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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  F16G
管理番号 1023978
異議申立番号 異議1999-73431  
総通号数 15 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1997-02-10 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-09-10 
確定日 2000-07-08 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2869025号「ベルト用抗張体及びベルト」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2869025号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 I.手続の経緯
特許第2869025号の請求項1〜3に係る発明についての出願は、平成7年7月24日に出願され、平成10年12月25日にその発明について特許の設定登録がされ、その後、その特許について、異議申立人・日本板硝子株式会社により特許異議申立てがされ、取消理由通知がされ、その指定期間内である平成12年1月31日に訂正請求がされたものである。

II.訂正の適否について
1.訂正の内容
(1)訂正事項a
特許第2869025号に係る出願の願書に添付した明細書又は図面(以下、「特許明細書」という。)における特許請求の範囲の請求項1〜3を下記のとおりに訂正する。
【請求項1】
複数本の下撚り糸が引き揃えられた状態で該下撚りとは逆方向の上撚りが施されてなるベルト用抗張体において、
上記下撚り糸は、各々レゾルシン及びホルマリンの初期縮合物とゴムラテックスとの混合物を主成分とする処理液に浸漬された後に熱処理された複数本のガラスフィラメント束が引き揃えられて下撚りされた600本のガラスフィラメントからなり、上記下撚り数は、1インチ当たり1.0〜4.0回にされ、上記上撚り数は、上記下撚り糸間の空隙が絞り潰されて略無くなるように1インチ当たり2.4〜3.5回にされ、総フィラメント本数は4000〜7000本の範囲であることを特徴とするベルト用抗張体。
【請求項2】
請求項1記載のベルト用抗張体において、外層にゴムを主成分とする被膜が設けられていることを特徴とするベルト用抗張体。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のベルト用抗張体がベルト本体にベルト長さ方向に延びるように埋設されていることを特徴とするベルト。
(2)訂正事項b
特許明細書の段落番号【0009】中の「熱処理された複数本のガラスフィラメント束が引き揃えられて下撚りが施されてなるものであり」を、「熱処理された複数本のガラスフィラメント束が引き揃えられて下撚りされた600本のガラスフィラメントからなり」と訂正する。
(3)訂正事項c
特許明細書の段落番号【0039】中の「熱処理された複数本のガラスフィラメント束が引き揃えられて下撚りが施されてなるものとし」を、「熱処理された複数本のガラスフィラメント束が引き揃えられて下撚りされた600本のガラスフィラメントからなるものとし」と訂正する。
(4)訂正事項d
特許明細書の段落番号【0033】中の「屈曲数が1×108回」を、「屈曲数が1×108回」と訂正する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無及び拡張・変更の存否
(1)上記訂正事項aに係る訂正は、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された構成を、さらに限定しようとするものであることから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、この訂正は、特許明細書の段落番号【0025】に記載された事項に基づくものであって、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内でした訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
(2)上記訂正事項b及びcに係る訂正は、上記訂正事項aのように訂正したことに伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の欄の記載との整合を図るためのものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。また、これらの訂正は願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内でした訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
(3)上記訂正事項dに係る訂正は、誤記の訂正を目的とした訂正に該当し、また、この訂正は願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内でした訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。
3.独立特許要件について
(1) 訂正明細書の請求項1に係る発明
訂正明細書の請求項1に係る発明(以下、「訂正発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、上記訂正事項aのとおりのものである。
(2) 引用刊行物記載の発明
当審が取消理由通知において引用した刊行物1(異議申立人が提示した甲第1号証である米国特許明細書第3496783号)には、
イ.「内部に、長手方向且つ螺旋状に延びる線状のガラス強化部材を有する環状ゴム製のVベルト構造である。強化部材は共に撚られた複数の撚り糸からなり、撚り糸は共に撚られた複数のストランドからなり、ストランドは複数のガラスフィラメントからなり、撚り糸とストランドにおける撚りは互いに反対である。好ましくは、撚り糸は撚り回数1インチ当たり1/2,21/2,又は31/2回である」(第1欄第13〜22行)参照)こと、
ロ.「表2:Loto15440(米国ゴム会社)40〜80重量%(Loto15440は、ブタジェン-スチレン-ビニル・ピリディン・ターポリマー・ラテックス、ブタジェン・スチレン・ラテックス、及びレゾルシノール・ホルムアルデヒド樹脂を含む38%分散固体系である。)、水60〜20重量%、撚り糸の含侵は、撚り糸を液体浴を通すことによって行われる。線間空間への含侵又は浸透は、適切な浴内に浸潰しつつ撚り糸にゆがみを与えることにより高度に行われる。これは、連続的に移動する撚り糸を、浴の中に浸潰した状態で、ポスト、マンドレル、プーリの回りに方向変化するように通過させることにより達成することができる。含侵された撚り糸は、好ましくは、除去用の型を通過させて過剰の含侵物を取り除き、且つ150〜350°Fにして希釈剤を取り除くと共に、固体を線間空間に堅固に「固定」する」(第6欄第37〜57行参照)こと、及び
ハ.「アルカリ金属を含まないガラスが、底部に408個のオリフィスを有するブッシングに溶融した状態で供給される。同時にこのブッシングから(408本の)径0.00038インチのガラスフィラメントが引き出されて…従来の方法によりストランドとして巻取られる。個々のスプールから5本のストランドが繰り出されて…撚り回数1インチ当たり3回でZ撚りストランドに結合される。…含侵された3本のZ撚りストランドは再び結合(S撚り)されて撚り糸を形成する」(第6欄69行〜第7欄第13行参照)ことが記載されているものと認められる。
これらの記載事項及び図面の記載からみて、引用例1には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認める。
【引用発明】
複数本の撚り糸が引き揃えられた状態でZ撚りとは逆方向のS撚りが施されてなるベルト用ガラス強化部材において、上記撚り糸は、ブタジエン-スチレン-ヒ゛ニル・ピリディン・ターポリマー・ラテックス、ブタジェン・スチレン・ラテックス、及びレゾレシノール・ホルムアルデヒド樹脂を含む液体浴内に浸漬された後、希釈剤を取り除くために150〜350°Fにされ、複数のストランドが引き揃えられてZ撚りされた2040本のガラスフィラメントからなり、上記Z撚り数は1インチ当たり3回にされ、上記S撚り数は、1インチ当たり0.5,2.5,3.5回にされ、総フィラメント本数は6120本であるベルト用ガラス強化部材。
また、同様に引用した刊行物2(特開平7-138878号公報、甲第2号証、以下「引用例2」という。)には、
ニ.「RFL液(レゾルシンーホルマリン(RF)縮合物とゴムラテックス(L)との混合物)で繊維コードを処理」(段落【0005】参照)すること、及び
ホ.「表1に示す処理液でガラス繊維ストランド…に塗布し、250°Cで1分間熱処理を行った後、所定の本数で合撚して…ゴム補強用ガラス繊維コードを得た。このガラス繊維コードをベルト抗張体(心線)4として、図1に示す如き歯付ベルトAを作製した」(段落【0028】参照)ことが記載されている。

(3) 対比・判断
訂正発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「撚り糸」は、訂正発明の「下撚り糸」に、以下同様に、「Z撚り」は「下撚り」に、「S撚り」は「上撚り」に、「ガラス強化部材」は「抗張体」に、「ストランド」は「ガラスフィラメント束」に、各々相当すること、引用発明における「ブタジエン-スチレン-ビニル・ピリディン・ターポリマー・ラテックス、ブタジェン・スチレン・ラテックス、及びレゾレシノール・ホルムアルデヒド樹脂を含む液体」は、訂正発明における処理液と同等のものであり、ガラス強化部材を構成する撚り糸は、「液体浴内に浸漬された後に、150〜350°Fにされる」ものであって、150〜350°Fは常温より高い温度であるから、撚り糸は処理液に浸漬された後に熱処理されるものと認められること、及び引用発明における撚り糸も訂正発明におけるガラスフィラメント束も抗張体を構成する線状体であることは明らかであることから、
以下のとおりの一致点と相違点があるものと認められる。
<一致点>
複数本の下撚り糸が引き揃えられた状態で下撚りとは逆方向の上撚りが施されてなるベルト用抗張体において、上記抗張体を構成する線状体は、各々レゾルシン及びホルマリンの初期縮合物とゴムラテックスとの混合物を主成分とする処理液に浸漬された後に熱処理され、上記下撚り糸は複数のガラスフィラメント束が引き揃えられて下撚りされたガラスフィラメントからなり、上記下撚り数は1インチ当たり3回にされ、総フィラメント本数は6120本であるベルト用抗張体。
<相違点1>
ベルト用抗張体を構成する線状体に対する処理液への浸漬及び熱処理を、訂正発明では、ガラスフィラメント束に対して行っているのに対して、引用発明では、複数本のガラスフィラメント束が撚られて形成された下撚り糸に対して行っている点。
<相違点2>
ベルト用抗張体が、訂正発明では、600本のガラスフィラメントからなる下撚り糸の複数本を1インチ当たり2.4〜3.5回上撚りを施こすことにより構成されているのに対し、引用発明1では、2040本のガラスフィラメントからなる下撚り糸の複数本を1インチ当たり0.5,2.5又は3.5回上撚りを施すことにより構成されている点。
そこで、上記相違点1及び2について検討する。
・相違点1について
ベルト用抗張体を構成する線状体に対する処理液への浸漬及び熱処理を、下撚り糸にする前のガラスフィラメント束に対して行うことは、引用例2に記載されており、そして、引用発明1及び2は、ベルト用抗張体を構成する線状体に同様な処理液を施す点で、技術分野、機能・作用が共通するから、引用発明1に引用発明2を適用して、上記相違点1における訂正発明のように構成することは、当業者が容易に想到できたものである。
・相違点2について
訂正発明は、「複数本の引き揃えられた下撚り糸に上撚りを施したガラスコードからなるベルト用抗張体において、上撚りによってもたらされる効果を積極的に活用することで、多湿下においても強力低下を引き起こし難い優れた耐水屈曲疲労性が得られるようにすること」(特許明細書段落【0007】参照)を課題とし、上撚り数を2.4〜3.5/インチに設定する構成を採用することによって、下撚り糸間の空隙が上撚りによって絞り潰され略無くなるようにし、外部から侵入した水が抗張体の内部に滞留するのを未然に防止でき、ベルトの耐水屈曲疲労性を大きく改善することができるという作用効果を奏するものである(段落【0039】参照)。それに対し、引用例1には、上撚り数を0.5,2.5又は3.5/インチの何れかとする点が開示されており、その中、2.5及び3.5/インチについては、訂正発明における数値範囲と重複するものと認められる。
しかし、引用例1には、上記訂正発明に係る課題について記載がないこと、及び上撚り数0.5/インチという、訂正発明における数値範囲から大きく逸脱した数値のものが記載されていることから総合的に判断すると、引用例1には、上撚り数を適正に設定し、下撚り糸間の空隙が上撚りによって絞り潰され略無くなるようにするという技術思想が開示乃至示唆されているものとは認められない。しかも、引用例1には、下撚り糸を600本のガラスフィラメントから構成することも開示されていない。
なお、以上のことは、引用例2にも記載乃至示唆されていない。
してみると、引用例1及び2には、上記技術思想等について開示も示唆もない上に、他に公知であるとか周知であるとする事情も見当たらない以上、上記相違点2に係る訂正発明の構成のようにすることは、当業者といえども容易になしえたものとすることはできない。

(4).むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は特許法第120条の4第2項及び3項において準用する同第126条第2〜4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
III.特許異議申立てについて
1.本件発明
前示のとおり本件訂正請求が認められたことにより、本件請求項1〜3に係る発明(以下、各々「本件発明1」、「本件発明2」及び「本件発明3」という。)は、上記訂正事項aのとおりのものである。

2.異議申立ての理由の概要
特許異議申立人 日本板硝子株式会社は、甲第1及び2号証(上記刊行物1及び2)の証拠方法を提示し、本件発明1及び3についての特許は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、また、本件発明2についての特許は、甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたことにより、本件請求項1〜3に記載された発明についての特許は取り消すべき旨主張している。

3.甲各号証記載の発明
甲第1及び2号証には、上記「II.訂正の適否について」において記載したとおりの事項が記載されている。

4.対比・判断
本件発明1は上記「II.訂正の適否について;3.独立特許要件について」において示したとおりの理由により、甲第1及び2号証に記載された発明から、当業者が容易に想到できたものとすることはできない。
また、本件発明2及び3は、本件発明1を特定する事項にさらに他の構成を付加したものであるから、同様の理由により、甲第1及び2号証に記載された発明から、当業者が容易に想到できたものとすることはできない。

5.むすび
以上のとおりであるから、異議申立の理由及び証拠によっては、本件発明1〜3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1〜3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ベルト用抗張体及びベルト
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 複数本の下撚り糸が引き揃えられた状態で該下撚りとは逆方向の上撚りが施されてなるベルト用抗張体において、
上記下撚り糸は、各々レゾルシン及びホルマリンの初期縮合物とゴムラテックスとの混合物を主成分とする処理液に浸漬された後に熱処理された複数本のガラスフィラメント束が引き揃えられて下撚りされた600本のガラスフィラメントからなり、
上記下撚り数は、1インチ当たり1.0〜4.0回にされ、
上記上撚り数は、上記下撚り糸間の空隙が絞り潰されて略無くなるように1インチ当たり2.4〜3.5回にされ、
総フィラメント本数は4000〜7000本の範囲であることを特徴とするベルト用抗張体。
【請求項2】 請求項1記載のベルト用抗張体において、
外層にゴムを主成分とする被膜が設けられていることを特徴とするベルト用抗張体。
【請求項3】 請求項1又は請求項2に記載のベルト用抗張体がベルト本体にベルト長さ方向に延びるように埋設されていることを特徴とするベルト。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、各種のベルトに埋設されるベルト用抗張体及びそれを用いたベルトの技術分野に属する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、歯付ベルト等の伝動ベルトでは、強度、強靭性或いは寸法安定性を向上させるために、ガラス繊維からなるガラスコードを抗張体としてベルト本体に埋設することが広く行われている。
【0003】
例えば、自動車用エンジンのカムシャフト駆動におけるタイミングベルトの場合では、ガラスコードは、図4に拡大して示すように、各々、ガラスフィラメントa,a,…が集束されてなる複数本のストランドを引き揃え、これに所定の下撚りを施して下撚り糸bとし、この下撚り糸bを複数本引き揃えて上記下撚りとは逆方向に所定の上撚りを施すことで構成されており、一般には、ECG150-3/13(各々、フィラメント径が9μmでかつ大きさが15,000ヤード/ポンドである3本のストランドを引き揃えて1インチ当たり2.0回の下撚りを施して下撚り糸とし、この下撚り糸を13本引き揃えて1インチ当たり2.0回の上撚りを施してなるコード)が使用されている。
【0004】
ところで、降雨時の自動車走行等の多湿条件下では、水分がガラスコードの屈曲による疲労劣化を促進することから、ベルトの強力低下が著しく、ベルトの切断が起こり易いという問題がある。
【0005】
そこで、従来では、上記耐水屈曲疲労性を向上させるために、例えば実開昭62-174139号公報に記載されているように、ガラスコードの下撚り数を2.0〜2.5回/25mmの範囲に、また上撚り数を1.4〜2.0回/25mmの範囲にそれぞれ設定するようにしたものが知られている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、自動車のエンジンルーム内における温度上昇化傾向等の種々の悪条件を考慮すると、上記従来の対策をもってしても実際には不十分であるといわざるを得ず、未だ改良の余地がある。
【0007】
この発明は係る点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、複数本の引き揃えられた下撚り糸に上撚りを施したガラスコードからなるベルト用抗張体において、上撚りによってもたらされる効果を積極的に活用することで、多湿下においても強力低下を引き起こし難い優れた耐水屈曲疲労性が得られるようにすることにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明では、ガラスコードの水分による屈曲疲労は、図4に示すように、下撚り糸b,b,…間に形成されている空隙cに外部からの水が溜まるために、下撚り糸b,b,…間の密着性を阻害してコードの構造が損なわれることにより生じるものであるとの知見に基づき、上撚り数を従来よりもできるだけ多くして上記空隙cを絞り潰すようにすることで、優れた耐水屈曲疲労性が得られるようにした。
【0009】
具体的には、この発明は、複数本の下撚り糸が引き揃えられた状態で該下撚りとは逆方向の上撚りが施されてなるベルト用抗張体において、
上記下撚り糸は、各々レゾルシン及びホルマリンの初期縮合物とゴムラテックスとの混合物を主成分とする処理液に浸漬された後に熱処理された複数本のガラスフィラメント束が引き揃えられて下撚りされた600本のガラスフィラメントからなり、
上記下撚り数は、1インチ当たり1.0〜4.0回にされ、
上記上撚り数は、上記下撚り糸間の空隙が絞り潰されて略無くなるように1インチ当たり2.4〜3.5回にされ、
総フィラメント本数は4000〜7000本の範囲であるようにしたことを特徴とする。
【0010】
上記構成において、下撚り糸間の空隙は、上撚りにより絞り潰されて略無くなっているので、外部から浸入した水が抗張体の内部に滞留するのを未然に防止でき、結果として、ベルトの耐水屈曲疲労性は大きく改善される。
【0011】
尚、上記ガラスフィラメントは、特に限定されるものではなく、一般にいう無アルカリガラスフィラメントである。その際に、好ましくはフィラメント径が8μm以下の高強力ガラスを用いれば、コードの強力を低下させることなく抗張体の細径化を図ることができ、ベルトの屈曲に対し有利に作用する。
【0012】
また、上記処理液、すなわちRFLは、レゾルシン及びホルマリンの初期縮合物と、ラテックスとを混合したものであり、上記ラテックスとしては、特に限定されるものではないが、スチレン-ブタジエン-ビニルピリジン三元共重合体、クロロスルフォン化ポリエチレン、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、エピクロルヒドリン、SBR、クロロプレンゴム、塩素化ブタジエン、オレフィン-ビニルエステル共重合体及び天然ゴム等のラテックス、又はそれらの混合体が挙げられる。
【0013】
下撚り数が1.0回/インチ以上に設定されているから、所要本数の引き揃えられた繊維束が下撚りされる際に、上記繊維束の引揃えがわるくなることが回避され、そのような引揃えの不良に起因する抗張体の強力の低下は未然に防止される。下撚り数の上限が4.0回/インチとされているから、抗張体の伸びが抑制され、また、上撚りによる空隙の絞り潰し作用が効率よく発揮される。換言すれば、下撚り数が4.0回/インチを超えると、耐水屈曲疲労性の改善が頭打ちとなり、さらには低下傾向もみられるようになる。
【0014】
上撚り数が2.4回/インチ以上に設定されているのは、これにより、下撚り糸間の空隙が上撚りによって絞り潰されて略無くなるからである。そして、上撚り数の上限が3.5回/インチとされているから、ベルトに対し優れた耐水屈曲疲労性が必要十分な撚りで効率よく付与されるようになる。また、撚り数が多過ぎることに起因する伸び易さ等の不具合の発生を回避することもできる。
【0015】
総フィラメント本数を4000〜7000本の範囲とするのは、4000本未満であると十分な強力が得られ難く、一方、7000本を超えると、ガラスコードの表面歪みが大きくなって曲げに対し不利となるからである。
【0016】
請求項2の発明では、上記ベルト用抗張体の外層に、ゴムを主成分とする被膜を設ける。この構成により、ベルト本体のゴムに対するベルト用抗張体の接着性が向上し、ベルト走行安定性を向上させ、耐水屈曲疲労性はさらに改善される。
尚、上記被膜を構成するためのゴム材料としては、特に限定されるものではないが、ゴムとの接着性を考慮する上で、塩化ゴム、ポリ塩化ビニル、クロロプレンゴム、クロロスルフォン化ポリエチレン等のハロゲン含有物が好ましい。
【0017】
また、上記被膜を形成する方法としては、ベルト用抗張体をゴム糊に浸漬して熱処理することが挙げられる。上記の処理をする際に、ゴム等を溶解させるために用いられる溶剤としては、特に限定されるものではないが、一般には、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、エーテル類、トリクロロエチレン等のハロゲン化脂肪族炭化水素等が好適に用いられる。
【0018】
請求項3の発明では、上記請求項1又は2の発明に係るベルト用抗張体を、ベルト本体にベルト長さ方向に延びるように埋設する。この構成により、ベルトに対し優れた耐水屈曲疲労性が付与される。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、この発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図2は、この発明の実施例に係る歯付ベルトを示し、この歯付ベルトは、ベルト長さ方向(同図の左右方向)に延びる断面矩形状の背ゴム部1aの内面側(同図の下面側)に、ベルト長さ方向に所定ピッチ間隔をおいて多数の歯部1b,1b,…が配設されてなるベルト本体1を有していて、このベルト本体1の歯部表面にはカバー帆布2が貼着されている。また、上記背ゴム部1aには、ベルト長さ方向に延びかつベルト幅方向に所定ピッチ間隔をあけて並ぶようにスパイラル状に巻かれたベルト用抗張体としてのガラスコード3が埋設されている。
【0020】
具体的には、上記ベルト本体1には、水素化ニトリルゴムを主原料とするゴム組成物が用いられている。上記カバー帆布2としては、ベルト幅方向に延びるように配置される糸には6,6ナイロン糸が、またベルト長さ方向に延びるように配置される糸には工業用6,6ナイロンのウーリー加工糸がそれぞれ使用されている。
【0021】
上記ガラスコード3は、図1に拡大して示すように、各々、RFL処理液に浸漬された後に熱処理されたガラス繊維としてのガラスフィラメント4,4,…からなる複数本の繊維束を引き揃えて所定撚り数の下撚りが施されてなる所要本数の下撚り糸5,5,…に、該下撚り糸5,5,…が引き揃えられた状態で上記下撚りとは逆方向の所定撚り数の上撚りを施されてなっている。尚、各下撚り糸5のガラスフィラメント4,4,…間には、上記RFL処理液からなるゴム部が介在している。
【0022】
上記歯付ベルトは一般的な圧入法によって成形されており、その歯数は113、歯部1b,1b,…のピッチは8mm、ベルト幅は19mmになされている。また、各歯部1bは、ベルト長さ方向において互いに対向する側面が断面円弧状をなしている。
【0023】
そして、この発明の特徴として、上記ガラスコード3における各下撚り糸5の下撚り数は、1.0回/インチ以上に設定されている。そして、下撚り糸5,5,…は、該下撚り糸5,5,…間の空隙(図4参照)が絞り潰されて略無くなるように2.4回/インチ以上の撚り数の上撚りが施されている。
【0024】
また、総フィラメント本数は4000〜7000本の範囲に設定されている。すなわち、総フィラメント本数が4000本未満であると十分な強力が得られ難い一方、7000本を超えるとガラスコードの表面歪みが大きくなり、曲げに対し不利となる。
【0025】
具体的には、ガラスフィラメント4としては、直径7μmの無アルカリ高強力ガラスフィラメントが用いられており、各繊維束は200本のガラスフィラメント4,4,…をそれぞれ集束してなっている。そして、3本の繊維束を引き揃えて濃度20重量%のVp-SBR系RFL処理液に浸漬し、次いで240℃で1分間の熱処理を行った後、これに2.0回/インチの下撚りを施して下撚り糸5とし、さらにこの下撚り糸5を11本集めて引き揃え、2.4回/インチの上撚りを施している。この結果、総フィラメント本数は6600本(=200本×3×11)となっている。
【0026】
したがって、この実施例によれば、下撚り糸5,5,…間の空隙が、2.4回/インチの撚り数の上撚りにより絞り潰されて略無くなった状態であるので、外部から浸入した水がガラスコード3の内部に滞留するのを未然に防止でき、結果として、歯付ベルトの耐水屈曲疲労性を大きく改善することができる。
【0027】
また、下撚りの際に、下撚り数を1.0回/インチ以上としているので、撚り数の少ないことによって繊維束の引揃えがわるくなることを回避でき、よって、引揃えの不良に起因するガラスコード3の強力の低下を未然に防止することができる。
【0028】
さらに、総フィラメント本数を4000〜7000本の範囲で設定しているので、十分な強力を得ることができ、かつガラスコードの表面歪みを小さく抑えて曲げに対し有利に作用させることができる。
【0029】
(実験例)
上記実施例の歯付ベルトについて、耐水屈曲疲労性及びベルトの経時伸びの各評価を行うための走行試験について説明する。その際に、上記歯付ベルトを発明例1とするとともに、そのガラスコードを、クロロスルフォン化ポリエチレンを主成分としたゴム糊の20重量%溶液に浸漬し、150℃で1分の雰囲気下で乾燥させることで別のガラスコードとし、このガラスコードをベルト用抗張体として用いた他は上記発明例1の場合と同じ歯付ベルトを作製して、これを発明例2とした。
【0030】
また、上記発明例2において、下撚り数及び上撚り数がそれぞれ異なる16種類のガラスコードを作製し、それをベルト用抗張体とした他は発明例2の場合と同じ歯付ベルトをそれぞれ作製して、発明例3〜13及び比較例1〜5とした。上記発明例1〜13及び比較例1〜5における下撚り数及び上撚り数を、次の表1に併せて示す。
【0031】
【表1】

【0032】
-注水屈曲疲労試験の要領-
先ず、耐水屈曲性能を調べるために、図3に示すベルト走行試験機を用いた。この試験機には、4つの大プーリ31,31,…が同図の上下左右に配置されており、各々、相隣る大プーリ31,31間には直径が30mmの小プーリ32がそれぞれ配置されてなっている。そして、これらプーリ31,32間に各歯付ベルトAを巻き掛け、ウエイト33にて歯付ベルトAに40kgfの負荷をかけた状態で、水滴下口34から1時間に1リットルの割合で水を歯付ベルトAの歯底に向けて滴下させながら大プーリ31を5500rpmの回転速度で回転させ、歯付ベルトAが破断するまで走行させた。
【0033】
-ベルト屈曲試験の要領-
図3と同じレイアウトの走行試験機を用いて各歯付ベルトを走行させ、屈曲数が1×108回(一周毎の屈曲数は4回)に達した時点での歯付ベルトの伸び率(%)を測定した。その際に、水は滴下させなかった。
【0034】
-試験結果-
以上の試験結果は、上記の表1に併せて示されているとおりである。
表1の試験結果から明らかなように、ガラスコードの上撚り数を適正に設定することにより、耐水屈曲疲労性が向上することが判る。例えば、発明例1〜13のなかで最も値の低い発明例13の場合でも、比較例1〜5のなかで最も値の高い比較例2よりも30%程度向上している。
【0035】
次に、発明例1〜13について詳しく検討する。先ず、上撚り数が3.5回インチを超えている発明例5をみると、他の発明例の場合と同等又はそれ以上に向上しているが、ベルト伸びでは難点を有する。この難点については発明例13の場合も同程度である。したがって、上撚り数については、3.5回/インチ以下に設定することが好ましいといえる。
【0036】
また、下撚り数が4.0回/インチを超えている発明例12をみると、他の発明例の場合と同等又はそれ以上に向上してはいるが、やはりベルト伸びに難点がある。したがって、下撚り数については、4.0回/インチ以下に設定することが好ましいと判る。
【0037】
つまり、上撚り数を2.0〜3.5回/インチの範囲で、また下撚り数を4.0回/インチ以下の範囲、好ましくは1.0〜4.0回/インチの範囲で設定すれば、引揃えの不良によるガラスコードの強力低下や、撚り数を多くすることによってもたらされる虞れのあるベルト伸び等の不具合を回避しつつ耐水屈曲疲労性を効率よく向上させられることが判る。
【0038】
また、発明例1及び2の対比から、コード外層にゴム糊処理を施すことにより、ベルトの耐水走行性がさらに向上することが判る。
【0039】
【発明の効果】
以上説明したように、請求項1の発明によれば、複数本の下撚り糸が引き揃えられた状態で該下撚りとは逆方向の上撚りが施されてなるベルト用抗張体において、上記下撚り糸は、RFL液に浸漬された後に熱処理された複数本のガラスフィラメント束が引き揃えられて下撚りされた600本のガラスフィラメントからなるものとし、且つ該下撚り数を1インチ当たり1.0〜4.0回とし、上記上撚り数を上記下撚り糸間の空隙が絞り潰されて略無くなるように1インチ当たり2.4〜3.5回としたから、引き揃え不良による抗張体の強力低下や抗張体の伸びを未然に防止しながら、上撚りによる空隙の絞り潰し作用を効率よく発揮させて、外部からの水が抗張体の内部に滞留するのを未然に防止することができ、ベルトの耐水屈曲疲労性を大きく改善することができるとともに、総フィラメント本数を4000〜7000本としたから、十分な強力を得ることができ、かつガラスコードの表面歪みを小さく抑えて曲げに対し有利に作用させることができる。
【0040】
請求項2の発明によれば、上記ベルト用抗張体の外層に、ゴムを主成分とする被膜を設けるようにしたので、ベルト本体のゴムに対するベルト用抗張体の接着性を向上させることができ、ベルト走行安定性の向上を図ることができるのみならず、耐水屈曲疲労性についてもさらに改善することができる。
【0041】
請求項3の発明に係るベルトによれば、ベルト本体に上記ベルト用抗張体を埋設するようにしたので、ベルトの寸法変化を抑えつつ、ベルトに優れた耐水屈曲性能を付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
この発明の実施例に係るガラスコードを拡大して示す横断面図である。
【図2】
歯付ベルトの全体構成を示す縦断面図である。
【図3】
実験例で用いたベルト走行試験機を示す概略構成図である。
【図4】
従来のガラスコードを示す図1相当図である。
【符号の説明】
1 ベルト本体
3 ガラスコード(ベルト用抗張体)
4 ガラスフィラメント
5 下撚り糸
A 歯付ベルト(ベルト)
 
訂正の要旨 (1)訂正事項a
特許第2869025号に係る出願の願書に添付した明細書又は図面(以下、「特許明細書」という。)における特許請求の範囲の請求項1〜3を、特許請求の範囲の減縮を目的として、下記のとおりに訂正する。
【請求項1】
複数本の下撚り糸が引き揃えられた状態で該下撚りとは逆方向の上撚りが施されてなるベルト用抗張体において、
上記下撚り糸は、各々レゾルシン及びホルマリンの初期縮合物とゴムラテックスとの混合物を主成分とする処理液に浸漬された後に熱処理された複数本のガラスフィラメント束が引き揃えられて下撚りされた600本のガラスフィラメントからなり、上記下撚り数は、1インチ当たり1.0〜4.0回にされ、上記上撚り数は、上記下撚り糸間の空隙が絞り潰されて略無くなるように1インチ当たり2.4〜3.5回にされ、総フィラメント本数は4000〜7000本の範囲であることを特徴とするベルト用抗張体。
【請求項2】
請求項1記載のベルト用抗張体において、外層にゴムを主成分とする被膜が設けられていることを特徴とするベルト用抗張体。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のベルト用抗張体がベルト本体にベルト長さ方向に延びるように埋設されていることを特徴とするベルト。
(2)訂正事項b
特許明細書の段落番号【0009】中の「熱処理された複数本のガラスフィラメント束が引き揃えられて下撚りが施されてなるものであり」を、明りょうでない記載の釈明を目的として、「熱処理された複数本のガラスフィラメント束が引き揃えられて下撚りされた600本のガラスフィラメントからなり」と訂正する。
(3)訂正事項c
特許明細書の段落番号【0039】中の「熱処理された複数本のガラスフィラメント束が引き揃えられて下撚りが施されてなるものとし」を、明りょうでない記載の釈明を目的として、「熱処理された複数本のガラスフィラメント束が引き揃えられて下撚りされた600本のガラスフィラメントからなるものとし」と訂正する。
(4)訂正事項d
特許明細書の段落番号【0033】中の「屈曲数が1×108回」を、誤記又は誤訳の訂正を目的として、「屈曲数が1×108回」と訂正する。
異議決定日 2000-06-20 
出願番号 特願平7-187198
審決分類 P 1 651・ 121- YA (F16G)
最終処分 維持  
特許庁審判長 舟木 進
特許庁審判官 和田 雄二
秋月 均
登録日 1998-12-25 
登録番号 特許第2869025号(P2869025)
権利者 バンドー化学株式会社
発明の名称 ベルト用抗張体及びベルト  
代理人 前田 弘  
代理人 前田 弘  
代理人 渡部 敏彦  

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