが含まれ、」とあるを、特許請求の範囲の減縮を目的として、「前記n型窒化ガリウム系化合物半導体に接する側の領域にチタンに加えてアルミニウムが含まれ、」と訂正する。
3.訂正事項3
特許請求の範囲の減縮を目的として、請求項2を削除する。
4.訂正事項4
発明の詳細な説明の段落【0008】において、「前記電極が、」とあるを、明瞭でない記載の釈明を目的として、「前記電極が、前記n型窒化ガリウム系化合物半導体層上にチタンとアルミニウムよりなる多層膜が形成された後、またはn型窒化ガリウム系化合物半導体層と接する側にチタンとアルミニウムとを含む合金が形成された後にアニーリングされてなるものであり、」と訂正する。
5.訂正事項5
発明の詳細な説明の段落【0008】において、「少なくともそのn型窒化ガリウム系化合物半導体に接する側の領域にチタンが含まれ、」とあるを、明瞭でない記載の釈明を目的として、「前記n型窒化ガリウム系化合物半導体に接する側の領域にチタンに加えてアルミニウムが含まれ、」と訂正する。
6.訂正事項6
発明の詳細な説明の段落【0008】において、明瞭でない記載の釈明を目的として、「さらに本発明では前記n型壁化ガリウム系化合物半導体に接する側の領域にチタンに加えてアルミニウムが含まれていることを特徴とする。」を削除する。
7.訂正事項7
明瞭でない記載の釈明を目的として、請求項3を請求項2に繰り上げる。
異議決定日 2000-04-06 
出願番号 特願平5-207274
審決分類 P 1 651・ 121- YA (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 後藤 時男吉野 三寛  
特許庁審判長 小林 邦雄
特許庁審判官 河原 英雄
青山 待子
登録日 1998-05-22 
登録番号 特許第2783349号(P2783349)
権利者 日亜化学工業株式会社
発明の名称 n型窒化ガリウム系化合物半導体層の電極及びその形成方法  
代理人 石井 久夫  
代理人 豊栖 康弘  
代理人 木下 雅晴  
代理人 豊栖 康弘  
代理人 小池 隆彌  
代理人 石井 久夫  

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